説明

ゴム組成物、およびそれを用いてなるゴム部材、搬送ローラ

【課題】
搬送物と接触する部分に用いる搬送ローラ用ゴム部材であり、ガラス基板を搬送する際に生じる摩耗粉の、搬送物であるガラス基板への粘着、前記ゴム部材の引張応力緩和による搬送不良、ならびにESD現象を低減したゴム部材のためのゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム100質量部当たり、DBP吸油量が300〜600cm/100gであり、窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである導電性カーボンブラックが3から20質量部、有機過酸化物が0.7質量部以上3質量部以下、多官能性不飽和化合物が1質量部以上5質量部以下を含有することを特徴とするゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、およびそれを用いてなるゴム部材、搬送ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用されるガラス基板は、その製造工程において、工程内及び工程間を搬送ローラによって搬送されるローラ搬送方式の装置を使用する場合がある。例えば、液晶ディスプレイの製造工程では、基板の受け入れ検査、洗浄、成膜、露光、現像、エッチング、レジスト剥離、検査等の工程を繰り返して薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルタを形成するが、各工程内及び工程間はローラ搬送方式の装置でガラス基板を搬送することが多い。本発明において、洗浄工程など薬液がかかる工程をウエット工程、薬液のかからない工程をドライ工程と言う。
【0003】
前記搬送ローラは、例えば、円筒状の回転軸にゴムからなるOリングを取り付けた構造である。複数本列設された前記搬送ローラにガラス基板を載架し、前記搬送ローラを回動することにより、前記ガラス基板を搬送する。前記搬送ローラを備えた設備の一例として、特許文献1には、ゴムからなるOリングが取り付けられたローラを用いてガラス基板を搬送する搬送装置を備えた洗浄設備が開示されている。
【0004】
搬送ローラを備えた設備において、ガラス基板に粉塵微粒子(パーティクル)が付着するという問題がある。前記パーティクルの付着要因としては、搬送ローラが前記ガラス基板との摩擦やガラス基板のエッジ部と接触したことにより生じた摩耗粉の付着、搬送ローラに堆積した汚れのガラス基板への転写等がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、搬送ローラにガラス基板エッジ部が接触することによる前記搬送ローラの損傷により生じた摩耗粉の発塵や、基板裏面に前記摩耗粉が転写するという問題があり、ウエット処理エリア(本発明でいうウエット工程)の搬送ローラを円筒ローラ(ローラ外層は、例えばウレタンゴムのような弾性体)とし、ドライエリア(本発明でいうドライ工程)の搬送ローラを円板ローラ(例えば鋳造された金属や、射出成形されたプラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等))として、基板のエッジ部が搬送ローラに接触することを防止したことにより、搬送ローラの損傷が少なくなり、基板裏面への汚れの転写が低減できたことが開示されている。
【0006】
特許文献3には、Oリングのパーティングラインの位置が搬送物との接触面と異なる位置にあること、及び前記Oリングが非金属元素よりなることを特徴とする搬送ローラが開示されており、前記搬送ローラによると、Oリングのパーティングラインに溜まったパーティクルがガラス基盤や半導体ウェハー等の搬送物へ付着せず、Oリングが摩耗しても金属が表面に析出しないため、パーティングラインに溜まったパーティクルとOリングの摩耗粉等が、搬送物へのパーティクル付着の要因とならないとされている。
【0007】
搬送ローラに用いるゴム部材としては、特許文献4には、耐プラズマ性を考慮したOリングとして、フッ素含率が68質量%以上の過酸化物架橋可能なフッ素ゴム100質量部当り、多官能性不飽和化合物0.7〜2.4質量部及び有機過酸化物0.3〜1.0質量部を含有したフッ素ゴム組成物が開示されており、前記フッ素ゴム組成物から得られる加硫成形品は、耐プラズマ性が良好であり、シールとして必要な常態物性値及び圧縮永久ひずみ値を示しており、半導体製造装置や液晶製造装置の部品、例えばシールや搬送ローラ等の用途に好適に用いることができるとされている。
【0008】
また、特許文献5には、金属製車軸と、該金属製車軸に固定された樹脂製ホイールと、該樹脂製ホイールの外周縁に被覆された滑り止めリングを備えた帯電防止搬送ローラであって、上記滑り止めリングと金属製車軸とが導線などの導電手段によって導通されている帯電防止搬送ローラが開示されており、搬送ローラで搬送される電子基板等搬送体への静電気の帯電を防止するとともに、搬送ローラの製造コスト及び維持管理コストの低減を実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−262626号公報
【特許文献2】特開2003−124285号公報
【特許文献3】特開2004−277096号公報
【特許文献4】特開2008−056739号公報
【特許文献5】特開2004−338930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1から5の搬送ローラには次のような問題がある。すなわち、特許文献1から5の搬送ローラにおいて、ガラス基板の搬送に伴い、前記ガラス基板面との接触により前記搬送ローラのゴム部材、弾性体又は滑り止めリングが、多少なりとも摩耗することは避けられず、摩耗により生じた摩耗粉がガラス基板へ粘着する問題がある。
【0011】
特許文献2は、ドライ工程の搬送ローラに金属又はプラスチック製の円板ローラが使用されている。しかしながら、金属又はプラスチック製の円板ローラのみの搬送ローラで搬送すると、搬送物であるガラス基板が滑り搬送ローラが空転する虞が有る。このため、通常、金属又はプラスチック製の円板ローラを搬送ローラに用いる場合、ゴム製の補助ローラを円板ローラに併走して、搬送ローラの空転を防止する。しかしながら、ガラス基板の搬送によりゴム製の補助ローラから生じる摩耗粉が、搬送物であるガラス基板に粘着する虞がある。
