ゴム材料の変形挙動予測方法およびそれに用いられる装置

【課題】ゴム材料の変形挙動の予測をミクロレベルであっても精度良く行うことが可能なゴム材料の変形挙動予測方法を提供する。
【解決手段】ゴム材料のモデルとして、ゴムと、充填材と、このゴムが充填材表面に吸着されてなる境界層と、の3要素で構成された3次元モデルを生成し、これらの3要素のそれぞれに、実験により求められた物性を付与することによりこのゴム材料の変形挙動を予測する。境界層に物性を付与するに際し、分子動力学法から求められる境界層の厚さ方向の温度分布と、ゴムに対して予め測定した物性の温度依存性のデータとに基づいて境界層の厚さ方向各位置に応じた物性を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムにカーボンブラックやシリカ等の充填剤を配合したゴム材料の変形挙動予測装置及び該ゴム材料の変形挙動予測方法に関し、特には、ゴム材料の変形挙動の予測をミクロレベルであっても精度良く行うことが可能な変形挙動予測方法およびそれに用いられる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からゴムにカーボンブラックやシリカ等の充填剤を配合すると補強効果があることが知られており、ゴムに充填剤を配合したゴム材料が自動車用タイヤ等のゴム製品に適用されている。このようなゴム材料では力が加わった際の変形挙動等を実験によって測定し、その測定結果を評価することで、充填剤の配合量の設計等が行われていた。
【0003】
最近では、有限要素法(FEM)等の数値予測手法や計算機環境の発達により、ゴム材料の充填剤部分及びゴム部分の3次元モデルを作成して変形挙動等を予測する方法が各種提案されている。また、ゴム材料の変形挙動を精密に予測できると共に、その予測時間を短縮することができる手法として、実際のゴム材料における充填剤の配置を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、得られたデータを計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルに再構成し、この3次元基本モデルに対して有限要素法(FEM)を用いることによってゴム材料の変形挙動を予測する方法が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、ゴム材料にゴムと充填剤とが含まれる場合、ゴムと充填剤とのそれぞれを単体で測定することにより得られる力学的特性を3次元モデルに対して付与する手法が、FEMによる計算において最もシンプルなモデル化として知られている。
【0005】
しかしながら、充填剤の周囲に存在するゴムは、充填剤に吸着され、ゴム単体から得られる力学的特性とは異なる特性を有していることが、近年の計測技術の進歩によって、確認されている。例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて弾性率を測定することによって、充填剤の周囲に存在するゴムは、ゴム単体と比べて弾性率が大きいことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−200937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ゴム材料の変形挙動に対する予測精度を向上させるには、充填剤の周囲に存在するゴム部分、即ち、充填剤の表面に吸着された境界層部分に対して、ゴム単体から求められる材料定数とは異なる定数を与えることが必要となる。
【0008】
しかしながら、ゴムのように非線形性を示す材料において、充填剤の表面に吸着された境界層部分に適切な材料定数を付与することは困難なことである。また、AFMを用いることで、境界層部分の弾性率や粘弾性を測定することが可能となるが、ゴム材料の変形が大きくなるとそれらの測定は困難になる。
【0009】
更に、分子動力学法を用いて充填剤とゴムとをモデル化し、これを変形させることで力学的特性を求める手法も考えられるが、分子動力学法において計測可能な時間スケールは数ナノ秒である。このため、高分子材料の粘弾性の温度時間換算則によれば、極低温領域での粘弾性に相当し、正確な力学的特性が得られるとは言い難い。
【0010】
このように、充填剤に吸着された境界層部分を含めて、ゴム材料の変形挙動を精度良く予測するには、依然として課題が存在している。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム材料の変形挙動の予測をミクロレベルであっても精度良く行うことが可能なゴム材料の変形挙動予測方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記方法に用いることが可能なゴム材料の変形挙動予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のゴム材料の変形挙動予測方法は、ゴムと充填剤とよりなるゴム材料の変形挙動を予測する方法において、
ゴム材料のモデルとして、ゴムと、充填材と、このゴムが充填材表面に吸着されている境界層と、の3要素で構成されたモデルを生成し、これらの3要素のそれぞれに、実験により求められた物性を付与することによりこのゴム材料の変形挙動を予測し、
前記境界層に前記物性を付与するに際し、分子動力学法から求められる境界層の厚さ方向の温度分布と、前記ゴムに対して予め測定した物性の温度依存性のデータとに基づいて境界層の厚さ方向各位置に応じた物性を付与し、
