説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】転がり抵抗と耐摩耗性が高いレベルでバランスした空気入りタイヤを与える、カーボンブラック含有ゴム組成物、及びそれを含む空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】(A)燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域と連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られた特定の性状を有するゴム配合用カーボンブラックと、(B)天然ゴム分子のリン脂質を加水分解した後、極性基含有化合物を付加又は縮合して天然ゴム分子に極性基を導入した変性天然ゴムを含むゴム成分とを、特定の割合で含有するゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。更に詳しくは、本発明は、転がり抵抗と耐摩耗性のバランスに優れる空気入りタイヤを与える、特定のカーボンブラックと、特定のリン脂質変性天然ゴムを含有するゴム組成物、及びそれを用いてなる空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、厳密に制御された条件下において、ファーネス炉内で発生させた、あるいは、外部で発生されて炉内に導入された高温燃焼ガス中へ原料炭化水素を噴霧させ、この原料炭化水素の熱分解又は不完全燃焼により生産される産業上有用な原材料である。カーボンブラックは、ゴム配合時の組成物に対して機械的性質、特に引張り強さ、耐摩耗性などの特性を、飛躍的に向上させることができるという特異な性質を有することから、タイヤをはじめとする各種ゴム製品の充填補強材として広く用いられている。
ゴム配合用カーボンブラックは、その物理化学的特性、即ち、カーボンブラックを構成する単位粒子径、単位質量当たりの表面積(比表面積)、粒子のつながり具合(ストラクチャー)、表面性状などにより配合ゴム組成物の性能に大きな影響を与えるので、要求されるゴム性能、使用される環境などによって各種特性の異なるカーボンブラックが選択的に使用されている。
【0003】
タイヤの接地面に用いられるゴム組成物では、高速度で回転して道路と接触することによる摩耗に対する耐性(耐摩耗性)に優れていると同時に、路面との接触で生じるゴム組成物の繰り返し変形によるヒステリシスロス特性を低下させる(低発熱性)ことが重要な要素であるが、これら2つの特性は二律背反現象であることが知られている。
タイヤトレッド配合用カーボンブラックを用いて耐摩耗性を向上させる手段、例えば、より大きい比表面積、あるいはストラクチャーを有するカーボンブラックを採用した場合、上述したように、耐摩耗性と低発熱性は互いに相反する特性であり、この課題を解決するために種々の特性を有するカーボンブラックが提案されている。
【0004】
これまで、カーボンブラックにおいて、耐摩耗性を向上させる手段として、比表面積{CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)m2/g}を増加させることで、ポリマーとの接触面積を増加させ、また、DBP(ジブチルフタレート)吸収量を増加させることで、ポリマーとの相互作用を増加させることが行われている。一方、転がり抵抗を低減させる手段として、比表面積を減少させることで、ポリマーとの接触面積を低減させたり、DBP吸収量を減少させることなどが行われている。
このように、カーボンブラック特性として、耐摩耗性の向上と転がり抵抗低減を同時に達成することは困難である。
そこで、優れた耐摩耗性と優れたヒステリシス特性(低発熱性)を同時に満たすカーボンブラックとして、例えば(1)DBP吸収量(DBP)が40〜250ml/100g、(2)圧縮操作後のDBP吸収量(24M4DBP)が35〜220ml/100g、(3)CTAB吸着比表面積(CTAB)が70〜200m2/g、(4)水素放出率(%)>0.260−0.000625×(CTAB)、(5)トルエン着色透過度が90%以上の特性を有するタイヤトレッドゴム配合用カーボンブラック(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
【0005】
ところで、近年、環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出の規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に関する要求が高まりつつある。このような要求に対応するため、タイヤ性能についても転がり抵抗の低減が求められている。従来、タイヤの転がり抵抗を減少する手法として、タイヤ構造を最適化する手法も検討されてきたが、タイヤに適用するゴム組成物としてより発熱性の低いゴム組成物を用いることが、現在、最も一般的な手法として行われている。
特許文献2又は3では、転がり抵抗を低減するためにゴム成分として重合活性末端にアミノ基を導入した変性共役ジエン系重合体を用い、充填材としてカーボンブラックを用いたゴム組成物が提案されている。
【0006】
一方、天然ゴムに関しては、例えば、天然ゴムラテックスにビニル系単量体を添加してグラフト重合する技術(特許文献4〜9参照)が知られており、該技術で得られたグラフト化天然ゴムは、接着剤用途などで実用化されている。しかしながら、これらのグラフト化天然ゴムは、単量体として多量(20〜50質量%)のビニル化合物をグラフト化しているため、カーボンブラックやシリカなどの充填材を配合すると、大幅な粘度上昇を招き、加工性が低下してしまう。また、多量のビニル化合物が天然ゴム分子鎖に導入されているため、天然ゴム自身の特性を変え、天然ゴム本来の優れた物理特性(粘弾性、引張試験等における応力−歪曲線)が損なわれてしまう。そのため、該技術で得られたグラフト化天然ゴムを用いても、充填材との親和性を向上させ、補強効果を向上させることはできない。また、タイヤの耐屈曲亀裂性能及び強度を改善するためエポキシ化天然ゴムを使用することが提案されている(特許文献10参照)。
【0007】
これに対して、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体を添加し、該極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子にグラフト重合させ、更に凝固及び乾燥してなる変性天然ゴムをゴム成分として使用することで、ゴム成分と充填材との親和性を向上させてゴム組成物の補強性を改善し、ゴム組成物の低ロス性、耐摩耗性及び破壊特性を向上させる技術が開示されている(特許文献11参照)が、昨今、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を更に向上させることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−272734号公報