【0012】
また、近年のガラス基盤の大型化、各処理の短時間化に伴い、ガラス基板の搬送時に搬送ローラにかかる応力が大きくなっている。このため、搬送ローラにおいて、搬送物と接する部分のゴム部材の引張応力緩和特性が抑制されていない場合、稼動後早期に前記ゴム部材の緊迫力が低下し、前記搬送ローラにおいて、前記ゴム部材とローラ本体の間で滑りが生じ、前記ローラ本体が空転するため搬送不良となる。さらに前記ローラ本体が空転することにより、前記ローラ本体と前記ゴム部材の摩擦により前記ゴム部材が摩耗し、摩耗粉が発生するなどの不具合が生じる虞がある。
【0013】
また、ドライ工程においてガラス基板が搬送ローラによって搬送される際に、ガラス基板と搬送ローラの摩擦や、ガラス基板の搬送ローラからの剥離により静電気が生じる。これらの静電気は、ガラス基板の搬送中に、ガラス基板表面に蓄積されて帯電する。このように静電気が帯電したガラス基板が導電性材料部材と接触すると、ガラス基板に帯電した電荷が導電性部材へ流れる。この電荷の移動により、ガラス基板上に載置した素子が破壊されるといったESD(Electro Static Discharge:静電気放電)現象による問題が有る。
【0014】
本発明は、上述した問題点に着目し、搬送物と接触する部分に用いる搬送ローラ用ゴム部材であり、ガラス基板を搬送する際に生じる摩耗粉の、搬送物であるガラス基板への粘着、前記ゴム部材の引張応力緩和による搬送不良、ならびにESD現象を低減したゴム部材のためのゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の特徴は以下のとおりである。
〔1〕有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム100質量部当たり、DBP吸油量が300〜600cm/100gであり、窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである導電性カーボンブラックが3から20質量部、有機過酸化物が0.7質量部以上3質量部以下、多官能性不飽和化合物が1質量部以上5質量部以下を含有することを特徴とするゴム組成物。
〔2〕上記〔1〕に記載のゴム組成物を架橋してなるゴム部材。
〔3〕少なくとも搬送物と接する部分が、上記〔2〕に記載のゴム部材であることを特徴とする搬送ローラ。
〔4〕前記ゴム部材が接地されることを特徴とする上記〔3〕に記載の搬送ローラ。
〔5〕前記搬送物がフラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする上記〔3〕又は〔4〕に記載の搬送ローラ。
〔6〕フラットパネルディスプレイ製造工程のドライ工程で用いることを特徴とする上記〔3〕から〔5〕のいずれか一つに記載の搬送ローラ。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、搬送物と接触する部分に用いる搬送ローラ用ゴム部材であり、ガラス基板を搬送する際に生じる摩耗粉が、搬送物であるガラス基板に粘着しにくいゴム部材のためのゴム組成物が提供される。これにより、搬送ローラから生じる摩耗粉によるガラス基板の汚染を低減することが可能となる。また、本発明により、搬送装置で用いる搬送ローラについて、搬送物と接触する部分に用いる搬送ローラ用ゴム部材であり、稼動後早期に緊迫力が低下しにくいゴム部材のためのゴム組成物が提供される。これにより、長期にわたり、搬送ローラのローラ本体の空転がないため、長期にわたり搬送効率を維持することができる。また、前記空転により、前記ローラ本体と前記ゴム部材とが摩擦し、前記ゴム部材が摩耗して生じる摩耗粉の発生を抑えることが出来る。さらにESD現象を低減したゴム部材のためのゴム組成物が提供される。これにより、搬送時のガラス基板の帯電を防ぐことができ、搬送するガラス基板に載置した素子の破壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の一つである搬送ローラの断面図である。
【図2】本発明の実施形態の一つである搬送ローラの説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態の一つである搬送ローラの断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態の一つである搬送ローラの説明図である。
【図5】摩耗粉の粘着性の試験を行うための摩耗試験装置の斜視図である。
【図6】Oリングホルダーに試験用Oリングを嵌挿したものであり、(a)その平面図と(b)x−x’矢視の断面正面図と(c)y-y’ 矢視の断面側面図と(d)あり溝の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明に用いるビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(三元FKM系共重合ゴム)は、過酸化物架橋が可能な三元FKM系共重合ゴムであり、例えば、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合ゴム(三元FKM共重合ゴム)に反応性ハロゲン基(例えば、臭化オレフィン、ヨウ化オレフィン等)等の有機過酸化物架橋性基を導入した三元FKM系共重合ゴムが挙げられる。
【0019】
本発明に用いる三元FKM系共重合ゴム中のフッ素含有率は特に特定しないが、好ましくは67質量%から72質量%、更に好ましくは67質量%から71質量%である。前記フッ素含有率が67質量%から72質量%であると、搬送ローラに用いるゴム部材として最適な引張応力緩和特性が得られるため好ましく、72質量%以下であるとゴム組成物中での多官能性不飽和化合物の分散が良好であるため好ましく、67質量%から71質量%であると商業的に入手が容易であるため好ましい。
【0020】
