説明

ゴム組成物及びその製造方法、並びに空気入りタイヤ

【課題】アミン系老化防止剤によるゴム表面の変色を抑制して外観性を改善することができ、更に耐熱劣化性を長時間持続することができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】アミン系老化防止剤と無機粒子を前記アミン系老化防止剤の融点未満の温度で複合化させることにより、前記アミン系老化防止剤の粒子表面を覆うように当該粒子表面に前記無機粒子が担持された複合体を作製し、該複合体をジエン系ゴムからなるゴム成分に添加し混練することによりゴム組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に配合する老化防止剤、及びそれを配合したゴム組成物、並びにその製造方法に関するものである。また、該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、長期間使用中に、大気中の酸素やオゾンまた繰り返し屈曲や熱などにより劣化することで、サイドウォール部やトレッド部の溝底に亀裂が生じ、これが耐久性を悪化させる原因となる。そのため、耐屈曲疲労性、耐オゾン性、耐熱劣化性などを改良するために、タイヤ用ゴム組成物には、これらの性能に優れるアミン系老化防止剤が一般に配合されている。しかしながら、アミン系老化防止剤は、タイヤを茶色あるいは茶褐色に変色させていくため、その外観が悪くなり、タイヤの商品価値が低下するという問題がある。
【0003】
アミン系老化防止剤による変色を防止するために、例えば、下記特許文献1には、ジエン系ゴムに対し、アミン系老化防止剤とともに比表面積の高い無機多孔質粒子を配合することが提案されている。しかしながら、この文献では、ゴム組成物を調製する際に、アミン系老化防止剤と無機多孔質粒子をそれぞれジエン系ゴムに添加し混練している。そのため、多孔質粒子の内部に老化防止剤はほとんど入っていかず、多孔質粒子から老化防止剤を徐々に放出させる効果が不十分で、耐熱劣化性の改良効果も小さい。
【0004】
下記特許文献2には、無機粉体を含有する樹脂および老化防止剤を混合してなる粒状物をゴム成分に配合することにより、老化防止剤による変色を防止することが開示されている。しかしながら、この文献では、無機粉体を含有する樹脂を老化防止剤と混ぜるものであり、その混合方法としては密閉式混練機や押出機(実施例ではプラストミル)を用いているため、アミン系老化防止剤は混合時に溶融してしまう。そのため、アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体については開示されていない。
【0005】
また、下記特許文献3には、ジエン系ゴムからなるゴム成分に、アミン系老化防止剤とフェノール系老化防止剤と白色充填剤を事前に混合させた混合物を配合することにより、外観性と耐酸化劣化性を長期間持続させることが開示されている。しかしながら、この文献も基本的には老化防止剤を溶融して白色充填剤と混合するものであり、アミン系老化防止剤の粒子表面を覆うように当該粒子表面に無機粒子を担持させた複合体については開示されていない。
【0006】
なお、下記特許文献4には、シリカに予め溶融した老化防止剤を吸着させたゴム用薬品マスターバッチをジエン系ゴムに配合してゴム組成物を得ることが開示されている。しかしながら、この文献は、ゴム組成物の混練時に、溶融した老化防止剤によってスリップ現象が生じ、混練効率が悪化するのを防止するために、マスターバッチ化するものであり、アミン系老化防止剤に起因する変色の抑制による外観性の向上や長期老化性の向上を目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−037926号公報
【特許文献2】特開2002−012706号公報
【特許文献3】特開2011−063718号公報
【特許文献4】特開平11−092570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、アミン系老化防止剤によるゴム表面の変色を抑制して外観性を改善することができ、更に耐熱劣化性を長時間持続することができるゴム組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討していく中で、アミン系老化防止剤を溶融させずに無機粒子と複合化し、アミン系老化防止剤の表面を無機粒子で覆うことにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、第1に、アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体を、ジエン系ゴムからなるゴム成分に配合してなるゴム組成物に関するものである。また、第2に、該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関するものである。また、第3に、アミン系老化防止剤と無機粒子を前記アミン系老化防止剤の融点未満の温度で複合化させることにより、前記アミン系老化防止剤の粒子表面に前記無機粒子が担持された複合体を作製し、該複合体をジエン系ゴムからなるゴム成分に添加し混練することを特徴とするゴム組成物の製造方法に関するものである。