説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】CFRP部材を有し且つ打球音に優れたゴルフクラブヘッドの提供。
【解決手段】ゴルフクラブヘッド2は、ヘッド本体h1とCFRP部材16とを備えている。このCFRP部材16は、クラウン6の少なくとも一部又はソール8の少なくとも一部を構成している。このCFRP部材16は、UD層が積層されたUD積層部18を有している。上記UD積層部18において、繊維の配向が、実質的に3方向である。この3方向が、第1方向、第2方向及び第3方向とされるとき、好ましくは、上記第1方向に対する上記第2方向の角度が、実質的に+60°であり、上記第1方向に対する上記第3方向の角度が、実質的に−60°である。好ましくは、上記UD積層部18は、繊維の配向角度における積層対称性を有している。好ましくは、上記UD積層部18の層数が5以上12以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。詳細には、CFRP部材を有するゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドにおいて、反発係数及びヘッド体積はルールによって規制されている。また、スイングバランスの観点から、ヘッド重量には制約がある。更に、実用性の観点から、高い強度が求められる。これらの規制及び制約は、高性能なヘッドの設計を難しくしている。
【0003】
ヘッドの性能を高めるために、CFRPを用いたヘッドが知られている。CFRPとは、炭素繊維強化プラスチックを意味する。CFRPは、チタンよりも高い比強度を有しうる。CFRPの使用により、余剰重量が創出されうる。この余剰重量を再配置することで、ヘッドの重心位置が変更されうる。この余剰重量は、ヘッドの設計自由度を高めうる。
【0004】
特許第4222118号公報は、一体のチタン系金属材よりなる前面体と、金属製ソールプレートと、繊維強化樹脂体とを有する中空のゴルフクラブヘッドを開示する。段落[0036]には、トウ−ヒール方向に対し時計回り方向に60°斜交するように炭素繊維が配向したシートと、トウ−ヒール方向に対し反時計回りに60°斜交するように配向したシートとが開示されている。特開2005−253606号公報の図6には、4方向に配向した積層体が開示されている。特開2005−312646号公報は、繊維が30〜90°の角度で交差する構成を開示する。特開2005−296626号公報は、ヘッド前後方向線に対して繊維が実質的に0°の角度をなす0°方向プリプレグと、ヘッド前後方向線に対して繊維が実質的に90°の角度をなす90°方向プリプレグとを含む樹脂部材を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4222118号公報
【特許文献2】特開2005−253606号公報
【特許文献3】特開2005−312646号公報
【特許文献4】特開2005−296626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CFRPは、金属と比較して、減衰比(損失係数)が大きい。このため、打球音が短くなりやすい。更にCFRPが用いられたヘッドでは、打球音の一次ピーク周波数が低い傾向にある。短く且つ周波数の低い打球音は、ゴルファーに悪い印象を与えやすい。打球音は、ゴルファーの心理及びスイングに影響を与えうる。打球音は改善されるのが好ましい。
【0007】
本発明の目的は、CFRP部材を有し且つ打球音に優れたゴルフクラブヘッドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、ヘッド本体とCFRP部材とを備えている。このCFRP部材は、クラウンの少なくとも一部又はソールの少なくとも一部を構成している。このCFRP部材は、UD層が積層されたUD積層部を有している。上記UD積層部において、繊維の配向が、実質的に3方向である。
【0009】
上記3方向が、第1方向、第2方向及び第3方向とされる。このとき、好ましくは、上記第1方向に対する上記第2方向の角度が、実質的に+60°であり、上記第1方向に対する上記第3方向の角度が、実質的に−60°である。
【0010】
好ましくは、上記UD積層部が、繊維の配向角度における積層対称性を有している。
【0011】
好ましくは、上記UD積層部の層数は5以上12以下である。
【0012】
好ましくは、上記CFRP部材は、上記クラウンの少なくとも一部を構成している。
【0013】
好ましくは、ヘッド体積は400cc以上である。好ましくは、ヘッド重量は200g以下である。好ましくは、左右慣性モーメントは4600g・cm以上である。
【発明の効果】
【0014】
CFRP部材を有し且つ打球音に優れたゴルフクラブヘッドが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドの斜視図である。
【図2】図2は、図1のヘッドで用いられているヘッド本体を示す平面図である。
【図3】図3は、図1のヘッドで用いられているCFRP部材の分解斜視図である。
【図4】図4は、図3のCFRP部材の各層における繊維の配向を示す図である。
【図5】図5は、積層対称性を説明するための断面図である。
【図6】図6は、ヘッドの平面図を示すシミュレーション画像である。この図6では、CFRP部材16が黒色で示されている。
【図7】図7は、ヘッドの底面図を示すシミュレーション画像である。
【図8】図8は、ヘッドの平面図を示すシミュレーション画像である。この図8では、クラウン開口cp1の位置が示されている。
【図9】図9は、シミュレーションAにおける一次固有振動数の計算結果が示されたグラフである。
【図10】図10は、一次モードでの振動形態を示すシミュレーション画像である。図10では、ヘッドA1からA8が示されている。
【図11】図11は、一次モードでの振動形態を示すシミュレーション画像である。図10では、ヘッドA9からA16が示されている。
【図12】図12は、シミュレーションBにおける固有振動数fm(クラウン一次モードでの固有振動数)の計算結果が示されたグラフである。
【図13】図13は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図13では、ヘッドBx1からBx3が示されている。
【図14】図14は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図14では、ヘッドBx4からBx7が示されている。
【図15】図15は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図15では、ヘッドBy1からBy3が示されている。
【図16】図16は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図16では、ヘッドBy4からBy7が示されている。
