説明

ゴルフスイング解析装置およびゴルフスイング解析方法

【課題】ゴルフクラブに伝達される力とパワー(エネルギー変化率)とを解析することができるゴルフスイング解析装置を提供する。
【解決手段】第1慣性センサー13はゴルフクラブ14に取り付けられる。第1慣性センサー13で計測される加速度に基づき、第1リンク32およびゴルフクラブ14で構築される三次元二重振子モデルに従って内力の力成分を分解する。内力は腕15からゴルフクラブ14へのエネルギー伝達の役割を果たす。内力が特定されれば、ゴルフクラブ14に伝達される力は解析されることができる。内力が時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングは導き出されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフスイング解析装置およびゴルフスイング解析方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されるように、ゴルフスイング解析装置は一般に知られる。ゴルフスイング解析装置はゴルファーのスイングの様子を撮影する。撮影にあたってゴルファーやゴルフクラブの特定位置にマーカーが固定される。マーカーの働きで特定位置の移動軌跡は記録される。その他、ゴルフクラブに加速度センサーが取り付けられ、加速度センサーで計測される加速度に応じてスイングのフォームが解析されるものも散見される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4388567号公報
【特許文献2】特開平11−169499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のゴルフスイング解析装置ではゴルフクラブのヘッドスピードや動きの速さは解析されることができる。しかしながら、ゴルフクラブに伝達される力とパワー(エネルギー変化率)は全く解析されていない。
【0005】
動力学的な解析を行う場合、従来は光学式モーションキャプチャーシステムを利用した解析が多かった。図9は、光学式モーションキャプチャーシステムを用いてゴルフスイングを解析した際に得られた直交三軸それぞれの波形データであり、(a)は光学式モーションキャプチャーシステムの計測値(位置)のデータ、(b)は(a)の位置データを一階微分して求めた速度のデータ、(c)は(a)の位置データを二階微分して求めた加速度のデータを示したものである。
【0006】
スイング解析に必要な三次元の加速度を求めるにあたり、光学式モーションキャプチャーでは計測値(位置)データから二階微分して加速度を算出することになるが、図9(c)に示すとおり、波形ノイズが多くて十分な計測精度が得られない課題がある。また、光学式モーションキャプチャーシステムは設備が大掛かりでありフィールドでの計測が困難である。
【0007】
一方、加速度センサー、ジャイロセンサー等のモーションセンサーを用いたスイング解析の事例も存在する。このようなモーションセンサーは光学式モーションキャプチャーシステムと比較して非常に小型であり、フィールドでの計測も比較的容易に行うことができる。しかしながら、動力学的な観点から内力やエネルギー変化率等について詳細な分析に利用されているものはない。
【0008】
本発明の少なくとも1つの態様によれば、ゴルフクラブに伝達される力とパワー(エネルギー変化率)とを解析することができるゴルフスイング解析装置およびゴルフスイング解析方法等は提供されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様は、ゴルフクラブに取り付けられる第1慣性センサーと、前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記ゴルフクラブおよびゴルファーの上半身の部位で構築される三次元二重振子モデルに従ってスイングにより生じる内力を特定する演算処理回路とを備えることを特徴とするゴルフスイング解析装置に関する。
【0010】
ゴルフスイングでは内力は腕からゴルフクラブへのエネルギー伝達の役割を果たす。内力が特定されれば、ゴルフクラブに伝達されるエネルギーは解析されることができる。内力が時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングは導き出されることができる。例えばゴルフスイングの変更と観察とが繰り返されることで、試行錯誤を通じてゴルフスイングには良好な改良が加えられることができる。
【0011】
(2)前記第1慣性センサーは、3軸の検出軸を備える加速度センサーと、3軸の検出軸を備えるジャイロセンサーと、を含む。このようにすることで、センサーの取り付け位置を正確に算出することができ、精度の高いスイング解析を行うことができる。
【0012】
(3)前記三次元二重振子モデルは、前記ゴルファーの両肩を結ぶ線の中心と、前記ゴルファーが握る前記ゴルフクラブのグリップ部を結ぶ仮想線をモデルの一部とする。このようにすることで、精度の高いスイング解析を行うことができる。
【0013】
(4)前記演算処理回路は、前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記内力を前記ゴルフクラブのシャフトの長軸に沿った方向が軸の一つとなるように分解する。このように内力の力成分を分解することにより、精度の高いスイング解析を行うことができる。
【0014】
