説明

ゴム物品補強用炭化物の製造方法

【課題】高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム物品補強用炭化物の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られ、且つ粉砕により粉末にされた炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合し、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合物を得る工程と、回転数70rpm〜130rpmの造粒機を用いて前記混合物を造粒する工程とを含むことを特徴とする。なお、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用炭化物の製造方法に関し、特には、高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム物品補強用炭化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性の材料を開発する目的で、ゴム材料や樹脂材料等、様々な高分子系材料の工業化がなされているが、他方で、高分子工業の発展は、汎用材料の大量生産、大量消費をもたらし、高分子系廃棄物の処理は早急に解決すべき重要課題となっている。そして、この課題を解決するためには、高分子系材料の再利用化、リサイクル化等の技術的進展が肝要となる。例えば、ゴム材料であるタイヤは、モータリゼーションの発展と共に自動車必需部材として大量生産、大量消費がなされ、使用済みタイヤの数が膨大になっていることから、使用済みタイヤのリサイクル化・有効利用の研究が進められ、特に有用材料の回収が大きな課題となっている。例えば、特開平8−27394号公報(特許文献1)には、廃タイヤ等の有機系廃棄物を熱分解又は不完全燃焼させることでカーボンブラックを製造する方法が開示されている。
【0003】
また、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物は、通常、炭化水素以外の物質が含まれているため、炭化水素の熱分解又は不完全燃焼によって得られるほぼ炭素によって構成される炭素材料(つまり、本来の意味でのカーボンブラック)とは異なり、ゴム配合時にゴム組成物に対して、十分な補強効果が発揮できず、高分子系廃棄物が具える価値を回収して有効利用することについては、依然として改良の余地があった。
そのため、特許文献2では、炭化物とカーボンブラックとを混合することで、従来ではゴムへの補強性能が低いといわれている炭化物が含まれているのにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果が十分に発揮できるゴム補強用炭素材料を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−27394号公報
【特許文献2】特表2010−141099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、上記炭化物とカーボンブラックとの混合物の混合プロセスにおいて、大きな物性低下が観察される場合も確認された。よって、カーボンブラックの製造上優位である粉末状の構成成分同士の混合物においても、対象とするカーボンブラックと略同等のゴム配合物性を得ることのできる、高分子系廃棄物を有効利用した補強用炭化物の製造方法を見出すことが必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム物品補強用炭化物の製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物を含有するゴム補強用炭化物の製造に際し、造粒条件の調整により、従来は補強効果に劣るとされていた粉末物同士の混合造粒物が、純カーボンブラックや造粒物同士の混合物と比較しても遜色ない効果を奏することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られ、且つ粉砕により粉末にされた炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合し、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合物を得る工程と、回転数70rpm〜130rpmの造粒機を用いて前記混合物を造粒する工程とを含むことを特徴とする。
前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合方法、混合手段、混合条件等を特定の要件で行うことにより、得られた造粒体をゴムの配合した場合でのゴム配合性能を改良することができる。
【0009】
