説明

ゴム補強用複合コード

【課題】耐疲労性に優れ、しかも高い強力を有するゴム補強用複合コードを提供する。
【解決手段】2種類のコードA及びコードBからなる複合コードであって、コードAは、引張強度が8cN/dtex以上、破断伸度が14%未満の糸条からなり、かつ30〜60回/10cmの下撚が施されており、コードBは、破断伸度が14〜25%の糸条からなり、かつ無撚か、もしくは該コードAと同じ方向に10回/10cm以下の下撚が施されており、さらに、該コードAとコードBを引き揃え、下撚と逆方向に25〜60回/10cmの上撚が施されていることを特徴とするゴム補強用複合コードとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用複合コードに関するものであり、特にタイヤ、ホース、ベルト等の補強に使用されるゴム補強用複合コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、耐疲労性の観点から、ゴム補強用コードに用いられる複合撚糸コードの多くは同じ下撚数のコードを複数本合わせて、下撚と逆方向に上撚が施されている。それは下撚コードの種類が異なり、破断伸度が異なる場合でも同様であり、下撚回数はほぼ同程度であり、それらを合わせて、下撚と逆方向に上撚りが施される(たとえば特許文献1)。
【0003】
しかし、これらの複合撚糸コードに使用した下撚コードの破断伸度が異なる場合、複合撚糸コードの破断伸度は破断伸度の低い下撚コードに支配され、破断伸度の高い下撚りコードの強力利用率が低くなり、複合撚糸コードの破断強力が大幅に低下するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−22455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、耐疲労性に優れ、しかも高い強力を有するゴム補強用複合コードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、「2種類のコードA及びコードBからなる複合コードであって、コードAは、引張強度が8cN/dtex以上、破断伸度が14%未満の糸条からなり、かつ30〜60回/10cmの下撚が施されており、コードBは、破断伸度が14〜25%の糸条からなり、かつ無撚か、もしくは該コードAと同じ方向に10回/10cm以下の下撚が施されており、さらに、該コードAとコードBを引き揃え、下撚と逆方向に25〜60回/10cmの上撚が施されていることを特徴とするゴム補強用複合コード」により解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム補強用複合コードは、伸度の異なる2種類のコードに、それぞれ異なる撚りを施し、さらにこれらを巧みに組合せることによって、高い耐疲労性を維持しながら、高強力をも実現している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム補強用複合コードは、2種類のコードA及びコードBからなる複合コードである。なお、ここで「2種類のコードA及びコードBからなる」とは、次に説明するように、コードを構成する糸条の破断伸度や、撚数の異なる2種類のコードA及びコードBからなることを意味し、コードA及びコードBを構成する糸条が、それぞれ異なるポリマー等からなることを意味するものではない。
【0009】
本発明においては、上記複合コードにおいて、(1)コードAは、引張強度が8cN/dtex以上、破断伸度が14%未満の糸条からなり、かつ30〜60回/10cmの下撚が施されていること、(2)コードBは、破断伸度が14〜25%の糸条からなり、かつ無撚か、もしくは該コードAと同じ方向に10回/10cm以下の下撚が施されていること、さらに、(3)該複合コードが、上記コードAとコードBとを引き揃え、下撚と逆方向に25〜60回/10cmの上撚が施されてなる複合コードであることが肝要である。
【0010】
すなわち、コードAを構成する高強度でありかつ破断伸度が14%未満といった低伸度の糸条には30〜60回/10cmの下撚を施し、一方、コードBを構成する破断伸度が14〜25%のコードA対比高伸度の糸条は無撚とするか、または極めて少ない撚を施すことによって、後述する上撚を施した後において、両コードの伸度が同程度となり、複合コードが破断する際、両コードが同時に破断するようになり、高強力の複合コードとすることができる。また、本発明は、上記のコードA及びコードBの下撚数、複合コードの上撚数を前記のようにしたとき、高強力であるのみならず、同時に耐疲労性にも優れた複合コードが得られることを見出したものである。
【0011】
