説明

ゴム製品補強用スチールコードおよびその製造方法

【課題】ゴム材侵入性が良好で、芯素線群や中間素線群のずれ動きがなくて撚り構造が安定し、低荷重伸びが小さい3層構造のゴム製品補強用スチールコードを得る。
【解決手段】L+M+N構造のコード10を、芯素線11の周りに、全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さい略正弦波状のくせを有する中間素線12を撚り合わせ、さらに側素線13を撚り合わせた後、コード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものとする。また、1×P構造のスチールコードの場合、中間素線の全てを撚り合わせのためのくせよりピッチの小さい略正弦波状のくせを有するものとして他の素線と一度に撚り合わせ、押圧加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用されるゴム製品補強用スチールコード(以下、単に「コード」ということもある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用される1+6+12構造、3+9+15構造、あるいは1×19構造、1×27構造等の3層構造のゴム製品補強用スチールコードとしては、従来、複数本の素線を堅く撚り合わせて密着させた、いわゆるクローズド撚り構造のコードが一般的である。しかし、このクローズド撚りコードは、隣接する素線間に閉じられた空洞部が存在しており、コードを2枚のゴムシートの間に挟んで加熱圧縮して複合体シートを形成した時に、ゴム材が素線間の空洞部に侵入することはなくて、単にコードをゴムシートによって包み込んだだけの複合体となり、ゴム材がコード素線間の空洞部に完全に入り込んでゴムシートとコードとが一体化されたいわゆる完全な複合体にはならない。そのため、従来のクローズド撚りコードをゴムシートで挟んで圧縮した複合体シートを例えば自動車のタイヤに組み込むと、ゴム材とコードとの接着が不十分で、自動車の走行時にゴム材がコードから剥離する、いわゆるセパレーション現象を起こす可能性が大きく、また、ゴム材中に侵入した水分がコードの空洞部に達すると、その水分は空洞部を伝ってたちまちコードの長手方向に伝播してコードを腐食させ、その結果、そのコードの機械的強度を著しく低下させることになる。
【0003】
また、図6に示すように、3層構造のコード60の中心層を構成する素線群(「芯素線群」といい、素線1本の場合も含む。)、中間層を構成する素線群(「中間素線群」という。)および外層を構成する素線群(「側素線群」という。)の各素線61,62,63に施す撚り合わせのためのくせ付けを過大なものとすることで、素線61,62,63同士の間に外側に連通する隙間64を設けてゴム材が侵入し易くなるようにしたオープン撚り構造のコードも知られている。しかし、オープン撚り構造のコードは、芯素線群と中間素線群とが非接触であり、また、中間素線群と側素線群とが非接触であるため、芯素線群および中間素線群がずれ動きやすくて、撚りの安定度が低い。
【0004】
また、図7に示すように、3層構造のコード70で、芯素線群、中間素線群および側素線群がそれぞれ所定数の素線71,72,73から成り、中心素線群あるいは中間素線群の一部素線に撚り合わせのためのくせとは異なる小さな螺旋状のくせを有する(図示の例は、中間素線群の9本の素線72の内の3本に螺旋状のくせを設けた場合を示している。)ものとしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このコード70は、螺旋状のくせを設けた素線72(「螺旋素線」という)と螺旋状のくせを設けていない素線(「非螺旋素線」という)との間に外側に連通する隙間74ができてゴム材が侵入する。そして、芯素線群の素線71が中間素線群のいずれかの素線72と係合し、中間素線群の素線72が側素線群のいずれかの素線73と係合するため、芯素線群および中間素線群のコード長手方向に対する自由度がなくなり、コード長手方向へのずれ動きが生じない。
【0005】
しかし、このように芯素線群あるいは中間素線群の素線に螺旋状のくせを設けた従来のコードは、一部素線だけを螺旋素線としたものであって、非螺旋素線同士によって囲まれる箇所は閉じた空洞部となり、そこにはゴム材が侵入しない。
【0006】
そこで、図8に示すように、3層構造のコード80で、芯素線群、中間素線群および側素線群がそれぞれ所定数の素線81,82,83から成るものにおいて、中間素線群の全ての素線82を螺旋素線とすることが考えられる。こうすることで、外側に連通する隙間84が拡大し、閉じた空洞部がなくなる。しかし、このように中間素線群の全ての素線82を螺旋素線とすると、コードの伸びが大きくなり、それが新たな問題となる。コードには、柔軟性を得るためにある程度の伸びは必要であるが、必要以上に伸びが大きいとタイヤの剛性を低下させてしまう。特に、近年スチール化がすすむタイヤのカーカス部に使用するコードでは、タイヤの走行安定性を低下させるため低荷重伸びの大きいコードは不適である。
【0007】
【特許文献1】特開2000−80578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ゴム材侵入性が良好で、且つ、芯素線群や中間素線群のずれ動きがなくて撚り構造が安定し、低荷重伸びが小さい3層構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードを、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、コード長手方向の略全ての箇所において、前記中間層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線が、中心層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているよう構成することにより解決することができる。
【0010】
このコードは、外層を構成する素線群(側素線群)の素線同士の隙間から侵入したゴム材が、中間層を構成する素線群(中間素線群)の撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有する素線同士の間に形成される隙間から中間素線群と中心層を構成する素線群(芯素線群)の間に入り込む。しかも、このコードは、中間素線群の全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有することにより、中間素線群と側素線群との間、および中間素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0011】
