説明

ゴム組成物、セメント組成物、ゴム組成物同士の接着方法及びタイヤ

【課題】従来と比べて、同種または異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性、並びにゴム部材同士の接着力および剥離強力をさらに向上させることができるゴム組成物およびセメント組成物、並びにそれを用いたゴム組成物同士の接着方法、該接着方法を用いて製造したタイヤを提供することにある。
【解決手段】ゴム成分として、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムと、有機溶剤とを含むことを特徴とするゴム組成物、それを用いたセメント組成物、該セメント組成物を用いるゴム組成物同士の接着方法、該接着方法を用いて製造したタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、セメント組成物、それを用いるゴム同士の接着方法及び該接着方法を用いて製造したタイヤに関し、より詳細には、同種または異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性を従来よりも向上させることができるゴム組成物およびセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤの製造などにおいて複数のゴム部材を貼り合わせる際に、ゴム部材同士の充分な粘着力、接着力を確保するために、複数の未加硫のゴム部材の接合面に粘着性に優れたセメントを塗布し、これを乾燥させて接合することが行われている。このようなセメントとして、通常は、ゴム成分、充填剤、加硫促進剤などの通常のゴム組成物に有機溶剤を大量に配合したものが用いられている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−179732号公報
【特許文献2】特開2008−144014号公報
【特許文献3】特開2007−269893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3記載のゴムセメント組成物によりゴム同士の接着性を高めることが可能であるが、今日では、更なる接着力の向上が求められている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、従来と比べて、同種または異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることができるゴム組成物およびセメント組成物、並びにそれを用いたゴム組成物同士の接着方法、該接着方法を用いて製造したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ゴム成分として天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムを用い、これに有機溶剤を配合したゴム組成物がセメントとして用いた際に従来よりもゴム同士の接着性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムと、有機溶剤とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のゴム組成物の好適例において、前記極性基含有単量体のグラフト量が天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01〜5.0質量%であることを特徴とする。
【0009】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記極性基がアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基および含酸素複素環基から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする。
【0010】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、有機溶剤の含量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、上記ゴム組成物は、さらに、カーボンブラックと樹脂を含むことを特徴とする。なお、カーボンブラックの含量が、ゴム成分100質量部に対して20質量部〜80質量部であることが好ましく、樹脂の含量が、ゴム成分100質量部に対して0.1〜40質量部であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のセメント組成物は、上記ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のゴム組成物同士の接着方法は、上記セメント組成物を用いてゴム組成物同士を接着させることを特徴とする。
【0014】
本発明の接着方法の好適例において、接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含むゴム組成物であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のタイヤは、上記セメント組成物を用いたか、又は上記接着方法を用いて製造したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来と比べて、同種または異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることができるゴム組成物およびゴムセメント組成物を提供できるという有利な効果を奏する。また、本発明によれば、ゴム部材同士の剥離強力が従来よりも向上したタイヤを提供することができるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムと有機溶剤とを含むことを特徴とする。本発明のゴム組成物において上記変性天然ゴムをゴム成分として用いることによって、本発明のゴム組成物をセメントとしてゴム部材同士の接着に用いた際に、接合面に塗布したセメント層の補強性が向上して接着性を向上させ、加硫後のゴム部材間の剥離強力を向上させることができる。さらに、変性天然ゴム中の極性基により、シリカとの親和性が向上するため、シリカを配合したゴムを接着するのにも有効である。
【0018】
本発明に用いる変性天然ゴムについて以下に説明する。本発明に用いる天然ゴムラテックスは通常のものであって、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックスおよびこれらを組合せたもの等を挙げることができる。
【0019】
本発明に用いる極性基含有単量体としては、分子内に少なくとも一つの極性基を単量体であれば特に制限されない。極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基および含酸素複素環基を好適に挙げることができる。これら極性基を含有する単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種またはそれ以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
アミノ基含有単量体としては、1分子中に第1級、第2級および第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を有する重合性単量体がある。その中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のような第3級アミノ基含有単量体が特に好ましい。これらアミノ基含有単量体は単独で、若しくは2種またはそれ以上を組合せて使用することができる。
【0021】
第1級アミノ基含有単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、4−ビニルアニリン、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
第2級アミノ基含有単量体としては、(1)アニリノスチレン、β−フェニル−p−アニリノスチレン、β−シアノ−p−アニリノスチレン、β−シアノ−β−メチル−p−アニリノスチレン、β−クロロ−p−アニリノスチレン、β−カルボキシ−p−アニリノスチレン、β−メトキシカルボニル−p−アニリノスチレン、β−(2−ヒドロキシエトキシ)カルボニル−p−アニリノスチレン、β−ホルミル−p−アニリノスチレン、β−ホルミル−β−メチル−p−アニリノスチレン、α−カルボキシ−β−カルボキシ−β−フェニル−p−アニリノスチレン等のようなアニリノスチレン類、(2)アニリノフェニルブタジエン、1−アニリノフェニル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−3−メチル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−3−クロロ−1,3−ブタジエン、3−アニリノフェニル−2−メチル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−3−メチル−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−3−クロロ−1,3−ブタジエン等のアニリノフェニルブタジエン類、(3)N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド等のN−モノ置換(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0023】