よって、本発明においては、(1)コードAを構成する糸条は、引張強度が8cN/dtex以上、破断伸度が14%未満とする必要がある。上記引張強度が8cN/dtex未満では十分が強度を有する複合コードが得られない。また、こうした高強度の糸条は低伸度のものが多く、本発明は、該糸条の破断伸度が14%未満と極めて低くても、これを他の糸条と巧みに組合せることによって、その強度を最大限に生かし、同時に屈曲疲労性をも改善しようとするものである。
【0012】
本発明においては、コードAは、上記糸条に30〜60回/10cmの下撚を施したものであるが、この下撚数が、30回/10cm未満では耐疲労性が不足し、一方、60回を越えると強力低下が著しい。
【0013】
一方、本発明においては、(2)コードBを構成する糸条の破断伸度が14%以上である必要があり、該破断伸度が14%未満では、複合コードの耐疲労性を向上させることができず、破断伸度は25%を越えると、コードAを構成する糸条に前記の撚りを施しても、コードAとコードBの伸度差が大きくなり過ぎて高強度の複合コードとすることができない。また、コードA及びコードBを引き揃えて複合コードとすることが難しくなる。
【0014】
本発明においては、コードBは無撚か、もしくは下撚を施す場合は、コードAと同方向に下撚を施し、その下撚数は、10回/10cm以下とする必要があり、5回/10cm以下とすることが好ましい。該下撚数が10回/10cmを越えるとコードAと伸度差が大きくなり、コードBの強力利用率が大幅に低下し、複合コードの強力が低下する。
【0015】
さらに、本発明においては、(3)上記のコードAとコードBとを引き揃え、下撚と逆方向に25〜60回/10cmの上撚を施した複合コードとする必要がある。上撚数が、25回/10cm未満では耐疲労性が不足し、一方、60回/10cmを越えると強力低下が著しい。本発明においては、コードAの糸条の繊維軸方向に対する撚角がほぼ0°になるように上撚を施す、つまり、下撚を施すことでコードAの撚角は大きくなるが、さらに同程度の撚数の上撚を施すことによって下撚を打ち消し、撚角がほぼ0°となるようにする。そうすることにより、コードAを構成する高強度かつ低伸度の糸条が繊維軸方向に配列し、該糸条の強力利用率が高くなり、高強度、高弾性率の複合コードが得られる。同時に、高伸度のコードBも上撚がかかることより引き揃え性が向上し、また、高伸度のコードBが、低伸度のコードAに巻きつく形状となり、複合コードの耐疲労性が向上する。
【0016】
コードAを構成する糸条に用いる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、炭素繊維、ポリビニルアルコール繊維、セルロース繊維などの合成繊維、半合成繊維が挙げられ、特に汎用性、取扱性に優れたポリエステル繊維、中でも力学特性、耐熱性、耐薬品性に優れたポリエチレンナフタレート繊維が好ましい。
【0017】
一方、コードBを構成する糸条に用いる繊維としては、上記繊維を同様に例示できるが、前記破断伸度としても高強度であり、かつ耐疲労性に優れも優れていることから、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維が好ましく、特に高伸度かつ高強度である点から脂肪族ポリアミド繊維が好ましい。
【0018】
コードAおよび/またはコードBを構成する糸条は、長繊維からなるマルチフィラメント糸であっても、短繊維からなる紡績糸であってもよいが、繊維の強度を十分に生かすことができるマルチフィラメント糸が好ましく、特にコードAとして、マルチフィラメント糸を採用することが好ましい。
【0019】
複合コードや、コードA及びコードBに用いる糸条、該糸条を構成する繊維は、前記の引張強度や破断伸度等を満足すれば、繊維の繊度、フィラメント数、断面形状、微細構造や、ポリマー中の添加剤の有無等は、なんら限定を受けるものではなく、用途等によって、任意の構成を採用することができる。
【0020】
例えば、複合コードをタイヤコードとして用いる場合は、複合コードの総繊度は500〜2000dtexが好ましい。該総繊度が、500dtex未満では、タイヤに必要な強度を確保するためにコード数の増加を招くことになり、一方、2000dtexを越えると、コードが太くなってタイヤの厚さが増加するなど、同様にタイヤ重量の増加を招くことになるため、上記繊度の範囲とすることが好ましい。コードAの総繊度と、コードBの総繊度とは、同じであっても良いが、コードBの総繊度を、コードAの総繊度より小さくすることが、強度と耐久性のバランスをとる観点から好ましい。また、コードA及び/またはコードBは、下撚段階で複数本の糸条を合糸して用いてもよい。
【0021】