そして、このコードは、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線が、芯素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているため、中間素線群と芯素線群とがコード長手方向に連続して係合し、また、中間素線群の素線は側素線群の素線とも部分的に係合する。そのため、中間素線群のコード長手方向へのずれ動きが生じず、撚りが安定する。
【0012】
さらに、このコードは、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線が、芯素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているため、クローズド撚りコードと同様にコードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0013】
また、上記課題は、L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードを、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、前記中間層を構成する素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するよう構成することにより解決することができる。
【0014】
このコードは、外層を構成する素線群(側素線群)の素線同士の隙間から侵入したゴム材が、中間層を構成する素線群(中間素線群)の撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有する素線同士の間に形成される隙間から中間素線群と中心層を構成する素線群(芯素線群)の間に入り込む。しかも、このコードは、中間素線群の全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有することにより、中間素線群と側素線群との間、および中間素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0015】
そして、このコードは、中間素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間素線群の素線の撚り角と側素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線群の素線の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0016】
さらに、このコードは、中間素線群の素線は側素線群の素線と部分的に係合するとともに、芯素線群の素線とは、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線が、芯素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているため、中間素線群と芯素線群とがコード長手方向に連続して係合することになり、そのため、中間素線群のコード長手方向へのずれ動きが生じず、撚りが安定する。また、このコードは、中間素線群の素線が芯素線群の素線に接触することになるため、コードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0017】
また、上記課題は、L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードを、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、コード長手方向の略全ての箇所において、前記中間層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線が、中心層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているとともに、前記中間層を構成する素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するよう構成することにより解決することができる。
【0018】
このコードは、外層を構成する素線群(側素線群)の素線同士の隙間から侵入したゴム材が、中間層を構成する素線群(中間素線群)の撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有する素線同士の間に形成される隙間から中間素線群と中心層を構成する素線群(芯素線群)の間に入り込む。しかも、このコードは、中間素線群の全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有することにより、中間素線群と側素線群との間、および中間素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0019】
そして、このコードは、中間素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線群の素線の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0020】
さらに、このコードは、コード長手方向のいずれの箇所においても、中間素線群の少なくとも1本の素線が芯素線群の素線のいずれかに常に接触し、また、中間素線群の素線は側素線群の素線とも部分的に係合する。そのため、中間素線群のコード長手方向へのずれ動きが生じず、撚りが安定する。
【0021】
また、このコードは、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線が、中心層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているため、クローズド撚りコードと同様にコードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0022】
上記構成のコードにおいて、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことより得られたくせであるのが好ましい。所望のくせ形状に歯型を加工した一対の歯車間に素線を通してもジグザク状に折り曲げられて成る小さなくせが得られるが、そうした手段でくせ付けした素線は、折り曲げられた箇所が折り曲げられない箇所より加工度が大きくなり、この加工度が大きい折り曲げ箇所に応力が残留し、これに外力による応力が加わることで折り曲げ箇所の応力が過大になって耐疲労性が低下する。それに対し、螺旋状のくせを施した後、押圧加工したことにより得られたくせは、どの箇所においても加工度が均等になるので、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなる。