【特許文献2】特開平8−225604号公報
【特許文献3】特開平8−231658号公報
【特許文献4】特開平5−287121号公報
【特許文献5】特開平6−329702号公報
【特許文献6】特開平9−25468号公報
【特許文献7】特開2000−319339号公報
【特許文献8】特開2002−138266号公報
【特許文献9】特開2002−348559号公報
【特許文献10】特開2007−56205号公報
【特許文献11】国際公開第2004/106397号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来一般に、タイヤの耐摩耗性の向上には、タイヤを構成するゴム組成物に配合されるカーボンブラックの粒子径やストラクチャが支配要因として考えられており、カーボンブラックの粒子径を小さくするほど耐摩耗性が向上するが、カーボングラックの粒子径が極端に小さいとゴム中で分散不良を起こし、発熱性が増大することが知られている。かかるゴム組成物でタイヤトレッドを作製した場合、耐摩耗性には優れるが、低燃費性には劣る。即ち、カーボンブラックの粒子径において、耐摩耗性と低発熱性は二律背反の関係にある。又、ストラクチャーについても、これを増加させるほど耐摩耗性は向上する傾向にあるが、増加しすぎると加工性や耐チッピング性が低下し、更に発熱性も増大するなどの問題点がある。更に、カーボンブラック配合部数を増加させることでも耐摩耗性はある程度まで増加するが、高ストラクチャー化の場合と同様の懸念(加工性低下など)が生じる。
【0010】
本発明は、このような状況下になされたもので、転がり抵抗と耐摩耗性が高いレベルでバランスした空気入りタイヤを与える、カーボンブラック含有ゴム組成物、及びそれを含む空気入りタイヤを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のプロセスにより得られた、特定の性状を有するカーボンブラックと、特定のリン脂質変性天然ゴムを含有するゴム組成物により、その課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1](A)燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させたのち、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られたゴム配合用カーボンブラックと、(B)天然ゴム分子のリン脂質を加水分解した後、極性基含有化合物を付加又は縮合して天然ゴム分子に極性基を導入した変性天然ゴムを含むゴム成分とを含有するゴム組成物であって、
(1)前記(A)ゴム配合用カーボンブラックが、下記の関係式(1)及び(2)
10<X<40 ・・・(1)
90<Z<100 ・・・(2)
(ただし、Xは原料導入位置から、第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示し、Zは、最後の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示す。)を満たすこと、及び
(2)前記(B)ゴム成分100質量部に対して、(A)前記ゴム配合用カーボンブラックを、10〜250質量部の割合で含むこと、
を特徴とするゴム組成物、並びに
[2]上記[1]に記載のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転がり抵抗と耐摩耗性のバランスに優れる空気入りタイヤを与える、特定のカーボンブラックと、特定のリン脂質変性天然ゴムを含有するゴム組成物、及びそれを用いてなる空気入りタイヤを提供することができる。
本発明のゴム組成物を用いて得られた空気入りタイヤは、耐摩耗性に優れると共に、転がり抵抗にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ゴム配合用カーボンブラックを製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の部分縦断正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明のゴム組成物について説明する。
本発明のゴム組成物は、(A)下記の製造方法で得られ、かつ下記の性状を有するゴム配合用カーボンブラックと、(B)天然ゴム分子のリン脂質を加水分解した後、極性基含有化合物を付加又は縮合して天然ゴム分子に極性基を導入した変性天然ゴムを含むゴム成分とを含有する組成物である。
【0015】
[(A)ゴム配合用カーボンブラックの製造方法]
本発明のゴム組成物において、(A)成分として用いられるゴム配合用カーボンブラックは、燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させたのち、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより製造する。
【0016】
カーボンブラック製造炉内部は、燃焼帯域と反応帯域と反応停止帯域とを連接した構造であり、その全体は耐火物で覆われている。
カーボンブラック製造炉は、燃焼帯域として、可燃性流体導入室と、炉頭部外周から酸素含有ガス導入管によって導入された酸素含有ガスを、整流板を用いて整流して可燃性流体導入室へ導入する酸素含有ガス導入用円筒と、酸素含有ガス導入用円筒の中心軸に設置され、可燃性流体導入室へ燃料用炭化水素を導入する燃料油噴霧装置導入管とを備える。燃焼帯域内では、燃料用炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成する。
【0017】
カーボンブラック製造炉は、反応帯域として、円筒が次第に収れんする収れん室と、収れん室の下流側に例えば4つの原料油噴霧口を含む原料油導入室と、原料油導入室の下流側に反応室とを備える。原料油噴霧口は、燃焼帯域からの高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入する。反応帯域内では、高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により、原料炭化水素をカーボンブラックに転化する。
【0018】
図1は、当該ゴム配合用カーボンブラックを製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の部分縦断正面説明図であって、カーボンブラックの原料(原料炭化水素)を含んだ高温ガスが導入される反応室10及び反応継続兼冷却室11を示す。図1に示すように、カーボンブラック製造炉1は、反応停止帯域として、多段急冷媒体導入手段12を有する反応継続兼冷却室11を備える。多段急冷媒体導入手段12は、反応帯域からの高温燃焼ガス流に対して、水などの急冷媒体を噴霧する。反応停止帯域内では、高温燃焼ガス流を急冷媒体により急冷して反応を終結する。