本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法においては、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることが好ましい。また、本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法においては、造粒空間に対する被造粒物の充填率(供給量)を低く抑え、かつ空間内での回転数も低くすることによって、造粒物の破壊に要する力を低位に抑え、水銀ポロシメータを1000〜10000psiの圧力範囲で水銀圧入現象を発生させるようにした造粒混合物の造粒工程を含む。
また、本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法においては、前記混合物を造粒する工程において、造粒機の回転数が110rpm〜130rpmであることが望ましい。
また、前記カーボンブラック(B)が、カーボンブラック製造工程で得られた粉末状物又は造粒工程後の造粒物の粉砕物であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物を含有するゴム補強用炭化物の製造に際し、造粒条件の調整により、ゴム配合時での加硫ゴム特性、特に、引張応力特性における低下がみられた粉末物同士の混合造粒物が、純カーボンブラックや造粒物同士の混合物と比較しても遜色ない効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭化物(A)の製造に用いた熱分解装置の概略図である。
【図2】炭化物(A)の造粒物(表記:炭化物)、GPF級カーボンブラック(B)(旭カーボン株式会社製)の造粒物(表記:カーボンブラック)、炭化物(A)の造粒物とカーボンブラック(B)の造粒物とのブレンド物(造粒ブレンド)、及び、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との粉末体のブレンド物による造粒物(粉末ブレンド)における水銀圧入量と圧力(単位:psi)との関係を示す図である。
【図3】水銀圧入量と圧力(単位:psi)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)と、カーボンブラック(B)といずれも粉末状態で混合し、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合物を得る工程を含むことを特徴とする。
炭化物(A)の粉末と、カーボンブラック(B)の粉末とを従来のカーボンブラック造粒工程で適用される条件で造粒した場合には、造粒粒子の破壊に大きな力を要し、また、水銀ポロシメータでは1000psi〜10000psiの圧力範囲で圧入される水銀がほとんど見られなくなるという現象が発生していた。この現象は、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との従来造粒条件による粉末同士の造粒物が、ゴムへの配合時に粒状物から微細塊状物への破壊過程への進行が困難となり、これによりゴムマトリックス中での均一な分散性が低下するために、この造粒物が本来発揮すべき性能が活かされないという欠陥が発現されていた。この細孔の大きさは水銀ポロシメータでの1000psi〜10000psiで圧入されるゴムマトリックスのゴム分子が入り込むことのできる大きさに該当し、この細孔が閉鎖された造粒物が配合された組成物ではゴム性能が低下するものと予想される。
従来方法での粉末体同士のブレンド造粒物を含む各種造粒物の水銀ポロシメータ測定値が図2に示されており、粉末ブレンドの測定値において上記圧力範囲で圧入が見られないことがこの推定を支持していると考える。
【0013】
本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法においては、まず、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合比を一定比率に制御することで、ゴム物品に対する補強効果を向上させたり、ゴム物性を純カーボンブラックの場合と同程度に確保することができる。また、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合比を一定比率に制御することで、混合比率の違いによる物性の変化を抑えることも可能となる。本発明者らが炭化物(A)及びカーボンブラック(B)の混合比について最適化を試みたところ、補強効果の向上及びその他のゴム物性低下の軽減の観点から、上記炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)は1/99〜50/50の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法によって得られるゴム物品補強用炭化物は、ゴム組成物中に配合するために前述の条件を適用して、通常、カーボンブラックと同様に造粒してから使用される。ここで、本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法においては、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合物を造粒することで、即ち、混合工程の後に造粒工程を行うことにより、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との造粒を同じ場所で且つ同時に行うことができるため、作業効率を大幅に改善することができる。しかし、前述のように従来のカーボンブラックでの造粒条件を適用した場合には、粒子の破壊強度の増加と水銀ポロシメータでの水銀圧入吸収量の減少が見られるので、これを解消する手段が必要となる。
