説明

ゴム補強用ポリエステルスリットヤーン

【課題】耐久性、軽量性、シール性に優れたタイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料として好適なゴム補強用ポリエステルスリットヤーン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】主たる繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン2,6−ナフタレートから構成されるポリエステルからなるスリットヤーンであって、該スリットヤーンが以下を満足することを特徴とするゴム補強用ポリエステルスリットヤーン。
(1)引張強度:190〜700MPa
(2)引張伸度:10〜80%
(3)150℃乾熱収縮率:0.1〜8%
(4)80℃におけるtanδ:0.01〜0.10

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用ポリエステルスリットヤーンに関し、さらに詳しくは耐久性、軽量性、シール性に優れ、タイヤ、ベルト、ホース等の補強材料として好適に用いられるゴム補強用ポリエステルスリットヤーンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境破壊、石油資源枯渇といった課題に対し、自動車、電機機器をはじめ省エネルギー化、エネルギー代替化が非常に注目され、特に燃費向上のための自動車の軽量化に伴う、タイヤ、ベルト、ホースなど自動車ゴム部材の軽量化、コンパクト化のニーズが急速に高まっている。こういったゴム部材はポリエステルをはじめとする有機繊維で補強されているのが一般的であり、その中でも補強繊維としてはもっとも汎用性のあるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びその誘導体に代表されるポリエステル繊維が多く用いられている。これら自動車ゴム部材を補強するポリエステル繊維は強力と耐久性を満たすために一般的にマルチフィラメントを撚り合せて撚糸コードとし、エポキシを主成分とするプライマーとレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)系接着剤でゴム接着処理を施した処理コードを用いているのが一般的である。
【0003】
こういう背景のもと、ゴム補強用ポリエステル繊維の形態を変えることによるゴム部材の省エネルギー、耐久性、軽量化など高性能化を図る試みがなされている。例えば、特許文献1(特開2009−13860号公報)には、ベルト幅方向に200dtex以上のモノフィラメントをベルト張力帯用原反5cmあたりに30,000dtex以上打ち込むことにより推力ロスを抑制する高負荷伝動用Vベルトが開示されている。しかし、この方法では直径の大きなモノフィラメントを多く使用するためにベルトのサイズ、重量が大きくなるため軽量化、コンパクト化に対しては課題を有している。また、特許文献2(特開平9−67732号公報)には、タイヤのカーカス材として耐疲労性、操縦安定性に優れたポリエステルモノフィラメントコードが開示されている。しかし、モノフィラメントは曲げに対する柔軟性が低いため、実用上耐え得る耐疲労性には至っておらず、実用化できていないのが現状である。さらに、特許文献3(特開2004−224277号公報)には、テープ状のポリエチレンナフタレートをタイヤのベルト補強層に用いることによって補強層薄肉化によるタイヤ軽量化を図るとともに、高速耐久性、操縦安定性を高めることが開示されている。補強材をテープ状にすることによってモノフィラメントに比べて曲げ歪みに対する耐久性は大幅に向上するものの、タイヤ実使用に耐え得るポリエチレンナフタレートフィルムが得難く、現状実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−13860号公報
【特許文献2】特開平9−67732号公報
【特許文献3】特開2004−224277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、耐久性、軽量性、シール性に優れた、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料として好適なゴム補強用ポリエステルスリットヤーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を行い、以下の力学特性、熱特性を有するスリットヤーンが、ゴム補強材料として優れた性能を発揮することを見出した。
【0007】
かくして本発明によれば、主たる繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン2,6−ナフタレートから構成されるポリエステルからなるスリットヤーンであって、該スリットヤーンが以下を満足することを特徴とするゴム補強用ポリエステルスリットヤーンが提供される。