前記境界層の厚さ方向の温度分布を求めるに際し、所定温度範囲内の複数の温度のそれぞれについて、前記ゴムだけよりなる系に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を計算してこれを前記各温度に対する標準カーブとして準備するとともに、境界層厚さ方向各位置における微小部分に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を表すカーブを求め該カーブを境界層厚さ方向各位置に対する評価対象カーブとし、境界層厚さ方向位置Pにおける温度を求めるに当たっては、該位置Pに対応する評価対象カーブ上の、予め設定した経過時間tに対応する平均二乗変位の値Yを求め、同じ経過時間tに対して平均二乗変位の値が前記Yに最も近い標準カーブを、前記複数の標準カーブの中から選択し、選択された標準カーブに対応する温度を境界層厚さ方向位置Pにおける温度であると特定するものである。
【0013】
本発明のゴム材料の変形挙動予測方法において、前記評価対象カーブにおいて、拡散開始後、変化率が最初に不連続的に低下する変曲点に対応する時間を第1の時間としたとき、前記経過時間tは、該評価対象カーブが極大値を有する場合は、前記第1の時間から極大値に対応する第2の時間までとし、該評価対象カーブが極大値を有さない場合は、前記第1の時間以降の所望の時間とするのが好ましい。
【0014】
本発明のゴム材料の変形挙動予測方法においては、前記物性が付与されたモデルに有限要素法を用いて、ゴム材料の変形挙動を予測することがさらに好ましい。
【0015】
本発明のゴム材料の変形挙動予測装置は、上記のゴム材料の変形挙動予測方法に用いられる装置であって、
前記ゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像を取得する手段と、
前記ゴム材料に配合したゴム部分と充填剤部分とを判別するために前記スライス画像をそれぞれ2値化画像に変換する手段と、
前記2値化画像に対して前記境界層部分を定めることにより3層化画像に変換する手段と、
前記3層化画像を積層して前記ゴム材料のモデルを生成する手段と、
前記モデルに対して分子動力学法に基づき定めた物性を付与する手段と、
前記物性が付与された前記モデルを用いてゴム材料の変形挙動を予測する手段と、
前記ゴム材料の変形挙動の予測結果を提示する手段と、を具えるものである。
【0016】
また、本発明のゴム材料の変形挙動予測装置においては、前記分子動力学法に基づき定めた物性が、前記ゴム部分、前記充填剤部分及び前記境界層部分における歪みと応力との関係を定めた粘弾性特性であるとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゴム材料のモデルとして、ゴムと、充填材と、このゴムが充填材表面に吸着された境界層と、の3要素で構成された3次元モデルを生成し、これらの3要素のそれぞれに、実験により求められた物性を付与することによりこのゴム材料の変形挙動を予測するので、ゴムと、充填材とよりなる2要素だけよりなるモデルに対して、ゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精度良く予測することができ、これにより、ゴム材料の歪みによる物性の変化を予測することができ、ゴム材料の破断強度やロス等の物性の制御が可能となる。
【0018】
しかも、境界層に前記物性を付与するに際し、分子動力学法から求められる境界層の厚さ方向の温度分布と、前記ゴムに対して予め測定した物性の温度依存性のデータとに基づいて境界層の厚さ方向各位置に応じた物性を付与し、
前記境界層の厚さ方向の温度分布を求めるに際し、所定温度範囲内の複数の温度のそれぞれについて、前記ゴムだけよりなる系に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を計算してこれを前記各温度に対する標準カーブとして準備するとともに、境界層厚さ方向各位置における微小部分に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を表すカーブを求め該カーブを境界層厚さ方向各位置に対する評価対象カーブとし、境界層厚さ方向位置Pにおける温度を求めるに当たっては、該位置Pに対応する評価対象カーブ上の、予め設定した経過時間tに対応する平均二乗変位の値Yを求め、同じ経過時間tに対して平均二乗変位の値が前記値Yに最も近い標準カーブを、前記複数の標準カーブの中から選択し、選択された標準カーブに対応する温度を境界層厚さ方向位置Pにおける温度であると特定するので、境界層の物性を境界層厚さ方向の各位置に応じて付与することができ、境界層部分をより忠実に表すことができる。
【0019】
この場合、前記評価対象カーブにおいて、拡散開始後、変化率が最初に不連続的に低下する変曲点に対応する時間を第1の時間としたとき、前記経過時間tは、該評価対象カーブが極大値を有する場合は、前記第1の時間から極大値に対応する第2の時間までとし、該評価対象カーブが極大値を有さない場合は、前記第1の時間以降の所望の時間とするので、前記カーブが極大値を有しているような場合でも、評価対象カーブに合致する標準カーブを正確に選択することができ、その結果、境界層の厚さ方向各位置における温度を正確に推定することができる。
【0020】
また、発明のゴム材料の変形挙動予測方法においては、前記物性が付与されたモデルに有限要素法を用いるので、ゴム材料の変形挙動を効率的に精度良く予測することができる。
【0021】
本発明のゴム材料の変形挙動予測装置は、前記ゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像を取得する手段と、前記ゴム材料に配合したゴム部分と充填剤部分とを判別するために前記スライス画像をそれぞれ2値化画像に変換する手段と、前記2値化画像に対して前記境界層部分を定めることにより3層化画像に変換する手段と、前記3層化画像を積層して前記ゴム材料のモデルを生成する手段と、前記モデルに対して分子動力学法に基づき定めた物性を付与する手段と、前記物性が付与された前記モデルを用いてゴム材料の変形挙動を予測する手段と、前記ゴム材料の変形挙動の予測結果を提示する手段とを具えるので、前記ゴム材料の変形挙動予測方法を簡易に実現することができる。