【図17】図17は、シミュレーションCにおける固有振動数fm(クラウン一次モードでの固有振動数)の計算結果が示されたグラフである。
【図18】図18は、一次モード、二次モード、三次モード及び四次モードにおけるヘッドC1の振動形態が示されたシミュレーション画像である。
【図19】図19は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図19では、ヘッドC2からC5が示されている。
【図20】図20は、クラウン一次モードでの振動形態が示されたシミュレーション画像である。図20では、ヘッドC6からC8が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
本願では、基準状態、トウ−ヒール方向及びフェース−バック方向FBが定義される。
【0018】
[基準状態]
基準状態とは、所定のライ角及びリアルロフト角でヘッドが水平面h上に載置された状態である。より詳細には、基準状態とは、ヘッドのシャフト孔の中心軸線zを任意の垂直面VP1内に配し、且つ中心軸線zを水平面hに対してそのライ角で傾けるとともに、フェース面を垂直面VP1に対してそのリアルロフト角で傾けて、水平面hに接地させた状態である。垂直面VP1は、鉛直線に対して平行な平面である。
【0019】
[トウ−ヒール方向]
上記基準状態のヘッドにおいて、上記垂直面VP1と上記水平面hとの交線に平行な方向が、トウ−ヒール方向である。
【0020】
[フェース−バック方向]
上記基準状態のヘッドにおいて、上記トウ−ヒール方向に対して垂直であり且つ上記水平面hに平行な方向が、フェース−バック方向である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッド2の斜視図である。ヘッド2は、ウッド型ヘッドである。ヘッド2は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。ホーゼル10は、シャフト孔12を有している。ヘッド2は、中空構造を有する。更にヘッド2は、サイド14を有する。
【0022】
ヘッド2は、複数の部材を接合することによって形成されている。本実施形態のヘッド2は、ヘッド本体h1と、クラウン部材c1とを接合することによって形成されている。なお、ヘッド2は、ヘッド本体h1とソール部材とを接合することによって形成されていてもよい。
【0023】
更に、ヘッド本体h1が、複数の部材を接合することによって形成されていてもよい。例えばヘッド本体h1が、フェース部分が開口した第1部材と、フェースを形成する第2部材とによって形成されていてもよい。
【0024】
図2は、ヘッド本体h1をクラウン側から見た平面図である。本実施形態では、ヘッド本体h1が、クラウン開口cp1を有している。図2では、クラウン部材c1が図示されていない。よって図2では、ソール8の内面8nが描かれている。ヘッド2では、クラウン開口cp1はクラウン部材c1によって塞がれている。よってヘッド2では、ソール8の内面8nは視認されない。
【0025】
図2が示すように、ヘッド本体h1は、クラウン開口cp1の周囲に、段差部cp2を有している。段差部cp2の段差の高さは、クラウン部材c1の厚みに略等しい。よって、ヘッド2の外面において、クラウン部材c1とヘッド本体h1との境界線k1に段差は無い。
【0026】
クラウン部材c1は、クラウン6の一部を形成している。クラウン部材c1は、クラウン6の大部分を形成している。クラウン部材c1は、クラウン6の面積の50%以上を占めている。
【0027】
クラウン部材c1とヘッド本体h1との接合方法は、接着である。この接着には、接着剤が用いられている。クラウン開口cp1と段差部cp2との間の領域が、重複部a1である。この重複部a1では、クラウン部材c1とヘッド本体h1とが重なっている。この重複部a1において、クラウン部材c1とヘッド本体h1とが接合されている。重複部a1は、クラウン開口cp1の周囲全体に亘って設けられている。
【0028】
重複部a1以外の部分において、クラウン部材c1は、ヘッド本体h1によってバックアップされていない。重複部a1以外の部分において、クラウン部材c1は、単独でクラウン6を形成している。
【0029】
クラウン部材c1は、CFRPによって形成されている。CFRPとは、炭素繊維強化プラスチックを意味する。本実施形態では、クラウン部材c1がCFRP部材16である。
【0030】
本願において、CFRP部材のみで構成されている部分が、CFRP単独部とも称される。クラウン部材c1において、重複部a1を除く部分が、CFRP単独部である。換言すれば、CFRP単独部は、クラウン開口cp1よりも内側の部分である。CFRP単独部は、ヘッド本体h1によってバックアップされていない。CFRP単独部は、クラウン6の面積の50%以上を占めている。
【0031】
なお、CFRP部材16は、クラウン6以外の部分に配置されていてもよい。CFRP部材16が、クラウン6及びサイド14に設けられても良い。CFRP部材16が、クラウン6、サイド14及びソール8に設けられてもよい。CFRP部材16が、ソール8に設けられてもよい。CFRP部材16が、ソール8及びサイド14に設けられても良い。
【0032】
CFRP部材16は、積層体である。CFRP部材16は、複数の層によって形成されている。全ての層が、CFRPによって形成されている。
【0033】
CFRP部材16の作製には、プリプレグが用いられる。プリプレグは、マトリックス樹脂と炭素繊維とを有する。1つの層は、1枚のプリプレグによって形成されている。複数のプリプレグを重ねることで、積層体が形成される。
【0034】
図3は、CFRP部材16(クラウン部材c1)の積層を示す分解斜視図である。図4は、CFRP部材16の積層を示す平面図である。CFRP部材16は、7つの層を有する。CFRP部材16は、第1層s1、第2層s2、第3層s3、第4層s4、第5層s5、第6層s6及び第7層s7を有する。第1層s1は、最内層である。第1層s1は、ヘッド2の内面を形成している。換言すれば、第1層s1は、ヘッド2の中空部に接している。第7層s7は、最外層である。第7層s7は、ヘッド2の外面を形成している。外観性の観点から、通常、第7層s7(最外層)の外面は、研磨される。更に研磨された表面には、通常、塗装が施される。本実施形態では、第7層s7の外側に塗膜が形成される。なお、図3では各層は平坦であるが、実際のヘッド2では、各層は曲面を形成する。また図3において、各層の厚みは、実際よりも厚く描かれている。
【0035】
CFRP部材16の作製では、CFRP部材16を成形するための金型が準備される。また、図3に示される如く、複数のプリプレグが裁断される。次に、これらのプリプレグは、重ねられつつ、上記金型にセットされる。次に、加熱及び加圧がなされる。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化され、CFRP部材16が成形される。
【0036】
