説明

ゴム組成物及び伝動ベルト

【課題】エチレン−α−オレフィン共重合体が含有されながらもフェノール樹脂系有機補強剤による効果を成形体に十分発揮させ得るゴム組成物を提供して、高弾性でありながらも耐久性に優れた伝動ベルトを提供することを課題としている
【解決手段】本発明のゴム組成物は、エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分100重量部に対して、フェノール樹脂系有機補強剤が0重量部を超え25重量部未満含有されており、さらに、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有し、前記ゴム成分を架橋させて用いられることを特徴とするゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋されて用いられるゴム組成物及び伝動ベルトに関し、より詳しくは、エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム組成物と、表面がゴム硬化物によって形成された伝動ベルトとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンやモーターなどの回転動力を伝達する手段として、駆動側と被駆動側との回転軸にプーリなどを固定し、これらのプーリに伝動ベルトを掛け渡す方法などが広く用いられている。
この伝動ベルトにおいては、ゴム組成物を架橋させてなるゴム硬化物によって摩擦伝導面が形成されており、ローエッジタイプのVベルトやVリブドベルトなど、自動車などの高負荷な用途に広く採用されるようなものの場合には、短繊維の配合されたゴム組成物を形成材料として用いて、伝動ベルトを構成するゴム硬化物の高弾性化を図ることが行われている。
しかし、短繊維は、ゴム組成物によって形成される成形品の高弾性化を図る上で有用ではあるものの、一般にコストが高く、しかも、短繊維が含有されてなるゴム組成物によって、例えば、伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成させると、伝動ベルトの製造工程が煩雑になる傾向があるため、短繊維の配合に代わる高弾性化の手法が検討されている。
【0003】
短繊維を含有させる以外にゴム硬化物の高弾性化を図る手法としては、ゴム組成物にカーボンブラックなどの充填剤を多く配合させる手法(例えば、下記特許文献1)や、加硫剤の増量によって架橋点を増加させる手法が知られている。
しかし、充填剤の増量による手法ではゴムの伸びを低下させる結果、得られる成形品に割れや摩耗が生じやすくその耐久性を低下させることとなり、加硫剤の増量においては熱劣化を生じやすくなる結果、やはり、成形品の耐久性を低下させるおそれを有する。
【0004】
これに対し、有機補強剤などと呼ばれる樹脂系の成分をゴム組成物に配合することが検討されており、例えば、下記特許文献2乃至5には、変性あるいは未変性のフェノール樹脂系有機補強剤をゴム組成物に添加することが記載されている。
このフェノール樹脂系有機補強剤を含有するゴム組成物を架橋させて成形品を形成させる場合には、割れの発生や耐摩耗性の低下を抑制しつつ成形品の高弾性化を図ることができるため、当該ゴム組成物を、伝動ベルトなどの用途に有用なものとし得る。
しかし、フェノール樹脂系有機補強剤は、エチレン−α−オレフィン共重合体などのゴム成分に対してその性能を十分発揮させることが困難であるという問題を有している。
したがって、エチレン−α−オレフィン共重合体が用いられたゴム組成物によって構形成される伝動ベルトには、十分な耐久性を付与することが困難な状況となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−194357号公報
【特許文献2】特開平5−98081号公報
【特許文献3】特開平10−251451号公報
【特許文献4】特開2006−258201号公報
【特許文献5】特開2006−266280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、エチレン−α−オレフィン共重合体が含有されながらもフェノール樹脂系有機補強剤による補強効果をゴム硬化物に十分発揮させ得るゴム組成物を提供して、高弾性でありながらも耐久性に優れた伝動ベルトを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのゴム組成物に係る本発明は、エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分100重量部に対して、フェノール樹脂系有機補強剤が0重量部を超え25重量部未満含有されており、さらに、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有し、前記ゴム成分を架橋させて用いられることを特徴としている。
【0008】