【0022】
前本発明のゴム材料の変形挙動予測装置は、記分子動力学法に基づき定めた物性が、前記ゴム部分、前記充填剤部分及び前記境界層部分における歪みと応力との関係を定めた粘弾性特性であるとしたので、ゴム材料の変動特性を静的、動的に正確に予測ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の変形挙動予測装置の一例となるゴム材料変形挙動予測システムの構成を示す図である。
【図2】図1に示すゴム材料変形挙動予測システムを構成するコンピュータの電気系要部構成の説明図である。
【図3】スライス画像を2値化した2値化画像を示す図である。
【図4】2値化画像を3値化した3層化画像を示す図である。
【図5】分子動力学法により求めた充填剤とゴムとからなる系の模式図である。
【図6】分子動力学法により求めたゴムだけからなる系の模式図である。
【図7】境界層厚さ方向各位置における平均二乗変位の時間変化(評価対象カーブ)を表すグラフである。
【図8】ゴムだけよりなる系の各温度における平均二乗変位の時間変化(標準カーブ)を模式的に示す模式図である。
【図9】本発明による方法、および、これとは異なる方法によって計算された充填剤表面からの距離と温度との関係を示すグラフである。
【図10】ゴム材料の変形挙動の予測結果を示す断面画像図である。
【図11】FEM計算により算出されたゴム材料の応力−歪み曲線を示す図である。
【図12】図10に示される関係をヤング率と歪みとの関係に変換した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図を参照しながら、本発明の変形挙動予測方法及び変形挙動予測装置を詳細に説明する。図1は、本発明の変形挙動予測装置の一例となるゴム材料変形挙動予測システムの構成を示す図であり、図2は、図1に示すゴム材料変形挙動予測システムを構成するコンピュータの電気系要部構成の説明図である。
【0025】
図1に示す変形挙動予測装置1は、CTスキャナ(コンピュータ・トモグラフィ・スキャナ)2と、コンピュータ3とから構成されている。CTスキャナ2とコンピュータ3とはケーブル4により接続されている。
【0026】
CTスキャナ2は、透過型電子顕微鏡(TEM)と試料台とを内蔵している。CTスキャナ2は、試料台に載置された予測対象ゴム材料を透過型電子顕微鏡により撮影し、その撮影により得られたデータを計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルに再構成する。また、CTスキャナ2は、再構成した当該3次元基本モデルを所定平面により所定間隔でスライスした複数のスライス画像データを生成する。なお、本発明においては、図示しないが、集束イオンビーム(FIB)によってゴム材料の表面を加工(例えば、エッチング処理)し、該表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観測することで、複数のスライス画像を取得することもでき、この場合、CTスキャナ2に代えて、集束イオンビームを照射可能な走査型電子顕微鏡システムを具えることになる。
【0027】
コンピュータ3は、予測を行う際の各種条件を入力するためのキーボード5と、予め記憶された処理プログラムに従ってゴム材料の変形挙動を予測するコンピュータ本体6と、コンピュータ本体6の演算結果等を表示するディスプレイ7とから構成されている。コンピュータ3は、CTスキャナ2により生成されたスライス画像データを用いてゴム材料の変形挙動等の予測を実施する。また、コンピュータ本体6には、記録媒体としてのフレキシブルディスク(以下、FDという)8が挿抜可能なフレキシブルディスクドライブユニット(以下、FDUという)9を具えている。
【0028】
また、コンピュータ3は、図2に示す通り、装置全体の動作を司るCPU(中央処理装置)10と、コンピュータ3を制御する制御プログラムを含む各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM11と、各種データを一時的に記憶するRAM12と、ケーブル4に接続されたコネクタ13に接続され、コネクタ13を介してCTスキャナ2からスライス画像データを取得する外部I/O制御部14と、取得したスライス画像データを記憶するHDD(ハードディスクドライブ)15と、FDU9に装着されたFD8とのデータの入出力を行うフレキシブルディスクI/F部16と、ディスプレイ7への各種情報の表示を制御するディスプレイドライバ17と、キーボード5へのキー操作を検出する操作入力検出部18とを具えている。
【0029】
CPU10、RAM12、ROM11、HDD15、外部I/O制御部14、フレキシブルディスクI/F部16、ディスプレイドライバ17、及び操作入力検出部18は、システムバスBUSを介して相互に接続されている。従って、CPU10は、RAM12、ROM11、HDD15へのアクセス、フレキシブルディスクI/F部16を介してのFDU9に装着されたFD8へのアクセス、外部I/O制御部14を介したデータの送受信の制御、ディスプレイドライバ17を介したディスプレイ7への各種情報の表示、を各々行うことができる。また、CPU10は、キーボード5に対するキー操作を常時把握できる。
【0030】
