説明

ゴム補強用織布の接着剤処理方法およびその装置

【課題】 経伸び織布の場合でも、その経方向の伸長性をかなり保持した状態でゴム用接着剤を十分な量付着させることができ、経方向に十分な残留伸度をもつ経伸びゴム補強用織布を製造することができる接着剤処理方法、及びその装置を提供する。
【解決手段】 ゴム補強用織布を移送させつつ連続的に接着剤処理する方法において、ゴム補強用織布(F)を織布左右端部をピン又はクリップで把持させた後に、ゴム補強用織布の表面にスプレー装置(5)によって接着剤液を付着させ、乾燥工程(6)へ送り、乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達用歯付きベルトの噛合い面に貼着させるためのゴム補強用経伸び織布を製造する際に有効な接着剤処理方法およびその装置に関するものである。より具体的には、ゴム補強用経伸び織布を移送させつつ連続的に接着剤処理することが可能な処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達用の歯付きベルトは、ベルト本体の歯部表面がゴム補強用織布で被覆されている。この補強用織布は、ベルト本体の歯部表面を被覆するように配置された後、歯部表面と密着させるために、歯部表面の凹凸形状と同じ形状になるように成型される。この成型の際に補強用織布はベルト長手方向に伸長されるので、補強用織布は、ベルト長手方向に配置される方向については伸長性が必要である。
【0003】
このように一方向に伸長可能な歯付きベルト補強用織布として、緯糸に伸長可能な糸条を用いた織布が種々知られている。例えば、緯糸にナイロン捲縮糸を用いた補強用織布等が知られている(特許文献1や特許文献2等を参照)。
【0004】
また、この補強用織布をベルト本体(ゴム製)の歯部表面に強固に接着させるために、製織した後に、ゴム接着用の接着剤で処理することが必要である。この接着剤としては一般にRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)接着剤が用いられている(特許文献1や特許文献2等を参照)。
【0005】
補強用織布原反を接着剤処理する工程において用いられるRFL接着剤液の樹脂濃度は一般的に20%程度と高濃度であって、この高濃度液を多量に付着させるので、接着剤液を含浸させた直後のゴム補強用織布は、自重の1.5倍以上と相当な重さとなる。この接着剤液を付着させたゴム補強用織布は、次いで、乾燥工程に搬送されてベーキングされ、ロール状に巻き取られ、接着剤処理されたゴム補強用織布原反となる。
【0006】
ゴム補強用織布原反の接着剤処理は、従来から、ディップ浴へ浸漬して接着剤液を付着させるというディッピングにより行われており、例えば図6に示すような工程で行われている。即ち、図6において、ディップ浴漕(91)内に接着剤液を溜めておき、ゴム補強用織布(F)をそのディップ浴漕内に設けた浸漬ロール(92)を通して接着剤液中を通過させディッピングすることによって、接着剤液をゴム補強用織布に付着させる。ディッピングにより接着剤液を含浸されたゴム補強用織布はマングルロール(93)によって引き上げられ、長さ方向に張力をかけた状態で乾燥工程(6)に搬送され、ベーキングされた後、巻取り機によりロール状に巻き取られる。
【0007】
このような従来の接着剤処理工程では、ディップ浴漕(91)内を通過することにより接着剤液が多量に付着し、重くなった状態で上方に引き上げられるので、引き上げ時に自重による大きな張力が織布経方向にかかる。ここで、緯糸方向に伸長性があり経糸方向に伸長性がない織布(以下、緯伸び織布という)をディッピングする場合には、自重による大きな張力が織布経方向にかかっても経方向には殆ど伸びないので、マングルロール(93)によって上方に引き上げられても経方向に殆ど伸びてない織布状態で次の乾燥工程に搬送することができる。
【0008】
しかし、緯糸方向に伸長性がなく経糸方向に伸長性がある織布(以下、経伸び織布という)をディッピングする場合には、引き上げ時に自重による大きな張力が織布経方向にかかると、経方向に伸びが発生する。しかも、ディップ浴槽内に設けた浸漬ロールの回転負荷荷重によっても経方向の伸びが発生するので、ディップ浴槽から引き上げられた織布は経方向にかなり伸びた状態となり、そのまま次の乾燥工程に供給され、経方向に伸びた状態のままでベーキングされるので、経方向の伸長性が減殺され、残留伸度がかなり低い織布となる。従って、従来の接着処理方法では、経伸び織布の経方向伸長性を十分に保持したままで接着剤処理することができなかった。
