説明

ゴム組成物および帯電ロール

【課題】エチレンオキサイド単位を高い割合で含有しているヒドリンゴムを用いた場合でも、低硬度化と体積抵抗の均一化とを両立することが可能なゴム組成物を提供する。良好な帯電性が得られ、画像ムラを低減することが可能な帯電ロールを提供する。
【解決手段】単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムと、カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴムとを含有することを特徴とするゴム組成物とする。上記ゴム組成物は、ヒドリンゴム100質量部に対し上記液状ニトリルゴムを1〜33質量部の範囲内で含有することが好ましい。軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有する帯電ロールにおいて、ゴム弾性層を、上記ゴム組成物を用いて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および帯電ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯電部材を用いて対象物を帯電させる技術が知られている。例えば、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置の分野では、帯電部材としての帯電ロールを用いて像担持体としての感光体の表面に電荷を付与し、帯電させることが行われている。
【0003】
上記帯電部材は、帯電させる対象物に圧接させた状態で用いられることが多く、この場合には、必要な接触幅(ニップ幅)を確保するために柔軟性のあるゴム組成物が用いられている。当該ゴム組成物としては、マトリックスゴムであるヒドリンゴムに可塑剤を添加することにより、低硬度化を図った組成物が知られている。
【0004】
上記ヒドリンゴム系のゴム組成物としては、例えば、特許文献1には、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合体および/またはエピクロルヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合体よりなり、エチレンオキシド含有量が30〜75mol%であるエピクロルヒドリン系ゴム材料:70〜100重量部と、ニトリルゴム:0〜30重量部とからなるゴム材料100重量部に対して、液状ニトリルゴム(液状NBR):5〜50重量部を配合してなるゴム組成物およびこれを用いた帯電ロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は以下の点で改善の余地があった。
すなわち、帯電部材に用いられるゴム組成物には、体積抵抗率の低いヒドリンゴムを用いる方が有利である。体積抵抗率の低いヒドリンゴムとしては、エチレンオキサイド単位を50mol%以上と高い割合で含有するヒドリンゴムがある。
【0007】
しかし、エチレンオキサイド単位を高い割合で含有する固形のヒドリンゴムに対して、低硬度化のため液状ニトリルゴムを添加すると、体積抵抗が不均一になる。これは、エチレンオキサイド単位を高い割合で含有するヒドリンゴムは結晶性が高く、液状ニトリルゴムの分散性が悪くなるためである。そのため、このゴム組成物を、例えば、画像形成装置に組み込まれる帯電ロールに用いた場合には、これが原因で画像ムラが生じるといった問題が発生する。
【0008】
一方、液状ニトリルゴムを添加しない場合には、ヒドリンゴムを柔軟にすることが難しい。そのため、この場合には、ゴム組成物の硬度が上昇し、画像形成装置に組み込まれる帯電ロールに用いると、感光体と所定のニップ幅で接触させることが難くなり、これが原因で帯電性が低下してしまう。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、エチレンオキサイド単位を高い割合で含有しているヒドリンゴムを用いた場合でも、低硬度化と体積抵抗の均一化とを両立することが可能なゴム組成物を提供することにある。また、良好な帯電性が得られ、画像ムラを低減することが可能な帯電ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、帯電部材に用いられるゴム組成物であって、
単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムと、
カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴムとを含有することを特徴とするゴム組成物にある(請求項1)。
【0011】