また、前記課題を解決するための伝動ベルトに係る本発明は、エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分100重量部に対して、フェノール樹脂系有機補強剤が0重量部を超え25重量部未満含有されており、さらに、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有するゴム組成物を架橋させてなるゴム硬化物によって少なくとも表面が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物には、エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分とともに、該ゴム成分に対して所定の割合となるフェノール樹脂系の有機補強剤が含有されており、しかも、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有していることからこのエチレン系コポリマーなどの極性化合物が含有されていないゴム組成物に比べてゴム硬化物の耐屈曲性や耐摩耗性といった耐久性の低下を抑制しつつゴム硬化物の高弾性化を図ることができる。
したがって、本発明によれば、高弾性でありながらも耐久性に優れた伝動ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態の伝動ベルトを示す幅方向断面図。
【図2】ベルト走行試験方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態についてVリブドベルトを例示しつつ図1を参照して説明する。
本実施形態のVリブドベルトは、無端状に形成されており、図1は、Vリブドベルト1の長手方向(周方向)に直交する平面による断面図を表している。
この図1にも示されているように、本実施形態のVリブドベルト1は、プーリ(図示せず)に当接されるベルト内周面側に圧縮ゴム層10が備えられており、この圧縮ゴム層10から外周面側に向かって、接着ゴム層20、カバーゴム層30が積層された三層の積層構造が形成されている。
そして、前記接着ゴム層20には、ベルト長手方向に延在するように心線40が埋設されている。
【0012】
前記圧縮ゴム層10には、ベルト長手方向に連続する断面略V字状の2条の溝11によって隔てられた3条のリブ12が形成されており、該リブ12は、互いに平行な状態となるように形成されてベルト長手方向に延在されている。
このリブ12は、その断面形状が内周側ほど狭幅となるように形成されており、略等脚台形の断面形状となるように形成されている。
【0013】
前記圧縮ゴム層10は、ゴム成分と、フェノール樹脂系の有機補強剤と、分子内に極性基を有する極性化合物とが含有されているゴム組成物によって形成されており、前記ゴム成分中に前記有機補強剤を分散させた状態で前記ゴム成分が架橋されたゴム硬化物によって形成されている。
【0014】
前記ゴム成分には、主たる成分としてエチレン−α−オレフィン共重合ゴムが含有されており、前記エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンとα−オレフィンとが共重合体成分として用いられているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体などが単独又は複数組み合わせて用いられ得る。
【0015】
なかでも、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)が低コストでしかも加工性に優れ、架橋が容易であるという点で好適である。
【0016】
このゴム成分の主成分となるエチレン−α−オレフィン共重合体としては、特に、エチリデンノルボルネンが5%程度含有されているものが好適である。
例えば、エチレン分が54〜56%、プロピレン分が39〜41%、エチリデンノルボルネン分が4〜6%含有されてなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を好適に用いることができる。
このような、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体としては、例えば、ダウケミカル社から商品名「ノーデルIP4640」として市販されているものを挙げることができる。
【0017】
さらに、前記ゴム成分としてエチレン−α−オレフィン共重合体とともに一般的に用いられるゴム、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンなどを、単独、あるいは複数混合して用いることができる。
ただし、前記エチレン−α−オレフィン共重合体は、その合計量が全ゴム成分に占める割合が、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましい。
特には、全ゴム成分がエチレン−α−オレフィン共重合体のみによって構成されていることが好ましい。
【0018】
前記フェノール樹脂系有機補強剤としては、通常、ノボラック型、又は、レゾール型のフェノール樹脂ならびにその変性品が単独、又は複数混合して用いられうる。