また、カーボンブラック製造炉1は、反応帯域あるいは反応停止帯域において、ガス体を導入する装置を更に備えてもよい。ここで、「ガス体」としては、空気、酸素と炭化水素の混合物、これらの燃焼反応による燃焼ガスなどが使用可能である。
このようにして、カーボンブラック製造において、反応ガス流が反応停止帯域に入るまでの各帯域における平均反応温度と滞留時間を制御して、トルエン着色透過度X、Y及びZを所望の値にすることにより、本発明のゴム組成物に用いられるゴム配合用カーボンブラックが得られる。
【0019】
ここで、本発明における各帯域について説明する。
燃焼帯域とは、燃料と空気との反応により高温ガス流が生成される領域であり、この下流端は原料油が反応装置内に導入される点(複数位置で導入される場合は最も上流側)、例えば原料油が導入される点よりも上流側(図1では左側)を指す。
また、反応帯域とは、原料炭化水素が導入された点(複数位置の場合は最も上流側)から反応継続兼冷却室11内の多段急冷水噴霧手段12(これらの手段は反応継続兼冷却室11内で抜き差し自在であり、生産する品種、特性により使用位置は選択される)の作動(水等の冷媒体を導入する)点までを指す。すなわち、例えば第3番目の原料油噴霧口で原料油を導入し、多段急冷媒体導入手段12で水を導入した場合、この間の領域が反応帯域となる。反応停止帯域とは、急冷水圧入噴霧手段を作動させた点よりも下側(図1では右側)の帯域を指す。
図1において、反応継続兼冷却室11という名称を用いたのは、原料導入時点から前記反応停止用急冷水圧入噴霧手段の作動時点までが反応帯域、それ以降が反応停止帯域であり、この急冷水導入位置が要求されるカーボンブラック性能により移動することがあるためである。
【0020】
[(A)ゴム配合用カーボンブラックの性状]
本発明においては、前記のようにして得られたゴム配合用カーボンブラックは、下記の関係式(1)及び(2)
10<X<40 ・・・(1)
90<Z<100 ・・・(2)
を満たすことが必要である。
前記Xは、原料導入位置から、第1番目の急冷媒体導入手段(図1において、12−X)より急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示し、前記Zは、最後の急冷媒体導入手段(図1において、12−Z)により急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示す。すなわち、第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックは、トルエン着色透過度が10%より高く、40%未満であって、最後の急冷媒体導入後のカーボンブラック(ゴム配合用カーボンブラック)は、トルエン着色透過度が90%より高く、100%未満の範囲にあることが必要である。当該ゴム配合用カーボンブラックのトルエン着色透過度が90%以下であれば、該カーボンブラックは、その中に含有される重質タール成分が多く存在し、ゴムに対して十分な補強性を与えることができず、耐摩耗性が低下する。
また、前記Xが40以上であると、カーボンブラックの補強性が下がり、耐摩耗性が低下する。
【0021】
このような性状を有する(A)ゴム配合用カーボンブラックは、好ましくは、下記のように反応温度及び滞留時間を制御することにより、得ることができる。
すなわち、反応帯域内に原料が噴霧導入されてから、第1番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt1(秒)、この帯域での平均反応温度をT1(℃)とし、第1番目の急冷媒体が導入されてから、第2番目の急冷媒体導入手段(図1において、12−Y)により急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt2(秒)、この帯域での平均反応温度をT2(℃)とし、更に、第2番目の急冷媒体が導入されてから、最後の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間(即ち、反応停止帯域通過までの帯域における滞留時間)をt3(秒)、この帯域内での平均反応温度をT3(℃)とした場合、下記の関係式(3)、(4)及び(5)
2.00≦α1≦5.00 ・・・(3)
5.00≦α2≦9.00 ・・・(4)
−2.5×(α1+α2)+85.0≦β≦90.0 ・・・(5)
(ただし、α1=t1×T1、α2=t2×T2、β=t3×T3である。)
を満たすように制御することにより、好ましい当該ゴム配合用カーボンブラックを得ることができる。
【0022】
カーボンブラック製造炉1は、炉内の温度をモニターするため、任意の数箇所に熱電対を炉内に挿入できる構造を備える。平均反応温度T1、T2、T3を算出するために、各工程(各帯域)で、少なくとも2箇所、望ましくは3〜4箇所の温度を測定することが好ましい。
更に、滞留時間t1、t2、t3の算出は、公知の熱力学的計算方法によって導入反応ガス流体の体積を算出し、次式により算出するものとする。尚、原料油の分解反応及び急冷媒体による体積増加は無視するものとする。
滞留時間t1(sec)=
{原料炭化水素導入位置から第1番目の急冷媒体導入位置までの反応炉内通過容積(m3)/ 反応ガス流体の体積(m3/sec)}
滞留時間t2(sec)=
{第1番目の急冷媒体導入位置から第2番目の急冷媒体が導入されるまでの反応炉内通過容積(m3)/ 反応ガス流体の体積(m3/sec)}
滞留時間t3(sec)=
{第2番目の急冷媒体導入位置から最後の急冷媒体が導入されるまでの反応炉内通過容積(m3)/ 反応ガス流体の体積(m3/sec)}
【0023】
更に、より好ましい当該ゴム配合用カーボンブラックとして、下記の関係式(6)、(7)及び(8)
20<X<40 ・・・(6)
50<Y<60 ・・・(7)
90<Z<95 ・・・(8)
(式中、Yは第2番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度を示し、X及びZは前記と同じである。)
を満たすように制御して得られたものを好適に用いることができる。
なお、上記トルエン着色透過度は、JIS K 6218:1997の第8項B法に記載の方法により測定され、純粋なトルエンとの百分率で表示される。
【0024】
当該ゴム配合用カーボンブラックは、水素放出率が、0.3質量%を超えることが好ましい。この水素放出率が0.3質量%を超えると、本発明のゴム組成物は耐摩耗性が高く、かつ発熱性も小さくなる。該水素放出率は0.35質量%以上が好ましい。その上限は、通常0.4質量%程度である。
なお、上記水素放出率は、(1)カーボンブラック試料を105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温まで冷却し、(2)スズ製のチューブ状サンプル容器に約10mgを精秤し、圧着・密栓し、(3)水素分析装置(堀場製作所EMGA621W)でアルゴン気流下、2000℃で15分間加熱したときの水素ガス発生量を測定し、その質量分率で表示される。