【0023】
また、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)であるのが好ましい。ピッチP1が0.2Pcより小さいと、くせ付け時に過大な応力が作用する無理な塑性変形を伴うこととなって、素線が折れやすくなるとともに生産性が低下し、ピッチP1が0.5Pcより大きいと、引張力が均等に負荷されなくなって、中間素線群の撚りの安定性が悪くなると共に、耐疲労性が悪くなる。また、波高hが0.2dよりも小さいと、各素線間の隙間が小さくなりすぎて、流動性の良いゴム材を使用しても加圧加硫時にゴム材が内部へ充分に侵入できず、波高hが1.2dmmより大きいと、撚りの安定性が悪くなり耐疲労性が悪化する。なお、これら撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1および波高hの値は、コードから撚りをほぐして取り出した素線のものと一致する。
【0024】
本発明のゴム製品補強用スチールコードは以下の方法で製造することができる。
すなわち、L+M+N(L=1〜4本、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造のスチールコードの場合、L本の素線を撚り合わせて中心層を構成する素線群とし、該中心層を構成する素線群の上に、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して得られた略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有するM本の素線を撚り合わせて中間層を構成する素線群とし、該中間層を構成する素線群の上に少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するようN本の素線を撚り合わせて外層を構成する素線群とし、こうして形成した3層撚り構造のスチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことで本発明のスチールコードを製造することができる。
【0025】
また、1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードの場合、中間層を構成する素線群の全ての素線を、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して得られた略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有するものとし、該略二次元波状のくせを有する素線からなる中間層の素線群と中心層の素線群と外層の素線群の各素線を同一方向および同一ピッチで一度に撚り合わせて前記外層の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在する束撚り3層構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことで本発明のスチールコードを製造することができる。
【0026】
このように芯素線群の上に略二次元波状のくせを有する中間素線群の素線を撚り合わせ、さらに側素線群の素線を撚り合わせてなる3層撚り構造のスチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより、また、略二次元波状のくせを有する素線からなる中間素線群と芯素線群および側素線群の素線を一度に撚り合わせてなる束撚り3層構造のスチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線が、芯素線群の少なくともいずれか1本の素線に常に接触しているコードとなり、また、中間素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して中間素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するコードとなる。
【0027】
これらの製造方法において、中間素線群の素線は、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状のくせを付けたものを一旦リール等に巻き取り、撚線機の繰り出し装置に所定本数分をセットして撚り合わせてもよいし、撚線機の繰り出し装置から撚り口までの間でくせ付け加工を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ゴム材侵入性が良好で、且つ、芯素線群や中間素線群のずれ動きがなくて撚り構造が安定すると共に低荷重伸びが小さい3層構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることができ、このコードを例えば自動車用タイヤの補強材として使用することにより、タイヤの寿命を大幅に延長することができる。また、このコードは、低荷重伸びが小さいため、近年スチール化が進むタイヤのカーカス部に使用することができる。
【0029】
また、このコードは、中間素線群の素線の撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことより得られたくせとすることで、加工度が均等となり、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなるようにすることができる。
【0030】
また、このコードは、撚りをほぐした後の素線の状態で、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)であるようにすることで、無理な塑性変形を避けるとともに生産性を高めることができ、また、中間素線群の撚りの安定性並びに耐疲労性が悪化しないようにすることができる。また、撚りをほぐした後の素線の状態で、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせの波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)とあるようすることで、ゴム材が内部へ充分に侵入できるとともに、撚りの安定性並びに耐疲労性が悪化しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態のゴム製品補強用スチールコード(以下、「スチールコード」あるいは、単に「コード」という。)を図面を参照して説明する。
