説明

ゴム補強用繊維およびその製造方法

【課題】室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維表面にシリカ微粒子を含む接着処理剤が付与されており、かつ該シリカ微粒子が非球形であることを特徴とする。さらには、該シリカ微粒子の長軸方向の長さが20nmから500nmの範囲であることや、該シリカ微粒子のアスペクト比(長軸方向の長さ/短軸方向の長さ)が2から100の範囲であること、繊維重量に対する繊維表面の該シリカ微粒子の付着割合が0.05〜5重量%であることが好ましい。また、接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であることや、繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維であることが最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用繊維およびその製造方法に関し、更に詳しくはゴムとの接着性能が高く、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム/繊維複合体に最適なゴム補強用繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維は一般的に高い強度を有するため、柔軟な材料であるゴムの補強材料として広く用いられている。中でも合成繊維は高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしてタイヤ、ホース、ベルト等のゴム構造物の補強用として広く使用されている。しかし、高強力である繊維であるほど繊維表面が不活性であり、ゴムとの接着性があまり良くないという問題があった。そのため、繊維表面を活性化してゴムとの接着性を改善する目的で種々の提案が行われており、たとえばエポキシ化合物を主成分とする第1処理液で処理した後に、レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスを主成分とするレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス系の接着剤である第2処理液で処理する方法などが広く採用されている。
【0003】
しかしさらに近年、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム構造物は性能の向上に伴い、より過酷な条件下で使用されるケースが増えている。例えば、ホースやベルト等が使用される自動車のエンジンルーム内の温度はますます高温化してきている。また、タイヤの場合は高速走行用のウルトラハイパフォーマンスタイヤ、パンクしても走行可能なランフラットタイヤなどが開発されているが、これらのタイヤではタイヤの内温が100℃以上となるため、そのような高温状態でもゴム構造物の補強用として適したゴム補強用繊維の開発が求められてきている。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1では合成繊維製の基布を、比較的大きな粒子径を有するコロイダルシリカを含むレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス系の接着剤によって処理する方法が提案されている。しかし、接着剤を安定化させるためには大量の界面活性剤を使用せねばならず、特に過酷な使用条件における十分な耐熱接着力が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開平7−276567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面にシリカ微粒子を含む接着処理剤が付与されており、かつ該シリカ微粒子が非球形であることを特徴とする。さらには、該シリカ微粒子の長軸方向の長さが20nmから500nmの範囲であることや、該シリカ微粒子のアスペクト比(長軸方向の長さ/短軸方向の長さ)が2から100の範囲であること、繊維重量に対する繊維表面の該シリカ微粒子の付着割合が0.05〜5重量%であることが好ましい。
【0007】
また、接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であること、 接着処理剤が界面活性剤を含まないものであることが好ましく、繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維であることが最適である。
【0008】
またもうひとつの本発明であるゴム補強用繊維の製造方法は、繊維に接着処理剤を付与する直前に、該接着処理剤の原液に非球形であるシリカ微粒子を添加して接着処理剤とし、その後含浸、乾燥、熱処理を行うことを特徴とする。また、接着剤が水系であることや、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であること、さらには繊維があらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面にシリカ微粒子を含む接着剤を付与したものである。ここで繊維としてはゴム補強用に用いられる繊維強度の高い繊維であれば特に限定するものではないが、ゴムとの接着強度を確保することが困難な合成繊維において、本発明は特に有効である。そのような合成繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、およびこれらの複合繊維などが挙げられる。中でもゴム補強用繊維としては、初期の繊維強度の高いポリエステル繊維や芳香族ポリアミド繊維が特に有効である。好ましいポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示される。また、好ましい芳香族ポリアミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレン−テレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等が例示される。
