説明

ゴム組成物、架橋ゴム組成物、空気入りタイヤ及びイソブチレン系重合体の製造方法

【課題】タイヤ用のゴム材料として有用な架橋ゴム組成物を得るための、ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】オレフィン性二重結合を有するゴム成分と、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体と、を含有し、上記イソブチレン系重合体のうち分子量が1000以下である低分子量体の含有量が、上記イソブチレン系重合体の総量基準で5質量%以下である、ゴム組成物。



[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレン系重合体を含有するゴム組成物、該ゴム組成物を架橋してなる架橋ゴム組成物、該架橋ゴム組成物を含有する空気入りタイヤ、及びイソブチレン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤ用のゴム材料としては様々なものが知られている。例えば、タイヤのトレッド部に用いられるゴム材料として、特許文献1には、ジエン系原料ゴム、補強剤及び特定の酸無水物変性ポリブテンを特定の割合で含んでなるゴム組成物が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、天然ゴム等のゴムに対して、カーボンブラック及び/又はシリカと、アルコキシシリル基を少なくとも一つ有するポリイソブチレン系の化合物とを特定の割合で配合してなるスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、アルコキシシランと、カルボン酸、アミド、エステル、水酸基及びアミノ基の群より選ばれる少なくとも1種の水素結合可能な部位とを分子内に有し、かつイソブチレンをモノマーとして少なくとも1種有する重合体を含むゴム組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、常温及び酸素存在下において安定に存在するニトロキシドラジカル、ヒドラジルラジカル、アリロキシラジカル及びトリチルラジカルからなる群から選ばれた少なくとも1種のフリーラジカルを分子中に有し、イソブチレン繰り返し単位を含んでなる重合体を含むゴム組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、ジエン系化合物の単独重合体又は共重合体とポリブテンとのブロック共重合体を含むゴム組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献6には、ポリブテンとポリブタジエンのブロック共重合体を含むゴム組成物が開示されている。
【0008】
また、特許文献7には、ポリイソブチレン/p−メチルスチレン共重合体の臭素化物と二価の金属原子の酸化物及びチッ素原子含有有機化合物とを予備混練し、次いで得られる予備混練物と他のゴム成分とを混練することにより得られるタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【0009】
また、特許文献8には、ルイス酸触媒を開始剤としたカチオン共重合により得られた重合体とゴム成分とを含有することを特徴とするゴム組成物が開示されており、上記重合体としては、イソブチレン単独重合体、又は、イソブチレンと芳香族ビニル化合物との共重合体が好ましい旨記載されている。
【0010】
また、特許文献9には、ゴムエラストマー、トリブロックエラストマー及び補強剤を、特定の割合で含んでなるゴム組成物が開示されている。そして、上記トリブロックエラストマーとしては、末端ポリスチレンハードセグメントAと内部イソブテン系エラストマー・ソフトセグメントBより構成される、A−B−Aの一般配置を有する少なくとも1種のトリブロックエラストマーを用いることが記載されている。
【0011】
また、特許文献10には、硫黄硬化性のゴムに対し、特定の構造を有するメルカプトポリブテニル誘導体又は特定の構造を有するアシルチオ−ポリブテニル誘導体を加えてなる加硫性ゴム組成物が開示されている。
【0012】
さらに、特許文献11には、ポリイソブチレンの少なくとも一部のポリマー分子鎖中にジスルフィド結合を有することを特徴とする機能性ポリイソブチレンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−35735号公報
【特許文献2】特開平11−91310号公報
【特許文献3】特開2000−169523号公報
【特許文献4】特開2000−143732号公報
【特許文献5】特開平11−80364号公報
【特許文献6】特開2001−131289号公報
【特許文献7】特開平11−80433号公報
【特許文献8】特開平11−315171号公報
【特許文献9】特開2001−247722号公報
【特許文献10】特開平10−251221号公報
【特許文献11】特開2005−54016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、タイヤ用のゴム材料として有用な架橋ゴム組成物及び該架橋ゴム組成物を得るためのゴム組成物を提供することを目的とする。また本発明は、上記架橋ゴム組成物を含む部位を備える空気入りタイヤを提供することを目的とする。さらに本発明は、上記ゴム組成物に好適に用いられるイソブチレン系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のゴム組成物は、オレフィン性二重結合を有するゴム成分と、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体と、を含有する。本発明のゴム組成物において、上記イソブチレン系重合体のうち分子量が1000以下である低分子量体の含有量は、上記イソブチレン系重合体の総量基準で5質量%以下である。
【化1】


[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【0016】
このようなゴム組成物によれば、ゴム成分とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する架橋ゴム組成物が得られる。該架橋ゴム組成物は、上記特定のイソブチレン系重合体を用いて得られたものであるため、動的粘弾性試験における高温(例えば60℃)での損失係数(tanδ)が小さく、低温(例えば0℃)での損失係数(tanδ)が大きいものとなる。さらに、この架橋ゴム組成物は、耐摩耗性に優れたものとなる。このため、本発明に係るゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、例えば空気入りタイヤのトレッド部に用いた場合に、優れた転がり抵抗特性、ブレーキ制動性(ウェットグリップ性)及び耐磨耗性を発現することができる。
【0017】
また、上記架橋ゴム組成物は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性も良好である。そのため、本発明に係るゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、例えば、空気入りタイヤのインナーライナー部にも好適に用いることができる。
【0018】
以下、動的粘弾性試験における高温(例えば60℃)での損失係数(tanδ)が小さく、低温(例えば0℃)での損失係数(tanδ)が大きいことを、「動的粘弾特性に優れる」という。また、「動的粘弾特性に一層優れる」とは、高温での損失係数がより小さいこと及び/又は低温での損失係数がより大きいことをいう。
【0019】
本発明において、上記イソブチレン系重合体は、上記式(2)で表される構造単位として、下記式(3)で表される構造単位及び/又は下記式(4)で表される構造単位を有していてもよい。
【化2】


[式中、nは0又は1を示す。]
【0020】
式(3)で表される構造単位及び/又は式(4)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体は、ゴム成分との架橋性に優れる。また、該イソブチレン系重合体によれば、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0021】
また上記イソブチレン系重合体は、上記式(2)で表される構造単位として、下記式(5)で表される構造単位及び/又は下記式(6)で表される構造単位を有していてもよい。
【化3】


[式中、nは0又は1を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を示し、R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0022】
式(5)で表される構造単位及び/又は式(6)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体は、ゴム成分との架橋性に優れる。また、該イソブチレン系重合体によれば、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0023】
本発明において、上記イソブチレン系重合体は、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤及び非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと下記式(7)で表されるビニルエーテル化合物とを共重合して得られる重合体であってもよい。
CH=CH−O−(X)―Y (7)
[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【0024】
そして、上記共重合においては、上記反応液に添加されるルイス酸触媒の総モル数、プロトン系錯化剤の総モル数及び非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、上記共重合に供されるビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)が1〜10、A/Bが5〜400、B/Bが0〜50であることが好ましい。
【0025】
このようにして得られたイソブチレン系重合体は、分子量が1000以下である低分子量体の含有量が5質量%以下であるとともに、架橋ゴム組成物の動的粘弾性及び耐磨耗性を一層向上させるという優れた効果を奏する。
【0026】
本発明において、上記ゴム成分が、天然ゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソプレンゴム、ハロゲン化イソブチレンコポリマー、クロロプレンゴム、ブチルゴム及びハロゲン化イソブチレン−p−メチルスチレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することができる。このようなゴム成分を含有するゴム組成物においては、イソブチレン系重合体による動的粘弾特性及び耐磨耗性の向上効果が一層顕著に奏される。
【0027】
本発明において、上記イソブチレン系重合体の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.5〜70質量部とすることができる。このようなゴム組成物によれば、動的粘弾性、耐摩耗性、水蒸気バリア性及び酸素バリア性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0028】
本発明において、上記ゴム成分は、実質的にスチレン−ブタジエンゴムであってもよい。このようなゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れており、空気入りタイヤのトレッド部に一層好適に用いることができる。なお、「実質的にスチレン−ブタジエンゴムである」とは、ゴム成分の全量基準で95質量%以上がスチレン−ブタジエンゴムであることを示す。
【0029】
本発明のゴム組成物は、架橋剤をさらに含有していてもよい。ゴム成分とイソブチレン系重合体との架橋方法は特に制限されないが、ゴム組成物が架橋剤を含有していると、当該架橋剤により容易にゴム成分とイソブチレン系重合体とを架橋することができる。
【0030】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて得られる架橋ゴム組成物であって、上記ゴム成分と上記イソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する、架橋ゴム組成物を提供する。
【0031】
このような架橋ゴム組成物は、動的粘弾特性、耐磨耗性、水蒸気バリア性及び酸素バリア性に優れることから、タイヤ用のゴム材料として有用である。また、本発明に係る架橋ゴム組成物は、タイヤ用途のみならず、工業用ベルト、工業用ゴムホース等の工業用ゴム部材用途等としても好適に用いることができる。
【0032】
本発明はまた、トレッド部に上記架橋ゴム組成物を含有する、空気入りタイヤを提供する。このような空気入りタイヤは、上記架橋ゴム組成物が動的粘弾特性及び耐磨耗性に優れることから、転がり抵抗特性、ブレーキ制動性及び耐磨耗性に優れる。
【0033】
本発明はさらに、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体の製造方法を提供する。
【化4】