第3級アミノ基含有単量体としては、N,N−ジ置換アミノアルキルアクリレート、N,N−ジ置換アミノアルキルアクリルアミドおよびピリジル基を有するビニル化合物等が挙げられる。
【0024】
N,N−ジ置換アミノアルキルアクリレートとしては、たとえばN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジオクチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン等のアクリル酸またはメタクリル酸のエステル等が挙げられる。特に、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジオクルアミノエチル(メタ)アクリレート、N―メチル―N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0025】
N,N−ジ置換アミノアルキルアクリルアミドとしては、たとえばN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N―メチル―N−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヘキシルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヘキシルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド化合物またはメタクリルアミド化合物等が挙げられる。特に、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が好ましい。
【0026】
また、アミノ基の代わりに含窒素複素環基であってもよい。含窒素複素環としては、たとえばピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。
【0027】
ピリジル基を有するビニル化合物としては、たとえば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、5−メチル−2−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。特に、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等が好ましい。
【0028】
ニトリル基含有単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。これらは、単独または2種以上併用してもよい。
【0029】
ヒドロキシル基含有単量体としては、1分子中に少なくとも1つの第1級、第2級および第3級ヒドロキシル基を有する重合性単量体が挙げられる。かかる単量体としては、たとえばヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体、ヒドロキシル基含有ビニルエーテル系単量体、ヒドロキシル基含有ビニルケトン系単量体等がある。このようなヒドロキシル基含有単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のようなポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数が、たとえば2−23である)のモノ(メタ)アクリレート類;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシル基含有不飽和アミド類;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、m−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、p−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等のヒドロキシル基含有ビニル芳香族化合物類;(メタ)アクリレート類がある。これらの中で、ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシル基含有ビニル芳香族化合物が好ましく、特にヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体が好ましい。ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエステル、アミド、無水物等の誘導体であり、特にアクリル酸、メタクリル酸等のエステル化合物が好ましい。
【0030】
カルボキシル基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラコン酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸類;またはフタル酸、琥珀酸、アジピン酸等の非重合性多価カルボン酸と、(メタ)アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和化合物とのモノエステルのような遊離カルボキシル基含有エステル類およびその塩等が挙げられる。これらの中で、不飽和カルボン酸類が特に好ましい。かかる単量体は単独で用いるか、または2種以上併用してもよい。
【0031】
エポキシ基含有単量体としては、(メタ)アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−オキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等があげられる。これら単量体は単独で用いるか、または2種以上併用してもよい。
【0032】
グラフト重合用の開始剤としては、特に限定はなく種々の開始剤、たとえば乳化重合用の開始剤を用いることができ、その添加方法についても特に限定はない。一般に用いられる開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンヒドロパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、ジーtert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。なお、重合温度を低減させるためには、レドックス系の重合開始剤を用いるのが好ましい。かかるレドックス系重合開始剤に用いる過酸化物と組合せる還元剤としては、たとえばテトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。特に、tert−ブチルヒドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミンとの組合せがレドックス系重合開始剤として好ましい。
【0033】
本発明で行うグラフト重合は、極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中に添加し、所定の温度で撹拌しながら重合する一般的な乳化重合である。予め極性基含有単量体に水と乳化剤を加え、十分に乳化させたものを天然ゴムラテックス中に添加してもよいし、極性基含有単量体を直接天然ゴムラテックス中に添加し、必要に応じて単量体の添加前または添加後に乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のようなノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0034】
充填剤と配合した時に加工性を低下させることなく、接着性を向上させることを考慮すると、天然ゴムの分子に対しまんべんなく少量の極性基を導入することが重要であるため、重合開始剤の添加量は極性基含有単量体100モルに対し1−100モル%が好ましく、10−100モル%がより好ましい。上述した各成分を反応容器に仕込み、30−80℃で10分−7時間反応させてグラフト重合を行うことにより、変性天然ゴムラテックスが得られる。このようにして得た変性天然ゴムラテックスを凝固し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて乾燥することにより変性天然ゴムが得られる。
【0035】
本発明に係る変性天然ゴムにおいて、極性基含有単量体のグラフト量は天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01−5.0質量%が好ましく、0.01−3.0質量%、さらには0.05−1.5質量%がより好ましい。極性基含有単量体のグラフト量が0.01質量%未満の場合、目的の効果が充分に得られないおそれがある。また、グラフト量が5.0質量%を超えると、ゲル分が反応中に増加し、接着性が逆に下がり、実用的でなくなるおそれがある。
【0036】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として上述した変性天然ゴムを含有する。該変性天然ゴムの含有量は少なくとも20質量%含むことが好ましく、30質量%〜100質量%含むことがより好ましく、50質量%〜100質量%含むことが更に好ましい。含有量が20質量%未満では、セメントとしての接着性改良効果が得られないおそれがある。
【0037】
変性天然ゴムと併用するゴム成分としては、通常の天然ゴムおよびジエン系合成ゴムが挙げられる。ジエン系合成ゴムとしては、たとえばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン―プロピレン共重合体およびこれらの混合物等がある。