(5)前記演算処理回路は、前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記三次元二重振子モデルで前記長軸に直交する平面内で前記ゴルフクラブの移動方向を規定する第1直交軸に沿って前記内力を分解し、かつ、前記三次元二重振子モデルで前記長軸および前記第1直交軸に直交する第2直交軸に沿って前記内力を分解することができる。
【0015】
こうして直交3軸に沿って内力の力成分が特定されれば、3つの力成分が解析されることができる。各成分が時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0016】
(6)前記演算処理回路は、前記長軸、前記第1直交軸および前記第2直交軸に沿って分解される前記内力と前記加速度の積分値とに基づき、前記上半身から前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化率の第1成分を特定することができる。こうしたエネルギー変化率が時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0017】
(7)ゴルフスイング解析装置は、前記上半身の部位に取り付けられる第2慣性センサーをさらに備え、前記演算処理回路は、前記三次元二重振子モデルで前記上半身の支点回りに特定される慣性テンソル、並びに、前記第2の慣性センサーで計測される角速度および角速度の微分値に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第1成分を特定することができる。上半身(腕)に作用するエネルギーは時系列に観察されることができる。上半身(腕)に作用するエネルギーがゴルフクラブに作用するエネルギーに比較されると、腕からゴルフクラブに伝達されるエネルギーは考察されることができる。こうした考察は、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0018】
(8)前記支点は、前記ゴルファーの両肩を結ぶ線の中心である。このようにすることでエネルギー変化率の第1成分の算出を精度よく行うことができる。
【0019】
(9)ゴルフスイング解析装置は、前記演算処理回路は、前記第2慣性センサーで計測される加速度、前記加速度の積分値、および前記ゴルファーの腕の質量に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第2成分を特定し、前記三次元二重振子モデルで前記ゴルフクラブおよび前記腕の関節回りに特定される慣性テンソル、前記第1慣性センサーで計測される角速度の微分値、および、前記第2慣性センサーで計測される角速度に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第3成分を特定し、前記関節回りに特定される慣性テンソル、前記第1慣性センサーで計測される角速度の微分値、および、前記第1慣性センサーで計測される角速度に基づき、前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化率の第2成分を特定し、前記上半身に作用するエネルギー変化量の前記第1成分、前記第2成分および前記第3成分、並びに、前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化量の前記第1成分および前記第2成分に基づき、前記上半身のエネルギー変化率および前記ゴルフクラブのエネルギー変化率を特定することができる。これらエネルギー変化率は個別に時系列に観察されることができる。こうした考察は、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0020】
(10)本発明の他の態様は、ゴルフクラブに取り付けられる第1慣性センサーから加速度を取得する工程と、前記加速度に基づき、前記ゴルフクラブおよびゴルファーの上半身の部位で構築される三次元二重振子モデルに従ってスイングにより生じる内力を特定する工程とを備えるゴルフスイング解析方法に関する。前述と同様に、こうして内力が時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングは導き出されることができる。例えばゴルフスイングの変更と観察とが繰り返されることで、試行錯誤を通じてゴルフスイングには良好な改良が加えられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るゴルフスイング解析装置の構成絵を概略的に示す概念図である。
【図2】三次元二重振子モデルを概略的に示す概念図である。
【図3】三次元二重振子モデルに固定される局所座標系を概略的に示す概念図である。
【図4】演算処理回路の一部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】慣性センサーを用いたときの解析データであり、(a)は計測値(加速度)を示すデータ、(b)は速度を示すデータ、(c)は位置を示すデータである。
【図6】演算処理回路の一部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】演算処理回路の一部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】演算処理回路の一部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図9】光学式モーションキャプチャーシステムを用いたときの解析データであり、(a)は計測値(位置)を示すデータ、(b)は速度を示すデータ、(c)は加速度を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0023】