【0015】
即ち、上記造粒工程においては、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合物の供給量や造粒機の回転数を制御することにより、該混合物にかかる力を低減できるため、ゴム物品補強用炭化物の物性の低下や該炭化物が配合されたゴム物品の性質の低下を抑えることが可能となる。例えば、上記混合物の供給量は、1〜2kgの範囲において、造粒機の回転数は、130rpm以下の範囲が好ましく、70〜130rpmの範囲がより好ましく、110rpm〜130rpmの範囲がさらに好ましい。造粒機の回転数を130rpm以下の好ましい範囲内とすることにより、粉末状態での混合物を造粒する際に、さらに良い物性に到達させることができる。
なお、造粒に要する時間(造粒時間)は、特に限定されるものではないが、供給量及び回転数を上記好適な範囲に設定した場合、110〜130秒間の範囲が好ましい。
【0016】
なお、造粒法としては、水又はその他の液体を利用して造粒する湿式法及び媒体を使用しない乾式法のいずれも採用することができる。また、造粒法として湿式法を採用する場合、乾燥工程が必要となる。なお、造粒機及び乾燥機としては、カーボンブラックの造粒及び乾燥に通常使用されるものを用いることができ、具体例としては、転動式造粒機等の造粒機、回転乾燥機、気流乾燥機、流動乾燥機、及び、トンネル乾燥機等の乾燥機が挙げられる。
【0017】
このような炭化物(A)とカーボンブラック(B)との粉末状物同士の造粒工程による混合が造粒物の破壊強度の増大と水銀ポロシメータでの水銀圧入吸収量の減少に関与する理由として、次のように推測している。
炭化物(A)は、純粋な炭素で構成されておらず、熱分解を受ける高分子系廃棄物に起因する種々の無機物(灰分)を含有している。湿式の造粒工程において添加される水に対して灰分中に含まれる水可溶成分の造粒水中への溶出が生じ、灰分中に含まれる水可溶成分が造粒物表面を覆うことにより、造粒物の破壊強度を増加させ、また、炭化物(A)及びカーボンブラック(B)の炭素成分中の細孔を閉塞させるために水銀ポロシメータでの圧入量が減少するものと考えられる。特にせん断強さが大きい通常のカーボンブラック製造条件にて用いられる造粒条件、即ち、混合物の造粒機内への供給量が多く、且つ造粒機の回転数が高い(300〜700ppm)造粒条件において、灰分中に含まれる水可溶成分の造粒水中への溶出の影響が顕著となり、これに対してより緩和な条件である本発明の条件では、上述の溶出の影響が少なくなるものと推定される。
【0018】
なお、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合には、例えば、ミキサー、ブレンダー、エアーブレンダー等の混合機が使用される。また、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合に造粒機を用いてもよい。
【0019】
本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法において、炭化物(A)は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られ、且つ粉砕により粉末にされた炭化物であり、高分子系廃棄物を原料とした熱分解反応又は不完全燃焼反応によって原料中のガス体及び液状成分を放出した後に、生成されて残った固体を指し、灰分として無機物を含むこともある。高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼には、特に限定されず、各種熱分解法及び不完全燃焼法を採用することができる。例えば、熱分解炉内に高分子系廃棄物を収容し、該熱分解炉内に加熱された無酸素ガスを供給することで、高分子系廃棄物を無酸素雰囲気下で熱分解させることができる。ここで、無酸素ガスは、酸素及び酸化物以外のガス体であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、水素、メタン、プロパン等の可燃性ガス等が挙げられる。また、熱分解炉は、特に限定されるものではないが、例えば、釜式熱分解炉、流動床式熱分解炉、キルン式熱分解炉等が使用される。
【0020】
なお、高分子系廃棄物は、主として有機系廃棄物を指し、具体的には、タイヤ廃棄物(例えば、スピュー、バフ粉、4〜32分割されたタイヤ)等のゴム材料廃棄物や、炭化水素モノマーの(共)重合反応により得られた高分子材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエン共重合体等、炭化水素モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、炭化水素モノマーのハロゲン誘導体の(共)重合体、例えばポリ塩化ビニル等の樹脂材料廃棄物が挙げられる。なお、タイヤ廃棄物を熱分解処理した後の残渣には、スチールコードやワイヤ等が炭化物と混在している場合もある。
