説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】良好な排水性を保持しつつ、得られるタイヤの耐破壊力を向上させることが可能なゴム組成物及びこれを用いたタイヤを提供すること。
【解決手段】本発明のゴム組成物は、ゴム成分と親水性樹脂からなる繊維とを含有し、かつ前記繊維の表面に接着剤層が形成されてなることを特徴とし、前記親水性樹脂は、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含むのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な排水性を保持しつつ、優れた耐破壊力を発揮し得るゴム組成物及びこれを用いたタイヤに関し、特には、氷上性能に優れたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の安全性を向上させる観点から、乾燥路面のみならず、湿潤路面、氷雪路面等の様々な路面上でのタイヤの制動性や駆動性を向上させるために、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、タイヤの氷雪路面上での性能を向上させるべく、特許文献1〜2では、樹脂を含む繊維を配合したゴム組成物をトレッドに用い、加硫後にこの樹脂により被覆された長尺状の気泡を形成させ、トレッドが摩耗するにしたがってこの長尺状の気泡が排水溝として機能することで、排水性の向上を図るタイヤが開示されている。また、こうした樹脂に親水性のものを採用し、水との親和性を活用してさらに良好な排水性を発揮させることも行われつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−60770号公報
【特許文献2】特開2001−233993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、親水性の樹脂であると、疎水性であるゴム中に均一に分散接着させるのが困難であるため、仮に長尺状の気泡を形成させることで排水性が向上したとしても、得られるタイヤの耐破壊力が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、良好な排水性を保持しつつ、得られるタイヤの耐破壊力を向上させることが可能なゴム組成物及びこれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、接着剤層が形成された繊維(複合体)を含有するゴム組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゴム成分と親水性樹脂からなる繊維とを含有し、かつ前記繊維の表面に接着剤層が形成されてなることを特徴とする。
【0008】
前記親水性樹脂は、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含むのが望ましく、また−OH、−COOH、−OCOR(Rはアルキル基)、−NH2、−NCO、−SHからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を含むのが望ましい。
さらに、前記親水性樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、又は、アクリル系樹脂であってもよい。
【0009】
前記接着剤層を形成する接着剤に含まれる成分は、前記ゴム成分及び前記親水性樹脂の双方と水素結合又は共有結合を形成しているのが好ましく、シランカップリング剤、アクリル酸、α−オレフィン無水マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、レゾルシン・ホルマリンラテックス、エポキシ樹脂、クロロスルホン化ポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分であるのが好ましい。
さらに、上記ゴム組成物は発泡剤を含有していてもよい。
本発明の加硫ゴムは、上記ゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1〜60%であることを特徴とする。前記発泡率は、1〜50%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のゴム組成物の製造方法は、ゴム成分、親水性樹脂からなる繊維、及び接着剤を一度に混合することを特徴とし、親水性樹脂からなる繊維の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜100質量部であるのが望ましく、接着剤の配合量が、前記親水性樹脂100質量部に対して、0.01〜100質量部であるのが望ましい。
さらに、本発明のゴム組成物の製造方法は、予め表面に接着剤を塗布した親水性樹脂からなる繊維と、ゴム成分とを混合することを特徴とし、前記繊維の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.01質量部〜100質量部が望ましく、0.01質量部〜50質量部がより望ましい。
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物、又は上記加硫ゴムを用いることを特徴とし、これをトレッド部材に用いてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム組成物によれば、表面に接着剤層が形成された親水性樹脂からなる繊維の作用により、良好な排水性を保持しつつ、得られるタイヤに優れた耐破壊力を付与することができる。したがって、かかるタイヤは、湿潤路面や氷雪路面上での制動性及び耐摩耗性のバランスが向上されてなり、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、具体的に説明する。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と親水性樹脂からなる繊維とを含有し、かつ前記繊維の表面に接着剤層が形成されてなることを特徴としている。