(1)ゴルフスイング解析装置の構成
図1は本発明の一実施形態に係るゴルフスイング解析装置11の構成を概略的に示す。ゴルフスイング解析装置11は例えば2つの慣性センサー12、13(以下「第1慣性センサー13」「第2慣性センサー12」という)を備える。第1および第2慣性センサー13、12は加速度センサーおよびジャイロセンサーが組み込まれる。加速度センサーは直交三軸方向に個々に加速度を検出することができる。ジャイロセンサーは直交三軸の各軸回りに個別に角速度を検出することができる。第1および第2慣性センサー13、12は個々の軸ごとに加速度および角速度を特定する検出信号を出力することができる。少なくともゴルフクラブ14に1つ目の慣性センサー(ここでは第1慣性センサー13)が取り付けられる。加えて、ゴルファーの下腕15に2つ目の慣性センサー(ここでは第2慣性センサー12)が取り付けられる。第1および第2慣性センサー13、12は腕15およびゴルフクラブ14にそれぞれ相対移動不能に固定されればよい。
【0024】
ゴルフスイング解析装置11は演算処理回路16を備える。演算処理回路16には第1および第2慣性センサー12、13が接続されることができる。接続にあたって演算処理回路16には所定のインターフェース回路17が接続される。このインターフェース回路17は有線で慣性センサー12、13に接続されてもよく無線で慣性センサー12、13に接続されてもよい。演算処理回路16には慣性センサー12、13から検出信号が供給される。
【0025】
演算処理回路16には記憶装置18が接続される。記憶装置18には例えばゴルフスイング解析ソフトウェアプログラム19および関連するデータが格納されることができる。演算処理回路16はゴルフスイング解析ソフトウェアプログラム19を実行しゴルフスイング解析方法を実現する。記憶装置19にはDRAM(ダイナミックランダムアクセスメモリー)や大容量記憶装置ユニット、不揮発性メモリー等が含まれることができる。例えばDRAMには、ゴルフスイング解析方法の実施にあたって一時的にゴルフスイング解析ソフトウェアプログラム19が保持されることができる。ハードディスク駆動装置(HDD)といった大容量記憶装置ユニットにはゴルフスイング解析ソフトウェアプログラムおよびデータが保存されることができる。不揮発性メモリーにはBIOS(基本入出力システム)といった比較的に小容量のプログラムやデータが格納されることができる。
【0026】
演算処理回路16には画像処理回路21が接続される。演算処理回路16は画像処理回路21に所定の画像データを供給する。画像処理回路21には表示装置22が接続される。接続にあたって画像処理回路21には所定のインターフェース回路(図示されず)が接続される。画像処理回路21は、供給される画像データに応じて表示装置22に画像信号を供給する。表示装置22の画面には画像信号で特定される画像が表示される。表示装置22には液晶ディスプレイその他のフラットパネルディスプレイが利用されることができる。ここでは、演算処理回路16、記憶装置18および画像処理回路21は例えばコンピューター装置として提供されることができる。
【0027】
演算処理回路16には入力装置23が接続される。入力装置23は少なくともアルファベットキーおよびテンキーを備える。入力装置23から文字情報や数値情報が演算処理回路16に入力されることができる。入力装置23は例えばキーボードで構成されればよい。
【0028】
(2)三次元二重振子モデル
演算処理回路16は計算機上に三次元空間を規定する。図2に示されるように、三次元空間は絶対基準座標系Σxyzを有する。三次元二重振子モデル31はゴルファーの肩41、42の中心となる支点35と関節34とを結ぶ第1リンク(仮想線)32およびゴルフクラブ14をモデル化したものに相当する。三次元二重振子モデル31の第1リンク32はゴルファーの上半身の部位から構築されるとも言える。三次元二重振子モデル31の第2リンク33はゴルフクラブ14に相当する。第1リンク32および第2リンク33は関節34で相互に連結される。関節34はグリップに相当する。関節34は点拘束である。この三次元二重振子モデル31では、第1および第2リンク32、33の質量m、m、第1リンク32の支点35(座標x)回りの慣性テンソルJ、第2リンク33の関節34(座標x)回りの慣性テンソルJ、第1リンク32の長さ(支点35から関節34まで)l、第2リンク33の長さ(関節34からクラブ先端まで)l、第1リンク32の支点35から重心36(座標xg1)までの長さlg1、および第1リンク32および第2リンク33の間の関節34から重心37(座標xg2)までの長さlg2が特定する必要がある。
【0029】
図3に示されるように、演算処理回路16はゴルフスイングの解析にあたってゴルファーGの腕15に局所座標系ΣL1を固定する。局所座標系ΣL1の座標軸は(η、ξ、l)で表現される。局所座標系ΣL1の設定にあたってゴルファーGの肩および腕15が三次元二重振子モデル31に投影される。この投影にあたって右肩関節の中心41と左肩関節の中心42とが直線で結ばれる。当該直線の中央位置とリンクの関節34とを結ぶ直線が第1リンク32に相当する。局所座標系ΣL1の中心は支点35上に設定される。l軸は第1リンク32上に合わせられる。この局所座標系ΣL1に従ってl軸方向の単位ベクトルel1が設定される。右肩関節の中心41から左肩関節の中心42に向かって単位ベクトルeRLが設定される。この単位ベクトルeRLに基づき次式に従ってξ軸およびη軸は設定される。
【数1】