【0011】
また本発明に使用する繊維の形態としては、撚りがかけられていることが好ましい。片撚りの場合には、撚り数は10cm当り10〜50回であることが好ましい。また、諸撚りの場合には下撚りは10cm当り10〜50回、上撚りは20〜50回であることが好ましい。このように撚りが繊維にかかっていることにより繊維強力をより有効に活用することができ、タイヤ、ホース、ベルト等の補強用途に適したゴム補強用繊維となる。
【0012】
本発明のゴム補強繊維は、このような繊維表面に非球形であるシリカ微粒子を含む接着剤が付与されているものである。本発明でいう非球形シリカとは、球形以外の形状のシリカを指し、たとえば球状のシリカが鎖状に連なったものである。さらに具体的には球状のシリカが串団子状、鎖状、ネックレス状に複数個連なって鎖状になったものや、これら鎖状シリカが更に平面的に複数個繋がったものであることが好ましい。微粒子シリカの粒子サイズとしてはサブミクロン以下である。
【0013】
本発明で使用される非球形シリカの長軸方向の長さは20nm〜500nmが好ましく、40nm〜300nmであることがより好ましい。非球形シリカの長軸方向の長さが20nmより小さいと、球形シリカと同様の接着効果しか発現しない。逆に500nmより大きくなると接着処理液中での分散性が低下し、沈降が生じるため不均一となり、十分な接着性向上効果が得られない。また、非球形シリカの長軸方向の長さを短軸方向の長さで除したアスペクト比は、2〜100が好ましく、5〜60がより好ましい。アスペクト比が2より小さいと球形シリカと同様の効果しか発現しない。逆に大きすぎると接着処理液中での安定性に影響を及ぼす。
【0014】
通常シリカ粒子はその表面のイオン性によって分散性は安定化するのもではあるが、本願のようなゴム用の接着剤のような複合物中においては、その挙動は不安定となる。非球形シリカの長軸方向の長さやアスペクト比を上記の範囲とすることにより接着処理液における分散性が安定し、繊維への付与、ひいてはゴムとの接着性に効果を発揮するのである。ここで本発明の非球形シリカの形状は電子顕微鏡によって撮影して得られるものである。
【0015】
本発明のゴム補強用繊維におけるシリカ微粒子の働きは明らかではないが、接着剤とシリカ粒子表面のシラノール基(−Si−OH)が相互作用を生じていると考えられる。また、ゴム構造体の加硫によってシリカ微粒子がゴム中に浸透・拡散し、シリカ微粒子がアンカーの役割を果たしていると考える。本発明で使用される非球形シリカは、上記のように通常の球状シリカとは違って特異な形状を有し、たとえば球状シリカがつながった形状で棒状(つまり鎖状であるので長軸方向がある)であるためにゴム中に深く刺さりやすい。したがって本発明で用いられる非球形シリカは球状シリカよりも深くゴム中に入りやすく、また球状シリカより突起も多いため、このようなアンカー効果が特に有効に発現していると考えられる。さらに、異物であるシリカ粒子が接着層に存在することにより、接着成分の凝集力を高め、接着層全体の耐熱性を高める効果を有すると考えられる。特にゴム中へ微粒子の浸透・拡散や、接着剤層中へ偏在には、微粒子の形状が大きく影響し、これらの効果が積み重なって、繊維とゴム間の接着性を高めるのであろう。
【0016】
本発明で用いられるシリカ微粒子は、例えば、鉱石や岩石から採取したシリカや合成シリカを微粉砕することや、ゾル−ゲル法を利用してケイ素化合物から合成することによって得ることができる。しかし粉砕法で得る場合は一般的な球形になりやすいために、ゾル−ゲル法で作ることが好ましい。ゾル−ゲル法とは、金属アルコキシドから加水分解と重縮合反応によってガラスやセラミックスを作る方法である。化学反応によって生成物を得ることから、粉砕法と比較すると微粒子、特にサブミクロン以下の微粒子を得ることができ、原料濃度を濃くするなどの条件を採用することにより非球形のシリカ微粒子を得ることができるため、本発明に好ましい方法である。
【0017】
また、繊維重量に対する繊維表面の該シリカ微粒子の付着割合が0.05〜5重量%さらには0.1〜3重量%であることが好ましい。このような付着率とするために接着処理剤の乾燥固形分重量に対するシリカ微粒子の割合は3〜30重量%、さらには5〜25重量%であることが好ましい。接着処理剤成分に対するシリカ微粒子割合が3重量%以下になると、シリカ粒子の効果が十分に発現しにくい傾向にある。逆に30重量%以上になると分散性が低下し、接着処理液の安定性に影響を及ぼして沈降やゲル化が生じる傾向にある。
【0018】
接着処理剤としては、ゴム補強用繊維の表面に通常用いられているゴム/繊維間用の接着剤組成物からなるものであるが、水系の接着処理剤であることが好ましく、特にはゴム/繊維用途に汎用的に用いられるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤(RFL接着剤)であることが好ましい。レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤とは、レゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させて得られる初期縮合物と、ゴムラテックスの混合物であるいわゆるRFL接着剤である。RFLが有する水酸基等の官能基とシリカ粒子表面のシラノール基(−Si−OH)との相互作用が接着性を向上させる。
【0019】