[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【0034】
本発明に係るイソブチレン系重合体の製造方法は、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤及び非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと下記式(7):
CH=CH−O−(X)―Y (7)
[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
で表されるビニルエーテル化合物とを共重合する工程を備える。
【0035】
また、本発明に係るイソブチレン系重合体の製造方法において、上記反応液に添加されるルイス酸触媒の総モル数、プロトン系錯化剤の総モル数及び非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、上記共重合に供されるビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)は1〜10、A/Bは5〜400、B/Bは0〜50である。
【0036】
このような製造方法によれば、分子量が1000以下の低分子量体の含有量が5質量%以下であるイソブチレン系重合体が得られる。また、このような製造方法によって得られるイソブチレン系重合体によれば、架橋ゴム組成物の動的粘弾特性及び耐磨耗性を一層向上させることができる。
【0037】
本発明に係るイソブチレン系重合体の製造方法において、上記ルイス酸触媒は、ハロゲン化ホウ素化合物、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化スズ化合物、ハロゲン化アルミニウム化合物、ハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化タングステン化合物、ハロゲン化モリブデン化合物、ハロゲン化タンタル化合物及び金属アルコキシドからなる群より選択することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、タイヤ用のゴム材料として有用な架橋ゴム組成物及び該架橋ゴム組成物を得るためのゴム組成物が提供される。また、本発明によれば、該架橋ゴム組成物を含む部位を備える空気入りタイヤが提供される。さらに、本発明によれば、上記ゴム組成物に好適に用いられるイソブチレン系重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0040】
近年、自動車分野においては、低燃費化や走行安定性といった課題に加え、湿潤路面、雪上、氷結路面等におけるブレーキ制動性が重要な課題となっている。そして、それに伴い、タイヤ用のゴム材料に対する要求は一段と厳しいものになっている。
【0041】
タイヤ用、特にタイヤのトレッド部に用いるゴム材料に対する基本的な要求特性としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)屈曲や伸長などの繰返し応力に対する耐破壊性及び耐摩耗性に優れること。
(2)転動抵抗が小さいこと(転がり抵抗特性が良好であること)。
(3)湿潤路面におけるブレーキ制動性(ウェットグリップ性)に優れること。
【0042】
(2)に関して、ゴム材料の動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、60℃付近で測定される損失係数(tanδ)が小さいほど転動抵抗に優れることが知られている。一方、(3)に関しては、ゴム材料の動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、0℃付近で測定される損失係数(tanδ)が大きいほどブレーキ制動性に優れることが知られている。
【0043】
これらの性能のうち、(2)と(3)は、いずれもゴム材料のヒステリシスロスに関する特性である。一般に、ヒステリシスロスを大きくすると、グリップ力は高くなり制動性能が向上するが、転動抵抗(転がり抵抗)も大きくなり燃費の増大をもたらす。このように、グリップ性能と転がり抵抗特性は相反する関係にあるため、(2)及び(3)の両特性を同時に満足することは難しい。実際、従来のゴム材料では、この両特性を同時に満足することが困難であり、仮に両特性が良好になったとしても耐摩耗性が低下する場合があった。
【0044】
本発明者らは、環内又は環外に不飽和結合を有する脂環基を有するイソブチレン系重合体を用いた場合に、動的粘弾特性及び耐磨耗性に優れる架橋ゴム組成物が得られ、当該架橋ゴム組成物をトレッド部に用いた場合に、良好な転がり抵抗特性とブレーキ制動性(ウェットグリップ性)とが両立され、且つ耐磨耗性にも優れるタイヤが得られることを見出した。そして本発明者らはさらに、イソブチレン系重合体のうち分子量が1000以下である低分子量体の含有量を制御することで、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られることを見出した。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物は、オレフィン性二重結合を有するゴム成分と、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体と、を含有する。そして本実施形態において、イソブチレン系重合体のうち分子量が1000以下である低分子量体の含有量は、イソブチレン系重合体の総量基準で5質量%以下である。
【0046】
【化5】