このとき、第1リンク32の質量m、第1リンク32の支点35回りの慣性テンソルJ、および第1リンク32の支点35から重心36までの長さlg1はそれぞれ腕15の質量、慣性テンソルおよび重心位置に相当し、これらは身体部分係数モデルに基づき設定できる。この三次元二重振子モデル31ではゴルファーGの肩および腕15は剛体として取り扱われる。
【0030】
演算処理回路16は同様にゴルフクラブ14に局所座標系ΣL2を固定する。局所座標系ΣL2の座標軸は(η、ξ、l)で表現される。局所座標系ΣL2の中心は関節34上に設定される。l軸は第2リンク33上に合わせられる。この局所座標系ΣL2に従ってl軸方向の単位ベクトルel2が設定される。ただし、ゴルフクラブ14の進行方向とη軸の単位ベクトルeη2およびξ軸の単位ベクトルeξ2とは一致しない。ここでは、ゴルフスイングの解析にあたってゴルフクラブ14に固有に局所座標系Σq2(以下「クラブ座標系Σq2」という)が特定される。クラブ座標系Σq2の座標軸は(q、t、l)で表現される。q軸はl軸方向の単位ベクトルel2に垂直な向きでこの単位ベクトルel2の速度の単位ベクトルeq2に従って定義される。これらの単位ベクトルel2、eq2に従ってt軸方向の単位ベクトルet2は定義される。単位ベクトルel2はゴルフクラブ14の長軸の向きに相当し、単位ベクトルeq2は長軸に直交する平面内でゴルフクラブ14の移動方向に相当する。
【数2】