なお、各種処理プログラム及びデータ等は、FDU9を用いてFD8に対して読み書き可能である。従って、各種処理プログラム及びデータ等を予めFD8に記録しておき、FDU9を介してFD8に記録された各処理プログラムを実行してもよい。また、FD8に記録された各処理プログラムをHDD15へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、記録テープ、CD−ROMやDVD等の光ディスクや、MD、MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDU9に代えてまたはさらに対応する読み書き装置を用いればよい。
【0031】
また、図1に示すゴム材料変形挙動予測システムの構成は一例であり、公知の構成を必要に応じて適宜変更することができる。
【0032】
以下に、本発明のゴム材料の変形挙動予測方法について詳細に説明する。本発明のゴム材料の変形挙動予測方法は、ゴムに充填剤を配合したゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像を取得し、前記ゴム材料に配合したゴム部分と充填剤部分とを判別するために前記スライス画像をそれぞれ2値化画像に変換し、3次元モデルを生成するゴム材料の変形挙動予測方法において、上記3次元モデルを、分子動力学法に基づきゴム部分と充填剤部分と該充填剤の表面に吸着された境界層部分とに3層化し、これらの層のそれぞれに、実験により求められた物性を付与することによりこのゴム材料の変形挙動を予測するが、特に境界層に対しては、分子動力学法から求められる厚さ方向の温度分布と、ゴムに対して予め測定した歪みと応力との関係を定めた物性の温度依存性のデータとに基づいて、境界層厚さ方向の位置に応じて物性を付与することを特徴とする。このように、分子動力学法から求められる特定の物性を境界層部分に付与することによって、ゴム材料の変形挙動を予測する上で該境界層部分を考慮することが可能となり、ゴム材料の変形挙動を精度良く予測することができる。
【0033】
まず、本発明の変形挙動予測方法においては、ゴム材料の内部構造を把握するため、ゴムに充填剤を配合したゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像を取得する。図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいては、ユーザによって予測対象のゴム材料に対して金コロイドでマーキングが行われ、CTスキャナ2に設けられた試料台に載置され、CTスキャナ2に対して処理開始の操作が行われるとスライス画像の撮影が実行される。なお、CTスキャナ2は、透過型電子線トモグラフィー法(Transmission Electron Microtomography、TEMT)を用いたコンピュータ構成を含む計測装置として構成されている。CTスキャナ2は、透過型電子顕微鏡とゴム材料が載置された試料台とを所定の角度範囲(例えば、-60度から+60度の範囲)で所定角度(例えば、2度間隔)ずつ相対的に回転移動させながらスキャンすることによりゴム材料の連続傾斜画像を撮影することができる。そして、CTスキャナ2は、撮影した複数枚(例えば、61枚)の傾斜画像の画像データを用い、各画像間の回転軸を求め、計算機トモグラフィー法により3次元基本モデルに再構成する。そして、CTスキャナ2は、再構成した3次元基本モデルを各面に平行な所定間隔(例えば、4nm間隔)でスライスしたスライス画像を生成する。
【0034】
なお、ゴム材料は、ゴムに充填剤を配合してなるが、該ゴム及び充填剤としては、ゴム業界で通常使用されるものを適宜選択することができる。また、ゴム材料の形状は、特に限定されるものではないが、CTスキャナ2によるスライス画像の取得が容易である形状が好ましく、具体的には、立方体や直方体等の六面体が挙げられる。
【0035】
次に、本発明の変形挙動予測方法においては、ゴム材料に配合したゴム部分と充填剤部分とを判別するため、上記工程により取得したゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像をそれぞれ2値化画像に変換する。上記スライス画像では、ゴム材料を構成するゴム部分と充填剤部分とで物質的に透過率が異なるため、一般に充填剤部分が濃く(濃度値が大きく)、ゴム部分が薄く(濃度値が小さく)示される。よって、スライス画像の各画素の濃度に基づいてスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる。このスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる濃度値は、予め実験等により定めることができる。
【0036】
図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいては、実験等により予め定められているスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別する濃度値をしきい値hとして設定し、スライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して各画素を2値化した2値化画像の2値化画像データを生成する。図3は、スライス画像を2値化した2値化画像を示す図である。
【0037】
なお、2値化画像への変換処理では、ゴム材料内の充填剤部分をより的確に抽出するため、スライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して、濃度値がしきい値h以上である画素が上下左右で所定個数(例えば、5個以上)連続している部分の各画素を黒とし、その他の画素を白とした2値化画像の2値化画像データを生成する。また、色分けされた2値化画像データに対して、黒の部分の画素の値を「1」、白の部分の画素の値を「0」とした2値化画像データにフォーマット変換することもできる。
