説明

ゴム補強用ポリエステルコードおよびその製造方法

【課題】高弾性率を有し、かつゴム中で長時間高温に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善された、タイヤキャッププライ用途に好適なゴム補強用ポリエステルコードおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理液として(A)キャリアーを含む処理液、(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液の4者を組合せて、1段または2段以上の多段処理より、該ポリエステル繊維材料に処理を施し、かつ少なくとも(A)キャリアーを含む処理液が配合された第1処理液で処理した後、少なくとも(D)RFL混合液が配合された第2処理液で処理し、最終段の第2処理液で処理した後、0.2cN/dtex以上に調整されたノルマライジング張力下で熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム中で長時間高温に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善されたゴム補強用ポリエステルコードおよびその製造方法に関するものである。
本発明により得られたゴム補強用ポリエステルコードは、タイヤコードとりわけラジアルタイヤのベルト外層部に用いられるキャッププライコードに好適である。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維は優れた力学特性、寸法安定性、耐久性を有し、産業資材用途、なかでも、タイヤコード、Vベルト、コンベアベルト、ホースなどのゴム補強用途に広く利用されている。
タイヤコード用途では、高強度、高弾性率、低収縮率、接着性、耐疲労性といった特性が要求され、ポリエチレンテレフタレート系繊維は、性能、コスト面の優位性より、ラジアルタイヤのカーカスプライコードの主流となっているが、ベルト外層部に用いられるキャッププライコードにおいては、特に耐熱接着性が強く要求される為、接着性に優れるナイロン66が主流である。
【0003】
その一方、ナイロン66繊維は、基本的に弾性率が低いため、高速耐久性を重視したタイヤではコード打ち込み数を増やすなどの対処が必要であり、タイヤの重量が重くなるという欠点がある。それに対して、より弾性率の高いポリエチレンテレフタレートを用いることも提案されているが、耐熱接着性が低いため実用上使えないのが実状である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ポリエステル繊維のゴム配合物中での強力低下、接着力低下の原因はゴム配合物中のアミンや水分の作用による劣化が原因であると言われており、この欠点を解消するため従来から多くの提案がなされてきた。
例えば、カルボキシル末端基量が10μeq/g以下のポリエステル繊維にエポキシ化合物処理およびポリイソシアネート化合物処理およびRFL処理を施す方法が提案されている(特許文献2参照)が、ポリイソシアネート処理が有機溶剤系で行われることなどで実用的でない。
【0005】
これら、ポリエチレンテレフタレートの耐熱接着性の問題に対して、本発明者は、ゴムとの接着性の改善されたポリエステル繊維材料の製造方法を提案している(特許文献3参照)が、具体的な用途について考慮されていない為、必ずしもタイヤキャッププライ用途に適した力学特性を有していなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−124407号公報
【特許文献2】特開昭51−70394号公報
【特許文献3】特開2000−8280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、高弾性率を有し、かつゴム中で長時間高温に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善された、タイヤキャッププライ用途に好適なゴム補強用ポリエステルコードおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の構成をとるものである。
1.ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理液として(A)キャリアーを含む処理液、(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液の4者を組合せて、1段または2段以上の多段処理より、該ポリエステル繊維材料に処理を施し、かつ少なくとも(A)キャリアーを含む処理液が配合された第1処理液で処理した後、少なくとも(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で処理し、最終段の第2処理液で処理した後、0.2cN/dtex以上に調整されたノルマライジング張力下で熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
2.ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理段数が2段であって、(A)キャリアーを含む処理液および(B)ブロックドイソシアネート水溶液が配合された第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで(B)ブロックドイソシアネート水溶液および(C)エポキシ化合物の分散液および(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で処理することを特徴とする上記1記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
