説明

ゴム補強用金属線、その製造方法及びタイヤ

【課題】伸線加工性及びゴム組成物との接着性に優れたゴム補強用金属線を提供する。
【解決手段】金属芯線と、芯線を覆うCu,Zn,Coを含む被覆層とを有し、被覆層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成が、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5at%以上5.0at%以下であることを特徴とするゴム補強用金属線により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物を補強するゴム補強用金属線、その製造方法、及びこのゴム補強用金属線を用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやタイミングベルト、ホース等のゴム組成物を補強するためにスチールコード等のゴム補強用金属線を組み込むことが知られている。この種のゴム補強用金属線には、補強すべきゴム組成物に対する接着力を付与するために、金属線を覆う被覆層が形成されている。また、ゴム補強用金属線には伸線加工が施されるため、引き抜きダイスに対する潤滑性を付与するために、被覆層として真鍮めっき層を形成することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−13081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなゴム補強用金属線として、特許文献1はゴム組成物との間の接着力及びゴム補強用金属線の加工性を両立させるために、Cuを15〜45atm%含有するブラスめっきを施した金属線において、ブラスめっきの表面から金属線の半径方向の内側に15nmの深さまでの表層に、Co及びNiの少なくとも一種を0.5〜5.0atm%含有させることを提案している。
【0005】
しかし、本発明者らは、特許文献1に記載の金属線にはまだ改善の余地があることを見出した。特許文献1に記載の金属線では表層中のCuの量に着目していないが、この表層中のCu量を含む、表層のCu,Co,Znの比率がゴム組成物との間の接着力及び加工性に影響することを見出した。特に、特許文献1に記載のゴム補強用金属線では、この表層中のCu濃度が低い虞があり、低いCu含有率に起因して伸線加工中に被覆層表面にクラックが発生し、伸線加工性を低下させる要因となりゴム補強用金属線の製造の歩留まりが悪い虞があると考えた。
【0006】
そこで本発明は、伸線加工性及び接着強度に優れたゴム補強用金属線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明によれば以下が提供される。
(1) 芯線と、
前記芯線を覆うCu,Zn,Coを含む被覆層とを有し、
前記被覆層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成が、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5at%以上5.0at%以下であることを特徴とするゴム補強用金属線。
(2) 前記被覆層は、Cuを60at%以上75at%以下含有する真鍮であることを特徴とする(1)に記載のゴム補強用金属線。
(3) 前記被覆層全体の組成が、Cu:60at%以上75at%以下、Co:1.0at%以上7.0at%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のゴム補強用金属線。
(4) (1)から(3)のいずれか一項に記載のゴム補強用金属線と、
前記ゴム補強用金属線を覆うゴム層とを有するタイヤ。
(5) 芯線にCuを60at%以上75at%以下含有する被覆層を形成し、
前記被覆層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成が、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5at%以上5.0at%以下となるように、前記鋼線に500℃以上650℃以下の温度で、5秒以上の熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用金属線の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るゴム補強用金属線によれば、伸線加工時にクラックが生じやすい被覆層の表層が延性に富むCuを60at%以上75at%以下含むので、十分な伸線加工性を備える。また、ゴム組成物との界面となる被覆層の表層に、ゴム組成物との密着性を向上させるCoを0.5〜5.0at%含むのでゴム組成物との接着性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるゴム補強用金属線は、タイヤやホース等のゴム製品を補強するために使用される。例えば、複数本のゴム補強用金属線が撚り合わせて形成した撚り線コードにゴムを被覆し、タイヤを形成することができる。
【0010】