【0009】
このような接着剤処理方法の制約から、工業的に製造されている歯付きベルト補強用織布は全て緯伸び織布であった。
【0010】
接着剤処理されたゴム補強用織布は、次いで、所定寸法の織布片に調えられた後、歯付きベルトの歯部側表面(噛合い面)に貼着され、成型されて歯部表面に接着される(特許文献1、特許文献2及び特許文献3等を参照)。緯伸び織布を用いる場合には、成型時に織布がベルト長手方向に十分伸長するように、織布緯糸方向がベルト長手方向になるように配置される。ここで、ベルトの歯部表面を被覆するように配置される織布片は、ベルト幅に足りる幅(W)と、ベルト長手方向の長さに足りる長さ(L)とを有すること(細長い形状)が必要である。緯伸び織布の原反から上記細長い形状の織布片を調製する場合は、織布原反から、その織布緯糸方向に細長く(幅が前記W、長さが原反の織幅)カットすることが必要である。また、そのカット織布片の長さは通常上記Lよりも短いので、繋ぎ合わせることにより所定長さ(L)を確保することが行われている。
【0011】
このように、従来は、歯付きベルト補強用織布原反が緯伸び織布で製造されていたために、補強用織布原反をカットしただけでは使用することができず、さらに、繋ぎ合わせる必要があり、ジョイント部のある織布片が補強用に供されていた。
【0012】
しかし、カットした後に繋ぎ合わせることは作業効率上から好ましいものではなく、生産性向上における問題点となっていた。また、ジョイント部があると、歯部表面に接着された織布の織り密度が部分的に異なって、補強効果が不均一になり易く、品質向上における問題点となっていた。
【0013】
また、ゴム補強用緯伸び織布をディッピングする方法により接着剤処理する場合、乾燥工程を通過する織布には長さ方向に張力がかけられているので、幅方向に十分なリラックス状態とすることは困難であり、伸長性の緯糸もある程度の張力がかかった状態でベーキングされ、緯方向の残留伸度は少なからず低下するという問題があり、残留伸度をさらに向上させることが望まれていた。
【0014】
【特許文献1】特公平7−81606号公報
【特許文献2】特開平8−312724号公報
【特許文献3】特開平9−100879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、前記した従来技術の問題点を解消し、経伸び織布の場合でも、その経方向の伸長性をかなり保持した状態でゴム用接着剤を十分な量付着させることができ、経方向に十分な残留伸度をもつ経伸びゴム補強用織布を製造することができる接着剤処理方法、及びその装置を提供することを主な目的とする。
【0016】
そして、歯付きベルトの補強用としての織布片を調製する際の繋ぎ合わせ作業を省略することができる歯付きベルト補強用経伸び織布を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1の本発明は、ゴム補強用織布の接着剤処理方法に関するものであって、ゴム補強用織布を移送させつつ連続的に接着剤処理する方法において、ゴム補強用織布を織布左右端部をピン又はクリップで把持させた後に、ゴム補強用織布の表面にスプレーによって接着剤液を付着させ、乾燥工程へ送り、乾燥させることを特徴とするものである。
【0018】
請求項2の本発明は、上記方法における接着剤付着を、ゴム補強用織布を水平方向に移送させつつ、その上下方向から織布の両表面にスプレーによって接着剤液を付着させる方法によって行うものであり、また、請求項3の本発明は、上記方法における接着剤付着を、ゴム補強用織布を垂直方向に移送させつつ、その左右方向から織布の両表面にスプレーによって接着剤液を付着させる方法によって行うものである。
【0019】
請求項4の本発明は、前記方法における乾燥の後に織布左右端部のピン又はクリップでの把持を外し、処理織布をロール状に巻上げるものである。
請求項5の本発明は、前記方法において、経糸方向に伸び特性を有するゴム補強用経伸び織布を連続的に接着剤処理工程を通過させて接着剤処理するものである。
