説明

ゴム補強用炭素繊維コードの製造方法

【課題】炭素繊維コードとゴムを主成分とする基材との界面における接着性に優れ、かつ耐疲労性にも優れ、引張特性(引張弾性率)にも優れたゴム補強用炭素繊維コードを提供すること。
【解決手段】実質的に無撚の炭素繊維束に、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理し、無撚の糸条とし、該糸条を1本または複数本合糸した後、撚係数1.5以上3.5以下の範囲の片撚りを加えることを特徴とする。さらには、撚りを加えた後にさらにレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行うことや、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であること、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用炭素繊維コードの製造方法に関するものであり、詳しくはタイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に好適に使用できるゴム補強用炭素繊維コードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムが強化繊維によって補強されてなる繊維強化ゴム材料は、タイヤ、ベルト、ホースなどの産業資材に、広く活用されている。これら繊維強化ゴム材料は、ゴムを主成分とする基材を繊維によって補強するものであり、補強に用いられる繊維は、撚りが付与された繊維束の表層部分に接着剤が塗布されているコードであることが通常の形態である。
【0003】
このようなゴム補強用コードに要求される特性としては、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性、およびゴムとの接着性などが挙げられ、中でも、外力により繰り返し受ける応力変形による破壊を防ぐ観点から、ゴム補強用コードとゴムを主成分とする基材との界面における接着性およびコードの耐疲労性が最も重要である。
【0004】
通常この分野で用いられている合成繊維と較べ、炭素繊維束によるゴム補強用コードは、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性には優れるが、ゴムを主成分とする基材との界面接着性に劣り、界面において剥離が生じ易いことが欠点と言われてきた。また、繊維自体の耐疲労性も、ポリエステル、ナイロンなどの他の合成繊維対比低く、この点についても改良が求められてきた。
【0005】
かかる問題を解決する試みとして、特許文献1には、ウレタン変性エポキシ樹脂およびアクリレート化合物を炭素繊維に付着さる方法が、また、特許文献2には、柔軟骨格を有するウレタン変性エポキシ樹脂を炭素繊維に付着させる方法がそれぞれ開示されている。しかしながら、これら手法によっても、繊維強化ゴム材料の各種用途において要求される接着性が不足し、炭素繊維束が使用されてなるゴム補強用コードには、タイヤ、ベルト、ホースなどの用途に問題なく適用できる、充分な接着性を有するものにはなっていなかった。また、耐疲労性も不良であった。
【0006】
これらの問題を解決するため、最近でも炭素繊維束にポリウレタン樹脂を含む樹脂を含浸させる方法(特許文献3)や、炭素繊維単糸の表面をゴム成分を含む接着剤組成物で被覆する方法(特許文献4)などが開示されている。しかしながら、炭素繊維束にポリウレタン樹脂を含む樹脂を含浸させる方法では、接着自体は大幅に改善されるものの、未だ耐疲労性は不十分であった。また、炭素繊維単糸表面をゴム成分を含む接着剤組成物で被覆する方法では、接着性および耐疲労性は改善されるものの、処理工程においてローラーへのスカム付着が非常に多く、繰り返し停止→ローラー清掃を実施しなければならないため、事実上、工業的に適用可能な技術ではなく、炭素繊維をゴム補強材料に用いるためには更なる改良が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−133187号公報
【特許文献2】特開昭62−141179号公報
【特許文献3】特開2002−71057号公報
【特許文献4】特開2003−193374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭素繊維コードとゴムを主成分とする基材との界面における接着性に優れ、かつ耐疲労性にも優れ、引張特性(引張弾性率)にも優れたゴム補強用炭素繊維コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法は、実質的に無撚の炭素繊維束に、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理し、無撚の糸条とし、該糸条を1本または複数本合糸した後、下記式(1)で示される範囲の片撚りを加えることを特徴とする。
【0010】
1.5≦TC≦3.5 式(1)
但し、TC=撚係数=(1/3031)×T(D)1/2
T:加えられた撚数(T/m)
D:1本または複数本の炭素繊維束の繊束(dtex)
【0011】
さらには、撚りを加えた後にさらにレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行うことや、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であること、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。
【0012】
また、該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであることや、該粘着性樹脂が、その成分としてβピネン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素繊維コードとゴムを主成分とする基材との界面における接着性に優れ、かつ耐疲労性にも優れ、引張特性(引張弾性率)にも優れたゴム補強用炭素繊維コードの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法は、実質的に無撚の炭素繊維束に、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理し、無撚の糸条とし、該糸条を1本または複数本合糸した後、下記式(1)で示される範囲の片撚りを加える製造方法である。