【0031】
ここで、第1リンク32の重心36の位置ベクトルxg1、第1リンク32および第2リンク33の間の関節34の位置ベクトルx、並びに、第2リンク33の重心37の位置ベクトルxg2は次式で与えられる。
【数3】

重心36の位置ベクトルxg1、関節34の位置ベクトルxおよび重心37の位置ベクトルxg2に対応する速度ベクトルは次式で与えられる。
【数4】

同様に、重心36の位置ベクトルxg1、関節34の位置ベクトルxおよび重心37の位置ベクトルxg2に対応する加速度ベクトルは次式で与えられる。
【数5】

各並進のダイナミクスは次式で与えられる。
【数6】

各回転のダイナミクスは次式で与えられる。
【数7】

こうしてニュートンオイラーの運動方程式は得られる。
【0032】
演算処理回路16は例えば絶対基準座標系Σxyzに従って局所座標系ΣL1、ΣL2およびクラブ座標系Σq2を相互に関連づける。演算処理回路16は局所座標系ΣL1およびクラブ座標系Σq2に第1および第2慣性センサー13、12に固有の座標系(以下「センサー座標系」という)をそれぞれ関連づける。このとき、第2慣性センサー13の取り付けにあたって慣性センサー13の1軸はゴルフクラブ14の長軸に平行に合わせ込まれる。演算処理回路16は当該1軸に直交する平面内で最大速度の方向を特定する。
【0033】
(3)演算処理回路の構成
図4は演算処理回路16の構成を概略的に示す。演算処理回路16は座標変換手段45を備える。座標変換手段45は第1および第2慣性センサー13、12に接続される。座標変換手段45は慣性センサー13、12のそれぞれの座標系を絶対基準座標系Σxyz、局所座標系ΣL1およびクラブ座標系Σq2に変換する。慣性センサー13、12により計測された角速度および加速度は、モデルで必要になる座標系における物理量に適宜変換される。
【0034】
図5は、慣性センサー12の絶対基準座標系Σxyzで示されたx軸、y軸およびz軸それぞれの波形データであり、(a)は慣性センサー12の計測値の1つである加速度のデータを示し、(b)は(a)の加速度のデータを一階積分して求めた速度を示すデータであり、(c)は(a)の加速度のデータを二階積分して求めた位置を示すデータである。スイング解析では(a)に示す加速度の値が必須のパラメーターの1つとなる。図9(c)に示す従来の光学式モーションキャプチャーシステムでは加速度を二階微分で求めるためノイズが多く計算精度が低いという課題があったが、慣性センサー12の加速度は図5(a)のように計測値そのものでありノイズが少なく、精度の高い解析を行うことができる。(計算方法については後述する。)なお、ここでは加速度を積分する際に生じる誤差を補正している。
【0035】
演算処理回路16は関節間力算出手段47を備える。関節間力算出手段47は第1リンク32の支点35に作用する関節間力Fを算出する。算出にあたって関節間力算出手段47は局所座標系ΣL1およびクラブ座標系Σq2の加速度情報並びに第1および第2リンク32、33の質量m、mを取得する。式(16)のニュートンの運動方程式に従って個々の軸ごとに関節間力Fη1、Fξ1、Fl1が算出されることができる。関節間力算出手段47は関節間力情報を出力する。関節間力情報は時系列に関節間力Fη1、Fξ1、Fl1を特定する。このとき、第2および第1慣性センサー12、13は
【数8】

を計測することができる。
【0036】
演算処理回路16は内力算出手段48を備える。内力算出手段48は第2リンク33に作用する内力Fを算出する。算出にあたって内力算出手段48はクラブ座標系Σq2の加速度情報および第2リンク33の質量mを取得する。前述の式(6)に従って個々の軸ごとに内力Fq2、Ft2、Fl2が算出されることができる。内力算出手段48は内力情報を出力する。内力情報は、ゴルフクラブ14の長軸に沿って時系列に内力Fl2を特定し、長軸に直交する平面内でゴルフクラブ14の移動方向を規定する第1直交軸に沿って内力Fq2を特定し、長軸および第1直交軸に直交する第2直交軸に沿って内力Ft2を特定する。
【0037】
演算処理回路16は支点回りトルク算出手段49を備える。支点回りトルク算出手段49は支点35回りに第1リンク32に作用するトルクτを算出する。算出にあたって支点回りトルク算出手段49は局所座標系ΣL1の角速度情報および第1リンク32の慣性テンソルJを取得する。角速度ωの微分値すなわち角加速度および慣性テンソルJに基づきオイラーの運動方程式に従って局所座標系のη軸回り、ξ軸回りおよびl軸回りでトルクが算出される。支点回りトルク算出手段49は第1トルク情報を出力する。第1トルク情報は時系列にη軸回り、ξ軸回りおよびl軸回りでトルクτη1、τξ1、τl1を特定する。
【0038】
演算処理回路16は関節回りトルク算出手段51を備える。関節回りトルク算出手段51は関節34回りに第2リンク33に作用するトルクτを算出する。算出にあたって関節回りトルク算出手段51はクラブ座標系Σq2の角速度情報および第2リンク33の慣性テンソルJを取得する。角速度ωの微分値すなわち角加速度および慣性テンソルJに基づきクラブ座標系Σq2のq軸回り、t軸回りおよびl軸回りでトルクが算出される。関節回りトルク算出手段51は第2トルク情報を出力する。第2トルク情報は時系列にq軸回り、t軸回りおよびl軸回りでトルクτq2、τt2、τl2を特定する。
【0039】
図6に示されるように、演算処理回路16は第1エネルギー変化率算出手段52を備える。第1エネルギー変化率算出手段52は第1リンク32の関節間力Fに由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は次式の右辺第1項に該当する。
【数9】

