説明

ゴム製品補強用スチールコードおよびその製造方法

【課題】製造コストを低減でき、ゴム材侵入性が良好で、且つ、低荷重伸びが小さい2層構造のゴム製品補強用スチールコードを得る。
【解決手段】全ての芯素線11に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを設け、芯素線11と側素線12を一度に撚り合わせて束撚り2層構造とし、これにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施して、芯素線11同士がコード長手方向のいずれの箇所においても接触するとともにコード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触したコード10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用されるゴム製品補強用スチールコード(以下、単に「コード」ということもある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用される2層構造のゴム製品補強用スチールコードとしては、従来、1+6構造、3+9構造等の2層撚りで、複数本の素線を堅く撚り合わせて密着させた、いわゆるクローズド撚り構造のコードが一般的である。しかし、このクローズド撚りコードは、隣接する素線間に閉じられた空洞部が存在しており、コードを2枚のゴムシートの間に挟んで加熱圧縮して複合体シートを形成した時に、ゴム材が素線間の空洞部に侵入することはなくて、単にコードをゴムシートによって包み込んだだけの複合体となり、ゴム材がコード素線間の空洞部に完全に入り込んでゴムシートとコードとが一体化されたいわゆる完全な複合体にはならない。そのため、従来のクローズド撚りコードをゴムシートで挟んで圧縮した複合体シートを例えば自動車のタイヤに組み込むと、ゴム材とコードとの接着が不十分で、自動車の走行時にゴム材がコードから剥離する、いわゆるセパレーション現象を起こす可能性が大きく、また、ゴム材中に侵入した水分がコードの空洞部に達すると、その水分は空洞部を伝ってたちまちコードの長手方向に伝播してコードを腐食させ、その結果、そのコードの機械的強度を著しく低下させることになるという問題が有る。さらに、2層撚り構造のコードは、二度撚りであるため、製造コストが高くなるという問題もある。
【0003】
また、2層撚り構造で、外層を構成する素線群(「側素線群」という。)の素線(「側素線」という。)の本数を減らすことにより素線間に隙間を設けてゴム材の侵入を容易としたコードも知られている。しかし、このコードも、二度撚りである以上コスト高の問題は解消されない。
【0004】
また、製造コストを低減するために、側素線群の素線(側素線)と、中心層を構成する素線群(「芯素線群」という。)の素線(「芯素線」という。)を一度で撚り合わせて2層構造のコードとする技術も開発されている。この技術は、束撚りと呼ばれる。束撚り2層構造は通常「1×P」で表わされる。
【0005】
束撚り2層構造のコードは、一度撚りであるため製造コストを低減することができる。しかし、このコードは、隣り合う芯素線の間の窪みに側素線が入り込んで(落ち込み)、ゴム侵入路が塞がれ、芯素線と側素線の間の空間にゴム材が侵入しないという問題を有している。
【0006】
また、図5に示すように、2層構造のコード50で、芯素線群および外層素線群がそれぞれ所定数の素線51,52から成り、芯素線群の一部素線に撚り合わせのためのくせとは異なる小さな螺旋状のくせを有する(図示の例は、芯素線群の3本の素線51の内の1本に螺旋状のくせを設けた場合を示している。)ものとすることが提案されている。このコード50は、束撚りであるから製造コストを低減できる。しかも、螺旋状のくせを設けた素線(「螺旋素線」という)と螺旋状のくせを設けていない素線(「非螺旋素線」という)との間に外側と連通する隙間53ができてゴム材が侵入する。
【0007】
しかし、このように芯素線群の一部素線だけに螺旋状のくせを設けたコードは、非螺旋素線同士によって囲まれる箇所が閉じた空洞部54となり、そこにはゴムが侵入しない。
【0008】
そこで、図6に示すように、束撚り2層構造のコード60で、芯素線群および外層素線群がそれぞれ所定数の素線61,62から成るものにおいて、芯素線群の全ての素線61を螺旋素線とすることが考えられる(例えば、特許文献1参照。)。こうすることで、外側に連通する隙間63が拡大し、閉じた空洞部がなくなる。しかし、このように芯素線群の全ての素線61を螺旋素線とすると、コードの伸びが大きくなり、それが新たな問題となる。
【0009】
コードには、柔軟性を得るためにある程度の伸びは必要であるが、必要以上に伸びが大きいとタイヤの剛性を低下させてしまう。特に、近年スチール化がすすむタイヤのカーカス部に使用するコードでは、タイヤの走行安定性を低下させるため低荷重伸びの大きいコードは不適である。
【0010】
【特許文献1】実開平4−60590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、製造コストを低減でき、ゴム材侵入性が良好で、且つ、低荷重伸びが小さい2層構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造のスチールコードを、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中心層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、前記中心層を構成する素線群の隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中心層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するよう構成することにより解決することができる。
【0013】
このコードは、一度撚り構造であるので製造コストを低減できる。
そして、外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線)同士の間の隙間から侵入したゴム材が、中心層を構成する素線群(芯素線群)の撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有する素線(芯素線)と側素線と間にできた隙間に入り込む。しかも、このコードは、芯素線群の全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有するため、側素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0014】