本発明の他の態様は、軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有する帯電ロールであって、上記ゴム弾性層が、上記ゴム組成物から構成されていることを特徴とする帯電ロールにある(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
上記ゴム組成物は、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムと、カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴムとを含有している。そのため、ヒドリンゴムの結晶性が高くても、従来に比べ、ゴム組成物の調製時にヒドリンゴム中に液状ニトリルゴムが均一に分散される。それ故、低硬度化と体積抵抗の均一化とを両立することができる。また、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有しているヒドリンゴムを用いているので、低抵抗化を図る上でも有利である。
【0013】
上記帯電ロールは、ゴム弾性層が、上記ゴム組成物から構成されている。そのため、電子写真方式を採用する画像形成装置に用いた場合には、ゴム弾性層が低硬度であることから、感光体とのニップ幅を確保しやすく、帯電性に優れる。また、ゴム弾性層の体積抵抗が均一であることから、画像ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例に係る帯電ロールを模式的に示す説明図である。
【図2】図1のA−A断面を模式的に示す説明図である。
【図3】試料1のゴム組成物によるゴムシート断面のSPM画像である。
【図4】試料13のゴム組成物によるゴムシート断面のSPM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記ゴム組成物について説明する。上記ゴム組成物は、帯電部材に用いられるものである。帯電部材は、その用途に応じて、ロール状、ベルト状、シート状等の形態をとることができる。例えば、ロール状の帯電部材である帯電ロールは、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、POD(Print On Demand)装置等の画像形成装置や、帯電技術を利用したクリーニングロール等に好適に用いられる。
【0016】
上記ゴム組成物は、具体的には、軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有する帯電ロールにおけるゴム弾性層に用いることができる(請求項4)。この場合には、帯電ロールの基層であるゴム弾性層の低硬度化と体積抵抗の均一化とを図ることができる。そのため、電子写真方式を採用する画像形成装置に用いた場合には、ゴム弾性層が低硬度であることから、感光体とのニップ幅を確保しやすくなり、帯電性に優れた帯電ロールとすることができる。また、ゴム弾性層の体積抵抗が均一であることから、画像ムラを抑制しやすい帯電ロールとすることができる。
【0017】
その他にも、例えば、上記ゴム組成物は、略円柱状のゴム弾性部と、このゴム弾性部の両端面からそれぞれ突出する短軸体とを有する帯電ロールおけるゴム弾性部に用いることもできる。この場合も上記と同様の作用効果を奏することができる。なお、上記ゴム組成物は、熱等により架橋された架橋体として上記帯電部材に好適に用いることができる。
【0018】
上記ゴム組成物は、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド(EO)単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムを含んでいる。つまり、上記ゴム組成物に含まれるヒドリンゴムは、単独でエチレンオキサイド(EO)単位を50mol%以上含有していてもよいし、2種以上のヒドリンゴムのブレンドによりエチレンオキサイド(EO)単位を合計50mol%以上含有していてもよい。なお、後者の場合、単独でエチレンオキサイド(EO)単位を50mol%以上含むヒドリンゴムと、単独ではエチレンオキサイド(EO)単位が50mol%未満であるヒドリンゴムとをブレンドし、エチレンオキサイド(EO)単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムとすることができる。この場合には、エチレンオキサイド(EO)単位を任意の値に調整しやすい利点がある。上記ゴム組成物は、低抵抗化等の観点から、単独でエチレンオキサイド(EO)単位を50mol%以上含有するヒドリンゴムを好適に用いることができる。
【0019】
