説明

ゴム架橋物

【課題】 極めて耐燃料油透過性に優れたゴム架橋物を提供すること。
【解決手段】 本発明により、アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理してなる、室温での試験用燃料油CE−20(容積比:イソオクタン/トルエン/エタノール=40/40/20)の透過量が、最大透過時において700(g・mm/m・day)以下のゴム架橋物が提供される。好ましくは前記ゴム架橋物を構成するゴムが、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が43〜60重量%であるニトリルゴムを40〜95重量%含有するポリマー混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐燃料油透過性を有するゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のゴム架橋物がガソリンや灯油など燃料油用のホース、パッキン等に利用され、とりわけアクリロニトリル−ブタジエンゴムは、優れた耐油性を有するため自動車用の各種の燃料油ホース、潤滑油ホース、パッキン、ケーブルジャケット等に多く使用されている。ニトリルゴムには、主鎖に含まれる共役ジエン由来の炭素−炭素二重結合があるため耐オゾン性に劣るという欠点があるが、ニトリルゴムに塩化ビニル樹脂(特許文献1)や、アクリルゴム(特許文献2)をブレンドすることにより、これらの欠点も克服されて来た。
しかしながら、最近、自動車の燃料油ホースなどからのガソリン蒸散の低減が盛んに検討されており、ゴム部材のさらなる耐燃料油透過性向上へのニーズが高まっている。さらに、化石燃料の枯渇や二酸化炭素発生の抑制といった観点から、ガソリンにエタノールを混合することが検討されているが、このような場合には、従来から使われているようなニトリルゴム系の材料では耐燃料油透過性が悪化してしまうという欠点があり、特にアルコール含有ガソリンに対しての耐燃料油透過性向上への要求は強い。
【0003】
【特許文献1】特開2001−172433号公報
【特許文献2】特開2003−26861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、極めて耐燃料油透過性に優れたゴム架橋物を提供することにある。詳しくは、アルコール含有ガソリンに対しての耐燃料油透過性に優れたゴム架橋物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ゴム架橋物に特定の含フッ素化合物で表面処理を施すことにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理してなる、室温での試験用燃料油CE−20(容積比:イソオクタン/トルエン/エタノール=40/40/20)の透過量が、最大透過時において700(g・mm/m・day)以下のゴム架橋物が提供され、好ましくは前記ゴム架橋物を構成するゴムが、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が43〜60重量%であるニトリルゴムを40〜95重量%含有するポリマー混合物である。
また、別の本発明によれば、該ゴム架橋物が燃料油ホースまたは潤滑油ホースである。
さらに上記ゴム架橋物は、アルコールを含有するガソリン用に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、極めて耐燃料油透過性に優れたゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のゴム架橋物を構成するゴムは、室温にてゴム弾性を示す高分子物質であれば限定されず、天然ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
これらのゴムの中でも、アクリロニトリルブタジエンゴムを代表とするα、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体(以下、「ニトリルゴム」と記すことがある。)が耐油性に優れるので好ましい。
【0008】
上記ニトリルゴムのα、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を含有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられ、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体として、これらの複数種を併用してもよい。
【0009】
ニトリルゴムにおけるα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは43〜60重量%、より好ましくは44〜55重量%、特に好ましくは45〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物は耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0010】
ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の他に、ゴム架橋物がゴム弾性を保有するために、通常、ジエン単量体単位及び/又はα−オレフィン単量体単位をも有する。
【0011】
ジエン単量体としては、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能な共役ジエン含有化合物であれば限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4〜12の共役ジエン含有化合物が好ましく挙げられ、なかでも1,3−ブタジエンが好ましい。
【0012】
α−オレフィン単量体としては、好ましくは炭素数が2〜12のものであり、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが例示される。
【0013】
ニトリルゴムにおけるジエン単量体単位又は/及びα−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜57重量%、より好ましくは30〜56重量%、特に好ましくは40〜55重量%である。これらの単量体単位が少なすぎるとゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、多すぎると耐熱性や化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0014】
