説明

ゴム組成物

【課題】
NBRにフェノール樹脂を配合して改質するのに際して第3成分を不要とし、またカーボンブラックを充填したものと同等の機械的特性とゴム弾性を備え、更に所望により任意色に着色可能であるとともに、基礎難燃性を備えたゴム組成物を提供する。
【解決手段】
アクリロニトリル含有量31%以上のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)100重量部に対してフェノール樹脂100重量部未満を添加し、NBR中にフェノール樹脂を粒径1〜100nmで均一に分散させた。好ましくは、NBR中のアクリロニトリル含有量が36%以上であるグレードのものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的特性とゴム弾性を有するゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)のような汎用ゴムは、充填剤としてカーボンブラックを配合して必要な機械的物性を得ている。しかし、カーボンブラックを充填したゴム組成物は黒色であり、所望の色に着色することは困難である。
【0003】
一方、NBRにホワイトカーボン(シリカ)を充填した補強ゴム組成物は白色であり、所望の色に着色することができるが、カーボンブラックを充填したものに比べて加硫ゴムの引張強度が劣るという問題がある。
【0004】
尚、フェノール樹脂にNBRを配合して弾性を付与することは公知であり、この改質フェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂のマトリックスに対してNBRが分散した海島構造となっている。また、特許文献1には、多核フェノールを混和剤として使用し、NBRにフェノール樹脂を高相溶、混和・均質化させた改質アクリロニトリルブタジエンゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された改質アクリロニトリルブタジエンゴム組成物は、多核フェノール又は/及びポリアルキレングリコールといった第3成分を配合してNBRとフェノール樹脂との相溶性を高めたものであり、またフェノール樹脂の分散径の制御、均一分散性させる点には言及されてない。
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、NBRにフェノール樹脂を配合して改質するのに際して第3成分を不要とし、またカーボンブラックを充填したものと同等の機械的特性とゴム弾性を備え、更に所望により任意色に着色可能であるとともに、基礎難燃性を備えたゴム組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、アクリロニトリル含有量31%以上のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)100重量部に対してフェノール樹脂100重量部未満を添加し、NBR中にフェノール樹脂を粒径1〜100nmで均一に分散させたことを特徴とするゴム組成物を構成した(請求項1)。
【0009】
更に、NBR中に、フェノール樹脂を粒径1〜20nmで均一に分散させることがより好ましい(請求項2)。
【0010】
そして、NBR中のアクリロニトリル含有量が36%以上であるグレードのものを用いることが好ましい(請求項3)。
【0011】
ここで、フェノール樹脂の添加量が、NBR100重量部に対してフェノール樹脂10〜30重量部であることがより好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる請求項1に係る発明のゴム組成物は、汎用のカーボンブラック充填系と同様の機械的物性を示し、そしてカーボンブラックを用いずにフェノール樹脂によって補強しているため、着色することが可能である。また、架橋系に過酸化物を用いると、フェノール樹脂が可視光の波長よりも十分に小さい100nm以下の粒径で均一分散しているので、NBR本来の透明性を保持することが可能である。また、フェノール樹脂を100nm以下に均一に分散させることで、難燃性を付与することができる。更に一般的な難燃剤(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)を用いると、さらなる難燃性の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1と比較例1のTEM観察像を示している。
【図2】実施例11と比較例3の透過率測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、アクリロニトリル高含有のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に、フェノール樹脂を粒径1〜100nmで均一に分散させて、カーボンブラックを充填したものと同等の機械的特性を付与するのである。以下において、NBR中のアクリロニトリル含有量をAN含有量(AN content)と略称することもある。
【0015】