前記変性品としては、変性剤として、トール油、カシュー油、キシレン樹脂などが用いられてなるもの、tert−ブチル基、オクチル基、ノニル基、フェニル基、アルキルフェニル基などによって一部置換がなされたものなどが挙げられる。
【0019】
より具体的には、トール油変性ノボラック型フェノール樹脂、カシュー油変性ノボラック型フェノール樹脂、キシレン樹脂変性ノボラック型フェノール樹脂、アルキルフェノール変性レゾール型フェノール樹脂などが挙げられる。
これらについては、住友ベークライト社から、「スミライトレジン」のシリーズ名にて市販のものを例示することができる。
【0020】
このフェノール樹脂系有機補強剤は、前記ゴム成分100重量部に対して、通常、0重量部を超え、25重量部未満の含有量とされる。
好ましくは、前記ゴム成分100重量部に対して、5重量部以上20重量部以下の範囲の内のいずれかとなるようにゴム組成物に含有されていることが望ましく、特に、5重量部以上10重量部以下の範囲の内のいずれかとなるようにゴム組成物に含有されていることが望ましい。
【0021】
なお、フェノール樹脂系有機補強剤が、ゴム成分に対して上記割合でゴム組成物に含有されていることが望ましいのは、これらの範囲を超えるとこのゴム組成物によって形成される圧縮ゴム層10の耐摩耗性や耐屈曲性(耐クラック性)が低下するおそれを有するためである。
【0022】
前記極性化合物は、上記フェノール樹脂系有機補強剤の分散性を向上させその補強効果をより効果的に発揮させるべく含有されるものであり、本実施形態においては、当該ゴム組成物を架橋させてなるゴム硬化物に対する耐摩耗性、耐屈曲性の付与の観点から、前記極性化合物として、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを採用することが重要である。
【0023】
前記フェノール樹脂系有機補強剤は、ゴム組成物の主成分であるエチレン−α−オレフィン共重合体に対して比較的相溶性が低く、例えば、単にエチレン−α−オレフィン共重合体とフェノール樹脂系有機補強剤とを混合すると、粗大な海島構造となって、エチレン−α−オレフィン共重合体マトリックスにフェノール樹脂の粒子による粗大な分散相が形成される。
一方で、本実施形態のごとく、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーのような極性化合物を存在させると、この極性化合物が、界面活性剤的作用をしてフェノール樹脂を、例えば、平均粒子径が2μm以下となる微粒子化した状態で分散させうる。
このようにフェノール樹脂系有機補強剤が微細な状態で分散されることによって当該ゴム組成物によって形成される圧縮ゴム層に対して、フェノール樹脂系有機補強剤の補強効果が十分に発揮され、耐摩耗性や耐屈曲性の低下を抑制しつつ高弾性化を図ることができる。
【0024】
なお、このフェノール樹脂系有機補強剤が微細な状態で分散されているか否かについては、その粒子の大きさを透過型電子顕微鏡写真(TEM)などによって直接観察して確認することができ、その平均粒子径は、TEMによって観察される粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を算出してその粒子の直径とし、TEMの1視野中において無作為に選んだ複数の粒子についてその直径を求めて算術平均することによって求めることができる。
【0025】
前記エチレン系コポリマーとしては、エポキシ基、グリシジル基、アクリレート基、カルボニル基、ニトリル基、無水マレイン酸基などの極性基を有するモノマーとエチレンモノマーとが共重合された共重合体を例示することができ、なかでも、エポキシ基、又はグリシジル基を有するモノマーとエチレンンとが組み合わされてなるものは、無水マレイン酸基を有するモノマーとエチレンとが組み合わされてなるものよりも圧縮ゴム層に優れた耐久性を付与しつつ高弾性化を図ることができる点において好適である。
より具体的には、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体や、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(ランダム共重合体)とスチレン−アクリロニトリル共重合体(ランダム共重合体)とのグラフト共重合体などが好適に採用されうる。
このようなポリマー型の極性化合物としては、住友化学社より「ボンドファスト」のシリーズ名で市販されている市販品や、日油社から「モディパー」のシリーズ名で市販されている市販品を用いることができる。
【0026】
前記エチレン系コポリマーとしては、上記のような極性基が1重量%以上20重量%以下の範囲の内のいずれかの割合で含有されていることが好ましい。
より具体的には、グリシジルメタクリレート成分が、9重量%以上15重量%以下の範囲の内のいずれかの割合で含有されているものが好ましく、10重量%以上13重量%以下の範囲の内のいずれかの割合で含有されているものがさらに好ましい。
【0027】
