説明

ゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法およびタイヤ

【課題】従来技術では達成できなかった、高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性、耐熱強力保持性が改善され、かつ耐疲労性が実用上十分であるゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【解決手段】少なくとも(A)エポキシ当量100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物、(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスの3種を含む第1処理剤によって被覆され、さらにその外層としてレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第2処理剤によって被覆されてなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、かつ、1浴目ホットストレッチ張力が0.05〜0.40cN/dTexで処理されてなることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、ホースおよびベルトなどに使用されるゴム補強用ポリエステル繊維コードに関する。さらに詳しくは、高弾性率を有し、かつゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性、耐疲労性が著しく改善され、タイヤ、ホースおよびベルト用として好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、優れた強度、弾性率および熱寸法安定性を有するため、タイヤ、ホース、ベルトなどのゴム製品用補強材として従来から広く使用されている。ポリエステル繊維は、補強材としてゴム製品中に埋め込まれて使用される時に、その高温環境下では熱劣化する傾向がある。そして、その化学的熱劣化は、ゴム自身およびゴム中に配合されている種々の添加物の影響を受ける。ゴム中には、チウラム系、スルフェンアミド系あるいはグアニジン系などの加硫促進剤やアミン系老化防止剤などが配合されており、ゴム中で高温処理を受けたポリエステル繊維は、主にこれらのアミン系化合物やゴム自身の酸化劣化によって生じた低分子量化合物、水分子およびゴム中に含まれていた水分等によって、アミン分解や加水分解される。かかるアミン分解や加水分解されたポリエステル繊維は、接着性や強力等の初期特性が著しく低下するため、使用に耐えられなくなるという問題があった。
【0003】
ポリエステル繊維がアミン分解や加水分解すると、分子鎖切断に伴う強力低下やゴムと繊維層との接着性の低下が招かれる。しかるに、ポリエステル繊維をゴム補強用繊維として用いた場合には、かかる欠点を有するものの、高強力、高弾性率、熱寸法安定性に優れたタイヤが得られ、かつ耐疲労性や接着性の改良も進んでいるばかりか、タイヤ製造技術の向上とも相まって、近年では殆どの乗用車ラヂアルタイヤのカーカス材として用いられるようになっている。
【0004】
しかしながら、ポリエステル繊維は、上記したような本質的な欠点を有しているため、タイヤ高速走行時に発熱した熱がこもりにくく化学劣化し難い比較的小さなタイヤサイズの乗用車用カーカス材に限られて使用されているのが現状であり、トラック、バス等の大型タイヤではごく一部に使用されているに過ぎない。一般には、トラック、バス用タイヤ、航空機用タイヤ、大型乗用車用タイヤおよびレーシングカータイヤ等の分野には、ポリエステル繊維コードは使用されていないのが現状である。
【0005】
ポリエステル繊維の耐熱接着性の改善に関する代表的な従来技術としては、特許文献1〜4等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−274529号公報
【特許文献2】特開平8−100165号公報
【特許文献3】特開2010−53465号公報
【特許文献4】特開2001−63312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、上記特許文献1〜4に記載の方法によれば、従来のポリエステル繊維の接着方法に比べて、高温下での耐熱接着性および耐熱強力保持性の改善がある程度認められるものの、未だ実用上十分ではないか、あるいは耐疲労性が十分とはいえないものであった。
【0008】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術では達成できなかった、高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性、耐熱強力保持性、耐疲労性が改善され、かつ耐疲労性が実用上十分であるゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討し、耐熱接着性が十分でない理由は、接着剤のコードへの含浸が不十分な為であることを突き止めた。繊維内部まで十分に接着剤で満たされた場合、ゴム中のアミン類を代表とする添加剤と繊維との接触を減らすことができ、それによってコードの強力低下を抑制し、耐熱接着性を向上させることが可能となる。また、接着剤の含浸が十分であればコードの単糸表面を接着剤が隙間無く埋めることにより、ゴムと接着できる単糸の表面積が増え、接着性が向上すると考えられる。この時さらに接着剤中のゴムラテックス量を増やすことで、接着剤中のゴムラテックスと被接着側のゴム層との共架橋により強固なゴム−ゴム間の結合を形成させ、接着性を更に向上させることが出来ると考えられる。本発明者は接着剤付与後の延伸熱処理工程に於いて、コードにかかる張力を調整する事で、接着剤のコードへの含浸を十分なレベルまで高め、耐熱接着性を向上させることを見出した。
【0010】
即ち、