(1)引張強度:190〜700MPa
(2)引張伸度:10〜80%
(3)150℃乾熱収縮率:0.1〜8%
(4)80℃におけるtanδ:0.01〜0.10
【0008】
また、本発明においては、該ポリエステルスリットヤーンが、幅(W)が0.1〜5mm、厚み(H)が0.01〜0.5mm、幅と厚みの比(W/H)が3〜20である横断面を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム補強用ポリエステルスリットヤーンは、適度な力学特性、熱特性を有していることによって、耐久性、軽量性、シール性等が格段に向上しており、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いるゴム補強用ポリエステルスリットヤーン(以下、単にポリエステルスリットヤーン、スリットヤーンと称することがある)は、ポリエステルフィルムをスリットし、フィラメント状としたものである。
【0011】
本発明のスリットヤーンを構成するポリエステルとしては、主たる繰返し単位の90モル%以上、好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン2,6−ナフタレートから構成されるポリエステルであり、10モル%未満、好ましくは5モル%未満の割合で他の共重合成分を含んでも差し支えない。このような共重合成分としては例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、オキシ安息香酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメリット酸、ペンタエリスリトール等が挙げられる。また、これらのポリエステルには安定剤、着色剤等の添加剤を含んでも差し支えない。また、末端カルボキシル基濃度や分子量等のポリマー性状は何等限定されるものではない。
【0012】
また、本発明のスリットヤーンの引張強度は190〜700MPaであり、240〜600MPaであることが好ましい。引張強度が190MPa未満の場合、実用上耐え得るゴム部材の強度が得られず、一方、700MPaを越えるものはスリットヤーン製造時に切断しやすく生産が難しい。
【0013】
さらに、上記スリットヤーンの引張伸度は10〜80%であり、15〜70%であることが好ましい。引張伸度が10%未満の場合はゴム補強材が伸び難いためゴム部材の柔軟性が劣り、耐久性が低下する恐れがあり、一方、80%を超える場合は、ゴム部材に応力負荷を受けた際に変形しすぎるためゴムに対する補強効果があまり得られない。
【0014】
上記スリットヤーンの150℃乾熱収縮率は0.1〜8%であり、0.5〜7%であることが好ましい。150℃乾熱収縮率が0.1%未満ではゴム部材の加硫成形時に熱収縮応力の発生がなくスリットヤーンが緩んでしまうため、ゴム部材の外観不良が発生しやすく、さらには充分な補強効果が得られない。一方、150℃乾熱収縮率が8%を超える場合は、寸法安定性に劣るため実用的でない。
【0015】
上記スリットヤーンの80℃におけるtanδは0.01〜0.10であり、0.02〜0.08であることが好ましい。たとえば、路面と接触して使用するタイヤや、エンジン周辺に位置するベルト、ホース等のゴム部材は高温雰囲気下に曝された状態で使用されるため、80℃におけるエネルギーロスを示し、非晶部位のポリマー分子の高次構造に依存するtanδは本発明の目的とする耐久性、シール性、さらには省燃費を発揮するために必要である。よって、80℃におけるtanδが0.01未満の場合、スリットヤーンが剛直となるため耐久性が劣り、一方、0.10を超える場合は、寸法安定性が著しく劣り、シール性が低下する。
【0016】
本発明のスリットヤーンの横断面においては、厚み(H)が0.01〜0.5mmであることが好ましい。該厚みが、0.01mm未満では、実用上に耐えうる強度が得られ難い傾向にあり、一方、0.5mmを越えると曲げに対して非常に硬くなるため、ゴム部材の成型が難しくなるばかりでなく、屈曲疲労性が著しく低下してしまう恐れがある。該厚みは、0.05〜0.3mmであることがより好ましい。
【0017】
また、上記スリットヤーンの横断面において、幅(W)が0.1〜5mmであることが好ましい。この範囲であれば、既存のポリエステル繊維の処理コードのディップ処理工程に充分適用できるため工業的な観点から望ましい。幅が0.1mm未満では実用上に耐えうる強度が得られ難くなる傾向にあり、一方、幅が5mm以上ではディップ処理工程における腰折れ等の欠点が生じやすくなる。該幅は0.5〜3mmであることがより好ましい。
【0018】
さらに、上記スリットヤーンの横断面において、厚み(H)に対する幅(W)の比(W/H)が2〜30であることが、耐久性を向上する上で好ましい。該比(W/H)が2未満であると曲げに対する伸長圧縮歪みが大きくなるため耐疲労性が低下する傾向にあり、一方、30を越えると垂直方向からの歪み入力に対してスリットヤーンが折れたりすることによって耐久性が著しく低下してしまう恐れがある。該比(W/H)は5〜20であることがより好ましい。