本発明では、NBR(アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体)は、アクリロニトリル含有量がNBR重量を基準として、31重量%以上<アクリロニトリル含有量31%⇒SP値:9.7(cal/cm3)1/2以上>であるアクリロニトリル高含有のNBRを使用する。NBRは、アクリロニトリル含有量15〜50重量%のものが商業的に生産されている。商業的生産のNBRはアクリロニトリル含有量について、便宜的に、低ニトリル含量(アクリロニトリル含有量約24重量%以下)<アクリロニトリル含有量18.0%⇒SP値:8.8(cal/cm3)1/2>、中ニトリル含量(同25〜30%)<アクリロニトリル含有量29.0%⇒SP値:9.4(cal/cm3)1/2>、中高ニトリル含量(同31〜35%)<アクリロニトリル含有量33.5%⇒SP値:9.9(cal/cm3)1/2>、高ニトリル含量(同36〜42%)<アクリロニトリル含有量40.5%⇒SP値:10.4(cal/cm3)1/2>、極高ニトリル含量(同43%以上)<アクリロニトリル含有量50.0%⇒SP値:11.2(cal/cm3)1/2>に分類されていて、本発明では、中高ニトリル含量以上(同31%以上)<アクリロニトリル含有量31%⇒SP値:9.7(cal/cm3)1/2以上>の商業的生産のNBRが使用可能である。特に、高及び極高ニトリル含量(同36重量%以上)<アクリロニトリル含有量36%⇒SP値:10.1(cal/cm3)1/2以上>のNBRを使用すること好ましい。ここで、SP値は溶解度パラメーター(Solubility Parameter)のことであり、次の表1に、AN含有量とSP値の対応をまとめて示している。
【0016】
【表1】

【0017】
また、フェノール樹脂<SP値:11.3(cal/cm3)1/2>は、例えば、レゾール型及びノボラック型のいずれもが使用可能である。ただし、レゾール型若しくはノボラック型の配合によって、加工性(例えば、混練温度、混練性)、改質NBRの耐食性・硬度・機械的強度が相違するので、目的に応じて、レゾール型若しくはノボラック型のいずれか、若しくはそれら両方が併用される。フェノール樹脂のノボラック型のオルソ/パラ結合比については、特に制約されることがなく、1.0以上の結合比でも可能である。
【0018】
そして、NBR100重量部に対してフェノール樹脂100重量部未満、好ましくは10〜30重量部を添加し、フェノール樹脂を粒径1〜100nmで均一に分散させる。このように、フェノール樹脂の分散粒径を可視光の波長より十分に小さくすることにより、フェノール樹脂に起因する可視光に対する透過性低下を防ぐことができる。そして、架橋剤として一般的に、硫黄や過酸化物を用いることができ、特に過酸化物を用いると透明性が高まる。また、着色剤を配合して所望の色のゴム材料とすることも可能である。
【0019】
ここで、改質NBRは、ゴム材料の製造と同様の方法で製造可能で、公知の加工装置の使用が可能である。改質NBRの製造に際しては、主材料(NBR・フェノール樹脂)と、副材料(例えば、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、充填材、老化防止剤、着色剤等)をニーダー、ロール、バンバリーミキサー、混練押出機等の混練装置によって混練してシート状、チップ状及び粒状その他の形状の加工用素材にする。次いで、加工用素材を成形装置で成形する等して改質NBRの部材・部品にする。混練装置での操作温度は、フェノール樹脂を含んで混練するので、NBR混練時よりも高温(例えば、約60~140℃)で混練するのが適している。
【0020】
その後のシート状加工用素材の成形条件は、加熱温度160~180℃、プレス圧力10〜20MPa、プレス時間20分等の一般的な改質NBRの成形条件であることが可能で、特別な条件によることも可能である。
【0021】
加硫剤(架橋剤)は、硫黄若しくは有機過酸化物の使用が一般的である。加硫助剤及び加硫促進剤も、公知のものの使用が可能である。加工助剤(例えば、付着防止剤)は、常用のものが使用される。必要に応じて、充填材、老化防止剤(例えば、フェノール系及びアミン系の老化防止剤等)、着色剤等の一般的なゴム配合剤が使用可能である。充填材は、炭酸カルシウム、クレー、水酸化マグネシウム、ガラス繊維等が一般的である。
【0022】
改質NBRは、加熱混練装置から取り出された加工用素材としての形状(例えば、シート状及びチューブ状)であってもよく、加工用素材から成型装置(例えば、プレス加工装置及び打ち抜き加工装置等)により成形された形態であってもよい。改質NBRの特定の形態は、例えば、自動車工業部品、工業用ゴム部品、電気部品、電子部品、土木建築用品、家庭用品等の各種用途での部材及び部品である。また、改質NBRは、加熱混練及び架橋等の加工工程によって改質されたものが代表的ではあるが、加工工程での改質過程にあるものであってもよい。
【0023】
なお、本発明においては、本発明の目的に沿うものであって、本発明の効果を特に害さない限りにおいては、改変若しくは部分的変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。