本発明に好適な三元FKM系共重合ゴムは、ダイエルG−912(ダイキン工業社製)、ダイエルG−9062(ダイキン工業社製)、ダイエルG−9074(ダイキン工業社製)、ダイエルG−901(ダイキン工業社製)、ダイエルG−902(ダイキン工業社製)、ダイエルG−9503(ダイキン工業社製)、ダイエルG−952(ダイキン工業社製)、バイトンGF−600S(デュポンエラストマー社製)、テクノフロンP959(ソルベイソレクシス社製)、テクノフロンP459(ソルベイ ソレクシス社製)、テクノフロンP757(ソルベイソレクシス社製)又はテクノフロンP457(ソルベイ ソレクシス社製)、テクノフロンP959/30M(ソルベイソレクシス社製)等として商業的に入手しても良い。これらの三元FKM系共重合ゴムは、一種又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明に用いる導電性カーボンブラックは、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり3〜20質量部である。前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記導電性カーボンブラックが3質量部未満であると、得られる搬送ローラでガラス基板を搬送する際に生じるゴム部材の摩耗粉の粘着性が大きくなり、前記摩耗粉がガラス基板に粘着し、ガラス基板から摩耗粉を取り除きにくくなる。また、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記導電性カーボンブラックが3質量部未満であると、得られるゴム部材の体積抵抗率が大きくなる。搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板と接触するゴム部材の体積抵抗率が大きくなると、搬送したガラス基板上に静電気が帯電して、ガラス基板上の素子がESD現象により破壊する虞が生じるため問題である。
【0022】
前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記導電性カーボンブラックが20質量部を超えると、本発明のゴム組成物の混練時の発熱が大きくなる。前記発熱が大きくなるとスコーチが発生する虞がある。また得られるゴム組成物を成形する際、配合組成に起因すると思われる融合不良等が発生するなど成形性が低下する。
【0023】
本発明に用いる導電性カーボンブラックは、JIS K 6217−4におけるDBP吸油量が300〜600cm/100gである。前記導電性カーボンブラックのDBP吸油量が300cm/100g未満であると、得られるゴム部材は、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板と接触するゴム部材に求められる硬さ及び体積抵抗率を両立できない。すなわち、前記導電性カーボンブラックのDBP吸油量が300cm/100g未満であると、得られるゴム部材を、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板に接触するゴム部材として好適な硬さに調整すると、得られるゴム部材の体積抵抗率が大きくなる。前記ゴム部材の体積抵抗率が大きいと、得られる搬送ローラで搬送したガラス基板上に静電気が帯電して、前記ガラス基板上の素子がESD現象により破壊する虞がある。また、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板に接触するゴム部材として好適な体積抵抗率に調整すると、得られるゴム部材の硬さが硬くなる。前記ゴム部材の硬さが硬いと、得られる搬送ローラでガラス基板を搬送した場合、搬送物が滑ることにより搬送ローラが空転する虞がある。このため、本発明に用いる導電性カーボンブラックは、DBP吸油量が300cm/100g以上であり、好ましくは340cm/100g以上である。
【0024】
また、前記導電性カーボンブラックのDBP吸油量が600m/100gを超えると、得られるゴム部材は混練加工性および成形性が低下する。このため、本発明に用いる導電性カーボンブラックは、DBP吸油量が600cm/100g以下であり、好ましくは550cm/100g以下である。
【0025】
また、本発明に用いる導電性カーボンブラックは、JIS K 6217−2における窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである。窒素吸着比表面積が700m2/g未満であると、得られるゴム部材は、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板と接触するゴム部材に求められる硬さ及び体積抵抗率を両立できない。すなわち、前記導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積が700m2/g未満であると、得られるゴム部材を、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板に接触するゴム部材として好適な硬さに調整すると、得られるゴム部材の体積抵抗率が大きくなる。前記ゴム部材の体積抵抗率が大きいと、得られる搬送ローラで搬送したガラス基板上に静電気が帯電して、前記ガラス基板上の素子がESD現象により破壊する虞がある。また、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板に接触するゴム部材として好適な体積抵抗率に調整すると、得られるゴム部材の硬さが硬くなる。前記ゴム部材の硬さが硬いと、得られる搬送ローラでガラス基板を搬送した場合、搬送物が滑ることにより搬送ローラが空転する虞がある。このため、本発明に用いる導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が700m2/g以上であり、好ましくは750m2/g以上である。
【0026】
また、前記導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積が1400m2/gを超えると、得られるゴム部材は引張応力緩和が大きくなり、混練加工性および成形性が低下する。このため、本発明に用いる導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が1400m2/g以下であり、好ましくは1350m2/g以下である。