また、このエチレン系コポリマーは、前記ゴム成分100重量部に対して、通常、0.5重量部以上5重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有される。
なかでも、1重量部以上3重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有されることが好ましい。
【0028】
なお、上記エチレン系コポリマーと同種の機能を発揮させる極性化合物として、例えば、分子量が1000以下程度のα,β−不飽和カルボン酸誘導体が挙げられる。
該α、β−不飽和カルボン酸誘導体としては、下記構造式(1)又は(2)で表される1価基が、重合性炭素−炭素二重結合を形成している少なくとも一方の炭素に結合された構造を有する化合物が好適である。
【化1】

(ただし、R1は、水素原子、金属原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。)
【化2】

(ただし、R2は、水素原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。さらに、R2は、当該1価基が結合している炭素との間に二重結合を形成している炭素に結合して環状構造を形成させていても良い。また、R3は、水素原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。)
【0029】
なかでも、上記(1)に記載の構造を有する化合物としては、下記構造式(3)に示す化合物が好適であり、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが好適に用いられ得る。
【化3】

(ただし、R4、R5はそれぞれ、独立して水素原子、又は、1価の有機基を表す。)
【0030】
また、上記(2)に記載の構造を有する化合物としては、下記構造式(4)に示すメタフェニレンジマレイミドなどが好適である。
【化4】

【0031】
その他の、α、β−不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、ジアクリル酸エチレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、メタクリル酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸トリエチレングリコール、ジアクリル酸デカエチレングリコール、ジアクリル酸ペンタデカエチレングリコール、ジアクリル酸1,3−ブチレン、アクリル酸アリル、テトラアクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸フタル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタコンタへクタエチレングリコール、ジアクリル酸ペンタコンタへクタエチレングリコール、ジアクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、トリメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、トリアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、トリアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパン、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸デカエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタデカエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレン、メタクリル酸アリル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸フタル酸ジエチレングリコール等の(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。
これらのα、β−不飽和カルボン酸誘導体は、有機補強剤として用いられるフェノール樹脂に対して親和性の高い極性基を有しつつEPDM等と反応して結合が可能となる官能基を有していることから前記フェノール樹脂系有機補強剤の分散性を向上させうる。
このα、β−不飽和カルボン酸誘導体は、前記ゴム成分100重量部に対して、通常、1重量部以上15重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有される。
なかでも、5重量部以上15重量部未満の範囲の内のいずれかの割合で含有されることが好ましく、5重量部以上10重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有されることがさらに好ましい。
【0032】