3.ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理段数が3段であって、(A)キャリアーを含む処理液および(B)ブロックドイソシアネート水溶液が配合された第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで(B)ブロックドイソシアネート水溶液および(C)エポキシ化合物の分散液および(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で第2段および第3段の処理をすることを特徴とする上記1記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
4.ノルマライジング張力が0.3cN/dtex以上である、上記1〜3に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
5.ノルマライジング張力が0.4cN/dtex以上である、上記1〜3に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
6.ポリエステル繊維材料が、紡糸または延伸または後処理工程で2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物で処理したポリエチレンテレフタレート系繊維を撚糸したコード、およびこれを製織した織物である、上記1〜5に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
7.上記1〜6に記載の方法で製造されたゴム補強用ポリエステルコードを用いたタイヤキャッププライコード。
8.処理コードの強度が4.5cN/dtex以上、2.0cN/dtex荷重時の伸度が5.0%以下であって、常温の剥離接着試験における、初期加硫後のゴム被覆率が90%以上、過加硫後のゴム被覆率が80%以上であるゴム補強用ポリエステルコード。
9.処理コードの強度が4.5cN/dtex以上、2.0cN/dtex荷重時の伸度が5.0%以下であって、150℃雰囲気下の熱時剥離接着試験における、初期加硫後のゴム被覆率が90%以上、過加硫後のゴム被覆率が80%以上であるゴム補強用ポリエステルコード。
10.処理コードの2.0cN/dtex荷重時の伸度が4.0%以下である、上記8〜9に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
11.処理コードの2.0cN/dtex荷重時の伸度が3.5%以下である、上記8〜9に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
12.K=T√Dで表される処理コードの撚係数Kが2500以下である、上記8〜11に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
ここで、Tはコードの上撚り数(回/10cm)、Dはコードの基準繊度(dtex)
13.上記8〜12に記載のゴム補強用ポリエステルコードを用いたタイヤキャッププライコード。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高弾性率を有し、かつゴム中で長時間高温に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善された、タイヤキャッププライ用途に好適なゴム補強用ポリエステルコードおよびその製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステルコードを構成するポリエステル繊維材料は、ポリエチレンテレフタレートまたは少量の第3成分を共重合したポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸して得られる延伸糸(原糸)を撚糸したコード(生コード)、あるいはそれを製織した織物である。
前記ポリエチレンテレフタレート原糸は、特公昭47−49768号公報で示されるような、未延伸糸条あるいは延伸糸条の段階でエポキシ化合物またはイソシアネート化合物などで表面活性化したポリエステル繊維よりなるものであってもよく、特に該ポリエチレンテレフタレート原糸が紡糸または延伸または後処理工程で2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物で処理されたものであることが好ましい。エポキシ化合物の好ましい例としては、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。更には、エポキシ化合物および硬化剤で処理された原糸を40℃〜80℃の温度で24時間〜240時間、加熱処理されたものが好ましい。
【0011】
ゴムとの接着性を付与する処理(以下、ディップ処理と称する)を施した処理コードの強度は、4.5cN/dtex以上、好ましくは5.0cN/dtex以上である。これはタイヤコードの基本性能として必須であり、これ以下であるとタイヤコード用途として不向きである。ここで、コード強度はコード強力をコード構成上の基準繊度(例えば1100dtexの原糸を2本撚り合わせたものなら2200dtex)で割り返した値である。
【0012】
弾性率の評価メジャーとして、2.0cN/dtex荷重時の伸度(以下、中間伸度と称する)を用い、中間伸度は5.0%以下、好ましくは4.0%以下、更に好ましくは3.5%以下である。タイヤキャッププライコードにおいては高弾性率なコードを用いることによって、タイヤのロードノイズ低減、高速性向上が得られるのは公知の事実である。中間伸度が5.0%より高いとタイヤキャッププライコードとして不向きである。
