説明

ゴム組成物および架橋物

【課題】機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を与えることのできるゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と、を含有してなるゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を与えることのできるゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られる架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素−炭素二重結合を水素化した水素化ニトリルゴム(水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ベルト、ホース、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
かかる状況に対して、特許文献1は、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有する水素化ニトリルゴム、ポリアミン系架橋剤及び塩基性架橋促進剤を含有する架橋性ゴム組成物を提案している。該組成物により耐熱性及び圧縮永久ひずみがそれなりに改善された架橋物が得られるものの、耐圧縮永久歪み性を良好な状態に保ったままで、耐油性を更に改善することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−55471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を与えることのできるゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られる架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムに、特定のビニルアルコール共重合体を配合してなるゴム組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と、を含有してなるゴム組成物が提供される。
【0008】
本発明のゴム組成物において、前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜60重量%、カルボキシル基含有単量体単位0.1〜20重量%および共役ジエン単量体単位15〜89.9重量%を含有することが好ましい。
また、前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、さらにα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位5〜60重量%を含有することが好ましい。
そして、本発明のゴム組成物は、前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対し、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を5〜100重量部含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記いずれかのゴム組成物と、ポリアミン系架橋剤とを含有してなる架橋性ゴム組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記架橋性ゴム組成物を架橋してなる架橋物が提供され、該架橋物は、シール用ゴム部材、ベルト、ホースまたはガスケットであることが好ましい。
本発明のゴム組成物の製造方法は、前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)とを、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点以上の温度で混練するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を与えることのできるゴム組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該ゴム組成物を架橋することにより得られ、機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ゴム組成物
本発明のゴム組成物は、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と、を含有してなる。
【0012】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)
まず、本発明で用いるヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)について説明する。本発明で用いるヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)(以下、単に「カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)」という。)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる、ヨウ素価が120以下のゴムである。
【0013】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、ニトリルゴムに、カルボキシル基を導入することができる。そして、これにより、ゴム組成物中におけるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の分散性を高くすることができ、その結果として、架橋物とした場合における耐圧縮永久歪み性の向上が可能となる。
【0016】
本発明で用いるカルボキシ基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0019】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0020】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0021】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、ゴム組成物中における、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の分散性が低下してしまい、得られる架橋物の耐圧縮永久歪み性が低下するおそれがある。一方、多すぎると、ゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られる架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0022】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、得られる架橋物がゴム弾性を有するものとするために、共役ジエン単量体単位をも含有することが好ましい。
【0023】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0024】
共役ジエン単量体単位(水素化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは15〜89.9重量%、より好ましくは20〜79.8重量%、さらに好ましくは25〜69.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0025】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、本発明の効果がより一層顕著になることから、上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、カルボキシル基含有単量体単位、並びに、共役ジエン単量体単位に加えて、さらにα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位を含有することが好ましい。
【0026】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体を形成するα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;などが挙げられるが、本発明の効果がより一層顕著になることから炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0027】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは15〜45重量%である。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量が上記範囲にあることで、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0028】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体などが例示される。
【0029】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0030】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0031】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0032】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0033】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られる架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0034】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは15〜150、さらに好ましくは15〜100、特に好ましくは30〜70である。カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られる架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0035】
また、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、特に好ましくは5×10−3〜6×10−2ephrである。カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)のカルボキシル基含有量が少なすぎると得られる架橋物の機械的強度が低下するおそれがあり、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0036】