【0032】
図1はL+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造のスチールコードの場合の実施形態の一例として、1+5+11構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0033】
図1に示すコード(スチールコード)10は、1+5+11の3層撚り構造で、1本の素線(芯素線11)の周りに略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する5本の素線(中間素線12)を撚り合わせ、外側(最外)に、撚り合わせのためのくせのみを有する11本の素線(側素線13)を撚り合わせ、こうして形成した3層撚り構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0034】
このコード10は、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線(側素線13)同士の間に隙間14が存在するとともに、中間層を構成する素線群(中間素線群)の素線(中間素線12)の全てが、撚り合わせのためのくせとは別に略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この略二次元波状のくせは、素線(中間素線12)に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0035】
撚り合わせ前の素線の略正弦波状のくせは、図3に示すとおり波の谷から谷までまたは山から山までの長さ(周期)P1を意味し、波高とは、波の谷から山までの高さ(振幅)hを意味する。中間素線12の略二次元波状のくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。
【0036】
そして、このコード10は、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の素線(中間素線12)の少なくともいずれか1本の素線が、図1に示すように中心層を構成する素線群(芯素線群)の素線(芯素線11)に接触(芯素線群の芯素線11が複数本の場合は、少なくともいずれか一本の芯素線11に接触)している。
【0037】
また、このコード10は、図4に示すように、中間素線群の素線(中間素線12)同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、中間素線12の撚り角αが0(ゼロ)で、図示しない外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線13)の撚り角(中間素線12の非パラレル部分での撚り角αと同じ)との差が大きくなっている。
【0038】
芯素線11(芯素線群)の上に、略正弦波状の小さなくせを有する複数本(図の例では5本)の中間素線12を、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線12の少なくともいずれか1本の素線が芯素線11に接触するように撚り合わせると、それら複数本の中間素線12は、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図4に示すような撚り構造となるのである。
【0039】
このコード10は、側素線群の素線(側素線13)同士の隙間14から侵入したゴム材が、中間素線群の略二次元波状の小さなくせを有する素線(中間素線12)同士の間に形成される隙間15から中間素線群と芯素線群の間に入り込む。しかも、このコード10は、中間素線群の全ての素線(中間素線12)が略二次元波状の小さなくせを有することにより、中間素線群と側素線群との間、および中間素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0040】
そして、このコード10は、中間素線群の素線(中間素線12)同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間素線群の素線(中間素線12)の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線群の素線(側素線13)の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0041】
さらに、このコード10は、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線(中間素線12)が芯素線群の少なくともいずれか1本の素線(芯素線11)に常に接触し、また、中間素線群の素線(中間素線12)は側素線群の素線(側素線13)とも部分的に係合する。そのため、中間素線群のコード長手方向へのずれ動きが生じず、撚りが安定する。
【0042】
また、図2は1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードの場合の実施形態の一例として、1×16の束撚り3層構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0043】
図2に示すコード(スチールコード)20は、1×16の束撚り3層構造で、1本の素線(芯素線21)を中心とし、その周りに略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する5本の素線(中間素線22)を配置し、外側(最外)に10本の素線(側素線23)を配置して一度に撚り合わせ、こうして形成した束撚り3層構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0044】
このコード20は、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線(側素線23)同士の間に隙間24が存在するとともに、中間層を構成する素線群(中間素線群)の素線(中間素線22)の全てが、撚り合わせのためのくせとは別に略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この略二次元波状のくせは、素線(中間素線22)に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0045】