CFRP部材16は、UD積層部18と、クロス層20とを有する。UD積層部18は、UD層が積層した部分である。UDとは、ユニディレクションの略である。UD層では、繊維の配向が1方向である。UD層は、UDプリプレグによって形成される。クロス層20では、炭素繊維の配向は、一般に2方向である。典型的なクロス層20は、炭素繊維の織物を有している。典型的なクロス層20は、織物プリプレグによって形成される。
【0037】
本実施形態では、第1層s1から第6層s6までがUD積層部18であり、第7層s7がクロス層20である。クロス層20は、UD積層部18の外側に位置する。UD積層部18とクロス層20とは、接している。
【0038】
[積層対称性]
本願では、「積層対称性」との文言が用いられる。この文言は、本願において独自に定義される。この積層対称性は、UD積層部18において定義される。この積層対称性は、スペックごとに定義されうる。このスペックとして、繊維の配向角度、層厚み、炭素繊維種類、繊維含有率及びプリプレグ種類が例示される。
【0039】
積層対称性とは、あらゆるnにおいて、中立面から数えて外側のn層目と、中立面から数えて内側のn層目とで、スペックが実質的に同じであることを意味する。nは1以上の整数である。
【0040】
図5(A)及び図5(B)は、積層対称性を説明するための図である。図5(A)及び図5(B)は、それぞれ、UD積層部の断面図を示す。なお、この断面図では、各層が平坦であるが、実際には、各層は曲面を形成する。
【0041】
UD積層部の層数Nが偶数である場合、上記中立面は、[N/2]層目と、[(N/2)+1]層目との境界を意味する。例えば、図5(A)が示すように、UD積層部の層数Nが6である場合、中立面m1は、第3層s3と第4層s4との境界である。この図5(A)の実施形態は、次の(a1)、(a2)及び(a3)を満たす。よって、図5(A)の実施形態は、繊維の配向角度における積層対称性を有する。
(a1)第3層s3と第4層s4とで繊維の配向角度が実質的に同一である。
(a2)第2層s2と第5層s5とで繊維の配向角度が実質的に同一である。
(a3)第1層s1と第6層s6とで繊維の配向角度が実質的に同一である。
【0042】
一方、UD積層部の層数Nが奇数である場合、上記中立面は、[(N/2)+1]層目の層自体を意味する。例えば、図5(B)が示すように、UD積層部の層数Nが5である場合、中立面m1は、第3層s3である。この図5(B)の実施形態は、次の(b1)及び(b2)を満たす。よって、図5(B)の実施形態は、繊維の配向角度における積層対称性を有する。
(b1)第2層s2と第4層s4とで繊維の配向角度が実質的に同一である。
(b2)第1層s1と第5層s5とで繊維の配向角度が実質的に同一である。
【0043】
なお、繊維の配向角度において、「実質的に」とは、±10°(好ましくは±5°)の誤差を許容する趣旨である。通常、ヘッド2の外面は、自由曲面によって形成されており、平面ではない。このため、繊維の配向角度には、ある程度の誤差が不可避的に生ずる。
【0044】
上述の説明は、繊維の配向角度における積層対称性である。他のスペックにおける積層対称性も同様に定義される。例えば、UD積層部の層数Nが6である場合、次の(a4)、(a5)及び(a6)を満たすUD積層部は、層厚みにおける積層対称性を有する。
(a4)第3層s3と第4層s4とで層厚みが実質的に同一である。
(a5)第2層s2と第5層s5とで層厚みが実質的に同一である。
(a6)第1層s1と第6層s6とで層厚みが実質的に同一である。
【0045】
なお、層厚みにおいて、「実質的に」とは、±10%(好ましくは±5%)の誤差を許容する趣旨である。通常、UD積層部18の成形工程において、マトリックス樹脂の一部が流動する。このため、層厚みには、ある程度の誤差が不可避的に生ずる。
【0046】
同様に、例えば、UD積層部の層数Nが6である場合、次の(a7)、(a8)及び(a9)を満たすUD積層部は、プリプレグ種類における積層対称性を有する。
(a4)第3層s3と第4層s4とで、使用されたプリプレグの種類が同一である。
(a5)第2層s2と第5層s5とで、使用されたプリプレグの種類が同一である。
(a6)第1層s1と第6層s6とで、使用されたプリプレグの種類が同一である。
【0047】
プリプレグの種類は、プリプレグの品番によって判別されうる。
【0048】
本願では、繊維の配向角度が数値により表記される。理解を容易とするため、本願における配向角度θの表記において、次のルールを定める(図4参照)。
[ルール1]:繊維の配向角度は、クラウン側から見た平面視において決定される。
[ルール2]:フェース−バック方向FBに対して45°傾斜した角度が、基準方向X1とされる。この基準方向X1が、0°とされる。
[ルール3]:クラウン側から見て、時計回り方向がプラスとされ、反時計回り方向がマイナスとされる。
【0049】
なお、配向角度θは、±10°(好ましくは±5°)の許容範囲を有している。
【0050】
図4が示すように、CFRP部材16では、第1層s1の配向角度θは60°(+60°)であり、第2層s2の配向角度θは−60°であり、第3層s3の配向角度θは0°であり、第4層s4の配向角度θは0°であり、第5層s5の配向角度θは−60°であり、第6層s6の配向角度θは60°である。なお、第7層s7の配向角度θは、0°及び45°である。
【0051】
したがって、UD積層部18は、繊維の配向角度における積層対称性を有する。
【0052】
UD積層部18において、第3層s3と第4層s4とで使用されたプリプレグの種類が同一であり、第2層s2と第5層s5とで使用されたプリプレグの種類が同一であり、第1層s1と第6層s6とで使用されたプリプレグの種類が同一である。よって、UD積層部18は、プリプレグ種類における積層対称性を有する。プリプレグの種類が同一であれば、層厚みは同一であり、炭素繊維種類も同一であり、繊維含有率(質量%)も同一である。よって、UD積層部18は、層厚みにおける積層対称性を有する。UD積層部18は、炭素繊維種類における積層対称性を有する。UD積層部18は、繊維含有率における積層対称性を有する。
【0053】
上述の通り、UD積層部18において、繊維の配向は、−60°(±10°)、0°(±10°)及び60°(±10°)である。即ち、UD積層部18において、繊維の配向は、実質的に3方向である。
【0054】
この3方向が、第1方向、第2方向及び第3方向とされる。UD積層部18では、第1方向に対する第2方向の角度が、+60°(±10°)である。更に、第1方向に対する第3方向の角度が、−60°(±10°)である。UD積層部18において、この3方向以外の方向に配向する繊維は存在しない。
【0055】
繊維が実質的に3方向であるUD積層部18は、2方向及び4方向の場合と比較して、有利な効果を奏しうることが判明した。3方向への配向が、打球音の改善に有利であることが判明した。この効果は、後述される実施例によって示される。
【0056】