ニトリルゴムは、また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、並びに、ジエン単量体又は/及びα−オレフィン単量体、と共重合可能なその他の単量体の単位を含有することができる。その他の単量体としては、非共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸並びにそのモノエステル及び多価エステル及びその無水物、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0015】
非共役ジエン単量体は、炭素数が5〜12のものが好ましく、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが例示される。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0016】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0017】
α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル(アクリル酸エチル又は/及びメタクリル酸エチルの意。以下同様。)、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルシクロペンチルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジ−n−ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0018】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリル酸エステル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステルなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステルなどのトリ(メタ)アクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性単量体などが挙げられる。
【0019】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0020】
これらの共重合可能なその他の単量体として、複数種類を併用してもよい。ニトリルゴムが有するこれらの他の単量体単位の含有量は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0021】
ニトリルゴムのポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは30〜140、より好ましくは40〜130、特に好ましくは50〜120である。ニトリルゴムのムーニー粘度が低すぎるとゴム架橋物の機械的特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0022】
ニトリルゴムの製造方法は特に限定されない。一般的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、ジエン単量体又は/及びα−オレフィン単量体、並びに必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易なことから乳化重合法が好ましい。
【0023】
本発明のゴム架橋物を構成するゴムは、好ましくは耐油性に優れる観点から上記ニトリルゴムであり、より好ましくは上記ニトリルゴムを40〜95重量%含有するポリマー混合物であり、耐油性及び耐オゾン性に優れる観点から上記ニトリルゴムと塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はアクリルゴムとのブレンドである。
【0024】
塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合体、又は、塩化ビニル及びこれと共重合し得る単量体の共重合体である。塩化ビニルと共重合し得る単量体としては、上記のニトリルゴムにおけるのと同様のα−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸並びにそのモノエステル、多価エステル及びその無水物に加え、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アミド;N−置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルセチルエーテルなどのビニルエーテル単量体;塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物;並びに、上記ニトリルゴムの主単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリルなどを挙げることができる。
【0025】
塩化ビニル樹脂の製造方法としては、平均粒径がミクロンオーダー以下の粒子が得られる、ラジカル重合による公知の乳化重合、播種乳化重合又は微細懸濁重合による方法が好ましく挙げられる。
【0026】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K6721規定の比粘度法による換算値で600〜2,000が好ましく、700〜1,800がより好ましい。平均重合度が小さすぎるとニトリルゴムと混合して得られるゴム架橋物は耐オゾン性に劣るおそれがあり、逆に、大きすぎるとゴム弾性に欠けるものとなる可能性がある。
【0027】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する、ガラス転移温度が好ましくは50〜250℃、より好ましくは70〜230℃の樹脂で、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体、又は、(メタ)アクリル酸エステル単量体及びこれと共重合可能な単量体の共重合体である。アクリル樹脂は、アクリル酸エステル単量体単位単独;メタクリル酸エステル単量体単位単独;アクリル酸エステル単量体単位とメタクリル酸エステル単量体単位の共存;アクリル酸エステル単量体単位及びメタクリル酸エステル単量体単位の一方または双方と、これらと共重合可能な単量体の単位の共存;のいずれの態様を有する。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシルなどの、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜18の脂肪族アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどの、(メタ)アクリル酸と炭素数2〜18のアルコキシアルコールとのエステル;が好ましく挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体としては、アクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体の一方または双方と共重合できるものであれば特に限定されない。