【0015】
1.5≦TC≦3.5 式(1)
但し、TC=撚係数=(1/3031)×T(D)1/2
T:加えられた撚数(T/m)
D:1本または複数本の炭素繊維束の繊束(dtex)
【0016】
本発明で用いられる炭素繊維束としては、フィラメントが集合して束状の糸条になっており、実質的の無撚の炭素繊維束であれば特に制限は無いが、束を構成するフィラメント数としては500〜50000フィラメントであることが好ましく、さらには3000〜12000フィラメントであることが好ましい。フィラメント数が少なすぎる場合には1フィラメントにかかる力が集中し、逆に多すぎる場合には繊維束内での力の分布が不均一になるため、疲労性が低下する傾向にある。繊維束を構成する1本の繊維の直径としては1〜20μm、特には5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0017】
実質的に無撚であることは、積極的に撚りを掛けずに自然に掛かったレベルの撚りであれば許容されることを意味し、多くてもせいぜい数t/m以下であることが必要である。本発明の製造方法では、処理時の炭素繊維束が無撚であることにより、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理する際、炭素繊維束表面のみにではなく、単糸にも樹脂組成物が均一に被覆することが可能となり、接着性、疲労性が向上した。
【0018】
また炭素繊維束の炭素繊維表面の酸素量が多い方が酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の炭素繊維に対する濡れ性が向上し、ひいてはゴムに対する炭素繊維の接着性および耐疲労性も向上するため好ましい。X線電子分光法により測定された表面酸素濃度をO/Cとした場合、好ましい酸素量はO/C≧0.05であり、より好ましくはO/C≧0.1である。また樹脂組成物を十分に炭素繊維束に含浸させるためには、炭素繊維束の繊度はあまり大きくない方が好ましい。好ましい炭素繊維束の繊度としては、12,000dtex以下であり、さらに好ましくは6,000dtex以下、特に好ましくは1,000〜3,000dtexである。
【0019】
本発明で製造されるゴム補強用炭素繊維コードは、このような炭素繊維束からなるコードであるが、そのモジュラス(弾性率)が100GPa以上であることが好ましく、より好ましくは230GPa以上、特には280GPa以上であることが好ましい。モジュラスの上限としては1000GPa以下であることが、さらには700GPa以下であることが通常の範囲である。炭素繊維束のモジュラスを高めることによって、該炭素繊維束で補強した繊維強化ゴム材料は寸法安定性が優れたものとなる。炭素繊維束の強度としては2000〜10000MPaであることが、さらには3000〜6000MPaの範囲であることが好ましく、また疲労性を向上させるためには破断時の伸度も重要で0.2〜3.0%であることが、さらには伸度が1.5〜2.5%であることが好ましい。
【0020】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法は、上記のような炭素繊維束に酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着していることが必須である。さらにはスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の酸変性としては、不飽和酸化合物をグラフト化して得られた酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることが好ましい。不飽和酸化化合物の好ましい例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸、メタクリル酸、アクリル酸などを挙げることができる。中でもマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は好ましく、カルボキシル基を有するためゴムとの接着性をより向上させることが可能となる。
【0021】
またスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の基本骨格としては、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。より具体的には、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体エラストマーなどを挙げることができ、中でも、スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体が好ましい。特にはスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン、エチレン、ブチレンから構成され、該エラストマー樹脂におけるスチレン/(エチレン+ブチレン)比が5/95〜50/50であることが好ましい。さらには10/90〜30/70の比をとることがより好ましい。スチレンの比率が減少するとソフトセグメントの比が大きくなり、弾性率が低下するため、屈曲疲労性の向上率が減少する傾向にある。逆にスチレンの比率が増えすぎるとソフトセグメントの比が小さくなり、硬くなりすぎるため、同じく屈曲疲労性の向上率が減少する傾向にある。
【0022】
一般に、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は、強度があるにもかかわらず柔軟な構造を有することから、ゴムのように弾力性に富む。そのため、炭素繊維束に対し、上記のようなスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を付着させることにより、ゴム繊維複合体を構成した場合の屈曲変形に対する繊維の耐疲労性が極めて良好になるのである。これは本発明で用いられるスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂に靭性がありかつゴムに対する接着性の良好な樹脂であるため、通常の接着剤組成物のように工程内ローラー部にスカムが多量に付着することなく、炭素繊維コード物性を向上させることが可能となった。