本実施形態のゴム組成物は、前記エチレン系コポリマーが含有されていることで、フェノール樹脂系有機補強剤の分散性が向上されるものであるが、このα、β−不飽和カルボン酸誘導体を加えることによってさらにフェノール樹脂系有機補強剤の分散性が向上される。
また、ゴム硬化物の高弾性化に対する機能についても、このα、β−不飽和カルボン酸誘導体は、前記エチレン系コポリマーと同様に有しているものである。
したがって、前記エチレン系コポリマーを含有させる代わりに、このα、β−不飽和カルボン酸誘導体を含有させることによってもフェノール樹脂系有機補強剤の分散性に効果が発揮され、耐屈曲性や耐摩耗性といった耐久性の低下を抑制しつつゴム硬化物の高弾性化を図り得る。
【0033】
すなわち、ゴム硬化物の高弾性化を、耐久性低下を抑制しつつ図る上においては、前記エチレン系コポリマーや前記α、β−不飽和カルボン酸誘導体は、いずれか一方をゴム組成物に含有させても両方併用してゴム組成物に含有させてもよい。
さらには、前記エチレン系コポリマーの1種以上と前記α、β−不飽和カルボン酸誘導体の1種以上とを組み合わせてゴム組成物に含有させてもよい。
【0034】
なお、フェノール樹脂系有機補強剤の分散性の観点からは、ゴム組成物に対して高せん断な練りを実施してフェノール樹脂系有機補強剤の微分散化を図ることも考え得るが、その場合には、シェアストレスが過大になる結果、ゴムの分子切断を発生させて架橋させて得られるゴム硬化物の特性を低下させるおそれがある。
このことから、本実施形態における前記ゴム組成物は、言い換えれば、耐摩耗性や耐屈曲性に優れた高弾性なゴム成形品の製造を容易にさせるという効果を有しているともいえる。
【0035】
このゴム組成物には、上記の成分以外に、一般的なゴム組成物に用いられている配合剤を含有させることができ、この配合剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレーなどの充填材成分、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤などの架橋のための成分、加工助剤、顔料、老化防止剤、酸化防止剤、安定剤、難燃剤、接着付与剤、帯電防止剤、等が挙げられる。
【0036】
前記カーボンブラックとしては、一般呼称で分類されるFEF系、ISAF系、HAF系等のゴム用カーボンブラックが挙げられる。
【0037】
前記加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄(セイミサルファー)、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
また、有機過酸化物系の架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
【0038】
前記加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド−アンモニア系、グアニジン系、チオウレア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系等の加硫促進剤が挙げられる。
【0039】
前記加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸やオレイン酸およびこれらの亜鉛塩等が挙げられる。
なお、先述のように、短繊維は、Vリブドベルトの圧縮ゴム層の形成に用いられるゴム組成物に含有させると、加工工数の増加とコストの増大とを招く傾向にあるものではあるが、本発明においては、その使用を制限するものではなく、本発明の効果を著しく損ねない範囲において使用することができる。
【0040】
上記のような材料を混合してゴム組成物を得る方法としては、従来、ゴム練りに用いられている各種の方法を適宜選択して採用することができ、例えば、カレンダロール、ニーダー、ミキサーなどの混練手段を用いて配合させることができる。
なお、フェノール樹脂系有機補強剤の分散性の観点からは、この混練をある程度の加温された状態で実施することが好ましい。
【0041】
また、得られたゴム組成物を用いて予備成形するなどした後に、缶加硫や熱プレスなどといった一般的な架橋手段によって架橋を行うことによってゴム硬化物によって形成された成形品を作製することができる。
このとき、エチレン系コポリマーやα、β−不飽和カルボン酸誘導体の極性基や不飽和結合が、有機補強材として用いられているフェノール樹脂と反応したり、ゴムとの間に結合を生じさせたりしてゴム硬化物の高弾性化が図られるとともに、耐摩耗性、耐屈曲性における優れた特性がゴム硬化物に付与されることとなる。
【0042】
本実施形態においては、プーリに当接され、しかも、複数のプーリに巻き掛けられて伝動ベルトが周回されるのに際して生じる屈曲の影響を大きく受けやすく、本発明の効果が特に顕著に発揮され得る点において、ゴム組成物を上記のように圧縮ゴム層10の形成に用いる場合を例示していが、要すれば、カバーゴム層30や接着ゴム層20を形成するためのゴム組成物に本実施形態のゴム組成物を採用することも可能である。
【0043】