【0019】
上記スリットヤーンの横断面の厚み、幅の調整は、ポリエステルフィルムの厚みやスリットでカットする際のスリット幅で調整できるとともに、さらに後述するディップ処理工程での延伸によっても目的のサイズに調整することができる。
【0020】
また、本発明において、スリットヤーンの弾性率としては1〜30GPaであることがゴム補強材として実用上好ましく、より好ましくは3〜20GPaである。該弾性率が1GPa未満であると高負荷時に伸び易くなり、一方、30GPaを超えると補強材が硬いために曲げに対する耐久性が低下する傾向にある。
【0021】
以上に説明した本発明のスリットヤーンは、たとえば、延伸後のスリットヤーンの厚み(H)を考慮し、厚みが0.01〜0.9mmのポリエステルフィルムを用い、同様に延伸後のスリットヤーンの幅(W)と、厚み(H)に対する幅(W)の比(W/H)を考慮し、幅が0.1〜9mm、厚みに対する幅の比が2〜30となるようスリットしたスリットヤーンの未処理糸を、まず120〜210℃の温度雰囲気下で30〜300秒間、定長熱処理を行うか、または熱処理しながら3倍以下の倍率で延伸を行い、次いで200〜250℃の温度雰囲気下で30〜300秒間、熱処理しながら1.05〜3倍で延伸を行う2段熱延伸を行うことによって得ることができる。
【0022】
さらに本発明においては、上記2段熱延伸に続き、140〜180℃の温度雰囲気下で60〜180秒間熱処理しながら1.01〜2倍の延伸を行い、次いで220〜245℃の温度雰囲気下で30〜180秒間、熱処理しながら1.05〜2倍で延伸を行う2段以上の熱延伸を行うことが、スリットヤーンの長手方向に対してポリエステル分子を高度に配向、結晶化させて、前記の引張強度、引張弾性率、弾性率、150℃乾熱収縮率、80℃のtanδを達成する上でより好ましい。
【0023】
このような加熱延伸はフィルム製造工程でタテ方向に高倍率延伸を行う二軸延伸したのちに得られたフィルムをスリット加工しても良いし、フィルムをスリット加工したのちに次いで公知のポリエステルディップ処理工程で1浴、2浴ディップ処理時に行っても構わない。延伸は上記熱処理と同時に熱処理炉前後のローラー速度を変更することによって行うことができ、延伸倍率を向上することによって、強度・弾性率を高める、伸度を低下させる、繊度・幅・厚みを低下させるなどスリットヤーンの形状や物性を任意に調整することが可能である。
【0024】
上記のようなスリットヤーンには、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム部材を構成するゴムとポリエステルとの接着のために接着剤が付与される。付与される接着剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ハロゲン化フェノール化合物及びレゾシンポリサルファイド化合物などを含む接着剤が挙げられ、具体的には、第1処理液としてエポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト、ラテックスの混合液を付与し、上記熱処理後に第2処理液としてレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物およびゴムラテックスからなる液(RFL液)を付与し、さらに熱処理する方法が好ましい。接着剤を付与する方法としては公知のディップ工程を活用できるが、ローラーとの接触、ドクターナイフによるコーティング、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、又は、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、該スリットヤーンに対する固形分付着量は、0.1〜10重量%が好ましく、1.0〜5.0重量%がより好ましい。該スリットヤーンに対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレーパー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引等の手段により行うことができ、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、実施例は説明のためのものであって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本発明の実施例における評価は下記の測定法で行った。
【0026】
(1)引張強度、引張伸度、初期弾性率、150℃乾熱収縮率
JIS L1017に準じて測定を行い、それぞれ求めた。
【0027】
(2)80℃のtanδ