【0021】
また、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼においては、処理温度を300〜600℃の範囲に制御するのが好ましい。該処理温度が上記特定した範囲内にあれば、高分子系廃棄物が安定で且つ連続的な熱分解又は不完全燃焼を行うことができる。該処理温度が300℃未満では、熱分解反応又は不完全燃焼反応が十分に進行せず、これによって、分解されるべき成分が完全に除去されない炭化物を生成するおそれがあり、他方、600℃を超えると、生成した炭化物と反応系中に存在する他の成分との間で望ましくない改質反応や賦活反応が起こり、多孔性でゴムへの補強効果に悪影響を及ぼし得る炭化物を生成するおそれがある。
【0022】
上記高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)は、例えば、タイヤ廃棄物を用いた場合、タイヤの骨材であるスチールコードやワイヤ等と混在しているため、磁石、ふるい等を用いてスチールコードやワイヤ等と分離させることが好ましい。また、上記炭化物(A)は、上述の通り、ゴム物品補強用炭化物の製造過程で造粒されることになるが、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物は、炭化の過程で凝集した塊状部分と粉末状部分とからなる。従って、例えば、粉砕機等を用いた粉砕工程によって炭化物を微細に壊砕することが好ましい。
【0023】
本発明のゴム物品補強用炭化物の製造方法において、カーボンブラック(B)は、厳密に制御された温度条件下にある空間内に原料を注入し、この原料の熱分解又は不完全燃焼によって得られる、工業的に重要なほぼ炭素で構成される原材料である。ここで、カーボンブラック(B)の製造方法としては、特に限定されず、熱分解法、不完然燃焼法といった通常のカーボンブラックの製法を採用することができる。また、カーボンブラック(B)の原料としては、通常、ガス又は液状の炭化水素が使用され、具体的には、エチレンボトム油、接触分解残渣油、重油、天然ガス、アセチレン等の炭化水素等が挙げられる。なお、上記該カーボンブラック(B)には、市販のカーボンブラックを使用することができ、タイヤ部材への適用の観点から、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等のグレードのものが特に好ましい。
また、前記カーボンブラック(B)が、カーボンブラック製造工程で得られた粉末状物又は造粒工程後の造粒物の粉砕物であることが望ましい。
【0024】
なお、本発明の製造方法により得られる炭化物(A)とカーボンブラック(B)とのブレンド物は、ビード、トレッド、サイドウォール、ビードフィラー、インナーライナー等のタイヤ部材の他、ベルト、空気バネ、ゴムホース、防振ゴム等のゴム物品の補強材として好適である。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
(炭化物(A)の製造例)
熱分解炉内にタイヤ廃棄物を投入し、該タイヤ廃棄物を無酸素雰囲気下で熱分解することで、炭化物(A)を製造した。
【0027】
図1に示す熱分解装置を用いて、廃トラック用タイヤから炭化物を回収した。
なお、図1に示す熱分解装置は、炭化物(A)の製造に好適な熱分解装置であり、無酸素ガスを加熱するための熱交換器1と、内部に高分子系廃棄物6を収容する熱分解炉2及び該熱分解炉2を外部から加熱する外部加熱手段8を有し、該高分子系廃棄物6を熱交換器1で加熱した無酸素ガスと直接接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための分解装置7と、分解装置7で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置5と、油分回収装置5で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして熱交換器1に供給するための循環路4と、熱交換器1に無酸素ガスを供給するための無酸素ガス供給源3とを備える。また、図1に示す熱分解装置は、無酸素ガス供給源3から無酸素ガスを供給するために無酸素ガス供給源3と熱交換器1とを接続する配管中に、流量計9、ダンパ10及び送風機11を備え、油分回収装置5で回収した後の残ガスを無酸素ガスとして熱交換器1に循環させるための循環路4中に、流量計9、ダンパ10、送風機11及び熱風炉14を備える。更に、図1に示す油分回収装置5は、回収される油分をその沸点に応じて分けるため、複数の乾留搭12a,12bを備え、ここで、各乾留塔12は、その下部で配管を通して回収タンク13に接続されており、回収した油分を貯蔵することができる。また更に、図1に示す熱分解装置において、余剰のガスは、排風機15を介して排ガス処理装置16で処理された後、大気中に放出することができる。
【0028】