(1)少なくとも(A)エポキシ当量100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物、(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスの3種を含む第1処理剤によって被覆され、さらにその外層としてレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第2処理剤によって被覆されてなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、かつ、1浴目ホットストレッチ張力が0.05〜0.40cN/dTexで処理されてなることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(2)前記第1処理剤に含まれる(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスが、第1処理剤の固形分100重量%に対して60〜90重量%含有することを特徴とする上記(1)に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(3)前記第2処理剤に含まれるゴムラテックスが、一種以上のゴムラテックスが混合されてなるものであり、ゴムラテックスの全固形分100重量%に対して、ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスが75〜100重量%含まれることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(4)前記第2処理剤の固形分100重量%に対して、ブロックドポリイソシアネート化合物の含有量が5〜30重量%であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(5)第2処理剤の樹脂付着量が1〜6重量%であり、且つ、第1処理剤と第2処理剤の合計の樹脂付着量が3〜7重量%であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(6)前記ゴム補強用ポリエステル繊維コードが、2浴目ホットストレッチ張力が0.05〜0.40cN/dTex、かつ2浴目ノルマライジング張力が、0.05〜0.20cN/dTexで処理されてなることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(7)前記第1処理剤中の(B)ブロックドポリイソシアネート化合物の活性官能基数が1または2であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(8)前記第1処理剤の固形分を100重量%として、(A)、(B)各成分の含有量が下記のとおりであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(A)5〜30重量%、(B)5〜30重量%
(9)前記(1)〜(8)のいずれか記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法で製造されるゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性が著しく改善され、かつ耐疲労性が実用上十分であるゴム補強用ポリエステル繊維コードが得られる。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳述する。
【0013】
本発明で用いるポリエステル繊維は、ジカルボン酸とグリコール成分とからなるポリエステルからなり、特にテレフタール酸とエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0014】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、高強度、高タフネス、高弾性率、低収縮、高耐疲労性等の優れた機械的特性を有し、かつゴム中で高温に長時間曝されても優れた耐加水分解性や耐アミン分解性等の優れた化学的耐久性を有するため、本発明で用いるポリエステル繊維は、以下の特性を有することが好ましい。
(1)固有粘度(IV)=0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1
(2)カルボキシ末端基(COOH)=10〜30eq/t、より好ましくは12〜25eq/t
(3)ジエチレングリコール(DEG)の含有量=0.5〜1.5重量%、好ましくは0.5〜1.2重量%
(4)強度(T)=6.0〜10.0cN/dtex、より好ましくは7.0〜9.0cN/dtex
(5)伸度(E)=8〜20%、より好ましくは10〜16%
(6)中間伸度(ME)=4.0〜6.5%、より好ましくは4.5〜6.0%
(7)乾熱収縮率(ΔS150℃)=2.0〜12.0%、より好ましくは3.0〜10.0%
【0015】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードに用いるポリエステル繊維が特に化学的耐久性を有するためには、粘度が高く、カルボキシ末端基が少なく、ジエチレングリコールが少ないことが有利である。
【0016】
本発明で用いるポリエステル繊維は、カルボキシ末端基を少なくするため、例えばカルボジイミド化合物、ポリエポキシド化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリン化合物などの末端カルボキシル基封鎖剤を用いて改質されていてもよい。
【0017】
また、本発明のポリエステル繊維は、あらかじめ製糸工程においてポリエポキシド化合物が付与されたものであってもよい。本発明で使用することのできるポリエポキシド化合物は、一分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を、該化合物100gあたり0.1g当量以上含有する化合物を挙げることができる。具体的には、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトールなどの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酸化または過酸化水素などで不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、すなわち、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキリレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジペート、フェノールノボラック型、ハイドロキノン型、ビフェニル型、ビスフェノールS型、臭素化ノボラック型、キシレン変性ノボラック型、フェノールグリオキザール型、トリスオキシフェニルメタン型、トリスフェノールPA型、ビスフェノール型のポリエポキシド等の芳香族ポリエポキシド等が挙げられる。特に好ましいのは、ソルビトールグリシジルエーテル型やクレゾールノボラック型のポリエポキシドである。