更に、第4に、アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体からなるゴム配合用老化防止剤に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体をゴム成分に配合することにより、表面に担持された無機粒子によってアミン系老化防止剤がゴム表面に過剰にブリードすることによる変色を抑え、長期にわたって外観性を保持することができる。また、アミン系老化防止剤が徐々に放出されることにより、耐熱劣化性を長期間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に係る複合体のSEMによる表面分析の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分、及び、アミン系老化防止剤と無機粒子との複合体からなるゴム配合用老化防止剤、を含有するものである。
【0015】
上記ゴム成分となるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。上記ゴム成分は、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、又はこれらの2種以上のブレンドである。
【0016】
上記ゴム配合用老化防止剤としては、アミン系老化防止剤の粒子表面を覆うように当該粒子表面に無機粒子を担持させた複合体が用いられる。ここで、担持とは、微粒子状の無機粒子が、粒径のより大きなアミン系老化防止剤の粒子表面に保持されていることを意味する。このような複合体であると、表面に担持された無機粒子によって、アミン系老化防止剤がゴム表面に過剰にブリードすることを抑制することができ、そのため、アミン系老化防止剤による変色を抑えて外観性を向上することができる。また、アミン系老化防止剤が徐々にブリードすることにより、アミン系老化防止剤の機能である耐熱劣化性等を長時間持続することができる。しかも、このような無機粒子を担持させた複合体であれば、ゴム組成物の初期物性に対する悪影響を抑えることができる。なお、無機粒子は、アミン系老化防止剤の粒子表面の全体を必ずしも覆っていなくてもよいが、好ましくは粒子表面の全体を実質的に覆うことである。
【0017】
上記アミン系老化防止剤としては、常温(25℃)で固体の芳香族第2級アミンが好ましく用いられる。具体的には、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのp−フェニレンジアミン系老化防止剤、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、スチレン化ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系老化防止剤、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、p−フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましく、より好ましくはN−アルキル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(但し、アルキルとは炭素数3〜6のアルキル基)である。
【0018】
また、アミン系老化防止剤としては、粉末状のものが用いられる。アミン系老化防止剤の中には粉末状の形態で市販されているものがあり、そのような市販のアミン系老化防止剤をそのまま用いてもよく、あるいはまた、例えばペレット状のように塊状で市販されているアミン系老化防止剤を粉砕することで粉末状として使用してもよい。アミン系老化防止剤の粒径は特に限定されないが、平均粒子径が1〜200μmであることが好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して画像を得て、この画像を用いて、無作為抽出された50個の粒子の直径(後記の実施例では、MediaCybernetics社の画像処理ソフト「Image-Pro Plus」を用いて、粒子の外周の2点を結び、かつ重心を通る径を2度刻みに測定した平均値)を計測することにより、その相加平均として求められる。
【0019】
上記無機粒子としては、例えば、シリカ、クレー、タルク、亜鉛華、酸化チタン、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム等が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。無機粒子は、アミン系老化防止剤の粒子表面を覆うように担持されるものであるため、アミン系老化防止剤よりも粒径が十分に小さいものが用いられる。特に限定するものではないが、無機粒子は、平均粒子径がアミン系老化防止剤の1/10以下であることが好ましく、より好ましくは1/100以下である。また、無機粒子の平均粒子径は、10〜800nmであることが好ましい。
【0020】