算出にあたって第1エネルギー変化率算出手段52は局所座標系ΣL1の慣性センサー情報および関節間力情報を取得する。加速度の積分値すなわち速度(変位xの微分値)および関節間力Fに基づきエネルギー変化率は算出される。第1エネルギー変化率算出手段52は第1エネルギー変化率情報を出力する。第1エネルギー変化率情報は時系列に第1リンク32の関節間力Fに由来するエネルギー変化率を特定する。
【0040】
演算処理回路16は第2エネルギー変化率算出手段53を備える。第2エネルギー変化率算出手段53は第2リンク33の内力Fに由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(22)の右辺第2項に該当する。算出にあたって第2エネルギー変化率算出手段53はクラブ座標系Σq2の加速度情報および内力情報を取得する。加速度の積分値すなわち速度(変位xの微分値)および内力Fに基づきエネルギー変化率は算出される。第2エネルギー変化率算出手段53は第2エネルギー変化率情報を出力する。第2エネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33の内力Fに由来するエネルギー変化率を特定する。
【0041】
演算処理回路16は第3エネルギー変化率算出手段54を備える。第3エネルギー変化率算出手段54は支点35回りに第1リンク32に作用するトルクτに由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(22)の右辺第3項に該当する。算出にあたって第3エネルギー変化率算出手段54は局所座標系ΣL1の角速度情報および第1トルク情報を取得する。角速度ωおよびトルクτに基づきエネルギー変化率は算出される。第3エネルギー変化率算出手段54は第3エネルギー変化率情報を出力する。第3エネルギー変化率情報は時系列に第1リンク32のトルクτに由来するエネルギー変化率を特定する。このエネルギー変化率は上半身の筋力に基づき腕15に作用するエネルギーに相当する。
【0042】
演算処理回路16は第4エネルギー変化率算出手段55を備える。第4エネルギー変化率算出手段55は関節34回りに第1リンク32に作用するトルクτに由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(22)の右辺第4項に該当する。算出にあたって第4エネルギー変化率算出手段55は局所座標系ΣL1の角速度情報および第2トルク情報を取得する。角速度ωおよびトルクτに基づきエネルギー変化率は算出される。第4エネルギー変化率算出手段55は第4エネルギー変化率情報を出力する。第4エネルギー変化率情報は時系列に第1リンク32に作用するトルクτの影響に由来するエネルギー変化率を特定する。
【0043】
演算処理回路16は第5エネルギー変化率算出手段56を備える。第5エネルギー変化率算出手段56は関節34回りに第2リンク33に作用するトルクτに由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は次式の右辺第2項に該当する。
【数10】

算出にあたって第5エネルギー変化率算出手段56はクラブ座標系Σq2の角速度情報および第2トルク情報を取得する。角速度ωおよびトルクτに基づきエネルギー変化率は算出される。第5エネルギー変化率算出手段56は第5エネルギー変化率情報を出力する。第5エネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33のトルクτに由来するエネルギー変化率を特定する。式(22)および式(23)から明らかなように、第2エネルギー変化率情報のエネルギー変化率は内力Fに基づき腕15からゴルフクラブ14に作用するエネルギーに相当する。
【0044】
演算処理回路16は第6エネルギー変化率算出手段57を備える。第6エネルギー変化率算出手段57は式(22)に従って第1リンク32の総エネルギー変化率を算出する。算出にあたって第6エネルギー変化率算出手段57は第1エネルギー変化率情報、第2エネルギー変化率情報(ゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率)、第3エネルギー変化率情報(腕15に作用するエネルギー変化率)および第4エネルギー変化率情報を取得する。ここでは、第3エネルギー変化率情報、第1エネルギー変化率情報および第4エネルギー変化率情報は、腕15に作用するエネルギー変化率の第1成分、第2成分および第3成分をそれぞれ特定する。これらエネルギー変化率の総計が算出される。第6エネルギー変化率算出手段57は第6エネルギー変化率情報を出力する。第6エネルギー変化率情報は時系列に第1リンク32の総エネルギー変化率を特定する。
【0045】
ここで、第1リンク32の運動エネルギーTおよびポテンシャルエネルギーUは次式で与えられる。
【数11】

第1リンク32の運動エネルギーTおよびポテンシャルエネルギーUの和
【数12】

が微分され、式(8)、(16)および(18)が考慮されると、次式が得られる。
【数13】

これは、第1リンク32に作用する全ての力とモーメントとが第1リンク32のエネルギー変化に影響することを示す。式(28)のジャイロセンサー項はゼロであることから、
【数14】