【0038】
本発明のゴム組成物に用いる有機溶剤としては、ゴム揮発油、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、ヘプタン、テトラヒドロフランが挙げられる。また、本発明のゴム組成物において、有機溶剤の含量は、接着性を確保するために、ゴム成分に対して30質量部以上が好ましく、30質量部〜400質量部がより好ましい。
【0039】
本発明のゴム組成物は、更に充填剤及び樹脂を含有することが好ましい。充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタンが挙げられ、これらの中でもカーボンブラックを好適に用いることができる。カーボンブラックとしては、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。なお、これら充填剤は、一種単独で用いてもよし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
充填剤としてカーボンブラックを用いる場合、本発明のゴム組成物におけるカーボンブラックの含量は、ゴム成分100質量部に対して20〜80質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。20質量部未満では加硫接着時の強度が不充分になるおそれがあり、80質量部以上ではゴム組成物の粘度が高すぎて、加工性が不良なるおそれがある。
【0041】
本発明のゴム組成物に用いる樹脂としては、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂およびクマロン−インデン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ゴムと相溶性が良いことから、フェノール樹脂が好ましい。なお、これら樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、樹脂の含量は、目的の性能を充分に得るためには、ゴム成分100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜40質量部がより好ましい。
【0042】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分、有機溶剤、充填剤、樹脂の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のゴム組成物は、ゴム成分に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0043】
本発明のセメント組成物は、上記本発明のゴム組成物を用いることを特徴とし、例えばタイヤを構成するゴム部材同士の接着に好適に用いることができる。本発明のセメント組成物は、上記変性天然ゴムを含むことによって、充填剤の分散性の向上により補強性が向上して、接着面での接着性を向上させるのと同時に、加硫前粘着性を同等に維持することができ、加硫後の剥離強力を向上させることができる。また、本発明のセメント組成物を用いて充填剤としてシリカを配合したゴムを接着させる場合、上記変性天然ゴムに導入された極性基によりゴム成分とシリカとの親和性が向上して、接着力を向上させることができる。
【0044】
本発明のゴム組成物同士の接着方法は、上記本発明のセメント組成物を用いることを特徴とする。本発明の接着方法は、従来よりも接着力を向上させた本発明のセメント組成物を用いることによって、同種または異種のゴム組成物同士をより効果的に接着することができる。本発明のゴム組成物同士の接着方法において、ゴム組成物同士の接着は、例えば、本発明のセメント組成物をゴム組成物同士を接着させる面にハケ等を使用して塗布し、次いで、本発明のセメント組成物を塗布したゴム組成物同士を接合させた後、本発明のセメント組成物に含まれる有機溶剤を揮発させることによりゴム組成物同士を接着させ、さらに加硫することによって行うことができる。なお、本発明の接着方法は、シリカを含むゴム組成物をより効果的に接着させることができることから、接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含むゴム組成物であることが好ましい。
【0045】
本発明のタイヤは、上記本発明のセメント組成物用いるか、又は上記本発明の接着方法を用いて製造したことを特徴とする。上記セメント組成物を用いたタイヤ及び上記接着方法を用いて製造したタイヤは、そのタイヤを構成するゴム部材同士の接着力および剥離強力に優れ、特に接着するゴム部材のいずれかがシリカを含む場合において、従来よりもゴム部材同士の接着力が向上している。なお、本発明のタイヤは、ゴム部材同士の接着に本発明のセメント組成物又は本発明の接着方法を用いること以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
<製造例1>
(1)天然ゴムラテックスの変性反応工程
フィールドラテックスをラテックスセパレーター(斎藤遠心工業製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離して乾燥ゴム濃度60%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス1000gを、撹拌機、温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10mlの水と90mgの乳化剤(エマルゲン1108,花王株式会社製)をN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート3.0gに加えて乳化したものを990mlの水とともに添加し、これらを窒素置換しながら30分間撹拌した。次いで、重合開始剤としてtert−ブチルヒドロパーオキサイド1.2gとテトラエチレンペンタミン1.2gとを添加し、40℃で30分間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスを得た。
【0048】
(2)凝固、乾燥工程
次いで、ギ酸を添加してpHを4.7に調整することにより、変性天然ゴムラテックスを凝固させた。このようにして得た固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化し、熱風式乾燥機により110℃で210分間乾燥して変性天然ゴムAを得た。このようにして得た変性天然ゴムAの重量から極性基含有単量体としてのN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの転化率は100%であることが確認された。また、該変性天然ゴムAを石油エーテルで抽出し、さらにアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することによりホモポリマーの分離を行ったところ、抽出物の分析からホモポリマーは検出されず、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることを確認した。
【0049】
<製造例2〜8>
3.0gのN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの代わりに、製造例2では2−ヒドロキシエチルメタクリレートを2.1g、製造例3では4−ビニルピリジンを1.7g、製造例4ではイタコン酸を2.1g、製造例5ではメタクリル酸を1.4g、製造例6ではアクリロニトリルを1.7g、製造例7ではグリシジルメタクリレートを2.3g、製造例8ではメタクリルアミドを2.8g用いた以外、製造例1と同じ処理を行って変性天然ゴムB,C,D,E,F,G,Hをそれぞれ得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムB−Hを分析したところ、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることを確認した。
【0050】
<製造例9>
極性基含有単量体の添加量を60.0g、乳化剤を1.8g、tert−ブチルヒドロパーオキサイドの量を0.6g、テトラエチレンペンタミンの量を0.6g、反応時間を2時間に変えた以外、製造例1と同じ処理を行って変性天然ゴムIを得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムIを分析したところ、単量体の転化率は98.2%であることを確認した。また、抽出によりホモポリマーの量を分析したところ、単量体の4.8%があることを確認した。
【0051】
<製造例10>
N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの代わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた以外、製造例9と同じ処理を行って変性天然ゴムJを得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムJを分析したところ、単量体の転化率は98.7%であることを確認した。また、抽出によりホモポリマーの量を分析したところ、単量体の4.1%があることを確認した。
【0052】
<製造例11>
天然ゴムラテックスを、変性することなく、直接凝固、乾燥して固形天然ゴムKを得た。
【0053】
【表1】

