説明

ゴム補強用複合コード

【課題】 強度及び弾性率といった力学特性が良好であり、かつ耐疲労性にも優れたゴム補強用複合コードを提供する。
【解決手段】 1本または複数本の炭素繊維束が下撚された炭素繊維コードと、1本または複数本のアラミド繊維束が下撚されたアラミド繊維コードとが、上撚されてなるゴム補強用複合コードとし、その際、T1を炭素繊維コードの撚数(回/m)、D1を炭素繊維束の総繊度(dtex)、T2をアラミド繊維コードの撚数(回/m)、D2をアラミド繊維束の総繊度(dtex)、T3を複合コードの撚数(回/m)、D3を複合コードの繊度(dtex)としたとき、下記式(I)〜(III)を満足させる。
1500≦T1×(D11/2≦4500 (I)
8000≦T2×(D21/2≦20000 (II)
0.8×T3×(D31/2≦T2×(D21/2≦1.2×T3×(D31/2 (III)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用複合コードに関するものであり、詳しくはタイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に好適に使用できるゴム補強用複合コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムが強化繊維により補強されてなる繊維強化ゴム材料は、タイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に、広く活用されている。これら繊維強化ゴム材料は、撚りが付与された強化繊維束の表層部分に接着剤が塗布されてなるゴム補強用コードにより、ゴムを主成分とする基材が補強されてなるものである。
【0003】
このようなゴム補強用コードに要求される特性としては、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性などがあるが、特に、外力により繰り返し受ける応力変形による破壊を防ぐ観点から、ゴムを主成分とする基材との接着性及び耐疲労性が重要である。
【0004】
これに対して炭素繊維束からなるゴム補強用コードが提案されており、かかるコードはは、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性には優れるものの、耐疲労性がポリエステル、ナイロンなどの他の繊維対比低く改良が求められてきた。
【0005】
かかる問題を解決する試みとして、特許文献1には、ウレタン変性エポキシ樹脂及びアクリレート化合物を炭素繊維に付着さる方法が、また、特許文献2には、柔軟骨格を有するウレタン変性エポキシ樹脂を炭素繊維に付着させる方法がそれぞれ開示されている。
【0006】
しかしながら、これら手法によっても、繊維強化ゴム材料の各種用途において、要求される接着性が不足し、炭素繊維束を用いてなるゴム補強用コードには、タイヤ、ベルト、ホース等の用途に問題なく適用できる、充分な接着性を有するものにはなっていなかった。また耐疲労性も不良であった。
【0007】
これらの問題を解決するため、炭素繊維束にポリウレタン樹脂を含む樹脂を含浸せしめる方法(特許文献3)、炭素繊維単糸の表面をゴム成分を含む接着剤組成物で被覆する方法(特許文献4)などが開示されている。炭素繊維束にポリウレタン樹脂を含む樹脂を含浸せしめる方法では接着自体は大幅に改善されるものの未だ耐疲労性は不十分であった。また炭素繊維単糸表面をゴム成分を含む接着剤組成物で被覆する方法では接着性および耐疲労性は改善されるも処理工程にてローラーへのスカム付着が非常に多く、繰り返しローラーを停止して清掃を実施しなければならないため、事実上工業的に適用可能な技術ではなかった。これらの問題を解決するため炭素繊維とアラミド繊維より構成された複合コードの提案がなされている(特許文献5)。しかしながら、本発明らの検討によれば上記複合コードにおいても耐疲労性が未だ十分でなく、さらなる改善が必要であった。
【0008】
【特許文献1】特開昭62−133187号公報
【特許文献2】特開昭62−141179号公報
【特許文献3】特開2002−71057号公報
【特許文献4】特開2003−193374号公報
【特許文献5】特開平1−118639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強度及び弾性率といった力学特性が良好であり、かつ耐疲労性にも優れたゴム補強用複合コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明の目的は、1本または複数本の炭素繊維束が下撚された炭素繊維コードと、1本または複数本のアラミド繊維束が下撚されたアラミド繊維コードとが、上撚されてなる複合コードであり、かつ下記式(I)〜(III)を満足しているゴム補強用複合コードにより達成される。
1500≦T1×(D11/2≦4500 (I)
