説明

ゴム物品補強用ワイヤおよびそれを用いたゴム物品

【課題】特にタイヤに適用した際に、ワイヤ折れ等の不具合を生ずることなく、かつ、操縦安定性等のタイヤ諸性能を損なうことなく、タイヤをさらに軽量化することができるゴム物品補強用ワイヤ、および、それを用いたゴム物品を提供する。
【解決の手段】1対の平行な直線部11と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに直線部11から円弧部aに推移する部位に円弧部bとを有するトラック形状の扁平断面を有するゴム物品補強用ワイヤ1において、
ワイヤの厚みT(mm)、円弧部の曲率半径Ra(mm)及びRb(mm)が、下記式(1)〜(3)
0.15≦T≦0.30 (1)
0.5×T≦Ra≦0.77×T+0.019 (2)
T≦Rb≦2.5×T (3)
で表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用ワイヤ(以下、単に「ワイヤ」とも称する)およびそれを用いたゴム物品に関し、詳しくは、主としてゴム物品としてのタイヤの諸性能を損なうことなく軽量化を達成するために用いられる、ゴム物品補強用ワイヤおよびそれを用いたゴム物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求は益々高まっている。これに対し、軽量化の有力な手段として、タイヤの補強ベルトに用いられるスチールコードが見直されてきており、その構造についての新しい技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、金属単線を予め螺旋状に波付けして所定の減衰比を有するものとしたベルトコードを用いる技術が開示されており、これによりタイヤの軽量化を図るとともに乗り心地の低下を防止できると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、ベルトの端部剥離やコード折れを抑止し、乗り心地と操縦安定性等のタイヤ諸性能を良好に保ちながら、タイヤの軽量化と転がり抵抗の低減を達成することを目的として、ベルトプライ内の少なくとも大部分の金属線が、ベルトプライ幅方向に長い扁平形状の1本又は複数本の金属線を撚り合わせることなくベルト幅方向に並列に引き揃えた金属単線又は金属線束として存在し、この金属単線又は金属線束が、ベルト幅方向に単線間又は束間で間隔を開けて平行に平面的にベルト幅方向に配列されてゴム中に埋設されてベルト層が形成されている空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【0004】
さらに、タイヤの補強層に適用される扁平ワイヤの改良に関する技術として、特許文献3には、丸線ワイヤの扁平化によって形成された一対の平坦部および一対の湾曲部を有し、ワイヤ横断面の投影視野において前記平坦部から前記湾曲部に遷移する部位のエッジ角θを142°〜163°の範囲としたゴム補強用扁平ワイヤが開示されている。
【特許文献1】特開平11−91311号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2001−328407号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2006−336154号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で用いられているベルトコードの素線径は0.40〜0.50mmと太いため、走行中に繰り返し曲げ変形が加わった際に金属線の表面に大きな歪が発生し、悪路走行時に大きな曲げ変形が加わった際に金属線が折れ易いという問題があり、改良が求められていた。また、特許文献2に開示されているような技術もあるが、補強材側の改良により、特にタイヤに適用した際に、タイヤ諸性能を損なうことなくさらに軽量化を図ることのできる補強材を実現することが求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、特にタイヤに適用した際に、ワイヤ折れ等の不具合を生ずることなく、かつ、操縦安定性等のタイヤ諸性能を損なうことなく、タイヤをさらに軽量化することができるゴム物品補強用ワイヤ、および、それを用いたゴム物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ゴム物品補強用ワイヤの断面形状につき鋭意検討した結果、特定の扁平断面形状を有するワイヤを補強材として用いることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴム物品補強用ワイヤは、1対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに前記直線部から前記円弧部aに推移する部位に円弧部bと、を有するトラック形状の扁平断面を有するゴム物品補強用ワイヤにおいて、