【0013】
前記処理コードの中間伸度は、ディップ処理における最終段の熱処理ゾーン(ノルマライジングゾーン)の張力に大きく依存し、0.2cN/dtex以上、好ましくは0.3cN/dtex以上、更に好ましくは0.4cN/dtex以上である。ノルマライジング張力が、0.2cN/dtex未満では、目的とする高弾性率コードを得ることができない。
【0014】
また、中間伸度に寄与する要因として、コードの撚数が挙げられ、K=T√Dで表される処理コードの撚係数Kが2500以下であることが好ましい。この式におけるTはコードの上撚り数(回/10cm)、Dはコードの基準繊度(dtex)である。撚係数Kが2500を超えると、高弾性率コードが得られ難くなるばかりでなく、強力も低下しタイヤキャッププライコードとして不向きである。
【0015】
耐熱接着性の評価メジャーとして、過加硫および/または熱時のゴム−コード間の剥離接着試験におけるゴム被覆率を用いる。一般に、ポリエステルタイヤコードは、ゴム中で長時間高温に曝露された場合、接着力が低下する。この現象は、ゴムおよび接着剤(ディップ樹脂)および繊維およびそれらの界面の劣化によるものと考えられる。従来のポリエステルタイヤコードでは、接着破壊後のコードにはゴムが殆ど付着していないことから、ゴムの凝集破壊よりもはやく、繊維および/または接着剤およびそれらの界面で破壊が起こっていた。それに対して、耐熱接着性に優れるナイロン66では、接着破壊後のコードはゴムで殆ど被覆されており、破壊部位は繊維から接着剤に至る層ではなく、ゴム側に移行している。これらの視点より、ゴム被覆率を評価することで、耐熱接着性の優劣を判断することが可能である。タイヤキャッププライ用途では、常温雰囲気下、150℃高温雰囲気下、いずれにおいても、初期加硫後のゴム被覆率が90%以上、過加硫後のゴム被覆率が80%以上であることが必要である。これ未満ではタイヤキャッププライコードとして不向きである。
【0016】
ディップ処理は、(A)キャリアーを含む処理液、(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液の4者を組合せた処理液により1段または2段以上の多段処理が施される。好ましくは、(A)キャリアーを含む処理液および(B)ブロックドイソシアネート水溶液が配合された第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液および(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で処理する2段処理が施され、更に好ましくは、前記第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで、前記第2処理液を2回繰り返し処理することによる3段処理が施される。
【0017】
前記第1処理液は、総固形分100重量部に対し、(B)ブロックドイソシアネート固形分が40〜95重量部配合されていることが好ましい。40重量部より少ないと樹脂の架橋が不十分であり充分な耐熱接着性が得られず、95重量部より多いとキャリアー成分が少なくなり、この場合も充分な耐熱接着性が得られない。第1処理液のポリエステル繊維に対する樹脂付着量は、1〜5重量%であることが好ましい。1重量%より少ないと充分な耐熱性が得られず、5重量%より多いとコードが硬くなり強力低下、耐疲労性が低下するとともに、ディップ粕の発生が多くなるなど品位の点から好ましくない。
【0018】
前記第2処理液は、総固形分100重量部に対し、(B)ブロックドイソシアネート固形分が5〜40重量部配合されていることが好ましい。5重量部より少ないと、樹脂の架橋が不十分であり充分な耐熱接着性が得られず、40重量部より多いとRFL成分が少なくなり過ぎるため充分な初期接着性が得られない。更に第2処理液は、総固形分100重量部に対して、(C)エポキシ化合物固形分が0.5〜10重量部配合されていることが好ましい。この範囲より少なくても多くても、良好な接着性は得られない。更に好ましくは0.5〜6重量部である。第2処理液のポリエステル繊維に対する樹脂付着量は、2〜10重量%であることが好ましい。2重量%より少ないと充分な初期接着、耐熱接着性が得られず、10重量%より多いと、ブリスター発生等により接着性がむしろ低下する場合があることや、コードが硬くなり強力低下、耐疲労性といった力学特性の低下、ディップ粕の発生が多くなるなど品位の点から好ましくない。
【0019】
本発明のキャリアーを含む処理液(A)とは、キャリアーを水に溶解、分散または乳化せしめたものであり、その中にはキャリアー以外の溶剤、分散液、乳化剤あるいは安定剤等の助剤や紡糸油剤等が含有されていてもよい。
ここで言うキャリアーとは、その作用は十分明らかではないが、ポリエステル繊維内部に浸入拡散し、ポリエステル繊維の膨潤を高め、繊維内部構造を接着剤分子が入りやすいよう変化せしめる物質である。つまり、キャリアー作用を活用してブロックドイソシアネート水溶液、エポキシ化合物の分散液およびRFL溶液をポリエステル繊維により強固に結合させ耐熱接着性を向上させようとするものである。
【0020】
キャリアーとして好ましいものはp−クロルフェノール、o−フェニルフェノール等のフェノール誘導体類、モノクロルベンゼン、トリクロルベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類およびレゾルシンとp−クロルフェノールとホルムアルデヒドとの反応生成物等が上げられる。特に好ましい例はレゾルシンとp−クロルフェノールとホルムアルデヒドとの反応生成物である。
【0021】
