説明

ゴム物品補強用スチール織物

【課題】スチールからなる補強材の打込み性状の安定化を図ることで、寸法安定性に優れるとともに、得られるゴム物品において、従来に比しより高い剛性を実現することができるゴム物品補強用スチール織物を提供する。
【解決手段】縦糸1と横糸2とが織り込まれてなる綾織のゴム物品補強用スチール織物である。縦糸1が、線径0.15〜0.38mmを有するスチール素線、または、このスチール素線を2本以上にて撚り合わせたスチールコードの3本以上を並列に束ねた束コードからなるか、あるいは、その幅をW、厚みをTとしたとき、W/T≧2および0.15mm≦T≦0.38mmを満足する扁平スチールワイヤーの3本以上を並列に束ねた束コードからなり、横糸2が、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム物品補強用スチール織物(以下、単に「スチール織物」とも称する)に関し、詳しくは、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるゴム物品補強用スチール織物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の典型例である空気入りタイヤにおいて、その寸法安定性を低下させる要因の一つとして、スチールコード等の補強材の打込み状態がある。かかる補強材の打込み方法としては、従来、コードを1本ずつリールから巻き出し、上下方向からゴムを圧着する方
式が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ゴム製品の補強材の改良に係る技術としては、例えば、特許文献2に、C量が0.6質量%以上を含有する鋼であって、引張強さ:3.0GPa以上、絞り:30%以上を有し、かつ横断面の形状が、幅W、厚みtとした時、W/t≧2を満足する扁平ワイヤ、および、これをゴムの補強に用いたゴム製品が開示されている。
【特許文献1】特開平3−197121号公報
【特許文献2】特開2002−309347号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の打込み方法を用いた場合、隣接する補強材間の隙間が均等にならないという問題があった。また、近年、空気入りタイヤの操縦安定性などの性能面の要請から、より剛性の高いゴムと補強材との複合体シート(トリート)の実現が求められているが、従来の複合体シートでは隣接補強材間に何ら拘束がなく、ゴムのみで一体化されているため、高い剛性を得るには限界があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、スチールからなる補強材の打込み性状の安定化を図ることで、寸法安定性に優れるとともに、得られるゴム物品において、従来に比しより高い剛性を実現することができるゴム物品補強用スチール織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、所定の径を有するスチール素線等を3本以上で束ねた束コードを縦糸とし、所定の径を有するスチール素線を横糸として、これらを用いて綾織構造のスチール織物を形成することで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチール織物は、縦糸と横糸とが織り込まれてなる綾織のゴム物品補強用スチール織物であって、前記縦糸が、線径0.15〜0.38mmを有するスチール素線、または、該スチール素線を2本以上にて撚り合わせたスチールコードの3本以上を並列に束ねた束コードからなり、前記横糸が、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなることを特徴とするものである。この場合、前記縦糸の束コードを構成するスチール素線またはスチールコードの個々が、前記横糸に対し綾織状に織り込まれていることが好ましい。
【0008】
また、本発明の他のゴム物品補強用スチール織物は、縦糸と横糸とが織り込まれてなる綾織のゴム物品補強用スチール織物であって、前記縦糸が、その幅をW、厚みをTとしたとき、W/T≧2および0.15mm≦T≦0.38mmを満足する扁平スチールワイヤーの3本以上を並列に束ねた束コードからなり、かつ、前記横糸が、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなることを特徴とするものである。この場合、前記縦糸の束コードを構成する扁平スチールワイヤーの個々が、前記横糸に対し綾織状に織り込まれていることが好ましい。
【0009】
本発明のゴム物品補強用スチール織物は、好適には、隣接する前記縦糸の束コード間および横糸間にそれぞれ隙間を有する。また、隣接する前記縦糸の束コード間の距離は、好適には0.35〜1.00mmの範囲内である。
【0010】
また、本発明のゴム物品は、上記本発明のゴム物品補強用スチール織物を、ゴムの補強材として用いたことを特徴とするものである。さらに、本発明のタイヤは、上記本発明のゴム物品補強用スチール織物を補強材として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム物品補強用スチール織物によれば、上記構成としたことにより、ゴム物品の寸法安定性を向上することが可能である。また、従来に比し、当該ゴム物品の剛性を高めることができるため、本発明のスチール織物を特にタイヤに適用することにより、タイヤの操縦安定性についても向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明のゴム物品補強用スチール織物の概略平面図を示す。図示するように、本発明のゴム物品補強用スチール織物10は、縦糸1と横糸2とが織り込まれてなる綾織の織物である。
【0013】