このような単量体としては、上述したα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルエーテル単量体などが挙げられる。
【0030】
好ましいアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体とα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の共重合体で、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは1〜65重量%、より好ましくは2〜55重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を上記範囲含有することで、ニトリルゴムとのブレンドで得られるゴム架橋物の耐オゾン性を低下させることなく耐油性を向上させることができる。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎるとゴム架橋物は耐油性が低下し、多すぎると耐オゾン性が低下する傾向がある。
【0031】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリスチレン換算値で、好ましくは50,000〜4,000,000、より好ましくは100,000〜2,000,000、特に好ましくは200,000〜1,500,000である。Mwが小さすぎると、ニトリルゴムとのブレンドで得られるゴム架橋物は耐オゾン性が低下するおそれがある。逆に、Mwが大きすぎると、ニトリルゴムとのブレンドの組成物の成形加工性が低下する可能性がある。
【0032】
アクリル樹脂の製造方法は特に限定されないが、平均粒径がミクロンオーダー以下の粒子が得られる、ラジカル重合による公知の乳化重合、播種乳化重合又は微細懸濁重合による方法が好ましく挙げられる。
【0033】
アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する、ガラス転移温度が好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、特に好ましくは0℃以下のゴムで、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体、又は、(メタ)アクリル酸エステル単量体及びこれと共重合可能な単量体の共重合体である。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、上記アクリル樹脂におけるのと同様のものを挙げることができる。共重合可能な単量体としては、上述のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルエーテル単量体などの他に、架橋性を有するカルボキシル基含有単量体、エポキシ基含有単量体、ハロゲン基含有単量体、水酸基含有単量体などが挙げられる
【0035】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸類、α,β−エチレン性不飽和ポリカルボン酸類及びα,β−エチレン性不飽和ポリカルボン酸モノエステル類が挙げられる。エポキシ基含有単量体としては、エポキシ基含有ビニルカルボン酸エステル類、エポキシ基含有ビニルエーテル類等が挙げられる。ハロゲン基含有単量体としては、ハロゲン基含有飽和カルボン酸不飽和アルコールエステル類、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル類、ハロゲン基含有不飽和エーテル類、ハロゲン基含有不飽和ケトン類、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン基含有不飽和アミド類、ハロアセチル基含有単量体類及びハロオレフィン単量体類などが挙げられる。水酸基含有単量体としては、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、水酸基含有(メタ)アクリルアミド類、ビニルアルコール類等を挙げることができる。
【0036】
好ましいアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体とα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と架橋性単量体の共重合体で、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を上記範囲含有することで、ニトリルゴムとのブレンドで得られるゴム架橋物の耐オゾン性を低下させることなく耐油性を向上させることができる。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎるとゴム架橋物は耐油性が低下し、多すぎると耐オゾン性が低下する傾向がある。架橋性単量体の含有量は、該アクリルゴム100g当たり好ましくは4×10−4〜1×10−1当量、より好ましくは1×10−3〜5×10−2当量、特に好ましくは4×10−3〜3×10−2当量である。架橋性単量体の含有量が上記の範囲にあると、ニトリルゴムとのブレンドで得られるゴム架橋物は架橋により十分な機械的強度と伸びを有することができる。
【0037】
アクリルゴムのムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕は、好ましくは10〜150、より好ましくは20〜80、特に好ましくは30〜70である。ムーニー粘度が上記の範囲にあると、ニトリルゴムとのブレンド組成物の加工性が良好で十分な機械的強度を有する架橋物が得られる。
【0038】
アクリルゴムの製造方法は特に限定されないが、平均粒径がミクロンオーダー以下の粒子が得られる、ラジカル重合による公知の乳化重合、播種乳化重合又は微細懸濁重合による方法が好ましく挙げられる。
【0039】
(a)ニトリルゴムと、(b)塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はアクリルゴム、とのブレンドの重量比{(a)/(b)}は、好ましくは40/60〜95/5、より好ましくは55/45〜90/10、特に好ましくは60/40〜85/15である。ニトリルゴムが少なすぎると得られるゴム架橋物のゴム弾性が失われるおそれがあり、逆に、多すぎると耐オゾン性が低下する可能性がある。
ニトリルゴムと塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はアクリルゴムとのブレンド方法は限定されず、混合する両者をバンバリーミキサ、ニーダなどの混合機で加熱しながらドライブレンドする方法、混合する両者をラテックスの状態で混合して凝固、乾燥する方法などがある。
【0040】