本発明のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0037】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0038】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0039】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0040】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0041】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0042】
そして、得られた共重合体に対して、共役ジエン単量体単位の二重結合を選択的に水素化することにより、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)を製造することができる。なお、水素化に用いる水素化触媒の種類と量、水素化温度などは、公知の方法に準じて決めればよい。
【0043】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)
本発明のゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)に加えて、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)(以下、単に「エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)」という。)を含有してなる。
【0044】
本発明で用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、その構造上、エチレンとビニルアルコールとを主構成単位とする共重合体であるが、通常、エチレンと脂肪酸ビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等によって部分的にまたは完全に鹸化することによって得られる共重合体である。
【0045】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のエチレン含有量(エチレン単位のモル比率)は、10〜60モル%であり、好ましくは15〜55モル%、より好ましくは20〜50モル%である。エチレン含有量が少なすぎると、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)中での分散性が悪化するおそれがあり、一方、多すぎると、架橋物の耐熱性が低下するおそれがある。なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)中のエチレン含有量は、たとえば、核磁気共鳴(H−NMR)法により求めることができる。
【0046】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点は、好ましくは130〜250℃であり、より好ましくは140〜240℃、さらに好ましくは150〜230℃である。融点が低すぎると架橋物の耐熱性が低下するおそれがあり、一方、高すぎると、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)中での分散性が悪化するおそれがある。
【0047】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のメルトインデックス(210℃、荷重2.16kg)は、好ましくは0.1〜40g/10min、より好ましくは0.5〜35g/10min、さらに好ましくは1〜30g/10minである。メルトインデックスが低すぎるとエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)中での分散性が悪化するおそれがあり、一方、高すぎると、架橋物の機械的特性が低下するおそれがある。
【0048】
さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)のビニルエステル部分の鹸化度(ビニルアルコール構造を有する単量体単位部分とビニルエステル構造を有する単量体単位部分との合計に対するビニルアルコール構造を有する単量体単位部分の比率)は、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。鹸化度が低すぎると、架橋物の耐油性が低下する傾向がある。
【0049】
本発明のゴム組成物における、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対する、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の含有量は、好ましくは5〜100重量部、より好ましくは5〜85重量部、特に好ましくは5〜70重量部である。ゴム組成物中における、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の含有割合が少なすぎると、得られる架橋物の耐油性および機械的特性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、得られる架橋物の耐圧縮永久歪み性および耐寒性が低下するおそれがある。
【0050】
本発明のゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)とを、好ましくは、上記重量比率にて、混練することにより調製することができる。なお、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)とを混練する際には、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点以上の温度で混練することが好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点より5℃以上高い範囲の温度で混練することがより好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点より10〜100℃高い範囲の温度で混練することが特に好ましい。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点以上の温度で混練を行なうことにより、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の分散性が良好となり、架橋物の機械的特性が向上する。
【0051】
架橋性ゴム組成物
本発明の架橋性ゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)およびエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含むゴム組成物と、ポリアミン系架橋剤と、を含有してなるものである。架橋剤として、ポリアミン系架橋剤を用いることにより、得られる架橋物の耐圧縮永久歪み性をより高めることができる。
【0052】
本発明で使用されるポリアミン系架橋剤は、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0053】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、ポリアミン系架橋剤の配合量は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。ポリアミン系架橋剤の配合量が少なすぎると、得られる架橋物の機械特性および耐圧縮永久歪み性が悪化するおそれがある。一方、多すぎると、得られる架橋物の耐疲労性が悪化する可能性がある。
【0054】
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、塩基性架橋促進剤をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0055】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)及び1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していても良い。
【0056】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤の配合量は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が少なすぎると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が低下する場合がある。一方、配合量が多すぎると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が速すぎてスコーチを起こしたり、貯蔵安定性が損なわれる場合がある。
【0057】
また、本発明の架橋性ゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカなどの補強性充填材、炭酸カルシウムやクレイなどの非補強性充填材、塩基性架橋促進剤以外の架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0058】
本発明の架橋性ゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)およびエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)以外のその他の重合体を配合してもよい。その他の重合体としては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。その他の重合体を配合する場合における、架橋性ゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0059】
ゴム組成物および架橋性ゴム組成物の調整
本発明のゴム組成物の調整方法は、特に限定されないが、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を混合する。
【0060】
混合方法は、特に限定されないが、非水系で混合(ドライブレンド)してもよいし、溶液系(溶液に溶解した状態または分散させた状態)または水系(水に分散させた状態であって、ラテックス状態の場合も含む)で混合しても良い。なお、溶液系および水系で混合した場合には、従来公知の方法により凝固させた後、ろ過・乾燥してゴム組成物をクラムの状態で得ることができる。
【0061】
また、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を混合する際に、老化防止剤などの各種配合剤や、その他のゴムを同時に混合してもよい。
【0062】