【0027】
本発明に用いる導電性カーボンブラックの平均粒子径(一次粒子径)は特に限定されるものではないが、引張応力緩和特性、混練加工性および成形性の点から、好ましくは20〜70nm、より好ましくは30〜50nmである。なお、前記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡により、無作為に選択した1000個のカーボンブラック粒子の粒子径を計測し、算術平均を求めたものである。
【0028】
本発明に用いる導電性カーボンブラックの粒子の構造に特に限定はなく、充填形状でもよく、中空シェル状の形状でもよいが、少ない導電性カーボンブラックの添加量で高い体積抵抗値のゴム部材が得られることから、中空シェル状の形状が好ましい。
【0029】
本発明に好適な導電性カーボンブラックは、例えば、ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD(いずれもケッチェンブラックインターナショナル社製)として商業的に入手することが出来る。
【0030】
本発明に用いる有機過酸化物の配合量は、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり0.7〜3質量部である。前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記有機過酸化物が0.7質量部未満であると、得られる搬送ローラでガラス基板を搬送する際に生じるゴム部材の摩耗粉の粘着性が大きくなり、前記摩耗粉がガラス基板に粘着し、ガラス基板から摩耗粉を取り除きにくくなる。くわえて、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記有機過酸化物が0.7質量部未満であると、得られるゴム部材の引張応力緩和が大きくなる。前記ゴム部材の引張応力緩和が大きくなると、前記ゴム部材を搬送ローラにおいて搬送物と接触する部分のゴム部材として長期にわたり使用した際に、前記ゴム部材の緊迫力が低下し、前記搬送ローラの軸心であるローラシャフトおよびローラ本体の回転に前記ゴム部材の回転が追従しなくなり、前記ローラ本体が空転して搬送不良となる虞がある。このように、ゴム部材から生じる摩耗粉の粘着性や、ゴム部材の引張応力緩和特性の点で、本発明に用いる有機過酸化物の配合量は、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり0.7質量部以上であり、1.0質量部以上が好ましく、1.2質量部以上がより好ましい。
【0031】
本発明に用いる有機過酸化物の配合量が、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり3質量部を超えると、本発明のゴム組成物の架橋速度が速くなり、前記ゴム組成物の混練中や成形中にスコーチが発生する等の成形性が低下する。このため、本発明に用いる有機過酸化物の配合量は、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記有機過酸化物は3質量部以下であり、2質量部以下が好ましい。
【0032】
本発明に用いる有機過酸化物として、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン又はジ−t−ブチルパーオキサイド等が例示され、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが、本発明のゴム部材から生じる前記摩耗粉の粘着性、本発明のゴム部材の引張応力緩和特性、本発明のゴム組成物の成形性の点で好適である。
【0033】
本発明に用いる多官能性不飽和化合物の配合量は前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり1〜5質量部である。前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり本発明に用いる多官能性不飽和化合物が1質量部未満であると、得られる搬送ローラでガラス基板を搬送する際に生じるゴム部材の摩耗粉の粘着性が大きくなり、前記摩耗粉がガラス基板に粘着し、ガラス基板から摩耗粉を取り除きにくくなる。くわえて、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記多官能性不飽和化合物が1質量部未満であると、得られるゴム部材の引張応力緩和が大きくなる。前記ゴム部材の引張応力緩和が大きくなると、前記ゴム部材を搬送ローラにおいて搬送物と接触する部分のゴム部材として長期にわたり使用した際に、前記ゴム部材の緊迫力が低下し、前記搬送ローラにおいて、ローラシャフトおよびローラ本体の回転に前記ゴム部材の回転が追従しなくなり、前記ローラ本体が空転して搬送不良となり、さらに前記ローラ本体が空転することにより、前記ローラ本体と前記ゴム部材の摩擦により前記ゴム部材が摩耗し、摩耗粉が発生するなどの不具合が生じる虞がある。このように、ゴム部材から生じる摩耗粉の粘着性や、ゴム部材の引張応力緩和特性の点で、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記多官能性不飽和化合物は1質量部以上であり、1.5質量部以上が好ましい。また、本発明のゴム組成物の架橋反応をより好適に促進することから、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記多官能性不飽和化合物は2質量部以上がより好ましい。
【0034】
本発明に用いる多官能性不飽和化合物の配合量が、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり5質量部を越えると、得られるゴム部材の表面に前記多官能性不飽和化合物の重合物が析出して成形不良が発生する等、成形性が低下する。このことから、本発明のゴム組成物において好適な成形性を得るためには、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たり前記多官能性不飽和化合物は5質量部以下であり、4質量部以下が好ましい。
