説明

ゴルフクラブの設計方法及びゴルフクラブ

【課題】安定性に優れるゴルフクラブ及びその設計方法の提供。
【解決手段】本発明の設計方法は、ゴルフスイングを実測して測定結果を得るステップと、上記測定結果に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデルを得るステップと、上記スイングモデルを用いて、ゴルフクラブをスイングさせるシミュレーションを行うステップと、上記シミュレーションの結果に基づいて、スイング中の特定の局面におけるヘッド情報を得るステップとを含む。この設計方法では、上記ゴルフクラブのスペック及び/又は上記スイングモデルを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得て、これらのヘッド情報の間の差を用いて安定性が評価される。この設計方法により、ヘッドの左右慣性モーメントが大きく且つヘッドの重心深度が小さいことが安定性に寄与すると判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブの設計方法及びゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブの開発において、飛距離の増大、ゴルファーとゴルフクラブのマッチング等が着目されている。シミュレーションを用いた研究もなされている。
【0003】
特開2004−242855号公報では、実測値に基づいて肩関節に作用するトルクが測定され、このトルクを用いて、スイングのシミュレーションがなされている。このシミュレーションにより、スイング時におけるゴルフクラブの挙動が精度良く解析されうる。
【0004】
特開2009−5760号公報では、スイング中においてゴルファーからゴルフクラブに付与されるトルクが時系列的に解析され、この解析が、スイング診断、クラブ選定及びクラブ設計に適用されている。この解析では、リンクモデルが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−242855号公報
【特許文献2】特開2009−5760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熟練したゴルファーであっても、常に完璧なショットを行うことは困難である。ゴルファーは、安定したスイングを得るため、練習する。
【0007】
一方、ゴルフクラブによって打球結果を安定させることができれば好ましい。
【0008】
ヘッドの重心(スイートスポット)を外れた位置で打撃した時の、打球の左右方向のブレを抑制する観点から、左右慣性モーメントを大きくする技術が知られている。特開2007−307353公報は、左右慣性モーメントが大きなパターを開示する。このパターは、後方に長く延在している。このパターでは、ヘッドの後方に多くの重量を配分させている。
【0009】
本発明者は、安定した結果が得られるゴルフクラブについて検討した。その結果、シミュレーションにより安定性の高いゴルフクラブを推定するという、新たな技術思想に想到した。
【0010】
本発明の目的は、シミュレーションを用いた、安定性の高いゴルフクラブの設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
設計方法に係る本発明は、ゴルフスイングを実測して測定結果を得るステップと、上記測定結果に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデルを得るステップと、上記スイングモデルを用いて、ゴルフクラブをスイングさせるシミュレーションを行うステップと、上記シミュレーションの結果に基づいて、スイング中の特定の局面におけるヘッド情報を得るステップとを含む。上記リンクモデルは、スイング主体の一部に対応するリンクと、ゴルフクラブの少なくとも一部に対応するリンクとを含む。この設計方法では、上記ゴルフクラブのスペック及び/又は上記スイングモデルを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得て、これらのヘッド情報に基づき安定性が評価される。
【0012】
上記ゴルフクラブのスペックを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得て、これらのヘッド情報の差を上記スペックの差で除して得られる感度に基づいて上記安定性が評価されてもよい。
【0013】
好ましくは、上記スイング主体の一部が、人体の首部から手部までである。
【0014】
好ましくは、上記ヘッド情報が、ヘッド速度、ヘッド軌道、打点又はフェース角度である。好ましくは、上記特定の局面が、インパクトの直前である。
【0015】
好ましくは、上記スペックが、ヘッド重心位置及び/又はヘッドの慣性モーメントである。
【0016】
ゴルフクラブに係る本発明は、上記のいずれかの設計方法によって設計される。
【0017】
好ましいゴルフクラブでは、上記設計方法によって、ヘッド重心位置及び/又はヘッドの慣性モーメントが設計される。
【0018】
好ましくは、上記ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上であり、上記ヘッドの重心深度が18mm以下である。
【0019】
ゴルフクラブに係る他の本発明は、ヘッドとシャフトとグリップとを有し、上記ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上であり、上記ヘッドの重心深度が18mm以下である。好ましくは、このゴルフクラブは、パター用ゴルフクラブである。
【発明の効果】
【0020】
シミュレーションにより、安定性の高いゴルフクラブを推定できる。安定性の高いゴルフクラブが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る計測の様子が示された図である。
【図2】図2は、リンクモデルの一例を説明するための図である。
【図3】図3は、リンクモデルの一例を説明するための図である。
【図4】図4は、リンクモデルの一例及び局所座標系を説明するための図である。
【図5】図5は、ゴルフクラブに関する局所座標系を説明するための図である。
【図6】図6は、ゴルフクラブに関する局所座標系を説明するための図である。
【図7】図7は、本発明に係るヘッドの一例を示す図である。図7には、シミュレーションによってスイングされるクラブのヘッド重心位置が複数示されている。
【図8】図8は、微小距離の移動に関して説明するための図である。
【図9】図9は、微小距離の移動に関して説明するための図である。
【図10】図10は、微小距離の移動に関して説明するための図である。
【図11】図11は、本発明に係るヘッドの他の一例を示す図である。図11には、シミュレーションによってスイングされるクラブのヘッド重心位置が複数示されている。
【図12】図12は、本発明に係るヘッドの他の一例を示す正面図である。
【図13】図13は、本発明に係るヘッドの他の一例を示す上面図である。
【図14】図14は、図12のA−A線に沿った断面図である。
【図15】図15は、図13のB−B線に沿った断面図である。
【図16】図16は、作製可能なヘッドの仕様を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る設計方法を行うための実測の様子が示された図である。本実施形態では、スイングモデルを決定するため、スイングの実測がなされる。
【0024】
この実測の対象は、ゴルフクラブgc1をスイングする人体h1である。インパクトでのヘッド挙動を得る観点から、好ましくは、少なくともインパクトの前後が計測され、より好ましくは、少なくともダウンスイングからフォロースルーまでが計測され、更に好ましくは、少なくともアドレスからフォロースルーまでが計測される。
【0025】
スイング主体として、人体h1の他、スイングロボットが例示される。スイング主体は、評価目的等に基づいて選択されうる。
【0026】
実測におけるゴルフクラブgc1は限定されない。本実施形態において、ゴルフクラブgc1はパターである。パターによるスイングは、通常のショットと比較して、人体h1の動きが少ない。このパターによるスイングでは、比較的少ないリンク数のリンクモデルで、精度の高いシミュレーションが可能である。
【0027】
ゴルフクラブgc1は、いわゆるウッドクラブ、アイアンクラブなどであってもよい。これらのクラブを用いたスイングが計測される場合、そのスイングに適したリンクモデルが採用されうる。
【0028】
シミュレーションの精度を高める観点から、実測の際に用いられるゴルフクラブgc1のスペックSp1は、シミュレーションの際に入力されるゴルフクラブのスペックSp2に近いのが好ましい。この観点から、特定のスペックSpxを設計するためにシミュレーションがなされる場合、上記スペックSp1と上記スペックSp2とは、設計対象であるそのスペックSpxを除き、同じであるのが好ましい。スペックとは、シミュレーションを行う際に入力されるゴルフクラブのデータのそれぞれである。
【0029】
この計測では、人体h1及びゴルフクラブgc1のスイング中における挙動が測定される。この計測では、人体h1及びゴルフクラブgc1のスイング中における三次元座標が時系列的に測定される。三次元座標は、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルが構築できるように、複数箇所において計測される。
【0030】
本実施形態では、スイング計測システム2として、モーションキャプチャシステムが用いられている。モーションキャプチャシステム自体は公知であり、市販されている。このモーションキャプチャシステムは、マーカの三次元座標を時系列的に測定することができる。モーションキャプチャシステムは、三次元動作解析システムの一例である。本発明では、三次元動作解析システムが用いられる。
【0031】
一般に、モーションキャプチャシステムは、動的なキャリブレーション手法、又は、三角測量の原理に基づく静的なキャリブレーション手法によって、三次元座標を測定する。モーションキャプチャの方法には、光学式、機械式、磁気式などが知られており、これらのいずれもが採用されうる。また、画像処理技術を用いてマーカを不要としたマーカレスモーションキャプチャが用いられてもよい。ゴルフスイングを測定する場合、精度が高く且つ被験者のスイングを拘束しにくい観点から、光学式のモーションキャプチャシステムが好ましい。本実施形態のモーションキャプチャシステムは、光学式である。
【0032】
スイング計測システム2は、複数のカメラ4と、複数のマーカmkと、データ解析装置6とを有する。
【0033】
カメラ4の台数は限定されない。三次元データを得る観点から2台以上のカメラ4が用いられる。複数のカメラ4のそれぞれは、互いに異なる位置に配置される。図1には、人体h1の前方に位置する2台のカメラ4のみが示されているが、実際には、人体h1の後方にもカメラ4が設置されている。カメラ4は、人体h1を取り囲むように配置されている。計測中のあらゆる局面において、マーカmkのぞれぞれが少なくとも2台のカメラ4で撮影されるように、カメラ4が配置される。
【0034】
カメラ4の台数が多い場合、測定精度が向上しうる。これらの観点から、カメラ4の台数は、より好ましくは4以上であり、更に好ましくは6以上である。装置のコスト及び計算の簡略化の観点から、カメラ4の台数は、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がより好ましい。
【0035】
カメラ4の種類は限定されない。カメラ4の種類として、赤外線カメラ、カラーのCCDカメラ及びモノクロのCCDカメラが例示される。
【0036】
高速で動くスイングの静止画像を得る観点から、シャッタースピードは短いのが好ましい。特に好ましいシャッタースピードは、(1/500)秒以下である。
【0037】
短いシャッタースピードの場合、光量が不足する。CCDカメラを用いる場合、必要な光量を確保するために、特別な明るいライトが必要とされる。赤外線カメラの場合、暗い環境で且つシャッタースピードが短い場合であっても、マーカmkをとらえることが可能である。この観点から、赤外線カメラが好ましい。この場合、マーカmkには、赤外線の反射率が高いものが用いられるのが好ましい。
【0038】
ゴルフクラブgc1に付されるマーカmkの数は限定されない。ゴルフクラブgc1を含んだリンクモデルを構築する観点から、ゴルフクラブgc1上の少なくとも一箇所にマーカmkが配置される。リンクモデルに対応した箇所にマーカmkが配置される。
【0039】
人体h1に付されるマーカmkの数は限定されない。人体h1の一部を含んだリンクモデルを構築する観点から、人体h1上の少なくとも一箇所にマーカmkが配置される。リンクモデルに対応した箇所にマーカmkが配置される。
【0040】
本実施形態では、マーカmkとして、マーカm1、マーカm2、マーカm3、マーカm4、マーカm5、マーカm6及びマーカm7が配置されている(図1参照)。マーカmkの数及び位置は、リンクモデル(後述)に対応している。
【0041】
なお、マーカの形状や大きさは限定されない。マーカは、例えば半球状の物体とされる。画像処理を容易とする目的で、マーカは、例えば白や蛍光色等の目立ちやすい色とされてもよい。スイングに与える影響を軽微とする観点から、マーカは、軽量であるのが好ましい。例えばマーカは発泡スチロール等よりなるのが好ましい。図1において、マーカmkは、塗りつぶされた丸で示されている。
【0042】
複数のカメラ4は、コンピュータ6に接続されている。コンピュータ6は、図示されない制御部を有する。この制御部は、複数のカメラ4を同期撮影可能に制御する。典型的な制御部は、CPUである。コンピュータ6は、モーションキャプチャのための解析プログラムが記憶された記憶部と、演算部とを備える。この解析プログラムは、広く市販されている。典型的な記憶部は、ハードディスクである。典型的な演算部は、CPUである。更にコンピュータ6は、入力部としてのキーボード10及びマウス12と、表示部としてのディスプレイ14とを備える。コンピュータ6とは別に、三次元座標を算出するための解析用コンピュータが用いられてもよい。コンピュータ6は、汎用コンピュータである。
【0043】
本実施形態では、リンクモデルが用いられる。図2及び図3は、本実施形態に用いられるリンクモデルを説明するための図である。図3では、アドレスの状態が模式的に示されている。このリンクモデルLkは、人体h1の一部に対応するリンクと、ゴルフクラブgc1の少なくとも一部に対応するリンクとを含む。本実施形態において、人体h1の一部に対応するリンクは、リンクL1、リンクL2、リンクL3及びリンクL4である。本実施形態において、ゴルフクラブgc1の少なくとも一部に対応するリンクは、リンクL5、リンクL6及びリンクL7である。この実施形態のリンク数は7である。即ち、この実施形態は、7リンクモデルである。
【0044】
関節(ジョイント)J1は、リンクL1の一端に位置する。関節J2は、リンクL1とリンクL2とを連結する。関節J3は、リンクL2とリンクL3とを連結する。
関節J4は、リンクL3とリンクL4とを連結する。関節J5は、リンクL4とリンクL5とを連結する。関節J6は、リンクL5とリンクL6とを連結する。関節J7は、リンクL6とリンクL7とを連結する。
【0045】
上記マーカmkのそれぞれは、関節のそれぞれに対応する。関節(ジョイント)J1は、上記マーカm1に対応する。関節J2は、上記マーカm2に対応する。関節J3は、上記マーカm3に対応する。関節J4は、上記マーカm4に対応する。関節J5は、上記マーカm5に対応する。関節J6は、上記マーカm6に対応する。関節J7は、マーカm7に対応する。
【0046】
関節(ジョイント)J1は、人体h1の首に対応する。関節J2は、人体h1の肩(左肩)に対応する。関節J3は、人体h1の肘(左肘)に対応する。関節J4は、人体h1の手首(左手首)に対応する。関節J5は、人体h1の掌(左手の掌)に対応する。
【0047】
このように、リンクモデルLkには、人体h1の左側が選択されている。人体h1の左側が選択されたのは、人体h1が右利きであることによる。人体h1が右利きである場合、人体h1は、左側を主体としてスイングする傾向にある。よって人体h1の左側が選択されることにより、計算負担が抑制されつつ、シミュレーションの精度が向上しうる。同様に、人体h1が左利きである場合、リンクモデルLkには、人体h1の右側が選択されるのが好ましい。左右のうちの一方側のみが選択されることにより、計算の負担が抑制されている。
【0048】
リンクを人体h1のどの部位に対応させるかは、限定されない。好ましい人体h1の一部は、人体h1の首部から手部までである。首部から手部までは、スイング中の動きが比較的大きい。よって、首部から手部までが考慮されることにより、シミュレーションの精度が向上しうる。一方、首部から手部以外の部位は、スイング中の動きが比較的小さい。よって、首部から手部以外が除外されることにより、計算の負担が軽減される。特にパターでのスイングの場合、首部から手部以外の部位は、スイング中の動きが小さい。よって、特にパターでのスイングの場合、人体h1の一部が首部から手部までとされるのが好ましい。また計算の負担を考慮すると、リンクモデルLkは、枝分かれしていないのが好ましい。この観点から、上記実施形態の如く、人体h1の一方側(左側又は右側)のみが考慮されたリンクモデルLkが好ましい。
【0049】
本実施形態において、人体h1の一部に対応するリンクは、4つである。人体h1の一部に対応するリンクは、少なくとも1つ必要である。即ち、人体h1の一部に対応するリンクの数は、1以上である。人体h1の一部に対応するリンクの数の上限は限定されない。計算の負担を考慮すると、人体h1の一部に対応するリンクの数は、5以下が好ましい。
【0050】
本実施形態において、ゴルフクラブgc1の少なくとも一部に対応するリンクは、3つである。ゴルフクラブgc1の少なくとも一部に対応するリンクは、少なくとも1つ必要である。スイング中においてゴルフクラブgc1が大きく変形しない場合、ゴルフクラブgc1の少なくとも一部に対応するリンクの数が1であっても、実用的なシミュレーション結果が得られうる。本実施形態では、リンクL5が、ゴルフクラブgc1の一部に対応する第一のリンクLg1であり、リンクL6が、ゴルフクラブgc1の一部に対応する第二のリンクLg2であり、リンクL7が、ゴルフクラブgc1の一部に対応する第三のリンクLg3である。リンクL5は、シャフトの第二部分に対応している。リンクL6は、シャフトの第一部分に対応している。リンクL7は、ヘッドに対応している。なお、このゴルフクラブgc1のシャフトは曲がっており、この曲がった部分を境として、グリップ側に位置する長い部分がシャフトの第二部分であり、ヘッド側に位置する短い部分がシャフトの第一部分である。
【0051】
リンクモデルLkは、人体h1に対応するリンクL4とゴルフクラブgc1に対応するリンクL5とを連結する関節Jhcを有する。本実施形態において、関節Jhcは関節J5である。リンクモデルLkの関節数は1以上である。リンクモデルLkは、上記関節Jhcを含む。リンクモデルLkのリンク数は、2以上である。前述の通り、特にパターでのスイングでは、通常のショットと比較して、人体h1の動きが少ない。よってパターでのスイングでは、少ないリンク数(例えば2リンクモデル)によっても、実用的なシミュレーションが得られうる。
【0052】
ヘッドに対応するリンク(リンクL7)の重心位置は、シャフト軸(リンクL5の中心軸)から離れた位置に設定される。この設定により、ヘッド重心位置が安定性に与える影響をシミュレーションによって判断することができる。
【0053】
各リンクのそれぞれは、剛体とされてもよい。即ちリンクモデルLkは、剛体リンクモデルであってもよい。剛体リンクモデルとされることにより、入力及び計算の負担が軽減される。剛体でないリンクを含むリンクモデルLkであってもよい。例えば、ゴルフクラブgc1のシャフトに対応するリンクが、梁要素でモデル化されてもよい。この場合例えば、シャフトに対応するリンクには、シャフトの弾性率、肉厚等が入力される。
【0054】
リンクモデルLkにおいて、人体h1側の末端の関節J1は固定されているものとされる。リンクモデルLkにおいて、関節J1、関節J2、関節J3、関節J4及び関節J5は、フリーな(無抵抗な)動きが可能な三次元ボールジョイントとされる。ただし後述するように、特定の関節には、動きの制約が設定される。この制約は、人体h1の関節の動きを考慮して設定される。必要に応じて、関節にバネ及び/又はダンパーが定義されてもよい。
【0055】
本実施形態では、パラメータの設定の便宜を考慮して、ゴルフクラブgc1が3つのリンクに分割されている。ただし、関節J6及び関節J7は完全に固定されているものとして扱われる。
【0056】
図4は、人体h1側において、解析に必要な局所座標系を示す。図5及び図6は、ゴルフクラブgc1側において、解析に必要な局所座標系を示す。
【0057】
リンクモデルLkにおいて、人体h1に対応する部分については、各関節のそれぞれにおいて局所座標系が設定される。人体h1に属する関節J1からJ5のそれぞれに関して、局所座標系が設定される。これらの局所座標系は、関節の中心を原点とし、人体h1の正面側を正とするx軸、スイング方向を正とするy軸、及び、x軸及びy軸に垂直なz軸を有する(図4参照)。z軸は、鉛直上向きが正である。この局所座標系は、直交座標系である。
【0058】
リンクモデルLkにおいて、ゴルフクラブgc1に対応する部分については、各パーツ(シャフト第一部分、シャフト第二部分及びヘッド)の重心位置を原点とした局所座標系が設定される。ヘッドの局所座標系LS1では、フェース面に対して平行な方向がx軸とされ、フェース面に対して垂直な方向がy軸とされ、x軸及びy軸に垂直な方向がz軸とされる。y軸の設定においては、ゴルフクラブgc1のリアルロフト角が0度であると仮定される。z軸は、鉛直上向きが正である。シャフト第一部分の局所座標系LS2では、フェース面に対して平行な方向がx軸とされ、フェース面に対して垂直な方向がy軸とされ、シャフト第一部分の軸線方向がz軸とされる。y軸の設定においては、ゴルフクラブgc1のリアルロフト角が0度であると仮定される。z軸は、鉛直上向きが正である。シャフト第二部分の局所座標系LS3では、フェース面に対して垂直な方向がy軸とされ、シャフト第二部分の軸線方向がz軸とされ、y軸及びz軸に垂直な方向がx軸とされる。x軸は、人体h1の前方方向が正である。z軸は、バット側(グリップ側)が正である。y軸の設定においては、ゴルフクラブgc1のリアルロフト角が0度であると仮定される。
【0059】
本実施形態のリンクモデルLkでは、肘に対応する関節J3において、x軸回りの回転ができないように設定される。本実施形態のリンクモデルLkでは、手首に対応する関節J4において、z軸回りの回転ができないように設定される。これらの回転の制約は、人体h1の骨格の構造を考慮して決定される。人体h1の関節の特性を考慮して、リンクモデルLkの関節の回転に制約を加えることにより、シミュレーションの精度が向上しうる。
【0060】
以下、本実施形態の設計方法の手順を説明する。
【0061】
先ず、前述の通り、人体h1のスイングが実測される(ステップ1)。この測定により、各マーカmkの三次元座標の時系列データが得られる。このデータに基づき、各関節のトルクが算出され、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデルが得られる。本実施形態では、7つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデルが得られる。関節トルクの算出には、逆動力学解析が用いられる。この関節トルクの算出方法は、前述した特開2009−5760にも記載されているように公知であり、市販の解析用ソフトウェアによって算出される。
【0062】
次に、上記スイングモデルを用いて、順動力学解析により、ゴルフクラブをスイングさせるシミュレーションを行う(ステップ2)。このシミュレーションでは、実測で用いたゴルフクラブとは異なるスペックを有するゴルフクラブが用いられうる。設計したいスペックを入力して、シミュレーションがなされる。上記スイングモデルを用いることにより、様々なスペックを有するゴルフクラブを、シミュレーションでスイングさせることができる。
【0063】
次に、上記シミュレーションの結果に基づいて、スイング中の特定の局面におけるヘッド情報を得る(ステップ3)。ヘッド情報として、ヘッド位置に関する情報、ヘッド挙動に関する情報及びヘッド姿勢に関する情報が挙げられる。
【0064】
ヘッド位置は、例えば、ボールとの相対的な位置である。このヘッド位置に基づいて、打点が得られうる。インパクト直前のヘッドの位置は、インパクト直後のヘッドの位置と略同じである。打点として、上下方向打点及びトウ−ヒール方向打点が挙げられる。
【0065】
上記ヘッド挙動に関する情報として、ヘッド速度及びヘッド軌道が挙げられる。このヘッド軌道として、ブロー角とスイングパス角とが挙げられる。本願においてブロー角とは、鉛直面に投影されたヘッド軌道であり、一般にダウンブロー又はアッパーブローなどと称されるヘッド軌道に相当する。本願においてスイングパス角とは、水平面に投影されたヘッド軌道の角度あり、一般にアウトサイドイン又はインサイドアウトなどと称されるヘッド軌道に対応する。スイングパス角は、例えば、目標方向に対する角度である。
【0066】
上記ヘッド姿勢に関する情報として、ロフト角及びフェース角が挙げられる。このロフト角は、鉛直線に対するロフト角である。このロフト角は、シャフト軸線に対する角度ではなく、ヘッドの姿勢によって変化する。上記フェース角は、ヘッドを上方から見たときのフェースの角度であり、打球方向を決定する。
【0067】
打球結果に強く影響するのは、インパクトの瞬間におけるヘッド位置、ヘッド挙動及びヘッド姿勢である。よって、上記特定の局面は、インパクトの直前であるのが好ましい。インパクトの直前とは、好ましくは、インパクトの0.05秒前からインパクトまでの間であり、より好ましくは、インパクトの0.01秒前からインパクトまでの間であり、より好ましくは、インパクトの0.005秒前からインパクトまでの間であり、更に好ましくは、インパクトの0.003秒前からインパクトまでの間である。
【0068】
上記実測及び上記シミュレーションにより得られるデータは時系列的である。より詳細には、このデータは、一定間隔おきのデータの集合である。測定周波数によって、データの間隔が定まる。このデータの集合の中から、インパクトに最も近い時刻のデータを選別することができる。インパクト前であり且つインパクトに最も近い時刻T1データが用いられるのが好ましい。即ち、インパクト直前のデータが用いられるのが好ましい。
【0069】
ヘッド位置及びヘッド姿勢に関しては、一つの時刻のデータで判断が可能である。よって、ヘッド位置に関する情報及びヘッド姿勢に関する情報は、上記時刻T1のデータに基づくのが好ましい。一方、ヘッド挙動に関しては、少なくとも2つの時刻におけるデータが必要である。よって、ヘッド挙動に関する情報は、上記T1のデータと、この時刻T1より前であり且つこの時刻T1に最も近い時刻T2のデータに基づくのが好ましい。即ち、インパクト直前のデータが用いられるのが好ましい。
【0070】
次に、得られたデータを分析して、ゴルフクラブの安定性が評価される(ステップ4)。この安定性は、シミュレーションにより得られた複数のデータに基づき、判断される。これらの複数のデータの間の差が小さいほど、ゴルフクラブgc1の安定性が高いと判断することができる。
【0071】
なお、安定性が判断される場合、データ間の差は、絶対値として扱われる。即ち、差がマイナスである場合は、プラスとして扱われる。差が絶対値として扱われることにより、「差が小さいほど安定性が高い」と考えることができる。特に説明している場合を除き、本願における「差」は、「差の絶対値」である。
【0072】
安定性の判断に用いられるデータとは、上記ヘッドに関する情報である。即ち、安定性の判断に用いられるデータは、打点、ヘッド軌道、ヘッド姿勢等である。複数の条件でシミュレーションを行うことにより、複数のデータをうる。この複数のデータにより、安定性が判断されうる。
【0073】
安定性を評価するステップ(上記ステップ4)の一例は次の通りである。まず第一の条件でシミュレーションを行い、インパクト直前のヘッド情報(例えばフェース角)(1)を得る。次いで、第二の条件でシミュレーションを行い、インパクト直前のヘッド情報(例えばフェース角)(2)を得る。比較されるヘッド情報(1)とヘッド情報(2)とは、同じ種類(例えばフェース角)である。ヘッド情報(1)とヘッド情報(2)との差が少ない場合、安定性が高いと判断することができる。
【0074】
このように、安定性を評価するためには、複数のヘッド情報が必要である。複数のヘッド情報を得るために、複数の条件でシミュレーションがなされる。即ち、上記ゴルフクラブのスペック及び/又は上記スイングモデルを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得る。そして、これらのヘッド情報の間の差を用いて安定性が評価される。
【0075】
好ましくは、上記ゴルフクラブのスペックを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得る。設計されるスペック(例えば、ヘッド重心位置或いは慣性モーメント)が複数とされることにより、そのスペックに起因するヘッドの安定性が判断されうる。この安定性に基づき、そのスペック(シミュレーションにおいて入力されたスペック)が良好な否かを判断することができる。スペックが複数とされる場合の好ましい一例は、上記スペックが複数とされ且つスイングモデルが1つとされて、複数の上記ヘッド情報を得る。この方法では、同一のスイングモデルで上記スペックのみを変動させているので、スイングモデルの変動の影響を受けずに安定性を判断することができる。よってこの方法は、上記スペックが安定性に与える影響を判断するのに適している。また、上記スペックが複数とされ且つスイングモデルが複数とされてもよい。この場合、スイングモデルが複数であるから、スイングモデルを変動させた場合の安定性を評価することができる。よって例えば、スイングがバラつくプレーヤーに適したスペック、あるいは、多くのゴルファーに適した汎用性の高いスペックを設計することができる。
【0076】
なお、上記スイングモデルが複数とされ且つ上記スペックが1つとされることにより、複数のヘッド情報を得てもよい。この場合も、スイングモデルを変動させた場合における安定性を評価することができる。ただし、相対的な安定性の評価を行う場合には、上記スペックを変動させた場合における他のヘッド情報を得て、ヘッド情報の安定性を比較することが必要である。
【0077】
具体的には、複数のヘッド情報を得るために、例えば、上記設計方法は、以下の(Sim1)又は(Sim2)を含む。
(Sim1)1つのスイングモデルに複数のクラブスペックが入力されるステップと、それぞれのスペック毎にシミュレーションがなされるステップ。
(Sim2)複数のスイングモデルのそれぞれに複数のクラブスペックが入力されるステップと、それぞれのスイングモデル毎及びそれぞれのクラブスペック毎に、シミュレーションがなされるステップ。
【0078】
上記(Sim1)の場合を具体的に説明する。
【0079】
上記複数のクラブスペックは、好ましくは、同一種類とされる。例えば、このクラブスペックは、ヘッド重心位置とされる。同一種類の複数のクラブスペックとして、例えば、第一のヘッド重心位置、第二のヘッド重心位置、第三のヘッド重心位置及び第四のヘッド重心位置が設定される。ここでの想定条件は、以下の通りであるとする。
・エリアAに、第一のヘッド重心位置と第二のヘッド重心位置とが位置している。
・エリアBに、第三のヘッド重心位置と第四のヘッド重心位置とが位置している。
・第一のヘッド重心位置と第二のヘッド重心位置とは近接している。
・第三のヘッド重心位置と第四のヘッド重心位置とは近接している。
・エリアAとエリアBとは、離れている。
【0080】
先ず、スイングモデルに、上記第一のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、第一のヘッド情報を得る。次に、同じスイングモデルに、上記第二のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、第二のヘッド情報を得る。次に、同じスイングモデルに、上記第三のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、第三のヘッド情報を得る。次に、同じスイングモデルに、上記第四のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、第四のヘッド情報を得る。
【0081】
次に、上記第一のヘッド情報と上記第二のヘッド情報との差の絶対値Ab12を算出する。また、上記第三のヘッド情報と上記第四のヘッド情報との差の絶対値Ab34を算出する。そして、絶対値Ab12と絶対値Ab34とを比較する。この比較により、安定性が評価されうる。絶対値Ab12が絶対値Ab34よりも小さい場合、ヘッド重心位置は、上記エリアBよりも上記エリアAに設けた方がよいと判断することができる。このようにして、安定性の高いヘッド重心位置を設計することができる。
【0082】
次に、上記(Sim2)の場合を具体的に説明する。
【0083】
上記複数のスイングモデルは、例えば、ゴルファーAの第一のスイングに基づく第一スイングモデルと、同じゴルファーAの第二のスイングに基づく第二スイングモデルである。例えば、ゴルファーAが同一位置から同一の地点(例えばカップ)を狙ったスイング(例えばパッティング)において、結果が良かったスイングが上記第一スイングとされ、結果が悪かったスイングが上記第二スイングとされる。
【0084】
上記複数のクラブスペックとして、例えば、第一のヘッド重心位置及び第二のヘッド重心位置が想定される。
【0085】
先ず、上記第一スイングモデルに、上記第一のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、ヘッド情報(11)を得る。次に、上記第二スイングモデルに、上記第一のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、ヘッド情報(21)を得る。次に、上記第一スイングモデルに、上記第二のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、ヘッド情報(12)を得る。次に、上記第二スイングモデルに、上記第二のヘッド重心位置を入力してシミュレーションを行い、ヘッド情報(22)を得る。
【0086】
次に、上記ヘッド情報(11)と上記ヘッド情報(21)との差の絶対値Abxを算出する。また、上記ヘッド情報(12)と上記ヘッド情報(22)との差の絶対値Abyを算出する。そして、絶対値Abxと絶対値Abyとを比較する。この比較により、安定性が評価されうる。絶対値Abxが絶対値Abyよりも小さい場合、上記第二のヘッド重心位置よりも、上記第一のヘッド重心位置の方が、安定性が高いと推定することができる。このようにして、安定性の高いヘッド重心位置を設計することができる。
【0087】
なお、上記複数のスイングモデルは、ゴルファーAのスイングに基づく第一スイングモデルと、別のゴルファーBのスイングに基づく第二スイングモデルとであってもよい。この場合、汎用性の高いゴルフクラブの設計が達成されうる。
【0088】
上記(Sim1)に関する設計方法の一例は、ゴルフスイング(1)を実測して測定結果(1)を得るステップと、上記測定結果(1)に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデル(1)を得るステップと、上記スイングモデル(1)を用いて、ゴルフクラブ(1)をスイングさせるシミュレーション(1)を行うステップと、上記シミュレーション(1)の結果に基づいて、スイング中の特定の局面における上記ゴルフクラブ(1)のヘッド情報(1)を得るステップと、上記スイングモデル(1)を用いて、ゴルフクラブ(2)をスイングさせるシミュレーション(2)を行うステップと、上記シミュレーション(2)の結果に基づいて、スイング中の上記特定の局面における上記ゴルフクラブ(2)のヘッド情報(2)を得るステップと、上記ヘッド情報(1)と上記ヘッド情報(2)とを用いて、安定性を評価するステップとを含む。
【0089】
上記(Sim2)に関する設計方法の一例は、ゴルフスイング(1)を実測して測定結果(1)を得るステップと、上記測定結果(1)に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデル(1)を得るステップと、上記スイングモデル(1)を用いて、ゴルフクラブ(1)をスイングさせるシミュレーション(11)を行うステップと、上記シミュレーション(11)の結果に基づいて、スイング中の特定の局面における上記ゴルフクラブ(1)のヘッド情報(11)を得るステップと、ゴルフスイング(2)を実測して測定結果(2)を得るステップと、上記測定結果(2)に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデル(2)を得るステップと、上記スイングモデル(2)を用いて、上記ゴルフクラブ(1)をスイングさせるシミュレーション(21)を行うステップと、上記シミュレーション(21)の結果に基づいて、スイング中の特定の局面における上記ゴルフクラブ(1)のヘッド情報(21)を得るステップと、ゴルフスイング(1)を実測して測定結果(1)を得るステップと、上記測定結果(1)に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデル(1)を得るステップと、上記スイングモデル(1)を用いて、ゴルフクラブ(2)をスイングさせるシミュレーション(12)を行うステップと、上記シミュレーション(12)の結果に基づいて、スイング中の特定の局面における上記ゴルフクラブ(2)のヘッド情報(12)を得るステップと、ゴルフスイング(2)を実測して測定結果(2)を得るステップと、上記測定結果(2)に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデル(2)を得るステップと、上記スイングモデル(2)を用いて、上記ゴルフクラブ(2)をスイングさせるシミュレーション(22)を行うステップと、上記シミュレーション(22)の結果に基づいて、スイング中の特定の局面における上記ゴルフクラブ(2)のヘッド情報(22)を得るステップと、上記ヘッド情報(11)、上記ヘッド情報(21)、上記ヘッド情報(12)及び上記ヘッド情報(22)を用いて、安定性を評価するステップとを含む。
【0090】
安定性の評価には、ヘッド情報の差の他に、感度も用いられうる。感度は、ヘッド情報に基づいて算出される。感度は、ヘッド情報の差をスペックの差で除して得られる。即ち感度とは、スペックの差の一単位当たりのヘッド情報の差である。この「感度」が用いられることにより、安定性の評価の精度が向上しうる。上記ヘッド情報を用いたあらゆる計算が、安定性の評価に適用されうる。感度の具体例は、後述の実施例で示される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0092】
図7に示されるヘッドhd2を有するゴルフクラブgc2と、図11に示されるヘッドhd3を有するゴルフクラブgc3が用いられた。ヘッドの形状を除き、ゴルフクラブgc2は、前述したゴルフクラブgc1と同様である。ヘッドの形状を除き、ゴルフクラブgc3は、前述したゴルフクラブgc1と同様である。
【0093】
ゴルフクラブgc2は、パターである。このパターのスペックが、次の表1に示される。
【0094】
【表1】

【0095】
ゴルフクラブgc3は、パターである。このパターのスペックが、次の表2に示される。
【0096】
【表2】

【0097】
表1及び表2において、重心深度とは、ヘッドの前端(リーディングエッジ)からヘッド重心までの距離である。シャフト第一部分の重心位置は、クラブの後端からの距離である。シャフト第二部分の重心位置も、クラブの後端からの距離である。なお、シャフト第二部分の重量及び重心位置は、グリップを含んで測定される。
【0098】
表1及び表2において、Ixxはx軸回りの慣性モーメントであり、Iyyはy軸回りの慣性モーメントであり、Izzはz軸回りの慣性モーメントである。Ixyはx軸及びy軸に関する慣性乗積であり、Ixzはx軸及びz軸に関する慣性乗積であり、Iyzはy軸及びz軸に関する慣性乗積である。これらの慣性モーメント及び慣性乗積は、前述した局所座標系(図5参照)における値である。
【0099】
[実施例1]
上記ゴルフクラブgc2を用いて、ゴルファーAがパッティングを行った。特定の地点から、特定の目標(カップ)を狙って、パッティング(パターによるスイング)がなされた。カップまでの距離は、10mとされた。このパッティングが、スイング計測システムにより測定された。
【0100】
測定は、5回行われた。第一のスイングデータ1と第二のスイングデータ2とが記録された。スイングデータ1は、最も結果が良かったときのスイングデータである。スイングデータ2は、最も結果が悪かったときのスイングデータである。
【0101】
測定方法及び解析方法は、前述した実施形態の通りとされた。スイング撮影用のカメラとして、Vicon社製の商品名「MX−F40」が用いられた。カメラの台数は8台とされた。500fpsで、アドレスからフォロースルーまでが撮影(測定)された。fpsは、「Frame Per Second」の略である。
【0102】
測定結果に基づき、データの解析を行った。解析にあたっては、上記されたゴルフクラブのスペックが入力された。リンクモデルは、前述した実施形態と同じ、7リンクモデルとされた。解析用ソフトとして、Vicon社製の商品名「VICON MX iQ2.5」が用いられた。この解析により、各関節における関節角度が時系列的に算出され、この関節角度の時系列データを用いて、逆動力学解析により関節トルクが算出された。この結果、上記スイングデータ1に基づくスイングモデル1と、上記スイングデータ2に基づくスイングモデル2とが得られた。
【0103】
次に、複数のクラブスペックを用いて、安定性についての評価がなされた。本実施例では、複数のクラブスペックとして、7つのヘッド重心位置G1、G2、G3、G4、G5、G6及びGHが採用された。これらのヘッド重心位置が、図7に示されている。
【0104】
安定性の評価では、先ず、ヘッド重心位置G1を評価するためのスイングモデルG11及びスイングモデルG12が作成された。
【0105】
スイングモデルG11は、スイング中のリンクモデルの動きが上記スイングモデル1と全く同一とされた条件下で、ヘッド重心位置を実測値からヘッド重心位置G1に変更して得られたスイングモデルである。即ち、スイングモデルG11は、スイングデータ1を用い、ヘッドの重心位置をG1に変更したゴルフクラブのスペックを入力して、逆動力学解析により算出した関節トルクデータを備えたスイングモデルである。このスイングモデルG11では、各関節におけるトルクの値が、スイングモデル1と相違する。
【0106】
スイングモデルG12は、スイング中のリンクモデルの動きが上記スイングモデル2と全く同一とされた条件下で、ヘッド重心位置を実測値からヘッド重心位置G1に変更して得られたスイングモデルである。即ち、スイングモデルG12は、スイングデータ2を用い、ヘッドの重心位置をG1に変更したゴルフクラブのスペックを入力して、逆動力学解析により算出した関節トルクデータを備えたスイングモデルである。このスイングモデルG12では、各関節におけるトルクの値が、スイングモデル2と相違する。
【0107】
同様に、他の重心位置G2からG6及びGHについても、それぞれのヘッド重心位置をを評価するためのスイングモデルが作成された。
【0108】
ヘッド重心位置G1の評価では、図8に示す様に、ヘッド重心位置G1と、このヘッド重心位置G1から微小距離だけトウ側に位置するヘッド重心位置G1a(図8又は図9参照)と、このヘッド重心位置G2から微小距離だけバック側に位置するヘッド重心位置G1b(図8又は図10参照)とが設定された。
【0109】
ヘッド重心位置が上記G1に設定されて、上記スイングモデルG11でシミュレーションを行い、ヘッド情報11を得た。
【0110】
ヘッド重心位置が上記G1aに設定されて、上記スイングモデルG11でシミュレーションを行い、ヘッド情報11aを得た。
【0111】
ヘッド重心位置が上記G1bに設定されて、上記スイングモデルG11でシミュレーションを行い、ヘッド情報11bを得た。
【0112】
ヘッド重心位置が上記G1に設定されて、上記スイングモデルG12でシミュレーションを行い、ヘッド情報12を得た。
【0113】
ヘッド重心位置が上記G1aに設定されて、上記スイングモデルG12でシミュレーションを行い、ヘッド情報12aを得た。
【0114】
ヘッド重心位置が上記G1bに設定されて、上記スイングモデルG12でシミュレーションを行い、ヘッド情報12bを得た。
【0115】
ヘッド情報として、上記フェース角、上記ロフト角、上記スイングパス角、上記ブロー角、上記トウ−ヒール方向打点及び上記上下方向打点が採用された。これらの項目のそれぞれについて、感度が算出された。
【0116】
ヘッド重心位置G1とヘッド重心位置G1aとの間での感度が、上記フェース角、上記ロフト角、上記スイングパス角、上記ブロー角、上記トウ−ヒール方向打点及び上記上下方向打点のそれぞれについて算出された。
【0117】
ヘッド重心位置G1とヘッド重心位置G1bとの間での感度が、上記フェース角、上記ロフト角、上記スイングパス角、上記ブロー角、上記トウ−ヒール方向打点及び上記上下方向打点のそれぞれについて算出された。
【0118】
ヘッド重心位置G1とヘッド重心位置G1aとの間でのフェース角の感度S1aFは、次の式(1)、式(2)及び式(3)によって算出された。
【0119】
【数1】

【0120】
【数2】

【0121】
【数3】

【0122】
ただし、θG1aFは、ヘッド重心位置がG1aに設定され、スイングモデルG11によってシミュレーションして得られたインパクト直前のフェース角であり、θB1aFは、ヘッド重心位置がG1aに設定され、スイングモデルG12によってシミュレーションして得られたインパクト直前のフェース角であり、θG1Fは、ヘッド重心位置がG1に設定され、スイングモデルG11によってシミュレーションして得られたインパクト直前のフェース角であり、θB1Fは、ヘッド重心位置がG1に設定され、スイングモデルG12によってシミュレーションして得られたインパクト直前のフェース角である。
【0123】
この結果、S1aFは2.87と算出された。このS1aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G1a」の列に示される。
【0124】
重心位置G2、G3、G4、G5、G6及びGHについても、上記G1と同様にして感度を算出した。なお、全ての重心位置G1、G2、G3、G4、G5、G6及びGHに関し、ヘッドの慣性モーメント(左右慣性モーメント)は同一とされた。
【0125】
ヘッド重心位置G2とヘッド重心位置G2aとの間でのフェース角の感度S2aFは、次の式(4)で示される。式(4)は、上記式(1)に対応する。
【0126】
【数4】

【0127】
ヘッド重心位置G3とヘッド重心位置G3aとの間でのフェース角の感度S3aFは、次の式(5)で示される。式(5)は、上記式(1)に対応する。
【0128】
【数5】

【0129】
ヘッド重心位置G4とヘッド重心位置G4aとの間でのフェース角の感度S4aFは、次の式(6)で示される。式(6)は、上記式(1)に対応する。
【0130】
【数6】

【0131】
ヘッド重心位置G5とヘッド重心位置G5aとの間でのフェース角の感度S5aFは、次の式(7)で示される。式(7)は、上記式(1)に対応する。
【0132】
【数7】

【0133】
ヘッド重心位置G6とヘッド重心位置G6aとの間でのフェース角の感度S6aFは、次の式(8)で示される。式(8)は、上記式(1)に対応する。
【0134】
【数8】

【0135】
ヘッド重心位置GHとヘッド重心位置GHaとの間でのフェース角の感度SHaFは、次の式(9)で示される。式(9)は、上記式(1)に対応する。
【0136】
【数9】

【0137】
これらの結果、重心位置G2に関する感度S2aFは12.65と算出された。このS2aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G2a」の列に示される。
【0138】
更に、重心位置G3に関する感度S3aFは2703.10と算出された。このS3aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G3a」の列に示される。
【0139】
更に、重心位置G4に関する感度S4aFは698.16と算出された。このS4aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G4a」の列に示される。
【0140】
更に、重心位置G5に関する感度S5aFは524.65と算出された。このS5aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G5a」の列に示される。
【0141】
更に、重心位置G6に関する感度S6aFは485.22と算出された。このS6aFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−G6a」の列に示される。
【0142】
更に、重心位置GHに関する感度SHaFは58.35と算出された。このSHaFが、下記の表3の「SaF」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0143】
以上のフェース角の感度と同様にして、上記ロフト角の感度、上記スイングパス角の感度、上記ブロー角の感度、上記トウ−ヒール方向打点の感度及び上記上下方向打点の感度のそれぞれが算出された。
【0144】
重心位置G1に関するロフト角の感度S1aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G1a」の列に示される。この感度S1aLは、下記の式(10)により算出される。この式(10)は、上記式(1)に対応する。
【0145】
【数10】

【0146】
重心位置G2に関するロフト角の感度S2aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G2a」の列に示される。重心位置G3に関するロフト角の感度S3aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G3a」の列に示される。重心位置G4に関するロフト角の感度S4aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G4a」の列に示される。重心位置G5に関するロフト角の感度S5aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G5a」の列に示される。重心位置G6に関するロフト角の感度S6aLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−G6a」の列に示される。重心位置GHに関するロフト角の感度SHaLが、下記の表3の「SaL」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0147】
重心位置G1に関する上記スイングパス角の感度S1aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G1a」の列に示される。この感度S1aSは、下記の式(11)により算出される。この式(11)は、上記式(1)に対応する。
【0148】
【数11】

【0149】
重心位置G2に関する上記スイングパス角の感度S2aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G2a」の列に示される。重心位置G3に関する上記スイングパス角の感度S3aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G3a」の列に示される。重心位置G4に関する上記スイングパス角の感度S4aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G4a」の列に示される。重心位置G5に関する上記スイングパス角の感度S5aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G5a」の列に示される。重心位置G6に関する上記スイングパス角の感度S6aSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−G6a」の列に示される。重心位置GHに関する上記スイングパス角の感度SHaSが、下記の表3の「SaS」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0150】
重心位置G1に関する上記ブロー角の感度S1aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G1a」の列に示される。この感度S1aBは、下記の式(12)により算出される。この式(12)は、上記式(1)に対応する。
【0151】
【数12】

【0152】
重心位置G2に関する上記ブロー角の感度S2aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G2a」の列に示される。重心位置G3に関する上記ブロー角の感度S3aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G3a」の列に示される。重心位置G4に関する上記ブロー角の感度S4aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G4a」の列に示される。重心位置G5に関する上記ブロー角の感度S5aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G5a」の列に示される。重心位置G6に関する上記ブロー角の感度S6aBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−G6a」の列に示される。重心位置GHに関する上記ブロー角の感度SHaBが、下記の表3の「SaB」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0153】
重心位置G1に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S1aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G1a」の列に示される。この感度S1aYは、下記の式(13)により算出される。この式(13)は、上記式(1)に対応する。
【0154】
【数13】

【0155】
重心位置G2に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S2aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G2a」の列に示される。重心位置G3に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S3aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G3a」の列に示される。重心位置G4に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S4aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G4a」の列に示される。重心位置G5に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S5aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G5a」の列に示される。重心位置G6に関する上記トウ−ヒール方向打点の感度S6aYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−G6a」の列に示される。重心位置GHに関する上記トウ−ヒール方向打点の感度SHaYが、下記の表3の「SaY」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0156】
重心位置G1に関する上記上下方向打点の感度S1aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G1a」の列に示される。この感度S1aZは、下記の式(14)により算出される。この式(14)は、上記式(1)に対応する。
【0157】
【数14】

【0158】
重心位置G2に関する上記上下方向打点の感度S2aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G2a」の列に示される。重心位置G3に関する上記上下方向打点の感度S3aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G3a」の列に示される。重心位置G4に関する上記上下方向打点の感度S4aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G4a」の列に示される。重心位置G5に関する上記上下方向打点の感度S5aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G5a」の列に示される。重心位置G6に関する上記上下方向打点の感度S6aZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−G6a」の列に示される。重心位置GHに関する上記上下方向打点の感度SHaZが、下記の表3の「SaZ」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0159】
【表3】

【0160】
[実施例2]
移動される位置がヘッド重心位置G1aから重心位置G1bに変更された他は実施例1と同様にして、実施例2に係る感度が算出された。この感度が、下記の表4に示される。表4の表記ルールは、表3のそれと同じである。
【0161】
【表4】

【0162】
表3及び表4の結果から、重心位置G1での感度は、他の重心位置での感度と比較して小さいことが判明した。慣性モーメントが同一という条件の下では、重心位置がシャフト軸線(の延長線)に近いほど、安定性が高いと推定される。
【0163】
[実施例3]
上記実施例1では、上記スイングデータ1(良いスイング)及び上記スイングデータ2(悪いスイング)が用いられた。これに対して実施例3では、上記スイングデータ1のみが用いられた。その他は上記実施例1と同様にして、各重心位置における感度を算出した。
【0164】
従って、実施例3においては、上記α1aFに代えて上記θG1aFが用いられ、上記β1Fに代えて上記θG1Fが用いられた。実施例3において、重心位置が微小距離dlだけ移動されてG1aとされた場合を考慮した、重心位置G1の感度S1aFは、下記の式(15)で示される。この式(15)は、上記実施例1における上記式(1)に相当する。この感度S1aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G1a」の列に示される。
1aF =|θG1aF−θG1F|/|dl| ・・・(15)
【0165】
他の重心位置G2、G3、G4、G5、G6及びGHについてもG1の場合と同様にして、フェース角に関する各重心位置の感度、即ち、感度S2aF、感度S3aF、感度S4aF、感度S5aF、感度S6aF及び感度SHaFを得た。実施例3における感度S2aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G2a」の列に示される。同様に、実施例3における感度S3aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G3a」の列に示される。同様に、実施例3における感度S4aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G4a」の列に示される。同様に、実施例3における感度S5aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G5a」の列に示される。同様に、実施例3における感度S6aFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−G6a」の列に示される。同様に、実施例3における感度SHaFが、下記の表5の「SaF」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0166】
ヘッド情報がロフト角に変更された他は上記フェース角の感度と同様にして、ロフト角に関する各重心位置の感度、即ち、感度S1aL、感度S2aL、感度S3aL、感度S4aL、感度S5aL、感度S6aL及び感度SHaFを得た。ロフト角に関し、実施例3における位置G1での感度S1aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G1a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置G2での感度S2aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G2a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置G3での感度S3aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G3a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置G4での感度S4aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G4a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置G5での感度S5aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G5a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置G6での感度S6aLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−G6a」の列に示される。ロフト角に関し、実施例3における位置GHでの感度SHaLが、下記の表5の「SaL」の行の、「G−GHa」の列に示される。
【0167】
スイングパス角、ブロー角、トウ−ヒール方向打点位置及び上下方向打点位置についても、実施例1と同様にして算出された。スイングパス角の感度の算出結果が、下記の表5の「SaS」の行に示されている。ブロー角の感度の算出結果が、下記の表5の「SaB」の行に示されている。トウ−ヒール方向打点位置の感度の算出結果が、下記の表5の「SaY」の行に示されている。上下方向打点位置の感度の算出結果が、下記の表5の「SaZ」の行に示されている。
【0168】
【表5】

【0169】
[実施例4]
移動される位置がヘッド重心位置G1aから重心位置G1bに変更された他は実施例3と同様にして、実施例4に係る感度が算出された。この感度が、下記の表6に示される。表6の表記ルールは、表5のそれと同じである。
【0170】
【表6】

【0171】
[実施例5]
上記スイングデータ1(良いスイング)に代えて上記スイングデータ2(悪いスイング)が用いられた他は実施例3と同様にして、各重心位置における感度を算出した。この結果が、下記の表7に示される。
【0172】
【表7】

【0173】
[実施例6]
上記スイングデータ1(良いスイング)に代えて上記スイングデータ2(悪いスイング)が用いられた他は実施例4と同様にして、各重心位置における感度を算出した。この結果が、下記の表8に示される。
【0174】
【表8】

【0175】
表5から表8の結果からも、重心位置がシャフト軸線(の延長線)に近いほど、安定性が高いと推定される。
【0176】
[実施例7]
上記ゴルフクラブgc2に代えて上記ゴルフクラブgc3が用いられた他は実施例5と同様にして、各ヘッド情報における感度が算出された。この結果が下記の表9に示される。なお、位置G1から位置G6及び位置GHは、図11に示す通りとされた。上記ゴルフクラブgc2では、位置同士の間隔が20mmに設定されたが、ゴルフクラブgc3では、位置同士の間隔が15mmに設定された。
【0177】
【表9】

【0178】
[実施例8]
上記ゴルフクラブgc2に代えて上記ゴルフクラブgc3が用いられた他は実施例6と同様にして、各ヘッド情報における感度が算出された。この結果が下記の表10に示される。
【0179】
【表10】

【0180】
実施例5と実施例7とは、同じスイング(上記スイングデータ2)及び同じ重心位置で、異なるゴルフクラブがシミュレーションされている。実施例5と実施例7との比較は、ヘッドの慣性モーメントの影響を示しうる。この慣性モーメントは、前述した表1及び表2に記載されている。表7と表9とを比較すると、表7(実施例5)の方が、表9(実施例7)よりも、感度が小さい傾向がある。この結果から、慣性モーメントが大きいほうが、安定性が高いと推定される。
【0181】
実施例6と実施例8とは、同じスイング(上記スイングデータ2)及び同じ重心位置で、異なるゴルフクラブがシミュレーションされている。実施例6と実施例8との比較は、ヘッドの慣性モーメントの影響を示しうる。表8と表10とを比較すると、表8(実施例6)の方が、表10(実施例8)よりも、感度が小さい傾向がある。この結果から、慣性モーメントが大きいほうが、安定性が高いと推定される。
【0182】
なお、上記実施例では、感度によって安定性が判断されたが、安定性の根拠は、感度に限定されない。例えば、絶対値|θG1aF−θG1F|等によっても安定性が推定される。シミュレーションによってそのスペックの変動が少ないと判断されれば、安定性が高いと推定することができる。
【0183】
また、上記実施例では、実測に基づくスイングモデルを修正して、各重心位置ごとのスイングモデル(例えば上記スイングモデルG11、上記スイングモデルG12等)を作成した。このスイングモデルの修正は、行わなくてもよい。実測に基づくスイングモデルをそのまま利用してもよい。
【0184】
以上の結果から、ヘッドの慣性モーメントが大きく且つヘッド重心位置がシャフト軸線(の延長線)に近いほど、安定性に優れることが判明した。なお、ヘッドの慣性モーメントは限定されず、例えば、上記Ixx、上記Iyy及び上記Izzが例示される。
【0185】
慣性モーメントに関しては、特に、左右慣性モーメント(上記Izz)が安定性に寄与しやすいことが判明した。
【0186】
安定性の観点から、ヘッドの左右慣性モーメントは、5000g・cm以上が好ましく、5500g・cm以上がより好ましく、6000g・cm以上が更に好ましい。左右慣性モーメントは大きいほど安定性に優れる。なお、ヘッド重量が380g以下である場合、製造可能なヘッドの左右慣性モーメントは、8000g・cm以下程度となると考えられる。
【0187】
安定性の観点から、ヘッドの重心深度は、18mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、13mm以下が更に好ましい。重心深度が小さいほど安定性に優れる。ヘッドの厚みが過度に小さい場合、不快な振動が生ずる場合がある。この観点から、ヘッドの重心深度は、0mm以上が好ましい。
【0188】
前述した特開2007−307353公報にも示されるように、従来のヘッドでは、ヘッド重心(スイートスポット)を外れた位置で打撃した時の打球方向性を改善する目的で、左右慣性モーメント及び重心深度を増大させていた。この場合、ヘッドが後方に延長され、ヘッドの前後方向幅が大きくされていた。この設計により、左右慣性モーメントの増大に伴い重心深度が増大していた。従来、大きな左右慣性モーメントと大きな重心深度が、打球のブレを抑制すると考えられていた。これに対して本発明での知見は、従来技術の技術的効果とは異質である。本発明による知見は、従来の技術常識に反する。この理由の詳細は不明である。シミュレーションによって、新たな技術思想が見いだされた。リンクモデルによる解析が、左右慣性モーメントを大きくし且つ重心深度を小さくするという、新たな技術思想を明らかにした。
【0189】
左右慣性モーメントは、前述した表1及び表2におけるIzzである。即ち、左右慣性モーメントは、ヘッドの局所座標系LS1における、z軸回りの慣性モーメントである。
【0190】
なお、この左右慣性モーメントは、三次元データから算出されてもよいし、実測されてもよい。実測される場合の測定器として、例えば、INERTIA DYNAMICS INC.社製のMOMENT OF INERTIA MEASURING INSTRUMENT MODEL NO.005−002が用いられうる。この左右慣性モーメントは、上下方向に延び且つ重心を通る軸まわりの慣性モーメントである。この軸は、所定のライ角及びリアルロフト角で水平面上に載置された基準状態のヘッドにおいて、ヘッドの重心を通り且つ鉛直方向に延びる軸である。
【0191】
重心深度は、上記局所座標系LS1におけるy軸に沿って測定される。この重心深度は、ヘッドの最も前方の点からヘッド重心までのy軸方向距離である。ヘッドの最も前方の点は、y座標が最大の点である。典型的には、ヘッドの最も前方の点は、リーディングエッジに存在する。この局所座標系LS1のy軸は、基準平面に対して平行である。基準平面とは、ヘッドを所定のライ角及びリアルロフト角で水平面h上に載置した基準状態における、この水平面hを意味する。所定のライ角及びリアルロフト角は、ゴルフクラブの品種ごとに設定される。所定のライ角及びリアルロフト角は、例えば製品カタログに掲載されている。この局所座標系LS1のz軸は、上記基準平面に対して垂直である。この局所座標系LS1のx軸は、ヘッドのフェース面に対して平行である。
【0192】
[実施例9]
図12は、パター用ゴルフクラブヘッド20をフェース側から見た図であり、図13は、ヘッド20を上側からみた図である。図14は図12のA−A線に沿った断面図であり、図15は図13のB−B線に沿った断面図である。ヘッド20は、ヘッド本体21、トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28を有する。ヘッド本体21は、フェース面22及びトップ面24を有する。ヘッド本体21は、略直方体である。
【0193】
前述されたように、安定性に優れるヘッドは、左右慣性モーメントを増大させ且つヘッド重心をシャフト軸線(の延長線)の近くに位置させることによって得られうる。ヘッド重心とシャフト軸線(の延長線)との距離は、重心距離とも称される。重心深度は、ヘッドの前端から重心までの前後方向距離であり、重心距離と相関する。
【0194】
重心深度(重心距離)を大きくすることなく左右慣性モーメントを増大させるには、例えば、以下の設計1、設計2、設計3及び設計4が採用されうる。
(設計1):ヘッドのトウ−ヒール方向長さを長くする。
(設計2):ヘッドのフェース−バック方向長さを短くする。
(設計2):高比重金属をよりトウ側及び/又はヒール側に配置する。
(設計3):シャフト軸線の延長線近傍に中空部又は低比重金属を設ける。
【0195】
安定性に優れるヘッドは、例えば、上記ヘッド20のようなヘッドによって実施可能である。このヘッド20では、ヘッド本体部のトウ−ヒール方向長さd1が大きくされ、フェース−バック方向長さd3が小さくされている。更に、トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28が配置されている。トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28の比重は、ヘッド本体21の比重よりも大きい。なお、トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28が設けられない場合でも、トウ−ヒール方向長さd1が更に大きくされることにより、左右慣性モーメントの増大が可能である。
【0196】
図16は、上記ヘッド20において以下の仕様を変更することにより得られる多数のヘッドがプロットされたグラフ(散布図)である。
(仕様1)ヘッド本体部のトウ−ヒール方向長さd1
(仕様2)フェース高さd2
(仕様3)フェース−バック方向長さd3
(仕様4)トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28の比重
(仕様5)トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28の位置
(仕様6)ヘッド本体の比重
(仕様7)ヘッド本体に設けられる中空部の有無及び体積
(仕様8)ヘッド本体に設けられる中空部の有無及び位置
【0197】
この図16では、縦軸が左右慣性モーメント(g・cm)であり、横軸が重心深度(mm)である。
【0198】
なお、図16に示されたヘッドのヘッド重量は、320g以上380g以下に設定された。この重量範囲は、実際に使用されうるパターヘッドの重量を考慮して、設定された。
【0199】
更に図16には、上記ゴルフクラブgc2及び上記ゴルフクラブgc3のデータが追加されている。図16のグラフにおいて、上記ゴルフクラブgc2のデータが、白抜き三角で示されている。図16のグラフにおいて、上記ゴルフクラブgc3のデータが、白抜き四角で示されている。
【0200】
特に好ましいヘッドの一例が、図16において黒塗りの丸で示されている。このヘッドは、上記ヘッド20において寸法等を調整することによって作成された。具体的には、トウ−ヒール方向長さd1が100mmとされ、フェース高さd2が25mmとされ、フェース−バック方向長さd3が22mmとされ、トウ側ウェイト26の重量が100gとされ、ヒール側ウェイト28の重量が100gとされ、ヘッド本体の重量が150gとされ、ヘッド本体の材質はアルミニウム合金とされ、トウ側ウェイト26及びヒール側ウェイト28の材質がタングステン合金とされた。このヘッドでは、左右慣性モーメントが6310g・cmであり、重心深度が11mmであり、ヘッド重量が350gであった。このヘッドは、安定性に優れる。
【0201】
本発明は、シミュレーションにより安定性を評価するという、新たな設計方法を提示する。この設計方法は、従来とは異なるヘッドが安定性を向上させうることを明らかにした。この知見は、従来の技術常識とは異質である。
【産業上の利用可能性】
【0202】
以上説明された方法は、あらゆるゴルフクラブに適用されうる。
【符号の説明】
【0203】
2・・・スイング計測システム
4・・・カメラ
6・・・コンピュータ
h1・・・人体(スイング主体)
Lk・・・リンクモデル
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7・・・リンク
J1、J2、J3、J4、J5、J6、J7・・・関節
LS1、LS2、LS3・・・局所座標系
gc1、gc2、gc3・・・ゴルフクラブ
hd1、hd2、hd3・・・ゴルフクラブヘッド
20・・・ゴルフクラブヘッド
21・・・ヘッド本体
22・・・フェース面
24・・・トップ面
26・・・ウェイト(トウ側ウェイト)
28・・・ウェイト(ヒール側ウェイト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフスイングを実測して測定結果を得るステップと、
上記測定結果に基づき、少なくとも2つのリンクを有するリンクモデルと関節トルクデータとを備えたスイングモデルを得るステップと、
上記スイングモデルを用いて、ゴルフクラブをスイングさせるシミュレーションを行うステップと、
上記シミュレーションの結果に基づいて、スイング中の特定の局面におけるヘッド情報を得るステップとを含み、
上記リンクモデルが、スイング主体の一部に対応するリンクと、ゴルフクラブの少なくとも一部に対応するリンクとを含み、
上記ゴルフクラブのスペック及び/又は上記スイングモデルを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得て、これらのヘッド情報に基づいて安定性が評価されるゴルフクラブの設計方法。
【請求項2】
上記ゴルフクラブのスペックを複数とすることにより複数の上記ヘッド情報を得て、これらのヘッド情報の差を上記スペックの差で除して得られる感度に基づいて上記安定性が評価される請求項1に記載のゴルフクラブの設計方法。
【請求項3】
上記スイング主体の一部が、人体の首部から手部までである請求項1又は2に記載の設計方法。
【請求項4】
上記ヘッド情報が、ヘッド速度、ヘッド軌道、打点又はフェース角度であり、
上記特定の局面が、インパクトの直前である請求項1から3のいずれかに記載の設計方法。
【請求項5】
上記スペックが、ヘッド重心位置及び/又はヘッドの慣性モーメントである請求項1から4のいずれかに記載の設計方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの設計方法によって設計されたゴルフクラブ。
【請求項7】
請求項5の設計方法によってヘッド重心位置及び/又はヘッドの慣性モーメントが設計されたゴルフクラブ。
【請求項8】
上記ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上であり、上記ヘッドの重心深度が18mm以下である請求項7に記載のゴルフクラブ。
【請求項9】
ヘッドとシャフトとグリップとを有し、
上記ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上であり、上記ヘッドの重心深度が18mm以下であるパター用ゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−115250(P2011−115250A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273053(P2009−273053)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)