【0038】
ここで、本発明の変形挙動予測方法においては、上記2値化画像に対して、充填剤表面に吸着された境界層部分を定めることにより3層化画像に変換する。後述するように3層化画像に変換することで、ゴム材料のモデル、以下の例では3次元モデルを、分子動力学法に基づき3層化することが可能となる。図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいては、上記のようにフォーマット変換された2値化画像データに対して、画素の値が「0」で且つ隣接する画素の値が「1」である画素の値を「2」とすることにより、3層化画像にフォーマット変換する。即ち、境界層部分の画素の値を「2」としている。図4は、2値化画像を3値化した3層化画像を示す図であり、充填剤部分を黒、ゴム部分を白、境界層部分を灰色で示す。なお、このような境界層部分を定める手法は一例にすぎず、画素サイズに応じて境界層部分を適宜定めることができる。例えば、境界層部分を充填剤部分の画素に隣接するゴム部分の画素に限るのでなく、その他のゴム部分も境界層部分に含めることで境界層部分に厚みを持たせたり、境界層部分内を更に多値化したりすることで、より精密な変形挙動の予測を行うことができる。
【0039】
次に、本発明の変形挙動予測方法においては、3層化画像を積層してゴム材料の3次元モデルを生成する。図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいては、フォーマット変換された3層化画像を、対応するスライス画像の取得位置等の条件に合わせて積層し、ゴム材料の3次元構造を構築し、3層化画像における各画素を格子単位とした3次元モデルを生成することができる。即ち、このような3次元モデルにおいては、フォーマット変換された3層化画像において画素の値が「0」の部分がゴム部分、画素の値が「1」の部分が充填剤部分、画素の値が「2」の部分が充填剤に吸着された境界層部分として示される。なお、生成されたゴム材料の3次元モデルについては、3層化画像の間で同一値の画素を同一の格子領域として統合することが可能な画像処理を行うことで、ゴム材料の計算上の立体像を生成し、該立体像をディスプレイ7に提示することもできる。
【0040】
そして、本発明の変形挙動予測方法においては、上記3次元モデルが、分子動力学法に基づき、ゴム部分と充填剤部分と前記境界層部分とに3層化されているので、3層化画像を積層して生成された3次元モデルに対し、分子動力学法に基づき定めた物性を付与する必要がある。具体的には、充填剤表面に吸着された境界層部分に、ゴム部分と異なる物性を付与するため、分子動力学法に基づく物性を定めることになる。
【0041】
以下に、ゴム材料の境界層部分に対して物性を付与する方法を説明する。境界層では、その厚さ方向の位置、すなわち、充填剤からの距離によって温度が変化していることに起因して物性が変化しているので、まず、境界層の厚さ方向の位置に応じて変化する温度分布を求める必要がある。この温度は、所定温度範囲内の複数の温度のそれぞれについて、前記ゴムだけよりなる系に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を計算してこれを前記各温度に対する標準カーブとして準備するとともに、境界層厚さ方向各位置における微小部分に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を表すカーブを求め該カーブを境界層厚さ方向各位置に対する評価対象カーブとし、境界層厚さ方向位置Pにおける温度を求めるに当たっては、該位置Pに対応する評価対象カーブ上の、予め設定した経過時間tに対応する平均二乗変位の値Yを求め、同じ経過時間tに対して平均二乗変位の値がYに最も近い標準カーブを、前記複数の標準カーブの中から選択し、選択された標準カーブに対応する温度を境界層厚さ方向位置Pにおける温度であると特定することによって得られる。
【0042】
このことを以下に具体的に説明する。まず、分子動力学法に基づき、充填剤表面とゴムとからなる系、および、ゴムだけよりなる系を構築する。図5は、分子動力学法により求めた充填剤とゴムとからなる系の模式図であり、これは評価対象カーブを作成するために用いる。また、図6は、分子動力学法により求めたゴムだけからなる系の模式図であり、標準カーブを作成するのに用いる。なお、図5に示す系は、12nmの厚さのゴムの両側に充填剤を配置したものである。
【0043】
次いで、これらの系に対して、系内のゴムの平均二乗変位を算出する。平均二乗変位<r(t)2>とは、N個の粒子群に対して、各粒子群が初期状態から時間tの間に変位した距離の二乗をN個で平均化したものである。ここで、粒子群としては、高分子を構成するすべての原子を含んでもいいし、あるいは、高分子を一纏まりにした粒子として扱ってもよい。平均二乗変位<r(t)2>について、さらに補足すると、粒子群の平均二乗変位と拡散係数との間には、式(A)で表されるような関係があり(Einstein‐Smoluchowskiの式)、この式に基づいて、平均二乗変位<r(t)2>から拡散係数Dを求めることができる。
<r(t)2>=6Dt+a(但し、aは定数である) ・・・・(A)
【0044】
図7は、図5に例示した系に対して、境界層の厚さ方向位置、すなわち、充填剤表面からの距離(図5の左端からの距離)を0.5nmずつ複数の領域に区切ったときの領域ごとにそこに含まれる粒子群に対する平均二乗変位<r(t)2>の時間変化を、平均二乗変位を縦軸にとり、横軸に拡散開始からの経過時間tをとって表した評価対象カーブである。
【0045】