処理液(D)RFLはレゾルシンとホルマリンを酸またはアルカリ触媒下で反応させて得られる初期縮合物とスチレンブタジエンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンラテックス、スチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、アクリロニトリルブタジエンラテックス、天然ゴム、ポリブタジエンラテックス等の1種または2種以上の混合水溶液が用いられる。好ましくはスチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンビニルピリジンラテックスを用いることで、優れた耐熱接着性を得ることが出来る。レゾルシン、ホルマリン、ラテックスの配合比率は公知技術のいずれを適用してもよい。
【0022】
特公昭60−31950号公報ではキャリアー、RFL以外の成分としてブロックドイソシアネートおよび/またはエポキシ樹脂の分散液が用いられるが、本発明者が鋭意検討した結果、処理液(B)ブロックドイソシアネートが水溶性であり、好ましくは平均官能基数が3官能以上、更に好ましくは4官能以上であるとき優れた耐熱接着性が得られる。分散性のブロックドイソシアネートでは、キャリアーとの組合せによる処理液の繊維内部への浸透効果が不十分であり、良好な接着性は得られない。イソシアネート基を多官能化すると同樹脂付着量で比較してコードが硬くなることから樹脂の架橋密度が向上していることが示唆され、その結果、樹脂付着量を下げても優れた耐熱接着性が得られるという利点がある。
【0023】
イソシアネート成分は、特に限定されないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート系のポリイソシアネートが好ましく、更には、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート(2官能のジフェニルメタンジイソシアネートが混合されていてもよい)混合体が優れた性能を示す。
【0024】
ブロック剤成分の熱解離温度は100℃〜200℃であるもの、好ましい例としてフェノール類、ラクタム類、オキシム類等が挙げられる。熱解離温度が100℃より低いと乾燥段階でイソシアネートの架橋反応が開始し、繊維内部への浸入が不均一なものとなる。一方、200℃より高いと充分な架橋反応が得られず、いずれも耐熱接着性は低下する。
【0025】
処理液(C)エポキシ樹脂は特に限定されないが好ましくは2官能以上の多官能エポキシを用いることで、樹脂の架橋密度が高くなり、優れた耐熱接着性が得られる。エポキシ化合物の好ましい例としては、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を示す。
【0026】
耐熱接着性向上の作用は水溶性ブロックドイソシアネートを用いることでキャリアーによるイソシアネートの繊維内部への浸入拡散がより均一なものとなり、イソシアネートが耐熱接着力の低下の原因となるゴム配合物中のアミンの捕捉剤としてより有効に作用していること及び、多官能イソシアネートにより樹脂架橋密度が高くなり、アミンの繊維内部へ浸入に対するバリア性が向上することの相乗効果によりポリエステルの劣化が抑制された結果と考えられる。このことは過加硫後のコード強力保持率が著しく改善されていることからも示唆される。
【0027】
この作用は、上述の第1処理液、第2処理液の組合せで処理することで、より顕著なものとなる。つまり、第1処理液は、イソシアネートによるアミンバリア層が、キャリアー効果で繊維と強固に結合し、繊維および繊維と隣接する接着剤層およびそれらの界面の劣化を著しく抑制させ、次いで、第2処理液は、イソシアネートおよびエポキシによるラテックスの架橋改質効果により、RFL樹脂の耐熱性が向上し、これら全体の効果により優れた耐熱接着性および強力保持率が得られると考えられる。
【0028】
更に、第2処理液を、2回繰り返し処理すると、1回処理と比較して同樹脂付着量で優れた耐熱接着性を得ることが出来る。この作用は、1回あたりの樹脂付着量を下げて重ね塗りすることにより、樹脂の付着斑が改善されることによると考えられる。
【0029】
かくして得られる本発明のポリエステルコードは、タイヤキャッププライ用途に好適な、高弾性率を有し、かつゴム中で高温長時間に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善された画期的なものである。
【実施例】
【0030】
次に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお各物性値は下記の方法により測定したものである。
(強伸度)
JIS−L1017 8.5(2002)に準拠し、20℃、65%RHの温湿度管理された恒温室で24時間以上放置後、引張試験機で、強伸度を測定した。
(繊度)
JIS−L1017 8.3(2002)に準拠し、20℃、65%RHの温湿度管理された恒温室で24時間以上放置後、繊度を測定した。
(引抜接着)
JIS−L1017 附属書1 3.1(2002)のTテスト(A法)を改良したHテストにより評価した。
処理コードをタイヤ用ゴム中に1cmの長さ埋め込み、140℃で40分(初期)または170℃で60分(過加硫)加硫した後、常温でゴムからコードを300mm/分で引き抜くのに要する力をN/cmで表したものである。
(剥離接着)
JIS−K6256 5.(1999)の「布と加硫ゴムの剥離試験」を改良した方法により測定した。図1に示す処理コードとタイヤ用ゴムを積層した試験片を作成し(コード−コード間の剥離面のゴム厚0.7mm、幅25mm、コードの打ち込み本数は33本)、140℃で40分(初期)または170℃で60分(過加硫)加硫した後、常温で試験片の切り込み上下部(図1のa部およびb部)をつまみ、引張試験機で50mm/分で剥離させるのに要する力をN/25mmで表したものである。更に、試験片をオーブン内で150℃で10分熱処理し、その雰囲気下(熱時)で同様に剥離力を測定した。