[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【0047】
このようなゴム組成物によれば、ゴム成分とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する架橋ゴム組成物を得ることができ、当該架橋ゴム組成物は、動的粘弾性試験における高温(例えば60℃)での損失係数(tanδ)が小さく、低温(例えば0℃)での損失係数(tanδ)が大きいものとなる。また、この架橋ゴム組成物は、耐摩耗性にも優れる。
【0048】
このようなゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物を空気入りタイヤのトレッド部に用いた場合には、従来相反する関係であった優れた転がり抵抗特性とブレーキ制動性(ウェットグリップ性)の両特性を備え、且つ優れた耐磨耗性を有する空気入りタイヤを得ることができる。
【0049】
さらに上記架橋ゴム組成物は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性も良好であるため、例えば空気入りタイヤのインナーライナー部にも好適に用いることができる。
【0050】
本実施形態に係るゴム組成物により上記のような優れた効果を有する架橋ゴム組成物が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、ゴム成分のオレフィン性二重結合とイソブチレン系重合体の不飽和結合とが架橋することにより、イソブチレン系重合体由来の構造が強固な化学結合でゴム成分に結合されるためと考えられる。
【0051】
なお、上述のとおり、転がり抵抗特性は、架橋ゴム組成物の動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、60℃付近で測定される損失係数(tanδ)により示され、当該損失係数が小さいほど転がり抵抗特性は良好となる。また、ブレーキ制動性(ウェットグリップ性)は、架橋ゴム組成物の動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、0℃付近で測定される損失係数(tanδ)により示され、当該損失係数が大きいほどブレーキ制動性は良好となる。したがって、「転がり抵抗特性に優れる」とは、架橋ゴム組成物の、動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、60℃付近で測定される損失係数(tanδ)が小さいことを意味し、「ブレーキ制動性(ウェットグリップ性)に優れる」とは、架橋ゴム組成物の、動的粘弾性試験により周波数10〜100Hz、0℃付近で測定される損失係数(tanδ)が大きいことを意味する。
【0052】
以下、ゴム組成物に含まれるゴム成分、イソブチレン系重合体及びその他の成分について詳述する。
【0053】
(ゴム成分)
ゴム成分は、オレフィン性二重結合を有するものであれば特に制限はなく、天然ゴム、合成ゴム及びこれらの混合物のいずれであっても良い。ゴム成分としては、架橋によってもゴム物性を維持するものが好ましい。また、ゴム成分としては、架橋により力学物性(機械物性)が増大するものが好ましい。
【0054】
本実施形態において、ゴム成分は、天然ゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソプレンゴム、ハロゲン化イソブチレンコポリマー、クロロプレンゴム、ブチルゴム及びハロゲン化イソブチレン−p−メチルスチレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。このようなゴム成分を含有するゴム組成物においては、イソブチレン系重合体による動的粘弾特性及び耐磨耗性の向上効果が一層顕著に奏される。また、このようなゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性にも一層優れる。
【0055】
ゴム成分としては、入手が容易であるという観点からは、ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマーをモノマー単位として含むものが好適に用いられる。このようなゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ゴム成分がスチレン−ブタジエンゴムを含有すると、架橋ゴム組成物の動的粘弾特性及び耐磨耗性が一層向上する傾向にある。このとき、スチレン−ブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分の全量基準で、90質量%以上とすることが好ましく、95質量%以上とすることがより好ましい。このようなゴム成分としては、スチレン−ブタジエンゴム単独、あるいは、スチレン−ブタジエンゴムに、天然ゴム、イソプレンゴム及びブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種を混合したものが好適に用いられる。そして、このようなゴム成分を含有するゴム組成物によれば、空気入りタイヤのトレッド部に用いるゴム材料として特に好適な架橋ゴム組成物が得られ、当該架橋ゴム組成物によれば、転がり抵抗特性、耐磨耗性及びブレーキ制動性に一層優れる空気入りタイヤが得られる。
【0057】
また、ゴム成分がブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムから選ばれる少なくとも1種のブチルゴム系ゴム成分を含有すると、架橋ゴム組成物の水蒸気バリア性及び酸素バリア性が一層向上する。このとき、ブチルゴム系ゴム成分の含有量は、ゴム成分の全量基準で、10〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましい。このようなゴム成分を含有するゴム組成物によれば、空気入りタイヤのインナーライナー部に用いるゴム材料として特に好適な架橋ゴム組成物が得られ、当該架橋ゴム組成物によれば、空気もれが十分に低減された空気入りタイヤが得られる。
【0058】
ゴム成分の重量平均分子量は、イソブチレン系重合体の重量平均分子量よりも大きいことが好ましく、例えば500000を超え2000000以下の範囲内とすることができる。
【0059】
ゴム組成物中のゴム成分の含有量は、ゴム組成物中の固形分全量基準で、20〜90質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましい。また、20〜80質量%とすることもでき、30〜70質量%とすることもできる。このようなゴム組成物によれば、上記架橋ゴム組成物が効率よく得られるとともに、得られた架橋ゴム組成物の耐磨耗性が一層優れたものとなる。
【0060】
(イソブチレン系重合体)
イソブチレン系重合体は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有する重合体である。なお、本明細書中、「重合体」は、共重合体を包含する用語として用いられる。
【0061】
【化6】

【0062】
イソブチレン系重合体は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を含有するものであるため、十分な架橋性を有する。したがって、イソブチレン系重合体によれば、ゴム成分に容易且つ確実にポリイソブチレン骨格を導入することができる。
【0063】
式(2)中、Xで示される2価の基は、同式中のエーテル酸素(O)とYとの連結基としての機能を担うものである。Xで示される2価の基としては、アルキレン基、アルキレンオキシ基又はアルキレンオキシアルキレン基が好ましい。また、nは0又は1を示す。ここでnが0とは、エーテル酸素(O)とYとが直接結合した構造を意味する。
【0064】
式(2)中のYは、環内又は環外に不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示す。脂環基は、不飽和結合を有するものであれば、単環式、縮合多環式又は架橋多環式のいずれであってもよい。なお、イソブチレン系重合体は、その主鎖中に不飽和結合を実質的に有さないことが好ましいが、一方、側鎖においては、脂環基の環内の不飽和結合以外に、不飽和結合をさらに有していてもよい。なお、不飽和結合は、オレフィン性二重結合ということもできる。
【0065】
環内に不飽和結合を有する脂環基としては、例えば、ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基、テトラシクロデセニル基、テトラシクロドデセニル基、ペンタシクロペンタデセニル基等が挙げられ、単環式の脂環基としては、シクロへキセニル基、シクロオクテニル基、シクロドデセニル基等が挙げられる。これらは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合(オレフィン性二重結合)を有する脂環基である。本実施形態においては、このような脂環基のうち、極性基を含まない、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成される脂環基が好ましい。
【0066】
脂環基の炭素数は、6〜15が好ましく、7〜10がより好ましい。脂環基の炭素数が6未満であると、環状の基の形成が困難となる傾向にあり、また、15を超えると原料自体の入手が困難となる傾向にある。
【0067】
環内に不飽和結合を有する脂環基の好適な例としては、ジシクロペンタジエニル、メチルジシクロペンタジエニル、ジヒドロジシクロペンタジエニル(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エニルとも言う。)などのジシクロペンタジエニル系脂環基;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニル、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エニルなどのテトラシクロドデセニル系脂環基;
2−ノルボルネニル、5−メチル−2−ノルボルネニル、5−エチル−2−ノルボルネニル、5−ブチル−2−ノルボルネニル、5−ヘキシル−2−ノルボルネニル、5−デシル−2−ノルボルネニル、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネニル、5−シクロペンチル−2−ノルボルネニル、5−エチリデン−2−ノルボルネニル、5−ビニル−2−ノルボルネニル、5−プロペニル−2−ノルボルネニル、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネニル、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネニル、5−フェニル−2−ノルボルネニル、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエニル(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレニルとも言う。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエニル(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセニルとも言う。)などのノルボルネニル系脂環基;
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエニル、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエニル、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エニルなどの五環体以上の環状オレフィン系脂環基;等が挙げられる。
【0068】
また、環外に不飽和結合を有する脂環基としては、例えば、シクロブタン骨格、シクロペンタン骨格、シクロヘキサン骨格、シクロヘプタン骨格、シクロオクタン骨格、ノルボルナン骨格、トリシクロデカン骨格、テトラシクロドデカン骨格等の環構造を有する基が挙げられる。ここで「環外に不飽和結合を有する」とは、不飽和結合を構成する2つの炭素原子のうち、少なくとも一方が、環構造を構成する炭素原子以外の炭素原子であることを意味する。
【0069】
環外に不飽和結合を有する脂環基としては、例えば、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、ビニルノルボルネン、エチリデンシクロブタン、ビニルトリシクロデカン、ビニルテトラシクロドデカン、エチリデンシクロヘキサン、エチリデンシクロオクタン、エチリデンノルボルネン、エチリデントリシクロデカン、エチリデンテトラシクロドデカン、イソプロピリデンシクロブタン、イソプロピリデンシクロペンタン、イソプロピリデンシクロヘキサン、イソプロピリデンシクロヘプタン、イソプロピリデンシクロオクタン、イソプロピリデンノルボルネン、イソプロピリデントリシクロデカン、イソプロピリデンテトラシクロドデカン、シクロペンチリデンシクロペンタン、シクロペンチリデンシクロヘキサン、シクロペンチリデンシクロヘプタン、シクロペンチリデンシクロオクタン、シクロペンチリデンノルボルネン、シクロペンチリデントリシクロデカン及びシクロペンチリデンテトラシクロドデカンからなる群より選ばれる環状化合物から、1個の水素原子を除いてなる基が挙げられる。
【0070】
また、環外に不飽和結合を有する脂環基としては、下記式(8)で表される基が挙げられる。このような脂環基を有するイソブチレン系重合体は、ゴム成分との架橋性に一層優れるため、より短時間で十分に架橋された架橋ゴム組成物が得られる。
【0071】
【化7】

【0072】
式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を示し、R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0073】
なお、「置換又は未置換」とは、上記脂環基が、置換基を有していてもよいことを示す。該置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、ビニル基、アリル基、アリール基等が挙げられる。なお、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0074】
本実施形態においてイソブチレン系重合体は、式(2)で表される構造単位として、下記式(3)で表される構造単位及び/又は下記式(4)で表される構造単位を有していることが特に好ましい。
【0075】
【化8】