またRFL接着剤には、ゴムとの接着性を更に高めるために、または架橋度を調整する目的等でブロックドイソシアネート化合物やエポキシ化合物を配合しても良い。ブロックドイソシアネート化合物および/またはエポキシ化合物を添加する場合の添加量は、RFL接着剤100重量部に対して5〜25重量部が好ましい。
【0020】
イソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のイソシアネート、あるいはこれらのイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(−NCO)と水酸基(−OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネートが優れた性能を発現するので好ましい。
【0021】
ブロックドイソシアネート化合物とは、イソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、接着処理剤を繊維に付与した後の熱処理工程での加熱によってブロック成分が遊離して、活性なイソシアネート化合物を生じるものである。通常、イソシアネート化合物は化学的に非常に活性であるため水中には安定して存在できず、非水系の有機溶媒を用いないと濃度調整等が行えない。しかし、例えばフェノール類等でイソシアネート基をブロックしたものは水中でも安定して存在できるので、より広い範囲での使用が可能となる。したがって本発明においては、ブロックドイソシアネート化合物の方がイソシアネート化合物よりもより好ましい使用が可能である。
【0022】
ブロックドイソシアネート化合物のブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム類、および酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0023】
本発明で用いられる接着処理剤としては界面活性剤を含まないものであることがより好ましい。界面活性剤はシリカ微粒子を水に安定に分散させるためには有用であるものの、接着処理剤は多成分系の分散液であるため、界面活性剤によって接着処理剤の一部の成分あるいは全成分が沈降したり、ゲル化するおそれがあるためである。また、接着面では、界面活性剤により繊維/ゴム間の接着を阻害される場合があり、特に80℃以上の高温雰囲気下における耐熱接着においては、その影響が生じやすい。
【0024】
ゴム補強用繊維における接着処理剤の繊維に対する固形分付着量は、0.1〜20重量%の範囲であることが好ましく、更には1〜15重量%の範囲であることがより好ましい。固形分付着量が0.1%を下回る場合には繊維/ゴム間の接着性能が十分に発現しない。固形分付着量が20%以上になるとゴム補強用繊維の処理コストが高くなりすぎて不利となる。
【0025】
また、本発明で用いる繊維が合成繊維である場合には、その繊維表面にあらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与したものであり、その後接着処理剤を付与したものであることも好ましい。繊維の前処理は繊維の撚糸前後、どちらで行われていても構わない。しかし、撚糸前の無撚の状態で処理する方が繊維コード内部にまでエポキシ等の有効成分を浸透させることができて好ましい。この場合、例えば繊維の製糸工程で紡糸油剤等と共に付与するなど、繊維を紡糸もしくは延伸する際に処理する方法を採用することができる。
【0026】
前処理としてのエポキシ処理で用いられるエポキシ化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するものであり、ポリエポキシ化合物、すなわちエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が、優れた性能を示すので特に好ましい。また、該化合物100gあたりに0.2モル相当分以上のエポキシ基を含有物であることが好ましい。繊維にあらかじめ付与されるエポキシ化合物の付着量は、繊維重量に対して0.01〜1重量%の範囲であることが好ましい。エポキシ化合物の付着量が多すぎると、繊維が硬くなりすぎて次工程以降の処理が困難になると共に、後の工程での処理剤の浸透性が低下するために接着性能が低下する傾向となる。
【0027】
このように複数回の処理を行う場合には、シリカ微粒子を含む接着処理剤がゴムと接する最外層に位置することが好ましい。シリカ微粒子がゴムとの接着におけるアンカー効果を発揮するためである。
【0028】
また、もうひとつの本発明のゴム補強用繊維の製造方法は、繊維に接着処理剤を付与する直前に、該接着処理剤の原液に非球形のシリカ微粒子を添加して接着処理剤とし、その後繊維に接着処理剤を含浸、その処理繊維を乾燥、熱処理を行う製造方法である。また、非球形シリカの長軸方向の長さは20nm〜500nm、さらには40nm〜300nmであることや、長軸方向の長さを短軸方向の長さで除したアスペクト比が2〜100、さらには5から60であることも好ましい。安定に分散していある非球形シリカを使用することにより、作業環境を好適にすることに加えて、繊維表面を覆うことも容易かつ均一に行うことができる。
【0029】
ここで用いられる繊維や接着処理剤としては前述のゴム補強用繊維に用いられたものである。使用される繊維としては、撚りをかけて生コードとしたものが好ましく、1回の撚糸で次の接着処理に進む(片撚り)場合には、撚り数は10cm当り10〜50回が、2回の撚糸(諸撚り)後に接着処理を行う場合には下撚りは10cm当り10〜50回、上撚りは20〜50回であることが好ましい。この生コードをそのまま、あるいは製織して生機(きばた)とした後に接着処理を行い、タイヤ、ホース、ベルト等に適したゴム補強用繊維が製造できる。
【0030】
そして本願の製造方法においてはシリカ微粒子を含む前の、その他の成分のみからなる接着処理剤の原液に、非球形のシリカ微粒子を添加して接着処理剤とし、その後直ちに、繊維にシリカ微粒子を含んだ接着処理剤を含浸処理することを必須とする。