本実施形態のVリブドベルトは、圧縮ゴム層10を上記のようなゴム組成物によって形成することで摩擦伝動の伝動面である圧縮ゴム層10(リブ)の表面の摩耗が防止されるとともに、クラックの発生なども抑制され伝動ベルトの長寿命化を図ることができるものではあるが、例えば、カバーゴム層30のように表面に露出する面積の大きな箇所においては、伝動面と同様に摩耗やクラックなどの問題が生じやすいことからこのカバーゴム層30の形成に、エチレン−α−オレフィン共重合体、フェノール樹脂系の有機補強剤、極性化合物を含んだゴム組成物を用いることによってVリブドベルトのさらなる耐久性向上を図ることも可能である。
【0044】
なお、カバーゴム層30に耐摩耗性や耐屈曲性が強く求められないような場合には、一般的なゴム組成物によってこれらの箇所を形成させることも可能である。
また、カバーゴム層30の形成に本実施形態に係るゴム組成物を採用し、圧縮ゴム層10の形成に一般的なゴム組成物を採用することも可能である。
すなわち、少なくともベルト表面の一部を、前記ゴム組成物を架橋させてなるゴム硬化物で形成させることによって、Vリブドベルトの耐久性向上を図ることができる。
【0045】
このように、求められる強度などに応じて、一般的なゴム組成物や、本実施形態に係るゴム組成物から、形成材料を選択可能である点においては、接着ゴム層20についても同じである。
また、前記心線40については、特に限定されず、従来公知の伝動ベルトに用いられる一般的な心線を用いることができ、その表面処理としてゴム糊などを用いる場合には、上記例示のゴム組成物を有機溶媒に分散させたものも採用することも可能である。
【0046】
上記のように優れた耐久性が付与されつつ高弾性化がなされることで、得られる伝動ベルトを自動車用途などの高負荷な用途に好適なものとすることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、耐摩耗性、耐屈曲性等が強く求められていることから、本発明に係るゴム組成物の好適な用途として伝動ベルトを例示しているが、本発明のゴム組成物は、このような用途に限定されず、例えば、上記例示のゴム組成物がコンベアベルトや各種のブレード材のといった用途などに利用された場合であってもその効果を有効に活用させうるものである。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(評価用伝動ベルトの作製)
まず、耐摩耗性、耐屈曲性の評価試料とすべく、周長約1100mm×幅10mmのVリブドベルトを作製した。
なお、このVリブドベルトの構成については図1と同様であり、心線の埋設された接着ゴム層を介して圧縮ゴム層とカバーゴム層とが積層一体化されたもので、この圧縮ゴム層の形成に下記の配合材料からなるゴム組成物を用いた。
【0050】
(配合材料)
1)ベースゴム1:ダウケミカル社製、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、商品名「NORDEL IP 4640」
2)有機補強剤1:住友ベークライト社製、トール油変性ノボラック型フェノール樹脂、商品名「SUMILITERESIN PR−13355」
3)有機補強剤2:住友ベークライト社製、カシュー油変性ノボラック型フェノール樹脂、商品名「SUMILITERESIN PR−12687」
4)有機補強剤3: 社製、キシレン樹脂変性ノボラック型フェノール樹脂、商品名「GP−212」
5)有機補強剤4:住友ベークライト社製、アルキルフェノール変性レゾール型フェノール樹脂、商品名「SUMILITERESIN PR−175」
6)極性化合物1:日油社製、エチレン−グリシジルメタクリレートランダム共重合体とスチレン−アクリロニトリルランダム共重合体とのグラフト共重合体、商品名「モディパー A4400」
7)極性化合物2:住友化学社製、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレート12重量%)、商品名「ボンドファスト E」
8)極性化合物3:ユニロイヤルケミカル社製、マレイン化EPDM(無水マレイン酸含有量1%)、商品名「ロイヤルタフ498」
9)極性化合物4:ARKEMA社製、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸 ターポリマー(コモノマー含有率9%)、商品名「ボンダインLX4110」
10)極性化合物5:住友化学社製、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(メチルメタクリレート25重量%)、商品名「アクリフトAK307」
11)極性化合物6:ランクセス社製、マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(マレイン酸0.7%)、商品名「ブナEPTKA8944」
12)極性化合物7:精工化学社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「ハイクロスM」