CFRP部材16を用いる目的の一つは、余剰重量の創出である。よって、より軽量なCFRP部材16が望まれる。軽量化を達成するためには、層数が限定される。限られた層数において、打球音の改善が望まれる。3方向への配置は、層数が限定された条件下において、打球音を効果的に改善しうる。
【0057】
更に、積層対称性が、ヘッドの固有振動数を高めるのに有利であることが判明した。石勝対称性は、打球音の改善に有利である。詳細な理由は不明である。積層対称性の効果は、後述される実施例によって示される
【0058】
UD積層部18の層数は、限定されない。繊維を3方向とする観点から、UD積層部18の層数は3層以上とされる。打球音の周波数を高める観点から、UD積層部18の層数は、5層以上が好ましく、6層以上がより好ましい。軽量化の観点から、UD積層部18の層数は、12層以下が好ましく、9層以下がより好ましく、7層以下がより好ましい。
【0059】
打球音の周波数を高める観点から、UD積層部18の厚みは、0.5mm以上が好ましく、0.6mm以上がより好ましい。軽量化の観点から、UD積層部18の厚みは、0.9mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。
【0060】
打球音の周波数を高める観点から、CFRP部材の厚み(総厚み)は、0.5mm以上が好ましく、0.6mm以上がより好ましい。軽量化の観点から、CFRP部材の厚みは、0.9mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。
【0061】
CFRP部材の使用に起因して、余剰重量が生まれる。この余剰重量は、ヘッドの設計自由度を向上させる。より好ましくは、CFRP部材は、ヘッド重心位置を下げるために用いられる。ヘッドの重心位置を下げることで、高い打ち出し角と少ないバックスピン速度が達成されうる。低い重心位置は、飛距離の増大に寄与しうる。この観点から、CFRP部材の重心位置は、ヘッド全体の重心位置よりも上側であるのが好ましい。CFRP部材の好ましい配置として、次の配置AからDが挙げられる。
[配置A]:CFRP部材が、クラウンの一部を構成する。
[配置B]:CFRP部材が、クラウンの全体を構成する。
[配置C]:CFRP部材が、クラウンの一部及びサイドの一部を構成する。
[配置D]:CFRP部材が、クラウンの全体及びサイドの一部を構成する。
【0062】
余剰重量の創出に大きく寄与するのは、前述したCFRP単独部である。換言すれば、重心位置の移動に大きく寄与するのは、このCFRP単独部である。この観点から、以下の配置EからHがより好ましい。
[配置E]:CFRP単独部が、クラウンの一部を構成する。
[配置F]:CFRP単独部が、クラウンの全体を構成する。
[配置G]:CFRP単独部が、クラウンの一部及びサイドの一部を構成する。
[配置H]:CFRP単独部が、クラウンの全体及びサイドの一部を構成する。
【0063】
ヘッド重心を下げる観点からは、CFRP部材がソールを構成しないのが好ましい。
【0064】
上述のCFRP部材が用いられることで、打球音の改善が達成される。更に、上述のCFRP部材が用いられることで、ヘッド体積及びヘッド慣性モーメントを増加させつつ、ヘッド重量を抑制することができる。この観点から、ヘッド体積は400cc以上であるのが好ましい。空気抵抗の低減及び構えやすさの観点から、ヘッド体積は、500cc以下が好ましく、470cc以下がより好ましく、460cc以下が更に好ましい。上記構成のCFRP部材により、ヘッド重量が200g以下に抑制されうる。耐久性の観点から、ヘッド重量は100g以上が好ましく、150g以上がより好ましい。
【0065】
打球の方向安定性の観点から、ヘッドの左右慣性モーメント(左右MI)は、4600g・cm以上が好ましく、5000g・cm以上がより好ましく、5500g・cm以上が更に好ましい。性能上、左右MIに制限を設ける必要は無い。但し、使用される材料及び構造を考慮すると、左右MIは、8000g・cm以下、更には7000g・cm以下に限定されてもよい。
【0066】
左右MIの測定(計算)では、Z軸が考慮される。このZ軸は、上記基準状態のヘッドにおいて、上記水平面hに対して垂直な軸線である。左右MIは、ヘッド重心を通りこのZ軸に平行な軸回りの慣性モーメントである。
【0067】
クロス層20は、用いられても良いし、用いられなくても良い。クロス層20は、成形性を向上させうる。CFRP部材の成形中において、各層に皺が発生しうる。クロス層20は、この皺の発生を抑制しうる。この効果を得る観点から、クロス層20は、最外層及び/又は最内層に設けられるのが好ましく、最外層に設けられるのがより好ましい。
【0068】
ヘッドの製造工程において、通常、CFRP部材の表面は研磨される。最外層のクロス層20は、UD積層部18における外側の層が研磨されることを防止する。UD積層部18の外側の層が研磨された場合、UD積層部18の積層対称性が失われる。クロス層20の存在により、研磨がなされた場合であっても、UD積層部18の積層対称性が維持される。また、最外層のクロス層20は、研磨後の表面を滑らかにするのに役立つ。この滑らかさは、ヘッドの美観性を向上させうる。これらの観点から、クロス層20は、最外層に設けられるのが好ましい。
【0069】
これらの効果を高める観点、及びコスト低減の観点から、クロス層20は、互いに配向が90°相違する2方向の繊維を有するのが好ましい。
【0070】
後述される実施例が示すように、クロス層20における繊維の配向の影響は小さいことが判明した。UD積層部18における繊維の配向が重要である。この観点から、クロス層20における繊維の配向は限定されない。
【0071】
重量抑制の観点から、クロス層20の層数は、2以下であるのが好ましく、1がより好ましい。
【0072】
CFRP部材に用いられる炭素繊維の引張弾性率は限定されない。強度と剛性とのバランスの観点から、この引張弾性率は、23.5(tonf/mm)以上が好ましく、40(tonf/mm)以下が好ましい。
【0073】
CFRP部材の材料として使用可能なプリプレグの例が、表1に示される。
【0074】
【表1】


【0075】
前述したように、上記3方向のそれぞれが、第1方向、第2方向及び第3方向とされる。ここで、繊維の向きが第1方向である層の数がN1とされ、繊維の向きが第2方向である層の数がN2とされ、繊維の向きが第3方向である層の数がN3とされる。N1は、1以上の整数である。N2は、1以上の整数である。N3は、1以上の整数である。
【0076】
軽量化の観点から、N1は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。同様に、N2は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。同様に、N3は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0077】