上記無機粒子としては、アミン系老化防止剤との相性(吸着性)の面からシリカを用いることが好ましい。シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカを用いることができるが、特に、含水ケイ酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。
【0021】
上記複合体は、アミン系老化防止剤と無機粒子を、機械的手法を用いて、乾式で(即ち、アミン系老化防止剤を溶融させずに)、複合化させることにより得られる。そのためには、アミン系老化防止剤の融点未満の温度で、アミン系老化防止剤と無機粒子を複合化すればよく、これにより無機粒子により処理されたアミン系老化防止剤を得ることができる。ここで、乾式、即ちアミン系老化防止剤を溶融させないとは、アミン系老化防止剤の粒子全体が溶融した状態(即ち、液体となった状態)で無機粒子と複合化されることを排除する趣旨である。そのため、粒子表面のみが局部的に溶融して無機粒子が付着した場合は、アミン系老化防止剤は実質的には溶融しておらず、本実施形態に含まれる。本実施形態では、このようにアミン系老化防止剤の粒子表面が局部的に溶融することにより無機粒子が固着していてもよく、アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子の一部がめり込むことで保持されていてもよく、あるいは両者の物質間の相互作用等によりアミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子が付着していてもよい。
【0022】
上記複合化するための機械的手法としては、例えば、ボールミル、媒体攪拌ミル、ハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所)、メカノマイクロス(株式会社奈良機械製作所)、シータ・コンポーザ(株式会社徳寿工作所)、コスモスシステム(川崎重工業株式会社)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン株式会社)、三井ヘンシェルミキサー(三井鉱山)等が挙げられる。これらの中でも、複合化時の発熱性の面から、冷却可能なミキサータイプ、特には、円筒状容器内でブレードが高速回転するヘンシェルミキサーが好ましい。
【0023】
このようにして得られる複合体は、特に限定するものではないが、平均粒子径が100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。平均粒子径の下限については、特に限定されないが、500nm以上である。
【0024】
該複合体において、アミン系老化防止剤と無機粒子の比率は、特に限定されないが、アミン系老化防止剤100質量部に対して、無機粒子が30〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜250質量部である。無機粒子の配合量が少なすぎると、アミン系老化防止剤の粒子表面を十分に覆うことが難しくなり、逆に、無機粒子を過剰量加えても、アミン系老化防止剤を覆わないフリーの無機粒子が増えるだけで、外観性や耐熱劣化性の更なる改良効果は得にくいからである。
【0025】
該複合体のゴム成分に対する配合量は、次のように設定されることが好ましい。すなわち、複合体は、上記ゴム成分100質量部に対してアミン系老化防止剤が0.5〜8質量部、無機粒子が0.5〜20質量部となるように、ゴム成分に添加されることが好ましい。アミン系老化防止剤の含有量を0.5質量部以上とすることで、耐熱劣化性や耐オゾン性等の本来の性能をより高めることができる。また、アミン系老化防止剤の含有量を8質量部以下とすることで、外観性の改善効果を高めることができる。アミン系老化防止剤の含有量は、より好ましくは1〜6質量部であり、更に好ましくは2〜5質量部である。一方、複合体として配合される無機粒子の量については、0.5質量部以上とすることで、複合化による外観性や耐熱劣化性の効果を高めることができる。また、無機粒子は、過剰量加えても、アミン系老化防止剤を覆わないフリーの粒子が増えるだけで外観性や耐熱劣化性は改良されず、逆に無機粒子の多量配合による作業の悪化や発熱性の悪化等が起こるので、20質量部以下であることが好ましい。無機粒子の含有量は、より好ましくは1〜15質量部であり、更に好ましくは2〜10質量部である。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物には、カーボンブラックやシリカなどの一般にゴム組成物において配合される補強性充填剤を配合することができる。補強性充填剤の配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部である。なお、ここでいう補強性充填剤の配合量には、上記複合体中に含まれる無機粒子の量は含まれない。
【0027】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、オイル等の軟化剤、ステアリン酸、亜鉛華、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業において一般に使用される各種添加剤を必要に応じて配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0028】