【0054】
次に、表2に示す配合処方のゴム組成物を、表2記載の配合成分を配合することによって調製した。得られたゴム組成物をセメント組成物として用いて、表3に示す配合処方のカーボンブラック配合のゴム組成物同士の接着および表4に示すシリカ配合ゴム組成物同士の接着における接着性および耐亀裂成長性を以下に示す方法で評価した。また、得られたセメント組成物を用いて、表3に示す配合処方のカーボンブラック配合のゴム組成物及び表4に示す配合処方のシリカ配合ゴム組成物からなるトレッドに対する成形作業性、経時タック、逆バフがけを以下に示す方法で評価した。カーボンブラック配合のゴム組成物同士の接着及び該ゴム組成物からなるトレッドに対する結果を表5に、シリカ配合ゴム組成物同士の接着及び該ゴム組成物からなるトレッドに対する結果を表6に示す。
【0055】
(1)未加硫接着性
未加硫での接着性の評価は、室温にてピックアップ式タッキネス計((株)東洋精機製作所製、製品名:PICMA タックテスタ)を用いて測定した。結果は、実施例1〜10、比較例1〜3では比較例1を、実施例11〜20、比較例4〜6では比較例4を100として指数で表した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0056】
(2)加硫接着性
加硫後の接着性の評価は、未加硫ゴムの塗布面同士を貼り合わせた後、145℃、30分で加硫し、1cm幅の試験片を打ち抜き、引張試験機を用いて接着面の剥離強度をストログラフを用いて測定するピーリングテストを行った。実施例1〜10、比較例1〜3では比較例1の剥離強度を、実施例11〜20、比較例4〜6では比較例4の剥離強度を100として指数で表した。数値が大きいほど結果が良好である。
【0057】
(3)耐亀裂成長性
JIS K6260に準拠して、40℃の温度条件で加硫ゴム組成物サンプルの亀裂成長試験を行った。結果は、実施例1〜10、比較例1〜3では比較例1を、実施例11〜20、比較例4〜6では比較例4を100として指数で表した。数値が大きいほど耐亀裂成長性が良好であることを示す。
【0058】
(4)成形作業性
各セメント組成物を塗布した各トレッドを用いてそれぞれのタイヤ成形時に貼合わせ部の貼り合わせやすさを評価した。
【0059】
(5)経時タック
各タイヤ成形後1時間後にトレッドのトレッドスプライス部の合わせ不良の有無を目視で評価した。
【0060】
(6)逆バフがけ
加硫後の各タイヤについて、トレッドのスプライス部にスプライス部を剥がす方向に回転式グラインダーをかけ、表面を削ったときのスプライス部の剥がれ、界面の露出具合を評価した。
【0061】
【表2】