が成立し、式(29)の導出にあたって次式の関係が利用される。
【数15】

【0046】
演算処理回路16は第7エネルギー変化率算出手段58を備える。第7エネルギー変化率算出手段58は式(23)に従って第2リンク33の総エネルギー変化率を算出する。算出にあたって第7エネルギー変化率算出手段58は第2エネルギー変化率情報および第5エネルギー変化率情報を取得する。ここでは、第2エネルギー変化率情報および第5エネルギー変化率情報は、ゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率の第1成分および第2成分を特定する。これらエネルギー変化率の総計が算出される。第7エネルギー変化率算出手段58は第7エネルギー変化率情報を出力する。第7エネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33の総エネルギー変化率を特定する。
【0047】
ここで、第2リンク33の運動エネルギーTおよびポテンシャルエネルギーUは次式で与えられる。
【数16】

第2リンク33の運動エネルギーTおよびポテンシャルエネルギーUの和
【数17】

が微分され、式(10)および(19)が考慮されると、次式が得られる。
【数18】

式(41)の右辺の第1項は内力(関節間力)によるリンク間のエネルギー伝達を表し、第2項が外力(筋力)によるエネルギーの発生と消散を表す。式(40)の最後のジャイロセンサー項のエネルギー消費はゼロであることから、
【数19】

が成立し、式(41)の導出にあたって次式の関係が利用される。
【数20】

【0048】
演算処理回路16は第8エネルギー変化率算出手段59を備える。第8エネルギー変化率算出手段59は第1リンク32および第2リンク33の総エネルギー変化率を算出する。算出にあたって第8エネルギー変化率算出手段59は第6エネルギー変化率情報および第7エネルギー変化率情報を取得する。これらエネルギー変化率の総計が算出される。第8エネルギー変化率算出手段59は第8エネルギー変化率情報を出力する。第8エネルギー変化率情報は時系列に第1リンク32および第2リンク33の総エネルギー変化率を特定する。総エネルギー変化率は次式に従って算出されてもよい。
【数21】

