説明

ゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法およびゴム補強用線条体−ゴム複合体

【課題】合金化処理を必要とせず、かつ、伸線工程を経ずともゴムとの接着性に優れたゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法、およびそれにより得られたゴム補強用線条体−ゴム複合体を提供する。
【解決手段】ゴム補強用線条体に対し、銅塩と、亜鉛塩と、ピロりん酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12である銅−亜鉛合金電気めっき浴を用いてめっき処理を施し、次いで、めっき処理が施されたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法およびゴム補強用線条体−ゴム複合体に関し、詳しくは、合金化処理を必要とせず、かつ、伸線工程を経ずともゴムとの接着性に優れたゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法およびゴム補強用線条体−ゴム複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやホースや工業用ベルトなどのゴム製品を補強するための素材として、従来からゴム補強用スチールコードが用いられている。ゴム補強用スチールコードはゴムと複合することによりゴムと密着し、ゴム製品の強度を高めている。そのため、スチールコードとゴムとの間には良好な接着性が要求される。
【0003】
ゴム補強用スチールコードとゴムとの接着性を向上させるために、スチールコード表面に銅−亜鉛合金めっきを施すことが知られている。銅−亜鉛合金めっきを施す手法としては、従来は、逐次めっきがなされてきた。例えば、特許文献1は黄銅めっきを被めっき製品に施すための実際的な方法であり、電着によって銅めっき層と亜鉛めっき層がスチールワイヤ表面に順次めっきされ、ついで、熱拡散工程が施され、銅−亜鉛合金めっき被膜を形成する。その後、目的のめっき量およびスチールコード径に加工するため伸線工程および撚り線工程を経てスチールコードが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−98496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の熱拡散工程における合金化処理には多大な電力を要するという問題を有している。また、この合金化処理後は合金めっき被膜表面が酸化されてしまっており、このままではゴムと接着せず、伸線工程での表面の酸化物除去が必要となる。そのため、処理工程が多く複雑になるため、スチールコードの生産性が悪いという問題も有している。
【0006】
そこで本発明の目的は、合金化処理を必要とせず、かつ、伸線工程を経ずともゴムとの接着性に優れたゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法、およびそれにより得られたゴム補強用線条体−ゴム複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、下記構成とすることにより、上記課題を解消することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法は、ゴム補強用線条体がゴム中に埋設されてなるゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法において、
前記ゴム補強用線条体に対し、銅塩と、亜鉛塩と、ピロりん酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12である銅−亜鉛合金電気めっき浴を用いてめっき処理を施し、次いで、めっき処理が施されたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆することを特徴とするものである。これにより合金化処理を必要とせず、かつ、伸線工程を経ずともゴムとの接着性に優れたゴム補強用線条体−ゴム複合体を製造することができる。
【0009】
本発明においては、前記銅−亜鉛合金電気めっき浴のpHは10.5〜11.8であることが好ましく、また、前記銅−亜鉛合金電気めっき浴は、さらにアルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましく、さらに、前記アミノ酸またはその塩は、ヒスチジンまたはその塩であることが好ましい。これらにより、本発明の効果を良好に得ることができる。さらにまた、前記銅−亜鉛合金電気めっき浴中の銅イオンおよび亜鉛イオンの和は0.03〜0.3mol/Lであることが好ましい。これにより、銅の優先的な析出を防止し、合金めっき被膜表面の光沢を確保することができる。また、前記アミノ酸またはその塩の濃度は0.08〜0.22mol/Lであることが好ましい。これにより、本発明の効果を良好に得ることができる。さらに、前記銅−亜鉛合金電気めっき浴中の陰極電流密度を1〜14A/dmとしてめっき処理を行うことが好ましい。これにより、合金めっき被膜の生産性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明のゴム補強用線条体−ゴム複合体は、ゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法により得られたことを特徴とするものである。ゴム補強用線条体としては、スチールワイヤやスチールコードが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、合金化処理を必要とせず、かつ、伸線工程を経ずともゴムとの接着性に優れたゴム補強用線条体−ゴム複合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法は、銅塩と、亜鉛塩と、ピロりん酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12である銅−亜鉛合金電気めっき浴(以下、単に「めっき浴」とも称する)を用いて、ゴム補強用線条体に銅−亜鉛合金めっき処理を施し、その後、得られたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆するものである。上記構成を有するめっき浴を用いて、めっき処理を施すことにより、従来の逐次めっきのように、複雑な工程を経ることなく、銅−亜鉛合金めっき被膜を形成することができる。また、このめっき浴を用いて合金めっき被膜を形成した場合には、熱拡散工程が含まれていないため、合金めっき被膜表面には酸化物被膜が存在せず、伸線加工工程のような酸化被膜除去工程を経ずとも、ゴムとの優れた接着性を示す。
【0013】
まず、本発明に係る銅−亜鉛合金電気めっき浴について説明する。
本発明に係るめっき浴は、銅塩と、亜鉛塩と、ピロりん酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12であることが重要である。銅塩としては、シアン塩以外の可溶性銅塩であれば何れを利用してもよく、例えば、ピロりん酸銅、硫酸銅、塩化第二銅、スルファミン酸銅、酢酸第二銅、塩基性炭酸銅、臭化第二銅、ギ酸銅、水酸化銅、酸化第二銅、りん酸銅、ケイフッ化銅、ステアリン酸銅、クエン酸第二銅等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0014】
亜鉛塩としては、シアン塩以外の可溶性亜鉛塩であれば何れを利用してもよく、例えば、ピロりん酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、スルファミン酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、りん酸亜鉛、ケイフッ化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、乳酸亜鉛等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0015】
なお、本発明においては、銅イオンおよび亜鉛イオンの和は0.03〜0.3mol/Lであることが好ましい。銅イオンおよび亜鉛イオンの和が0.03mol/L未満であると銅の析出が優先的に起こり均一な組成の合金めっき被膜を得ることが困難となる。一方、銅イオンおよび亜鉛イオンの和が0.3mol/Lを超えると、合金めっき被膜表面に光沢を得ることが困難となり、好ましくない。
【0016】
ピロりん酸アルカリ金属塩としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、そのナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0017】
アミノ酸としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、ヒスチジン等のα−アミノ酸若しくはその塩酸塩、ナトリウム塩等を挙げることができ、好ましくはヒスチジンである。なお、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
なお、本発明に係るめっき浴に使用するアミノ酸またはその塩の濃度は、好ましくは0.08mol/L〜0.22mol/Lであり、より好ましくは0.10mol/L〜0.13mol/Lの範囲である。アミノ酸またはその塩の濃度が0.08mol/L未満であると、高電流密度とした場合、均一な銅−亜鉛合金めっき被膜を得ることが困難となる。一方、アミノ酸またはその塩の濃度が0.22mol/Lを超えると合金めっき被膜の銅の組成が高くなってしまい、やはり目的とする組成の均一な銅−亜鉛合金めっき被膜を得ることが困難となる。
【0019】
本発明に係るめっき浴のpHは10〜12であり、好ましくは10.5〜11.8の範囲である。pHが10未満であると、高電流密度とした場合、均一な合金めっき被膜が得られず、一方、pHが12を超えると析出物が生じるため、やはり均一な合金めっき被膜が得られなくなる。また、本発明のめっき浴のpH調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物および水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物を好適に用いることができ、好ましくは水酸化カリウムである。
【0020】
本発明に係るめっき浴を調製するにあたり、上記各成分の配合量は特に制限されず、適宜選択することができるが、工業的な取扱いを考慮すると、銅塩を銅換算で2〜40g/L、亜鉛塩を亜鉛換算で0.5〜30g/L、ピロりん酸アルカリ金属塩150〜400g/L、アミノ酸又はその塩を0.2〜50g/L程度とすることが好ましい。
【0021】
本発明に係るめっき浴を用いて、ゴム補強用線条体にめっき処理を行う際、陰極電流密度は1〜14A/dmであることが好ましい。陰極電流密度が1A/dm未満ではめっき処理の効率が低下してしまうため好ましくなく、また、14A/dmを超えると均一な組成の合金めっき被膜を得ることが困難となる場合があるからである。
【0022】
なお、めっき処理を施すに際しては、通常の電気めっき方法を採用することができる。例えば、浴温30〜40℃程度で、無攪拌下あるいは機械攪拌下又は空気攪拌下で電気めっきをすればよい。この際、陽極としては、通常の銅−亜鉛合金の電気めっきに用いられるものであれば、いずれも使用できる。
【0023】
次に、ゴム補強用線条体をゴムで被覆する方法について説明する。
本発明においては、上記めっき処理がなされたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆することもまた重要である。ここで、ゴム補強用線条体としては、スチールワイヤやスチールコードを挙げることができる。従来、スチールコードの製造工程では、めっき処理後にスチールワイヤ表面の酸化被膜等を除去するため伸線工程等および撚り線工程を経て、その後、スチールコードをゴムで被覆していた。しかしながら、本発明に係るめっき浴によりめっき処理がなされたスチールコードには、表面に酸化被膜層が存在しないため、直接、ゴムを被覆することができる。これにより、酸化被膜等の除去工程を省くことができるためスチールコードの生産性が向上し、さらに、消費電力の大幅な削減が可能となる。
【0024】