【0013】
本発明のゴム組成物に用いるゴム成分としては、特に制限はなく、天然ゴム(NR)の他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムを使用することができ、なかでも天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)が好ましい。これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明のゴム組成物は、表面に接着剤層が形成された親水性樹脂からなる繊維を含有する。繊維に親水性樹脂を採用することにより、水との親和性を充分に確保することができ、得られるタイヤに優れた排水性を付与するのに大きく寄与することとなる。こうした親和性はゴム成分中における繊維の良好な分散性を阻害しかねないものの、後述するように繊維の表面に接着剤層を形成することで、ゴム成分中における繊維の分散性及び接着性を極めて有効に向上させることができ、得られるタイヤに良好な排水性を保持させつつ優れた耐破壊力を付与することが可能となる。
【0015】
親水性樹脂としては、水との間に親和性を発揮し得る樹脂、すなわち分子内に親水性基を有する樹脂であれば特に限定されないが、具体的には、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含む樹脂であるのが好ましく、例えば、−OH、−COOH、−OCOR(Rはアルキル基)、−NH2、−NCO、−SHなる置換基を少なくとも1種含む樹脂が挙げられる。これらの置換基のなかでも、−OH、−COOH、−OCOR、−NH、−NCOが好ましい。
【0016】
上記親水性樹脂としては、より具体的には、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸或いはそのエステル、ポリエチレングリコール、カルボキシビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、メルカプトエタノール等が挙げられる。なかでも、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体がより好ましい。
【0017】
本発明で用いる上記親水性樹脂からなる繊維は、公知の製造、すなわち、親水性樹脂を溶融紡糸して未延伸糸を形成し、かかる未延伸糸を熱延伸しながら繊維状にする方法を採用することにより製造される。得られる繊維の平均長さは通常0.1〜500mm、好ましくは0.1〜7mm、平均径は通常0.001〜2mm、好ましくは0.005〜0.5mm、であるのが望ましい。平均長さ及び平均径が上記範囲内であると、繊維同士が必要以上に絡まるおそれがなく、良好な分散性を阻害するおそれもない。また、アスペクト比は通常10〜4000、好ましくは50〜2000であるのが望ましい。なお、アルペクト比とは、繊維の長軸の短軸に対する比を意味する。
【0018】
また、上記親水性樹脂からなる繊維の配合量は、ゴム成分100質量部に対し、通常0.1〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部の量であるのが望ましい。上記範囲内の配合量とすることにより、良好な排水性とゴム成分中における優れた分散性とを効果的に兼ね備えることができる。
【0019】
上記親水性樹脂からなる繊維の表面は、接着剤層が形成されてなる。接着剤層を形成することで、樹脂自体が有する親水性を有効に保持しつつ、繊維近傍のゴム成分との良好な親和性を発揮することができる。すなわち、ゴムと繊維との接着性を充分に確保することが可能となるので、ゴム成分中における繊維が、加硫工程中或いは成形後のタイヤでの作動中においても、加熱或いは外力や応力の付加等によって流動性を帯びてゴム成分中に偏在するのを抑制し、ゴム成分中での繊維の分散を有効に促進することができる。したがって、良好な排水性と優れた耐破壊力が付与されたタイヤを容易に実現することが可能となる。
【0020】
上述のように繊維近傍のゴム成分との親和性を確保するにあたり、上記接着剤層に含まれる成分が、ゴム成分と親水性樹脂との双方と水素結合又は共有結合を形成するのが望ましい。このように、接着剤層に含まれる成分がゴム成分だけでなく、繊維を形成する親水性樹脂とも水素結合又は共有結合を形成することにより、ゴム成分中での繊維の偏在をより有効に抑制しつつ、ゴムと繊維との間にさらに強固な接着性を確保することができ、良好に分散された状態を保持しながらさらなる耐破壊性の向上を図ることも可能となる。
【0021】
上記成分としては、具体的には、シランカップリング剤、レゾルシン・ホルマリンラテックス、エポキシ樹脂、クロロスルホン化ポリエチレンが好適なものとして挙げられる。これらの成分は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、その他の成分として、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等のジエン系ゴムを配合してもよい。
【0022】
上記シランカップリング剤としては、通常ゴム業界で使用されるものであれば特に制限されないが、具体的には、例えば、下記式(1)〜(7)に示されるようなシランカップリング剤が挙げられるほか、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤も挙げられる。
【0023】
【化1】

(式(1)中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、pは硫黄原子の平均数を示す、p>2の整数である。)
【0024】
【化2】

(式(2)中、n、mは式(1)と同義であり、qは硫黄原子の平均数を示し、q<pの整数である。)
【0025】
【化3】