ヒドリンゴムは、低抵抗化に有利であることから、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を、好ましくは、55mol%以上、より好ましくは、60mol%以上、さらに好ましくは、65mol%以上、さらにより好ましくは、70mol%以上含有することができる。なお、エチレンオキサイド(EO)単位の含有量の上限値は、特に限定されるものではないが、合成容易性、入手容易性等を考慮し、好ましくは、90mol%、より好ましくは、80mol%とすることができる。
【0020】
エチレンオキサイド(EO)単位は、ヒドリンゴムの分子構造中に導入されている。具体的には、エチレンオキサイド(EO)単位は、分子構造中、主鎖に導入されていてもよいし、側鎖に導入されていてもよい。エチレンオキサイド(EO)単位を主鎖に含むヒドリンゴムは、共重合法等により得ることができる。また、エチレンオキサイド(EO)単位を側鎖に含むヒドリンゴムは、共重合法、グラフト法等により得ることができる。
【0021】
エチレンオキサイド(EO)単位を含有するヒドリンゴムとしては、具体的には、例えば、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(三元)共重合ゴム、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(三元)共重合ゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(四元)共重合ゴム、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(四元)共重合ゴムなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、好ましくは、イオウおよび過酸化物での加硫が可能な点から、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(三元)共重合ゴムである。なお、エチレンオキサイド(EO)単位の含有量は、13C−NMRなどにより測定することができる。
【0022】
上記ゴム組成物は、カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴム(以下、単に「変性液状NBR」ということがある。)を含んでいる。
【0023】
変性液状NBRは、カルボキシル基を含有していてもよいし、メタクリル基を含有していてもよい。さらに、カルボキシル基およびメタクリル基を含有していてもよい。変性液状NBRは、1種または2種以上併用することができる。変性液状NBRは、好ましくは、スコーチ安定性、より優れた分散性などの観点から、カルボキシル基により変性されたものであるとよい。なお、変性液状NBRは、カルボキシル基および/またはメタクリル基以外の官能基を1または2以上含有することができる。
【0024】
また、変性液状NBRは、カルボキシル基および/またはメタクリル基を側鎖に有していてもよいし、カルボキシル基および/またはメタクリル基を末端に有していてもよい。好ましくは、スコーチ安定性などの観点から、カルボキシル基および/またはメタクリル基を側鎖に有しているとよい。なお、液状NBRは、特に限定されるものではないが、ヒドリンゴムに対する分散性などの観点から、アクリロニトリル含有量が、好ましくは、10〜40mol%、より好ましくは、15〜35mol%の範囲内であるとよい。なお、変性液状NBRにおけるカルボキシル基、メタクリル基の特定は、IRなどにより行うことができる。
【0025】
上記ゴム組成物は、ヒドリンゴム100質量部に対し、変性液状NBRを1〜33質量部の範囲内で含有することができる(請求項2)。この場合には、低硬度化と体積抵抗の均一化とを両立することができる上、耐ヘタリ性にも優れる。変性液状NBRの下限値は、低硬度化と体積抵抗の均一化との両立効果を得やすくなるなどの観点から、好ましくは、2質量部、より好ましくは、3質量部とすることができる。一方、変性液状NBRの上限値は、ヘタリ量の低減、画像形成装置の帯電部材に用いた場合におけるヘタリに起因する画像不具合の抑制などの観点から、好ましくは、33質量部、より好ましくは、30質量部とすることができる。
【0026】
上記ゴム組成物は、上記ゴム成分以外にも、さらにイオン導電剤を含有することができる(請求項3)。この場合には、ヒドリンゴムに含まれるエチレンオキサイド単位の含有量を多くすることによって低抵抗化を図るのみならず、イオン導電剤によっても体積抵抗率を低くし、低抵抗化を図ることができる。イオン導電剤を含有させる場合、エチレンオキサイド単位の含有量の上限値は、好ましくは、90mol%、より好ましくは、80mol%とすることができる。
【0027】