【0020】
請求項6の本発明は、ゴム補強用織布を接着液塗布工程、次いで乾燥工程を通過させて連続的に接着剤処理する装置であって、接着液塗布には、ゴム補強用織布を供給するためのオーバーフィード装置、ゴム補強用織布の左右端部をピン又はクリップで把持するための刷り込み装置、次いで、接着液塗布用のスプレー装置が順次配置されたことを特徴とするものである。
【0021】
請求項7の本発明は、歯付きベルト用経伸び織布の製造方法であって、経糸方向に伸び特性を有するゴム補強用経伸び織布に、請求項1記載の接着剤処理方法によって接着剤を付着させ、接着剤が5〜20重量%付着した歯付きベルト用経伸び織布を製造することを特徴とするものである。
【0022】
請求項8の本発明は、歯付きベルト用経伸び織布であって、上記の製造方法によって製造されたもので、かつ、織布の経方向の伸度が40%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の本発明に係るゴム補強用織布の接着剤処理方法によると、経伸び織布の場合でも、その経方向の伸長性を阻害しない状態でゴム用接着剤を十分な量付着させることができ、経方向に十分な残留伸度をもつ経伸びゴム補強用織布とすることができる。また、緯伸び織布を接着処理して横方向に十分な残留伸度をもつゴム補強用緯伸び織布を得ることもできる。
【0024】
そして、本発明法によって接着剤処理された歯付きベルト用経伸び織布は、歯付きベルトの補強用としての織布片を調製する際に、繋ぎ合わせ作業を省略することができ、ジョイント部のない補強用織布片を製造することができる。
【0025】
また、請求項2や請求項3の接着剤処理方法によると、目付の大きい織布の場合でも十分な量の接着剤を容易に均一に付着させることができる。また、請求項3の方法によると、スプレー塗布された接着剤が織布表面の全体にわたってより均一になり易い利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の接着剤処理方法、接着剤処理装置を図1〜図5に示す実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の接着剤処理方法の一実施形態を示す接着剤処理工程の概略図である。図2〜図5は、接着剤液をスプレー塗布する工程の他の実施形態を示す概略図である。
【0027】
なお、図6は、従来技術による接着剤処理工程を示す概略図である。また、図7はゴム補強用織布原反(ロール状巻体)を示す概略図である。
【0028】
本発明法が適用されるゴム補強用織布は、図7に示すような織布であり、経糸に伸長性糸条を使用した織物長さ方向(矢印Cの方向)に伸長性のゴム補強用経伸び織布、また、緯糸に伸長性糸条を使用した織物幅方向(矢印Dの方向)に伸長性のゴム補強用緯伸び織布がある。
【0029】
この一方向伸長性の織布において、伸長性糸条としては、例えば、ナイロン繊維を捲縮加工した捲縮加工糸が使用される。これに交差する糸条としては、実質的に伸縮性をもたない糸条(非伸縮性糸条)が使用され、例えばナイロン等の合成樹脂からなるフィラメント糸(実質的に捲縮をもたないストレート糸)が使用される。
【0030】
本発明法は、このような一方向伸長性の織布のうち、織物長さ方向(矢印Cの方向)に伸長性のゴム補強用経伸び織布に接着剤を付着させる場合に好適なものである。
【0031】
以下、ゴム補強用経伸び織布に図1に示す工程によって、又は必要に応じて図2〜図5に示す工程を適用して、ゴム用接着剤を付着させ次いで乾燥させ、接着処理ゴム補強用経伸び織布を製造する場合に基づき、本発明法を具体的に説明する。
【0032】
本発明法は、図1に示すように、経伸び織布巻体(1)から経伸び織布(F)を連続して供給し、ローラを介して一定速度で所定方向に移動させる。移動する織布は、オーバーフィード装置(2)、開耳装置(3)、刷り込み装置(4)、スプレー装置(5)を経て接着剤液を塗布され、次いで、乾燥工程(6)を通過させることによって乾燥され、最後に巻取られる。
【0033】
ここで、オーバーフィード装置(2)からスプレー装置(5)までの間の工程において、織布(F)の左右端部(耳部)をピン又はクリップで把持させ、このピン又はクリップを制御された速度で移動させることによって、織布(F)を移動させる。次いで、図1の矢印方向に移動する織布に、スプレー装置(5)から接着液を吹き付けて塗布させる。