該ワイヤの厚みをT(mm)、前記円弧部aの曲率半径をRa(mm)、さらに前記円弧部bの曲率半径をRb(mm)としたとき、下記式(1)、(2)および(3)、
0.15≦T≦0.30 (1)
0.5×T≦Ra≦0.77×T+0.019 (2)
T≦Rb≦2.5×T (3)
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のゴム物品は、上記本発明のゴム物品補強用ワイヤが補強材として用いられることを特徴とするものである。本発明のゴム物品においては、前記ゴム物品補強用ワイヤが、その幅方向がゴム物品の面内方向となるように並列に引き揃えられていることが好ましい。本発明の空気入りタイヤは上記本発明のゴム物品補強用ワイヤを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、特にタイヤに適用した際に、ワイヤ折れ等の不具合を生ずることなく、かつ、操縦安定性等のタイヤ諸性能を損なうことなく、タイヤをさらに軽量化することができるゴム物品補強用ワイヤおよびそれを用いたゴム物品を実現することが可能となる。したがって、本発明のゴム物品の一例としての空気入りラジアルタイヤによれば、従来のゴム物品補強用扁平ワイヤを用いたときの諸々の問題点、すなわち、ベルト端部の耐剥離性や操縦安定性、耐ベルト折れ性等の諸性能を改善することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明のゴム物品補強用ワイヤの一例の断面図を示す。図示するように、本発明のゴム物品補強用ワイヤ1は、1対の平行な直線部11と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに直線部11から円弧部aに推移する部位に円弧部bとを有するトラック形状の扁平断面を有している。
【0012】
本発明において、ワイヤの厚みT(mm)が、下記式(1)、
0.15≦T≦0.30 (1)
で示される関係を満足することが必要であり、好ましくは0.18≦T≦0.24である。厚みTが0.15mm未満では、ゴム物品の剛性が不足して、タイヤの補強用ベルトとして用いた場合には操縦安定性が損なわれる。一方、厚みTが0.30mmを超えると、曲げ大変形時にワイヤの表面歪が大きくなって、タイヤ適用時、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生しやすくなってしまう。
【0013】
また、本発明において、ワイヤの円弧部aの曲率半径Raが、下記式(2)、
0.5×T≦Ra≦0.77×T+0.019 (2)
で表される関係式を満足することが必要である。円弧の曲率半径Ra(mm)が0.5×T(mm)未満では、曲率半径が小さすぎるためにワイヤとゴムの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。一方、曲率半径Ra(mm)が0.77×T+0.019(mm)を超えると、ワイヤの円弧部bとの境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。
【0014】
さらに、本発明において、ワイヤの円弧部bの曲率半径Rbが、下記式(3)、
T≦Rb≦2.5×T (3)
で表される関係式を満足することが必要である。円弧の曲率半径Rb(mm)がT(mm)未満では、曲率半径が小さすぎるために曲げ大変形時にワイヤ円弧部bの局所歪が大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生しやすくなってしまう。一方、曲率半径Rb(mm)が2.5×T(mm)を超えると、ワイヤの円弧部aとの境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。また、ワイヤの直線部11との境界領域において曲げ大変形時に発生する歪が局所的に大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生しやすくなってしまう。
【0015】
本発明においては、1対の平行な直線部11と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに直線部11から円弧部aに推移する部位に円弧部bとを有するトラック形状の扁平断面を有するワイヤにおいて、厚みTおよび円弧部aおよびbの曲率半径RaおよびRbが上記式(1)〜(3)を満足するワイヤとすることで、上記した本発明の所期の効果が得られることを見出したものであり、それ以外の具体的なワイヤ材質等については特に制限されるものではない。かかる本発明のワイヤは、通常の円形断面のワイヤを製造するための従来の設備および工程をそのまま利用して、その伸線加工の後半部においてローラ間で圧延するか、または、扁平孔のダイスを通す等により扁平化することで、経済的かつ簡便に製造することができる。