【0035】
前記多官能性不飽和化合物として、キノンジオキシム系(p−キノンジオキシム等)、メタアクリレート系(トリエチレングリコールジメタアクリレート、メチルメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等)、アリル系(ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート等)、マレイミド系(マレイミド、フェニルマレイミド、N,N´−m−フェニレンビスマレイミド等)、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン又は1,2-ポリブタジエン等が例示され、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、トリアリルイソシアヌレートが、本発明のゴム部材から生じる前記摩耗粉の粘着性、本発明のゴム部材の引張応力緩和特性、本発明のゴム組成物の成形性の点で好適である。
【0036】
本発明のゴム組成物には、例えば、老化防止剤(例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系)、可塑剤(例えば、アジピン酸系可塑剤(ジオクチルアジペート等)、セバシン酸系可塑剤(セバシン酸ジオクチル等)、トリメリット酸系可塑剤(トリメリテート等)、重合型可塑剤(例えば、ポリエーテル若しくはポリエステル等の重合型可塑剤)等)又は加工助剤(例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等)等ゴム工業で一般的に使用されている配合剤を必要に応じて適宜添加することができる。なお、各配合剤の添加量は特に限定せず、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて適宜設定することができる。
【0037】
本発明のゴム組成物を、従来公知のインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機、オープンロール又は二軸混練押出機等を用いて混練した後、射出成形機、圧縮成形機、加熱プレス機又は押出成形機等を用いて所望の形状に架橋成形して前記ゴム部材を得ることができる。前記架橋成形において、例えば140℃〜200℃で2分間〜30分間の一次架橋を施した後、必要に応じて150℃〜230℃で1時間〜24時間の二次架橋を施すというような条件で架橋を行うことが好ましい。二次架橋を施すことで、一次架橋のみの場合のゴム部材と比較して、前記ゴム部材を搬送ローラのゴム部材とした場合に前記ゴム部材から発塵する摩耗粉の搬送物である前記ガラス基板への付着量を低減でき、また前記ゴム部材の引張応力緩和を小さくすることができる。
【0038】
本発明のゴム部材は、JIS K 6253に準拠して評価した、デュロメータ硬さ(瞬間値)がA55〜A90である。この範囲の硬さは、搬送ローラにおいて搬送物であるガラス基板と接触する部分に用いるゴム部材として好適な硬さである。前記搬送ローラがガラス基板を搬送するためのグリップ力が向上し、前記搬送ローラの搬送効率が向上することから、本発明のゴム部材のデュロメータ硬さ(瞬間値)はA65〜A80であることが好ましい。例えば、前記三元FKM系共重合ゴム100質量部当たりの前記導電性カーボンブラックの配合量が、前記導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積が700〜900m2/gの場合5〜10質量部であり、前記導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積が1200〜1400m2/gの場合3〜7.5質量部であると、得られるゴム部材のデュロメータ硬さがA65〜A80となる。
【0039】
また、本発明のゴム部材は、体積抵抗率が1.0×10〜1.0×10Ω・cmである。このため、本発明のゴム部材に対して、他の部材が摩擦、あるいは接触して剥離することにより前記の他の部材が帯電することを防ぐことができる。このことから、ESD現象を低減する必要がある部分に用いるゴム部材として好適である。例えば、素子を載置したガラス基板を搬送するための搬送ローラに用いるゴム部材のうち、搬送物であるガラス基盤と接する部分のゴム部材に、本発明のゴム部材は好適である。
【0040】
搬送ローラにおいて、搬送物であるガラス基板と接触する部分のゴム部材は、複数の搬送物を連続して搬送するため引張応力を連続的に受ける。このことにより、前記ゴム部材に引張応力緩和が生じる。前記引張応力緩和が大きいと、稼動後早期に前記ゴム部材の緊迫力が低下し、前記搬送ローラにおいて、前記ゴム部材とローラ本体の間で滑りが生じ、前記ローラ本体が空転して搬送不良となる傾向にある。さらに前記ローラ本体が空転することにより、前記ローラ本体と前記ゴム部材の摩擦により前記ゴム部材が摩耗し、摩耗粉が発生するなどの不具合が生じる虞がある。しかしながら、本発明の搬送ローラは、引張応力緩和が小さいため、前記空転が生じにくく、前記空転による摩耗粉が発生し難く、良好な搬送特性を長期に渡り維持できる。なお、本発明のゴム部材の引張応力緩和測定値は、JIS K 6263(引張応力緩和試験A法)に準拠して、試験片は短冊1号形とし、試験温度40℃、試験時間30分、試験ひずみ20%の条件下において、10%以下である。
【0041】
また、本発明の搬送ローラにおいて、ガラス基板搬送時に、搬送物であるガラス基板と前記ガラス基板と接触する部分のゴム部材との摩擦や剥離によってガラス基板に帯電した静電気を効率よく逃すためには、ゴム部材は接地されていることが望ましい。接地の方法は特に制限は無いが、ゴム部材を導電性の樹脂や金属等の導電部材でできた溝等を介してローラシャフトに固定して接地するなどの方法が考えられる。
【0042】