(式(3)中、Aは炭素数1〜20のアルコキシ基又は塩素原子であり、Bは炭素数1〜20のアルキル基であり、Xは炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基或いは炭素数7〜15のアリーレン基であり、X1は炭素数1〜20の飽和又は不飽和アルキル基或いは炭素数6〜15のアレーンジイル基である。Dは、A、B又は−[O(XO)n0.5−基であり、nは1〜5の整数で分布を有することがあり、Xは前記と同様である。a、b及びdは、0≦a≦3.0≦b≦2.0≦d≦1.5、かつ、a+b+2d=3の関係を満たす数である。)
【0026】
【化4】

(式(4)中、A、D、X、a、b、dは式(3)に記載されたものから選択され、式(3)と同一でなくてもよく、BはA、又は炭素数1〜20のアルキル基、或いは、Xは炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基或いは炭素数7〜15のアリーレン基である。)
【0027】
【化5】

(式(5)中、R5は−Cl、−Br、R10O−、R10C(=O)O−、R1011C=NO−、R1011N−又は−(OSiR1011m(OSiR91011)(ただし、R10及びR11は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である。)、R6はR5、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、R7はR5、R6又は−[O(R12O)a0.5−基(ただし、R12は炭素数1〜18のアルキレン基、aは1〜4の整数である。)、R8は炭素数1〜18の二価の炭化水素基、R9 は炭素数1〜18の一価の炭化水素基を示し、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である。)
【0028】
【化6】

(式(6)中、R13は炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zaはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−0−]0.5、[−0−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zbはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zcはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR14、R14C(=O)O−、R1415C=NO−、R1415N−、R14−、HO−G−O−で表される官能基であり、R、Gは上記表記と一致する。m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0<w≦1であり、かつ1/2u+v+2w=2又は3である。
(I)部が複数である場合、複数の(I)部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、(II)が複数である場合、複数の(II)部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい。)
【0029】
【化7】

(式(7)中、R14はR19O−、R19C(=O)O−、R1920C=NO−、R1920N−又は−(OSiR1920m(OSiR181920)(ただし、R19及びR20は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、である。)R15はR14、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、R16はR14、R15又は−[O(R21O)a]0.5 −基(ただし、R21は炭素数1〜18のアルキレン基、aは1〜4の整数である。)、R17は炭素数1〜18の二価の炭化水素基、R18は炭素数1〜18の一価の炭化水素基を示し、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である。)
【0030】
なお、本発明のゴム組成物に、表面に接着剤層が形成された親水性樹脂からなる繊維を含有させるにあたり、後述するように、ゴム成分とともに親水性樹脂からなる繊維と接着剤とを一度に混合して混練り等してもよく、予め親水性樹脂からなる繊維の表面に接着剤を塗布することにより接着剤層を形成した後、この繊維をゴム成分に配合して混練り等してもよい。ゴム成分とともに親水性樹脂からなる繊維と接着剤とを一度に混合する際、接着剤の配合量は、親水性樹脂100質量部に対し、通常0.01〜100質量部、好ましくは0.01〜40質量部の量であるのが望ましい。接着剤の配合量が上記範囲内であると、併せて混合した親水性樹脂からなる繊維の表面に有効に接着剤層を形成させることが可能となる。一方、予め表面に接着剤層を形成した親水性樹脂からなる繊維をゴム成分に配合する場合、ゴム成分100質量部に対し、通常0.01〜30質量部、好ましくは0.01〜20質量部の量であるのが望ましい。予め表面に接着剤層を形成した親水性樹脂からなる繊維の配合量が上記範囲内であると、良好な排水性を保持しつつ、充分な耐破壊性を付与することが可能となる。
【0031】
本発明のゴム組成物は、さらに発泡剤を含有してもよい。発泡剤を含有することにより、加硫工程中に発泡剤から発生したガスをゴム内に散在させたり、またかかるガスを溶融した親水性樹脂の内部に侵入させて繊維の形状に連動した形状を有する気泡を形成させたりすることができる。このような気泡がゴム内に存在することにより、タイヤが摩耗するにつれて排水溝としての機能を発揮させることができ、タイヤにより優れた排水性を付与することが可能となる。特に、繊維の形状に連動した形状を有する気泡が形成されれば、より好適に排水溝としての機能を発揮できる。
【0032】
上記発泡剤としては、具体的には、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。なかでも、製造加工性の観点から、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましく、アゾジカルボンアミド(ADCA)がより好ましい。これら発泡剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、該発泡剤の配合量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲が好ましい。なお、上記発泡剤は、上記繊維中に含ませてもよい。