【0076】
式中、nは0又は1を示す。
【0077】
式(3)で表される構造単位及び/又は式(4)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体は、ゴム成分との架橋性に特に優れる。そして、該イソブチレン系重合体によれば、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0078】
また本実施形態においては、イソブチレン系重合体が、式(2)で表される構造単位として、下記式(5)で表される構造単位及び/又は下記式(6)で表される構造単位を有していてもよい。
【0079】
【化9】

【0080】
式中、nは0又は1を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を示し、R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0081】
式(5)で表される構造単位及び/又は式(6)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体は、ゴム成分との架橋性に特に優れる。そして、該イソブチレン系重合体によれば、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0082】
イソブチレン系重合体において、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位との共重合比は特に制限されないが、モル比で、両者の合計量を基準として、式(2)で表される構造単位が0.1〜99モル%であることが好ましく、1〜90モル%であることがより好ましく、2〜80モル%であることがさらに好ましい。なお、ここでいう共重合比とは、1分子当たりの共重合比の平均値であり、H−NMR及び/又は13C−NMR(500MHz)法により各構造に帰属するプロトンの共鳴信号の強度を測定、比較することにより求めることができる。
【0083】
イソブチレン系重合体において、上記式(1)で表される構造単位と上記式(2)で表される構造単位との重合形態は、ブロック共重合又はランダム共重合のいずれであってもよい。なお、従来のイソブチレン系重合体の場合、反応性の異なるモノマーをランダム共重合させることは困難であったが、本発明においては、上記式(1)で表される構造単位と上記式(2)で表される構造単位との組合せを採用しているため、ランダム共重合体であっても有効に得ることができる。
【0084】
イソブチレン系重合体の重量平均分子量は、2000〜500000であることが好ましく、5000〜300000であることがより好ましく、10000〜200000であることがさらに好ましい。ここで重量平均分子量は、GPC法により測定される重量平均分子量(Mw)を意味する。イソブチレン系重合体の重量平均分子量が上記上限値より大きい場合、得られるゴム組成物及び架橋ゴム組成物の加工性が劣る場合があり、極端に重量平均分子量が低い場合には、得られるゴム組成物及び架橋ゴム組成物の加工性は良好となるものの、ゴム成分との共架橋性が低下し、架橋ゴム組成物の力学物性が低下してしまう場合がある。
【0085】
本実施形態において、イソブチレン系重合体のうち、分子量が1000以下である低分子量体の含有量は、イソブチレン系重合体の全量基準で5質量%以下であり、4.5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。このように低分子量体の含有量を制御することで、動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られる。
【0086】
ここで低分子量体の含有量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)による分子量分布測定結果から求められる。具体的には、RI検出器(Refractive Index Detector:示差屈折率検出器)で測定した「溶出時間(保持時間)−出力(溶出量)」のプロットを、予め標準物質(ポリスチレン)で測定した検量線(較正曲線)を用いて「分子量−出力」のプロットに変換することによって分子量分布曲線が得られ、それぞれの分子量成分の濃度分率を積算していき、「分子量−重量分率」プロットが得られる。このようにして、分子量1000以下の低分子量体の割合(質量%)を求めることができる。
【0087】
ゴム組成物中のイソブチレン系重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5〜70質量部であることが好ましく、1〜60質量部であることがより好ましい。また、3〜30質量部とすることもできる。このようなゴム組成物によれば、動的粘弾特性、耐磨耗性、水蒸気バリア性及び酸素バリア性に一層優れる架橋ゴム組成物を得ることができる。
【0088】
イソブチレン系重合体の製造方法は、特に制限されないが、例えば、ルイス酸触媒の存在下、イソブチレン及び下記式(7)で表されるビニルエーテル化合物を含有するカチオン重合性モノマーを重合させる方法が好適である。なお、式中、X、n及びYはそれぞれ式(2)におけるX、n及びYと同義である。
CH=CH−O−(X)―Y (7)
【0089】
上述のように、本発明者らはイソブチレン系重合体の低分子量体の含有量を制御することで動的粘弾特性及び耐磨耗性に一層優れる架橋ゴム組成物が得られることを見出したが、本発明者らはさらに、特定の製造方法によって得られるイソブチレン系重合体を用いることで、架橋ゴム組成物の動的粘弾特性及び耐磨耗性にさらに優れる架橋ゴム組成物が得られることを見出している。
【0090】
すなわち、イソブチレン系重合体は、ルイス酸触媒及びプロトン系錯化剤が添加され、場合によりさらに非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと式(7)で表されるビニルエーテル化合物とを共重合して得られる重合体であることが好ましい。
【0091】
そして、上記共重合においては、上記反応液に添加されるルイス酸触媒の総モル数、プロトン系錯化剤の総モル数及び非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、上記共重合に供されるビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)が1〜10、A/Bが5〜400、B/Bが0〜50であることが好ましい。
【0092】
このようにして得られたイソブチレン系重合体は、分子量が1000以下である低分子量体の含有量が5質量%以下であるとともに、架橋ゴム組成物の動的粘弾性及び耐磨耗性を一層向上させるという優れた効果を奏する。
【0093】
以下、このようなイソブチレン系重合体の製造方法の一実施形態について詳述する。
【0094】
(イソブチレン系重合体の製造方法)
本実施形態に係る製造方法は、ルイス酸触媒及びプロトン系錯化剤が添加され、場合によりさらに非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと式(7)で表されるビニルエーテル化合物とを共重合する工程を備える。
【0095】
そして、本実施形態において、上記反応液に添加されるルイス酸触媒の総モル数、プロトン系錯化剤の総モル数及び非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、上記共重合に供されるビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)は1〜10であり、A/Bは5〜400であり、B/Bは0〜50である。
【0096】
ルイス酸触媒は、例えば、ハロゲン化ホウ素化合物、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化スズ化合物、ハロゲン化アルミニウム化合物、ハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化タングステン化合物、ハロゲン化モリブデン化合物、ハロゲン化タンタル化合物及び金属アルコキシドからなる群より選択することができる。
【0097】
より具体的には、ルイス酸触媒としては、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素等のハロゲン化ホウ素化合物;四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等のハロゲン化チタン化合物;四塩化スズ、四臭化スズ、四ヨウ化スズ等のハロゲン化スズ化合物;三塩化アルミニウム、アルキルジクロロアルミニウム、ジアルキルクロロアルミニウム等のハロゲン化アルミニウム化合物;五塩化アンチモン、五フッ化アンチモン等のハロゲン化アンチモン化合物;五塩化タングステン等のハロゲン化タングステン化合物;五塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン化合物;五塩化タンタル等のハロゲン化タンタル化合物;テトラアルコキシチタン等の金属アルコキシド;などが挙げられる。
【0098】
ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体のように、錯化剤と錯形成したルイス酸触媒を用いることができる。このようなルイス酸触媒を用いる場合、プロトン系錯化剤又は非プロトン系錯化剤の総モル数には、ルイス酸触媒と錯形成した錯化剤のモル数も含まれる。
【0099】
錯化剤は、ルイス酸触媒の中心金属に配位して錯形成をし得る化合物であり、このような錯化剤のうち、プロトン供与性を有する錯化剤をプロトン系錯化剤といい、プロトン供与性を有さない錯化剤を非プロトン系錯化剤という。ここで、「プロトン供与性を有する」とは、「共重合反応の開始剤として作用し得る」と言い換えることもできる。
【0100】
錯化剤としては、水、アルコール類、エーテル類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、エステル類、有機酸類、酸無水物等の含酸素化合物;第一級アミン類、第二級アミン類、第三級アミン類等の含窒素化合物;チオール類、チオエーテル類等の含硫黄化合物;トリフェニルホスフィン等の含リン化合物;無機酸等の無機化合物;などが挙げられ、それぞれプロトン系錯化剤又は非プロトン系錯化剤として用いることができる。
【0101】
プロトン系錯化剤としては、水、アルコール類、フェノール類、有機酸類、第一級アミン類、第二級アミン類、チオール類等を好適に用いることができ、これらのうちアルコール類、フェノール類が好ましい。
【0102】
アルコール類としては、炭素数1〜20のアルコール類が好ましく、炭素数1〜10のアルコール類がより好ましい。より具体的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等が挙げられ、これらのうちメタノール、エタノール、tert−ブチルアルコールが好ましい。
【0103】
フェノール類としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられ、これらのうちフェノールが好ましい。
【0104】
非プロトン系錯化剤としては、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類、エステル類、第三級アミン類、チオエーテル類等を好適に用いることができ、これらのうちエーテル類、エステル類が好ましい。
【0105】
エーテル類としては、ジアルキルエーテルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜20のジアルキルエーテルがより好ましく、アルキル基の炭素数が1〜10のジアルキルエーテルがさらに好ましい。
【0106】
エステル類としては、炭素数1〜6の脂肪族アルコールと炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸とによってエステル結合を形成したものが好ましい。より具体的には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、ヘキサン酸エチル等が挙げられ、これらのうち酢酸エチルが好ましい。
【0107】
反応液に添加されるルイス酸触媒の総モル数A、反応液に添加されるプロトン系錯化剤の総モル数B、反応液に添加される非プロトン系錯化剤の総モル数B、共重合に供されるイソブチレンの総モル数C、及び、共重合に供される式(7)で表されるビニルエーテル化合物の総モル数Dの関係は、以下のとおりである。
【0108】
ルイス酸触媒の総モル数Aとプロトン系錯化剤の総モル数Bとの比A/Bは、5〜400である。イソブチレン系重合体の製造に際しては、ルイス酸触媒に対してプロトン系錯化剤を等モル以上使用する(比A/Bが1以下である)ことが通常であったのに対して、本実施形態においては、プロトン系錯化剤の使用量をルイス酸触媒の使用量より少なくしている。本実施形態においては、比A/Bを上記範囲とすることで、低分子量体の含有割合が少ないイソブチレン系重合体を得ることができ、さらには架橋ゴム組成物における動的粘弾特性及び耐磨耗性の向上効果に優れるイソブチレン系重合体を得ることができる。