8000≦T2×(D21/2≦20000 (II)
0.8×T3×(D31/2≦T2×(D21/2≦1.2×T3×(D31/2 (III)
(ただし、上記式(I)〜(III)において、T1は炭素繊維コードの撚数(回/m)、D1は炭素繊維束の総繊度(dtex)、T2はアラミド繊維コードの撚数(回/m)、D2はアラミド繊維束の総繊度(dtex)、T3は複合コードの撚数(回/m)、D3は複合コードの繊度(dtex)を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明ゴム補強用コードは、ゴムを主成分とする基材との接着性に優れ、かつ耐疲労性にも優れており、タイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のゴム補強用複合コードは、1本または複数本の炭素繊維束が下撚された炭素繊維コードと、1本または複数本のアラミド繊維束が下撚されたアラミド繊維コードとが、上撚されてなる複合コードである。
【0013】
本発明に使用される炭素繊維束には、ポリウレタン等の靭性に富む樹脂が、炭素繊維束100重量%に対して、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%含浸されていることが好ましい。かかる靭性に富む樹脂が含浸されている炭素繊維束を使用することで、耐疲労性をより向上させることができる。
【0014】
本発明においては、ゴム補強用コードとゴム基材との接着性を向上させる観点から、ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリエーテルポリオールの反応により得られるポリエーテル系ポリウレタンよりも、むしろ、ポリイソシアネートとポリエステルポリオールの反応により得られるポリエステル系ポリウレタンの方が好ましく用いられる。ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエステルポリオールの具体例としては、多価アルコールとアジピン酸の縮合反応により得られるアジペート系ポリエステルポリオール、多価アルコールを開始剤とし、ε−カプロラクタムの開環重合により得られるラクトン系ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0015】
炭素繊維束の総繊度としては、好ましくは500〜6000dtexであり、より好ましくは1000〜5000dtexである。
【0016】
本発明に使用する炭素繊維コードは、上記の炭素繊維束が1本又は複数本、下撚りされているコードである。また、本発明においては、T1を炭素繊維コードの撚数(回/m)、D1を炭素繊維束の総繊度(dtex)としたとき、撚係数T1×(D11/2(以下、撚係数TC1と称することがある)が下記式(I)を満足している必要がある。
1500≦TC1≦4500 (I)
【0017】
上記の範囲で下撚を加える理由は主に炭素繊維束の集束のためである。つまり、炭素繊維はその製法上扁平状となるため、炭素繊維のみで下撚を加えること無しに良好な形状を維持することが困難であり、その結果十分な強力が得られない。したがって、T1×(D11/2(以下、撚係数TC1と称することがある)の値が1500未満の場合は、十分な集束性や強度が得られない。一方、TC1の値が4500を越える場合は、複合コードの耐疲労性が悪くなる。なお、TC1が下記式(IV)を満足していることが好ましい。
2000≦TC1≦3000 (IV)
【0018】
また、複数本の炭素繊維束を引き揃えて撚糸する場合には、いきなり下撚を付与するのではなく、それぞれの炭素繊維束1本に予め30〜60T/mの撚を付与した後、それらの炭素繊維束を引き揃えて下撚することが、撚糸形態の安定のためには好ましい。
【0019】
一方、ポリアミド繊維束は、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリメタフェニレンテレフタラミドおよびコポリパラフェニレン−3,4−オキシジフェニレンテレフタラミド等の芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束またはこれらの繊維を混合した繊維束を好ましく挙げることができる。特に本発明においては、十分な強度や耐疲労性を発揮できる点から、ポリパラフェニレンテレフタラミド、又はコポリパラフェニレン−3,4−オキシジフェニレンテレフタラミドが好ましい。
【0020】
本発明において、アラミド繊維コードは、上記アラミド繊維束が1本または複数本、下撚されたコードである。なお、アラミド繊維束の総繊度としては、好ましくは500〜6000dtexであり、より好ましくは1000〜5000dtexである。
【0021】
また、複合コードは、前述した炭素繊維コードと、このアラミド繊維コードとが、上撚されている複合コードである。
【0022】