【0033】
また、上記発泡剤には、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等を併用するのが望ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。発泡助剤を併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、上記発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、通常1〜50%、好ましくは5〜40%である。発泡剤を配合した場合、発泡率が大きすぎるとゴム表面の空隙も大きくなり、充分な接地面積を確保できなくなるおそれがあるが、上記範囲内の発泡率であれば、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、上記加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(I)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ0/ρ1−1)×100(%)・・・(I)
式(I)中、ρ1は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm3)を示し、ρ0は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm3)を示す。
【0035】
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分に、親水性樹脂からなる繊維とともに、必要に応じて上記発泡剤及び発泡助剤のほか、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック等の充填剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0036】
本発明のゴム組成物の製造方法の一態様は、上記ゴム成分、親水性樹脂からなる繊維及び接着剤を一度に混合することを特徴とする。その後、混練等の工程を経る間に、疎水性のゴム成分と親水性樹脂との双方に適度な親和性を有する接着剤が、その特性からゴム成分と親水性樹脂との間隙に入りこみ、結果的にゴム成分中に分散した親水性樹脂からなる繊維の表面に接着剤層が形成された状態となる。この方法により、親水性樹脂からなる繊維の表面に接着剤層を形成するための新たな工程を付加することなく、簡易な工程を経ることによって本発明のゴム組成物又は加硫ゴムを得ることができる。
【0037】
一方、本発明のゴム組成物の製造方法の他の態様は、予め表面に接着剤を塗布した親水性樹脂からなる繊維と、ゴム成分とを混合することを特徴とする。接着剤を塗布した親水性樹脂からなる繊維は、常法により乾燥工程等を経ることにより、その繊維表面に接着剤層が形成される。このように、ゴム成分と混合する前に、事前に親水性樹脂からなる繊維の表面に接着剤を塗布することにより、その後に経る混練等の工程に左右されることなく、繊維表面における接着剤層の形成をより確実なものとすることができる。
【0038】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物、又は加硫工程を経た後の上記加硫ゴムを用いることを特徴とする。上記タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。タイヤの各種部材のなかでも、良好な排水性と優れた耐破壊力を充分に発揮できる観点から、トレッド部材に適用するのが好ましい。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例における評価は、以下の内容に従って行った。
【0040】
《ゴム−繊維間の接着力》
繊維100本を束ねて30回/10cmとなるように撚り合せた後、ゴム中に埋め込み、これを加硫して得られた試料から繊維を引き抜くのに要した引張力(kgf/インチ)を@RT(室温)で測定し、これをゴム−繊維間の接着力とみなし、実施例1を100として評価した。なお、発泡剤を配合した場合には、予め発泡剤を抜いて試験を行った。
【0041】
《分散性》
マイクロスコープ(VHX−500、(株)キーエンス製)を用い、倍率100倍のときの画面に存在する繊維の数を測定し、これを同一ゴム中で10箇所の異なる場所で測定し、繊維の数の標準偏差分散性を評価した。
【0042】
《発泡率》
上述した式(I)により算出した。
【0043】
《引張強度(Tb)》
JIS K 6301に準拠して、引張強度(MPa)を求めた。
【0044】
《発泡率補正後引張強度》
下記式(II)に従って、得られた上記引張強度の値から発泡率0%のときの引張強度を算出した。
発泡率補正後引張強度=引張強度/{(100−発泡率)/100} (MPa)
【0045】
《破断伸び(Eb)》
JIS K 6301に準拠して、破断伸び(%)を求めた。
【0046】
[製造例1:接着剤層が形成された繊維Aの製造]
表1の配合に従い、接着剤の各成分を混合し、25℃で24時間熟成して接着剤液を作製した。かかる接着剤液をエチレン−ビニルアルコール共重合体(ソフィスタ、(株)クラレ製)からなる繊維(平均径0.02mm、2軸押出し機で押出したもの)の表面に、繊維100質量部に対して20質量部となる量で塗布し、120℃で1分間乾燥させ、その後180℃で2分間の熱処理を施した。次いで、得られた繊維を長さ5mmにカットした。
【0047】
【表1】

【0048】
※1:日本ゼオン(株)製、Nipol 2518GL
※2:日本ゼオン(株)製、Nipol LX110
【0049】
[比較例1〜4]
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる繊維の表面に接着剤層を形成しないまま、長さ5mmにカットして繊維Bとして用い、また、ポリエチレン繊維(商品名:ダイニーマ、東洋紡株式会社製)を長さ5mmにカットして繊維Cとして用い、表2の配合に従って各成分を配合して調整し、ゴム組成物を得た。