【0109】
なお、イソブチレンのようなカチオン重合性モノマーの重合に際しては、プロトン系錯化剤は重合開始剤として働き、これが多いほど活性(モノマー転化率)が高くなると考えられる。そのため、従来の製造方法では、モノマー転化率を高くするため、比A/Bを小さく(例えば1以下)していると考えられる。
【0110】
比A/Bは、5〜400であることが好ましく、10〜300であることがより好ましい。比A/Bが上記範囲であると、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0111】
非プロトン系錯化剤の総モル数Bとプロトン系錯化剤の総モル数Bとの比B/Bは、0〜50である。ここで、比B/Bが0とは、上記反応液に非プロトン系錯化剤を添加しないことを示す。
【0112】
比B/Bは、0〜50であることが好ましく、0〜30であることがより好ましい。本実施形態においては、比B/Bを上記範囲とすることで、低分子量体の含有割合一層低減できるとともに、重量平均分子量の大きいイソブチレン系重合体が得られる。この理由は必ずしも明らかではないが、非プロトン系錯化剤により、連鎖移動反応等の副反応が抑制されたことが一因と考えられる。
【0113】
ルイス酸触媒の総モル数Aと、プロトン系錯化剤、非プロトン系錯化剤及びビニルエーテル化合物の総モル量(B+B+D)との比A/(B+B+D)は、1〜10である。本実施形態においては、ルイス酸触媒に対するプロトン系錯化剤の量のみならず、プロトン系錯化剤、非プロトン系錯化剤及びビニルエーテル化合物の合計量に対するルイス酸触媒の量を規定している。これにより、低分子量の含有割合が一層少ないイソブチレン系重合体を得ることができ、さらには架橋ゴム組成物における動的粘弾特性及び耐磨耗性の向上効果に一層優れるイソブチレン系重合体を得ることができる。
【0114】
比A/(B+B+D)は、1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。比A/(B+B+D)が上記範囲であると、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0115】
イソブチレンの総モル数Cとビニルエーテル化合物の総モル数Dとの比C/Dは、0.5〜1000とすることができ、2〜200とすることが好ましい。このような製造方法によれば、好適な共重合比のイソブチレン系重合体が得られ、当該イソブチレン系重合体によれば、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0116】
上記反応液は、溶媒を含有することが好ましい。当該溶媒は、ハロゲン化炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。溶媒は、一種を単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0117】
ハロゲン化炭化水素としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、1−クロロプロパン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルブタン、1−クロロ−3−メチルブタン、1−クロロ−2,2−ジメチルブタン、1−クロロ−3,3−ジメチルブタン、1−クロロ−2,3−ジメチルブタン、1−クロロペンタン、1−クロロ−2−メチルペンタン、1−クロロ−3−メチルペンタン、1−クロロ−4−メチルペンタン、1−クロロヘキサン、1−クロロ−2−メチルヘキサン、1−クロロ−3−メチルヘキサン、1−クロロ−4−メチルヘキサン、1−クロロ−5−メチルヘキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、2−クロロプロパン、2−クロロブタン、2−クロロペンタン、2−クロロヘキサン、2−クロロヘプタン、2−クロロオクタン、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0118】
脂肪族炭化水素としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが好ましい。また、芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましい。
【0119】
上記溶媒は、得られるイソブチレン系重合体の溶解度、溶液の粘度、除熱の容易さ等を考慮して、共重合後にイソブチレン系重合体の濃度が0.1〜80質量%となるような量を使用することが好ましい。また、生産効率及び操作性を向上させる観点からは、共重合後にイソブチレン系重合体の濃度が1〜50質量%となるような量を使用することが好ましい。
【0120】
また、重合時のモノマー濃度は、0.1〜8モル/リットル程度が好ましく、0.5〜5モル/リットル程度がより好ましい。また、重合時の溶媒の使用量は、使用するモノマーに対してモル比で0.5〜100倍量であることが、適当な粘度、発熱のコントロールの点で好ましい。
【0121】
上記共重合は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。共重合時の圧力については、モノマーの種類、溶媒の種類、重合温度等を考慮して、常圧、加圧等の任意の条件を採用することができる。また、重合系が均一になるように十分な攪拌条件下に共重合を行うことが好ましい。
【0122】
上記共重合は、例えば、1つの反応容器に溶媒、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤、非プロトン系錯化剤、イソブチレン、式(7)で表されるビニルエーテル化合物等を順次仕込んでいくバッチ式又は半バッチ式で行うことができる。また、上記共重合は、溶媒、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤、非プロトン系錯化剤、イソブチレン、式(7)で表されるビニルエーテル化合物等をある系内に連続的に仕込みながら反応させる連続法でもよい。なお、連続法の場合、各成分が上記比の関係を満たす比率で系内に連続的に供給される。
【0123】
上記共重合における温度条件は、−100〜+50℃程度が好ましく、−40〜+10℃程度がより好ましい。また、共重合の反応時間は、通常10分〜4時間程度であり、好ましくは30分〜2時間程度である。
【0124】
上記共重合で用いられる反応器の形態は、特に限定されないが、攪拌槽型反応器が好ましい。その構造は、特に制限を受けるものではないが、たとえばジャケット部での冷却が可能な構造を有し、モノマー、逐次的に供給されるルイス酸触媒、錯化剤を均一に混合・反応させることのできる構造であることが好ましい。内部冷却コイルやリフラックスコンデンサー等の付帯設備を設けて冷却能力を向上させたり、邪魔板を設けて混合状態を良好にできる構造であっても良い。攪拌槽型反応器に用いられる攪拌翼としては、特に制限を受けるものではないが、反応液の上下方向の循環、混合性能が高いものが好ましく、重合・反応液粘度が数センチポイズ程度の比較的低粘度領域においては(多段)傾斜パドル翼、タービン翼などの攪拌翼、数10センチポイズから数100ポイズの中粘性領域ではマックスブレンド翼、フルゾーン翼、サンメラー翼、Hi−Fミキサー翼、特開平10−24230に記載されているものなど大型のボトムパドルを有する大型翼、数100ポイズ以上の高粘性領域では、アンカー翼、(ダブル)ヘリカルリボン翼、ログボーン翼などが好適に使用される。
【0125】
以下に、イソブチレン系重合体の製造方法の一態様を示す。
【0126】
本態様においては、反応器に、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤、非プロトン系錯化剤、イソブチレン及びビニルエーテル化合物を連続的に供給して、イソブチレンとビニルエーテル化合物との共重合を行う。
【0127】
本態様においては、各成分の供給量を調整することにより、上記比A/(B+B+D)、比A/B及び比B/Bをそれぞれ上記範囲とする。すなわち、ルイス酸触媒の供給量をa(mol/h)、プロトン系錯化剤の供給量をb(mol/h)、非プロトン系錯化剤の供給量をb(mol/h)、イソブチレンの供給量をc(mol/h)、ビニルエーテル化合物の供給量をd(mol/h)としたとき、a/(b+b+d)が1〜10、a/bが5〜400、b/bが0〜50となるように、上記各成分を反応器に供給する。
【0128】
反応器への各成分の供給方法は特に制限されず、例えば、本態様の製造方法は、イソブチレン、ビニルエーテル化合物及び溶媒を含む第一供給液と、プロトン系錯化剤及び非プロトン系錯化剤を含む第二供給液と、ルイス酸触媒を含む第三供給液と、を反応器へ供給することにより行うことができる。また、ルイス酸触媒が気体状である場合には、ルイス酸触媒を含むガスを反応器へ供給してもよい。
【0129】
反応液に供給された各成分は、所定の反応条件を経て、反応器外へ連続的に排出される。反応器から排出された反応液には、例えば水等を添加して、共重合反応を停止させることができる。
【0130】
以上、イソブチレン系重合体の製造方法の一実施形態について説明したが、ゴム組成物に含まれるイソブチレン系重合体は、必ずしも上記製造方法により製造されたものである必要はない。
【0131】
イソブチレン系重合体は、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位とのみからなるものであってもよいが、これら2つの構造単位とは異なる構造単位をさらに有していてもよい。たとえば、上記製造方法によって得られるイソブチレン系重合体に、引き続きイソブチレン以外のカチオン重合性モノマーを反応させて、ブロック共重合を形成してもよい。ブロック共重合体を製造する場合は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有するブロックと、芳香族ビニル化合物を主成分とするブロック(すなわち芳香族ビニル化合物を50質量%以上含有するブロック)と、を有するものであることが好ましい。ここで芳香族ビニル化合物としては、スチレンが好ましい。
【0132】
(その他の成分)
ゴム組成物は、ゴム工業の分野で使用される種々の補強剤、充填剤、ゴム伸展油、軟化剤等をさらに含有してもよい。
【0133】
補強剤としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。
【0134】
カーボンブラックは、耐磨耗性の向上、転がり抵抗特性の向上、紫外線による亀裂やひび割れの防止(紫外線劣化防止)等の効果が得られる観点から、補強剤として好適に用いられる。カーボンブラックの種類は特に限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラック、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等のカーボンブラックを使用することができる。また、カーボンブラックの粒径、細孔容積、比表面積等の物理的特性についても特に限定されるものではなく、従来ゴム工業で使用されている各種のカーボンブラック、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF(いずれも、米国のASTM規格D−1765−82aで分類されたカーボンブラックの略称)等を適宜使用することができる。カーボンブラックを用いる場合、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜80質量部であることが好ましく、10〜60質量部であることがより好ましい。また、30〜80質量部とすることもでき、40〜60質量部とすることもできる。このような配合量であると、本実施形態に係るゴム組成物及び架橋ゴム組成物において、補強剤としての効果を良好に得ることができる。
【0135】
シリカとしては、従来よりゴム用補強剤として使用されているものを特に制限なく使用でき、例えば乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、合成ケイ酸塩系ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。シリカの比表面積は特に制限はないが、通常、40〜600m2/gの範囲、好ましくは70〜300m2/gのものを用いることができ、一次粒子径は10〜1000nmのものを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シリカの使用量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましく、30〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0136】
また、シリカを配合させる目的で、ゴム組成物にシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ−エトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。これらは単独でも用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シランカップリング剤の添加量は、所望するシリカの配合量によって適宜変更できるが、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0137】