次に、本発明の改質NBRを実施例に基づいて具体的に説明するが、実施例は具体的例示であって、本発明を拘束するものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1〜12、比較例1〜4の各ゴム組成物からなる試料を作製し、各種試験を行った。先ず、透過型電子顕微鏡(TEM)で組織を観察した(比較例1、実施例1)。次に、機械的特性の評価として、フェノール樹脂添加量の影響(実施例2〜6)、NBRの種類の影響(実施例4、7)、加工温度の影響(実施例4、8、9)、加硫系の影響(実施例4、10)を評価するとともに、比較例2と比べた。そして、透過率評価(比較例3、実施例11)と燃焼性評価(比較例4、実施例12)も行った。
【0025】
機械的特性の測定は、以下の測定法を用いて行った。引張強さ及び破断伸びは、JISK6251に準拠して測定した。硬さは、JISK6253に準拠してデュロメーター硬さを測定した。圧縮永久歪み(100℃×72h、歪み:25%)は、JISK6262に準拠して測定した。TEM観察は、透過型電子顕微鏡を用いて薄片試料の相構造をオスミウム染色後観察した。透過率測定は、紫外可視分光光度計を用いて測定した。燃焼性評価は、寸法:150mm×10mm×2mmの試験片を垂下し、下端にライターを用いて10秒間着火後の燃焼性について評価を行った。具体的な評価項目としては、自己消火性の有無、燃焼時間(着火後〜試験片上端に達する時間)について行った。
【0026】
<実施例1>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製した。このプレス成形にて調製した試料をエポキシ樹脂に抱埋し、ウルトラマイクロトームを用いて薄片を作製した。その後、オスミウム染色を行うことでTEM観察用試料とした。
【0027】
<比較例1>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、NBR100重量部に対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製した。このプレス成形にて調製した試料をエポキシ樹脂に抱埋し、ウルトラマイクロトームを用いて薄片を作製した。その後、オスミウム染色を行うことでTEM観察用試料とした。
【0028】
図1は、実施例1と比較例1の試料をそれぞれTEM観察した結果を示している。オスミウム染色を施した後、TEM観察を行うと、NBRは検出できるが、フェノール樹脂は検出できないので、TEM像においてNBRが黒く、フェノール樹脂は白く観察される。尚、TEM像中の100〜200nmの大きな白い像は、架橋剤として配合したジクミルパーオキサイドの過剰分であるので、黒丸で囲った領域に注目する。本発明では、NBR中に粒径1〜100nmの小さな白っぽいブツブツがフェノール樹脂であり、均一に分散していることが分かった。このフェノール樹脂は、粒径が1〜20nmであることが、NBRの機械的特性を改善し、難燃性を付与し、また可視光の透過性を損なわないようにすいるために好ましい。
【0029】
次に、フェノール樹脂添加量の影響による機械的特性の変化を調べ、従来のカーボンブラックによる改質NBRと比較した。実施例2〜6では、NBR中のAN含量が40.5%の高NBRを用い、過酸化物で架橋を行った。
【0030】
<実施例2>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/10になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0031】
<実施例3>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/20になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0032】
<実施例4>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0033】
<実施例5>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/40になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0034】
<実施例6>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/50になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0035】
<比較例2>
NBR(アクリロニトリル含有量が33.5重量%)を常温のロールに添加、そこに、NBR100重量部に対して補強材のSRFカーボンを40重量部添加し、ステアリン酸を1重量部、亜鉛華を5重量部、硫黄を1重量部、ベンゾチアジル ジスルフィドを1.5重量部、テトラメチルチウラム ジスルフィドを0.5重量部、老化防止剤N−イソプロピル−N'−フェニル−pフェ二レンジアミンを2.5重量部添加し、混練することにより調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製した。