【0018】
これらの化合物は、通常は乳化液として使用されるが、乳化液、又は溶液にするには、該化合物をそのままか、もしくは必要に応じて少量の溶媒に溶解したものを公知の乳化剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化又は溶解して用いる。
【0019】
該ポリエポキシド化合物は、ポリエステル繊維の製糸工程において紡糸油剤と共に付与される。この際の該ポリエポキシド化合物の付着量は、0.1〜5重量%の範囲である。該ポリエポキシド化合物の付着量が0.1重量%未満では、ポリエポキシド化合物の効果が十分に発揮されず、ポリエステル繊維とゴムとの間で満足できる接着性が得られないおそれがある。一方、該ポリエポキシド化合物の付着量が5重量%を超えると繊維が非常に硬くなり、次工程以降で処理する処理剤の浸透性が低下する結果、接着性能が低下するため好ましくない。
【0020】
本発明で用いるポリエステル繊維は、繊度、フィラメント数、断面形状等の制約を受けないが、通常、200〜5000dtex、30〜1000フィラメント、円断面糸が用いられ、250〜3000dtex、50〜500フィラメント、円断面糸が好ましい。
【0021】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、上記ポリエステル繊維を撚糸して生コードとし、生コードそのまま、または生簾反に製織した後接着剤処理して得られる。通常のカーカス用タイヤコードに用いる生コードは、SまたはZ方向に下撚りした後、2本または3本の下撚りコードを合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけ諸撚りコードとしたものである。次いで該生コードを経糸とし、緯糸に綿糸、またはポリエステル繊維に綿糸をカバリングして緯糸とし、生簾反に製織する。次に、該生簾反を接着剤処理してディップ反が得られる。
【0022】
一方、ホースやベルト用コードの場合には、下撚りをかけ、下撚りコードのまま、あるいは前記と同様、2本または3本合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけて諸撚りコードとし、コード形態のまま接着剤処理してディップコードとする。
【0023】
本発明の接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コードとは、上記ディップ反およびディップコードの両者を指す。
【0024】
本発明のポリエステル繊維コードは、下撚りおよび上撚りを施された撚糸コードであることが好ましい。この時、下撚り係数K1が、150≦K1≦2000であることが好ましく、より好ましくは300≦K1≦1800である。下撚り係数が好ましい範囲を外れると、高温暴露後の接着力が低下したり、ゴム中での耐疲労性が悪化したりすることがある。また、上撚り係数K2は、250≦K2≦3000であることが好ましく、より好ましくは400≦K2≦2700である。上撚り係数が好ましい範囲を外れると、高温暴露後の接着力が低下したり、ゴム中での耐疲労性が悪化したりすることがある。(ただし、K=T×D1/2、K:撚り係数、T:単位長さあたりの撚り数(回/10cm)、D:繊度dtex)
【0025】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、少なくとも(A)エポキシ当量100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物、(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスの3種を含む第1処理剤によって被覆され、さらにその外層としてレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第2処理剤によって被覆されてなるものである。
【0026】
本発明の第1処理剤には、耐熱接着性を向上させる観点から、(A)エポキシ当量が100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物を混合することが必要である。エポキシ当量が100より少ない場合はコードが硬くなり耐疲労性が低下する可能性があり、200より多い場合は接着力が低下する可能性がある。本発明に使用できるポリエポキシド化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものである。
【0027】
分子内にエポキシ基を2個以上有するポリエポキシド化合物は、例えば、分子内に水酸基を有する化合物から得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル基を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプが分子内に混在するエポキシ樹脂などがある。
【0028】
第1処理剤の全固形分100重量%に対して、(A)エポキシ当量が100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物は5〜30重量%含むことが好ましい。5重量%より少ないと接着力が低下する可能性があり、30重量%より多いと接着力が低下する可能性や耐疲労性が低下する可能性がある。
【0029】
また、本発明の第1処理剤には、接着性をさらに向上させる観点から、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物を含有させることが必要である。
【0030】