充填剤としては、クレー、タルク等の鉱物の粉末類、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩類、水酸化アルミニウムなどのアルミナ水和物などを用いることができる。
【0138】
ゴム伸展油としては、従来から使用されているアロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルなどを用いることができる。ゴム伸展油の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0〜100質量部であることが好ましい。
【0139】
軟化剤としては、リノール酸、オレイン酸、アビチエン酸を主とするトール油、パインタール、菜種油、綿実油、落花生油、ひまし油、パーム油、フアクチス等の植物系軟化剤、パラフィン系油、ナフテン系油、芳香族系油、ジブチルフタレート等のフタル酸誘導体、等が挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0〜50質量部であることが好ましい。
【0140】
本実施形態に係るゴム組成物はまた、ゴム工業の分野で使用される種々の添加剤、例えば、老化防止剤、イオウ、架橋剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、しゃっ解剤、プロセス油、可塑剤等の1種又は2種以上を、必要に応じて含有していてもよい。これらの添加剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0141】
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分とイソブチレン系重合体とを架橋することで架橋ゴム組成物が得られる。ここで架橋方法は特に制限されないが、架橋剤により架橋することが好ましい。
【0142】
すなわち、本実施形態に係るゴム組成物は、架橋剤をさらに含有することが好ましい。架橋剤としては、ゴムの架橋に通常用いられるものを特に制限なく使用することができ、ゴム成分及びイソブチレン系重合体に応じて適宜選択することができる。架橋剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄架橋剤;シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジtert−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等の有機過酸化物架橋剤、等が挙げられる。これらの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜3質量部であることがより好ましく、1〜2質量部であることがさらに好ましい。
【0143】
また、本実施形態に係るゴム組成物は、必要に応じて、加硫促進剤や加硫助剤を含有していてもよい。加硫促進剤や加硫助剤としては特に限定されず、ゴム組成物が含有するゴム成分、イソブチレン系重合体、架橋剤に応じて、適宜選択して使用することができる。なお、「加硫」とは硫黄原子を少なくとも一つ介する架橋を示す。
【0144】
加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどのチウラム系促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィドなどのチアゾール系促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジンなどのグアニジン系促進剤;n−ブチルアルデヒド−アニリン縮合品、ブチルアルデヒド−モノブチルアミン縮合品などのアルデヒド−アミン系促進剤;ヘキサメチレンテトラミンなどのアルデヒド−アンモニア系促進剤;チオカルバニリドなどのチオ尿素系促進剤、などが挙げられる。これらの加硫促進剤を配合する場合は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0145】
加硫助剤としては酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛などの金属炭酸塩;ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪族金属塩;ジn−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどのアミン類;エチレンジメタクリレート、ジアリルフタレート、N,N−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられる。これらの加硫助剤を配合する場合は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。加硫助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0146】
本実施形態に係るゴム組成物は、一般にゴム組成物の製造方法として用いられる方法を適用することにより製造することができる。例えば、上述した各成分を、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ロールミキサー等の混練機を用いて混合すること等により製造できる。
【0147】
(架橋ゴム組成物)
本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、ゴム成分とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する。このような架橋ゴム組成物は、動的粘弾特性、耐磨耗性、水蒸気バリア性及び酸素バリア性に優れる。そのため、本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、タイヤ用ゴム材料として有用である。具体的には、例えば、本実施形態に係る架橋ゴム組成物を、タイヤのトレッド部に用いると、イソブチレン系重合体を配合しない場合と比較して、ブレーキ制動性(ウェットグリップ性)及び転がり抵抗特性が向上し、且つ耐磨耗性にも優れる。
【0148】
本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、上記ゴム組成物を用いて、通常ゴムの架橋方法として用いられる方法により製造することができる。例えば、上記ゴム組成物が架橋剤を含有する場合、上記ゴム組成物を加熱圧縮成形することにより、所望の形状に成形され、且つゴム成分とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する架橋ゴム組成物が得られる。
【0149】
本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、動的粘弾特性、耐磨耗性、水蒸気バリア性及び酸素バリア性に優れることから、これらの特性が要求される種々の用途に用いることができる。例えば、工業用ベルト、工業用ゴムホースなどの工業用ゴム部材用途として好適に使用することができる。また、ゴムベルト、ゴムホース、ゴムロール、もみすりロール、型加硫製品、防振ゴム、防げん材、エボナイト、ライニング、磁性ゴム、スポンジゴム、分出製品、押出製品、テープ製品、ゴム系接着剤、ゴムはきもの、ゴム引布、角糸ゴム、カットシート製品、消ゴム、医療用ゴム製品、電線、導電性ゴム、微孔ゴム隔離板、防毒マスク、水中運道具、ボーリングボール、おもちゃ、ボール類、ゴルフボール、ラテックス浸せき製品、ラテックスキャスト製品、ラテックスゴム糸、フォームラバー、ウレタンホーム、その他のラテックス製品、紙サイジング、カーペットバッキング、合成皮革、シーリング材、シート防水材(合成高分子ルーフィング)、塗膜防水材、ポリマーセメントモルタル(ラテックスセメントモルタル)、ゴムアスファルト、ラテックスペイント等の用途にも使用することができる。
【0150】
また、本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、タイヤ用途に特に好適に用いることができ、例えば、自動車タイヤ・チューブ、インナーライナー、ビードフィラー、プライ、ベルト、トレッドゴム、サイドゴム、各種封止材、シーラント、航空機用タイヤ・チューブ、自転車タイヤ・チューブ、ソリッドタイヤ、更正タイヤ等の用途に用いることができる。
【0151】
具体例を挙げると、本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、路面と接するトレッド部(及びトレッド部を含むキャップ部)を構成する材料として使用することができる。架橋ゴム組成物を用いてトレッド部が構成された空気入りタイヤは、ウェットグリップ性に優れるため、走行安定性及びブレーキ制動性に優れる。また、転がり抵抗特性に優れ、且つ転動抵抗が小さいため、低燃費化が実現できる。さらに、耐磨耗性に優れるため、長期の使用に耐えうるものとなる。
【0152】
また、本実施形態に係る架橋ゴム組成物は、インナーライナー部を構成する材料として使用することができる。架橋ゴム組成物を用いてインナーライナー部が構成された空気入りタイヤは、空気もれを十分に低減することができるため、空気もれに起因する転がり抵抗特性の悪化を十分に防止することができる。
【0153】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、例えば、トレッド部が路面と接するキャップ部とその内側のベース部とからなる2層以上の構造を有し、キャップ部の一部又は全部が上記架橋ゴム組成物で構成されている。このような空気入りタイヤは、従来公知のゴム組成物を用いた空気入りタイヤの製造方法に従って、適宜製造することができる。
【0154】
また、本実施形態に係る空気入りタイヤは、例えば、インナーライナー部の一部又は全部が上記架橋ゴム組成物で構成されている。このような空気入りタイヤは、従来公知のゴム組成物を用いた空気入りタイヤの製造方法に従って、適宜製造することができる。
【0155】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、空気入りタイヤに使用されるゴム材料(例えば上記ゴム成分として例示されるゴム)に、イソブチレン系重合体を配合し架橋することによりウェットグリップ性(又は転がり抵抗特性)を向上させる方法、すなわち、ゴム材料とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する架橋ゴム材料を用いてトレッド部を構成する、ウェットグリップ性(又は転がり抵抗特性)を向上させる方法であってもよい。この場合、従来のゴム材料の改良方法では、ウェットグリップ性の向上に伴って転がり抵抗特性及び/又は耐磨耗性が低下していたところ、本発明の方法によれば、ゴム材料が元来有する転がり抵抗特性及び耐磨耗性を維持しつつ、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0156】
また、本発明は、空気入りタイヤに使用されるゴム材料(例えば上記ゴム成分として例示されるゴム)に、イソブチレン系重合体を配合し架橋することにより水蒸気バリア性及び酸素バリア性を向上させる方法であってもよい。すなわち、ゴム材料とイソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する架橋ゴム材料を用いてインナーライナー部を構成する、タイヤの空気もれを改善する方法であってもよい。
【実施例】
【0157】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0158】
(実施例1)
撹拌翼を備えた容量1000mlのオートクレーブに、トリシクロデセンビニルエーテル(以下、場合により「VE」と表す。)、イソブチレン(以下、場合により「IB」と表す。)、イソブタン及び脱水トルエンを混合した混合溶液1と、脱水トルエン、プロトン系錯化剤としてのエタノール及び非プロトン系錯化剤としての酢酸エチルを混合した混合溶液2と、三フッ化ホウ素ガスとを、各成分の供給量が表1に記載のとおりとなるように連続的に供給し、表1に記載の反応温度で反応させ、反応混合物を連続的に排出した。
【0159】
7時間反応を行い、2時間分の反応混合物を採取して水で重合反応を終了させた。重合終了後、採取した反応混合物に水酸化カルシウムを添加し、触媒残さを脱灰した。次いで反応混合物をろ過し、得られたろ液を多量の水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで溶媒を減圧蒸留して、イソブチレン系重合体A−1を得た。
【0160】
なお、トリシクロデセンビニルエーテルとしては、下記式(7−a)で表される化合物及び下記式(7−b)で表される化合物の混合物を、国際公開2010/137655号の製造例1を参考に合成して用いた。
【0161】
【化10】