【0031】
その他の成分のみからなる接着処理剤の原液としては、前述のレゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスからなるRFL接着剤であることが好ましい。
ここで、レゾルシン/ホルマリン初期縮合物は、レゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させることにより作ることができる。レゾルシンとホルマリンの好ましいモル比は1:0.6〜1:3である。ゴムラテックスの種類としては、天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等を挙げることができる。この中でも特に、ビニルピリジン系単量体、スチレン系単量体、共役ジエン系単量体からなる三元共重合体ゴムラテックスが好ましい。ビニルピリジン系単量体としては2−ビニルピリジン、スチレン系単量体としてはスチレン、共役ジエン系単量体としては1,3−ブタジエンが例示される。また、上記三元共重合体の他に天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等単独あるいは併用して用いることもできる。レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスの好ましい固形分重量比は1:3〜1:15、より好ましくは1:4〜1:12である。
【0032】
またRFL接着剤には、ゴムとの接着性を更に高めるために、または架橋度を調整する目的等でブロックドイソシアネート化合物やエポキシ化合物を配合しても良い。ブロックドイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートのような芳香族イソシアネートと、フェノール類、ラクタム類、オキシム類等のブロック化剤との付加物が例示される。エポキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が例示される。ブロックドイソシアネート化合物および/またはエポキシ化合物を添加する場合の添加量は、RFL接着剤100重量部に対して5〜25重量部が好ましい。
【0033】
RFL系の接着処理液は上記のように調液された後、15℃〜30℃の適当な温度で6時間〜48時間の適当な期間、熟成して通常使用される。温度や時間の設定は使用原料、目標とする接着処理剤の性能等に応じて決定される。
【0034】
本発明の製造方法においては繊維に付与する直前に非球形のシリカ微粒子を添加して、繊維処理に用いる最終的な処理液とすることが必須である。本発明の製造方法における、直ちに、とは連続して処理することまでは要求されないが、せいぜい20分、できれば5分以内に処理を開始することが好ましい。繊維に対する含浸処理を開始した後は、処理繊維により含浸浴が攪拌されるためシリカ微粒子の沈降は生じないが、必要ならば攪拌を継続しても良い。
【0035】
シリカ粒子は、その表面に水分散に有効なシラノール基を有してものの、一般に水に対する分散性は低い。そのため、粒子重量が大きいシリカ粒子は沈降しやすいが、本発明で用いる非球形シリカはその重量に対する表面積が大きいため分散には有利である。このように本発明で使用するシリカ微粒子は、非球形かつ微細なため水分散が可能であるが、接着処理剤のような多成分系の分散液では微妙なバランスで分散状態が保たれているため、より慎重な操作を行う必要がある。特に上記RFL接着剤のように熟成を必要とする接着剤にあっては、その環境によって分散状態が不安定化して沈降が生じたり、接着処理液がゲル化するため、本発明の製造方法においては繊維に付与する直前にシリカ微粒子を添加して処理液とするものである。
【0036】
本発明のゴム補強用繊維の繊維に対する接着処理剤の固形分付着量は、0.1〜20重量%の範囲であることが好ましく、更には1〜15重量%の範囲であることがより好ましい。固形分付着量が0.1%を下回る場合には繊維/ゴム間の接着性能が十分に発現しない。固形分付着量が20%以上になるとゴム補強用繊維の処理コストが高くなりすぎて不利となる。
【0037】
繊維への固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレーパー等による掻き落し、空気吹き付けによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段を採用しても良い。また、付着量を上げるため、もしくは均一性を確保するために複数回付着処理を行っても良い。
【0038】
その後、本発明の製造方法ではその含浸処理繊維を乾燥処理、熱処理を行う。処理液を繊維に付与した後に80〜150℃で0.5〜5分間乾燥し、引き続いて170〜250℃で0.5〜5分間熱処理することが好ましい。熱処理温度が低すぎるとゴムとの接着が不十分となる傾向にあり、逆に高すぎると繊維が融着、溶融、硬化したり、強力が劣化するおそれがある。さらには、接着処理剤の付与、熱処理後にゴム補強用繊維をブレードのエッジ等で擦過することにより、柔軟化処理を行っても良い。
【0039】
また、接着剤処理する繊維は、あらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤を付与したものであることも好ましい。前処理剤としては前述のゴム補強用繊維に用いられたエポキシ化合物を用いることができ、前処理剤を付与後、乾燥、熱処理を行った後に接着剤処理を行うことができる。また、より接着力を向上させるために、エポキシ前処理剤に加えてさらに処理を行う、3浴処理法等の多段処理を行うこともできる。
【0040】