好ましいゴム架橋物の成形前の材料であるゴム組成物には、ニトリルゴムと塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はアクリルゴム以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他のゴム又は樹脂を含有させてもよい。その他のゴム又は樹脂の含有量は、ニトリルゴム、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はアクリルゴム、及び、その他のゴム又は樹脂の総量100重量部に対し、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。その他のゴム又は樹脂の含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐油性、耐寒性または耐オゾン性が劣るおそれがある。
【0041】
ゴム組成物を架橋してゴム架橋物を得るために、ゴム組成物に架橋剤を配合して架橋性ゴム組成物とする必要がある。かかる架橋剤としては、有機過酸化物、ポリアミン化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、硫黄、硫黄化合物、塩基性金属酸化物および有機金属ハロゲン化物などのゴムの架橋に通常用いられる従来公知の架橋剤を用いることができる。なかでも有機過酸化物及び硫黄が好ましい。これらの架橋剤は、1種使用しても、2種以上併用しても良い。
【0042】
架橋性ゴム組成物における上記架橋剤の含有量は、ニトリルゴム組成物の場合、ニトリルゴム100重量部に対し、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは0.2〜15重量部、特に好ましくは0.2〜10重量部である。架橋剤の含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物の機械的特性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎるとゴム架橋物の耐疲労性が低下する可能性がある。
【0043】
架橋性ゴム組成物には、その他ゴム加工分野において通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラックなどの補強性充填剤、炭酸カルシウムやクレーなどの非補強性充填材、老化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、日光亀裂防止剤、着色剤、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0044】
架橋性ニトリルゴム組成物の調製方法は特に限定されず、一般的なゴム組成物の調製方法で調製すればよく、通常、架橋剤及び熱に不安定な架橋促進剤などを除いた成分をバンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練し、次いでロールなどに移して架橋剤等を加えて二次混練する。
【0045】
架橋性ゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンドムーニー)〔ML1+4(100℃)〕は、好ましくは10〜140、より好ましくは20〜120である。ムーニー粘度がこの範囲にあると成形加工性に優れる。
【0046】
調製された架橋性ゴム組成物を架橋してゴム架橋物を得るには、所望の成形品形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、架橋反応によりゴム架橋物としての形状を固定化する。予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、好ましくは1分〜24時間、より好ましくは2分〜1時間である。
【0047】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0048】
本発明においては、架橋して形成されたゴム架橋物に対して、アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理を施す。
本発明で用いるアルキルまたはアリールハイポフルオライドは、下記式(1)で表される化合物である。
【0049】
【化1】

(式中、Rはアルキル基またはアリール基であり、nは1以上の整数である。)
【0050】
上記式(1)において、Rはアルキル基またはアリール基であり、アルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。また、上記式(1)においては、nが3であることが好ましい。なお、上記式(1)において、F原子は、酸素原子と結合している。
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、t−ブチルハイポフルオライド、t−ペンチルハイポフルオライド等が挙げられるが、t−ブチルハイポフルオライドが好ましい。
上記式(1)で表される化合物は、特開2006−299002に記載されているように、アルキル基またはアリール基を有する酸ハライドを溶媒中で三フッ化ホウ素(BF)錯体と反応させ、その結果生成したアルキルまたはアリールハイポフロライドを含む溶液をそのまま用いることができる。
溶媒としては、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができるが、エステル類が好ましく、酢酸エステル類がより好ましく、酢酸エチルが特に好ましい。
反応は、室温〜100℃で行うことが好ましい。
【0051】
本発明で用いるアルキルまたはアリールハイポフルオライドの溶剤溶液中の濃度は、1〜50重量%が好ましく、3〜15重量%が特に好ましい。
【0052】
アルキルまたはアリールハイポフルオライドでゴム架橋物を表面処理する方法としては、まずアルキルまたはアリールハイポフルオライドを含む溶剤溶液を調整し、次にこれをゴム架橋物に塗布した後、乾燥して溶剤を揮発させて、ゴム架橋物表面に皮膜を反応させる方法が用いられる。溶液の調整に用いる溶剤としては、酢酸エチル等の揮発性の有機溶剤が好ましい。また、アルキルまたはアリールハイポフルオライドの溶剤溶液をゴム架橋物に塗布する方法としては、浸漬法、スプレー法、コールコーター法、フローコーター法など用いることができる。
【0053】
アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理してなる本発明のゴム架橋物は、極めて耐燃料油透過性に優れ、特にアルコールを含有する燃料油(アルコール含有ガソリン)に対する透過性が低い。従って、室温での試験用燃料油CE−20(容積比:イソオクタン/トルエン/エタノール=40/40/20)の透過量(実施例における測定法参照)は、最大透過時において700(g・mm/m・day)以下であり、好ましくは600(g・mm/m・day)以下である。