本発明で用いることのできるブロックドポリイソシアネート化合物とは、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、加熱によりブロック化剤成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生ぜしめるものである。本発明に使用できるブロックドポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート化合物(トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなど)、脂肪族ポリイソシアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネートなど)などのポリイソシアネート化合物と、フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類、ε−カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類やアセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類といったブロック化剤との反応物が挙げられる。これらの化合物のうち、特にε−カプロラクタムでブロックされた芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0031】
ブロックドポリイソシアネート化合物におけるブロックされたイソシアネート基数は1以上であれば良いが、1〜2であることが好ましく、より好ましくは2である。イソシアネート基数が3以上になるとコードが硬くなり耐疲労性が低下する可能性がある。
【0032】
第1処理剤の全固形分100重量%に対して、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物は5〜30重量%含むことが好ましい。5重量%より少ないと接着力が低下する可能性があり、30重量%より多いと耐疲労性が低下する可能性がある。
【0033】
本発明の第1処理剤には、耐熱接着性を向上させる観点から、(C)ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを混合する必要がある。ガラス転移温度がこの範囲を外れると耐熱接着力が低下する可能性がある。その他にも、例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、前記以外の任意のガラス転移温度のビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンゴムラテックス等のゴムラテックスを併用することが出来る。
【0034】
(C)ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスは第1処理剤中の全固形分100重量%に対し60〜90重量%配合することが好ましい。60重量%より少ないと接着力が低下する可能性や耐疲労性が低下する可能性があり、90重量%より多いと接着力が低下する可能性がある。より好ましいのは60〜80重量%である。
【0035】
ポリエステル繊維に対する第1接着処理剤による被膜の樹脂付着量は、繊維重量に対して0.5〜5重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜4重量%の範囲である。樹脂付着量が低すぎると、接着性が低下し、一方樹脂付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下するため好ましくない。
【0036】
本発明の第1処理剤には接着力を向上させる観点からケイ酸塩化合物を配合しても良い。
【0037】
本発明の第1処理剤に使用できるケイ酸塩化合物とは、ケイ素、マグネシウム、ナトリウムおよびリチウムを構成元素とする無機化合物であり、フッ素および/またはアルミニウムをさらに含んでいても良く、一般にはスメクタイトと称される合成無機化合物である。
【0038】
このケイ酸塩化合物中のケイ素/マグネシウムの含有量の比は、1/(0.1〜1.0)であることが、接着性を発現する観点から好ましい。さらには、ケイ酸塩化合物の1%水分散液の光透過率Tが50%以上、とくに60%以上であることが好ましく、かつ、同1%水分散液のチクソトロピー指数が2.0〜10.0、とくに3.0〜9.0の範囲にあり、さらには比表面積が100〜500、とくに150〜400の範囲にあることがそれぞれ望ましい。
【0039】
なお、本発明でいう光透過率T、チクソトロピー指数および比表面積とは、次の方法により求めた値である。
【0040】
[光透過率]
ケイ酸塩化合物の1%水分散液をよく撹拌した後、1昼夜静置し、沈降分離していない水分散液のみを10mmのセルに入れ、U−3000型分光光度計(日立製作所社製)を用いて、波長500nmにおける光透過率を測定した値である。
【0041】
[チクソトロピー指数]
ケイ酸塩化合物の2%水分散液をよく撹拌した後、1昼夜静置し、沈降分離していない水分散液の粘度をB型粘度計(芝浦システム社製)で測定し、次式により算出した値である。ローターはNo.3を使用し、6rpm、60rpmともに測定前2分間静置し、1分間回転後の指示を読んだ値である。
TI=(6rpmでの粘度)/(60rpmでの粘度)
【0042】
[比表面積]
比表面積カンタンソープ(ユアサアイオニクス社製)の専用セルを秤量した後、このセルにケイ酸塩化合物を1/2程度(約0.15g)詰めて秤量し、常法によりカンタンソープで測定して、次式により算出した値である。
比表面積(m2 /g)=(A/AC)×(V×2.81/サンプル量g)
A:セルを液体窒素から外し室温の水に浸漬した後の積算計の値
AC:純液体窒素ガスを注入後の積算計の値
V:A/1300
【0043】
ケイ酸塩化合物を配合する場合は、第1処理剤の全固形分100重量%あたり0〜10重量%配合することが好ましい。10重量%より多い場合は接着力が低下する可能性がある。
【0044】
また、本発明の第1処理剤には接着力を向上させる観点からオキソザリン基を含む化合物を配合しても良い。
【0045】