このようにして得られた本発明のゴム補強用繊維は、接着処理剤が処理繊維の最外層となるために、シリカ粒子がゴムとの界面に存在することによって繊維/ゴム間の接着性、特に高温雰囲気下におけるゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したものであり、タイヤ、ホース、ベルト等の分野で好適に使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例だけの限りではない。なお、実施例における特性の測定は次の測定法を用いて行った。
【0042】
(1)コード剥離接着(剥離接着力、ゴム付き)
処理コードとゴムとの剥離接着性能を示すものである。接着処理されたコードを未加硫ゴムに平行プライ(打込み本数24本/2.54cm(インチ))として埋め込み、所定の条件でプレス加硫して放冷後、両プライを所定の速度で剥離測定した。剥離接着力は両プライを剥離させるのに要した力をN/2.54cm(インチ)で示したものであり、ゴム付きはゴムから剥離したコード表面のゴムの付着率を目視観察して百分率で示したものである。
【0043】
(2)コード強力
インストロン試験機を用いて、JIS L 1017(1995年)に準拠して測定した。
【0044】
(3)接着処理剤付着量
JIS L 1017(1995年)に準拠して、ポリエステルは溶解法、芳香族ポリアミドは質量法で測定した。
【0045】
(4)シリカ微粒子の粒径測定
透過型電子顕微鏡にて倍率10,000〜200,000倍にてシリカ微粒子を撮影し、50個の粒子の長軸方向の長さ、短軸方向の長さ、アスペクト比(長軸方法の長さ/短軸方向の長さ)を求め、平均値を算出した。
【0046】
[実施例1〜6]
(前処理剤の調製)
735重量部の水に3重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌した。この液に固形分として86重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスを加えて混合した後、固形分として12重量部のε−カプロラクタムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合し、全体の固形分濃度が10重量%の前処理剤(第1処理液)を調製した。
【0047】
(接着処理剤の調製)
145重量部の水に少量の苛性ソーダとアンモニア水を加えた後、レゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を固形分として12重量部加えて混合した。この混合液に、表2に記載した接着処理剤(第2処理液)調整水量の水に固形分として106重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと46重量部のスチレン/ブタジエンラテックスを乳化させた液を添加して更に混合した。その後、6重量部のホルマリンと27重量部のアルキルケトオキシムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合した後、20℃で48時間熟成して接着処理剤のベース液を調製した。
この接着処理剤のベース液に、表1に示す非球形のシリカ粒子A、Bを、表2に示す分量を繊維への処理直前に添加し、実施例1〜6に用いる接着処理剤(第2処理液)とした。
【0048】
(接着処理)
繊維としては、帝人ファイバー社製ポリエステル繊維からなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該糸を40T/10cmで下撚りした後に2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを用いた。
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記記載の前処理剤(第1処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、表2記載の接着処理剤(第2処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して接着処理コードを得た。各処理コードの前処理剤(第1処理液)、接着処理剤(第2処理液)の固形分付着量、及び得られた各ゴム補強用繊維の評価結果を表2に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
[比較例1]
実施例1の接着処理剤ベース液にシリカ粒子を添加せず、水を用いてその他の固形分濃度を20重量%に調整したものを接着処理剤(第2処理液)として用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。得られたゴム補強用繊維の評価結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2、3]
実施例1の接着処理剤ベース液に、繊維への処理直前に表1記載の顕微鏡観察平均粒子径20nmの球形シリカ粒子Cを固形分として1重量部添加して混合し、全体の固形分濃度21重量%、接着処理剤主成分に対するシリカ粒子割合5重量%の接着処理剤として用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い比較例2とした。
また、球形シリカ粒子Cの添加量を1重量部から5重量部とした以外は比較例2と同様の処理を行い比較例3とした。
得られたゴム補強用繊維の評価結果を表2に併せて示す。
【0052】
【表2】

【0053】
[実施例7〜12]
(前処理剤の調製)
489重量部の水に微量の苛性ソーダを加えた後、5重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌し、全体の固形分濃度1重量%の前処理剤(第1処理液)とした。
【0054】
(接着処理剤の調製)