【0025】
更に、当該ゴム配合用カーボンブラックは、ジブチルフタレート吸収量(DBP)が95〜220mL/100g、圧縮DBP吸収量(24M4DBP)が90〜200mL/100g、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が70〜200m2/gであるものが好ましい。
なお、ジブチルフタレート吸収量(DBP)及び圧縮DBP吸収量(24M4DBP)は、ASTM D2414−88(JIS K6217−4:2001)に記載の方法により測定され、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の体積mLで表示される。また、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、JIS K6217−3:2001に記載の方法により測定され、カーボンブラック単位質量当たりの比表面積m2/gで表示される。
【0026】
[(B)変性天然ゴムを含むゴム成分]
本発明のゴム組成物において、(B)ゴム成分に用いられる変性天然ゴムは、天然ゴムのリン脂質を加水分解したのち、極性基含有化合物を付加又は縮合して天然ゴム分子に極性基を導入してなるものである。
当該変性ゴムの製造には、原料として、天然ゴムラテックスを用いてもよいし、天然ゴム、天然ゴムラテックス凝固物及び天然ゴムカップランプの中から選ばれる少なくとも一種の固形天然ゴム原材料を用いてもよい。
【0027】
当該変性天然ゴムの原料として用いる天然ゴムラテックスとしては、特に限定されず、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白質ラテックス、及びこれらを組み合せたものなどを用いることができる。副反応を少なくするため、原料ラテックスの純度を上げて使用するのがよい。
【0028】
通常、このような天然ゴムの分子末端には、蛋白質とリン脂質が結合しており、その末端の蛋白質同士及びリン脂質同士が更に結合・会合して高次分岐構造を形成していると推測されるが、本発明においてはこの分岐を形成しているリン脂質を加水分解する。
リン脂質の加水分解は、公知の方法で行うことができ、例えば国際公開公報WO2004/052935号パンフレットに記載の方法が適用できる。
【0029】
リン脂質を加水分解する方法としては、天然ゴムラテックスにアルカリ、あるいはリパーゼ及び/又はホスホリパーゼで酵素処理することが挙げられる。
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、リパーゼ及びホスホリパーゼとしては、特に限定されず、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のものいずれでも構わない。また、リパーゼ及びホスホリパーゼは、100(U/g)以上、好ましくは1000(U/g)以上、より好ましくは10000(U/g)以上、更に好ましくは100000(U/g)以上であることが良い。このようなリパーゼ及びホスホリパーゼとしては市販品のリパーゼM「アマノ」10(天野エンザイム株式会社製)、リパーゼOF(名糖株式会社製)、ホスホリパーゼA1(三共株式会社製)などを挙げることができる。
【0030】
このような酵素処理に際しての上記リパーゼ及び/又はホスホリパーゼの添加量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して0.005〜10質量部、特に0.01〜1.0質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲の添加量であれば、天然ゴムラテックス中のリン脂質の分解が適宜行われる。
上記リパーゼ及び/又はホスホリパーゼの添加量(総量)が0.005質量部未満では、リン脂質の分解反応が不十分となり、10質量部を超えると、天然ゴムに含まれる脂肪酸が殆ど分解してゴムの伸張結晶性が低下して引張強度や耐摩耗性が低下する。
【0031】
このような酵素を添加するにあたり、他の添加剤、例えばpH調整剤としてリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸ナトリウムなどの燐酸塩や酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの酢酸塩、さらに硫酸、酢酸、塩酸、硝酸、ギ酸、クエン酸、コハク酸などの酸類又はその塩、あるいはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0032】
上記酵素処理は、通常温度70℃以下、好ましくは温度60℃以下、更に好ましくは50℃以下で処理される。酵素処理温度が70℃を超えると、天然ゴムラテックスの安定性が低下し、酵素処理中にラテックスが凝固するおそれがある。凝固後は酵素による分解効果が低下する。
【0033】
また、天然ゴムラテックスの酵素処理には、界面活性剤を併用して処理することが良い。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などが使用でき、特に、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤などが使用することが好ましい。
非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、及びアルキルポリグリコシド系などが好適である。
陰イオン界面活性剤には、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、及びリン酸エステル系などが好適である。
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、多価カルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩などが挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩などが挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩などが挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤としてはアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0034】
上記の如く酵素処理された天然ゴムラテックスは、pH調整などを行って、そのまま、あるいは遠心分離機などでゴム成分を濃縮して、極性基含有化合物との反応に使用する。
【0035】