これらの評価対象カーブは、例えば充填剤からの距離が0.0〜0.5nmにある粒子群を例にとると、図7から分かるように、第1の勾配で、時間0から変曲点P0まで増加するカーブAと、変曲点P0から、第1の勾配より緩やかな第2の勾配Mで変化するカーブBとよりなっている。ここで、カーブAは、粒子群が充填剤からの拘束力の影響を受ける範囲より小さな範囲で動いている時間における平均二乗変位に対応するカーブであり拡散とは無関なものであるが、これに対して、カーブBは、ほぼ式(A)に則っており、このカーブが実際に拡散の過程を表していて、式(A)の関係より、第2の勾配Mは、拡散係数Dを用いて6Dと表すことができる。
【0046】
一方、上記に説明したのと同様にして、図6に例示した系に対して、この系のゴムに含まれる粒子群の平均二乗変位の時間変化を計算するが、このとき、系の温度を所定温度範囲、例えば、100〜400Kの範囲で温度を例えば1Kごとに変化させ、変化させた各温度に対して、この系のゴムに含まれる粒子群の平均二乗変位の時間変化を計算し、計算したものを各温度に対する標準カーブとして準備する。
【0047】
図8は、これらの標準カーブのうち、温度Tが、T1、T2、T3(T1<T2<T3)の場合を例にとって、これらの温度に対応する標準カーブを、平均二乗変位を縦軸にとり、横軸に拡散開始からの経過時間tをとって模式的に表したものである。
【0048】
本発明のゴム材料の変形挙動予測方法における、境界層厚さ方向位置の温度の特定は、基本的には、各評価対象カーブについて、これを全ての標準カーブと比較しもっとも合致する標準カーブを選び出し、選ばれた標準カーブに対応する温度をその評価対象カーブに対応する境界層厚さ方向位置の温度と特定しようとするものであり、これは、同じ温度であれば、粒子群が、純ゴム内から選ばれたものであっても、境界層内から選ばれたものであっても、平均二乗変位<r(t)2>の時間変化は同じカーブを描くはずであることによっている。
【0049】
具体的に、評価対象カーブと標準カーブとを比較するに際しては、カーブBの勾配同士を比較する方法が考えられ、これは、カーブBの勾配が拡散係数に相当しこの拡散係数の大小は温度に依存しているからである。
【0050】
しかしながら、評価対象カーブおよび標準カーブにおいて、カーブBの勾配同士を比較する際に問題になる点がある。すなわち、評価対象カーブにおいて、充填剤からの距離が小さな粒子群、例えば、先に例示したような、充填剤からの距離が0.0〜0.5nmにある粒子群に対しては、カーブBは単調に増加するが、充填剤からの距離が大きな粒子群に対しては、評価対象カーブは、単調に増加するものとはなっておらず、例えば、充填剤からの距離が2.5〜3nmにある粒子群に対するカーブは、図7に示すように、経過時間t=0の拡散開始の時点から変曲点Q0まで、カーブAにそって単調増加するが、変曲点Q0を過ぎたあとのカーブBは直線的に伸びてはおらず蛇行していて、このような場合、評価対象カーブのカーブBの一部分の勾配と等しい勾配を有する標準カーブを選択しても、これが信頼できる選択であるといえないことはあきらかである。
【0051】
そこで、本発明においては、評価対象カーブおよび標準カーブにおけるカーブBの勾配同士を比較するのではなく、拡散開始後の、予め設定した所定経過時間tにおける、評価対象カーブおよび標準カーブにおける前記粒子群の平均二乗変位の値同士を比較して、各境界層厚さ方向位置を特定するのである。
【0052】
例えば、前記予め設定された所定経過時間tを0.01nsとして、充填剤からの距離が2.5〜3nmにある粒子群に対する評価対象カーブのカーブBにおけるt=0.01nsに対する、平均二乗変位の値はYであり(図7参照)、したがって、このあと、t=0.01nsにおいて平均二乗変位の値が同じYを有する(あるいは、Yに最も近い値を有する)標準カーブを図8の中から選択する。そして、この場合、選択される標準カーブは、温度T3に対応する標準カーブであるので、境界層の、充填剤からの距離が2.5〜3nmの位置での温度はT3であると特定するのである。
【0053】
前記平均二乗変位の値の比較に用いる所定経過時間tは、例えば、充填剤からの距離が2.5〜3nmにある粒子群に対する評価対象カーブのように、評価対象カーブが極大値Q1を有する場合には、拡散開始からの変化率が最初に不連続的に低下する変曲点Q0に対応する時間を第1の時間とし、極大値Q1に対応する時間を第2の時間として、第1の時間から第2の時間までの時間領域から選択するのが好ましく、一方、充填剤からの距離が0.0〜0.5nmの距離にある粒子群に対する評価対象カーブのように、評価対象カーブが極大値Q1を有さない場合には、前記第1の時間からこれ以降の所望の時間とすればよい。
【0054】
このように、評価対象カーブが極大値Q1を有する場合に、前記所定経過時間tを、第1の時間から第2の時間までの時間領域から選択するのが好ましいとしたのは、充填剤からの距離が2.5〜3nmにある粒子群に対する評価対象カーブのように、極大値を超えた時間領域で、平均二乗変位<r(t)2>が減少しているということは、拡散ではなく凝縮が発生していることを意味し、これは物理的につじつまが合わず、このことはつまり、極大値を有するようなカーブBに対しては、極大値より大きな時間領域に対しては、計算結果を信頼することはできないことを意味しているからである。
【0055】
図9(b)は、図5に示した系に対して計算された図7に示す各評価対象カーブと、前記標準カーブとを、拡散開始からの経過時間t=0.01nsにおける粒子群の平均二乗変位の値で比較することによって温度を特定した、充填剤からの距離ごとの温度分布を例示するグラフであり、図9(b)によると、図5に示した系における左右の充填層に隣接する境界層部分では、温度は極めて低く、ガラス転移点付近(-52℃付近)であり、このことは、一般に言われている充填剤周辺に存在するゴム相がガラス状態にあるとする説を裏付けるものである。