さらに、このコードは、隣り合う芯素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して芯素線の撚り角と側素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことにより側素線が隣り合う芯素線の間の窪みに入り込むの(落ち込み)が防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0015】
そして、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有する隣り合う芯素線同士がコード長手方向において略パラレルに接触するものとなるため、クローズド撚りコードと同様にコードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0016】
上記構成のコードにおいて、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工することにより得られたくせであるのが好ましい。所望のくせ形状に歯型を加工した一対の歯車間に素線を通してもジグザク状に折り曲げられて成る小さなくせが得られるが、そうした手段でくせ付けした素線は、折り曲げられた箇所が折り曲げられない箇所より加工度が大きくなり、この加工度が大きい折り曲げ箇所に応力が残留し、これに外力による応力が加わることで折り曲げ箇所の応力が過大になって耐疲労性が低下する。それに対し、螺旋状のくせを施した後、押圧加工したことによって得られたくせは、どの箇所においても加工度が均等になるので、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなる。
【0017】
また、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)であるのが好ましい。ピッチP1が0.2Pcより小さいと、くせ付け時に過大な応力が作用する無理な塑性変形を伴うこととなって、素線が折れやすくなるとともに生産性が低下し、ピッチP1が0.5Pcより大きいと、引張力が均等に負荷されなくなって、中間素線群の撚りの安定性が悪くなると共に、耐疲労性が悪くなる。また、波高hが0.2dよりも小さいと、各素線間の隙間が小さくなりすぎて、流動性の良いゴム材を使用しても加圧加硫時にゴム材が内部へ充分に侵入できず、波高hが1.2dmmより大きいと、撚りの安定性が悪くなり耐疲労性が悪化する。なお、これら撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1および波高hの値は、コードから撚りをほぐして取り出した素線のものと一致する。
【0018】
本発明の1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造のゴム製品補強用スチールコードは、中心層を構成する素線群の全ての素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、該略二次元波状のくせを有する素線からなる中心層の素線群と外層の素線群とを同一方向および同一ピッチで一度に撚り合わせて前記外層の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在する束撚り2層構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより製造することができる。
【0019】
このように略二次元波状のくせを有する素線からなる中心層の素線群(芯素線群)と外層を構成する素線群(側素線群)とを一度に撚り合わせてなる束撚り2層構造のスチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより、中心層を構成する素線群の隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中心層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線(側素線)の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するコードとなる。
【0020】
この製造方法において、芯素線群の素線は、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状のくせを付けたものを一旦リール等に巻き取り、撚線機の繰り出し装置に所定本数分をセットして撚り合わせてもよいし、撚線機の繰り出し装置から撚り口までの間でくせ付け加工を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造コストを低減でき、ゴム材侵入性が良好で、且つ、低荷重伸びが小さい2層構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることができ、このコードを例えば自動車用タイヤの補強材として使用することにより、タイヤの寿命を大幅に延長することができる。また、このコードは、低荷重伸びが小さいため、近年スチール化が進むタイヤのカーカス部に使用することができる。
【0022】
また、このコードは、芯素線群の素線のくせを、螺旋状のくせを施した後押圧加工することにより得られたくせとすることで、加工度が均等となり、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなるようにすることができる。
【0023】
また、このコードは、撚りをほぐした後の素線の状態で、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)であるようにすることで、無理な塑性変形を避けるとともに生産性を高めることができ、また、芯素線群の耐疲労性が悪化しないようにすることができる。また、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせの波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)であるようにすることで、ゴム材が内部へ充分に侵入できるとともに耐疲労性が悪化しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態のゴム製品補強用スチールコード(以下、「スチールコード」あるいは、単に「コード」という。)を図面を参照して説明する。
【0025】
図1は1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造の実施形態の一例として、1×11構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0026】
図1に示すコード(スチールコード)10は、1×11の束撚り2層構造で、中心側に配置する3本の素線(芯素線11)の全てに螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、外側に8本の素線(側素線12)を配置して一度に撚り合わせ、こうして形成した束撚り2層構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0027】