13)極性化合物8:大内新興化学工業社製、メタフェニレンジマレイミド(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「バルノックPM」
14)極性化合物9:共栄化学社製、エチレンジアクリレート(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「ライトアクリレート3EG−A」
15)極性化合物10:共栄化学社製、エチレンジメタクリレート(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「ライトエステルEG」
16)極性化合物11:川口化学工業社製、アクリル酸亜鉛(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「アクターZA」
17)極性化合物12:川口化学工業社製、メタクリル酸亜鉛(α、β−不飽和カルボン酸誘導体)、商品名「アクターZMA」
18)カーボンブラック:東海カーボン社製、HAF、商品名「シースト3」
19)プロセスオイル:サンオイル社製、パラフィン系プロセスオイル、商品名「サンパー2280」
20)ステアリン酸:日油社製、ビーズステアリン酸、商品名「つばき」
21)酸化亜鉛:亜鉛華3号
22)有機過酸化物:日油社製、ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」
23)硫黄1:鶴見化学工業社製、オイルサルファー
24)硫黄2:日本乾溜社製、不溶性硫黄、商品名「セイミサルファー」
25)加硫促進剤:大内新興化学工業社製、スルフェンアミド系加硫促進剤(N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、商品名「ノクセラーMSA」
【0051】
このような材料を用いて、表1〜4に示す配合でゴム組成物を作製した。
なお、このときの混練条件は、全ての配合において略一定となるように調整した。
【0052】
(物性試験)
また、この圧縮ゴム層の形成に用いたゴム組成物をシート状に加硫成形して該シート状の成形体をテストピースとして、JIS K6251(2004)に基づいて引張強さ及び切断時伸び(破断伸び)を測定した。
また、弾性率は、JIS K 6394に基づいて貯蔵たて弾性係数(100℃)を測定して求めた。
得られた結果を併せて表1〜4に示す。
【0053】
(ベルト走行試験)
ベルトの走行試験を図2に示すごとく実施した。
すなわち、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のリブプーリ(上側が従動プーリ51、下側が駆動プーリ52)と、それらの上下方向中間位置で水平方向右寄りに配されたプーリ径70mmのアイドラープーリ54と、このアイドラープーリ54のさらに右側に配されたプーリ径55mmの小径のリブプーリ53に対して、前記大径のリブプーリ51,52と、小径のリブプーリ53にはリブ形成面(圧縮ゴム層側)が接するようにし、前記アイドラープーリ54には、背面(カバーゴム層側)が接するようにして伝動ベルト50を巻き掛けてベルトの走行試験を実施した。
なお、このとき、アイドラープーリ54と小径プーリ55とには、ベルト巻き付け角度が90度となるようにし、しかも、前記小径プーリ55に右方向に834Nのセットウェイトが負荷されるようにした状態でベルトの走行試験を実施した。
そして、耐屈曲性の評価においては、120℃の条件下で駆動プーリ52を時計方向に4900rpmの回転数で回転させ、リブ表面に割れが発生するまでの時間を計測した。
また、耐摩耗性については、室温条件下で、駆動プーリ52を時計方向に4900rpmの回転数で24時間回転させ、この試験前後の伝動ベルトの重量減少を測定し、その減量分を初期重量で除して求めた。
これらの結果についても、併せて、表1〜4に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
(有機補強剤について)
上記配合1〜3、20、21について評価結果をまとめると下記表5の通りとなる。
この表からも、フェノール樹脂系の有機補強剤が全く含まれていない場合(配合20)や、ゴム成分100重量部に対して25重量部以上含有されている場合(配合21)においては、屈曲耐久性や耐摩耗性が低下される傾向にあることがわかる。
【0059】
【表5】

【0060】
(極性化合物について(1))
上記配合13、14、23について評価結果をまとめると下記表6の通りとなる。
この表からも、フェノール樹脂系の有機補強剤が所定量含有されていても、極性化合物が全く含まれていない場合(配合23)においては、屈曲耐久性や耐摩耗性が低下される傾向にあることがわかる。
また、エチレン系コポリマー(配合13)の方が、α,β−不飽和カルボン酸誘導体(配合14)に比べて、少量でありながら耐摩耗性において良好なる効果が得られていることがわかる。
【0061】
【表6】

【0062】
(極性化合物について(2))
上記配合1、7〜10、14、24、25について評価結果をまとめると下記表7の通りとなる。