また、上記複合コードにおいて、コードAを構成する繊維の本数は、150〜400本の範囲、またコードBを構成する繊維の本数は、100〜400本の範囲であるのが好ましい。前記本数が夫々上限値を超えると、繊維が細過ぎとなって、繊維同士の擦れによりコードの強度低下を招く傾向となり、逆に下限値を超えると、繊維が太くなりすぎて、耐久性に問題が生じる。
以上に説明した本発明の複合コードは、例えば、リング撚糸機等を用い公知の方法に製造することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における特性の測定は、下記の測定法で行った。
(1)コードA、コードBの引張強度、破断伸度、及び、複合コードの強力、破断伸度
JIS L1017に準拠して測定した。
(2)耐疲労性(屈曲疲労試験後の強力、破断伸度、強力保持率)
複合コードの一端に1.0kgの荷重を取り付け、直径10mmのローラーに掛け渡し、他端をコードの長軸方向に振幅50mm、速度100回/分で振動させることにより、コードを繰り返し屈曲させ、これを屈曲回数1万回繰り返す屈曲疲労試験を行い、該試験後の複合コードの強力、破断伸度を上記(1)と同様にして測定した。また、下記式にて、強力保持率を測定した。
強力保持率(%)=屈曲疲労試験後の複合コードの強力(N)/屈曲疲労試験前の複合コードの強力(N)×100
【0023】
[実施例1]
引張強度8.4cN/dtex、破断伸度13%のポリエチレンナフタレート(PEN)繊維(帝人ファイバー(株)製“TEONEX”)からなる1100dtex/250フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に48回/10cmでZ方向に下撚を施し、これをコード1とした。
引張強度9.1cN/dtex、破断伸度20%の脂肪族ポリアミド繊維(旭化成(株)製“レオナ”)からなる940dtex/140フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸には下撚は施さず、これをコード2とした。
上記のコード1とコード2を引き揃え46回/cmでS方向に上撚を施し、複合コードを得た。いずれの撚糸もリング撚糸機を用いて行った。結果を表1に示す。
【0024】
[実施例2]
引張強度9.1cN/dtex、破断伸度20%の脂肪族ポリアミド繊維(旭化成(株)製“レオナ”)からなる940dtex/140フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸には10回/10cmでZ方向に下撚を施し、これをコード3とした。
コード2に代えて、上記コード3を用いた以外は実施例1と同様にして複合コードを得た。結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
引張強度9.1cN/dtex、破断伸度20%の脂肪族ポリアミド繊維“レオナ”(旭化成(株)製)、からなる940dtex/140フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に52回/10cmでZ方向に下撚を施し、これをコード4とした。
コード2に代えて、上記コード4を用いた以外は実施例1と同様にして複合コードを得た。結果を表1に示す。
【0026】
[比較例2]
上撚の撚数を、46回/cmから10回/cmに変更した以外は、比較例1と同様にして複合コードを得た。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のゴム補強用複合コードは、高い耐久性を有しながら、強力にも優れており、特にタイヤ、ホース、ベルト等の補強用コードとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類のコードA及びコードBからなる複合コードであって、コードAは、引張強度が8cN/dtex以上、破断伸度が14%未満の糸条からなり、かつ30〜60回/10cmの下撚が施されており、コードBは、破断伸度が14〜25%の糸条からなり、かつ無撚か、もしくは該コードAと同じ方向に10回/10cm以下の下撚が施されており、さらに、該コードAとコードBを引き揃え、下撚と逆方向に25〜60回/10cmの上撚が施されていることを特徴とするゴム補強用複合コード。
【請求項2】
前記コードAを構成する糸条がポリエチレンナフタレート繊維からなり、コードBを構成する糸条が脂肪族ポリアミド繊維からなる請求項1記載のゴム補強用複合コード。

【公開番号】特開2011−157645(P2011−157645A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18827(P2010−18827)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】