【0034】
オーバーフィード装置(2)は、ローラによって移送される織布をオーバーフィードするための装置であり、例えば、インバータモータによって積極駆動されるラバー巻ローラ(21)に織布を接触させて送り、織布の走行速度対比増分によってオーバーフィード率を制御する装置を用いることができる。ここでのオーバーフィード率(オーバーフィード比率増分)は30%以下の範囲が好ましく、なかでも10%前後(5〜20%程度)が望ましい。
【0035】
開耳装置(3)は、続く刷り込み装置(4)において織布左右端部がピン又はクリップで正確に把持できるように、織布左右端部(耳部)のカールや折れ曲がりを伸ばすための装置であり、刷り込み装置(4)の直前に配置される。例えば、モータ駆動された複数本のスクロールローラ(31)に順次接触させて織布を送ることにより、耳部のカールや折れ曲がりを伸ばす装置が用いられる。なお、この開耳装置(3)は、織布巻体(1)から供給される織布(F)の両耳部にカールや折れ曲がりがない場合等の場合には省略することができる。
【0036】
刷り込み装置(4)は、織布左右端部をピン又はクリップで把持させる装置である。ピンで把持させる場合には、織物耳部に、定間隔でピンを突き刺す装置が挙げられる。また、クリップで把持させる場合には、開いた状態のクリップで織物耳部を挟み込み、クリップを閉じて把持させる装置が挙げられる。織布左右端部の把持手段はピン又はクリップのいずれもよいが、点把持されるピンの方が、長さ方向に均一なオーバーフィードを行うために好ましい。
【0037】
織布左右端部を把持したピン又はクリップを定速度で移動させるための移動手段としては、チェイン構造を用いればよい。織布を水平方向に走行させる場合にはよこ廻りチェン、たて廻りチェンのいずれもよいが、織布を垂直方向に走行させる場合にはたて廻りチェンが好ましい。
【0038】
刷り込み装置(4)としては、例えば、インバータモータで駆動回転するブラシ付ゴムローラ(41)と下部受けローラ(42)との間に織物耳部を挟み、オーバーフィード装置と同速度で織物を移動させつつ、下方から織布耳部にピンを突き刺し(ピンニング)、又は、上下からクリップする(クリッピング)装置が用いられる。
【0039】
スプレー装置(5)は、ピン又はクリップで耳部が把持され移動する織布の表面に向けて、接着剤を含む液(接着液)を定量的にスプレーするための装置であり、一般的なスプレーガン、例えばフラットスプレータイプのエアレススプレーガンを使用することができる。エアーとの2流体スプレーガンを使用することもできる。
【0040】
ゴム補強用織布の幅寸法は一般に800〜2000mmと幅広であるので、スプレーガンを幅方向に複数配列し、スプレーパターンの両端部をオーバーラップさせて、織布の幅全面に接着液が均一に塗布されるようにすることが好ましい。スプレーガンは織布表面から30cm以内の距離に設けて使用するのが好ましい。また、接着剤の塗布圧力は0.3MPa以上が好ましく、塗布量はスプレーガン1ヶ当たりで0.1L/min以上とすることが好ましい。ゴム補強用織布の目付の大きい場合や織布の走行速度が速い場合には、スプレーの塗布圧力を高め、塗布量を調整することが、接着剤を均一に付着させるために好ましい。
【0041】
接着液の塗布量は、スプレー装置(5)の塗布圧力を調整することによって所望水準に調整することが好ましいが、所望水準よりも多めの接着剤をスプレー装置(5)によってスプレーした後に、図2に示すように、絞り装置(81)を設置して、過剰な接着剤を絞り取って、所定の塗布量に調整するという手段を採用することも好ましい。
【0042】
この絞り装置(81)としては、2本のローラを平行に配置し、両ローラをギヤによって連結させ、織布の走行速度と同じ周速度でインバータモータによって積極駆動して回転させる構造のものが例示され、この場合2本のローラの間を織布が通過する時に過剰な接着剤が絞り取られるものである。この絞り装置に使用する2本のローラは、スチールローラとスチールローラの組み合わせにより、2本のローラの間隔を1.0mm以下として平行に配置させ回転させるものでよい。または、スチールローラとゴムローラの組み合わせにより、ゴムローラをエアーシリンダでスチールローラに押し付けた状態で回転させるものでもよい。この場合はエアー圧力を調整することで、ゴムロールの押付力を変化させることが出来るため、所定の塗布量まで調整することが容易となる。