詳細には、熱分解炉2(容量0.5m)内に廃トラック用タイヤの裁断品(高分子系廃棄物6)約100kgを投入し、熱分解炉2内を窒素ガスで置換した後、熱分解装置内の窒素ガスを循環させながら熱交換器1によりガス温度を約500℃まで上昇させて、この温度を保持した。なお、熱分解炉2内に導入される窒素ガスのガス流量は0.005m/s[ntp]に設定され、0.0045m/s[ntp]〜0.0055m/s[ntp]の範囲に制御し、熱分解装置系内での酸素濃度は1容量%以下の範囲に制御された。ここで、熱分解装置内の酸素濃度の測定には、ジルコニア式酸素センサーを用いた。熱交換器1による加熱を開始してから1時間で、熱分解ガスが乾留搭12aに溜出し始め、熱交換器1による加熱の開始から約4時間後に溜出が止まった。溜出の停止は熱分解反応が完了したことを示し、熱交換器1を止めて約12時間放置冷却した。その後、熱分解炉2から炭化物を取り出した。該炭化物中には、タイヤ材料であるスチールコード等が含まれるため、余分なタイヤ材料をマグネットセパレーターで除去した。余分なタイヤ材料が除去された炭化物をハンマー式の粉砕機で粒径が1mm以下の細粉に粉砕し、この粉砕物を、回転羽を有する風力分級機により分級することにより、粒径が50μm以上の粗粉を除去し、分級装置を用いて粒径が10μm以下で最頻度値4μmの微細炭化物(A)を得た。
このゴム配合用微細炭化物は、窒素吸着比表面積(NSA)が81.6m/g、DBP吸収量が85.2ml/100gの特性を有していた。
【0029】
(カーボンブラック(B)の製造例)
特開昭61−34071号公報(出願人:旭カーボン株式会社)に開示のソフト系カーボンブラック製造装置を用い、特開昭61−34071号公報の請求項1に記載された製造条件を適用して、GPF級カーボンブラック(B)を製造した。上記製造条件によるGPF級カーボンブラックの生産収率は150kg/hrであった。
また、市販のカーボンブラックを用いてもよい。
【0030】
<実施例1>
上記製造例により得られた炭化物(A)500gと、GPF級カーボンブラック(商品名:旭#55、旭カーボン株式会社製、上記製造例で製造、捕集された未造粒粉末品)(B)500gとを、ピンが内部円筒物に植え込まれたピン式造粒機に投入し、0.7L/hrの水を添加しながら、従来のカーボンブラック造粒条件よりもずっと低い回転数(約1/4)である80rpmで回転させることで混合して、表4−1における実施例1の欄に示す造粒条件で造粒し、湿潤ゴム補強用炭化物(炭素材料)IIの製造を行った。
上記処理により得られた湿潤ゴム補強用混合炭化物(炭素材料)IIを下部に燃焼バーナーを備えた回転する中心軸を有する円筒状ロータリーキルン方式の乾燥機(内部直径200mm、長さ400mm)を用いて乾燥された混合炭化物(炭素材料)IIを得た。
【0031】
<実施例2>
実施例1において、ピン型造粒機の回転数を100rpmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ゴム物品補強用炭化物を得た。
【0032】
<実施例3>
実施例1において、ピン型造粒機の回転数を120rpmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ゴム物品補強用炭化物を得た。
【0033】
<比較例1>
上記製造例で得られた炭化物(A)100kgを、カーボンブラック製造工程に設置されたピン型造粒装置内の粉体供給口から一定量ずつ定量フィーダーを用いて、上記製造例で得られたGPF級カーボンブラック(B)に添加し、造粒機の回転軸のトルクを検出して添加する水量を制御しながらカーボンブラック造粒時に通常用いられる350rpmで回転させたピン型造粒機を用いて両者を混合し、造粒処理を実施した。生成した混合湿潤造粒物をカーボンブラック製造プロセスの常法に従って乾燥工程に移行させて乾燥を行い、ゴム物品補強用炭化物材料を得た。
【0034】
<比較例2>
実施例1において、ピン型造粒機の回転数を160rpmとしたこと以外は、同一条件で(A)と(B)との混合物を造粒し、乾燥してゴム物品補強用炭化物を得た。
【0035】
<比較例3>
比較例1において、炭化物(A)とカーボンブラック(B)とを混合した後に造粒する代わりに、炭化物(A)とカーボンブラック(B)とを造粒した後に混合したこと以外は、比較例1と同様にして、ゴム物品補強用炭化物を得た。
【0036】
上記製造例から得た炭化物(A)及びカーボンブラック(B)、並びに実施例1〜3及び比較例1〜3のゴム物品補強用炭化物について、ジブチルフタレート(DBP)吸収量及び水銀圧入量を下記の方法により測定した。結果を表1及び図2〜3に示す。なお、図2〜3は、水銀圧入量と圧力との関係を示す図である。また、得られた結果から、比較例1のゴム物品補強用炭化物は、炭化物(A)及びカーボンブラック(B)と比べて、DBP吸収量が低いことが分かる。また、比較例1のゴム物品補強用炭化物は、他の例と比べて水銀圧入量が著しく減少しているが、これは、ストラクチャーの空隙量が低減し、吸蔵ゴム(即ち、ゴム分子の吸着量)が減ったためであると考えられ、このために、モジュラス(Mo)の低下が起きたと推察される。
【0037】
【表1】

【0038】
(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量