混合して得られるゴム組成物は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)へのエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の分散性を向上させるために、上述したようにエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点以上の温度で混練することが好ましい。
【0063】
混練方法は特に限定されないが、一軸押出機、二軸押出機などの押出機;ニーダー、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターナルミキサ、ニーダー、などの密閉型混練機;ロール混練機;などの混練機で混練しながら加熱することが好ましい。
【0064】
本発明の架橋性ゴム組成物の調製方法は、特に限定されないが、上記のようにして得られる本発明のゴム組成物に、架橋剤および熱に不安定な架橋助剤などを除いた各成分を、好ましくは、10〜200℃、より好ましくは20〜170℃で、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で混練し、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な架橋助剤などを加えて、好ましくは10〜80℃の条件で、二次混練することにより調製できる。
【0065】
このようにして得られる本発明の架橋性ゴム組成物は、コンパウンドムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕が、好ましくは10〜200、より好ましくは15〜180、さらに好ましくは20〜150であり、加工性に優れるものである。
【0066】
架橋物
本発明の架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明の架橋物は、本発明の架橋性ゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜6時間である。
【0067】
また、架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0068】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0069】
このようにして得られる本発明の架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋して得られるものであるため、機械的特性、耐油性、および耐圧縮永久歪み性に優れるものである。
【0070】
このため、本発明の架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシール、バルブ及びバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、油中ベルトなどの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、及び医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明の架橋物は、ベルト、ホースまたはシール材として好適に用いることができ、シール材として特に好適である。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0072】
カルボキシル基含有量
2mm角のニトリルゴム0.2gに、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0073】
ヨウ素価
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0074】
ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0075】
常態物性(引張強さ、伸び、硬さ)
架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状の架橋物を得た。次いで、得られた架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋し、得られたシート状の架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られたこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、架橋物の引張強さ、および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0076】
耐油浸漬試験
上記常態物性の評価で用いた架橋物と同様の架橋物を準備し、該架橋物を、温度40℃、168時間の条件で、イソオクタン/トルエン=50/50(体積比)の燃料油(Fuel−C)中に浸漬させた。そして、燃料油中に浸漬させた架橋物について、浸漬前後の体積の変化率(単位:%)を測定することにより、耐油性を評価した。浸漬前後の体積の変化率の値が小さいほど、燃料油による膨潤の度合いが小さく、耐油性に優れると判断できる。
【0077】
耐寒性試験(TR試験)
上記常態物性の評価で用いた架橋物と同様の架橋物を準備し、該架橋物を、JIS K6261に従い、TR試験(低温弾性回復試験)により架橋物の耐寒性を測定した。TR10(単位:℃)が低いほど、耐寒性に優れると判断できる。
【0078】
圧縮永久歪み(O−リング圧縮永久歪み)
内径30mm、リング径3mmの金型を用いて、架橋性ゴム組成物を170℃で20分間、プレス圧10MPaで架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行うことにより、O−リング状の試験片を得た。そして、得られたO−リング状の試験片を用いて、O−リング状の試験片を挟んだ二つの平面間の距離をリング厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件で、JIS K6262に従って、圧縮永久歪み(O−リング圧縮永久歪み)を測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
【0079】
実施例1
反応器に、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20部、アクリル酸n−ブチル34部、マレイン酸モノn−ブチル6部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン40部を仕込んだ。そして、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、反応器内を攪拌しながら16時間重合反応した。そして、重合反応後、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することにより、アクリロニトリル単位20重量%、ブタジエン単位40重量%、アクリル酸n−ブチル単位35重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位5重量%の重合体ラテックス(固形分濃度30重量%)を得た。なお、重合体組成は、H−NMRにより測定した。
【0080】
次いで、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造したラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行った。
【0081】
得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)を得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)は、カルボキシル基含有量が2.9×10−2ephr、ヨウ素価が7、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は45であった。また、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)は、アクリロニトリル単位20重量%、ブタジエン単位(水素化されている部分含む)40重量%、アクリル酸n−ブチル単位35重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位5重量%であった。
【0082】
そして、ブラベンダーミキサを用いて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)90部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)(製品名:ソアノール DC3203、日本合成化学工業社製、エチレン含有量:32モル%、メルトインデックス:3.8g/10min、融点:183℃)10部、を温度210℃で10分間混練し、ゴム組成物を得た。
次いで、得られたゴム組成物100部、MTカーボン(商品名:サーマックスMT、Engineerd Carbons社製、カーボンブラック)40部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名:ADK Cizer C−8、ADEKA社製、可塑剤)5部、ステアリン酸(加工助剤)1部、および、4,4’−ジ−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:Naugard 445、Chemtura社製、老化防止剤)1.5部を添加して、温度110℃で混練した。次いで、得られた混合物を、温度40℃にしたロールに移して、DBU(商品名:RHENOGRAN XLA−60(GE2014)、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分を含む)並びにアクリル酸ポリマーと分散剤40%からなるもの、塩基性架橋促進剤)4部、および、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名:Diak#1、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ポリアミン系架橋剤)1.7部を添加して混練し、架橋性ゴム組成物を調製した。
【0083】
そして、上述した方法により、上記にて調製した架橋性ゴム組成物を用いて架橋物を得て、得られた架橋物について、常態物性、耐油浸漬試験、および圧縮永久歪みの各評価・試験を行った。結果を表1に示す。
【0084】
実施例2
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)の配合量を90部から80部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)の配合量を10部から20部に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.7部から1.5部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