イオン導電剤の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、過塩素酸塩、ホウ酸塩、イオン液体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0028】
イオン導電剤の含有量は、ヒドリンゴム100質量部に対し、0.1〜15質量部の範囲内とすることができる。この場合には、低硬度化と体積抵抗の均一化とのバランス、低抵抗化などに優れる。イオン導電剤の含有量の下限値は、低抵抗化などの観点から、好ましくは、0.1質量部、より好ましくは、0.2質量部とすることができる。一方、イオン導電剤の含有量の上限値は、耐ブルーム性などの観点から、好ましくは、10質量部、より好ましくは、5質量部とすることができる。
【0029】
上記ゴム組成物は、イオン導電剤だけでなく、必要に応じて一般にゴム組成物に添加される各種の添加剤を1または2以上含有することができる。上記添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、硫黄、架橋剤、架橋助剤、助剤、充填剤、可塑剤、軟化剤、加工助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、滑剤、受酸剤、界面活性剤、補強剤、発泡剤などを例示することができる。
【0030】
上記ゴム組成物は、上記ヒドリンゴムと、上記変性液状NBRと、必要に応じて添加されるイオン導電剤等の各種添加剤とを配合し、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、三本ロール等の各種混練機にてゴム練り等することにより調製することができる。
【0031】
次に、上記帯電ロールについて説明する。上記帯電ロールは、軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有している。そして、ゴム弾性層が、上述のゴム組成物を用いて構成されている。具体的には、ゴム弾性層は、上述のゴム組成物の架橋体から構成することができる。
【0032】
ゴム弾性層は、1層または2層以上から構成することができる。ゴム弾性層の厚みは、特に限定されるものではないが、電子写真方式を採用する画像形成装置の帯電ロールとして用いる場合には、ゴム弾性層の厚みは、例えば、0.1〜10mmの範囲から選択することができる。
【0033】
軸体としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属(合金含む)からなる中実体(芯金)や中空体、導電性プラスチックからなる中実体や中空体、導電性または非導電性のプラスチックからなる中実体や中空体に金属めっきを施したものなどを例示することができる。
【0034】
上記帯電ロールは、ゴム弾性層の外周にさらに表層を有していてもよい。表層がある場合には、ゴム弾性層を保護したり、トナー等の固着を抑制しやすくしたりすることができる。そのため、電子写真方式を採用する画像形成装置の帯電ロールとして好適に用いることができる。表層は、樹脂塗膜などから構成することができる。また、上記帯電ロールは、表層を有さず、ゴム弾性層の表面が表面処理されていてもよい。表面処理としては、ゴム弾性層のタック性を低減するための処理等を例示することができる。このような表面処理が施されている場合には、トナー等の固着を抑制しつつ、高い弾性回復率を有するゴム弾性層の本来の特徴を十分に活かすことが可能となり、ロール全体として優れた耐ヘタリ性を発揮することができる。
【0035】
上記帯電ロールは、例えば、円柱状の中空空間を有するロール成形型の中空空間に、軸体を同軸にセットし、中空空間と軸体との間の成形空間に上記ゴム組成物を注入した後、ゴム組成物を加熱により架橋し、冷却、脱型する方法などにより製造することができる。他にも、軸体の外周にゴム組成物を押出成形する方法などによっても製造することができる。
【実施例】
【0036】
実施例について、図面を用いて具体的に説明する。
実施例に係る帯電ロールの概略構成を図1、図2を用いて説明する。図1、図2に示すように、帯電ロール1は、電子写真方式を採用する画像形成装置に組み込まれて感光体の帯電に使用されるものである。帯電ロール1は、軸体2と、軸体2の外周に沿って形成されたゴム弾性層3とを有する。但し、軸体2の両端部は、ゴム弾性層3の両端面から突出した状態とされている。本例では、さらに、ゴム弾性層3の外周に沿って表層4が形成されている。
【0037】
ゴム弾性層3は、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムと、カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴムとを含有するゴム組成物の架橋体からなる。ゴム組成物は、上記以外にも、イオン導電剤、加硫促進剤、硫黄を含有している。上記ゴム組成物において、上記液状ニトリルゴムは、ヒドリンゴム100質量部に対し、1〜33質量部の範囲内とされている。