【0062】
*1 使用したゴム成分の種類を表5及び6に示す.
*2 東海カーボン(株)製 シースト7HM.
*3 コレシン(BASF社製).
*4 住友化学(株)製 アンチゲン6C.
*5 大内新興化学工業(株)製 ノクセラーCZ.
【0063】
【表3】

【0064】
*1 N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン.
*2 N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド.
【0065】
【表4】

【0066】
*1 東ソー・シリカ(株)製 ニプシルAQ.
*2 デグッサ社製 Si69.
*3 N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン.
*4 ジフェニルグアニジン.
*5 ジベンゾチアジルジスルフィド.
*6 N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド.
【0067】
【表5】

【0068】
*1 天然ゴム RSS#3.
*2 予め素練りを行った天然ゴム.
【0069】
【表6】

【0070】
*1 天然ゴム RSS#3.
*2 予め素練りを行った天然ゴム.
【0071】
表5及び6のそれぞれにおける実施例と比較例の比較から、天然ゴムに代えて極性基含有単量体で変性した変性天然ゴムを用いたゴム組成物をセメント組成物として用いてカーボンブラック配合ゴム組成物同士の接着、並びにシリカ配合ゴム組成物同士との接着を行った際のいずれにおいても、未加硫接着性、加硫接着性、耐亀裂成長性を改善でき、さらに当該変性天然ゴムを含むゴム組成物を用いたセメント組成物を用いてカーボンブラック配合ゴム組成物及びシリカ配合ゴム組成物のそれぞれからなるトレッドを製造した際、成形作業性、経時タック、逆バフがけのいずれも良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分として、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムと、有機溶剤とを含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記極性基含有単量体のグラフト量が天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記極性基がアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基および含酸素複素環基から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項4】
有機溶剤の含量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項5】
さらに、カーボンブラックと樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項6】
カーボンブラックの含量が、ゴム成分100質量部に対して20質量部〜80質量部であることを特徴とする請求項5記載のゴム組成物。
【請求項7】
樹脂の含量が、ゴム成分100質量部に対して0.1〜40質量部であることを特徴とする請求項5記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とするセメント組成物。
【請求項9】
請求項8記載のセメント組成物を用いてゴム組成物同士を接着させることを特徴とするゴム組成物同士の接着方法。
【請求項10】
接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含むゴム組成物であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項8記載のセメント組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項12】
請求項9又は10記載の接着方法を用いて製造したタイヤ。

【公開番号】特開2010−215725(P2010−215725A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61839(P2009−61839)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】