本発明のスチール織物10において、縦糸1は、線径0.15〜0.38mmを有するスチール素線、または、このスチール素線を2本以上にて撚り合わせたスチールコードの3本以上、図示する例では4本を並列に束ねた束コードからなる。縦糸1を構成するスチール素線の直径が、0.15mm未満では強度が不足し、一方、0.38mmを超えるとゴムとスチールとの複合体の面外方向の曲げ剛性が高くなりすぎて柔軟性に欠け、耐久性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0014】
図2に、縦糸1がスチール素線の単線からなる場合のスチール織物10の断面図(図1中のa−a断面)を、図3に、縦糸1が1×3構造のスチールコードからなる場合のスチール織物10の断面図(図1中のa−a断面)を、それぞれ示す。なお、図中の参照符号3はスチール素線、参照符号4はスチールコードをそれぞれ示す。
【0015】
また、縦糸1は、その幅をW、厚みをTとしたときに、W/T≧2および0.15mm≦T≦0.38mmを満足するような扁平スチールワイヤーの3本以上を並列に束ねた束コードからなるものとすることもできる。この場合のスチール織物10の断面図(図1中のa−a断面)を、図4に示す。縦糸1に適用する扁平ワイヤーがW/T≧2を満足しない場合、すなわち、W/Tが2未満の場合には、強度を確保しつつ複合体シートの厚みを薄くしてゴム物品の軽量化を図ることができなくなる。また、厚みTが0.15mm未満であると強度が不足する一方、0.38mmを超えるとゴムとコードとの複合体シートの面外方向の曲げ剛性が高くなり過ぎて、柔軟性に欠け、耐久性に悪影響を及ぼすことになる。
【0016】
なお、縦糸1の束コードを構成するスチール素線、スチールコードまたは扁平スチールワイヤーの本数を3本以上とするのは、複合体シート内での縦糸の充填効率を高め、強度を確保しつつ厚みをより薄くして、ゴム物品の軽量化を図るためである。この本数は、好適には3〜6本とする。
【0017】
また、横糸2は、縦糸1が上記スチール素線、スチールコードまたは扁平スチールワイヤーのいずれからなる束コードである場合においても、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなるものとする。横糸2の線径が0.08mm未満では剛性向上効果が小さく、一方、0.18mmを超えると縦糸と横糸との間の接触圧力が大きくなって、ゴム物品の耐久性に悪影響を及ぼすことになる。
【0018】
さらに、本発明においては、図示するように、縦糸1の束コードを構成するスチール素線、スチールコードまたは扁平スチールワイヤーの個々と、横糸2とが、綾織状に織り込まれていることが好ましい。これにより、縦糸1の束コードを構成するスチール素線、スチールコードまたは扁平スチールワイヤーの個々の間に横糸2が周期的に入り込んでいる綾織構造とすることで、縦糸と横糸とを互いにより強固に固定して、寸法安定性を向上することができる。図7に、本発明の他の例のスチール織物20の概略平面図を示す。図1では、縦糸1の束コード内に横糸2が1本ごとに入り込んでいるのに対し、図2では、縦糸1の束コード内に横糸2が2本ごとに入り込んでいる。本発明においては、縦糸1の束コードと横糸2とが、これら以外のいかなる入り込み方で綾織されていてもよい。
【0019】
また、図1に示すように、本発明のスチール織物10は、隣接する縦糸1の束コード間および横糸2間に、それぞれ隙間を有することが好ましい。隣接する縦糸1の束コード間および横糸2間に隙間がないと、ゴム物品中で複合体シートに面内方向に曲げ入力が生じた際に、剛性が高過ぎて柔軟に変形することができず、耐久性に悪影響を及ぼす場合がある。このうち隣接する縦糸1の束コード間の距離xは、好適には0.35〜1.00mmの範囲内であり、隣接する横糸2間の距離yは、好適には3.5〜10.0mmの範囲内である。これらの距離が小さすぎると、複合体シート端部でゴム−コード間の剥離が生じ、大きすぎると縦糸と横糸とをより強固に固定できず、いずれも好ましくない。なお、本発明において、縦糸1を構成するスチール素線、スチールコードまたは扁平スチールワイヤー間には、実質的に隙間を有しない。
【0020】
本発明のスチール織物10は、上記縦糸1および横糸2により構成された綾織物であればよく、これにより、このスチール織物10をゴムの補強材として用いたゴム物品、特にはタイヤにおいて、本発明の所期の効果が得られるものである。綾織の種類には特に制限はなく、1×2,1×3,1×4など、適宜選択して用いることができる。綾織は、糸を何本でも(2本以上)飛ばして織ることができるので、縦糸と横糸とを交互に織り込む平織に比べて曲率がマイルドになることから、製造上の容易性に優れている。
【0021】
なお、本発明のスチール織物10をゴムの補強に用いる場合には、複数層にて積層して使用することも可能である。また、織りの方向に対し斜めに切断して使用することも可能であり、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム製品に適用するにあたり、その埋設方法に何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を、実施例に基づき、より具体的に説明する。
(実施例および比較例)
図1に示すような、縦糸1と横糸2とからなる綾織構造のスチール織物10として、下記の表1中に示す条件に従い、各実施例および比較例の補強材を製造した。縦糸および横糸の材質はすべてスチールである。図2〜図4は、それぞれ図1中のa−a線に沿う断面図を示す。図2は、縦糸1が並列に4本束ねられたスチール単線からなる場合である。また、図3は、縦糸1が並列に4本束ねられた1×3構造のスチールコードからなる場合である。さらに、図4は、縦糸1が並列に4本束ねられた扁平ワイヤーからなる場合である。なお、図2〜図4において、縦糸1の束コードを構成する個々のスチール素線等の横糸2に対する織り込み方は、すべて図1の平面図に示すとおりとした。
【0023】
(従来例1)