本発明で使用できるオキサゾリン基を含む化合物とは、一般の有機化合物または有機ポリマー、オリゴマーを主骨格とした物質の末端または側鎖にオキサゾリン基(好ましくは2−オキサゾリン基)を含む化合物をいう。オキサゾリン基は、その骨格に1つまたは2つ以上持つことができるが、接着性能の向上のためには反応性官能基であるオキサゾリン基を多く持つ方がより好ましい。オキサゾリン基含有物質の主鎖の骨格としては、炭化水素鎖、エチレングリコール鎖、ビスフェノールA等のビスフェノール類やフェノール樹脂、ノボラック樹脂、レゾール樹脂などの初期重合物が用いられ、それらの分子骨格中には芳香環や複素環を含む物質も使用される。さらに主成分モノマー及び/またはそれからなるポリマーやオリゴマーの末端や側鎖にオキサゾリン基を含有する物質も有用である。これらのモノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル、メタクリル酸、エチレン、ブタジエン、アクリルアミドなどが用いられ、これらは単独のポリマー及び/またはオリゴマーとして、さらに共重合物質としても使用される。また、これらの混合物としても使用できる。
【0046】
オキサゾリン基含有物質の形態としては、液状、溶融状、固体またはこれらを溶解しうる水や有機溶媒中での溶液状、さらに水などに分散した懸濁液状(エマルジョン粒子、ラテックス粒子状など)で使用される。例えばかかる化合物をそのままあるいは必要に応じて少量の溶媒に溶解したものを、公知の乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化又は溶解する方法を用いてもよい。
【0047】
オキサゾリン基を含む化合物を配合する場合は第1処理剤の全固形分100重量%あたり0〜30重量%配合することが好ましい。30重量%より多い場合は接着力が低下する可能性がある。
【0048】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードの第2処理剤は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含むものである。レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスとはレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスからなる混合物である。該レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)は、特にアルカリ触媒下で初期縮合して得たレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を用いて調製することが好ましい。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を含むアルカリ性水溶液内に、レゾルシンとホルムアルデヒドを添加混合して、室温で数時間静置し、レゾルシンとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加えて混合エマルジョンとする方法により調製される。
【0049】
レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物は、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が1:0.3〜1:5、好ましくは1:0.75〜1:2.0の範囲のものを用いる。ホルムアルデヒドのモル比が前記範囲よりも少ないと、処理コードが粘着性を帯び、処理機の汚れを招くことがあり、一方、ホルムアルデヒドのモル比がこの範囲よりも多いと、接着力が低下することがある。
【0050】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスの調製に用いるゴムラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンゴムラテックス等が挙げられ、これらを単独、又は併用して使用することができる。中でも、ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを単独、又は他のものと併用して使用することが好ましい。さらには、第2処理剤に含まれるゴムラテックスの全固形分100重量%に対して、ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスが75〜100重量%含まれることがより好ましい。75重量%より少ないと耐熱接着力が低下する可能性がある。
【0051】
また、ゴムラテックスは第2処理剤中の全固形分100重量%に対し60〜90重量%配合することが好ましい。60重量%より少ないと接着力が低下する可能性や耐疲労性が低下する可能性があり、90重量%より多いと接着力が低下する可能性がある。
【0052】
本発明の第2処理剤には、接着性をさらに向上させる観点から、ブロックドポリイソシアネート化合物を含有させることが好ましい。
【0053】
本発明に使用できるブロックドポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート化合物(トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなど)、脂肪族ポリイソシアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネートなど)などのポリイソシアネート化合物と、フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類、ε−カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類やアセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類といったブロック化剤との反応物が挙げられる。これらの化合物のうち、特にε−カプロラクタムでブロックされた芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0054】
ブロックドポリイソシアネート化合物におけるブロックされたイソシアネート基数は1以上であれば良いが、1〜2であることが好ましく、より好ましくは2である。イソシアネート基数が3以上になるとコードが硬くなり耐疲労性が低下する可能性がある。
【0055】