動的粘弾性評価装置RHEOVIBRON DDV−25FP(オリエンテック社製)を用い、昇温速度5.0℃/min、加振周波数10Hz、初荷重0.35cN/dtex、振幅0.035cN/dtexの単一波形・定荷重モードで室温から200℃まで測定して求めた。
【0028】
(3)チューブ疲労性
得られたスリットヤーンとゴムからなるチューブを作成し、JIS L1017−付属書1、2.2.1「チューブ疲労性」に準じた方法でチューブが破壊する時間を測定した。なお、試験角度は70°、空気圧は3.5kg/cmとした。
【0029】
(4)空気透過指数
上記(3)のチューブ疲労性試験開始直後から内圧3.5kg/cmを120分保つために用いた空気流量を補強材のブランクチューブに用いた空気流量との比を指数化して空気透過指数として求めた。なお、空気透過指数の値が低いほど空気が洩れ難くシール性に優れていることを表す。
【0030】
[実施例1]
厚み0.13mmのポリエチレン2,6−ナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製 テオネックスフィルム)を2mm幅に裁断したスリットヤーンを使用し、これをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、ディップ処理機)を用いて、11m/分の速度でエポキシとブロックドイソシアネートからなる水分散体のプライマーに浸漬した後、200℃2分間、ストレッチ率1%(延伸倍率1.01倍)で伸張し、次いで240℃1分間、ストレッチ率20%(延伸倍率1.20倍)で伸張を行い、引き続いて、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)水分散体に浸漬した後に170℃2分間、ストレッチ率1%(延伸倍率1.01倍)で伸張し、次いで240℃1分間、ストレッチ率70%(延伸倍率1.70倍)で伸張を行い、23m/分の速度で巻き取り、引張強度360MPa、引張伸度18%、弾性率10GPa、150℃乾熱収縮率3.5%、80℃のtanδ0.05、厚み0.15mm、幅1.0mmのゴム補強用ポリエステルスリットヤーンを得た。得られたポリエステルスリットヤーンを、天然ゴムを主成分とする未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後に前記の方法によりチューブ疲労性および空気透過指数の評価を行った。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0031】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
表1に示すように熱処理、ストレッチ条件を変更した以外は実施例1と同様の処理、評価を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0032】
[実施例5〜6、比較例3〜4]
厚み0.10mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製 テトロンフィルム)を2mm幅に裁断したスリットヤーンを使用し、表1に示すように熱処理、ストレッチ条件を変更した以外は、実施例1と同様の処理、評価を行った。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかな通り、実施例1〜6はいずれも耐疲労性、シール性が非常に高く、これを用いることによって従来成し得なかったタイヤ、ベルト、ホース等の補強層の薄肉化ができることでゴム部材の軽量化が可能であり、耐疲労性やシール性に優れるためゴム部材を長寿命化することができるため、省燃費・省エネルギー等の環境面で大いに特性を発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のゴム補強用ポリエステルスリットヤーンは、耐久性、軽量性、シール性に優れたタイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン2,6−ナフタレートから構成されるポリエステルからなるスリットヤーンであって、該スリットヤーンが以下を満足することを特徴とするゴム補強用ポリエステルスリットヤーン。
(1)引張強度:190〜700MPa
(2)引張伸度:10〜80%
(3)150℃乾熱収縮率:0.1〜8%
(4)80℃におけるtanδ:0.01〜0.10
【請求項2】
ポリエステルスリットヤーンが、幅(W)が0.1〜5mm、厚み(H)が0.01〜0.5mm、幅と厚みの比(W/H)が2〜30である横断面を有している請求項1記載のゴム補強用ポリエステルスリットヤーン。

【公開番号】特開2012−167392(P2012−167392A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27637(P2011−27637)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】