【0043】
スプレー装置(5)によって接着液が塗布されると、接着液付着織布の重量は、織布自重の1.5倍以上と重くなるが、織布両耳を把持されて一定速度で移動する織布は、長さ方向に伸びることがなく、次の乾燥工程(6)へと搬送される。
【0044】
図1に示すように織布の上方のみにスプレー装置(5)を配置して織布上面に接着液が塗布されるようにしてもよいが、図3や図4に示すように織布を挟んだ両側にスプレー装置(5)を配置して織布の両表面に接着液が塗布されるようにすることが好ましい。
【0045】
図3の場合は、ゴム補強用織布を水平方向に走行させ、織布の上下から織布の両表面に向けて同時に接着液をスプレーによって付着させる。このように両面にスプレーによって付着させると、織布の目付けの大きい場合でも十分な量の接着液を織布中に含浸させることができる利点がある。
【0046】
図4の場合は、ゴム補強用織布を上向き垂直方向に走行させ、織布の左右から織布の両表面に向けて同時に接着剤をスプレーによって付着させる。このように織布の左右から両面にスプレーによって付着させると、十分な量の接着液の含浸の他に、織布中に含浸された接着液が乾燥工程へと搬送される前に、織布幅方向を中央部側へと移動する現象を回避でき、織布幅方向の接着剤付着の均一性をさらに高めることができる。
【0047】
図4のに示すように、上向き垂直に走行する織布に左右から接着剤をスプレーする場合において、絞り装置(81)を設置すると、絞り取られた過剰な接着剤は、織布の面を伝って下方に向かって流れ落ちる。そのため、図5に示すように絞り装置(81)の下部にスクレーパ(82)を取付け、過剰な接着剤を集めて排出するのが好ましい。また、スプレー装置(5)からスプレーされて塗布された過剰な接着剤は織布の面を伝って下方に向かって流れ落ちるため、スプレー装置(5)の下部にもスクレーパ(82′)を取付け、過剰な接着剤を集めて排出するのが好ましい。
【0048】
ゴム補強用織布に塗布させる接着剤液は、ゴム補強用織布に一般的に用いられる接着剤を含む水性液であり、例えば、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとの混合物(RFLという)を主成分とする接着剤を含む水性液が用いられる。この接着剤液の濃度は一般に10〜30重量%程度で使用される。
【0049】
所定量の接着量が塗布された織布は、織布両耳を把持された状態で乾燥工程(6)を通過することによって乾燥される。この際、織布両耳で把持されて乾燥工程を通過する織布は、織布経糸方向に張力がかかっていないので、乾燥工程内で加熱ベーキングされて長さ方向に収縮しても経糸方向の伸縮性の低減は小さく、接着処理後の経方向残留伸度が大きなゴム補強用織布となる。
【0050】
なお、ゴム補強用緯伸び織布を接着処理する場合には、織布耳部をピンニング又はクリッピングした後に、ピン又はクリップ移動用のチェンを取付けたレールを幅方向に徐々に狭くすることにより、織布幅方向に十分なリラックス状態とすることができるので、接着剤液をスプレーによって付着させた後、乾燥工程へと搬送されてベーキングされても、緯伸び方向の伸長性の低減を小さく抑えることができ、残留伸度の大きなゴム補強用緯伸び織布とすることができる。
【0051】
乾燥工程(6)を通過した織布は、両端耳部のピンを外した後、巻取り機によってロール状に巻き取られる。
【0052】
ゴム補強用織布に付着される接着剤の量は、歯付きベルト用織布の場合、一般に、接着剤固形分で5〜20重量%であることが好ましい。また、伸び方向の伸度は40%以上であること、特に50〜60%であることが好ましい。
【0053】
本発明の接着剤処理方法によると、ゴム補強用織布に接着剤液を塗布するにあたって、織布をピン又はクリップで把持する刷り込みをした後に、織布表面にスプレー装置により接着剤液を小粒子状で均一にスプレー塗布するので、経伸び織布でも経方向伸びを発生させないまま接着剤液塗布して乾燥工程に搬送することが可能となる。さらに、乾燥工程において伸び方向に十分なリラックス状態でベーキングすることができるので、ベーキングにより収縮した後の残留伸度を大幅に改善することができる。