【0162】
(実施例2〜6)
各成分の供給量を表1に記載のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にしてイソブチレン系重合体A−2〜A−6を得た。
【0163】
(比較例1〜3及び5)
各成分の供給量を表2に記載のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にしてイソブチレン系重合体B−1〜B−3及びB−5を得た。
【0164】
(比較例4)
撹拌翼を備えた容量1000mlのオートクレーブに、トリシクロデセンビニルエーテル(VE)、イソブチレン(IB)、イソブタン及び脱水トルエンを混合した混合溶液1と三フッ化ホウ素メタノール錯体とを、各成分の供給量が表2に記載のとおりとなるように連続的に供給し、反応温度−20℃で反応させ、反応混合物を連続的に排出した。
【0165】
7時間反応を行い、2時間分の反応混合物を採取して水で重合反応を終了させた。重合終了後、採取した反応混合物に水酸化カルシウムを添加し、触媒残さを脱灰した。次いで反応混合物をろ過し、得られたろ液を多量の水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで溶媒を減圧蒸留して、イソブチレン系共重合体B−4を得た。
【0166】
(比較例6)
各成分の供給量を表2に記載のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして反応を行ったところ、重合反応が進行せず、イソブチレン系重合体が得られなかった。
【0167】
(重量平均分子量Mw及び低分子量体の含有割合の測定)
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られたイソブチレン系重合体について、GPC測定を行い、重量平均分子量Mw及び低分子量体の含有割合を求めた。求めた重量平均分子量Mw及び低分子量体の含有割合を表1又は2に示す。
【0168】
具体的には、イソブチレン系重合体を特級テトラヒドロフラン(キシダ化学社製)に溶解し、東ソー製HLC−8220GPC装置で、TSK−GEL SuperHZ2000、HZ3000、HZ4000、HZM−N(東ソー製)を直列につなぎ溶出液としてテトラヒドロフランを用いてGPC測定を実施した。分子量の較正にはポリスチレンスタンダードを用い、ポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。低分子量体の含有割合は、GPC測定で得られた分子量分布曲線から、それぞれの分子量成分の濃度分率を積算していき、「分子量−重量分率」プロットを得て、分子量1000以下の割合(質量%)を求めた。
【0169】
比較例3,4,5で得られたイソブチレン系重合体では、GPC測定において、検出時間の早い重合体ピーク(高分子量重合体)と、検出時間が遅い重合体ピーク(低分子量重合体)として2つのピークが検出された。2つのピークの間のベースラインに最も近い点(谷ピーク)の検出時間を基準にして、高分子量重合体と低分子量重合体の重量平均分子量体をそれぞれ求めた。
【0170】
【表1】