【0023】
そこで、スカムを大量に発生させない範囲であれば、本発明のゴム補強用炭素繊維コードに付着する樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであることがさらに好ましい。粘着性がある樹脂を用いることにより、炭素繊維とゴムとの接着性をさらに向上させることができるのである。このような粘着性樹脂の具体例としては、特には水添テルペン樹脂、芳香族変性水添テルペン樹脂、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペンフェノール樹脂、αピネン樹脂、βピネン樹脂のいずれか、もしくは、これらの樹脂をベースに、他の樹脂を共重合させた樹脂が好ましい。中でも、βピネン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含む場合は特にRFL接着剤等のゴム繊維用接着剤との相溶性が良く、炭素繊維コードとゴムとの接着性をより向上させることが可能となる。
【0024】
本発明における樹脂組成物の付着量としては、上記炭素繊維束に、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、炭素繊維束100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましい。さらには5〜30重量部付着していることが、そして10〜20重量部であることが最適である。スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の付着量が少なすぎると、単繊維間同士の擦過を防ぐ効果が不十分になる傾向にある。逆に樹脂組成物の付着量が多すぎると、繊維コード径が大きくなるが、これによりゴム繊維構造体中での屈曲変形による応力が大きくなるため、構造が破壊されやすい傾向にある。
本発明は炭素繊維束に上記のような樹脂組成物を付着させることにより、屈曲変形に対する耐疲労性が極めて良好になったものである。
【0025】
また、本発明で用いられる樹脂組成物の破断強度は、0.5MPa以上、破断伸度が750%以上であることが好ましい。さらには樹脂組成物からなるフィルム被膜の破断強度が0.5〜50MPaの範囲であることが、特には1〜10MPaの範囲であることが好ましい。また伸度としては750〜5000%であることが、特には1500〜3000%の範囲であることが好ましい。樹脂組成物の破断強度が低すぎる場合には、工程中などの炭素繊維同士の圧縮により、炭素繊維表面に付着した樹脂被膜が破壊される傾向にあり、屈曲疲労性の向上率が低下する傾向にある。この傾向は炭素繊維束に撚をかけたときに特に顕著である。また、破断強度が低すぎる場合、炭素繊維表面に付着した樹脂被膜の柔軟性が不足する傾向にあり、屈曲疲労性があまり向上しない傾向にある。
【0026】
また本発明の処理の際には、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液は、水に分散させた形態で使用することが一般的である。スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の水分散液の作製方法には特に制限は無いが、例えば、(a)マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物を加熱下、界面活性剤、分散剤等を溶解した水性分散媒中に、撹拌等の手段により強制分散させて製造する方法、(b)水不溶性の有機溶剤に溶解したマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを、水性分散媒中で界面活性剤とともに、高剪断力で攪拌乳化した後、有機溶剤を除去するような後乳化法により製造する方法、等があげられる。
【0027】
より具体的な本発明のゴム補強用炭素繊維の製造方法としては、例えば炭素繊維束を酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液に浸漬した後、加熱乾燥炉を通過させ乾燥させることにより製造することができる。また、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液は、炭素繊維のサイジング工程で、浸漬・乾燥させて製造することもできる。この乾燥・熱処理条件としては、温度が110〜270℃、好ましくは150〜220℃、処理時間が0.5〜10分、好ましくは1〜3分である。
【0028】
本発明の製造方法では、炭素繊維束が実質的に無撚の糸条の状態にて酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物で処理し、無撚の糸条とし、該糸条を1本または複数本合糸した後、下記式(1)で示される範囲の片撚りを加えることを必須とする。
【0029】
1.5≦TC≦3.5 式(1)
但し、TC=撚係数=(1/3031)×T(D)1/2
T:加えられた撚数(T/m)
D:1本または複数本の炭素繊維束の繊束(dtex)
【0030】
撚りを加えることによりゴム構造体中での糸条を構成する各単糸にかかる力を分散させるために、疲労性が向上する。しかし式(1)の撚係数が1.5より小さい場合には、炭素繊維コードの耐疲労性は不十分であり実質的にゴム補強用コードとしては使用できない。逆に、式(1)の撚係数が3.5より大きい場合には、引張弾性率が低い値となり、炭素繊維を使用することの特徴が失われる、また強力の低下も見られる。そのような観点からも、式(1)におけるより好ましい撚係数の範囲は2以上3以下である。
【0031】
特に本発明の製造方法においては、接着性をさらに向上させる観点から、式(1)で表される片撚りを加えたのち、レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂とラテックスの混合物(以下、RFL系接着剤と略記)を、コード/ゴム界面の接着剤として用いるのが好ましい。その最表面にRFL系接着剤が付着していることにより、接着性が向上するのである。本発明で必須のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物とRFL系接着剤との親和性が非常に高いという効果もあり、ゴムと繊維との接着力がさらに向上する。そして接着力が向上することにより、ゴムと炭素繊維間の界面剥離が生じ難くなり、耐疲労性にも向上効果が発揮される。
【0032】
RFL系接着剤は、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を含む水溶液に、レゾルシノールとホルマリンを加え、室温で数時間静置し、レゾルシノールとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加える方法などにより製造することができる。
【0033】
ゴムラテックスの具体例としては、アクリルゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、エチレン−プロピレンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、シリコーンゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、天然ゴムラテックス、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックスなどが挙げられる。中でも、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスは、接着性改善に有効である。
【0034】
また、RFL系接着剤は、乾燥前は、水分を含む、いわゆる水系接着剤のため、ゴム補強用コードの耐久性が不足する原因となるボイドの発生を防ぐ観点から、ゴム補強用コードの表面に付着させた後、加熱により水分を乾燥除去しておくのが好ましい。ここで、乾燥状態におけるRFL系接着剤の付着量は、炭素繊維束100重量%に対して、1〜10重量%であるのが良く、好ましくは2〜9重量%、より好ましくは3〜8重量%であるのが良い。あまり少なすぎるとゴム接着性の向上効果が期待できず、逆に多すぎてもコードが硬くなり柔軟性が不足する傾向にあり、疲労性には逆効果となる。また、ゴムとの接着性をさらに向上させるため、エポキシ化合物を含む化合物を付着し、引き続き熱処理した後にRFLを付着することも接着性向上のためには好ましく例示できる。
RFL接着剤の付着量としては、炭素繊維束100重量%に対して、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは2〜8重量%である。
【0035】
このような本発明の製造方法で得られるゴム補強用炭素繊維コードは、高弾性率・高強度を有しながら、ゴムとの接着性が良く、屈曲変形に対する耐疲労性に優れ、特に単繊維同士の擦過によるコード破断が発生し難い繊維コードとなる。
【0036】
本発明で得られたのゴム補強用炭素繊維コードにより補強してなる繊維強化ゴム材料は、屈曲変形などに対して優れた耐久性を発揮する。繊維強化ゴム材料の具体例としては、タイヤ、ベルト、ホースなどが挙げられる。このとき繊維強化ゴム材料に用いるゴムとしては、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。なお、上記ゴムには、主成分のゴムの他に、材料の改質等のため、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、ナフテン系オイル等の軟化剤が含むことができる。
【0037】
このような繊維強化ゴム材料は、例えば、上記ゴム補強用コードを必要本数引き揃え、これをゴムで挟み込み、さらにプレス機で加圧、加熱して成形することができる。得られる繊維強化ゴム材料は、屈曲変形などに対して優れた耐久性を発揮し、タイヤ、ベルト、ホースなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例に示す各物性は、次の方法により測定した。
【0039】
(1)耐疲労性(屈曲破断迄の回数)
図1に示すように、接着処理を行った撚糸コードの一端に1.0kgの荷重を取り付け、直径10mmのローラーに掛け渡し、他端をコードの長軸方向に振幅50mm、速度100回/分で振動させることにより、コードを繰り返し屈曲させ、破断するまでの回数を測定した。屈曲破断迄の回数が、3万回以上をA、1.5万回以上3万回未満をB、1.5万回未満をCとした。
【0040】
(2)接着性(引抜接着力)
JIS L1017に準拠して測定した。評価用ゴムとしては、天然ゴム/スチレン・ブタジエンゴム=6/4のゴムを使用した。1本のコードをゴム中から引き抜く際の接着力が、130N以上をA、65〜130をB、65以下をCとした。
【0041】
(3)炭素繊維コードの引張特性
JIS L1017に準拠して測定した。ここで、クロスヘッドスピードは250mm/分、初期試長は500mmとした。尚、引張弾性率は、S−Sカーブ(強力−伸度グラフ)において、接線が最も急勾配となる点から求めた。
【0042】
また、実施例ではコード及び繊維強化ゴム材料の製造に当たり、次に示す材料を用いた。
(a)炭素繊維束
・炭素繊維束(繊度4000dtex)“HTA−6K”(東邦テナックス(株)製)フィラメント数:6000本、単繊維直径7.0μm、引張強度:3920MPa、引張弾性率:235GPa、伸度:1.7%
【0043】
(b)処理剤
・ スチレン系処理剤;
マレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂:βピネン樹脂=5:5の水分散液、フィルム被膜の破断強度1.4MPa、破断伸度1640%、スチレン系処理剤中のマレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂のS/EB(スチレン/(エチレン+ブチレン))の比率は、20/80。
【0044】
(c)RFL接着剤
RFL接着剤は、下記のスミカノール700S:2518FS:ニッポールLX−112=7:65:28の割合で混合し水で希釈して用いた。