JIS K 6217−4:2001に準拠して、ジブチルフタレート(DBP)吸収量を測定した。
【0039】
(2)水銀圧入量
JIS R 1655:2003に準拠して、水銀ポロシメーターにより水銀圧入量を測定した。
【0040】
上記製造例から得た炭化物(A)及びカーボンブラック(B)、並びに実施例1〜3及び比較例1〜3のゴム物品補強用炭化物を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、該ゴム組成物の加硫後のゴム特性(引張応力、引張強さ)を下記の方法により測定した。
【0041】
(3)加硫後のゴム特性
(a)引張応力
140℃で30分間加硫して得た加硫ゴムに対して、JIS K6251:2004に準拠し、室温で300%伸び時における引張応力を測定し、GPF級カーボンブラック[旭カーボン(株)製,商品名:旭#55]のみが配合されたゴム組成物の引張応力を100として指数表示した。指数値が大きい程、引張応力が大きく、弾性率が高いことを示す。
(b)引張強さ
140℃で30分間加硫して得た加硫ゴムに対して、JIS K6251:2004に準拠し、室温での引張強さ(Tb)を測定し、GPF級カーボンブラック[旭カーボン(株)製,商品名:旭#55]のみが配合されたゴム組成物の引張強さを100として指数表示した。指数値が大きい程、破壊に対する耐性が高く、補強性に優れることを示す。
【0042】
【表2】

【0043】
*1 油展ゴム,ゴム成分100質量部に対して27.3質量部のアロマオイルで油展,JSR(株)製,商品名:SBR 1723.
*2 JSR(株)製,商品名:BROMOBUTYL 2255.
*3 上記製造例から得た炭化物(A)及びカーボンブラック(B)、並びに実施例1〜3及び比較例1〜3から得たゴム物品補強用炭化物,使用したカーボンブラック又は炭化物の種類を表1に示す。
*4 フレキシス社製,商品名:サントフレックス 6PPD.
*5 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー DM−P.
*6 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクラック 224.
*7 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー D.
*8 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー NS.
【0044】
【表3】

【0045】
次に、表4に示す造粒条件に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜3及び比較例1〜3のゴム物品補強用炭化物を得、該ゴム物品補強用炭化物の水銀圧入量を上記の方法により測定した。結果を図3に示す。なお、図3は、水銀圧入量と圧力との関係を示す図である。図3の結果から、回転数及び供給量の双方が高すぎると、炭化物の水銀圧入量が著しく低下するものの、供給量を低減することにより、炭化物の水銀圧入量を回復できることが分かる。
【0046】
また、上記ゴム物品補強用炭化物のビード硬さを下記の方法により測定した。結果を表4に示す。
【0047】
(4)ビード硬さ
JIS K 6219−3:2005に準拠してビード硬さを測定した。
【0048】
【表4】

【0049】
1 熱交換器
2 熱分解炉
3 無酸素ガス供給源
4 循環路
5 油分回収装置
6 高分子系廃棄物
7 分解装置
8 外部加熱手段
9 流量計
10 ダンパ
11 送風機
12 乾留搭
13 回収タンク
14 熱風炉
15 排風機
16 排ガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られ、且つ粉砕により粉末にされた炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合し、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合物を得る工程と、回転数70rpm〜130rpmの造粒機を用いて前記混合物を造粒する工程とを含むことを特徴とするゴム物品補強用炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のゴム物品補強用炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンブラック(B)が粉末状物又は造粒物の粉砕物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム物品補強用炭化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224746(P2012−224746A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93426(P2011−93426)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】