試験後、剥離面のコードのゴム被覆率を目視評価した。コードがゴムで完全に被覆されているものを被覆率100%、全くゴムが付いていない状態を0%とした。
(ゴム中強力劣化)
処理コードをゴム中に埋め込み、170℃で180分加硫した後、ゴムからコードを取り出して加硫後の強力を測定し、加硫前との保持率で表したものである。
【0031】
(実施例1)
固有粘度0.95dl/gのポリエチレンテレフタレートチップを、紡糸温度300℃で孔数190の紡糸口金より溶融吐出させ、320℃の加熱領域を通過させた後、20℃の冷却風により冷却固化させ、紡糸速度550m/分で引き取り、続いて、延伸倍率5.8倍で延伸し、エポキシ化合物であるソルビトール・ポリグリシジルエーテルを付与、3.0%弛緩させた後、巻き取った。こうして得られた1100dtex、190フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸(固有粘度0.88dl/g、強度8.3cN/dtex)を2本撚り合わせ、撚数47×47(t/10cm)の生コードを得た。
このコードを第1処理液中に浸漬させ、処理液の付いたコードを圧力調整した絞りロールで絞り、余剰な液を削除する。次いで、処理液を付与させたコードに4.0%のストレッチ率を与えながら、120℃のオーブンで56秒間乾燥、次いで、235℃のオーブンで45秒間熱処理させた。この時のホットストレッチ張力は11.0N/cord(0.50cN/dtex)であった。
引き続き、第2処理液中にコードを浸漬させ、エアーにより余剰な液を削除する。次いで、処理液を付与させたコードに−2.0%のリラックス率を与えながら、120℃オーブンで56秒間乾燥、次いで、235℃のオーブンで45秒間熱処理させた。この時のノルマライジング張力は5.6N/cord(0.25cN/dtex)であった。実施例1で用いた第1処理液の配合組成を(表1)、第2処理液の配合組成を(表2)に示す。
【0032】
(実施例2)
実施例1の処理において、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を−1.0%に変更した。この時のノルマライジング張力は8.1N/cord(0.37cN/dtex)であった。それ以外は実施例1と同様の生コード、処理液を用いてディップ処理を行った。
【0033】
(実施例3)
実施例1の処理において、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を0%に変更した。この時のノルマライジング張力は10.6N/cord(0.48cN/dtex)であった。それ以外は実施例1と同様の生コード、処理液を用いてディップ処理を行った。
【0034】
(実施例4)
実施例1の処理において、撚数33×33(t/10cm)の生コードを用い、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を0%に変更した。この時のノルマライジング張力は14.1N/cord(0.64cN/dtex)であった。それ以外は実施例1と同様の処理液を用いてディップ処理を行った。
【0035】
(実施例5)
実施例1の処理において、第2処理液の固形分濃度を14%に変更した。また、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を0%に変更した。更に引き続き、同14%の第2処理液を再び付与し、0%のリラックス率を与えながら乾燥・熱処理を行った。この時の最終第3段処理のノルマライジング張力は10.3N/cord(0.47cN/dtex)であった。それ以外は実施例1と同様の生コード、処理液を用いてディップ処理を行った。
【0036】
(比較例1)
実施例1の処理において、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を−4.0%に変更した。この時のノルマライジング張力は3.5N/cord(0.16cN/dtex)であった。それ以外は実施例1と同様の生コード、処理液を用いてディップ処理を行った。
【0037】
(比較例2)
実施例4の処理において、第2処理液付与後の乾燥・熱処理時のリラックス率を−6.0%に変更した。この時のノルマライジング張力は3.1N/cord(0.14cN/dtex)であった。それ以外は実施例4と同様の生コード、処理液を用いてディップ処理を行った。
【0038】
(比較例3)
ブロックドイソシアネート、エポキシを含まない、キャリアー+RFL処方の代表例として第1処理液に(表3)、第2処理液に(表4)に示す処理液を用い、それ以外は実施例1と同様の生コードを用い、同条件でディップ処理を行った。
【0039】
(表5)に実施例1〜5および比較例1〜3の撚数、ディップ条件、および処理コード物性を示す。
実施例1、2、3の比較より、ノルマライジング張力を上げることで、中間伸度が低下、すなわち高弾性率化している。
実施例4では、撚数を下げることで、同一リラックス条件下でのノルマライジング張力が上がり、中間伸度は一段と低下している。
実施例5では、第2処理液を2回繰り返し、計3段処理を行っており、同樹脂付着量で過加硫および/または熱時の接着性およびゴム中劣化後の強力保持率が、更に優れている。
比較例1、2では、ノルマライジング張力が低いため、中間伸度が上がり、弾性率が不足である。