本発明においては、アラミド繊維コードの撚係数T2×(D21/2(以下、撚係数TC2と称することがある)を下記式(II)を満足する範囲とし、複合コードの撚係数T3×(D31/2(以下、撚係数TC3と称することがある)をこれに近い下記式(III)に示す特定の範囲とすることが肝要である。
8000≦TC2≦20000 (II)
0.8×TC3≦TC2≦1.2×TC3 (III)
(ただし、T2はアラミド繊維コードの撚数(回/m)、D2はアラミド繊維束の総繊度(dtex)、T3は複合コードの撚数(回/m)、D3は複合コードの繊度(dtex)を示す。)
【0023】
アラミド繊維コードの撚係数TC2が、8000未満の場合は複合コードの耐疲労性が劣り、一方、20000を越えると複合コードの強力が低下する。TC2の範囲は好ましくは8000〜15000である。また、アラミド繊維コードの撚係数TC2と複合コードの撚係数TC3が式(III)の範囲に無い場合、複合コードして十分な強度が得られない。
【0024】
本発明においては、撚糸形態斑の引き起こす強力低下や疲労性悪化の点を考慮した場合、複合コードが次の構成になっているこが好ましい。
1)炭素繊維コードが3本以下の繊維束からなりその総繊度が1000〜5000dtexであり、
2)アラミド繊維コードが繊度1000〜5000dtexの1本のアラミド繊維束からなり、
3)複合コードにおいて、炭素繊維束の総繊度D1とアラミド繊維繊維束の総繊度D2とが下記式(V)を満足していることが好ましい。
0.4×D1≦D2≦1.7×D1 (V)
【0025】
本発明の複合コードは、常法により撚糸することにより製造することができる。
本発明の複合コードはゴム補強用コードとして、接着剤を処方の上、使用する。常法としてはレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂とラテックスの混合物(以下、RFL系接着剤と略記)を、コード/ゴム界面の接着剤として用いる。
【0026】
RFL系接着剤は、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を含む水溶液に、レゾルシノールとホルマリンを加え、室温で数時間静置し、レゾルシノールとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加える方法等により製造することができる。
【0027】
ゴムラテックスの具体例としては、アクリルゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、エチレン−プロピレンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、シリコーンゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、天然ゴムラテックス、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス等が挙げられる。中でも、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスは、接着性改善に有効である。
【0028】
また、RFL系接着剤は、乾燥前は、水分を含む、いわゆる水系接着剤のため、ゴム補強用コードの耐久性が不足する原因となるボイドの発生を防ぐ観点から、ゴム補強用コードの表面に付着させた後、加熱により水分を乾燥除去しておくのが好ましい。
【0029】
ここで、乾燥状態におけるRFL系接着剤の付着量は、複合繊維100重量%に対して、1〜10重量%であるのが良く、好ましくは2〜9重量%、より好ましくは3〜8重量%であるのが良い。付着量が1重量%未満であると、接着性の改善効果が不足することがあり、10重量%を越えると、ゴム補強用コードの柔軟性が不足することがある。またゴムとの接着性を更に向上させるため、エポキシ化合物を含む化合物を付着し、引き続き熱処理した後にRFLを付着することも接着性向上のためには好ましく例示できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、実施例はあくまで一例であって、本発明を限定するものではない。
(1)引張強力、弾性率
複合コードの引張弾性率はJIS L−1017に規定されている測定方法に準じて測定した。複合コードは破断時2段切れを示すため、引張強力には1段目の破断強力(炭素繊維の破断)を複合コードの破断強力とした。
(2)耐疲労性(屈曲疲労破断までの回数)
図1に示すように複合コード1の一端に1.5kgの荷重2を取り付け直径10mmのローラー3に掛け渡し、他端4をコード長軸方向に振幅30mm、速度120回/分で振動させることにより、コードを繰り返し屈曲させ、破断するまでの回数を測定した。
【0031】
[実施例1]