第2処理剤の全固形分100重量%に対して、ブロックドポリイソシアネート化合物は5〜30重量%含むことが好ましい。5重量%より少ないと接着力が低下する可能性があり、30重量%より多いと耐疲労性が低下する可能性がある。
【0056】
本発明のポリエステル繊維コードにおいて、第2接着処理剤による被膜の樹脂付着量は、繊維重量に対して1〜6重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.5〜5重量%の範囲である。樹脂付着量が低すぎると、接着性が低下し、一方樹脂付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下したり、また、工程中のロールに固形分がガムアップし、操業安定性が悪化したりすることがある。
【0057】
また、本発明のポリエステルコードにおいて、第1処理剤による被膜と第2処理剤による被膜の合計の樹脂付着量は、繊維重量に対して3〜8重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜7重量%の範囲である。樹脂付着量が低すぎると、接着性が低下し、一方樹脂付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下したり、また、工程中のロールに固形分がガムアップし、操業安定性が悪化したりすることがある。
【0058】
本発明では繊維内部に接着剤を十分含浸させるよう、後述する方法によって測定される1浴目のホット処理時の張力を0.05〜0.40cN/dTexにする必要がある。0.40cN/dtexを超えると、繊維内部への接着剤の含浸が不十分となり、耐熱接着性が低下する可能性がある。0.05cN/dTexを下回るとコードやDIP反が弛み、生産性が悪化する可能性がある。また、後述する方法によって測定される2浴目のホット処理時の張力は0.05〜0.40cN/dTexであることが好ましく、後述する方法によって測定される2浴目ノルマライズ処理時の張力は0.05〜0.20cN/dTexであることが好ましい。張力がこれらの範囲を上回ると繊維内部への接着剤の含浸が不十分となることから耐熱接着性が低下する可能性がある。張力がこれらの範囲を下回るとコードやDIP反が弛み、生産性が悪化する可能性がある。
【0059】
上記によって特徴づけられる本発明のポリエステル繊維コードは、ゴム加硫工程やゴム製品使用中、長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性、耐疲労性が著しく改善される。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。
【0060】
次に、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法について述べる。本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、前述したポリエポキシド化合物、ゴムラテックス、ブロックドポリイソシアネート化合物を含む第1処理剤を付与し、2浴目で前述したレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む第2処理剤を付与することによって得ることが出来る。
【0061】
本発明で用いるポリエステル繊維は、撚糸して前記した撚り係数の生コードとなし、次いで同様に簾織り用織機を用いてコード簾反とする。ホース、ベルト用コードの場合には下撚りコードまたは諸糸コードのまま、製織することなく次のディッピング工程に供することもある。
【0062】
1浴目でポリエポキシド化合物、ゴムラテックス、ブロックドポリイソシアネート化合物を含む第1処理剤を付与する方法は、該成分を含む接着剤を水溶液または水分散体として調整したディップ液に、ポリエステル繊維生コードまたは生コード簾を浸漬し、次いで乾燥、熱処理することによって行われる。該1浴目のディップ液の総固形分濃度は、2〜20重量%、好ましくは3〜15重量%の範囲で使用することがよい。該固形分濃度が低すぎると接着剤表面張力が増加し、ポリエステル繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、樹脂付着量が低下することによって接着性が低下し、また、該固形分濃度が高すぎると樹脂付着量が多くなり過ぎるため、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがあり、好ましくない。
【0063】
また、1浴目のディップ液には分散剤、すなわち界面活性剤を該ディップ液の全固形分に対し、10重量%以下、好ましくは、5重量%以下で用いることが好ましい。10重量%を越えると接着性が低下する。
【0064】
ポリエステル繊維に対する1浴目のディップ液の樹脂付着量は、繊維重量に対して0.5〜5重量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜4重量%の範囲である。樹脂付着量が低すぎると、接着性が低下し、一方樹脂付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがある。該ポリエステル繊維に対する樹脂付着量を制御するためには、例えば、ディップ液に浸漬した後圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、圧力空気による飛ばし、吸引等の方法を使用することができる。また、樹脂付着量を多くするために、複数回付着させることもできる。
【0065】
1浴目のディップ液を付与したポリエステル繊維コードは、70〜150℃で、0.5〜5分間乾燥後(以下ドライ処理と呼ぶ)、200〜255℃で0.5〜5分間熱処理(以下ホット処理と呼ぶ)して繊維表面に接着剤による被膜を形成させるが、場合によっては乾燥を省略することもできる。
【0066】
上記熱処理の温度が200℃未満では、繊維上への接着剤による被膜の形成およびゴムとの反応が不十分で、接着力が不十分となることがあり、一方、255℃を越える高温では、繊維上に形成された処理剤による被膜が劣化して接着力が低下するためや、ポリエステル繊維が熱劣化し、強力が低下するため、好ましくない。
【0067】
上記のように1浴目のディップ液を付与した後、引き続き、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む第2処理剤を付着させる。