【0054】
また、このような方法で接着処理されたゴム補強用経伸び織布は、歯付きベルト補強用に使用する場合、ベルト製造工程でのジョイントが不要となるので、生産性を向上させることができる。さらに、従来法によりディッピング法で接着剤処理したゴム補強用経伸び織布やゴム補強用緯伸び織布に比べ、本発明法により接着剤処理されたゴム補強用経伸び織布は、残留伸度が大きくなり、歯付ベルトの噛合い面に貼着され成型される時に十分伸長し、歯付ベルトの耐久性を向上させることができる。また、得られる歯付きベルトは、ジョイント部がないゴム補強用織布で補強されているので、品質向上させることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0056】
[実施例1]
経糸としてナイロン66仮撚り加工糸を使用し、緯糸としてナイロン66フィラメント糸を使用し、通常の方法で平織りに製織して得られた、幅800mm、目付305g/m2のゴム補強用経伸び織布を用いた。この織布の経方向の伸度は60%であった。
【0057】
このゴム補強用経伸び織布に、図1に示した接着剤処理工程によって、接着液の塗布及び乾燥を行った。この処理工程において、オーバーフィード装置(2)としては、インバータモータによって積極駆動される直径150mmのラバー巻ローラ(21)に、織布を接触させて送り、織布の走行速度対比増分によってオーバーフィード率を制御する装置を用いた。また、開耳装置(3)としては、モータ駆動された3本のスクロールローラに順次接触させて織布を送ることにより、耳部のカールや折れ曲がりを伸ばす装置を用いた。刷り込み装置(4)としては、インバータモータ駆動による直径220mmのブラシ付ゴムローラ(41)と直径110mmの下部受けローラ(42)とのローラ間に織物耳部を挟み、オーバーフィード装置と同速度で織物を移動させつつ、下方から織布耳部にピンを突き刺す(ピンニング)装置を用いた。また、織布の左右端部を突き刺して把持したピンの移動にはたて廻りチェンを使用した。
【0058】
接着液塗布工程においては、織布は、走行速度3.0m/minで水平方向に走行させ、オーバーフィード比率増分10%で織布の両端耳部をピンニングさせ、次いで、織布の上方に配置したスプレーガンにより20%濃度のRFL接着剤液をスプレーして、織布重量に対するウェットピックアップ150%となるように塗布した。
【0059】
スプレー塗布時のスプレー塗布圧力は0.3MPa、スプレー塗布量は0.35L/minとした。スプレーガンはスプレーイングシステムス社製のT650033−SUS(フラットスプレータイプ)を使用し、織布の幅全面に均一に接着剤が付着するように、織布幅方向に5個配列し、スプレーパターンの両端部をオーバーラップさせた。スプレーガンと織布との距離は25cmとした。
【0060】
スプレー塗布によって接着剤液が織布表面に斑なく均一に塗布された織布を、次に乾燥工程へと搬送し、ベーキング温度180℃、ベーキング時間3minでベーキングした後、織布両端耳部のピンを外し、ロール状に巻き上げた。
【0061】
接着処理して得られたゴム補強用経伸び織布の経方向の残留伸度は55%であった。
なお、残留伸度は、接着処理したゴム補強用経伸び織布から裁断により、幅2.5cm、長さ40cmのサンプルを入手し、100mm間隔に印を付け、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±2%)で24時間放置した後に織物引張試験機にかけ、切断時の印間の長さ(Lmm)を測り、次式により求めた。
残留伸度(%)=((L−100)/100)×100
【0062】
[実施例2]
実施例1で用いたと同様の、幅800mm、目付305g/m2のゴム補強用経伸び織布を用い、図1に示すと同様の処理工程によって接着液の塗布及び乾燥を行った。但し、接着液のスプレー塗布には、織布の上下にスプレーガンを配置して両面にスプレー塗布する図3に示す装置を用い、次のスプレー塗布条件により行った。
【0063】