N1、N2及びN3のうちの最大値がNmaxとされ、N1、N2及びN3のうちの最小値がNminとされる。積層対称性の観点から、差(Nmax−Nmin)は、1以下が好ましく、0が特に好ましい。
【0078】
好ましくは、ヘッドの固有モード及びヘッドの固有振動数が考慮される。これらを考慮することで、CFRP部材を用いたヘッドの打球音が効果的に改善されうる。
【0079】
本願において、以下の用語が用いられる。
【0080】
[固有モード]
あらゆる物体は、振動するときの固有の形態を有する。この固有の形態が、固有モードである。本願では、ヘッド(ヘッド全体)の固有モードが考慮される。ヘッドの固有モードは、打球音と関連する。
【0081】
本願にいう「固有モード」とは、ヘッドの固有モードである。本願において、単に「固有モード」という場合、ヘッド全体の固有モードを意味する。本願において、「ヘッドの固有モード」という場合も、ヘッド全体の固有モードを意味する。
【0082】
固有モードを得る方法は限定されず、モード試験(実験モード解析とも称される)又はモード解析が用いられ得る。モード試験では、加振実験を行い、この実験の結果に基づいて、固有モードを求める。モード解析では、シミュレーションにより、固有モードを求める。このシミュレーションでは、例えば、有限要素法が用いられ得る。モード試験及びモード解析の方法は、公知である。
【0083】
モード試験又はモード解析は、自由支持条件で行われる。即ち、拘束条件がフリーとされる。モード解析では、例えば、市販の固有値解析ソフトウェアが用いられる。このソフトウェアとして、商品名「ABAQUS」(SIMULIA製)、MARC(MSC SOFTWARE社製)及び商品名「NX」(Siemens PLM Solutions社製)が例示される。
【0084】
後述される実施例では、固有値解析ソフトウェアを用いたモード解析がなされている。一方、実測によるモード試験は、例えば、次のように実施される。ヘッドのいずれかの部位(例えばネック端面)に糸を取り付け、ヘッドを糸につるした状態で、ヘッド各部をインパクトハンマーで叩き、フェース中心の加速度応答との伝達関数を計測することで、モードが求められる。
【0085】
[固有振動数]
本願にいう「固有振動数」とは、ヘッドの固有振動数である。本願において、単に「固有振動数」という場合、ヘッド全体の固有振動数を意味する。
【0086】
[N次固有振動数]
本願にいう「N次固有振動数」とは、「ヘッド全体における固有振動数のうち、小さい方から数えてN番目の固有振動数」である。ただし、Nは1以上の整数である。ヘッドが変形しない剛体モードは、次数に数えない。例えば、「一次固有振動数」とは、「ヘッド全体における一次の固有振動数」である。例えば、「二次固有振動数」とは、「ヘッド全体における二次の固有振動数」である。本願において、単に「N次固有振動数」という場合、ヘッド全体におけるN次の固有振動数を意味する。
【0087】
[N次モード]
本願にいう「N次モード」とは、「ヘッド全体におけるN次の固有モード」である。ただし、Nは1以上の整数である。例えば、「一次モード」とは、「ヘッド全体における一次の固有モード」である。例えば、「二次モード」とは、「ヘッド全体における二次の固有モード」である。本願において、単に「N次モード」という場合、ヘッド全体におけるN次の固有モードを意味する。
【0088】
「一次固有振動数」は、ヘッドの固有振動数のうち、最も小さい固有振動数である。「二次固有振動数」は、小さいほうから2番目の固有振動数である。「3次固有振動数」は、小さい方から3番目の固有振動数である。「N次固有振動数」とは、小さい方からN番目の固有振動数である。打球音を高くするには、「一次固有振動数」を高くするのが最も有効であると考えられる。次数が低いほど、打球音に対する影響は大きい傾向にある。
【0089】
[ヘッドの次数]
ヘッド全体における固有モードの次数を意味する。
【0090】
[最大振幅点]
N次の固有モードにおいて、最も振幅が大きい点が、最大振幅点である。最大振幅点は、通常、各次の固有モード毎に、一箇所である。例えば、一次モードでの最大振幅点Pm1は、通常、一箇所である。同様に、二次モードでの最大振幅点Pm2は、通常、一箇所である。最大振幅点Pm1は、一次モードにおいて、最も振幅の大きな点である。最大振幅点Pm2は、二次モードにおいて、最も振幅の大きな点である。
【0091】
打球音は、ゴルフクラブの重要な性能の一つとみなされている。この打球音を改善するため、後述される実施例では、CFRP部材が設けられた部位での振動が解析される。CFRP部材は、チタン合金等の金属と比較して、減衰比が大きい。この大きな減衰比は、打球音を短くする。またCFRP部材は、チタン合金等の金属と比較して、打球音の周波数を低下させやすい。より長く且つ高い打球音が望まれる。
【0092】
CFRP部材が設けられることで、打球音の周波数は低くなる傾向にあり、且つ、打球音が短くなる傾向にある。このような打球音を改善するため、CFRP部材が設けられた部位での振動が解析されるのが好ましい。後述される実施例において、この解析が示される。
【0093】
本発明は打球音を改善しうる。よって本発明は、打球音が大きいヘッドに適用されるのが好ましい。この観点から、中空ヘッドが好ましく、ヘッドの肉厚が薄くされるのが好ましい。打球音の大きさの観点から、ソールの平均厚さTsは、1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.8mm以下がより好ましい。ヘッドの強度の観点から、ソールの平均厚さTsは、0.5mm以上が好ましい。打球音の大きさの観点から、クラウンの平均厚さTcは、1.2mm以下が好ましく、1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.7mm以下がより好ましい。ヘッドの強度の観点から、クラウンの平均厚さTcは、0.4mm以上が好ましい。
【0094】
打球音の高さの観点から、ヘッド本体h1の材質は、金属が好ましい。この金属として、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金及びタングステン−ニッケル合金から選ばれる一種以上の金属が例示される。ステンレス鋼として、SUS630及びSUS304が例示される。ステンレス鋼の具体例として、CUSTOM450(カーペンター社製)が例示される。チタン合金として、6−4チタン(Ti−6Al−4V)、Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al等が例示される。ヘッド体積が大きい場合、打球音が大きくなりやすい。本発明は、打球音が大きなヘッドにおいて特に効果的である。この観点から、ヘッド本体h1の材質は、チタン合金が特に好ましい。この観点から、ソール及びサイドの材質は、チタン合金が好ましい。
【実施例】