【0054】
アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理された本発明のゴム架橋物は、極めて耐燃料油透過性に優れ、特にアルコールを含有する燃料油(アルコール含有ガソリン)に対する透過性が低い。そのため、自動車用のフューエルホース、フィラーホース、ベントホース、ブリザーホース等の燃料系(燃料油)のホースや潤滑油ホース、あるいはフューエルキャップシールなどのシール・ガスケット類に好適に用いられる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述において「部」は、特に断わりのない限り重量基準である。
試験、評価は下記によった。
(1)ムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕
架橋性ゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンドムーニー)をJIS K6300に従って測定した。
【0056】
(2)燃料油透過試験
燃料油透過試験は、試験用燃料油CE−20(容積比:イソオクタン/トルエン/エタノール=40/40/20)を用いて、カップ法により測定して評価した。カップ法は、容量100mlのアルミカップに上記試験用燃料油50mlを入れ、これに試料ゴム架橋物からなる厚さ2mm、直径61mmの円板状シートで蓋をし、締め具で該シートによりアルミカップ内外を隔てる面積を25.50mmになるように調整し、該アルミカップを室温にて放置し、24時間毎に重量測定することにより試験用燃料油の透過量P(単位:g・mm/m・day)を測定してその最大値を求めた。透過量の最大値が小さいほど、耐燃料油透過性に優れる。
【0057】
(3)引張試験
試料ゴム架橋物よりなる厚さ2mmの3号型ダンベル状試験片を用いてJIS K6251に準じて、引張り速度500mm/分にて引張強さ(単位:MPa)と伸び(単位:%)を測定した。
【0058】
(4)低温衝撃ぜい化試験
JIS K6201に準じて低温衝撃ぜい化試験を行い、ぜい化温度Tb(℃)を測定した。
【0059】
実施例1
極高ニトリルNBR{ゴム中のアクリロニトリル単位含量46重量%、ムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕95}および塩化ビニル樹脂(平均重合度800)の重量比70/30のポリブレンド100部に、カーボンブラック(製品名「旭#60」、旭カーボン社製)45部、アジピン酸ジブチルジグリコール(製品名「アデカサイザーRS−107」、旭電化社製、可塑剤)30部、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(製品名「ノクラック810NA」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)2部、2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリン(製品名「ノクラック224」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)2部、特殊ワックス(製品名「サンノックN」、大内新興化学工業社製、日光亀裂防止剤)1部、並びに架橋助剤の酸化亜鉛(製品名「亜鉛華1号」、正同化学社製)5部及びステアリン酸1部を添加してバンバリーミキサで混合した後、この混合物をロールに移して硫黄(325メッシュ通過品、架橋剤)0.3部、テトラメチルチウラムジスルフィド(製品名「ノクセラーTT」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)1.5部及びN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスフレンアミド(製品名「ノクセラーCZ」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)1.5部を加えて混練してムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕46の架橋性ゴム組成物を調製した。
【0060】
この架橋性ゴム組成物を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、加圧しながら160℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。このゴム架橋物を二分し、その一方をアルキルハイポフルオライドの濃度10重量%酢酸エチル溶液(製品名「F・SAT−700X」、シンコー技研社製)に浸漬した後、室温にて24時間乾燥して溶剤を揮発させて表面処理されたシート状のゴム架橋物を得た。これを用いて、燃料油透過試験、引張試験および低温衝撃ぜい化試験を行った。これらの試験結果を表1に記す。
【0061】
比較例1
実施例1においてプレス成形後に二分して得た、アルキルハイポフルオライドによって表面処理されていないシート状のゴム架橋物を用いて、実施例1と同様の試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
上記のように、ニトリルゴムに塩化ビニル樹脂をブレンドして得たゴム架橋物についてアルキルハイポフルオライドで表面処理したものと未処理のものとを対比すると、表面処理品は、引張強度、伸び及び耐寒性に悪影響を及ぼすことなく、燃料油透過量が格段と低下しており、極めて耐燃料油透過性に優れていることを示している(実施例1と比較例1の対比)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルまたはアリールハイポフルオライドで表面処理してなる、室温での試験用燃料油CE−20(容積比:イソオクタン/トルエン/エタノール=40/40/20)の透過量が、最大透過時において700(g・mm/m・day)以下のゴム架橋物。
【請求項2】
前記ゴム架橋物を構成するゴムが、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が43〜60重量%であるニトリルゴムを40〜95重量%含有するポリマー混合物である請求項1に記載のゴム架橋物。
【請求項3】
燃料油ホースまたは潤滑油ホースである請求項1または2に記載のゴム架橋物。
【請求項4】
アルコールを含有するガソリン用の請求項1または2に記載のゴム架橋物。

【公開番号】特開2008−133388(P2008−133388A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321444(P2006−321444)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】