上記の方法で得られたリン脂質加水分解天然ゴムは、天然ゴム分子鎖の末端の結合脂質が加水分解され、ヒドロキシ基を有する。ヒドロキシ基と反応する基を有する化合物と該ヒドロキシ基が、付加又は縮合することで天然ゴム分子末端に容易に極性基を導入できる。
【0036】
好ましくは天然ゴム分子末端に導入される、上記の極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、チオール基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基などを好適に挙げることができる。これら極性基は、充填材である(A)ゴム配合用カーボンブラックや、シリカなどと結合できる。
上記極性基を有する化合物としては、上記極性基の外に、ヒドロキシ基と反応する基として、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、アルコキシ基、イソシアナート基など(好ましくはカルボキシ基である。)を有する化合物が挙げられ、特に極性基含有カルボン酸が好ましく用いられる。
すなわち、当該変性天然ゴムとしては、分子末端にエステル結合で導入された極性基を有するものが、操作性の観点から好適である。
【0037】
極性基としてアミノ基を含有する化合物は、1分子中に第1アミノ基、第2アミノ基及び第3アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含有する化合物が挙げられる。これらアミノ基を有する化合物の中でも、第1アミノ基含有化合物が特に好ましい。これらアミノ基含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0038】
ここで、第1アミノ基含有化合物としては、例えば7−アミノヘプタン酸、β−アラニンなどが挙げられる。
【0039】
第2アミノ基含有化合物としては、例えば7−(エチルアミノ)ヘプタン酸などが挙げられる。
【0040】
第3アミノ基含有化合物としては、例えば7−(ジエチルアミノ)ヘプタン酸などが挙げられる。
【0041】
また、アミノ基の代わりに、含窒素複素環基であってもよく、含窒素複素環としては、例えばピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミンなどが挙げられる。含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。
例えばピリジル基を有する化合物として、イソニコチン酸などが挙げられる。
【0042】
上記ニトリル基含有化合物としては、7−シアノヘプタン酸などが挙げられ、これらニトリル基含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0043】
ヒドロキシ基含有化合物としては、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシ基を含有する化合物が挙げられる。例えばヒドロキシ基含有カルボン酸として6−ヒドロキシヘキサン酸などが挙げられる。これらヒドロキシ基含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0044】
カルボキシ基含有化合物としは、ピメリン酸などを挙げることができる。これらカルボキシ基含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0045】
エポキシ基を有する化合物としては、6−(オキシラン−2−イル)ヘキサン酸などが挙げられる。これらのエポキシ基を有する化合物は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。
【0046】
極性基含有化合物は、溶媒に可溶なものはそのまま添加してもよいし、溶液として添加してもよい。また、難溶性のものは、乳化して添加するのが好ましい。
【0047】
カルボン酸とヒドロキシ基との反応では、縮合剤を反応促進剤として用いてもよい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム型縮合剤、ベンゾトリアゾール型縮合剤、イミダゾール系縮合剤、又は極性基含有ハロゲン化カルボン酸などが使用でき、具体的には、例えばEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)、DMT−MM(4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロライド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、PYBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、HBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト)、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどがある。
【0048】
また、縮合剤の活性を上げるために、さらにHOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOSU(N−ヒドロキシスクシンイミド)、HOAT(1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール)、TBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラレート)などを加えるとよい。この中で、EDCとDMAPの組合せは高収率で反応するので望ましい。
縮合剤や促進剤は、溶媒に可溶なものはそのまま添加してもよいし、溶液として添加してもよい。また、難溶性のものは、乳化して添加するのが好ましい。
【0049】
上記ヒドロキシ基と反応する極性基含有化合物をリン脂質を加水分解した天然ゴム分子に反応させるには、該天然ゴムをトルエンなどの溶媒に溶解した溶液中に、極性基含有化合物及び反応を促進させるための縮合剤を加え、所定の温度で撹拌することで、極性基含有化合物を天然ゴム分子の末端に縮合させる。なお、極性基含有化合物のリン脂質加水分解天然ゴムヘの添加においては、予め溶媒中に乳化剤を加えてもよいし、極性基含有化合物を乳化剤で乳化した後に溶媒に加えてもよい。リン脂質加水分解天然ゴム溶液及び/又は極性基含有化合物の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0050】
ゴム組成物の加工性を低下させることなく低ロス性及び耐摩耗性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記極性基含有化合物が均一に導入されることが重要であるため、上記変性反応は、撹拌しながら行うことが好ましく、例えば、リン脂質加水分解天然ゴム及び極性基含有化合物などの反応成分を反応容器に仕込み、20〜60℃程度で2〜12時間程度反応させることで、天然ゴム分子に極性基含有化合物が縮合又は付加した変性天然ゴムが得られる。