また、本発明の搬送ローラの搬送物と接する部分のゴム部材は、体積抵抗率が1.0×10〜1.0×10Ω・cmであることから、搬送物であるガラス基板が本発明の搬送ローラで搬送される工程の直前の工程後に帯電している場合、前記ガラス基板と前記搬送ローラとの接触によりESD破壊が発生する虞がある。このため、前記ガラス基板が前記搬送ローラで搬送される工程の直前の工程後に前記ガラス基板が帯電している場合、前記ガラス基板が前記搬送ローラで搬送される工程の直前に、あらたに帯電した前記ガラス基板を除電する工程、例えば、前記ガラス基板と接触する部分の体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1011Ω・cm、あるいは表面抵抗率が1.0×10〜1.0×1012Ω/□でありその部分が接地されている搬送ローラ等に、前記ガラス基板を接触する工程、を設けることが好ましい。前記ゴム部材は、本発明のゴム組成物において、導電性カーボンブラックの変わりに導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン等を充填剤として適量配合する事により得られる。すなわち、有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム100質量部当たり、有機過酸化物が0.7質量部以上3質量部以下、多官能性不飽和化合物が1質量部以上5質量部以下、導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン等を適量含有することを特徴とするゴム組成物により得られる。
【0043】
本発明のゴム部材の形状は特に限定されず、Oリング、Dリング、角リング、Xリング、Tリング等のリング形状又はシート形状等や、金属材料や樹脂材料と接着等で組み合わせた複合体等その目的に応じて適宜選ばれる。本発明のゴム部材の大きさも特に限定はなく、目的に応じ適宜選ばれる。
【0044】
本発明の搬送ローラは少なくとも搬送物と接する部分が本発明のゴム部材であり、例えば、中心軸を回転軸とした円筒状で前記円筒の側面に本発明のゴム部材を被覆した搬送ローラや、周方向に溝を設けた円筒状もしくは円盤状のローラ本体に前記溝に適合する形状とした本発明のゴム部材を設置した搬送ローラが挙げられる。前記搬送ローラをガラス基板搬送装置などの搬送装置に少なくとも一式設置し、ガラス基板などの搬送物を搬送する。
【0045】
例えば、図1、2に示すように、ガラス基板Kの下面Kb側に、ガラス基板Kの搬送方向Yに並設された複数本のローラシャフト3と、ローラシャフト3に外嵌されガラス基板Kを下面Kb側から支持しつつ送り出し搬送するための複数のローラ本体1と、ローラ本体1の凹周溝11に装着される本発明のゴム部材8と、を備える搬送ユニットが例示される。図1、2においてゴム部材8の形状はOリングであるが、角リング、異形リングなど他の断面形状の円環状(リング状)としても良い。
【0046】
また、図3、4に示すように、ガラス基板Kの上下両側に、ガラス基板Kの搬送方向Yに並設された複数本のローラシャフト3と、ローラシャフト3に外嵌されガラス基板Kを上下方向から挟圧しつつ搬送する複数対のローラ本体1と、本発明のゴム部材8と、を備えている。ここで、図3、4でゴム部材8の形状はOリングであるが、角リング、異形リングなど他の断面形状の円環状(リング状)としても良い。
【0047】
図3、4において、上側のローラ本体1(1A)及び上側のゴム部材8(8A)と、その上側のローラ本体1A及び上側のゴム部材8Aに対してガラス基板Kを挟んで対面位置に配設された下側のローラ本体1(1B)及び下側のゴム部材8(8B)は、前後方向及び左右方向が一致するように配設している。つまり、上側のゴム部材8Aの左右中心線Saと下側のゴム部材8Bの左右中心線Sbとが一致するよう(同一直線上)に配設し、かつ、上側のゴム部材8Aの前後中心線と下側のゴム部材8Bの前後中心線とが一致するように配設している。なお、本発明において、前方向とは、ガラス基板Kの進行方向Yである。
【0048】
図3、4に示すように、上下方向からゴム部材8をガラス基板Kに接触させつつ送り出し搬送することで、ガラス基板Kの水平度が保持され、安定した搬送を可能にする。また、上側のゴム部材8(8A)と下側のゴム部材8(8B)が、前後方向及び左右方向が一致するように配設することで、ゴム部材の位置ずれによりガラス基板Kに生じる割れやヒビ等の破損を防止する。このことから、上下方向からゴム部材8をガラス基板Kに接触させつつ送り出し搬送することが好ましい。
【0049】
本発明の搬送ローラは、ガラス基板を搬送した際に、搬送ローラのゴム部材から発塵する摩耗粉がガラス基板に極めて粘着し難いことに加え、前記ゴム部材の引張応力緩和が小さいことから搬送不良が起こりにくく、前記ガラス基板と接する部分にESD現象を低減したゴム部材を用いることから、例えばフラットパネルディスプレイ製造装置に使用するガラス基板搬送用の搬送ローラとして、好適に使用でき、ESD現象を低減している観点から、フラットパネルディスプレイ製造工程のドライ工程に使用する、ガラス基板搬送用の搬送ローラとして、特に好適に使用できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例等で使用した材料およびその略号は以下のとおりである。
【0051】
有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴムとしては、
・A-1:有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(共重合ゴム中のフッ素含有率71質量%):ダイエルG−912(ダイキン工業社製)
・A−2:有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(共重合ゴム中のフッ素含有率70質量%):テクノフロンP959(ソルベイソレクシス社製)
・A−3:有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(共重合ゴム中のフッ素含有率67質量%):テクノフロンP757(ソルベイソレクシス社製)
【0052】
有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴムとの比較として以下A’−1およびA’−2の成分を用いた。
・A’−1:有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(共重合ゴム中のフッ素含有率66質量%):ダイエルG−801(ダイキン工業社製)