【0095】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0096】
[シミュレーション用ヘッドデータの作成]
図1及び図2に示されるヘッドの三次元データが作製された。ヘッド体積は449ccとされ、ヘッド重量は178gとされた。市販のプリプロセッサ(HyperMesh等)を用いて、ヘッドを有限の要素にメッシュ分割し、計算モデルを得た。図6は、メッシュ分割されたヘッドの平面図であり、図7は、メッシュ分割されたヘッドの底面図である。図6のクラウンにおいて黒く塗られた部分が、CFRP部材を示している。図8は、図6と同じく、メッシュ分割されたヘッドの平面図である。図8では、図6と異なり、CFRP部材が黒く塗られていない。図8では、前述したクラウン開口cp1の位置が太線で示されている。このクラウン開口cp1の内側が、前述したCFRP単独部である。
【0097】
クラウン開口cp1(図8参照)は、CFRP部材の輪郭線(図6参照)よりも内側に位置する。CFRP部材の輪郭線とクラウン開口cp1との間の領域が、前述した重複部a1(図示されず)である。
【0098】
このヘッドを用いて、固有値解析を行い、固有振動数及びモード形状を計算した。この固有値解析には、固有値解析ソフトウェアを用いた。このソフトウェアとして、MSC Software社製の「NASTRAN」が用いられた。境界条件は自由支持(拘束なし)とされた。
【0099】
このように作成されたヘッドデータを用い、CFRP部材の積層構成を様々に変更してシミュレーション(固有値解析)を行った。なお、以下の計算モデルの全てにおいて、各層の厚みは、均等とされた。即ち、各層の厚みは、CFRP部材の厚みを層数で割った値とされた。
【0100】
また、シミュレーションでは、次の物性値が用いられた。繊維弾性率が24(tonf/mm)の層では、縦方向弾性率が142GPaとされ、ポアソン比が0.32とされ、横方向弾性率が8.8GPaとされ、面内せん断弾性係数が4.2GPaとされた。繊維弾性率が30(tonf/mm)の層では、縦方向弾性率が168GPaとされ、ポアソン比が0.31とされ、横方向弾性率が7.9GPaとされ、面内せん断弾性係数が4.1GPaとされた。繊維弾性率が40(tonf/mm)の層では、縦方向弾性率が228GPaとされ、ポアソン比が0.26とされ、横方向弾性率が7.2GPaとされ、面内せん断弾性係数が4.1GPaとされた。なお、縦方向とは繊維配向に対して平行な方向を意味し、横方向とは繊維配向に対して垂直な方向を意味する。
【0101】
本発明の効果を詳細に確認する目的で、3種類のシミュレーションが実施された。シミュレーションA、シミュレーションB及びシミュレーションCの順に、説明する。
【0102】
[シミュレーションA]
CFRP部材の仕様を変更することにより、ヘッド(計算モデル)A1からA16を得た。これらのヘッドの一次固有振動数が計算された。一次固有振動数が高いほど、打球音が高くなりやすい。一次固有振動数が高いほど、良好な結果であると言える。
【0103】
[ヘッドA1]
ヘッドA1におけるCFRP部材の仕様は、次の通りとされた。このヘッドA1の仕様は、下記の表2にも示されている。
・繊維の引張弾性率:24(tonf/mm
・合計の層数:6
・UD積層部の層数:6
・クロス層の層数:0
・CFRP部材の総厚み:0.76mm
・繊維の配向角度(内側の層から順に):90°/0°/90°/30°/150°/90°
【0104】
[ヘッドA2からA16]
UD積層部の層数が、ヘッドA2からA10では6とされ、ヘッドA11では8とされ、ヘッドA12では10とされ、ヘッドA13からA16では5とされた。これらのヘッドの仕様が、下記の表2に示される。
【0105】
【表2】

【0106】
各ヘッドにおける一次固有振動数の計算結果は、次の通りである。
・[ヘッドA1]:4841Hz
・[ヘッドA2]:5041Hz
・[ヘッドA3]:5001Hz
・[ヘッドA4]:5002Hz
・[ヘッドA5]:4968Hz
・[ヘッドA6]:4983Hz
・[ヘッドA7]:4954Hz
・[ヘッドA8]:4074Hz
・[ヘッドA9]:4554Hz
・[ヘッドA10]:5087Hz
・[ヘッドA11]:4244Hz
・[ヘッドA12]:4498Hz
・[ヘッドA13]:4606Hz
・[ヘッドA14]:4746Hz
・[ヘッドA15]:4641Hz
・[ヘッドA16]:4737Hz
【0107】
図9は、これらヘッドA1からA16の一次固有振動数がプロットされたグラフである。図10及び11は、これらヘッドA1からA16の一次モードでの振動が示されたシミュレーション画像である。図10には、ヘッドA1からA8が示されている。図11には、ヘッドA9からA16が示されている。これらのシミュレーション画像においては、濃い部分ほど振幅が大きい。
【0108】
これら図10及び11において、最も濃い部分の中心部が、一次モードでの最大振幅点Pm1である。いずれのヘッドにおいても、最大振幅点Pm1は、CFRP単独部に位置している。ただし、ヘッドによって、最大振幅点Pm1の位置は相違している。
【0109】
図9が示すように、一次固有振動数に相違が見られた。これらの相違は、本発明の効果を示している。この効果について以下に説明する。
【0110】
ヘッドA1からヘッドA8は、繊維の配向を除き、CFRP部材の仕様が共通である。これらヘッドA1からA8において一次固有振動数を比較すると、ヘッドA8が最も低く、次に低いのがヘッドA1である。ヘッドA2からA7では、一次固有振動数が比較的高い。ヘッドA8の繊維の配向は2方向である。ヘッドA1の繊維の配向は4方向である。これらに対して、ヘッドA2からA7の繊維の配向は3方向である。この結果から、繊維の配向が3方向であることの優位性が示されている。
【0111】
ヘッドA2とヘッドA3とは、積層の順序以外、同一である。ヘッドA2は繊維の配向角度における積層対称性を有するが、ヘッドA3はその積層対称性を有さない。これら両者を比較すると、ヘッドA2のほうが一次固有振動数が高い。これは、積層対称性の優位性を示している。同様に、ヘッドA4とヘッドA5との比較において、積層対称性の優位性が示されている。同様に、ヘッドA6とヘッドA7との比較において、積層対称性の優位性が示されている。
【0112】
ヘッドA8からA10では、繊維の引張弾性率のみが相違している。引張弾性率が大きいほど、一次固有振動数が高い。
【0113】
ヘッドA11及びA12では、層数が増やされており、CFRP部材の厚みも大きい。それにも関わらず、これらヘッドA11及びA12の一次固有振動数は、前述したヘッドA2からA7よりも低い。この結果も、繊維の配向が3方向であることの優位性を示している。
【0114】
ヘッドA13からA16では、層数が5である。ヘッドA13とヘッドA15とは、積層の順序以外、同一である。ヘッドA15は繊維の配向角度における積層対称性を有するが、ヘッドA13はその積層対称性を有さない。これら両者を比較すると、ヘッドA15のほうが一次固有振動数が高い。これは、積層対称性の優位性を示している。同様に、ヘッドA14とヘッドA16との比較において、積層対称性の優位性が示されている。