このコード10は、外層を構成する素線群(側素線群)の少なくとも一部の素線(側素線12)同士の間に隙間13が存在するとともに、芯層を構成する素線群(芯素線群)の素線(芯素線11)の全てが、撚り合わせのためのくせとは別に略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この略二次元波状のくせは、素線(芯素線11)に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0028】
撚り合わせ前の素線の略正弦波状のくせは、図3に示すとおり、波の谷から谷までまたは山から山までの長さ(周期)P1を意味し、波高とは、波の谷から山までの高さ(振幅)hを意味する。そして、芯素線11の略二次元波状のくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。撚りピッチPcは通常8.0〜18.0mmである。
【0029】
そして、このコード10は、図4に示すように、芯素線群の素線(芯素線11)同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、芯素線11の撚り角αが0(ゼロ)で、図示しない外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線12)の撚り角(芯素線11の非パラレル部分での撚り角αと同じ)との差が大きくなっている。
【0030】
略正弦波状の小さなくせを有する複数本(図の例では3本)の芯素線11の外側に側素線12を配置して一度で撚り合わせてコードとし、このコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すと、複数本の芯素線11は、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図4に示すような撚り構造となるのである。
【0031】
このコード10は、一度撚り構造であるので製造コストを低減できる。
そして、外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線12)同士の間の隙間13から侵入したゴム材が、中心層を構成する素線群(芯素線群)の略二次元波状の小さなくせを有する素線(芯素線11)と側素線12と間にできた隙間14に入り込む。しかも、このコード10は、芯素線群の全ての素線(芯素線11)が略二次元波状の小さなくせを有するため、側素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0032】
さらに、このコード10は、略二次元波状のくせを有する芯素線11がコード長手方向において略パラレルに接触しているため、クローズド撚りコードと同様にコードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0033】
また、このコード10は、隣り合う芯素線11同士が略パラレルに接触して芯素線11の撚り角と側素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線12の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【0034】
図2は1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造の実施形態の他の例として、1×12構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0035】
図2に示すコード(スチールコード)20は、1×12の束撚り2層構造で、中心側に配置する3本の素線(芯素線21)の全てに螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、外側に9本の素線(側素線22)を配置して一度に撚り合わせ、こうして形成した束撚り2層構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0036】
このコード20は、外層を構成する素線群(側素線群)の少なくとも一部の素線(側素線22)同士の間に隙間23が存在するとともに、芯層を構成する素線群(芯素線群)の素線(芯素線21)の全てが、撚り合わせのためのくせとは別に略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この略二次元波状のくせは、素線(芯素線21)に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0037】
このコード20の場合も、撚り合わせ前の素線の略正弦波状のくせは、図3に示すとおり、図3に示すとおりピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。撚りピッチPcは通常8.0〜18.0mmである。
【0038】
また、このコード20も、図4に示すように、芯素線群の素線(芯素線21)同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、芯素線21の撚り角αが0(ゼロ)で、図示しない外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線22)の撚り角(芯素線21の非パラレル部分での撚り角αと同じ)との差が大きくなっている。
【0039】
略正弦波状の小さなくせを有する複数本(図の例では3本)の芯素線21の外側に側素線22を配置して一度で撚り合わせてコードとし、このコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すと、複数本の芯素線21は、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図4に示すような撚り構造となるのである。
【0040】
このコード20は、一度撚り構造であるので製造コストを低減できる。
そして、外層を構成する素線群(側素線群)の素線(側素線12)同士の間の隙間23から侵入したゴム材が、中心層を構成する素線群(芯素線群)の略二次元波状の小さなくせを有する素線(芯素線21)と側素線22と間にできた隙間24に入り込む。しかも、このコード10は、芯素線群の全ての素線(芯素線21)が略二次元波状の小さなくせを有するため、側素線群と芯素線群との間に閉じた空洞部は存在しないものとなる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0041】
さらに、このコード20は、略二次元波状のくせを有する芯素線21がコード長手方向において略パラレルに接触しているため、クローズド撚りコードと同様にコードの伸びが小さく、低荷重伸びを抑制できる。
【0042】