該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製することができる。例えば、第1混練段階で、ゴム成分に対し、上記複合体とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を加えて混練し、次いで、得られた混練物に、最終混練段階で、加硫剤と加硫促進剤を添加し混練することによりゴム組成物を得ることができる。
【0029】
このようにして得られたゴム組成物は、例えば、トレッドやサイドウォール、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができるが、好ましくは、空気入りタイヤのゴム部分に用いることである。特には、空気入りタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることが好ましく、より好ましくはサイドウォールゴムに用いることであり、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを作製することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
下記実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0032】
・アミン系老化防止剤(6C):N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD、融点:44℃、大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」)を、ヘンシェルミキサー(1500rpmで5分間)により粉砕した粉末状のものを使用(平均粒子径=40μm)
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(平均粒子径(1次粒子径)=20nm)
・亜鉛華:三井金属工業(株)製「1号亜鉛華」(平均粒子径(1次粒子径)=200nm)
・中空多孔質シリカ:鈴木油脂工業(株)製「ゴッドボールB−6C」
・天然ゴム:RSS3号
・ブタジエンゴム:宇部興産(株)製「BR150B」
・カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」
・ステアリン酸:花王(株)製「工業用ステアリン酸」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤:NS、大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーNS−P」
【0033】
評価方法は以下の通りである。
【0034】
・外観性:試験片を屋外で日光に照射させ、照射前(屋外曝露0日)、20日後(屋外曝露20日)、及び40日後(屋外曝露40日)における試験片の表面を目視により観察して、下記の基準で外観性を評価した。
◎:表面が黒く、ほとんど変色なし
○:わずかに茶色または白色に変色している
△:やや茶色または白色に変色している
×:茶褐色または白色に変色している
【0035】
・初期破断強度:熱履歴を与えていない試験片をJIS K6251に準拠して引張試験を行い、破断時の強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破断強度が高く、良好である。
【0036】
・耐熱劣化性(老化後の破断伸び保持率):試験片を、90℃に温度調節したギヤーオーブン中にて192時間加熱して熱履歴を与えた後、JIS K6251に準拠した引張試験を行って破断伸びを測定し、老化前の破断伸びに対する老化後の破断伸びの保持率(=100×(老化後の破断伸び/老化前の破断伸び))を求めた。該保持率について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、耐熱劣化性に優れることを意味する。
【0037】
実施例及び比較例で用いた複合体を以下のようにして調製した。
【0038】
・複合体A:アミン系老化防止剤(6C)と無機粒子としてのシリカを、質量比で6C/シリカ=1/1の割合で、ヘンシェルミキサーに投入し、1500rpmで15分間、攪拌処理することにより複合体Aを得た。その際、ヘンシェルミキサーのジャケットに冷却水を流して処理温度を40℃に維持することにより、アミン系老化防止剤の溶融させずに複合化した。得られた複合体AをSEM観察したところ、図1に示すように、アミン系老化防止剤の粒子表面に無数のシリカ微粒子が付着しており、アミン系老化防止剤の粒子表面を覆うようにシリカが担持された複合体となっていた。得られた複合体の平均粒子径は15μmであった。
【0039】
・複合体B:無機粒子としてシリカの代わりに亜鉛華を用い、両者の質量比を6C/亜鉛華=1/1として、その他は複合体Aと同様にして複合体Bを作製した。
【0040】
・複合体C:アミン系老化防止剤(6C)とシリカの質量比を6C/シリカ=1/2とし、その他は複合体Aと同様にして複合体Cを作製した。
【0041】
・複合体D(マイクロカプセル):オイルバスにて溶融させたアミン系老化防止剤(6C)に対し、中空多孔質シリカを添加し混合攪拌することにより、中空多孔質シリカ内にアミン系老化防止剤を内包(マイクロカプセル化)させた複合体Dを得た(6Cの含有率=40質量%)。