【0068】
レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含む2浴目ディップ液は、固形分濃度が5〜30重量%が好ましく、より好ましくは10〜25重量%である。5重量%未満であると、2浴目のディップ液の樹脂付着量が不十分となり、接着力が十分でないことがある。固形分濃度が30重量%を超えると、該ディップ液の保存安定性が悪くなり、固形分が凝集して濃度変化がおこり、ポリエステル繊維コード表面にディップ液を均一に付着させることが困難となる。
【0069】
ポリエステル繊維コードに対する該2浴目の樹脂付着量は、1〜6重量%の範囲が好ましく、より好ましくは1.5〜5重量%の範囲である。また、1浴目と2浴目の合計の樹脂付着量は、3〜8重量%の範囲が好ましく、より好ましくは3〜7重量%である。樹脂付着量が低すぎると、接着性が低下することがあり、一方樹脂付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがあり、また、処理工程上でのロールに固形分のガムアップが生じ、操業安定性が悪化することがある。
【0070】
該ポリエステル繊維に対する樹脂付着量を制御するには、例えば、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、圧空による吹き飛ばし、吸引等の方法を使用することができる。また、樹脂付着量を多くするために、複数回付着させてもよい。
【0071】
2浴目ディップ液を付与したポリエステル繊維コードは、70〜150℃で、0.5〜5分間乾燥(ドライ処理)した後、200〜255℃で0.5〜5分間熱処理し(ホット処理)、続いてコード物性制御のため、200〜255℃で0.5〜5分間熱処理(以下ノルマライズ処理と呼ぶ)ことによって、繊維表面に接着剤による被膜を形成できるが、場合によっては乾燥を省略することもできる。ホット処理およびノルマライズ処理の温度が200℃未満では、繊維上への接着剤による被膜の形成およびゴムとの接着が不十分となることがあり、一方、255℃を越える高温では、繊維上に形成された処理剤による被膜が劣化して接着力が低下するためや、ポリエステル繊維が熱劣化を起こし、強力低下するため、好ましくない。
【0072】
本発明によれば、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性が著しく改善され、かつ耐疲労性が実用上十分であるゴム補強用ポリエステル繊維コードが得られる。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明においてゴム補強用ポリエステル繊維コードの物性の測定方法、評価方法は以下に示すとおりである。
【0074】
(1)樹脂付着量
一定長さあたりの撚糸コードの重量を予め測定しておき、接着剤処理後の同一長さのコード重量を測定することで、差分としての樹脂付着量を計算した。
【0075】
(2)T−初期接着力およびT−耐熱接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。JIS L−1017(2002)の接着力−A法に従って、処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で初期接着力は、150℃、30分、耐熱接着力は170℃、70分間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した加重をN/cmで表示した。
【0076】
なお、T−接着力の測定に使用したゴムコンパウンドの組成は下記のとおりである。
天然ゴム (RSS#1):80(重量部)
SBR(JSR1501):20(重量部)
RFカーボンブラック:50(重量部)
ステアリン酸:2(重量部)
硫黄:2(重量部)
亜鉛華:5(重量部)
2,2’−ジチオベンゾチアゾール:4(重量部)
ナフテン酸プロセスオイル:3(重量部)。
【0077】
(3)ゴム中耐熱強力保持率
処理コードがゴム中で劣化する度合い、つまり耐熱強力保持性を評価するものである。T−接着力の測定に使用したゴム中に7本のコードを埋め、170℃の温度で、3時間、50kg/cmのプレス圧力で加硫を行い、コードをゴム中から取り出した後に強力を測定し、劣化強力とする。ゴム中耐熱強力保持率は、加硫前の処理コードの強力を初期強力とし、劣化強力を初期強力で割って算出した残存強力の割合で示した。
【0078】
(4)ゴム中耐疲労性(保持率)
JIS−L1017(2002)附属書1の2.2.2 ディスク疲労強さ(グッドリッチ法)により評価した。処理コード2本をタイヤ用ゴム中に埋め込み、150℃で30分間加硫して、ゴムコンポジットを作成する。この試験片を圧縮6.3%、伸張12.6%を1サイクルとする変形を2600サイクル/分で48時間与えた後、ゴムからコードを取り出して疲労後の破断強力を測定し、該疲労試験前後の保持率で表したものである。
【0079】
(5)張力
各熱処理工程において、走行中のコードをデジタルテンションメーター(シンポ工業株式会社製、DTM10KB)を用いて張力を測定した(単位cN/dTex)。
【0080】
(6)エポキシ化合物のエポキシ当量
JIS−K7236(2001)に従って測定した。
【0081】
(7)ラテックスのガラス転移温度
得られた各々の共重合体ラテックスをガラス板に0.5g程度塗り、室温で48時間乾燥してフィルムを作成する。乾燥後のフィルムをDSC試験用のアルミパンにセットし、測定温度を−100〜150℃まで速度10℃/分で昇温して、相変化の吸熱の開始点を読み取って各々のラテックスのガラス転移温度(℃)とした。
【0082】
(実施例1〜7)、(比較例1〜7)