・A’−2:ポリオール架橋可能なビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム(共重合ゴム中のフッ素含有率66質量%):ダイエルG−702(ダイキン工業社製)
【0053】
DBP吸油量が300〜600cm/100gであり、窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである導電性カーボンブラックとしては、
・B−1:導電性カーボンブラック(DBP吸油量360cm/100g、窒素吸着比表面積800m2/g、平均粒子径39.5nm、中空シェル形状):ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
・B−2:導電性カーボンブラック(DBP吸油量495cm/100g、窒素吸着比表面積1270m2/g、平均粒子径34.0nm、中空シェル形状):ケッチェンブラックEC600JD(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
【0054】
DBP吸油量が300〜600cm/100gであり、窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである導電性カーボンブラックの比較として、以下のB’−1およびB’−2の成分を用いた。
・B’−1:導電性カーボンブラック(DBP吸油量155cm/100g、窒素吸着比表面積225m2/g、平均粒子径 25nm、充填形状):トーカブラック#5500(東海カーボン社製)
・B’−2:導電性カーボンブラック(DBP吸油量168cm/100g、窒素吸着比表面積58m2/g、平均粒子径40nm、充填形状):トーカブラック#4500(東海カーボン社製)
【0055】
有機過酸化物としては、
・C−1:有機過酸化物(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン):パーヘキサ25B(日油社製)
【0056】
多官能性不飽和化合物としては、
・C−2:多官能性不飽和化合物(トリアリルイソシアヌレート):TAIC(日本化成社製)
【0057】
有機過酸化物架橋の比較として、以下のポリオール架橋用のC’−1、C’−2の成分を検討した添加剤としては、
・C’−1:キョウワマグ150(協和化学工業社製):酸化マグネシウム(受酸剤)
・C’−2:カルディック2000(近江化学工業社製):水酸化カルシウム(受酸剤)
【0058】
実施例1〜17、比較例1、3〜14について、表1〜4の配合に示す割合のゴム及び配合剤を、オープンロールにて混練してゴム組成物を調整した。次いで、ゴム組成物をプレス成形装置にて160℃で10分間プレス架橋した後、更に200℃で4時間二次架橋してゴム部材を得た。なお、表1〜4の配合の単位は質量部である。
【0059】
比較例2は、表3の配合に示す割合のゴムおよび配合剤を、オープンロールにて混練してゴム組成物を調整した。次いで、ゴム組成物を170℃で10分間プレス架橋を試みた。
【0060】
実施例1〜17及び比較例1、3〜14で得られたゴム部材をサンプルとして、以下の(1)〜(5)の評価を行い、それらの結果に基づいて(6)総合評価を実施した。その結果を表1〜4に示す。なお、比較例2は、プレス架橋を試みたが加硫しなかったため、(2)〜(5)の評価は実施できなかった。
【0061】
(1)成形性
JIS B 2401記載のG25サイズのOリングを20個成形して目視で外観を確認し、多官能性不飽和化合物の重合物と思われる析出物や、スコーチによる成形不良、ゴムの融合不良等、配合組成に起因すると思われる異常が確認されたものを外観不良とし、以下の基準にて評価した。
○ : 成形品の外観不良品が1個以下
× : 成形品の外観不良品が2個以上、あるいは加硫しない
【0062】
(2)摩耗粉の粘着性
図5に示す摩耗試験装置を用いてガラス板への摩耗粉の粘着性を確認した。即ち、JISB 2401に記載のP20サイズの試験用Oリング10を質量2.5NのOリングホルダー120で把持し、試験用Oリング110と可動式架台130に固定したガラス板140(松浪硝子工業社製 大型スライドガラス)を、Oリングホルダー120の質量により圧接し、駆動装置(図示せず)によりガラス板140を固定した可動式架台130を1分間に50回の速さで一方向(矢印で図示)に往復摺動(ストローク50mm)させ、10000往復後にガラス板140を取り出し、ガラス板140上に付着している摩耗粉を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○ : 摩耗粉は見られない、
又は摩耗粉が発生してガラス板表面に付着しているが、
100ccポリエチレン製洗浄瓶を使用して
エタノールをかけ流すと容易に除去できる。
× : 摩耗粉がOリングの摺動方向に伸びて
ガラス板表面に粘着している状態が観察される、
あるいは100ccポリエチレン製洗浄瓶を使用してエタノールを
かけ流しても容易に除去できない摩耗粉が付着している。
【0063】
なお、固定台150に固定したホルダー固定架台160の上部に設けた円孔に、Oリングホルダー120を挿着することにより、試験装置稼動中に、Oリングホルダー120が、可動式架台130の往復摺動に追動せず、可動式架台130の往復摺動方向と垂直方向には自由に運動できるようにした。この時、Oリングホルダー120とホルダー固定架台160は、Oリングホルダー挿着部Iで、Oリングホルダー120の前記運動に影響がない程度に近接しており、Oリングホルダー挿着部I以外のいずれの部位においても接触しない。
【0064】
また、図6に示すとおり、Oリングホルダー20のOリング固定溝は、試験用Oリング110が脱落しないように、あり溝形状とした。Oリング固定溝のサイズは、Oリング固定溝中心径φ=22.2mm、Oリング固定溝開口幅d=2.22mm、Oリング固定溝深さh=1.8mm、あり溝角度θ=66.6°、あり溝底半径r1=0.2mm、あり溝開口部エッジ半径r2=0.2mmとした。
【0065】
(3)体積抵抗率