図5および図5中のb−b線に沿う断面図である図6に示すように、1×3構造のスチールコードを並列に並べて、下記の表1中に示す条件に従い、従来例1の補強材を製造した。
【0024】
得られた各実施例、比較例および従来例の補強材をゴム中に埋設して複合体シートを作製し、寸法安定性および剛性につき評価した。寸法安定性は、複合体シート中の縦糸の打込み状態をX線で観察し、乱れがない場合を○とし、乱れがある場合を×とした。また、剛性については、従来例1を基準として、複合体シートを面内方向および面外方向に曲げたときの硬さを測定し、面外に対する面内の剛性比率が従来例1より大きい場合を○とし、小さい場合を×とした。
【0025】
また、上記複合体シートをベルト部に適用した乗用車用タイヤを作製し、操縦安定性につき評価した。操縦安定性の評価は、JIS規格D4204に準じて調整した供試タイヤを外径3mのドラム試験機に設置して、所定サイズと内圧から決定される荷重を負荷し、30km/hの速度で30分間予備走行させた後、昇温による内圧増加の影響を除くため、荷重を除いて内圧を規格値に再調整し、その後、再び同一速度および同一荷重の下にスリップ角度を±1°から±4°まで1°ごとに正負連続して付けて、正負各角度での単位角度あたりのコーナリングフォースを測定し、それらの平均値を算出してコーナリングパワーを求めることにより行った。各供試タイヤのコーナリングパワーが、従来例1のタイヤより大きい場合を○とし、小さい場合を×とした。これらの結果を、下記の表1中に併せて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
上記表1に示すように、各実施例のスチール織物は、いずれも複合体シートとした際の寸法安定性に優れるとともに、剛性についても、従来例1より向上していることが確かめられた。また、各スチール織物を適用したタイヤにおいて、従来例1よりも操縦安定性が向上していることも確認された。これに対し、比較例1のスチール織物は、線径が太過ぎるため面外剛性が大きくなり、従来例1対比剛性面で劣り、また、タイヤに適用した場合の操縦安定性についても劣る結果となっており、さらに、従来例1は、横糸がないため寸法安定性に劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一好適例のゴム物品補強用スチール織物を示す概略平面図である。
【図2】縦糸が並列に4本束ねられたスチール単線からなる場合のスチール織物を示す拡大断面図(図1中のa−a断面)である。
【図3】縦糸が並列に4本束ねられた1×3構造のスチールコードからなる場合のスチール織物を示す拡大断面図(図1中のa−a断面)である。
【図4】縦糸が並列に4本束ねられた扁平ワイヤーからなる場合のスチール織物を示す拡大断面図(図1中のa−a断面)である。
【図5】従来例1の、1×3構造のスチールコードを並列に並べてなる補強材を示す概略平面図である。
【図6】図5中のb−b線に沿う拡大断面図である。
【図7】本発明の他の好適例のゴム物品補強用スチール織物を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 縦糸
2 横糸
3 スチール素線
4 スチールコード
10,20 ゴム物品補強用スチール織物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸と横糸とが織り込まれてなる綾織のゴム物品補強用スチール織物であって、前記縦糸が、線径0.15〜0.38mmを有するスチール素線、または、該スチール素線を2本以上にて撚り合わせたスチールコードの3本以上を並列に束ねた束コードからなり、前記横糸が、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなることを特徴とするゴム物品補強用スチール織物。
【請求項2】
縦糸と横糸とが織り込まれてなる綾織のゴム物品補強用スチール織物であって、前記縦糸が、その幅をW、厚みをTとしたとき、W/T≧2および0.15mm≦T≦0.38mmを満足する扁平スチールワイヤーの3本以上を並列に束ねた束コードからなり、かつ、前記横糸が、線径0.08〜0.18mmを有するスチール素線からなることを特徴とするゴム物品補強用スチール織物。
【請求項3】
前記縦糸の束コードを構成するスチール素線またはスチールコードの個々が、前記横糸に対し綾織状に織り込まれている請求項1記載のゴム物品補強用スチール織物。
【請求項4】
前記縦糸の束コードを構成する扁平スチールワイヤーの個々が、前記横糸に対し綾織状に織り込まれている請求項2記載のゴム物品補強用スチール織物。
【請求項5】
隣接する前記縦糸の束コード間および横糸間にそれぞれ隙間を有する請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチール織物。
【請求項6】
隣接する前記縦糸の束コード間の距離が、0.35〜1.00mmの範囲内である請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチール織物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチール織物を、ゴムの補強材として用いたことを特徴とするゴム物品。
【請求項8】
請求項1〜6のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチール織物を補強材として用いたことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−297658(P2008−297658A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144882(P2007−144882)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】