このコード20の場合も、撚り合わせ前の中間素線22の略正弦波状のくせは、図3に示すようにピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。
【0046】
そして、このコード20も、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の素線(中間素線22)の少なくともいずれか1本の素線が、図2に示すように中心層を構成する素線群(芯素線群)の素線(芯素線21)に接触(芯素線群の芯素線21が複数本の場合は、少なくともいずれか一本の芯素線21に接触)している。
【0047】
そして、このコード20も、図4に示すように、中間素線群の素線(中間素線22)同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、中間素線22の撚り角αが0(ゼロ)で、図示しない外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線23)の撚り角(中間素線22の非パラレル部分での撚り角αと同じ)との差が大きくなっている。
【0048】
芯素線21(芯素線群)の周りに、略正弦波状の小さなくせを有する複数本(図の例では5本)の中間素線22を配置し、外側(最外)に側素線23を配置して、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線22の少なくともいずれか1本が芯素線21に接触するように一度で撚り合わせると、複数本の中間素線22は、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図4に示すような撚り構造となるのである。
【0049】
このコード20は、側素線群の素線(側素線23)同士の隙間24から侵入したゴム材が、中間素線群の略二次元波状の小さなくせを有する素線(中間素線22)同士の間に形成される隙間25から中間素線群と芯素線群の間に入り込む。しかも、このコード20は、中間素線群の全ての素線(中間素線22)が略二次元波状の小さなくせを有することにより、中間素線群と側素線群との間、および中間素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0050】
そして、このコード20は、中間素線群の素線(中間素線22)同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間素線群の素線(中間素線22)の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線群の素線(側素線23)の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0051】
さらに、このコード20は、コード長手方向の略全ての箇所において、中間素線群の少なくともいずれか1本の素線(中間素線22)が芯素線群の少なくともいずれか1本の素線(芯素線21)に常に接触し、また、中間素線群の素線(中間素線22)は側素線群の素線(側素線23)とも部分的に係合する。そのため、中間素線群のコード長手方向へのずれ動きが生じず、撚りが安定する。
【実施例】
【0052】
実施例として、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にブラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、1+5+11の3層撚り構造、1×16の束撚り3層構造の2種類のコードを製造した。
【0053】
1+5+11構造の実施例のコードは、中間素線群とする5本の素線を、それぞれ螺旋状のくせを付けた後、押圧加工によって略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する素線に加工し、その5本の素線を1本の芯素線の周りに撚り合わせて中間素線群とし、その外側(最外)に11本の素線(側素線)を撚り合わせて3層撚り構造のコードを形成し、こうして形成したコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施して製造したものである。
【0054】
また、1×16構造の実施例のコードは、中間素線群となる5本の素線を、それぞれ螺旋状のくせを付けた後、押圧加工によって略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する素線に加工し、1本の素線(芯素線)の周りにそれら略正弦波状の小さなくせを有する5本の素線(中間素線)を配置し、外側(最外)に10本の素線(側素線)を配置して一度に撚り合わせ、こうして形成した束撚り3層構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施して製造したものである。
【0055】
いずれの場合も、螺旋状のくせは、供給される素線を軸芯として回転するくせ付け装置(特公昭63−63293号公報等記載のくせ付け装置)を用いて付与した。くせ形状は、くせ付けピンの間隔、くせ付けピンの寸法および、素線を軸芯として回転する回転数で調整した。
【0056】
また、螺旋状のくせを略二次元波状のくせに加工する押圧加工および、撚り線加工後の押圧加工は、複数個の自由回転するローラーを千鳥状に配置した周知の押圧加工装置で行った。ただし、押圧加工の手段はこれに限られるものではない。
【0057】
こうして製造した実施例のコードのゴム侵入性、低荷重伸びおよび撚り構造の安定性を従来例のコードと比較して評価した。
【0058】
ゴム侵入性は、各コードを2kgの引張荷重をかけた状態でゴム材中に埋め込み、加圧加硫した後コードを取り出し、そのコードを分解して一定長さを観察し、観察した長さに対するゴムと接触した形跡のある長さの比をパーセント表示して評価した。
【0059】
低荷重伸びは、5kg荷重負荷時の伸びをパーセント表示して評価した。
【0060】
また、撚り構造の安定性は、図5に示すように、コードCの半径とほぼ同等の深さの断面半円形の溝を設けた1対の挟み具31,32を上下に合わせてコードCを挟み、上側の挟み具31の上に錘33を載せて、その状態でコードCを一方向(矢印の方向)に連続的に引き抜いたときに、コードCの側素線が余って挟み具31,32の溝の入口側に素線がたまっていく量(余り量)がどれくらいあるかで評価した。余り量が無ければ、各層の素線群間同士が密接していることを意味する。
【0061】