本発明においては、ゴム補強線条体に直接ゴムを被覆する方法については特に制限はない。例えば、ゴム−スチールコード複合体の場合、別個のリールに巻かれた複数本のスチールワイヤを一つの口金に通して束ねてスチールコードとし、該スチールコードを、ゴムにより被覆した後、ゴム複合体に埋設して製造する方法や、または、別個のリールに巻かれた複数本のスチールワイヤを1つのスリットに通して束ねてスチールコードとし、該スチールコードに対し上下からゴムを圧着した後、スチールコードをゴム複合体に埋設して製造することができる。また、ゴム−スチールワイヤ複合体は、別個のリールに巻かれた複数本のスチールワイヤをゴムにより被覆した後、ゴム複合体に埋設して製造する方法や、または、別個のリールに巻かれた複数本のスチールワイヤに上下からゴムを圧着した後、スチールワイヤをゴム複合体に埋設して製造することができる。
【0025】
本発明のゴム補強用線条体−ゴム複合体は、本発明に係るめっき浴を用いてめっき処理をしたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆することのみが重要であり、それ以外については特に制限されるものではない。例えば、スチールおよびゴムの材質、スチールワイヤの径、スチールコードの具体的なコード構造、スチールワイヤの本数や線径等については、常法に従い、適宜決定することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1および2)
下記の表1にそれぞれ示す銅−亜鉛合金電気めっき浴の組成に従い、実施例1および2の銅−亜鉛合金電気めっき浴を調製した。調製しためっき浴を用いて、線径1.7mmのスチールワイヤにめっき処理を施した。得られた合金めっき被膜の組成および付着量を表1に併記する。その後、得られたスチールワイヤをスチールコードとみなし、下記の手順に従い接着試験をおこなった。結果を表1に示す。
【0027】
(比較例)
比較例として、常法に従い、線径1.7mmスチールワイヤに対して銅および亜鉛を逐次めっき処理をおこない、その後熱処理を行うことにより銅−亜鉛合金めっき被膜を形成した。得られた合金めっき被膜の組成および付着量を表1に併記する。得られた合金めっき被膜付きスチールワイヤにつき伸線加工をおこなわず、実施例1および2と同様にスチールワイヤをスチールコードとみなし、接着試験をおこなった。結果を表1に示す。
【0028】
(接着試験)
スチールコードを12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下からゴム組成物でコーティングし、これを160℃で15分間加硫して幅12.5mmのゴム−スチールコード複合体を作製した。その後、ASTMD−2229に準拠して、各サンプルからスチールコードを引き抜き、コードに付着しているゴムの被覆率を0〜100%で表示して、接着性の指標とした。数値が大きいほど接着性が高く、良好である。なお、表1中の初期接着性は、加硫直後に測定した結果である。
【0029】
【表1】

【0030】
上記表1より、本発明のゴム補強用線条体−ゴム複合体は良好な初期接着性を有していることがわかる。一方、銅、亜鉛を逐次めっきし、合金めっき被膜表面の酸化物を除去していない比較例のゴム補強用線条体−ゴム複合体は初期接着性がみられないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム補強用線条体がゴム中に埋設されてなるゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法において、
前記ゴム補強用線条体に対し、銅塩と、亜鉛塩と、ピロりん酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12である銅−亜鉛合金電気めっき浴を用いてめっき処理を施し、次いで、めっき処理が施されたゴム補強用線条体に直接ゴムを被覆することを特徴とするゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項2】
前記銅−亜鉛合金電気めっき浴のpHが10.5〜11.8である請求項1記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項3】
前記銅−亜鉛合金電気めっき浴が、さらにアルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選ばれた少なくとも一種を含有する請求項1または2記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項4】
前記アミノ酸またはその塩が、ヒスチジンまたはその塩である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項5】
前記銅−亜鉛合金電気めっき浴中の銅イオンおよび亜鉛イオンの和が0.03〜0.3mol/Lである請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項6】
前記アミノ酸またはその塩の濃度が0.08〜0.22mol/Lである請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項7】
前記銅−亜鉛合金電気めっき浴中の陰極電流密度を1〜14A/dmとしてめっき処理を行う請求項1〜6のうちいずれか一項記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体の製造方法により得られたことを特徴とするゴム補強用線条体−ゴム複合体。
【請求項9】
前記ゴム補強用線条体がスチールワイヤである請求項8記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体。
【請求項10】
前記ゴム補強用線条体がスチールコードである請求項8記載のゴム補強用線条体−ゴム複合体。

【公開番号】特開2010−270376(P2010−270376A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124651(P2009−124651)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】