【0038】
表層4は、導電性を有する樹脂塗膜からなる。具体的には、樹脂塗膜は、カーボンブラック等の電子導電剤を含有するポリアミド樹脂等の樹脂から構成されている。
【0039】
次に、各種条件の異なるゴム組成物、帯電ロールの試料を作製し、評価を行った。以下にその実験例について説明する。なお、作製した試料の帯電ロールは、電子写真方式を採用する画像形成装置としてのプリンターに組み込まれるものである。
【0040】
(実験例)
<ゴム組成物の調製>
ゴム組成物の材料として、以下の材料を準備した。
−ゴム成分−
・ヒドリンゴム(1)
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム[エチレンオキサイド(EO)含有量:73mol%、ダイソー(株)製「エピオン−301」]
・ヒドリンゴム(2)
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム[エチレンオキサイド(EO)含有量:56mol%、日本ゼオン(株)製「Hydrin T3106」]
・ヒドリンゴム(3)
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム(1)[エチレンオキサイド(EO)含有量:48mol%、ダイソー(株)製「エピクロマーCG105」]
・液状ニトリルゴム(1)
カルボキシル基を側鎖に有する液状ニトリルゴム[日本ゼオン(株)製「Nipol DN601」]
・液状ニトリルゴム(2)
カルボキシル基を末端に有する液状ニトリルゴム[AN Emerald Performance Materials Company社製「CTBN1300×13」、アクリロニトリル量26mol%]
・液状ニトリルゴム(3)
メタクリル基を末端に有する液状ニトリルゴム[AN Emerald Performance Materials Company社製「VTBNX1300×33」、アクリロニトリル量10mol%]
・液状ニトリルゴム(4)
カルボキシル基、メタクリル基を含有しない液状ニトリルゴム[日本ゼオン(株)製「Nipol 1312」]
・液状イソプレンゴム
カルボキシル基を側鎖に有する液状イソプレンゴム[日本ゼオン(株)製「クラプレンLIR410」]
−添加剤−
・ジベンゾチアジルジスルフィド[三新化学(株)製「サンセラーDM」]
・テトラメチルチウラムジスルフィド[三新化学(株)製「サンセラーTT」]
・粉末硫黄[鶴見化学工業(株)製]
・ジクミルペルオキシド[日油(株)製「パークミルD40」]
・2−メルカプトイミダゾリン[三新化学(株)製「サンセラー22C」]
・イオン導電剤(テトラブチルアンモニウムブロマイド)[ライオン・アクゾ(株)製「TBAB−100」]
準備した各材料を、表1に示す配合割合(質量部)となるように秤量した。秤量した各材料を50℃に温度調節した密閉型ミキサーを用いて10分間混練し、試料1〜15のゴム組成物を調製した。
【0041】
得られた各ゴム組成物の架橋体を作製し、下記に示すデュロメータ硬さ、体積抵抗率、圧縮永久ひずみを測定した。また、液状ニトリルゴムの分散状態の観察も併せて行った。
【0042】
<デュロメータ硬さ>
ゴム組成物を170℃で30分間プレス加硫し、厚み2mmのゴムシートを作製した。作製したゴムシートについて、JIS K6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」に規定されるデュロメータ硬さ試験に準拠し、タイプAデュロメータを用いてデュロメータ硬さを測定した。デュロメータ硬さ(タイプA)が54度以下である場合に、低硬度化できていると判断した。
【0043】
<体積抵抗率(体積電気抵抗率)>
ゴム組成物を170℃で30分間プレス加硫し、厚み2mmのゴムシートを作製した。作製したゴムシートにおける一方の表面上に銀ペーストを塗布することにより、10mm×10mmの大きさの表面電極を形成するとともに(ガード電極付き)、表面電極を設けた面と反対側の面に裏面電極を形成した。そして、JIS K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠し、印加電圧100V、23.5℃×53%RHの条件下における両電極間の体積抵抗を測定し、体積抵抗率ρv(Ω・cm)を算出した。
【0044】
<圧縮永久ひずみ>