【0016】
また、本発明のゴム物品は、上記本発明のゴム物品補強用ワイヤが補強材として用いられているものであればよく、これにより本発明の所期の効果が得られるものである。本発明のゴム物品としては、タイヤや工業用ベルト等が挙げられるが、特には空気入りタイヤである。本発明のゴム物品の一例としての空気入りタイヤにおいては、上述したように、タイヤの諸性能を損なうことなく、また、ワイヤに起因する不具合を生ずることもなく、軽量化を図ることが可能となる。
【0017】
この場合、ワイヤ1を、その幅方向がゴム物品の面内方向となるよう並列に引き揃えることが好ましい。これにより、ゴム物品の厚みを薄くすることができ、軽量化の点で優れるものとなる。例えば、ワイヤ1をタイヤの補強用ベルトの用いる場合には、ベルトの面内方向にワイヤ1の幅方向が揃うように配列させればよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
ゴム物品の一例としての空気入りラジアルタイヤ(サイズ175/70R14)を、タイヤ赤道面に対し右20°の角度に傾斜する第1ベルトプライと左20°の角度に傾斜する第2ベルトプライとからなるベルト層に、下記表1〜3にそれぞれ示すスチールワイヤを適用して作製した。下記表中、トラック形状とは、1対の平行な直線部11と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに直線部11から円弧部aに推移する部位に円弧部bとを有する扁平断面形状(図1参照)及び1対の平行な直線部21と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、からなる扁平断面形状(図2参照)をいう。なお、かかるトラック形状のワイヤについては、その幅方向がベルトプライの面内方向となるよう、並列に引き揃えて用いた。
【0019】
各供試タイヤにつき、下記に示す性能試験を実施した。その結果を、比較例1の円形断面ワイヤを用いたタイヤの性能を100とした場合の相対評価である指数にて、下記の表1〜3中に併せて示す。また、実施例1〜5及び比較例2〜7のワイヤの厚みTと円弧部aの曲率半径Raとの関係を、図4のグラフに示す。実施例1〜5及び比較例2〜7のワイヤの厚みTと円弧部bの曲率半径Rbとの関係を、図5のグラフに示す。比較例8〜12のワイヤの厚みTと円弧部aの曲率半径Raとの関係を、図6のグラフに示す。
【0020】
<耐ベルトエンドセパレーション(端部剥離)試験>
各供試タイヤを正規リムに組み付け、147kPa(1.5kgf/cm)の内圧を充填して、テスト用乗用車に装着し、一般道路を6万km走行させた後、タイヤを解剖してベルトの端縁に発生している亀裂の長さを測定した。各供試タイヤの亀裂の長さの逆数を算出して、比較例1の供試タイヤの逆数値を100とした指数で示した。この数値が大きいほど、耐ベルトエンドセパレーション性に優れている。
【0021】
<操縦安定性>
JIS規格D4202に準じて調整した供試タイヤを、外径3mのドラム試験機に設置して、所定サイズおよび内圧から決定される荷重を印加し、30km/hの速度で30分間予備走行させた。その後、昇温による内圧増加を除くため、荷重を除いて内圧を規格値に再調整した後、再び同一速度および同一荷重の下にスリップ角度を±1°から±4°まで1度毎に正負連続して付けて、正負各角度での単位角度あたりのコーナリングフォース(CF)を測定し、それらの平均値を算出してコーナリングパワー(CP)を求めた。各試験タイヤのCPを、比較例1のタイヤのCPで除して指数化して表示した。この数値が大きいほど、操縦安定性は良好である。
【0022】
<耐ベルト折れ性>
各供試タイヤを実車に装着して、一定で曲折するつづら折れ道路を時速60kmで2万km走行した後、供試タイヤを解剖してベルト層内のワイヤを採取し、折れた状態にあるワイヤの本数を調査し、その逆数を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。この指数値が大きいほど、耐ベルト屈曲性に優れていることを示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