【0056】
また、図9(b)から分かるように、充填剤表面から1.5nmの範囲おいては、温度は変化しており、逆に、充填剤表面からの距離が1.5nmを越える、充填剤の影響を受けない領域では温度は一定しており、これは実際の物理現象によく合致していいることがわかる。
【0057】
そして、このことから、境界層の厚さを、1.5nmであると特定することができる。すなわち、充填剤からの距離ごとの温度分布を表す図において、温度変化がなくなったときの、充填剤表面からの距離を境界層の厚さとすることができる。
【0058】
これに対して、図9(a)は、評価対象カーブと標準カーブとを比較するに際して、所定経過時間tにおける平均二乗変位の値を対比する代わりに、カーブBにおける勾配を用いて温度を特定した場合の、充填剤からの距離ごとの温度分布を例示するグラフであり、この場合、充填剤から離れた位置であっても、温度が一定ではなく、この方法では温度の特定における精度が十分ではないことがわかる。これに対し、本発明による方法では、図9(b)に示したように、充填剤から離れた位置では温度が一定であり、本発明によって求められた前記温度分布は、極めて現実の物理現象と合致していることがわかる。
【0059】
以上のようにして、境界層の厚さ方向位置ごとの温度分布が明かになったので、温度に依存して決まる物性を、境界層の厚さ方向位置ごとに特定してゆくことができる。物性としては歪みと応力との関係を定めた弾性率は粘弾性特性とするのがよく、物性の温度依存性としては、具体的には、3次元モデルの境界層部分に相当する格子領域に、温度を変化させ、そのときの温度で実測した歪みと応力との関係を物性として求めればよい。
【0060】
なお、歪みと応力との関係を定めた物性としては、特開2006−200937号公報に記載されるとおり、一般化ムーニー・リブニン(MOONEY−RIVLIN)方程式、一般化オグデン(OGDEN)方程式、特開2005−345413号公報に開示の下記式(1):
【数1】
[式中、Gはヤング率を表し、Sはゴム変形時のエントロピー変化を表し、P及びQは弾性率と関係する係数を表し、I1は歪の不変量を表し、Tは絶対温度を表す。βは1/(kΔT)に等しく、kはボルツマン定数、ΔTはゴムのガラス転移温度からの差分を表す。]等が挙げられる。
【0061】
一方、3次元モデルの充填剤部分の物性として、充填剤の歪と応力の関係を示す物性が予め求まっている場合には、該物性を3次元モデルの充填剤部分の格子領域に付与することが好ましく、また、予め実験等により充填剤の硬さを測定して求めた実測値や充填剤の結晶部とアモルファス部の比率から計算した推定値を物性として用いてもよい。また、一般的にゴム材料に配合される充填剤は、ゴムと比較して硬く、ゴムよりもヤング率(弾性率)が大きいため、3次元モデルの充填剤部分の物性として、ゴム部分に付与した物性から導かれるヤング率を所定倍(例えば、1000倍)したヤング率を付与してもよい。
【0062】
また、3次元モデルのゴム部分には、歪みと応力との関係を定めた物性を付与することが好ましく、特開2006−200937号公報に記載されるとおり、一般化ムーニー・リブニン(MOONEY−RIVLIN)方程式、一般化オグデン(OGDEN)方程式、上記式(1)等を好適に用いることができる。
【0063】
上記のようにして、ゴム材料の全領域について物性を特定したあと、3次元モデルを用いてゴム材料の変形挙動を予測する。図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいては、ユーザによりキーボード15を介して予測対象とする3次元モデルと予測条件とがコンピュータ12に指定され、ゴム材料の変形挙動の予測処理が実行される。なお、予測条件として、3次元モデルを変化させる方向と、その方向へ3次元モデルを伸張、圧縮又はせん断変化させたときの変化率を指定することができる。また、予測処理では、予測条件として指定された方向へ3次元モデルを伸張、圧縮又はせん断した場合の3次元モデルの歪み、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値を予測して、その予測結果をディスプレイ7に表示することができる。上記物性が付与された3次元モデルは、実際のゴム材料の構造に近いモデルであるため、有限要素法(FEM)を用いてゴム材料の変形挙動を予測した場合、ゴム材料の内部の弾性率及び応力分布を精密に予測することができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
図1に示すゴム材料変形挙動予測システムにおいて、ゴム100質量部に対してカーボンブラック30質量部を配合してなるゴム材料を3次元透過型電子顕微鏡で撮影し、該ゴム材料の3次元モデルを生成した。得られる3次元モデルは3層化されているため、ゴム部分及び充填剤部分の格子領域には、それぞれ上述した式(1)で示される弾性率の温度及び歪み依存性を表す構成方程式と、上述した実測値又は推定値より求められるヤング率(弾性率)を物性として付与し、境界層部分の格子領域には、分子動力学法から求められる厚さ情報と温度情報に基づいて歪みと応力との関係を定めた物性を付与した。また、物性が付与された3次元モデルに対し、FEM計算を行った。結果を図9〜11に示す。
【0066】
図9は、ゴム材料の変形挙動の予測結果を示す断面画像図である。なお、図9は、3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をz方向へ15%伸張させた場合の歪み状態及び応力分布の予測結果である。応力分布は応力値が高い部分ほど濃い濃度で示されている。