【0042】
・複合体E(溶融法):アミン系老化防止剤(6C)と無機粒子としてのシリカを、質量比で6C/シリカ=1/1の割合で、ヘンシェルミキサーに投入し、1500rpmで15分間、攪拌処理した。その際、ヘンシェルミキサーのジャケットを70℃に加熱し、アミン系老化防止剤が溶融する温度で複合化することにより、溶融したアミン系老化防止剤とシリカが複合一体化した複合体Eを得た。
【0043】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤサイドウォール用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、ゴム成分に対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、実施例及び比較例の各ゴム組成物を調製した。
【0044】
このようにして得られた各ゴム組成物について、160℃×30分で加硫して厚さ2mmの試験片を作製し、得られた試験片を用いて、外観性、初期破断強度及び耐熱劣化性を評価した。
【0045】
結果は、表1に示す通りであり、アミン系老化防止剤単独使用の比較例1に対し、アミン系老化防止剤とシリカを単に併用した比較例2では、外観性と耐熱劣化性の改良効果は見られなかった。比較例3は、上記特許文献1に記載された従来技術に相当し、アミン系老化防止剤と中空多孔質シリカを配合したものであり、外観性と耐熱劣化性に改善効果は見られたものの、中空多孔質シリカを用いたことにより初期の破断強度の低下が大きかった。比較例4は、中空多孔質シリカを用いてマイクロカプセル化した複合体Dを用いたものであり、外観性と耐熱劣化性は改善したものの、初期の破断強度の低下が大きかった。比較例5は、アミン系老化防止剤を溶融させた状態でシリカと複合化した複合体Eを用いたものであり、初期破断強度の低下はなかったものの、外観性と耐熱劣化性の改良効果が小さかった。
【0046】
これに対し、アミン系老化防止剤の粒子表面にシリカを担持させた複合体Aを用いた実施例1であると、比較例1に対し、初期の破断強度を低下させることなく、外観性と耐熱劣化性が顕著に向上していた。アミン系老化防止剤の粒子表面に亜鉛華を担持させた複合体Bを用いた実施例2でも同様に、初期の破断強度を低下させることなく、外観性と耐熱劣化性が向上していた。実施例1との比較から、担持させる無機粒子としては亜鉛華よりもシリカの方が向上効果に優れていた。実施例3では、アミン系老化防止剤に処理するシリカ量を増量することで、実施例1に対して耐熱劣化性が更に向上していた。
【0047】
アミン系老化防止剤の配合量を増やした系において、比較例6では、比較例1に対し、耐熱劣化性は改良したものの、外観性が悪化していた。比較例6に対し、単にシリカを併用した比較例7では、外観性と耐熱劣化性の改良効果は見られなかった。これに対し、アミン系老化防止剤の粒子表面にシリカを担持させた複合体を用いた実施例4であると、比較例6,7に対して、初期の破断強度を低下させることなく、外観性と耐熱劣化性がともに改良されていた。また、実施例4であると、実施例1,3に対しても耐熱劣化性が改良されていた。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体を、ジエン系ゴムからなるゴム成分に配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記複合体は、前記アミン系老化防止剤と前記無機粒子を前記アミン系老化防止剤の融点未満の温度で複合化してなるものである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記複合体は、前記ゴム成分100質量部に対して、前記アミン系老化防止剤が0.5〜8質量部及び前記無機粒子が0.5〜20質量部含有するよう配合されたことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記無機粒子が、シリカ、クレー、タルク、亜鉛華、酸化チタン、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【請求項6】
アミン系老化防止剤と無機粒子を前記アミン系老化防止剤の融点未満の温度で複合化させることにより、前記アミン系老化防止剤の粒子表面に前記無機粒子が担持された複合体を作製し、該複合体をジエン系ゴムからなるゴム成分に添加し混練することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
アミン系老化防止剤の粒子表面に無機粒子を担持させた複合体からなるゴム配合用老化防止剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14730(P2013−14730A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150302(P2011−150302)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】