従来例は、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にプラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、従来の1+5+11のクローズド構造のコード、1+5+11のオープン構造のコード、1+5+11で螺旋状のくせを有する素線を中間層に配置したコード、1×16のオープン構造のコード、1×16のクローズド構造のコード、1×16で螺旋状のくせを有する素線を中間層に配置したコードの6種類のコードを製造した。螺旋状のくせを設ける素線の数は、1+5+11構造のコード、1×16構造のコード共に、中間層に位置する5本の素線のうちの3本とした。
【0062】
評価の結果を表1に示す。
【表1】

表1から、実施例のコードは全ての評価で従来コードより優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態の1+5+11の3層撚り構造のスチールコードの断面図である。
【図2】本発明の実施形態の1×16の束撚り3層構造のスチールコードの断面図である。
【図3】本発明の実施形態における略正弦波状のくせのピッチおよび波高の説明図である。
【図4】本発明の実施形態における中間素線群の撚り構造の説明図である。
【図5】実施例のスチールコードの撚り構造の安定性を評価する方法の説明図である。
【図6】従来の1+6+12の3層オープン撚り構造のスチールコードの断面図である。
【図7】従来の1×24の束撚り構造で中間層の一部の素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているスチールコードの断面図である。
【図8】従来の1×24の束撚り構造で中間層の全ての素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているコードの断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10、20 コード(スチールコード)
11、21 芯素線
12、22 中間素線
13、23 側素線
14、24 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードであって、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、コード長手方向の略全ての箇所において、前記中間層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線が、中心層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触していることを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項2】
L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードであって、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、前記中間層を構成する素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項3】
L+M+N(L=1〜4、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造、または1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードであって、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中間層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、コード長手方向の略全ての箇所において、前記中間層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線が、中心層を構成する素線群の少なくともいずれか1本の素線に接触しているとともに、前記中間層を構成する素線群の素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中間層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことより得られたくせである請求項1、2または3記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である請求項1、2、3または4記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項6】
L+M+N(L=1〜4本、M=4〜9、N=8〜15)の3層撚り構造のスチールコードの製造方法であって、L本の素線を撚り合わせて中心層を構成する素線群とし、該中心層を構成する素線群の上に、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して得られた略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有するM本の素線を撚り合わせて中間層を構成する素線群とし、該中間層を構成する素線群の上に少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するようN本の素線を撚り合わせて外層を構成する素線群とし、こうして形成した3層撚り構造のスチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことを特徴とするゴム製品補強用スチールコードの製造方法。
【請求項7】
1×P(P=13〜27)の束撚り3層構造のスチールコードの製造方法であって、中間層を構成する素線群の全ての素線を、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して得られた略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有するものとし、該略二次元波状のくせを有する素線からなる中間層の素線群と中心層の素線群と外層の素線群の各素線を同一方向および同一ピッチで一度に撚り合わせて前記外層の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在する束撚り3層構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことを特徴とするゴム製品補強用スチールコードの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate