説明

ゴム部材の製造装置及び製造方法

【課題】長尺な未加硫ゴムの成形品の加硫に必要なスペースを短くする。
【解決手段】ゴム部材の製造装置1は、長尺な成形品92を加硫してゴム部材90を製造する。移動手段6は、成形品92を長手方向に移動させる。Uターン手段7は、成形品92の移動方向Mを変更して成形品92をUターンさせる。加硫装置10は、Uターン前とUターン後の成形品92がそれぞれ通過する前加硫缶11と後加硫缶12を有する。加硫装置10は、両加硫缶11、12の内部を含む加硫空間19を移動する成形品92を加硫する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺な未加硫ゴムの成形品を加硫してゴム部材を製造するゴム部材の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺なゴム部材を製造するときには、一般に、未加硫ゴムにより長尺な成形品を成形する。成形品を、加熱流体(例えば、飽和水蒸気、熱風、又は、温水)により加熱する。成形品を加熱により加硫して、ゴム部材を製造する。このゴム部材の製造装置として、従来、押出機と加硫装置を直線状に配置した装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図4は、このような従来のゴム部材の製造装置の例を示す断面図である。
従来のゴム部材の製造装置100では、図示のように、押出機101、加硫装置102、及び、封止装置103が直線状に配置されている。ゴム部材90の製造時には、スチールコード104を製造装置100の内部を移動させる。押出機101は、未加硫ゴム91を押し出して、スチールコード104の周りに成形品92を連続して成形する。加硫装置102は、筒状の加硫缶105内で水蒸気により成形品92を加硫する。封止装置103は、加硫缶105の出口を水により封止する。ゴム部材90は、成形品92を連続して加硫することで製造される。
【0004】
ここで、成形品92を加硫するための温度と時間の関係は、未加硫ゴム91の種類毎に決まっている。未加硫ゴム91の種類と加硫温度に対応して、成形品92の加硫時間が決定される。この加硫時間を確保するため、加硫缶105が短いときには、成形品92の移動速度を遅くする必要がある。ところが、成形品92の移動速度を遅くすると、ゴム部材90の生産性が低くなる。成形品92の移動速度を速くすることで、ゴム部材90の生産性は高くなる。しかしながら、この場合には、成形品92の加硫時間を確保するため、加硫缶105を長くする必要がある。その結果、設備に投資する費用が高くなるとともに、ゴム部材の製造装置100を設置するスペースが広くなる。
【0005】
設置スペースの制約により、加硫缶105を長くすることで、ゴム部材90の生産性を向上させるのは難しい。また、加硫缶105を水平方向に長くしたときには、加硫中の成形品92が、自重によりたるむことがある。これに対し、従来、ゴム部材90であるゴムホースを、湾曲させた加硫缶内を通過させる製造装置が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
図5は、このような従来のゴム部材の製造装置の例を示す断面図である。
従来のゴム部材の製造装置110では、図示のように、押出機111と加硫装置112が直線状に配置されている。押出機111は、未加硫ゴム91を押し出して、マンドレル113の周りに成形品92を成形する。加硫装置112は、筒状の加硫缶114内で水蒸気により成形品92を加硫する。加硫缶114は、成形品92のたるみ曲線(懸垂曲線)に合わせて形成される。成形品92の実際のたるみは、加硫缶114の測定窓115から測定する。たるみの測定結果に基づいて、成形品92のたるみが適正になるように、成形品92の張力を調整する。
【0007】
成形品92の張力は、調整装置(図示せず)により調整される。調整装置は、押出機111と加硫装置112の前後に設けられる。そのため、従来のゴム部材の製造装置110では、設置スペースが長くなる傾向がある。加硫缶114を長くしてゴム部材90の生産性を高くするときには、製造装置110の設置スペースが更に長くなる。また、加硫缶114の湾曲に対応して、加硫缶114の両端部を、床面よりも高い位置に配置する。加硫缶114が長くなるほど、加硫缶114の両端部の位置が高くなる。その結果、高いスペースが必要になる。床面と高所の間を昇降して作業する必要があるため、作業性が低下することもある。
【0008】
なお、成形品92の加硫温度を高くすると、成形品92に要求される加硫時間が短くなる。その結果、加硫缶が長くなるのを抑制しつつ、ゴム部材90の生産性を向上できる。ゴム部材90を製造するときの作業性の低下も抑制できる。ただし、例えば、飽和水蒸気により成形品92を加硫するときには、180℃付近が実用的な上限温度である。従って、加硫温度のみにより、生産性と作業性を向上させるのには限界がある。以上の問題に対処するため、ゴム部材の製造に関して、省スペース化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−187879号公報
【特許文献2】特開2010−158852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、長尺なゴム部材を製造するときに、未加硫ゴム成形品の加硫に必要なスペースを短くして、省スペース化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、未加硫ゴムにより成形した長尺な成形品を加硫してゴム部材を製造するゴム部材の製造装置であって、成形品を長手方向に移動させる移動手段と、成形品の移動方向を変更して加硫中の成形品をUターンさせるUターン手段と、Uターン前とUターン後の成形品がそれぞれ通過する前加硫缶と後加硫缶を有し、両加硫缶の内部を含む加硫空間を移動する成形品を加硫する加硫装置と、を備えたゴム部材の製造装置である。
また、本発明は、未加硫ゴムにより成形した長尺な成形品を加硫してゴム部材を製造するゴム部材の製造方法であって、成形品を長手方向に移動させる工程と、成形品を移動中に加硫する工程と、成形品の移動方向を変更して加硫中の成形品をUターンさせる工程と、を有するゴム部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長尺なゴム部材を製造するときに、未加硫ゴム成形品の加硫に必要なスペースを短くして、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のゴム部材の断面図である。
【図2】本実施形態のゴム部材の製造装置を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の加硫装置について説明するための図である。
【図4】従来のゴム部材の製造装置の例を示す断面図である。
【図5】従来のゴム部材の製造装置の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のゴム部材の製造装置及び製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のゴム部材の製造装置及び製造方法では、未加硫ゴムにより成形した長尺な成形品を加硫する。これにより、長尺なゴム部材を製造する。
【0015】
なお、成形品は、未加硫ゴムのみにより成形した長尺部材でもよく、未加硫ゴムと他の部材により成形した長尺部材でもよい。ゴム部材も、ゴムのみからなる長尺部材でもよく、ゴムと他の部材からなる長尺部材でもよい。ゴム部材は、例えば、ゴムホース、ゴム被覆電線、又は、ゴムホース製造用のマンドレルである。以下では、ゴムホースを製造する例を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のゴム部材の断面図である。図1では、ゴム部材の長手方向の一部を示している。
ゴム部材(ここでは、ゴムホース)90は、図示のように、長尺な芯部材93の外周に形成される。芯部材93は、芯金を有するマンドレルである。ゴム部材90は、補強層94と被覆ゴム95を有する。補強層94は、線材(例えば、繊維やワイヤ)を編んだ筒状部材からなる。被覆ゴム95は、補強層94に被覆された未加硫ゴムからなる。未加硫ゴムを加硫することで、ゴム部材90の外周に加硫済みの被覆ゴム95が形成される。
【0017】
ゴム部材90の製造時には、補強層94を、芯部材93の外周に予め配置する。補強層94に未加硫ゴムを被覆して、芯部材93に成形品を形成する。成形品を加硫することで、ゴム部材90が製造される。その後、芯部材93が、ゴム部材90内から抜き出される。
【0018】
図2は、本実施形態のゴム部材の製造装置(以下、単に製造装置という)を示す斜視図である。図2では、製造装置の要部を示している。
製造装置1は、図示のように、芯部材93の送出装置2と、押出機3と、加硫装置10と、ゴム部材90の巻取装置4と、制御装置5を備えている。制御装置5は、製造装置1の全体を制御して、製造装置1にゴム部材90の製造のための動作を実行させる。
【0019】
送出装置2は、ドラム2Aと、2つの回転ロール2B、2Cと、駆動装置(図示せず)を有する。芯部材93は、ドラム2Aに巻き付けられている。芯部材93には、補強層94(図2では図示せず)が配置されている。芯部材93は、2つの回転ロール2B、2Cに巻き付けられる。駆動装置は、モータにより回転ロール2B、2Cを回転させる。回転ロール2B、2Cの回転により、芯部材93が、ドラム2Aから引き出されて長手方向に移動する。送出装置2は、芯部材93を押出機3へ向かって送り出す。
【0020】
押出機3は、未加硫ゴムを押し出す本体部3Aと、本体部3Aの先端に取り付けられた押出ヘッド3Bを有する。芯部材93は、押出ヘッド3Bを貫通する。芯部材93の移動中に、押出機3は、押出ヘッド3B内に未加硫ゴムを押し出す。未加硫ゴムは、芯部材93の周りに被覆されながら、押出ヘッド3Bにより所定の断面形状に成形される。押出機3は、芯部材93に未加硫ゴムを押出成形して、成形品92を連続して成形する。成形品92は、管状に成形される。成形品92を加硫装置10により加硫して、ゴム部材90が製造される。
【0021】
巻取装置4は、ドラム4Aと、2つの回転ロール4B、4Cと、駆動装置(図示せず)を有する。芯部材93が入ったゴム部材90は、2つの回転ロール4B、4Cに巻き付けられる。駆動装置は、モータにより回転ロール4B、4C及びドラム4Aを回転させる。回転ロール4B、4Cの回転により、ゴム部材90が長手方向に移動する。ゴム部材90は、回転するドラム4Aに巻き取られる。
【0022】
送出装置2と巻取装置4は、芯部材93、成形品92、及び、ゴム部材90を一体に移動させる移動手段6である。移動手段6は、芯部材93、成形品92、及び、ゴム部材90を長手方向に所定速度で移動させる。芯部材93、成形品92、及び、ゴム部材90は、移動手段6により、製造装置1内で所定の移動方向Mに移動する。移動手段6は、回転ロール2B、2C、4B、4Cにより、芯部材93、成形品92、及び、ゴム部材90に張力を付加するとともに、張力を調整する。成形品92は、移動手段6により、移動方向Mに移動して加硫装置10内を通過する。
【0023】
図3は、本実施形態の加硫装置10について説明するための図である。図3では、図2の矢印X方向から見た製造装置1の概略構成を示している。また、加硫装置10の構造を模式的に示している。
加硫装置10は、図2、図3に示すように、一対の加硫缶11、12と、中間容器13と、2つの封止装置20と、2つの排水装置30と、循環装置40を有する。一対の加硫缶11、12(図3では、加硫缶12のみ示す)は、同様の構造になっている。加硫装置10は、循環装置40により加熱気体Gを循環させて、成形品92を加硫する。
【0024】
中間容器13は、加硫装置10の中間に設けられた円盤状の圧力容器からなる。また、中間容器13は、成形品92が通過可能な加硫缶である。中間容器13は、台14上に固定されており、製造装置1内で最も高所に位置する。中間容器13には、開閉可能な蓋15が設けられている。蓋15は、例えばクラッチドアである。蓋15を開くことで、中間容器13が開放される。蓋15を閉めることで、中間容器13が密閉される。中間容器13内には、回転ドラム16(図3参照)が収容されている。回転ドラム16は、中間容器13内に回転自在に取り付けられている。回転ドラム16は、成形品92をUターンさせるためのドラム(Uターンドラム)である。
【0025】
製造装置1は、加硫装置10内に、回転ドラム16からなるUターン手段7を備えている。成形品92は、回転ドラム16に架けられる。回転ドラム16は、成形品92の移動に合わせて回転する。Uターン手段7は、回転ドラム16により、成形品92の移動方向Mを180°変更する。Uターン手段7は、成形品92の移動方向Mを変更して、加硫中の成形品92をUターンさせる。成形品92をUターンさせるため、製造装置1と加硫装置10が、Uターンする構造になっている。送出装置2と巻取装置4は、隣り合うように配置される。成形品92は、製造装置1内で、Uターンする移動経路に沿って移動する。
【0026】
成形品92は、入口17から加硫装置10内に入り、加硫装置10内でUターン手段7へ向かって移動する。Uターン手段7は、成形品92の加硫中に、成形品92をUターンさせる。成形品92は、中間容器13内でUターンして、加硫装置10内を出口18へ向かって移動する。成形品92は、加硫装置10の隣り合う入口17と出口18の間をUターンして移動する。
【0027】
一対の加硫缶11、12は、筒状の圧力容器であり、並列して配置されている。一対の加硫缶11、12は、成形品92が連続して通過できるように、中間容器13を介して連結されている。一方の加硫缶11は、Uターン前の成形品92が通過する前加硫缶である。他方の加硫缶12は、Uターン後の成形品92が通過する後加硫缶である。加硫装置10は、両加硫缶11、12の内部を含む密閉された加硫空間19を有する。加硫空間19は、成形品92が通過するUターン加硫部である。前加硫缶11と後加硫缶12は、中間容器13に接続される。加硫空間19は、加硫缶11、12の内部空間と、中間容器13の内部空間からなる。加硫装置10は、加硫空間19を移動する成形品92を加熱して加硫する。
【0028】
前加硫缶11と後加硫缶12は、高所に設けられた中間容器13(Uターン手段7)に向かって傾斜して配置されている。加硫缶11、12の位置は、Uターン手段7に向かって徐々に高くなる。また、加硫缶11、12は、成形品92のたるみ曲線に合わせて湾曲するように形成されている。成形品92のたるみ曲線は、Uターン前後の成形品92のたるみを表す曲線である。たるみ曲線は、成形品92に関する所定の条件に基づいて算出される。この所定の条件は、例えば、Uターン前後の成形品92の長さ、成形品92の単位長さ当たりの質量、成形品92の移動経路、成形品92に付加される張力である。加硫缶11、12は、それぞれの内部を通過する成形品92のたるみ曲線に合わせて配置される。
【0029】
成形品92の加硫反応は、成形品92が加硫空間19を移動する間に次第に進行する。Uターン前後の加硫空間19の長さは、成形品92の加硫反応の進行度合いに応じて設定される。この加硫装置10では、Uターン前の加硫空間19の長さは、加硫空間19の全長の40%以上60%以下の長さである。Uターン前の加硫空間19の長さは、Uターン前の成形品92に沿う加硫空間19の長さである。加硫空間19の全長は、Uターンする加硫空間19の成形品92に沿う全長である。即ち、加硫空間19の全長は、Uターン前、Uターン中、及び、Uターン後の成形品92に沿う加硫空間19の長さである。
【0030】
Uターン前に、成形品92の加硫反応は、半分程度(ここでは、40%以上60%以下)進行する。その時点で、成形品92を加硫空間19内でUターンさせる。Uターン中及びUターン後の成形品92が加硫空間19を移動する間に、成形品92の残りの加硫反応を進行させる。
【0031】
加硫を開始する前の成形品92(未加硫品)の加硫度を0%とし、加硫が完了した成形品92(加硫済み品)の加硫度を100%とする。成形品92がUターンするときに、成形品92の加硫度は、40%以上60%以下になる。成形品92の加硫度が40%に達すると、成形品92の外形と寸法がほぼ固まる。それ以降は、成形品92の外形と寸法が安定する。極端な力を成形品92に加えなければ、成形品92を変形させても、成形品92に変形の跡が残ることはない。ここでは、成形品92の加硫度が40%以上になってから、成形品92をUターンさせる。これにより、Uターンによる変形の跡が成形品92に残るのを防止する。
【0032】
前加硫缶11と後加硫缶12は、Uターン前後の成形品92の長さに応じた長さに形成される。ここでは、加硫缶11、12は、同じ長さに形成されている。前加硫缶11の先端部(入口17側の端部)と後加硫缶12の先端部(出口18側の端部)は、隣り合うように配置される。循環装置40は、前加硫缶11と後加硫缶12の隣り合う先端部に接続される。循環装置40は、成形品92を加熱する加熱気体Gを加硫空間19内で循環させる。その際、循環装置40は、加熱気体Gとして水蒸気(過熱水蒸気)を循環させる。
【0033】
循環装置40は、バイパス管41と、送風機42と、水蒸気の供給装置43と、加熱装置44を有する。バイパス管41は、前加硫缶11と後加硫缶12の先端部に接続され、加硫缶11、12の先端部を繋ぐ。循環装置40は、バイパス管41により、加硫缶11、12に接続される。送風機42は、過熱水蒸気を後加硫缶12の先端部に送り出す。過熱水蒸気は、後加硫缶12の先端部から加硫空間19内に入り、中間容器13を経由して、前加硫缶11の先端部まで移動する。過熱水蒸気は、中間容器13でUターンして、前加硫缶11の先端部から循環装置40に戻る。
【0034】
循環装置40は、送風機42により、過熱水蒸気を加硫空間19内で循環させる。その際、過熱水蒸気を、成形品92の移動方向Mの反対方向に循環させる。過熱水蒸気は、加硫缶11、12内と中間容器13内を通って循環する。過熱水蒸気は、加硫空間19を循環しつつ、熱エネルギーを成形品92に伝達する。加硫装置10は、過熱水蒸気により、Uターン前からUターン後までの成形品92を移動中に加硫する。
【0035】
供給装置43は、バイパス管41に接続されている。供給装置43は、飽和水蒸気を循環装置40に供給する。飽和水蒸気は、供給源(例えば、ボイラー)(図示せず)から供給される。開閉弁43Aを開くことで、飽和水蒸気が、循環装置40に供給される。開閉弁43Aは、制御装置5により制御されて開閉する。飽和水蒸気は、成形品92の加硫を開始する前に循環装置40に供給される。また、飽和水蒸気は、加硫空間19内の圧力に応じて補給される。
【0036】
加熱装置44は、加硫空間19に循環させる加熱気体G(水蒸気)を加熱する。加熱装置44は、例えば、高周波加熱器、又は、電気ヒータからなる。循環装置40は、加熱装置44により、加硫空間19から戻った水蒸気を加熱する。水蒸気は、所定温度の過熱水蒸気になり、加硫空間19に吹き込まれる。水蒸気の温度が飽和温度以下の温度であるときには、水蒸気は、飽和温度から更に加熱されて過熱水蒸気になる。
【0037】
後加硫缶12には、温度測定装置50と圧力測定装置51が取り付けられている。温度測定装置50は、加硫空間19内の温度を測定する温度センサからなる。圧力測定装置51は、加硫空間19内の圧力を測定する圧力センサからなる。温度測定装置50と圧力測定装置51は、測定結果を制御装置5へ出力する。制御装置5は、温度の測定結果に基づいて、循環装置40を制御する。循環装置40の加熱装置44が、制御装置5により制御されて、水蒸気を所定温度に加熱する。これにより、制御装置5は、加硫空間19内の温度を調整する。また、制御装置5は、圧力の測定結果に基づいて、循環装置40を制御する。循環装置40の供給装置43が、制御装置5により制御されて、飽和水蒸気を供給する。これにより、制御装置5は、加硫空間19内の圧力を所定圧力(ここでは、大気圧以上の圧力)に調整する。
【0038】
加硫缶11、12の先端部は、封止装置20により封止される。この封止装置20では、加硫缶11、12に取り付けられた充填部21に水を充填する。充填部21の水により、加硫缶11、12(加硫空間19)を封止する。成形品92とゴム部材90は、充填部21を貫通して移動する。加硫空間19内の水蒸気が充填部21の水により遮られるため、水蒸気が加硫装置10外へ漏れることはない。充填部21から出た水は、容器22に溜められる。水は、ポンプ23により、供給管24を通して充填部21へ供給される。
【0039】
水蒸気が凝縮することで、凝縮水(いわゆるドレン)が加硫空間19内に溜まる。凝縮水は、排水装置30により、加硫装置10外へ自動で排水される。排水装置30は、加硫缶11、12の最も低い部分に接続される。即ち、排水装置30は、加硫缶11、12の先端部の底部にそれぞれ接続されている。加硫空間19内の凝縮水は、加硫缶11、12内を下方に向かって流れる。排水装置30は、加硫缶11、12に接続された排水管31から凝縮水を排水する。排水管31の途中には、スチームトラップ32が設けられている。水蒸気は、スチームトラップ32により遮られる。凝縮水のみが、排水管31を通って排水される。
【0040】
次に、製造装置1によるゴム部材90の製造手順について説明する。
まず、送出装置2により、芯部材93を連続して送り出す。押出機3により未加硫ゴムを押出成形して、芯部材93に成形品92を成形する。成形品92を、移動手段6により長手方向に移動させて、加硫装置10の加硫空間19内を通過させる。加硫装置10により、成形品92を移動中に加硫する。その際、循環装置40により、過熱水蒸気を成形品92の移動方向Mの反対方向に循環させる。成形品92を過熱水蒸気により加熱して加硫する。また、Uターン手段7により、成形品92の移動方向Mを変更して、加硫中の成形品92をUターンさせる。成形品92を連続して加硫して、長尺なゴム部材90を製造する。ゴム部材90は、巻取装置4により巻き取る。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、ゴム部材90を製造するときに、成形品92をUターンさせて加硫する。そのため、加硫装置10のスペースと、成形品92の加硫に必要なスペースを短くできる。また、製造装置1のスペースと、ゴム部材90の製造のためのスペースを削減できるため、省スペース化を図ることができる。製造装置1の設置スペースに制約があるときでも、設置スペース内で、加硫空間19を長くできる。加硫空間19の長さに応じて、成形品92の移動速度を速くできるため、ゴム部材90の生産性を向上させることができる。
【0042】
過熱水蒸気を循環装置40により循環させつつ加熱装置44により加熱するため、加熱の無駄を削減できる。過熱水蒸気を成形品92の移動方向Mの反対方向に循環させることで、過熱水蒸気に対する成形品92の相対速度が速くなる。これにより、成形品92の周りに断熱層が形成されるのを抑制できる。過熱水蒸気から成形品92へ熱が効率的に伝達されるため、成形品92への熱伝達率も高くなる。その結果、成形品92の加硫時間を短縮できるため、ゴム部材90の生産性を向上できる。或いは、製造装置1の設置スペースを削減できる。循環装置40を加硫缶11、12の隣り合う先端部に接続するときには、循環装置40が短くなる。これに伴い、長いリターンダクトが不要となり、水蒸気の熱と圧力のロスを削減できる。
【0043】
加硫缶11、12を成形品92のたるみ曲線に合わせて配置するため、加硫缶11、12と成形品92の接触を防止できる。成形品92を受けるためのローラを、加硫缶11、12内に設ける必要もない。成形品92の加硫開始直後の温度上昇時には、未加硫ゴムの硬度が極度に低下する。成形品92は軟化する。その際、成形品92が異物と接触すると、成形品92に傷がつく虞がある。これに対し、本実施形態では、成形品92に傷がつくのを抑制できる。
【0044】
加硫缶11、12をUターン手段7に向かって傾斜させることで、Uターン手段7側でのみ、加硫装置10を高所に配置すればよい。未加硫ゴムを押出機3へ供給する作業を低所(例えば、床面)で行えるため、未加硫ゴムの供給作業がし易くなる。加硫前の成形品92とゴム部材90に対する作業も低所で行えるため、ゴム部材90を製造するときの作業性を向上させることができる。加硫缶11、12の最も低い部分で排水することで、凝縮水を確実に排水できる。
【0045】
Uターン前の加硫空間19の長さが加硫空間19の全長の40%未満の長さであるときには、Uターンによる変形の跡が成形品92に残る虞がある。Uターン前の加硫空間19の長さが加硫空間19の全長の60%を超える長さであるときには、上記した省スペース化の効果が小さくなる。従って、Uターン前の加硫空間19の長さは、加硫空間19の全長の40%以上60%以下の長さにするのが好ましい。即ち、成形品92の加硫度が40%以上60%以下のときに、成形品92のUターンを開始するのが好ましい。このようにすることで、成形品92の外形と寸法の精度を高くできるとともに、成形品92の加硫に必要なスペースを確実に短くできる。
【0046】
なお、加熱気体Gは、過熱水蒸気以外の加熱された気体であってもよい。例えば、加熱気体Gは、飽和水蒸気、又は、水以外の物体からなる蒸気でもよい。ただし、飽和水蒸気の温度と圧力は、常に飽和水蒸気曲線にしたがって変化する。例えば、飽和水蒸気の温度は、大気圧では100℃、2気圧では120℃になる。飽和水蒸気を使用する加硫缶では、実用的な飽和水蒸気の上限温度は、比較的作製し易い加硫缶の上限圧力に対応する180℃前後になる。ところが、成形品92の加硫温度を、より高くしたいときがある。また、成形品92の加硫圧力は低く維持して、加硫温度だけを高くしたいときがある。
【0047】
これに対し、加熱気体Gが過熱水蒸気であるときには、成形品92の加硫温度を、飽和水蒸気よりも高くできる。また、成形品92の加硫圧力を低く維持して、加硫温度だけを高くできる。その結果、成形品92の加硫時間を短くできる。加硫空間19が長くなるのを抑制しつつ、ゴム部材90の生産性を向上することもできる。加硫圧力は大気圧以上であればよいため、飽和水蒸気のような加硫圧力の制約を受けることがない。加硫圧力を低く維持することで、安全性も高くなる。
【0048】
成形品92は、上記したように、押出機3による成形に続けて加硫してもよい。また、成形後の成形品92を、常温まで冷却してから加硫装置10により加硫してもよい。この場合には、成形品92は、加硫装置10とは別の場所で成形される。成形品92は、冷却後にドラムに巻き取る。ドラムから成形品92を加硫装置10に供給して、成形品92を加硫する。
【0049】
加熱装置44には、高周波加熱器を用いるのが好ましい。高周波加熱器を用いることで、水蒸気を加熱する温度を素早く変更できる。そのため、成形品92の移動速度が変化したときに、過熱水蒸気の温度を、成形品92の加硫に最適な温度に瞬時に変更できる。これにより、ゴム部材90の品質を一定に維持できる。
【0050】
Uターン手段7の回転ドラム16は、駆動装置により、成形品92の移動に合わせて回転させてもよい。駆動装置は、中間容器13の外部に設けられたモータにより、中間容器13内で回転ドラム16を回転させる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・ゴム部材の製造装置、2・・・送出装置、3・・・押出機、4・・・巻取装置、5・・・制御装置、6・・・移動手段、7・・・Uターン手段、10・・・加硫装置、11・・・前加硫缶、12・・・後加硫缶、13・・・中間容器、14・・・台、15・・・蓋、16・・・回転ドラム、17・・・入口、18・・・出口、19・・・加硫空間、20・・・封止装置、21・・・充填部、22・・・容器、23・・・ポンプ、24・・・供給管、30・・・排水装置、31・・・排水管、32・・・スチームトラップ、40・・・循環装置、41・・・バイパス管、42・・・送風機、43・・・供給装置、44・・・加熱装置、50・・・温度測定装置、51・・・圧力測定装置、90・・・ゴム部材、92・・・成形品、93・・・芯部材、94・・・補強層、95・・・被覆ゴム、G・・・加熱気体、M・・・移動方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムにより成形した長尺な成形品を加硫してゴム部材を製造するゴム部材の製造装置であって、
成形品を長手方向に移動させる移動手段と、
成形品の移動方向を変更して加硫中の成形品をUターンさせるUターン手段と、
Uターン前とUターン後の成形品がそれぞれ通過する前加硫缶と後加硫缶を有し、両加硫缶の内部を含む加硫空間を移動する成形品を加硫する加硫装置と、
を備えたゴム部材の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム部材の製造装置において、
加硫装置が、成形品を加熱する加熱気体を加硫空間内で循環させる循環装置と、加熱気体を加熱する加熱装置と、を有するゴム部材の製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたゴム部材の製造装置において、
循環装置が、加熱気体を成形品の移動方向の反対方向に循環させるゴム部材の製造装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたゴム部材の製造装置において、
加熱気体が、過熱水蒸気であるゴム部材の製造装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載されたゴム部材の製造装置において、
前加硫缶と後加硫缶が、並列して配置され、
循環装置が、前加硫缶と後加硫缶の隣り合う先端部に接続されたゴム部材の製造装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたゴム部材の製造装置において、
前加硫缶と後加硫缶が、高所に設けられたUターン手段に向かって傾斜して、かつ、成形品のたるみ曲線に合わせて配置されたゴム部材の製造装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載されたゴム部材の製造装置において、
Uターン前の成形品に沿う加硫空間の長さが、加硫空間の成形品に沿う全長の40%以上60%以下の長さであるゴム部材の製造装置。
【請求項8】
未加硫ゴムにより成形した長尺な成形品を加硫してゴム部材を製造するゴム部材の製造方法であって、
成形品を長手方向に移動させる工程と、
成形品を移動中に加硫する工程と、
成形品の移動方向を変更して加硫中の成形品をUターンさせる工程と、
を有するゴム部材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載されたゴム部材の製造方法において、
前記加硫する工程が、加熱気体を成形品の移動方向の反対方向に循環させて、成形品を加熱する工程を有するゴム部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103436(P2013−103436A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249675(P2011−249675)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】