【0036】
表2に、比較例2、実施例2〜6の各ゴム組成物の主成分と加工条件の概要と、機械的特性の測定値を示している。この結果、引張強さについて、NBR100重量部に対してフェノール樹脂を10〜50重量部添加した実施例2〜6の試料と、NBR100重量部に対してカーボンブラック40重量部添加した比較例2の試料とを比較すると、実施例2は比較例2より若干劣るものの、実施例3〜6は比較例2よりも1.5〜2倍程度強くなっている。また、破断伸びについては、本発明ではフェノール樹脂の添加量が40重量部の付近でピークがあるようであるが、全体的に比較例2と同程度である。硬さについては、本発明ではフェノール樹脂の添加量が増すほど、硬くなる傾向があり、フェノール樹脂の添加量が10〜30重量部では比較例2と同等かそれよりも柔らかく、フェノール樹脂の添加量が40重量部以上では比較例2よりも硬くなる。圧縮永久歪み(ゴム弾性)については、一般的に40%より小さい方が良く、本発明ではフェノール樹脂の添加量が40〜50重量部の間で40%になり、30重量部より少なければ比較例2と同等である。
【0037】
本発明の改質NBR組成物は、カーボンブラックにより改質したものと同等の機械的特性を備えていることが分かった。本発明では、NBR100重量部に対してフェノール樹脂の添加量を100重量部未満とすることができるが、ゴム弾性やその他の特性を総合的に判断するとフェノール樹脂の添加量を5〜50重量部が好ましく、更に10〜30重量部がより好ましいのである。
【0038】
【表2】

【0039】
次に、NBRの種類の影響を調べるために、フェノール樹脂の添加両を実施例4と同様に30重量部とし、アクリロニトリル含量が異なるNBRを用いて実施例7の試料を作製した。
【0040】
<実施例7>
NBR(アクリロニトリル含有量50.0重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0041】
表2に示した実施例4、7より、アクリロニトリル含量が40.5重量%から50.0重量%に増加すると、引張強さ及び破断伸びが若干増加するが、硬さがより硬くなり、圧縮永久歪みが非常に大きくなることが分かる。
【0042】
次に、加工温度の影響を調べるため実施例4に対して加熱ロールの温度を変化させた実施例8,9の試料を作製した。ここで、NBR中のAN含量が40.5%の高NBRを用い、フェノール樹脂添加量を30重量部に固定し、過酸化物で架橋を行った。
【0043】
<実施例8>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を60℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0044】
<実施例9>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を120℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0045】
表2に示したように、実施例8,4,9の順で加熱ロール温度が60℃、100℃、120℃と高くなっており、加熱ロール温度の上昇につれて、引張強さは強くなり、また硬さはより硬くなり、圧縮永久歪みが大きくなるが、破断伸びは100℃まで大きくなり、120℃では逆に小さくなる。
【0046】
次に、架橋剤の違いによる影響を調べるため、実施例4の過酸化物に対して実施例10では硫黄を用い、その他の加工条件は共通にした。
【0047】
<実施例10>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/30になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤として硫黄を0.5重量部、テトラメチルチウラム ジスルフィドを0.7重量部、N−シクロヘキシル ベンゾチアジルスルフェンアミドを0.3重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製して、物性を測定した。
【0048】
表2に示した実施例4,10を比較すると、架橋剤を過酸化物から硫黄にすると、引張強さは若干増加するが、破断伸びは小さくなり、硬さは硬くなり、圧縮永久歪みが大きくなる。
【0049】
そして、透過率を測定するために、実施例11と比較例3の試料を作製した。
【0050】
<実施例11>
NBR(アクリロニトリル含有量40.5重量%)をロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/10になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形することにより、厚み2.0mmの試料を調製して、透過率測定を実施した。
【0051】
<比較例3>
NBR(アクリロニトリル含有量50.0重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、NBR100重量部に対してステアリン酸を1重量部添加し、その後、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを3重量部、架橋助剤をしてトリアリルイソシアヌレートを1重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でスペーサーを用いてプレス成形することにより、厚み2.0mmの試料を調製して、透過率測定を実施した。
【0052】
実施例11と比較例3の試料の透過率を測定した結果を図2に示している。この結果、NBR本来備えている透過率には及ばないが、フェノール樹脂を10重量部添加した実施例11の試料も同様な透過率の傾向を示している。つまり、600nm以上の波長の光を透過可能であり、波長が長くなるにつれて透過率が漸増している。従って、試料を通して見ると赤っぽく見える。紫外線は完全にカットされるので、そのような用途に用いることが考えられる。尚、試料の厚さを薄くすれば、より波長の短い光を透過できるようになり、また透過率も高くなる。例えば、波長700nmに対して0.2mm厚のフィルムの透過率は約70〜80%である。
【0053】
最後に、燃焼性測定を行うために、フェノール樹脂で改質したNBRとカーボンブラックで改質したNBR4に共に共通の難燃剤を配合して実施例12と比較例4の試料を作製した。
【0054】
<実施例12>
NBR(アクリロニトリル含有量50.0重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、フェノール樹脂をNBR/フェノール樹脂重量部比率が100/50になるようにして添加し、NBRに対してステアリン酸を1重量部添加し、亜鉛華を5重量部添加し、その後、硫黄を0.5重量部、テトラメチルチウラム ジスルフィドを0.7重量部、N−シクロヘキシル ベンゾチアジルスルフェンアミドを0.3重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製した。このプレス成形した試料を寸法:150mm×10mm×2mmから試験片を作製し、燃焼性評価試料とした。
【0055】
<比較例4>
NBR(アクリロニトリル含有量50.0重量%)を100℃の加熱ロールに添加、そこに、NBR100重量部に対してステアリン酸を1重量部添加し、亜鉛華を5重量部添加し、その後、硫黄を0.5重量部、テトラメチルチウラム ジスルフィドを0.7重量部、N−シクロヘキシル ベンゾチアジルスルフェンアミドを0.3重量部添加して混練してシート状加工用素材を調製した。
次に、シート状加工用素材を、加熱温度160℃、プレス圧力10MPa、プレス時間20分の条件でプレス成形して試料を調製した。このプレス成形した試料を寸法:150mm×10mm×2mmから試験片を作製し、燃焼性評価試料とした。
【0056】
表3に実施例12と比較例4の試料の燃焼性評価結果を示している。比較例4では、垂下した試験片の下端から着火すると50〜60秒で上端まで燃焼した。それに対して、実施例12の試験片は、上端まで燃焼するのに80〜90秒かかった。これは、本発明において、NBR中にフェノール樹脂が粒径1〜100nmで均一に分散していることから、それ自体で難燃性を備えていることを意味している。
【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の改質NBR組成物は、着色を必要とするゴム製品へ利用することが可能であり、また透明性を備え且つ機械的特性に優れるため、耐衝撃性、防振性、遮音性、吸音性を必要とするガラスや透明プラスチックの保護被膜として使用することが可能である。更に、難燃性を必要とするゴム製品として使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル含有量31%以上のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)100重量部に対してフェノール樹脂100重量部未満を添加し、NBR中にフェノール樹脂を粒径1〜100nmで均一に分散させたことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
NBR中に、フェノール樹脂を粒径1〜20nmで均一に分散させた請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
NBR中のアクリロニトリル含有量が36%以上である請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
フェノール樹脂の添加量が、NBR100重量部に対してフェノール樹脂10〜30重量部である請求項1〜3何れかに記載のゴム組成物。


【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−102358(P2011−102358A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257936(P2009−257936)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】