このゴム補強用金属線は、鋼線等からなる芯線と、この芯線を覆う被覆層とから構成されている。芯線には、その直径が0.1mm〜0.7mmの金属線を好適に使用することができる。
【0011】
被覆層は、金属芯線を外部から保護し、またゴム補強用金属線の伸線加工性とゴム組成物との密着性を向上させるために設けられる。被覆層は、延性が高く加工性に優れた真鍮で形成される。また、ゴムとの密着性を向上させるために、被覆層はCoを含んで形成される。この被覆層の厚みは、0.1μm以上0.5μm以下に形成することが好ましい。
【0012】
被覆層に含まれる成分のうち、延性の高いCuが多く含まれるほどクラックが生じることなく伸線できるので、加工性が向上する。一方で、Cuが多すぎるとゴムとの経時的な接着性が低下し、またゴムの劣化が進行しやすい。また、Coが多いほどゴム組成物との経時的な接着性が向上するが、多すぎると被覆層が硬くなり、伸線加工中にクラックを生じやすく伸線加工性が大きく低下する。そこで、被覆層はCuを60at%以上75at5以下含有する真鍮であることが好ましい。
【0013】
本発明者らは、被覆層の組成、特にCu,Co比率による加工性と接着性の向上について、被覆層の表面から半径方向の内部の深さ15nmの領域のCoの成分を多くした時に接着性が向上することを確認した。そこで、被覆層の表面から15nmの深さまでの領域を表層と定義し、この表層のCuとCoとの比率を調整することを検討した。つまり、ゴム補強用金属線の被覆層全体ではなく、表層のみに注目し、伸線加工中にクラックが生じやすい表層のCuを多くすれば加工性が向上し、ゴム組成物との界面でもある表層のCoを多くすれば、ゴム補強用金属線の伸線加工性と接着性とを向上できることを見出した。
【0014】
具体的には、被覆層の表層の組成を、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5以上1.0at%以下とすると、伸線加工性に優れ、またゴム組成物との接着性に優れたゴム補強用金属線が得られることを見出した。
【0015】
<製法の具体例>
上述のようなゴム補強用金属線の製造方法について説明する。
まず、スチールロッドを所定の直径となるまで延伸させて熱処理、酸洗いして金属芯線を得る。次に、Cu層,Co層,Zn層、又はCu層,Zn層,Co層の順でめっきすることにより金属芯線の表面に付着させて被覆層を形成し、ゴム補強用金属線を得る。
【0016】
更に得られたゴム補強用金属線に500℃から650℃の恒温槽にて5秒から25秒の熱処理を行い、十分に合金化を進ませて、最終的な被膜層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成がCu:60〜69at%、Co:0.5〜5.0at%、残部がZnと不純物となるようにCu,Co,Znを被膜層内で拡散させる。
【0017】
なお、熱処理の温度と時間に関しては、温度が500℃より低いと合金化に時間がかかり、また表層へのCuの移動にばらつきがあり、表層のCu濃度が低い部分が出てきやすく、その場合は伸線性が大きく低下する。また、熱処理温度が650℃よりも高いと、表層へのCuの移動が大きくなりすぎ、表層のCu濃度が高くなりすぎ、経時的な接着性が低下する虞がある。また、表層のZn層が溶融または変性することで表層の不純物が多くなり、それにより接着性が低下する。また、金属芯線の表層分が変性して、強度レベルが低下してしまい、最終的に必要なスチールワイヤーの強度確保が難しくなる。このような問題を確保する為に、温度に合わせた適正な熱処理時間が存在しており、今回のテストもそれを踏まえて実施している。
【0018】
<実施例>
以上のようなゴム補強用金属線について、線径が0.90mmの実施例1〜27及び比較例1〜13を作成して、伸線加工性及び接着性を評価した。
【0019】
伸線加工性は、伸線テストにより評価した。伸線テストにおいては、0.23mmまで伸線できたゴム補強用金属線は○と評価し、破断して0.23mmまで伸線できなかったゴム補強用金属線は×と評価した。
【0020】
また、接着性は、以下のように評価した。すわなち、上述のように0.23mmまで伸線されたた金属線を4本用意し、4本の金属線を撚り合わせてゴム補強用金属撚り線を作成し、このゴム補強用金属撚り線ゴムで挟み込み、温度約150℃、圧力50kg/cmで20分間の加硫処理を施し、更に温度80℃湿度95%の高温高湿状態で5日間保管する。その後、ゴムをゴム補強用金属撚り線から剥離して、ゴム補強用金属撚り線に付着しているゴムの状態からゴムの接着性を10段階評価した。本実施形態においては、評点が7以上のスチールワイヤーを接着性に優れたスチールワイヤーと評価した。
【0021】
まず、被覆層の表層の組成についてCuの比率が異なる実施例1〜8及び比較例1〜6について、伸線加工性及び接着性を評価した。その結果を表1に示す。なおCuの比率は、被覆層全体の平均組成を変化させたり、熱処理時間や熱処理温度を変動させることにより、変化させることができる。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、被覆層の表層のCuの比率が60at%以上69at%未満である実施例1〜8のスチールワイヤーでは、芯線テストの結果が良好であり、また、接着性についても評点が7,8と良好な結果が得られた。一方、被覆層の表層のCuの比率が60at%未満の比較例1〜5ではCuの量が少なすぎて伸線加工性が劣り、被覆層の表層のCuの比率が69at%以上の比較例6ではCuの量が多すぎて経時的な接着性が劣ることが確認できた。