・“スミカノール700S”(住友化学(株)製)
・ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス“2518FS”(日本ゼオン(株)製)
・スチレン−ブタジエンゴムラテックス“ニッポールLX−112”(日本ゼオン(株)製)
【0045】
[実施例1]
炭素繊維束を速度10m/分で搬送し、無撚りの状態で、スチレン系処理剤を純水で希釈した水分散液(濃度:10重量%)に浸漬し、温度190℃の加熱炉内を通過させ、水分を除去した。一定長さ当たりの炭素繊維重量を予め測定しておき、処理液含浸後の同一長さのコード重量を測定することで、差分から、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の付着量を測定した。得られた炭素繊維束をリング撚糸機で10(T/10cm)(撚り係数2.09)で撚りをかけた。次に得られたコードを、エポキシ(ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製、EX−611)及びブロックドイソシアネート(ジフェニルメタンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムブロック体、明成化学社製、DM−6400)の水分散体に浸漬し、加熱炉内を通過させて水分を除去し、乾燥重量で3重量%付着させた。引き続きRFL接着剤処理液(RFL接着剤の割合が20重量%)に浸漬し、加熱炉内を通過させて水分を除去し、ゴム補強用炭素繊維コードを作製した。RFL接着剤の付着量は炭素繊維束100重量%に対して3.5重量部であった。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2]
撚数を14(T/10cm)(撚り係数2.92)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
[比較例1]
撚糸をしなかった以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0048】
[比較例2]
撚数を5(T/10cm)(撚り係数1.04)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0049】
[比較例3]
撚数を19(T/10cm)(撚り係数3.96)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0050】
[比較例4]
撚数を23(T/10cm)(撚り係数4.80)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0051】
【表1】

【0052】
[比較例5]
スチレン系処理剤を、使用しなかった以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。しかしながら、撚糸時に毛羽が発生し、工程上に問題があることがわかった。
【0053】
[比較例6]
スチレン系処理剤を、ゴムラテックス(日本ゼオン社製、2518FS)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。しかしながら、処理剤を乾燥させる際に、金属ローラーにスカムが付着し、工程上に問題があることがわかった。
【0054】
[比較例7]
炭素繊維束に撚糸した後に、スチレン系処理剤を含浸した以外は、実施例1と同様にして、ゴム補強用コードを作製した。しかしながら、撚糸時に毛羽が発生し、工程上に問題があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】耐疲労性を測定するための装置の該略図である。
【符号の説明】
【0056】
1、撚糸コード
2、荷重
3、ローラー
4、振動させる他端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に無撚の炭素繊維束に、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理し、無撚の糸条とし、該糸条を1本または複数本合糸した後、下記式(1)で示される範囲の片撚りを加えることを特徴とするゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
1.5≦TC≦3.5 式(1)
但し、TC=撚係数=(1/3031)×T(D)1/2
T:加えられた撚数(T/m)
D:1本または複数本の炭素繊維束の繊束(dtex)
【請求項2】
撚りを加えた後にさらにレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行う請求項1記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項3】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂である請求項1または2記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項4】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項5】
該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものである請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項6】
該粘着性樹脂が、その成分としてβピネン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含む請求項5記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−231641(P2008−231641A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76496(P2007−76496)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】