織布の上方に配置したスプレーガン及び下方に配置したスプレーガンにより、20%濃度のRFL接着剤液を同時に織布表面に向けてスプレーして、織布重量に対するウェットピックアップ175%となるように塗布した。スプレー塗布時のスプレー塗布圧力は0.3MPa、スプレー塗布量(合計)は0.70L/minとした。なお、織布の上方に配置したスプレーガンの配置は実施例1と同様であり、また、下方に配置したスプレーガンも同様の配置とした。
【0064】
上記のようにスプレー塗布した以外は実施例1と同様にして接着液を塗布し、次いで乾燥して得られたゴム補強用経伸び織布の経方向の残留伸度は57%であった。
【0065】
[実施例3]
実施例1で用いたと同様の、幅800mm、目付305g/m2のゴム補強用経伸び織布を用い、図1に示すと同様の処理工程によって接着液の塗布及び乾燥を行った。但し、接着液のスプレー塗布は、織布を下から上へと垂直方向に走行させる途中で、織布の左右両側に配置したスプレーガンから織布の両面にスプレー塗布する図4に示す装置を用い、次のスプレー塗布条件により行った。
【0066】
織布の左右両側に配置したスプレーガンにより、20%濃度のRFL接着剤液を同時に織布表面に向けてスプレーして、織布重量に対するウェットピックアップ175%となるように塗布した。スプレー塗布時のスプレー塗布圧力は0.3MPa、スプレー塗布量(合計)は0.70L/minとした。なお、織布表面に対するスプレーガンの配置は、実施例1と同様とした。
【0067】
上記のようにスプレー塗布した以外は実施例1と同様にして接着液を塗布し、次いで乾燥して得られたゴム補強用経伸び織布の経方向の残留伸度は53%であった。
【0068】
[比較例1]
経糸としてナイロン66仮撚り加工糸を使用し、緯糸としてナイロン66フィラメント糸を使用し、通常の方法で平織りに製織して得られた、幅800mm、目付280g/m2のゴム補強用経伸び織布を用いた。この織布の経方向の伸度は60%であった。
【0069】
このゴム補強用経伸び織布に、図6に示した従来の接着剤処理工程によって、接着液の塗布及び乾燥を行った。この場合、接着液の塗布は、ディップ浴漕(91)内に接着剤液を溜めておき、織布をそのディップ浴漕内に設けた浸漬ロール(92)を通して接着剤液中を通過させるディップ法により行った。具体的には、織布を走行速度1.0m/minで20%濃度のRFL接着剤の入ったディップ浴槽内を通過させ、マングルロール(93)により引き上げ(この引き上げ時の織布重量に対するウェットピックアップ150%)、次いで、乾燥工程へと搬送し、ベーキング温度180℃、ベーキング時間3minでベーキングした後、ロール状に巻き上げた。
【0070】
接着処理して得られたゴム補強用緯伸び織布の経方向の残留伸度は36%であった。
【0071】
[比較例2]
経糸としてナイロン66フィラメント糸を使用し、緯糸としてナイロン66仮撚り加工糸を使用し、通常の方法で平織りに製織して得られた、幅1800mm、目付305g/m2のゴム補強用緯伸び織布を用いた。この織布の緯方向の伸度は60%であった。
【0072】
このゴム補強用緯伸び織布に、比較例1と同様の接着剤処理工程によって、ディップ法での接着液の塗布及び乾燥を行った。具体的には、織布を走行速度1.5m/minで20%濃度のRFL接着剤の入ったディップ浴槽内を通過させ、マングルロール により引き上げ(この引き上げ時の織布重量に対するウェットピックアップ150%)、次いで、乾燥工程へと搬送し、ベーキング温度180℃、ベーキング時間2minでベーキングした後、ロール状に巻き上げた。
【0073】
接着処理して得られたゴム補強用緯伸び織布の緯方向の残留伸度は47%であった。
【0074】
上記実施例1〜3、及び比較例1〜2における実施条件と、得られる処理織布の残留伸度をを表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
上記表1の結果から明らかなように、本発明法による実施例1〜3の場合、得られたゴム補強用緯伸び織布は、従来法による比較例1や比較例2のゴム補強用織布に比べ、伸び方向の残留伸度が高いものであった。以上の結果より本発明の効果が十分に得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明法は、経方向に伸びをもつ織布にゴム用接着剤を付着させる場合に好適である。とくに、歯付きベルトの噛合い面に貼着させるためのゴム補強用経伸び織布を製造する際の接着処理方法として特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の接着処理法を実施する工程全体の一例を示す工程概略図である。