表3に記載した接着処理剤調整水量の水に少量のアンモニア水を加えた後、レゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を固形分として14重量部加えて混合した。この混合液に、固形分として81重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと3重量部のホルマリンを添加して混合した後、20℃で24時間熟成して接着処理剤のベース液を調製した。
この接着処理剤のベース液に、表1に示した非球形のシリカ粒子A、Bを、表3に示す分量を繊維への処理直前に添加し、実施例7〜12に用いる接着処理剤とした。
【0055】
(接着処理)
繊維としては、帝人テクノプロダクツ社製芳香族ポリアミド繊維からなる1670dtex/1000フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該糸を40T/10cmで下撚りした後に2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを用いた。
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記前処理剤(第1処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、表3記載の接着処理剤(第2処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して接着処理コードを得た。各処理コードの前処理剤(第1処理液)、接着処理剤(第2処理液)の固形分付着量、及び得られた各ゴム補強用繊維の評価結果を表3に併せて示す。
【0056】
[比較例4]
実施例7の接着処理剤ベース液にシリカ粒子を添加せず、水を用いてその他の固形分濃度を20重量%に調整したものを接着処理剤(第2処理液)として用いた以外は、実施例7と同様の処理を行った。得られたゴム補強用繊維の評価結果を表3に示す。
【0057】
[比較例5、6]
実施例7の接着処理剤ベース液に、繊維への処理直前に表1記載の顕微鏡観察平均粒子径20nmの球形シリカ粒子Cを固形分として1重量部添加して混合し、全体の固形分濃度21重量%、接着処理剤主成分に対するシリカ粒子割合5重量%の接着処理剤として用いた以外は、実施例7と同様の処理を行い比較例5とした。
また、球形シリカ粒子Cの添加量を1重量部から5重量部とした以外は比較例5と同様の処理を行い比較例6とした。
得られたゴム補強用繊維の評価結果を表3に併せて示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表2および3に示したように、本発明のゴム補強用繊維はレゾルシン/ホルマリン初期縮合物、ゴムラテックスを主成分とするゴム/繊維用接着処理剤の最外層に非球形シリカ微粒子を配合したことによって、室温だけでなく高温雰囲気下においても優れたゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きを示した。しかも、繊維が従来有する強力は損なわれていなかった。得られたゴム補強用繊維はタイヤ、ホース、ベルト等の分野で好適に使用でき、高品位なゴム製品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面にシリカ微粒子を含む接着処理剤が付与されており、かつ該シリカ微粒子が非球形であることを特徴とするゴム補強用繊維。
【請求項2】
該シリカ微粒子の長軸方向の長さが20nmから500nmの範囲である請求項1に記載のゴム補強用繊維。
【請求項3】
該シリカ微粒子のアスペクト比(長軸方向の長さ/短軸方向の長さ)が2から100の範囲である請求項1または2に記載のゴム補強用繊維。
【請求項4】
繊維重量に対する繊維表面の該シリカ微粒子の付着割合が0.05〜5重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項5】
接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項6】
接着処理剤が界面活性剤を含まないものである請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項7】
繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項8】
繊維に接着処理剤を付与する直前に、該接着処理剤の原液に非球形であるシリカ微粒子を添加して接着処理剤とし、その後含浸、乾燥、熱処理を行うことを特徴とするゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項9】
接着処理剤が水系である請求項8記載のゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項10】
接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤である請求項8または9記載のゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項11】
繊維があらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与されたものである請求項8〜10のいずれか1項記載のゴム補強用繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−45250(P2008−45250A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223997(P2006−223997)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】