【0024】
次に、被覆層の表層の組成についてCoの比率が異なる実施例9〜17及び比較例7〜9について、上述と同様にして伸線加工性及び接着性を評価した。その結果を表2に示す。Coの比率は、Cuの比率と同様に、被覆層全体の平均組成を変化させたり、熱処理時間や熱処理温度を変動させることにより変化させることができる。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から明らかなように、被覆層の表層のCoの比率が0.5〜5at%である実施例9〜17のスチールワイヤーでは、芯線テストの結果が良好であり、また、接着性についても評点が7,8と良好な結果が得られた。一方、被覆層の表層のCoの比率が0.5at%未満の比較例7ではCoの量が少なすぎてゴム組成物の経時的な接着性が劣り、被覆層の表層のCoの比率が5at%より多い比較例8,9ではCoの量が多すぎて伸線加工性が劣ることが確認できた。
【0027】
次に、略一定の平均組成の被覆層を有するスチールワイヤーについて、550℃での熱処理の時間を変化させた時の、被覆層の表層の組成の変化、伸線加工性及び接着性について評価した。その結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
表3から明らかなように、熱処理時間を3秒間とした比較例10では、Cu成分が十分に表層まで拡散しなかった結果、表層のCu成分が60at%よりも低く伸線加工性に劣る。一方、熱処理時間を5秒間以上とした実施例18〜20については、表層までCu成分が十分に拡散し、伸線加工性及び接着性いずれも良好なスチールワイヤーを得られることが確認できた。
【0030】
次に、略一定の平均組成の被覆層を有するスチールワイヤーについて、5秒間の熱処理の熱処理温度を変化させた時の、被覆層の表層の組成の変化、伸線加工性及び接着性について上述と同様に評価した。その結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
表4から明らかなように、熱処理温度を500〜650℃とした実施例21〜27においては、Cu成分が適度に表層まで拡散し、表層中のCu成分が60at%以上69at%未満となったので、伸線加工性及び接着性いずれも良好な結果が得られた。一方、熱処理温度が500℃未満の比較例11,12ではCu成分が十分に表層まで拡散せず、伸線加工性が劣る結果が得られた。また、熱処理温度が650℃より高い比較例13ではCu成分が拡散しすぎ、表層にCu成分が過剰に存在するので経時的な接着性が劣ることが確認できた。
【0033】
以上、本発明をその実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができることは、当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と、
前記芯線を覆うCu,Zn,Coを含む被覆層とを有し、
前記被覆層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成が、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5at%以上5.0at%以下であることを特徴とするゴム補強用金属線。
【請求項2】
前記被覆層は、Cuを60at%以上75at%以下含有する真鍮であることを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用金属線。
【請求項3】
前記被覆層全体の組成が、Cu:60at%以上75at%以下、Co:1.0at%以上7.0at%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム補強用金属線。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム補強用金属線と、
前記ゴム補強用金属線を覆うゴム層とを有するタイヤ。
【請求項5】
芯線にCuを60at%以上75at%以下含有する被覆層を形成し、
前記被覆層の表面から半径方向の内部に深さ15nmまでの表層の組成が、Cu:60at%以上69at%未満、Co:0.5at%以上5.0at%以下となるように、前記鋼線に500℃以上650℃以下の温度で、5秒以上の熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用金属線の製造方法。

【公開番号】特開2013−53359(P2013−53359A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193887(P2011−193887)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】