【図2】本発明法における接着液塗布工程の他の一例を示す工程概略構成図である。
【図3】本発明法における接着液塗布工程の他の一例を示す工程概略構成図である。
【図4】本発明法における接着液塗布工程の他の一例を示す工程概略構成図である。
【図5】本発明法における接着液塗布工程の更に他の一例を示す工程概略構成図である。
【図6】従来の接着処理法を実施する工程全体を示す工程概略図である。
【図7】本発明法で処理するゴム補強用織布(ロール状巻体)を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ゴム補強用織布巻体
F ゴム補強用経伸び織布
C 織布長さ方向(経糸方向)
D 織布幅方向(緯糸方向)
2 オーバーフィード装置
21 ラバー巻ローラ
3 開耳装置
31 スクロールローラ
4 刷り込み装置
41 ブラシ付ゴムローラ
42 下部受けローラ
5 スプレー装置(スプレーガン)
6 乾燥工程
7 処理織布巻体
81 絞り装置
82 スクレーパ
91 ディップ浴槽
92 浸漬ロール
93 マングルロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム補強用織布を移送させつつ連続的に接着剤処理する方法において、ゴム補強用織布を織布左右端部をピン又はクリップで把持させた後に、ゴム補強用織布の表面にスプレーによって接着剤液を付着させ、乾燥工程へ送り、乾燥させることを特徴とするゴム補強用織布の接着剤処理方法。
【請求項2】
ゴム補強用織布を水平方向に移送させつつ、その上下方向から織布の両表面にスプレーによって接着剤液を付着させることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用織布の接着剤処理方法。
【請求項3】
ゴム補強用織布を垂直方向に移送させつつ、その左右方向から織布の両表面にスプレーによって接着剤液を付着させることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用織布の接着剤処理方法。
【請求項4】
乾燥した後に織布左右端部のピン又はクリップでの把持を外し、処理織布をロール状に巻上げることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用織布の接着剤処理方法。
【請求項5】
接着剤処理に供するゴム補強用織布が、経糸方向に伸び特性を有するゴム補強用経伸び織布であることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用織布の接着剤処理方法。
【請求項6】
ゴム補強用織布を接着液塗布工程、次いで乾燥工程を通過させて連続的に接着剤処理する装置であって、接着液塗布工程に、ゴム補強用織布を供給するためのオーバーフィード装置、ゴム補強用織布の左右端部をピン又はクリップで把持するための刷り込み装置、次いで、接着液塗布用のスプレー装置が順次配置されたことを特徴とする接着剤処理装置。
【請求項7】
経糸方向に伸び特性を有するゴム補強用経伸び織布に、請求項1記載の接着剤処理方法によって接着剤を付着させ、接着剤が5〜20重量%付着した歯付きベルト用経伸び織布を製造することを特徴とする歯付きベルト用経伸び織布の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法によって製造された歯付きベルト用経伸び織布であって、かつ、織布の経方向の伸度が40%以上であることを特徴とする歯付きベルト用経伸び織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−183160(P2006−183160A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375785(P2004−375785)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(390001926)東洋タイヤコード株式会社 (2)
【Fターム(参考)】