ゴム組成物を170℃で30分間プレス加硫し、厚み2mmのゴムシートを作製した。作製したゴムシートについて、JIS K6262「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−常温、高温及び低温における圧縮永久ひずみの求め方」に準拠し、温度70℃、圧縮割合25%、試験時間22時間の条件にて圧縮永久ひずみを測定した。圧縮永久ひずみが30%未満である場合に、圧縮永久ひずみの低減が良好になされていると判断した。
【0045】
<液状ニトリルゴムの分散状態の観察>
試料1および試料13のゴム組成物によるゴムシート断面について、走査型プローブ顕微鏡(Scannig Probe Microscope:SPM)を用いて、マトリックスゴムであるヒドリンゴム(視野10μm×10μm)中における液状ニトリルゴムの分散状態を調査した。図3に、試料1についてのSPM画像を、図4に、試料13についてのSPM画像を示す。
【0046】
(帯電ロールの作製)
円柱状の中空空間を有するロール成形型を準備した。次いで、このロール成形型の中空空間に、直径6mmの軸体を同軸にセットした。次いで、上記中空空間と軸体との間の成形空間に上記ゴム組成物を注入した後、この型を170℃で30分間加熱し、冷却、脱型した。これにより、軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層(厚み3mm)とを有するロール体を作製した。
【0047】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン100質量部と、c−SnO60質量部と、クエン酸1質量部と、メタノール300質量部とを混合することにより、表層形成材料を調製した。次いで、ロールコート法により、上記作製したロール体のゴム弾性層の表面に上記表層形成材料を塗工し、150℃で30分間加熱し、厚み10μmの表層を形成した。これにより、軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層と、ゴム弾性層の外周に沿って形成された表層とを有する試料1〜試料15の帯電ロールを作製した。
【0048】
得られた各帯電ロールについて、下記に示す帯電量の測定、画像評価、ヘタリ量の測定を行った。
【0049】
<帯電量>
カラーレーザープリンター((株)リコー製「IPSIO SP C220」)のカートリッジ内に帯電ロールを組み込み、15℃×10%RHの環境下にて、感光ドラムと接触させた状態で感光ドラム・帯電ロールともに60rpmの速度で回転させながら、帯電ロールに−1200Vの電圧を印加した。そして、帯電ロール位置から周方向に90°回転した位置に表面電位計(トレックジャパン(株)製、「MODEL−370」)のプローブを設置し、暗所で感光ドラム中央部におけるドラム2周目の表面電位(帯電量)を測定した。なお、上記プローブは、感光ドラムから2mm離れた位置に設置した。
【0050】
<画像評価>
カラーレーザープリンター((株)リコー製「IPSIO SP C220」)のカートリッジ内に帯電ロールを組み込み、15℃×10%RHの環境下にて24時間養生後、ハーフトーン画像を出力した。そして、出力画像について、帯電ロールに起因する画像ムラの存在を確認した。
【0051】
<ヘタリ量>
作製した帯電ロールを金属ロール(直径24mm)上に置き、帯電ロールにおける軸体の両端部上にそれぞれ500gfの荷重を負荷し、その状態を保持したまま40℃×95%RHの環境下に2週間放置した。その後、帯電ロールを取り出し、室温にて30分間放置した後、帯電ロールの表面に生じた凹みを測定し、ヘタリ量とした。なお、ヘタリ量が大きくなると、帯電ロールの凹み変形に起因するスジ画像が発生することが懸念される。そのため、参考データとしてヘタリ量の測定を行ったものである。
【0052】
表1にゴム組成物の詳細な配合および特性、帯電ロールの特性等をまとめて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1、図3および図4から以下のことがわかる。すなわち、試料13のゴム組成物は、エチレンオキサイド(EO)単位を73mol%と高い割合で含有するヒドリンゴムをマトリックスゴムとしている。しかし、上記マトリックスゴムと併用される液状ニトリルゴムがカルボキシル基やメタクリル基により変性されていない。そのため、図4に示すように、分散径が0.1〜1μm程度の液状ニトリルゴム(図中の黒点)がマトリックスゴム中に多数見られ、液状ニトリルゴムが均一に分散していないことがわかる。その結果、体積抵抗が不均一となり、これをゴム弾性層へ適用した試料13の帯電ロールは、画像ムラの不具合が発生した。
【0055】
試料14のゴム組成物は、エチレンオキサイド(EO)単位を73mol%と高い割合で含有するヒドリンゴムをマトリックスゴムとしている。しかし、上記マトリックスゴム中に液状イソプレンゴムを添加している。そのため、試料13のゴム組成物と同様に、液状イソプレンゴムが均一に分散せず、体積抵抗が不均一となり、これをゴム弾性層へ適用した試料14の帯電ロールは、画像ムラの不具合が発生した。