得られた各ゴム組成物をトレッド(発泡ゴム層)に用い常法によって試験用の乗用車用ラジアルタイヤ、タイヤサイズ195/65R15を製造した。
【0050】
[実施例1〜6]
製造例1で得られた繊維Aを用い、表2〜3の配合に従って各成分を配合して調整し、ゴム組成物を得た。
得られた各ゴム組成物をトレッド(発泡ゴム層)に用い常法によって試験用の乗用車用ラジアルタイヤ、タイヤサイズ195/65R15を製造した。
【0051】
《耐摩耗性(指数値)》
前記試験用のタイヤ(195/65R15)を用いた実車にて舗装路面を1万km走行後、残溝を測定し、トレッドが1mm摩耗するのに要する走行距離を相対比較し、表2に示される値については、比較例1のタイヤ、を100として指数表示した。指数が大きい程、耐摩耗性が良好なことを示す。評価結果を表2に示す。
【0052】
《氷上性能(指数値)》
前記得られた各ゴム組成物をトレッドに用い、常法によって製造した試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を国産1600CCクラスの乗用車に4本を装着し、氷温−1℃の氷上制動性能を確認した。比較例1のタイヤをコントロールして、氷上性能=(コントロールタイヤの制動距離/その他の例の制動距離)×100とした。数値の大きい方が氷上性能が優れていることを示す。評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
※3:ジ−2−ベンゾチアジル-ジスルフィド、大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」
※4:「NXT」、Momentive Performance Materials社製
【0055】
実施例1〜6は、比較例1〜5に比して、ゴム成分中における繊維の分散性が良好であるとともにゴムと繊維との接着力にも優れ、引張強度及び破断伸び共に優れた効果を発揮することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と親水性樹脂からなる繊維とを含有し、かつ前記繊維の表面に接着剤層が形成されてなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含むことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、−OH、−COOH、−OCOR(Rはアルキル基)、−NH2、−NCO、−SHからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記親水性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、又は、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記接着剤層を形成する接着剤に含まれる成分が、前記ゴム成分及び前記親水性樹脂の双方と水素結合又は共有結合を形成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記接着剤に含まれる成分が、シランカップリング剤、アクリル酸、α−オレフィン無水マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、レゾルシン・ホルマリンラテックス、エポキシ樹脂、及びクロロスルホン化ポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分であることを特徴とする請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
さらに、発泡剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1〜60%であることを特徴とする加硫ゴム。
【請求項9】
ゴム成分、親水性樹脂からなる繊維、及び接着剤を一度に混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
前記親水性樹脂からなる繊維の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜100質量部であることを特徴とする請求項9に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
前記接着剤の配合量が、前記親水性樹脂100質量部に対して、0.01〜100質量部であることを特徴とする請求項9又は10に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項12】
予め表面に接着剤を塗布した親水性樹脂からなる繊維と、ゴム成分とを混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項13】
前記予め表面に接着剤を塗布した親水性樹脂からなる繊維の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜100質量部であることを特徴とする請求項12に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物、又は請求項8に記載の加硫ゴムを用いることを特徴とするタイヤ。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物、又は請求項8に記載の加硫ゴムをトレッド部材に用いることを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2012−219242(P2012−219242A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89449(P2011−89449)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】