実質的に無撚の炭素繊維束(東邦テナックス製ベスファイト IM600−6K 2050dtex)を第一工業製薬製水分散型ポリウレタン樹脂スーパーフレックスE−2000に浸漬せしめた後、130℃1分熱処理、引き続き200℃で2分熱処理を実施した。以上の工程は連続工程で実施した。炭素繊維束に対するポリウレタン樹脂の付着量は10重量%であった。この炭素繊維束1本に撚数50t/m(下記式で示される撚係数TC1=2263)でS撚を付与し、下撚コードを得た。
【0032】
またこれとは別に、アラミド繊維束(帝人テクノプロダクツ製テクノーラT−200、1670dtex)1本に撚数250t/m(撚係数TC2=10216)でS撚りを付与し、下撚コードを得た。
【0033】
前記方法により得られたアラミド繊維下撚コード及び炭素繊維下撚コード各1本を引きそろえてZ方向に165T/m(撚係数TC3=9996)の上撚を付与し、複合コードとした。
【0034】
上記複合コードに対しエポキシ化合物とブロックドイソシアネートの混合物を付着せしめた後、230℃で2分間処理、RFL接着剤を付着せしめた後、150℃で1分熱処理を実施、引き続き220℃で2分熱処理を実施した。接着剤の全付着量は炭素繊維撚糸コード重量(ポリウレタン樹脂重量を含む)に対し5%であった。
【0035】
本実施例により作製されたコードの引張強力は380N、引張弾性率は13×104N/mm2であった。また、屈曲疲労破断までの回数は15.2万回であり、カーボンファイバー部分の破断が見られた。
【0036】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じ炭素繊維束1本に30t/mのZ方向の撚り(予備撚り)を付与した後、この繊維束を2本合糸し、撚数50t/mでS撚を付与して炭素繊維下撚コードとし、上撚数を130t/mに設定した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
実施例1で用いたものと同じ炭素繊維束1本に50t/mのS方向の撚りを付与した後、この繊維束を2本合糸し、撚数170t/mでZ撚を付与して炭素繊維単独からなる炭素繊維コードとした。複合コードの代わりにこの炭素繊維コードを用いた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例2]
実施例1で用いたものと同じアラミド繊維束1本に250t/mのS方向の撚りを付与した後、この繊維を2本合糸し、撚数170t/mでZ撚を付与してアラミド繊維単独からなるアラミド繊維コードとした。複合コードの代わりにアラミド繊維コードを用いた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例3]
炭素繊維束の下撚数を50t/mから250t/mに変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、強度及び弾性率といった力学特性に良好であり、かつ耐疲労性にも優れたゴム補強用コードを提供することができる。このため、本発明のゴム補強用複合コードは、タイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に好適に使用でき産業上の利用価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】耐疲労性の評価方法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 複合コード
2 荷重
3 ローラー
4 コード端(他端)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本の炭素繊維束が下撚された炭素繊維コードと、1本または複数本のアラミド繊維束が下撚されたアラミド繊維コードとが、上撚されてなる複合コードであり、かつ下記式(I)〜(III)を満足しているゴム補強用複合コード。
1500≦T1×(D11/2≦4500 (I)
8000≦T2×(D21/2≦20000 (II)
0.8×TC3×(D31/2≦T2×(D21/2≦1.2×T3×(D31/2 (III)
(ただし、上記式(I)〜(III)において、T1は炭素繊維コードの撚数(回/m)、D1は炭素繊維束の総繊度(dtex)、T2はアラミド繊維コードの撚数(回/m)、D2はアラミド繊維束の総繊度(dtex)、T3は複合コードの撚数(回/m)、D3は複合コードの繊度(dtex)を示す。)
【請求項2】
炭素繊維束にウレタンが含浸されている請求項1記載のゴム補強用複合コード。

【図1】
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【公開番号】特開2006−214042(P2006−214042A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28661(P2005−28661)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】