【0056】
試料15のゴム組成物は、エチレンオキサイド(EO)単位の含有量が50mol%を下回るヒドリンゴムのみをマトリックスゴムとしている。そのため、体積抵抗率が高く、これをゴム弾性層へ適用した試料14の帯電ロールは、帯電性に劣る。
【0057】
これらに対し、試料1〜12のゴム組成物は、いずれもマトリックスゴムであるヒドリンゴムが、単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上と高い割合で含有しており、結晶性が高い。しかし、上記マトリックスゴムと併用される液状ニトリルゴムがカルボキシル基やメタクリル基により変性されている。そのため、図3に示すように、図4で見られたような分散径0.1〜1μm程度の液状ニトリルゴムが、マトリックスゴムであるヒドリンゴム中にほとんど見られず、液状ニトリルゴムが均一に分散していることがわかる。その結果、試料1〜12のゴム組成物は、低硬度化と体積抵抗の均一化とを両立することができている。また、これらをゴム弾性層へ適用した試料1〜12の帯電ロールは、優れた帯電性を有するとともに、画像ムラの不具合を抑制可能なことが確認された。
【0058】
また、試料1〜12のゴム組成物を比較すると、ヒドリンゴムに対する上記特定の官能基で変性された液状ニトリルゴムの割合が増加するにつれ、圧縮永久ひずみが大きくなる傾向が見られる。また、同様に、試料1〜12の帯電ロールを比較すると、ヒドリンゴムに対する上記特定の官能基で変性された液状ニトリルゴムの割合が増加するにつれ、ヘタリ量が大きくなる傾向が見られる。
【0059】
本実験では、試料1〜12の帯電ロールを用いた出力画像に、帯電ロールの凹み(ヘタリ)に起因するスジ画像はいずれも認められなかった。しかし、ヘタリ量が大きくなると、上記のようなスジ画像が生じることが懸念される。したがって、ゴム組成物におけるヒドリンゴムに対する上記特定の官能基で変性された液状ニトリルゴムの割合は、上述した効果を得る観点から、その下限を1質量部以上とすることが好ましいが、ヘタリ量を少なくして高画質な画像を形成する観点から、その上限については、好ましくは、33質量部以下とするとよいことがわかる。
【0060】
また、試料10のゴム組成物は、イオン導電剤を含有しているため、体積抵抗率が低くしやすく、低抵抗化に有利であることがわかる。また、試料10のゴム組成物をゴム弾性層へ適用した試料10の帯電ロールは、帯電量が大きく、優れた帯電性を得るのに有利であることがわかる。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 帯電ロール
2 軸体
3 ゴム弾性層
4 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電部材に用いられるゴム組成物であって、
単独でまたはブレンドによりエチレンオキサイド単位を合計で50mol%以上含有するヒドリンゴムと、
カルボキシル基およびメタクリル基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された液状ニトリルゴムとを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物において、
上記ヒドリンゴム100質量部に対し、上記液状ニトリルゴムを1〜33質量部の範囲内で含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物において、
イオン導電剤を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物において、
軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有する帯電ロールにおける上記ゴム弾性層に用いられることを特徴とするゴム組成物。
【請求項5】
軸体と、軸体の外周に沿って形成されたゴム弾性層とを有する帯電ロールであって、
上記ゴム弾性層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて構成されていることを特徴とする帯電ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71965(P2013−71965A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210648(P2011−210648)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】