【0067】
図10は、FEM計算により算出されたゴム材料の応力−歪み曲線を示す図であり、図11は、図10に示される関係をヤング率と歪みとの関係に変換した図である。これらの結果から、3層化された3次元モデルは、ゴム部分と充填剤部分とに2値化した従来の3次元モデルと異なる変形挙動を示すことが分かる。
【0068】
以上の結果は、ゴム材料の変形挙動をミクロレベルで非常に精度良く表している。従って、このような予測結果に基づき、実際のゴム材料の変形挙動を正確に予測することができ、これにより、ゴム材料の破断強度やロス等の物性の効果的な制御が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 ゴム材料変形挙動予測システム
3 コンピュータ
4 ケーブル
5 キーボード
6 コンピュータ本体
7 ディスプレイ
8 FD
9 FDU
13 コネクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと充填剤とよりなるゴム材料の変形挙動を予測する方法において、
ゴム材料のモデルとして、ゴムと、充填材と、このゴムが充填材表面に吸着されている境界層と、の3要素で構成されたモデルを生成し、これらの3要素のそれぞれに、実験により求められた物性を付与することによりこのゴム材料の変形挙動を予測し、
前記境界層に前記物性を付与するに際し、分子動力学法から求められる境界層の厚さ方向の温度分布と、前記ゴムに対して予め測定した物性の温度依存性のデータとに基づいて境界層の厚さ方向各位置に応じた物性を付与し、
前記境界層の厚さ方向の温度分布を求めるに際し、所定温度範囲内の複数の温度のそれぞれについて、前記ゴムだけよりなる系に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を計算してこれを前記各温度に対する標準カーブとして準備するとともに、境界層厚さ方向各位置における微小部分に含まれる粒子群の、拡散開始後の経過時間に対する平均二乗変位の変化を表すカーブを求め該カーブを境界層厚さ方向各位置に対する評価対象カーブとし、境界層厚さ方向位置Pにおける温度を求めるに当たっては、該位置Pに対応する評価対象カーブ上の、予め設定した経過時間tに対応する平均二乗変位の値Yを求め、同じ経過時間tに対して平均二乗変位の値が前記値Yに最も近い標準カーブを、前記複数の標準カーブの中から選択し、選択された標準カーブに対応する温度を境界層厚さ方向位置Pにおける温度であると特定するゴム材料の変形挙動予測方法。
【請求項2】
前記評価対象カーブにおいて、拡散開始後、変化率が最初に不連続的に低下する変曲点に対応する時間を第1の時間としたとき、前記経過時間tは、該評価対象カーブが極大値を有する場合は、前記第1の時間から極大値に対応する第2の時間までとし、該評価対象カーブが極大値を有さない場合は、前記第1の時間以降の所望の時間とする請求項1に記載のゴム材料の変形挙動予測方法。
【請求項3】
前記物性が付与されたモデルに有限要素法を用いて、ゴム材料の変形挙動を予測することを特徴とする請求項1に記載のゴム材料の変形挙動予測方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに用いられる装置であって、
前記ゴム材料の断面形状を表す複数のスライス画像を取得する手段と、
前記ゴム材料に配合したゴム部分と充填剤部分とを判別するために前記スライス画像をそれぞれ2値化画像に変換する手段と、
前記2値化画像に対して前記境界層部分を定めることにより3層化画像に変換する手段と、
前記3層化画像を積層して前記ゴム材料のモデルを生成する手段と、
前記モデルに対して分子動力学法に基づき定めた物性を付与する手段と、
前記物性が付与された前記モデルを用いてゴム材料の変形挙動を予測する手段と、
前記ゴム材料の変形挙動の予測結果を提示する手段と
を具えることを特徴とするゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項5】
前記分子動力学法に基づき定めた物性が、前記ゴム部分、前記充填剤部分及び前記境界層部分における歪みと応力との関係を定めた粘弾性特性であることを特徴とする請求項4に記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【公開番号】特開2011−69781(P2011−69781A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの
【出願番号】特願2009−222847(P2009−222847)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 引張試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 弾性率 | 伸び弾性率(縦弾性係数)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、材料 | 有機材料 | ゴム、プラスチック
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | コンピュータ装置を内蔵するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 荷重
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 変位
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理
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