上記表1〜3に示すように、比較例2の供試タイヤでは、ワイヤの厚みTが薄すぎるためにゴム物品の剛性が不足し、操縦安定性が損なわれている。比較例3の供試タイヤは、ワイヤの円弧部aの曲率半径Raが大き過ぎるために、ワイヤの円弧部bの曲率半径Rbとの境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーション性が劣っている。比較例4の供試タイヤは、ワイヤの円弧部aの曲率半径Raが小さ過ぎるために、ワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーション性が劣っている。比較例5の供試タイヤは、ワイヤの円弧部bの曲率半径Rbが小さすぎるために、曲げ大変形時にワイヤ円弧部bの局所歪が大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生し易くなっている。また、比較例6の供試タイヤは、ワイヤの円弧部bの曲率半径Rbが大き過ぎるために、ワイヤの円弧部aとの境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が大きくなって、セパレーション性が劣り、ワイヤの直線部11との境界領域において曲げ大変形時に発生する歪が局所的に大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れも発生し易くなっている。さらに、比較例7の供試タイヤは、ワイヤの厚みが厚すぎるために曲げの大変形時にワイヤの表面歪が大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れも発生し易くなっている。
【0027】
さらにまた、比較例8〜12の供試タイヤでは、図2に示すワイヤ断面形状のために、図1に示す円弧部bがないため、曲げ大変形時にワイヤ直線部21から円弧部aに推移する部位の局所歪が大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生し易くなっていることがわかる。
【0028】
これに対し、本発明に係る実施例1〜5の供試タイヤでは、扁平ワイヤの厚みT、円弧部aおよびbの曲率半径RaおよびRbをそれぞれ適正化したことで、耐ベルトエンドセパレーション性、操縦安定性および耐ベルト折れ性のいずれについても、円形断面の丸線ワイヤを用いた比較例1対比、向上していることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のゴム物品補強用ワイヤの一例を示す断面図である。
【図2】比較例8〜12のゴム物品補強用ワイヤの一例を示す断面図である。
【図3】従来の丸線ワイヤを示す断面図である。
【図4】実施例1〜5および比較例2〜7におけるワイヤの厚みTと円弧の曲率半径Raとの関係を示すグラフである。
【図5】実施例1〜5および比較例2〜7におけるワイヤの厚みTと円弧の曲率半径Rbとの関係を示すグラフである。
【図6】比較例8〜12におけるワイヤの厚みTと円弧の曲率半径Raとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 本発明のゴム物品補強用ワイヤ
2 比較例のゴム物品補強用ワイヤ
3 丸線ワイヤ
11 本発明のゴム物品補強用ワイヤの直線部
21 比較例のゴム物品補強用ワイヤの直線部
a 本発明および比較例8〜12のゴム物品補強用ワイヤの曲率半径Raの円弧部
b 本発明のゴム物品補強用ワイヤの曲率半径Rbの円弧部
T ワイヤの厚み
W ワイヤの幅
Ra ワイヤ円弧部aの曲率半径
Rb ワイヤ円弧部bの曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する1対の円弧部aと、さらに前記直線部から前記円弧部aに推移する部位に円弧部bと、を有するトラック形状の扁平断面を有するゴム物品補強用ワイヤにおいて、
該ワイヤの厚みをT(mm)、前記円弧部aの曲率半径をRa(mm)、さらに前記円弧部bの曲率半径をRb(mm)としたとき、下記式(1)、(2)および(3)、
0.15≦T≦0.30 (1)
0.5×T≦Ra≦0.77×T+0.019 (2)
T≦Rb≦2.5×T (3)
で表される関係を満足することを特徴とするゴム物品補強用ワイヤ。
【請求項2】
請求項1記載のゴム物品補強用ワイヤが補強材として用いられていることを特徴とするゴム物品。
【請求項3】
前記ゴム物品補強用ワイヤが、その幅方向がゴム物品の面内方向となるよう並列に引き揃えられている請求項2記載のゴム物品。
【請求項4】
空気入りタイヤである請求項2または3記載のゴム物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−249763(P2009−249763A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98911(P2008−98911)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】