(A)ポリエポキシド化合物と(B)ブロックドポリイソシアネート化合物と(C)ゴムラテックスを、固形分で表1〜2に表す割合で混合した固形分濃度5.0重量%の第1処理剤と、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)とブロックドポリイソシアネート化合物とゴムラテックスを固形分で表1〜2に表す割合で混合した固形分濃度12.0重量%の第2処理剤を調製した。第2処理剤の調製方法は以下の通りである。レゾルシン(R)とホルマリン(F)の初期縮合物(RF)は、(R/F)のモル比を1/1.5、固形分濃度を20重量%とし、通常用いられるアルカリ触媒下で4時間熟成したレゾルシン・ホルマリン初期縮合物を使用した。その後、ゴムラテックスを添加し24時間熟成した固形分濃度20重量%のRFLに、ブロックドポリイソシアネート化合物を添加し、固形分濃度12重量%の第2処理剤を調製した。表の中のA−1、A−2、A−3は以下のポリエポキシド化合物であり、Bは以下のブロックドポリイソシアネート化合物、C−1、C−2、C−3は以下のゴムラテックスである。
A−1:ソルビトール型エポキシ樹脂(脂肪族エポキシ樹脂)(当量:173)
A−2:ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂(脂肪族エポキシ樹脂)(当量:372)
A−3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(芳香族エポキシ樹脂)(当量:520)
B:ジフェニルメタンビス4,4−エチレンウレア(官能基数:2)
C−1:ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(ガラス転移温度:−25℃)
C−2:ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(ガラス転移温度:−55℃)
C−3:スチレン・ブタジエンゴムラテックス(ガラス転移温度:−40℃)。
【0083】
1100dTexのポリエステルマルチフィラメント糸(東レ(株)製“テトロン”1100−240−705M)2本を、下撚り47回/10cm、上撚り47回/10cmの撚り数で撚糸して、未処理コードとした。
【0084】
該未処理コードを、コンピュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製)を用いて前記の第1処理剤に浸漬した後、120℃で2分間乾燥し(ドライ処理)、引き続き240℃で1分間の熱処理(ホット処理)を行った。続いて、第2処理剤に浸漬した後、120℃で2分間乾燥し(ドライ処理)、引き続き240℃で0.5分間熱処理(ホット処理)を行い、さらに、240℃で0.5分間熱処理(ノルマライズ処理)を行った。ここで、1浴目と2浴目のホット処理時の張力と、2浴目のノルマライズ処理時の張力を表1〜2に示す。
【0085】
得られた処理コードの樹脂付着量、T−初期接着力、T−耐熱接着力、ゴム中耐熱強力保持率、ゴム中耐疲労性をそれぞれ測定した。その結果を表1〜2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1〜表2の結果のように、本発明による実施例1〜7の場合、従来のゴム補強用ポリエステル繊維(比較例1〜7)よりも、ゴム中での耐熱接着性が良好であり、さらに耐熱強力保持性や耐疲労性が良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)エポキシ当量100〜200の脂肪族ポリエポキシド化合物、(B)ブロックドポリイソシアネート化合物、(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスの3種を含む第1処理剤によって被覆され、さらにその外層としてレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第2処理剤によって被覆されてなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、かつ、1浴目ホットストレッチ張力が0.05〜0.40cN/dTexで処理されてなることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項2】
前記第1処理剤に含まれる(C)ガラス転移点が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスが、第1処理剤の固形分100重量%に対して60〜90重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項3】
前記第2処理剤に含まれるゴムラテックスが、一種以上のゴムラテックスが混合されてなるものであり、ゴムラテックスの全固形分100重量%に対して、ガラス転移温度が−30〜0℃であるビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスが75〜100重量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項4】
前記第2処理剤の固形分100重量%に対して、ブロックドポリイソシアネート化合物の含有量が5〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項5】
第2処理剤の樹脂付着量が1〜6重量%であり、且つ、第1処理剤と第2処理剤の合計の樹脂付着量が3〜7重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項6】
前記ゴム補強用ポリエステル繊維コードが、2浴目ホットストレッチ張力が0.05〜0.40cN/dTex、かつ2浴目ノルマライジング張力が、0.05〜0.20cN/dTexで処理されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項7】
前記第1処理剤中の(B)ブロックドポリイソシアネート化合物の活性官能基数が1または2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項8】
前記第1処理剤の固形分を100重量%として、(A)、(B)各成分の含有量が下記のとおりであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
(A)5〜30重量%、(B)5〜30重量%

【公開番号】特開2013−76186(P2013−76186A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217026(P2011−217026)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】