この表からも、エチレン系コポリマーとして、エポキシ基、グリシジル基を有しているものを採用した場合(配合1、7、8)において耐屈曲性や耐摩耗性において優れた結果が得られていることがわかる。
また、エチレン系コポリマーの添加によって引張り強さや耐摩耗性の向上が見られることもわかる。
【0063】
【表7】

【0064】
(極性化合物について(3))
上記配合7、15、26、27について評価結果をまとめると下記表8の通りとなる。
この表からも、エチレン系コポリマーは、ゴム成分100重量部に対して、0.5重量部以上5重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有されることが好ましく、なかでも、1重量部以上3重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有されることが特に好ましいことがわかる。
【0065】
【表8】

【0066】
(極性化合物について(4))
上記配合1、7、13、22について評価結果をまとめると下記表9の通りとなる。
この表からも、α、β−不飽和カルボン酸誘導体(低分子量型の極性化合物)は、ゴム成分100重量部に対して、5重量部以上10重量部以下の範囲の内のいずれかとなる割合でゴム組成物に含有されることが好ましいことがわかる。
【0067】
【表9】

【0068】
以上のように、本発明によれば、エチレン−α−オレフィン共重合体が含有されながらもフェノール樹脂系有機補強剤による補強効果を成形体に十分発揮させ得るゴム組成物が提供されることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1:伝動ベルト(Vリブドベルト)、10:圧縮ゴム層、20:接着ゴム層、30:カバーゴム層、40:心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分100重量部に対して、フェノール樹脂系有機補強剤が0重量部を超え25重量部未満含有されており、さらに、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有し、前記ゴム成分を架橋させて用いられることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン系コポリマーが極性基を有するモノマーとエチレンモノマーとを含有するモノマー成分が重合されてなるエチレン系コポリマーである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン系コポリマーにおける極性基を有するモノマーの含有率が1重量%以上20重量%以下である請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記極性基が、エポキシ基、グリシジル基、アクリレート基、カルボニル基、ニトリル基のいずれかである請求項2又は3記載のゴム組成物。
【請求項5】
α、β−不飽和カルボン酸誘導体をさらに含有し、しかも、該α、β−不飽和カルボン酸誘導体が、下記構造式(1)又は(2)で表される1価基が、重合性炭素−炭素二重結合を形成している少なくとも一方の炭素に結合された構造を有する化合物である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【化1】

(ただし、R1は、水素原子、金属原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。)
【化2】

(ただし、R2は、水素原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。さらに、R2は、当該1価基が結合している炭素との間に二重結合を形成している炭素に結合して環状構造を形成させていても良い。また、R3は、水素原子、又は、炭素数1から18の飽和又は不飽和炭化水素であり、該飽和又は不飽和炭化水素は、その一部が置換されていてもよい。)
【請求項6】
前記α、β−不飽和カルボン酸誘導体として、メタフェニレンジマレイミドとトリメチロールプロパントリメタクリレートとの内の少なくとも一方が含有されている請求項5記載のゴム組成物。
【請求項7】
エチレン−α−オレフィン共重合体を含むゴム成分100重量部に対して、フェノール樹脂系有機補強剤が0重量部を超え25重量部未満含有されており、さらに、分子内に極性基を有するエチレン系コポリマーを含有するゴム組成物を架橋させてなるゴム硬化物によって少なくとも表面が形成されていることを特徴とする伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248401(P2010−248401A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100610(P2009−100610)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】