【0115】
[シミュレーションB]
シミュレーションBでは、積層間における繊維角度の相対関係を固定し、配向角度の絶対値の影響を検討した。先ず、次の2種類の積層パターンBx及びByが決定された。積層パターンBxでは、繊維の配向が2方向とされた。積層パターンByでは、繊維の配向が3方向とされた。いずれのパターンも、層数は6である。
・[積層パターンBx]:CFRP部材の各層の角度が、内側から順に、0°/90°/0°/90°/90°/0°。
・[積層パターンBy]:CFRP部材の各層の角度が、内側から順に、0°/−60°/−120°/0°/−60°/−120°。
【0116】
なお、積層パターンBx及びByのいずれにおいても、各層の厚みは、内側から順に、0.1mm/0.1mm/0.15mm/0.15mm/0.1mm/0.1mmとされた。
【0117】
繊維角度の相対関係が上記パターンBxと同じであるヘッドBx1からBx7が作成された。
・[ヘッドBx1]:最内層の繊維の配向角度が−45°である。
・[ヘッドBx2]:最内層の繊維の配向角度が−30°である。
・[ヘッドBx3]:最内層の繊維の配向角度が−15°である。
・[ヘッドBx4]:最内層の繊維の配向角度が0°である。
・[ヘッドBx5]:最内層の繊維の配向角度が15°である。
・[ヘッドBx6]:最内層の繊維の配向角度が30°である。
・[ヘッドBx7]:最内層の繊維の配向角度が45°である。
【0118】
即ち、これらヘッドBx1からBx7は、積層パターンBxを回転させることで得られうる。
【0119】
同様に、繊維角度の相対関係が上記パターンByと同じであるヘッドBy1からBy7が作成された。
・[ヘッドBy1]:最内層の繊維の配向角度が−45°である。
・[ヘッドBy2]:最内層の繊維の配向角度が−30°である。
・[ヘッドBy3]:最内層の繊維の配向角度が−15°である。
・[ヘッドBy4]:最内層の繊維の配向角度が0°である。
・[ヘッドBy5]:最内層の繊維の配向角度が15°である。
・[ヘッドBy6]:最内層の繊維の配向角度が30°である。
・[ヘッドBy7]:最内層の繊維の配向角度が45°である。
【0120】
即ち、これらヘッドBy1からBy7は、積層パターンByを回転させることで得られうる。
【0121】
このシミュレーションBでは、最大振幅点がクラウンに位置する場合における最低次Dcが決定され、この最低次Dcでの固有振動数fmが計算された。例えば、一次モードでの最大振幅点Pm1がソールに位置し、二次モードでの最大振幅点Pm2もソールに位置し、三次モードでの最大振幅点Pm3もソールに位置し、四次モードでの最大振幅点Pm4がクラウンに位置するとき、最低次Dcは四次であり、この最低次Dcでの固有振動数fmは、四次固有振動数である。なお本願では、この最低次Dcが、クラウン一次とも称される。上記固有振動数fmが、クラウン一次固有振動数とも称される。
【0122】
この最低次Dcでの固有振動数fmは、CFRP部材が存在する部位(クラウン)での振動を反映している。この固有振動数fmは、打球音とCFRP部材との関連性を示す。
【0123】
各ヘッドにおける固有振動数fmは、次の通りであった。
[2方向]
・[ヘッドBx1]:3660Hz
・[ヘッドBx2]:3744Hz
・[ヘッドBx3]:3786Hz
・[ヘッドBx4]:3751Hz
・[ヘッドBx5]:3673Hz
・[ヘッドBx6]:3644Hz
・[ヘッドBx7]:3682Hz
[3方向]
・[ヘッドBy1]:4284Hz
・[ヘッドBy2]:4283Hz
・[ヘッドBy3]:4279Hz
・[ヘッドBy4]:4273Hz
・[ヘッドBy5]:4272Hz
・[ヘッドBy6]:4273Hz
・[ヘッドBy7]:4276Hz
【0124】
図12は、これらの上記固有振動数fmがプロットされたグラフである。この図12が示すように、繊維の配向が3方向であるヘッドBy1からBy7では、上記固有振動数fmの最大値と最小値との差が12Hzであった。即ち、繊維の配向が3方向である場合、上記固有振動数fmは、繊維の配向の絶対値にあまり影響されないことが判明した。これに対して、繊維の配向が2方向であるヘッドBx1からBx7では、上記固有振動数fmの最大値と最小値との差が142Hzであった。即ち、繊維の配向が2方向である場合、上記固有振動数fmは、繊維の配向の絶対値に影響されやすいことが判明した。繊維の配向が3方向である場合、製造誤差等により繊維の配向が変動しても、固有振動数fmのバラツキが少ない。よって、安定した打球音が得られやすい。
【0125】
更に、図12が示すように、繊維の配向が3方向である場合、高い固有振動数fmが得られやすい。よって、打球音の周波数が高くなりやすい。
【0126】
図13から16は、最低次Dc(クラウン一次)での振動形態を示すシミュレーション画像である。図13は、 ヘッドBx1、Bx2及びBx3の画像である。図14は、 ヘッドBx4、Bx5、Bx6及びBx7の画像である。図15は、 ヘッドBy1、By2及びBy3の画像である。図16は、 ヘッドBy4、By5、By6及びBy7の画像である。濃い部分ほど振幅が大きい。
【0127】
図13及び図14が示すように、ヘッドBx1からBx7では、クラウン一次モードにおける最大振幅点がCFRP単独部に位置する。これに対して、ヘッドBy1からBy7では、クラウン一次モードにおける最大振幅点が、CFRP単独部に位置していない。ヘッドBy1からBy7では、クラウン一次モードにおける最大振幅点が、重複部a1又は金属単独部に位置している。金属単独部とは、金属のみからなる部分である。CFRPに比較して金属は減衰率が小さい。クラウン一次モードにおける最大振幅点がCFRP単独部から外れることで、打球音が長くなる。クラウン一次モードにおける最大振幅点がCFRP単独部から外れることで、打球音の周波数が高くなる。これらの観点から、クラウン一次モードにおける最大振幅点がCFRP単独部から外れているのが好ましい。ヘッドBx1からBx7の画像と、ヘッドBy1からBy7の画像とを比較すると、クラウン一次モードにおける最大振幅点が大きく移動している。この最大振幅点の移動は、繊維の配向が3方向とされたときの顕著な効果を示している。打球音の観点から、クラウン一次モードにおける最大振幅点が金属単独部に位置するのが最も好ましい。
【0128】
なお、本実施形態の金属単独部は、チタン単独部である。チタン単独部は、チタン合金のみからなる部分である。
【0129】
[シミュレーションC]
シミュレーションCでは、クロス層の影響を検討した。最外層がクロス層であるヘッドの上記固有振動数fmが計算された。
【0130】
[ヘッドC1]
ヘッドC1におけるCFRP部材の仕様は、次の通りとされた。このヘッドC1の仕様は、下記の表3にも示されている。
・繊維の引張弾性率:24(tonf/mm
・合計の層数:7
・UD積層部の層数:6
・クロス層の層数:1
・クロス層の位置:最外層
・CFRP部材の総厚み:0.70mm
・繊維の配向角度(内側の層から順に):60°/−60°/0°/0°/−60°//60°/0°と90°とのクロス
【0131】
なお、便宜上、クロス層は、厚みがUD層の半分である層を2層重ねることにより構成した。これら2層において、繊維の配向角度を互いに90°相違させた。
【0132】
[ヘッドC2からC8]
UD層及びクロス層の配向が下記の表3のように変更された他はヘッドC1と同様にして、ヘッドC2からC8を作成した。これらのヘッドの仕様が、下記の表3に示される。
【0133】
【表3】


【0134】
ヘッドC1についての計算結果は、一次固有振動数が3395Hzであり、二次固有振動数が3809Hzであり、三次固有振動数が3837Hzであり、四次固有振動数が4277Hzであった。ヘッドC1では、ヘッド四次モードがクラウン一次モードであった。
【0135】
各ヘッドにおける固有振動数fmは、次の通りであった。
・[ヘッドC1]:4277Hz
・[ヘッドC2]:4269Hz
・[ヘッドC3]:4279Hz
・[ヘッドC4]:4279Hz
・[ヘッドC5]:4269Hz
・[ヘッドC6]:3736Hz
・[ヘッドC7]:3739Hz
・[ヘッドC8]:3750Hz
【0136】
なお、クラウン一次モードにおけるヘッドの次数(ヘッド全体での次数)は、ヘッドC1からC5では四次であり、ヘッドC6からC8では二次であった。
【0137】
クラウン一次モードにおけるヘッドの次数は、クラウンの振動に起因する音の周波数に関連する。クラウン一次モードにおけるヘッドの次数を高めることで、クラウンの振動に起因する打球音を高くすることができる。よって、CFRP部材がクラウンに設けられても、打球音の周波数が低くなりにくい。この観点から、クラウン一次モードにおけるヘッドの次数は、三次以上が好ましく、四次以上がより好ましい。
【0138】
図17は、ヘッドC1からC8の固有振動数fmをプロットしたグラフである。このグラフに示されるように、ヘッドC1からC5において固有振動数fmはほぼ同じである。これは、クロス層の配向の影響が非常に少ないことを示している。即ち、UD積層部に着目することの有意性が示されている。
【0139】
表3が示すように、ヘッドC1からC5では、UD積層部における繊維の配向が3方向である。一方、ヘッドC6からC8では、UD積層部における繊維の配向が2方向である。図17が示すように、ヘッドC1からC5と、ヘッドC6からC8との間で、固有振動数fmが顕著に相違している。ヘッドC1からC5は、ヘッドC6からC8に比べて、固有振動数fmが高い。この結果は、3方向の優位性を示している。
【0140】
図18は、ヘッドC1における一次から四次までの振動形態を示すシミュレーション画像である。この図18が示すように、ヘッドC1において、クラウン一次モードは、四次モードである。
【0141】
図19及び20は、クラウン一次モードでの振動形態を示すシミュレーション画像である。図19は、 ヘッドC2、C3、C4及びC5の画像である。図20は、 ヘッドC6、C7及びC8の画像である。濃い部分ほど振幅が大きい。
【0142】
図18及び図19が示すように、ヘッドC1からC5では、クラウン一次モードにおける最大振幅点が、CFRP単独部に位置していない。ヘッドC1からC5では、クラウン一次モードにおける最大振幅点が、重複部a1又は金属単独部に位置している。一方、図20が示すように、ヘッドC6からC8では、クラウン一次モードにおける最大振幅点がCFRP単独部に位置する。このように、繊維の配向を2方向から3方向に変更することで、クラウン一次モードにおける最大振幅点が大きく移動する。この移動により、固有振動数fmが高くなる。この移動は、繊維の配向を3方向とすることの効果を示す一例である。
【0143】
打球音の周波数を高くする観点から、上記固有振動数fmは、3900Hz以上が好ましく、4000Hz以上がより好ましく、4100Hz以上が更に好ましい。
【0144】
以上に示されたように、繊維の配向を3方向とすることで、高い効果が得られる。これらのシミュレーション結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上説明された方法は、あらゆるゴルフクラブヘッドに適用されうる。
【符号の説明】
【0146】
2・・・ヘッド
4・・・フェース
6・・・クラウン
8・・・ソール
10・・・ホーゼル
12・・・シャフト孔
14・・・サイド
16・・・CFRP部材
18・・・UD積層部
20・・・クロス層
h1・・・ヘッド本体
c1・・・クラウン部材
cp1・・・クラウン開口
cp2・・・段差部
FB・・・フェース−バック方向
s1・・・第1層(最内層)
s2・・・第2層
s3・・・第3層
s4・・・第4層
s5・・・第5層
s6・・・第6層
s7・・・第7層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体とCFRP部材とを備えており、
上記CFRP部材が、クラウンの少なくとも一部又はソールの少なくとも一部を構成しており、
上記CFRP部材が、UD層が積層されたUD積層部を有しており、
上記UD積層部において、繊維の配向が、実質的に3方向であるゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
上記3方向が、第1方向、第2方向及び第3方向であるとき、
上記第1方向に対する上記第2方向の角度が、実質的に+60°であり、
上記第1方向に対する上記第3方向の角度が、実質的に−60°である請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
上記UD積層部が、繊維の配向角度における積層対称性を有している請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
上記UD積層部の層数が5以上12以下である請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
上記CFRP部材が、上記クラウンの少なくとも一部を構成している請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
ヘッド体積が400cc以上であり、ヘッド重量が200g以下であり、左右慣性モーメントが4600g・cm以上である請求項1から5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−94178(P2013−94178A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236582(P2011−236582)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】