【0171】
【表2】

【0172】
(実施例7)
スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(JSR SL552、JSR社製。以下、場合により「SBR」と表す。)に、実施例1で得られたイソブチレン系重合体A−1、充填剤、シランカップリング剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤及び老化防止剤を、それぞれ表3に示す配合比(質量部)で配合して、混練した。なお、充填剤としてはシリカAQ(東ソー・シリカ社製)を、シランカップリング剤としてはSi69(デグサ社製、(EtO)Si−C−S−C−Si(OEt))を、可塑剤としてはプロセスオイル(NS−100、出光興産社製)を、加硫剤としては硫黄(川越化学社製)を、加硫助剤としては酸化亜鉛3号(ハクスイテック社製)及びステアリン酸(日本精化社製)を、加硫促進剤としてはスルフェンアミド系促進剤のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学社製)及びグアニジン系促進剤のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン、大内新興化学社製)を、老化防止剤としては老化防止剤224(大内新興化学社製)を、それぞれ用いた。
【0173】
この混練はロール機(6インチφ×16インチ)を用い、回転数30rpm、前後ロール回転比1:1.22の条件で行った。この混練で得られたゴム組成物を160℃×20分の加硫条件で圧縮成形し、架橋ゴム組成物からなる試験シートを作製した。この際の成形性は極めて良好であった。次いで、この試験シートを用いて、後述の方法により動的粘弾性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表4に示す。
【0174】
(実施例8〜12)
イソブチレン系重合体A−1にかえて、実施例2〜6で得られたイソブチレン系重合体A−2〜A−6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、架橋ゴム組成物からなる試験シートを作製した。この際、いずれの実施例でも成形性は極めて良好であった。次いで、この試験シートを用いて、後述の方法により動的粘弾性及び耐磨耗性を評価した。結果を表4に示す。
【0175】
(比較例7〜11)
イソブチレン系重合体A−1にかえて、比較例1〜5で得られたイソブチレン系重合体B−1〜B−5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、架橋ゴム組成物からなる試験シートを作製した。次いで、この試験シートを用いて、後述の方法により動的粘弾性及び耐磨耗性を評価した。結果を表5に示す。
【0176】
【表3】

【0177】
(動的粘弾性の測定)
動的粘弾性の測定は、JIS K−7244−4(プラスチック−動的機械特性の試験方法−第4部:引張振動―非共振法)に準じて実施した。具体的には、実施例及び比較例で得られた試験シートから、厚さ1mm×幅5mm×長さ40mmの試験片を1枚切り出して用い、周波数10Hz、歪み0.1%の条件で、測定温度−50〜100℃の範囲を2℃/分で昇温させながら、引張モードで測定した。用いた装置は動的粘弾性測定装置RSA−3(TA INSTRUMENTS製)である。
【0178】
このとき、周波数は10Hzであるが、これはウェットグリップ性が、粘弾性の時間温度換算則を利用すると、10Hz−0℃におけるtanδ値と相関しているためであり、その数値が大きいほど、ウェットグリップ性が良好であることが知られている。また、転がり抵抗は、同様にして、10Hz−60℃におけるtanδ値と相関しており、その数値が小さいほど、転がり抵抗が良好であることが知られている。表4及び5には、10Hz−0℃におけるtanδ値を「グリップ性」として、10Hz−60℃におけるtanδ値を「転がり抵抗」として、それぞれ記載した。
【0179】
(耐摩耗性試験)
耐摩耗性試験は、JIS K−6264−2(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−耐摩耗性の求め方−第2部試験方法)に準じて実施した。具体的にはアクロン摩耗試験機において、荷重27N、傾角15度の条件で、75rpmの回転速度で1000回転させた際の磨耗量(磨耗体積)(mm)を測定し、耐摩耗性を評価した。なお、試験は3回行い、これらの平均値を測定値とした。
【0180】
【表4】

【0181】
【表5】

【0182】
実施例及び比較例の対比として、比較例10の測定値を100としたときの実施例及び比較例の測定値を表6及び表7に示す。
【0183】
【表6】

【0184】
【表7】

【0185】
表4〜7に示すように、特定の製造方法で製造され、低分子量体の含有量が5質量%以下であるイソブチレン系重合体を用いた実施例7〜12では、優れた動的粘弾特性及び耐磨耗性が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン性二重結合を有するゴム成分と、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体と、を含有し、
前記イソブチレン系重合体のうち分子量が1000以下である低分子量体の含有量が、前記イソブチレン系重合体の総量基準で5質量%以下である、ゴム組成物。
【化1】


[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【請求項2】
前記イソブチレン系重合体は、前記式(2)で表される構造単位として、下記式(3)で表される構造単位及び/又は下記式(4)で表される構造単位を有する、請求項1に記載のゴム組成物。
【化2】


[式中、nは0又は1を示す。]
【請求項3】
前記イソブチレン系重合体は、ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤及び非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと下記式(7):
CH=CH−O−(X)―Y (7)
[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
で表されるビニルエーテル化合物とを共重合して得られる重合体であり、
前記反応液に添加される前記ルイス酸触媒の総モル数、前記プロトン系錯化剤の総モル数及び前記非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、前記共重合に供される前記ビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)が1〜10、A/Bが5〜400、B/Bが0〜50である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分が、天然ゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソプレンゴム、ハロゲン化イソブチレンコポリマー、クロロプレンゴム、ブチルゴム及びハロゲン化イソブチレン−p−メチルスチレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記イソブチレン系重合体の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.5〜70質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分が、実質的にスチレン−ブタジエンゴムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
架橋剤をさらに含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴム組成物を用いて得られる架橋ゴム組成物であって、前記ゴム成分と前記イソブチレン系重合体とが架橋した構造を有する、架橋ゴム組成物。
【請求項9】
トレッド部に請求項8に記載の架橋ゴム組成物を含有する、空気入りタイヤ。
【請求項10】
ルイス酸触媒、プロトン系錯化剤及び非プロトン系錯化剤が添加された反応液中で、イソブチレンと下記式(7):
CH=CH−O−(X)―Y (7)
[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
で表されるビニルエーテル化合物とを共重合する工程を備え、
前記工程において、前記反応液に添加される前記ルイス酸触媒の総モル数、前記プロトン系錯化剤の総モル数及び前記非プロトン系錯化剤の総モル数をそれぞれA、B及びBとし、前記共重合に供される前記ビニルエーテル化合物の総モル数をDとしたとき、A/(B+B+D)が1〜10、A/Bが5〜400、B/Bが0〜50である、
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するイソブチレン系重合体の製造方法。
【化3】


[式中、Xは2価の基を示し、Yは不飽和結合を有する置換又は未置換の脂環基を示し、nは0又は1を示す。]
【請求項11】
前記ルイス酸触媒が、ハロゲン化ホウ素化合物、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化スズ化合物、ハロゲン化アルミニウム化合物、ハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化タングステン化合物、ハロゲン化モリブデン化合物、ハロゲン化タンタル化合物及び金属アルコキシドからなる群より選ばれる、請求項10に記載のイソブチレン系重合体の製造方法。


【公開番号】特開2013−23516(P2013−23516A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157115(P2011−157115)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】