比較例3では、耐熱接着性を考慮していない処理液を用いているため、明らかに過加硫および/または熱時の接着性が低下、かつゴム中劣化後の強力保持率が低下しており、耐熱性が不足である。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のゴム補強用ポリエステルコードは、高弾性率を有し、かつゴム中で長時間高温に曝露された場合の耐熱接着性および強力保持率が著しく改善されているため、タイヤコードとりわけラジアルタイヤのベルト外層部に用いられるキャッププライコードに利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】剥離接着試験に使用する試験片の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理液として(A)キャリアーを含む処理液、(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液の4者を組合せて、1段または2段以上の多段処理より、該ポリエステル繊維材料に処理を施し、かつ少なくとも(A)キャリアーを含む処理液が配合された第1処理液で処理した後、少なくとも(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で処理し、最終段の第2処理液で処理した後、0.2cN/dtex以上に調整されたノルマライジング張力下で熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項2】
ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理段数が2段であって、(A)キャリアーを含む処理液および(B)ブロックドイソシアネート水溶液が配合された第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで(B)ブロックドイソシアネート水溶液および(C)エポキシ化合物の分散液および(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で処理することを特徴とする請求項1記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項3】
ポリエステル繊維材料にゴムとの接着性を付与するに際して、処理段数が3段であって、(A)キャリアーを含む処理液および(B)ブロックドイソシアネート水溶液が配合された第1処理液で処理した後、熱処理を施し、次いで(B)ブロックドイソシアネート水溶液および(C)エポキシ化合物の分散液および(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液が配合された第2処理液で第2段および第3段の処理をすることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項4】
ノルマライジング張力が0.3cN/dtex以上である、請求項1〜3に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項5】
ノルマライジング張力が0.4cN/dtex以上である、請求項1〜3に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項6】
ポリエステル繊維材料が、紡糸または延伸または後処理工程で2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物で処理したポリエチレンテレフタレート系繊維を撚糸したコード、およびこれを製織した織物である、請求項1〜5に記載のゴム補強用ポリエステルコードの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の方法で製造されたゴム補強用ポリエステルコードを用いたタイヤキャッププライコード。
【請求項8】
処理コードの強度が4.5cN/dtex以上、2.0cN/dtex荷重時の伸度が5.0%以下であって、常温の剥離接着試験における、初期加硫後のゴム被覆率が90%以上、過加硫後のゴム被覆率が80%以上であるゴム補強用ポリエステルコード。
【請求項9】
処理コードの強度が4.5cN/dtex以上、2.0cN/dtex荷重時の伸度が5.0%以下であって、150℃雰囲気下の熱時剥離接着試験における、初期加硫後のゴム被覆率が90%以上、過加硫後のゴム被覆率が80%以上であるゴム補強用ポリエステルコード。
【請求項10】
処理コードの2.0cN/dtex荷重時の伸度が4.0%以下である、請求項8〜9に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
【請求項11】
処理コードの2.0cN/dtex荷重時の伸度が3.5%以下である、請求項8〜9に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
【請求項12】
K=T√Dで表される処理コードの撚係数Kが2500以下である、請求項8〜11に記載のゴム補強用ポリエステルコード。
ここで、Tはコードの上撚り数(回/10cm)、Dはコードの基準繊度(dtex)
【請求項13】
請求項8〜12に記載のゴム補強用ポリエステルコードを用いたタイヤキャッププライコード。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2327(P2006−2327A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143962(P2005−143962)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】