実施例3
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)の配合量を90部から70部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)の配合量を10部から30部に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.7部から1.3部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
実施例4
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)をエチレン−ビニルアルコール共重合体(B2)(商品名:エバールG156B、クラレ社製、エチレン含有量:48モル%、メルトインデックス:15g/10min、融点:160℃)に変更し、(A1)と(B2)の混練温度を185℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
実施例5
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)の配合量を90部から70部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B2)の配合量を10部から30部に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.7部から1.3部に、それぞれ変更した以外は、実施例4と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例6
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)の製造において、アクリロニトリル仕込み量を37部、マレイン酸モノn−ブチル仕込み量を6部、1,3−ブタジエン仕込み量を57部に変更した以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有ニトリルゴム(A2)を得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A2)は、カルボキシル基含有量が3.1×10−2ephr、ヨウ素価が7、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は45であった。また、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A2)は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(水素化されている部分含む)59重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位5重量%であった。
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)をカルボキシル基含有ニトリルゴム(A2)に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.7部から2.4部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例7
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)をカルボキシル基含有ニトリルゴム(A2)に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.3部から1.8部に、それぞれ変更した以外は、実施例5と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
エチレン−ビニルアルコール共重合体を配合しないとともに、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)の配合量を90部から100部に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートの配合量を1.7部から1.9部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
比較例2
重合に用いる単量体を、アクリロニトリル20部、アクリル酸n−ブチル34部および1,3−ブタジエン46部に変更した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基を含有しないニトリルゴム(A3)を得た。得られたニトリルゴム(A3)は、ヨウ素価が8、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は54であった。また、得られたニトリルゴム(A3)は、アクリロニトリル単位20重量%、ブタジエン単位(水素化されている部分含む)47重量%、アクリル酸n−ブチル単位33重量%であった。
【0092】
そして、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)90部の代わりに、上記にて得られたニトリルゴム(A3)90部を用いるとともに、ヘキサメチレンジアミンカルバメート1.7部の代わりに、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(有機過酸化物架橋剤)40%品(商品名:Vul Cup 40KE、GEO Specialty Chemicals Inc製)9部を用い、DBUを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
比較例3
ニトリルゴム(A3)の配合量を90部から70部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)の配合量を10部から30部に、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンの配合量を9部から7部に、それぞれ変更した以外は、比較例2と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
比較例4
重合に用いる単量体を、アクリロニトリル37部、および1,3−ブタジエン63部に変更した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基を含有しないニトリルゴム(A4)を得た。得られたニトリルゴム(A4)は、ヨウ素価が7、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は55であった。また、得られたニトリルゴム(A4)は、アクリロニトリル単位36%、ブタジエン単位(水素化されている部分含む)64%であった。
そして、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A3)90部の代わりに、上記にて得られたニトリルゴム(A4)90部を用いた以外は、比較例2と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
比較例5
ニトリルゴム(A4)の配合量を90部から70部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B1)の配合量を10部から30部に、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンの配合量を9部から7部に、それぞれ変更した以外は、比較例4と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A1)または(A2)に、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を配合してなるゴム組成物を用いて得られる架橋物は、機械的特性、耐油性、耐寒性および耐圧縮永久歪み性に優れる結果となった(実施例1〜7)。
【0098】
一方、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を配合しない場合には、引張強さおよび耐油性に劣る結果となった(比較例1)。
さらに、ニトリルゴムとして、カルボキシル基を含有しないニトリルゴム(A3)を用いた場合には、引張強さ、および、耐圧縮永久歪み性が劣る結果となった(比較例2)。また、ニトリルゴムとして、カルボキシル基を含有しないニトリルゴム(A4)を用いた場合には、耐圧縮永久歪み性が劣る結果となった(比較例4)。
そして、カルボキシル基を含有しないニトリルゴム(A3)または(A4)を用い、かつ、エチレン−ビニルアルコール共重合体を実施例3と同じ量配合した場合には、架橋物の発泡が激しく、評価不能であった(比較例3,5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、エチレン含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と、を含有してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜60重量%、カルボキシル基含有単量体単位0.1〜20重量%および共役ジエン単量体単位15〜89.9重量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)が、さらにα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位5〜60重量%を含有することを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対し、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を5〜100重量部含有してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物と、ポリアミン系架橋剤とを含有してなる架橋性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなる架橋物。
【請求項7】
シール用ゴム部材、ベルト、ホースまたはガスケットである請求項6に記載の架橋物。
【請求項8】
前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)とを、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の融点以上の温度で混練することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−213842(P2011−213842A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82747(P2010−82747)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】