また、このコード20は、隣り合う芯素線21同士が略パラレルに接触して芯素線21の撚り角と側素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、撚り角が揃うことによる側素線22の落ち込みが防止されて、ゴム材侵入路が確保される。
【実施例】
【0043】
実施例として、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にブラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、中心側に3本の素線を、外側に8本の素線を配置した1×11(3/8と表現する場合もある)の束撚り2層構造と1×12(3/9と表現する場合もある)の束撚り2層構造の2種類のコードを製造した。
【0044】
これら実施例の1×11構造および1×12構造の束撚り2層構造のコードは、芯素線群となる3本の素線(芯素線)を、それぞれ螺旋状のくせを付けた後、押圧加工によって略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する素線に加工し、それら略正弦波状の小さなくせを有する芯素線と、外側に配置した側素線とを、同一方向、同一ピッチで一度に撚り合わせ、こうして形成した束撚り2層構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施して製造したものである。
【0045】
いずれの場合も、螺旋状のくせは、供給される素線を軸芯として回転するくせ付け装置(特公昭63−63293号公報等記載のくせ付け装置)を用いて付与した。くせ形状は、くせ付けピンの間隔、くせ付けピンの寸法および、素線を軸芯として回転する回転数で調整した。
【0046】
また、螺旋状のくせを略正弦波状のくせに加工する押圧加工および、撚り線加工後の押圧加工は、複数個の自由回転するローラーを千鳥状に配置した周知の押圧加工装置で行った。ただし、押圧加工の手段はこれに限られるものではない。
【0047】
こうして製造した実施例のコードのゴム侵入性、低荷重伸びおよび撚り構造の安定性を従来例のコードと比較して評価した。
【0048】
ゴム侵入性は、各コードを49Nの引張荷重をかけた状態でゴム材中に埋め込み、加圧加硫した後コードを取り出し、そのコードを分解して一定長さを観察し、観察した長さに対するゴムと接触した形跡のある長さの比をパーセント表示して評価した。
【0049】
低荷重伸びは、49N荷重負荷時の伸びをパーセント表示して評価した。
【0050】
従来例は、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にプラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、従来の1×11でクローズド構造のコードと、1×11で芯素線3本の内の2本が螺旋状のくせを有するコードと、1×12でクローズド構造のコードと、1×12で芯素線3本の内の2本が螺旋状のくせを有するコードの4種類のコードを製造した。
【0051】
評価の結果を表1に示す。
【表1】

表1から、実施例のコードは全ての評価で従来コードより優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態の1×11の束撚り2層構造のスチールコードの断面図である。
【図2】本発明の実施形態の1×12の束撚り2層構造のスチールコードの断面図である。
【図3】本発明の実施形態における略正弦波状のくせのピッチおよび波高の説明図である。
【図4】本発明の実施形態における中間素線群の撚り構造の説明図である。
【図5】従来の1×12の束撚り2層構造で芯素線群の1本の素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているスチールコードの断面図である。
【図6】従来の1×12の束撚り2層構造で芯素線群の全ての素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているコードの断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10、20 コード(スチールコード)
11、21 芯素線
12、22 側素線
13、23 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造のスチールコードであって、外層を構成する素線群の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在するとともに、中心層を構成する素線群の全ての素線が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有し、かつ、前記中心層を構成する素線群の隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触して該中心層を構成する素線群の素線の撚り角と外層を構成する素線群の素線の撚り角との差が大きくなる箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項2】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせである請求項1記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項3】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜1.2d(但し、dは素線径)である請求項1または2記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項4】
1×P(P=7〜14)の束撚り2層構造のスチールコードの製造方法であって、中心層を構成する素線群の全ての素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、該略二次元波状のくせを有する素線からなる中心層の素線群と外層の素線群とを同一方向および同一ピッチで一度に撚り合わせて前記外層の少なくとも一部の素線同士の間に隙間が存在する束撚り2層構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことを特徴とするゴム製品補強用スチールコードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255499(P2008−255499A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95541(P2007−95541)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000110147)トクセン工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】