【0051】
上記変性天然ゴムの極性基含有量は、変性天然ゴム中のゴム成分に対して0.0005〜0.2質量%の範囲が好ましく、0.005〜0.1質量%の範囲がより一層好ましい。変性天然ゴムの極性基含有量が0.0005質量%未満では、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を十分に改良できないことがある。また、変性天然ゴムの極性基含有量が0.2質量%を超えると、粘弾性、応力−歪特性(引張試験機における応力−歪曲線)などの天然ゴム本来の物理特性を大きく変えてしまい、天然ゴム本来の優れた物理特性が損なわれると共に、ゴム組成物の加工性が大幅に悪化するおそれがある。
【0052】
上記のようにして得た変性天然ゴムをアルコール、水などの貧溶媒を用いて再沈殿、回収し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤーなどの乾燥機を用いて乾燥することで、固形状態の変性天然ゴムが得られる。ここで、変性天然ゴムを回収するのに用いる再沈殿用の貧溶媒としては、特に限定されるものではなく、水、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール、アセトンや、これらの貧溶媒同士の混合溶媒が挙げられる。
【0053】
本発明のゴム組成物における(B)成分のゴム成分としては、前述した当該変性天然ゴムを、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上含むものが望ましい。ゴム成分中の変性天然ゴムの含有量が10質量%未満では、転がり抵抗と耐摩耗性のバランスに優れるゴム組成物は得られにくい。
当該変性天然ゴムと併用し得るゴム成分としては、未変性天然ゴム及び/又は合成共役ジエン系ゴムを挙げることができる。前記合成共役ジエン系ゴムとしては、例えばポリブタジンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、合成イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴムなどの中から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
【0054】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、(B)変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、(A)前述したゴム配合用カーボンブラックを、10〜250質量部の割合で含むことを要する。
前記カーボンブラックの含有量が10質量部未満では、ゴム組成物の補強効果が十分に発揮されず、所望の耐摩耗性が得られない。一方250質量部を超えると、低転がり抵抗などの所望の物性を有するゴム組成物が得られない。前記(A)成分のカーボンブラックの含有量は、(B)ゴム成分100質量部に対して、20〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部であることがより好ましい。
前記(A)成分のゴム配合用カーボンブラックは、前述の方法で製造され、かつ前述した物性を有するものが用いられるが、該カーボンブラックの形態としては、例えばFEF、SRF、HAF、ISAF、ISAF−LS、SAF、SAF−LSなどが挙げられる。
【0055】
(ゴム組成物の調製)
本発明のゴム組成物には、前記(A)ゴム配合用カーボンブラック及び(B)変性天然ゴムを含むゴム成分以外に、その他成分、例えば無機充填材、加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、シランカップリング剤などのゴム業界で通常使用される配合剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。また、上記ゴム組成物は、(A)配合ゴム用カーボンブラックと、(B)ゴム成分と、適宜選択した各種配合剤とを配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー、インテンシブミキサーなどを用いて混練り後、熱入れ、押出などすることにより調製することができる。
【0056】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに適用したことを特徴とする。ここで、本発明のタイヤにおいては、本発明のゴム組成物をトレッドに用いることが特に好ましく、上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、耐摩耗性に優れると共に、転がり抵抗が低く低燃費性にも優れる。なお、本発明のタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素などの不活性ガスが挙げられる。本発明のゴム組成物をトレッドに用いる場合は、例えばトレッド用部材に押出し加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、加硫ゴム組成物の耐摩耗性及び転がり抵抗は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)耐摩耗性
ランボーン型摩耗試験機を用い、室温におけるスリップ率が60%の摩耗量を測定し、コントロールの摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数の大きいほど、耐摩耗性に優れていることを示す。
(2)転がり抵抗(tanδ)
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度50℃、歪み5%、周波数15Hzの条件で動的損失正接(tanδ)を測定した。tanδが小さいほど、転がり抵抗が低く、低発熱性である。
また、カーボンブラックのトルエン着色透過度、水素放出率、DBP吸収量、24M4DBP吸収量及びCTAB吸着比表面積は、明細書本文記載の方法に従って測定した。
【0058】
製造例1 カーボンブラックAの製造
図1に示すカーボンブラック製造炉を用いて、カーボンブラックAを製造した。ただし、図1において多段急冷媒体導入手段12として、第1番目の急冷媒体導入手段12−X、第2番目の急冷媒体導入手段12−Y及び最後の急冷媒体導入手段12−Zからなる3段急冷媒体導入手段を用いた。
また、製造炉内の温度をモニターするため、任意の数ヶ所に熱電対を炉内に挿入できる構造を備える上記製造炉を用いた。カーボンブラック製造炉において、燃料には比重0.8622(15℃/4℃)のA重油を用い、原料油としては表1に示した性状の重質油を使用した。また、カーボンブラック製造炉の操作条件及びカーボンブラックの特性を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
製造例2及び3 カーボンブラックB及びCの製造
表2に示す操作条件を採用した以外は、製造例1と同様にしてカーボンブラックB及びCを製造した。各カーボンブラックの特性を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
製造例4 変性天然ゴムDの製造
クローン種GT−1、NH3 0.4質量%処置天然ゴムラテックスに水を加え、乾燥ゴム成分(DRC)15質量%に調整したラテックス1000gに界面活性剤としてペノールWX(花王株式会社製)1.5gを加えて攪拌し、十分分散させる。次に、リパーゼ(リパーゼM「アマノ」10:天野エンザイム株式会社製)0.15gを添加して攪拌し、十分分散させた後、15時間静置した。
このラテックスをラテックスセパレータ(斎藤遠心工業製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離することで乾燥ゴム濃度60質量%の濃縮ラテックスを得た。
次に、ギ酸を加えてラテックスのpHを4.7に調整し、凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した後、熱風式乾燥機で110℃、210分乾燥して天然ゴムを得た。
上記天然ゴム150gをトルエンに溶解し、7−アミノヘプタン酸0.13gを加えたのち、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)0.14gとDMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)0.08gを加え、室温で3時間攪拌しながら反応させて、極性基を付加した変性天然ゴムDを得た。
【0063】
製造例5 変性天然ゴムEの製造
製造例4において、リパーゼ0.15gの代わりにホスホリパーゼA1(三共株式会社製)0.15gを加えた以外は、製造例4と同様の条件で反応を行い、変性天然ゴムEを得た。
【0064】
製造例6 変性天然ゴムFの製造
クローン種GT−1、NH3 0.4質量%処置天然ゴムラテックスに水を加え、DRC15質量%に調整したラテックス1000gに界面活性剤としてペノールWX(花王株式会社製)1.5gを加えて攪拌し、十分分散させる。次に、リパーゼ(リパーゼM「アマノ」10:天野エンザイム株式会社製)0.15gを添加して攪拌し、十分分散させた後、15時間静置した。
このラテックスをラテックスセパレータ(斎藤遠心工業製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離することで乾燥ゴム濃度60質量%の濃縮ラテックスを得た。
上記ラテックスを攪拌しながらトルエン中に滴下し、十分に分散させた後、7−アミノヘプタン酸0.13g、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)0.14gとDMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)0.08gを加え、室温で3時間攪拌しながら反応させた。メタノールと2−プロパノールの混合液を用いて再沈殿を行い、ゴム分を回収、溶媒を揮発させることで極性基付加変性天然ゴムFを得た。
【0065】
製造例7 変性天然ゴムGの製造
クローン種GT−1、NH3 0.4質量%処置天然ゴムラテックスに水を加え、DRC15質量%に調整したラテックス1000gに界面活性剤としてペノールWX(花王株式会社製)1.5gを加えて攪拌し、十分分散させる。次に、リパーゼ(リパーゼM「アマノ」10:天野エンザイム株式会社製)0.15gを添加して攪拌し、十分分散させた後、15時間静置した。
このラテックスをラテックスセパレータ(斎藤遠心工業製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離することで乾燥ゴム濃度60質量%の濃縮ラテックスを得た。
これに、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン0.5g、界面活性剤(「SS−40N」花王株式会社製)5.0gを加え、ギ酸をゆるやかに滴下してpHを7.0に調整した。
ここに、7−アミノヘプタン酸0.13g、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)0.14gとDMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)0.08gを加え、室温で3時間攪拌しながら反応させて、極性基付加変性天然ゴムラテックスを得た。
次に、ギ酸を加えてラテックスのpHを4.7に調整し、凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した後、熱風式乾燥機で110℃、210分乾燥して変性天然ゴムGを得た。
【0066】
製造例8 未変性天然ゴムHの製造
クローン種GT−1、NH3 0.4質量%処置天然ゴムラテックスに水を加え、DRC15質量%に調整したラテックス1000gに、ギ酸を加えてラテックスのpHを4.7に調整し、凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した後、熱風式乾燥機で110℃、210分乾燥して未変性天然ゴムHを得た。
【0067】
実施例1〜8及び比較例1、2
製造例1〜3で得られたカーボンブラックA〜C及び製造例4〜7で得られた変性天然ゴムD〜Gと、製造例8で得られた未変性天然ゴムHを、バンバリーミキサーにより、表3に示す配合処方Iに従い、10種のゴム組成物を調製した。
各ゴム組成物を145℃で33分間加硫処理して得た加硫ゴム組成物について、耐摩耗性及び転がり抵抗(50℃tanδ)を求めた。その結果を表4に示す。なお、耐摩耗性は、比較例1をコントロールとして指数表示した。指数値が大きいほど良好である。
【0068】
実施例9〜16及び比較例3、4
製造例1〜3で得られたカーボンブラックA〜C及び製造例4〜7で得られた変性天然ゴムD〜Gと、製造例8で得られた未変性天然ゴムHを、バンバリーミキサーにより、表3に示す配合処方IIに従い、10種のゴム組成物を調製した。
各ゴム組成物を145℃で33分間加硫処理して得た加硫ゴム組成物について、耐摩耗性及び転がり抵抗(50℃tanδ)を求めた。その結果を表5に示す。なお、耐摩耗性は、比較例3をコントロールとして指数表示した。指数値が大きいほど良好である。
【0069】
【表3】

【0070】
[注]
1)変性天然ゴム:製造例4〜7で得た変性天然ゴムD〜G
2)未変性天然ゴム:製造例8で得た未変性天然ゴムH
3)ポリブタジエンゴム:宇部興産(株)製、商品名「UBEPOL−BR150L」(ビニル結合含有量:1%、重量平均分子量(Mw):520,000)
4)カーボンブラック:製造例1〜3で得られたカーボンブラックA〜C
5)アロマティックオイル:富士興産社製「アロマックス#3」
6)老化防止剤6C:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
7)加硫促進剤DZ:N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDZ」
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
表4及び表5から分かるように、実施例の加硫ゴム組成物の物性は、比較例のものに比べて、耐摩耗性及び転がり抵抗(低発熱性)が高いレベルでバランスしている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のゴム組成物は、特定のカーボンブラックと、特定のリン脂質変性天然ゴムを含む組成物であって、転がり抵抗と耐摩耗性に優れる空気入りタイヤを与えることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 カーボンブラック製造炉
10 反応室
11 反応継続兼冷却室
12 多段急冷媒体導入手段
12−X 第1番目の急冷媒体導入手段
12−Y 第2番目の急冷媒体導入手段
12−Z 最後の急冷媒体導入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させたのち、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られたゴム配合用カーボンブラックと、(B)天然ゴム分子のリン脂質を加水分解した後、極性基含有化合物を付加又は縮合して天然ゴム分子に極性基を導入した変性天然ゴムを含むゴム成分とを含有するゴム組成物であって、
(1)前記(A)ゴム配合用カーボンブラックが、下記の関係式(1)及び(2)
10<X<40 ・・・(1)
90<Z<100 ・・・(2)
(ただし、Xは原料導入位置から、第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示し、Zは、最後の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)を示す。)を満たすこと、及び
(2)前記(B)ゴム成分100質量部に対して、(A)前記ゴム配合用カーボンブラックを、10〜250質量部の割合で含むこと、
を特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
反応帯域内に原料が噴霧導入されてから、第1番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt1(秒)、この帯域での平均反応温度をT1(℃)とし、第1番目の急冷媒体が導入されてから、第2番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt2(秒)、この帯域での平均反応温度をT2(℃)とし、更に、第2番目の急冷媒体が導入されてから、最後の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt3(秒)、この帯域内での平均反応温度をT3(℃)とした場合、下記の関係式(3)、(4)及び(5)
2.00≦α1≦5.00 ・・・(3)
5.00≦α2≦9.00 ・・・(4)
−2.5×(α1+α2)+85.0≦β≦90.0 ・・・(5)
(ただし、α1=t1×T1、α2=t2×T2、β=t3×T3である。)
を満たすように制御して、(A)ゴム配合用カーボンブラックを得る、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
(A)ゴム配合用カーボンブラックが、下記の関係式(6)、(7)及び(8)
20<X<40 ・・・(6)
50<Y<60 ・・・(7)
90<Z<95 ・・・(8)
(式中、Yは第2番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度を示し、X及びZは前記と同じである。)
を満たすように制御して得られたものである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
(A)ゴム配合用カーボンブラックの水素放出率が、0.3質量%よりも高い請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
(A)ゴム配合用カーボンブラックが、DBP吸収量95〜220mL/100g、24M4DBP吸収量90〜200mL/100g及びCTAB吸着比表面積70〜200m2/gのものである、請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
(B)ゴム成分が、変性天然ゴムを10質量%以上含む、請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
極性基含有化合物が、天然ゴム分子のリン脂質を加水分解することで得られるヒドロキシ基と反応する基を有する化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
ヒドロキシ基と反応する基が、カルボキシ基である、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
変性天然ゴムが、分子末端に極性基を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項10】
変性天然ゴムが、分子末端にエステル結合で導入された極性基を有する、請求項9に記載のゴム組成物。
【請求項11】
変性天然ゴムに導入された極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、チオール基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基の中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜10のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項12】
変性天然ゴム中の極性基含有量が、変性天然ゴムのゴム成分に対して、0.0005〜0.2質量%である、請求項1〜11のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213911(P2011−213911A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84391(P2010−84391)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】