JIS K 6271に準拠し、150mm×150mm×2mm厚さのシート状としたゴム部材について、23℃、相対湿度50%の条件下で測定した。なお、1.0×10Ω・cm以上は測定不能であったため、体積抵抗率が大きいために測定不能の場合は、1.0×10Ω・cm以上とする。
○ : 体積抵抗率が1.0×10Ω・cm未満
× : 体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上
【0066】
(4)引張応力緩和
JIS K 6263引張応力緩和試験Aに準拠し、試験片形状短冊1号形、試験温度40℃、100mm/minで20%伸張し、30分後の引張応力緩和を測定し、以下の基準で評価した。
○ : 引張応力緩和が10%以下
× : 引張応力緩和が10%を超える
【0067】
(5)硬さ
JIS K 6253に準拠し、タイプAデュロメータによる瞬間値(加圧板を試験片に接触させた瞬間に読み取った数値)を測定し、以下の基準で評価した。
○ : 55〜90 (但し、65〜80を◎とした)
× : 55未満、又は90を超える
【0068】
(6)総合評価
前記(1)〜(5)の試験結果から、以下の基準にて評価した。
○ : 評価(1)〜(5)において、○もしくは◎であるもの
× : 評価(1)〜(5)において、×が一つ以上あるもの
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
表1および2に示すように、実施例1〜17のゴム部材は、摩耗粉の粘着性試験において、摩耗粉が見られない、又は摩耗粉が発生してガラス板表面に付着しているが容易に除去できることから、搬送ローラに用いるゴム部材として優れた性能を有している。また、実施例1〜9のゴム部材は、体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以下であることから、搬送ローラにおいて、ガラス基板と接触する部分に用いるゴム部材として用いると、ガラス基板が搬送ローラによって搬送される際に生じる静電気が、ガラス基板の搬送中に、ガラス基板表面に蓄積されずに、逐次放電される。
【0074】
これに対し、表3および4に示すように、比較例4から、本発明の範囲の導電性カーボンブラックの配合量が20質量部を超えると成形性が低下し、且つ高硬度となり搬送不良が生じる傾向にあるといえる。また、比較例1から、有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴムを用いると発塵した摩耗粉が搬送物へ粘着しやすい傾向にあるといえる。また、比較例3および5から、本発明の範囲の導電性カーボンブラックの配合量が5質量部未満であると発塵した摩耗粉が搬送物へ粘着しやすい傾向にあるといえる。また、比較例3および5から、本発明の範囲の導電性カーボンブラックの配合量が5質量部未満であると、得られるゴム部材の体積抵抗率が大きくなり、ESD現象により搬送物であるガラス基板上の素子を破壊する虞があるといえる。また、比較例7および8から、DBP吸油量および窒素吸着比表面積が本発明の範囲を外れる導電性カーボンブラックを用いると、多量配合しても得られるゴム部材の体積抵抗率が大きいため、ESD現象により搬送物であるガラス基板上の素子を破壊する虞があるといえる。また、比較例2から、本発明の範囲の導電性カーボンブラックはポリオール架橋反応を阻害する虞があるといえる。また、比較例9〜14から、架橋剤である有機過酸化物や架橋助剤である多官能性不飽和化合物が少ないと摩耗粉の粘着性や引張応力緩和特性が低下する傾向にあり、前記架橋剤や前記架橋助剤が多いと成形性が低下する傾向にあるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のゴム組成物は、搬送ローラにおいて搬送物(例えばガラス板)と接する部分のゴム部材から発塵した摩耗粉の搬送物への粘着、前記ゴム部材の引張応力緩和による搬送不良、又はESD現象、を低減する必要がある搬送ローラに用いるゴム部材のためのゴム組成物として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 ローラ本体
3 ローラシャフト
8 ゴム部材(Oリング形状)
11 凹周溝
K ガラス基板(搬送物)
110 試験用Oリング
120 Oリングホルダー
130 可動式架台
140 ガラス板
150 固定台
160 ホルダー固定架台








【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機過酸化物架橋性基を導入したビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合ゴム100質量部当たり、DBP吸油量が300〜600cm/100gであり、窒素吸着比表面積が700〜1400m2/gである導電性カーボンブラックが3から20質量部、有機過酸化物が0.7質量部以上3質量部以下、多官能性不飽和化合物が1質量部以上5質量部以下を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物を架橋してなるゴム部材。
【請求項3】
少なくとも搬送物と接する部分が、請求項2に記載のゴム部材であることを特徴とする搬送ローラ。
【請求項4】
前記ゴム部材が接地されることを特徴とする上記請求項3に記載の搬送ローラ。
【請求項5】
前記搬送物がフラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の搬送ローラ。
【請求項6】
フラットパネルディスプレイ製造工程のドライ工程で用いることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の搬送ローラ。








【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−126809(P2012−126809A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278849(P2010−278849)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】