【0049】
図7に示されるように、演算処理回路16は並進運動エネルギー変化率算出手段61を備える。並進運動エネルギー変化率算出手段61は第2リンク33の並進運動に由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(38)の右辺第1項に該当する。算出にあたって並進運動エネルギー変化率算出手段は第2リンク33の重心37の加速度および速度並びに第2リンク33の質量mを取得する。ここでは、第2リンク33は剛体として扱われることから、重心37の加速度および速度はクラブ座標系Σq2の加速度および角速度に基づき算出されることができる。重心37の加速度および速度並びに質量mに基づき並進運動に由来するエネルギー変化率は算出される。並進運動エネルギー変化率算出手段61は並進運動エネルギー変化率情報を出力する。並進運動エネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33の並進運動に由来するエネルギー変化率を特定する。
【0050】
演算処理回路16は回転運動エネルギー変化率算出手段62を備える。回転運動エネルギー変化率算出手段62は第2リンク33の回転運動に由来するエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(38)の右辺第2項に該当する。算出にあたって回転運動エネルギー変化率算出手段62は関節34回りで第2リンク33の角速度ωおよび角加速度並びに慣性テンソルJを取得する。関節34回りの角速度ωおよび角加速度並びに慣性テンソルJに基づき回転運動に由来するエネルギー変化率は算出される。回転運動エネルギー変化率算出手段62は回転運動エネルギー変化率情報を出力する。回転運動エネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33の回転運動に由来するエネルギー変化率を特定する。
【0051】
演算処理回路16はポテンシャルエネルギー変化率算出手段63を備える。ポテンシャルエネルギー変化率算出手段63は第2リンク33のポテンシャルエネルギーUのエネルギー変化率を算出する。このエネルギー変化率は式(38)の右辺第3項に該当する。算出にあたってポテンシャルエネルギー変化率算出手段63は第2リンク33の重心37の速度、第2リンク33の質量mおよび重力加速度gを取得する。ここでは、第2リンク33は剛体として扱われることから、重心37の速度はクラブ座標系Σq2の加速度および角速度に基づき算出されることができる。重心37の速度、質量mおよび重力加速度gに基づきポテンシャルエネルギーUのエネルギー変化率は算出される。ポテンシャルエネルギー変化率算出手段63はポテンシャルエネルギー変化率情報を出力する。ポテンシャルエネルギー変化率情報は時系列に第2リンク33のポテンシャルエネルギーUのエネルギー変化率を特定する。
【0052】
演算処理回路16は第1エネルギー変化率成分算出手段65を備える。第1エネルギー変化率成分算出手段65は内力Fに由来するエネルギー変化率のt軸成分t2Pを算出する。算出にあたって第1エネルギー変化率成分算出手段65は内力情報およびクラブ座標系Σq2の加速度情報を取得する。t軸方向の内力Ft2およびt軸方向の加速度の積分値に基づきエネルギー変化率のt軸成分t2Pは算出される。第1エネルギー変化率成分算出手段65は第1エネルギー変化率成分情報を出力する。第1エネルギー変化率成分情報は内力Fに由来するエネルギー変化率のt軸成分t2Pを特定する。
【0053】
演算処理回路16は第2エネルギー変化率成分算出手段66を備える。第2エネルギー変化率成分算出手段66は内力に由来するエネルギー変化率のl軸成分l2Pを算出する。算出にあたって第2エネルギー変化率成分算出手段66は内力情報およびクラブ座標系Σq2の加速度情報を取得する。l軸方向の内力Fl2およびl軸方向の加速度の積分値に基づきエネルギー変化率のl軸成分l2Pは算出される。第2エネルギー変化率成分算出手段66は第2エネルギー変化率成分情報を出力する。第2エネルギー変化率成分情報は内力に由来するエネルギー変化率のl軸成分l2Pを特定する。
【0054】
演算処理回路16は第3エネルギー変化率成分算出手段67を備える。第3エネルギー変化率成分算出手段67は内力に由来するエネルギー変化率のq軸成分q2Pを算出する。算出にあたって第3エネルギー変化率成分算出手段67は内力情報およびクラブ座標系Σq2の加速度情報を取得する。q軸方向の内力Fq2およびq軸方向の加速度の積分値に基づきエネルギー変化率のq軸成分q2Pは算出される。第3エネルギー変化率成分算出手段67は第3エネルギー変化率成分情報を出力する。第3エネルギー変化率成分情報は内力に由来するエネルギー変化率のq軸成分q2Pを特定する。
【0055】
図8に示されるように、演算処理回路16は並進加速度成分算出手段71を備える。並進加速度成分算出手段71は関節34から第2リンク33に入力される内力Fの並進加速度成分linを算出する。ここでは次式が成立する。
【数22】

算出にあたって並進加速度成分算出手段71は局所座標系ΣL1の慣性センサー情報および第2リンク33の質量mを取得する。加速度および質量mに基づき力の並進加速度成分linは算出される。並進加速度成分算出手段71は並進加速度成分情報を出力する。並進加速度成分情報は関節34から第2リンク33に入力される内力の並進加速度成分linを特定する。
【0056】
演算処理回路16は角加速度成分算出手段72を備える。角加速度成分算出手段72は第1リンク32の角加速度に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの角加速度成分L1aを算出する。算出にあたって角加速度成分算出手段72は局所座標系ΣL1の角速度情報および第2リンク33の質量m、第1リンク32の長さlを取得する。角速度ωの微分値、質量m、長さlおよびl軸方向の単位ベクトルel1に基づき内力Fの角加速度成分L1aは算出される。角加速度成分算出手段72は角加速度成分情報を出力する。角加速度成分情報は第1リンク32の角加速度に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの角加速度成分L1aを特定する。
【0057】
演算処理回路16は第1遠心加速度成分算出手段73を備える。第1遠心加速度成分算出手段73は第1リンク32の遠心力に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの遠心加速度成分L1Cを算出する。算出にあたって第1遠心加速度成分算出手段73は局所座標系ΣL1の角速度情報および第2リンク33の質量m並びに第1リンク32の長さlを取得する。角速度ω、質量m、長さlおよびl軸方向の単位ベクトルel1に基づき内力Fの遠心加速度成分L1Cは算出される。第1遠心加速度成分算出手段73は第1遠心加速度成分情報を出力する。第1遠心加速度成分情報は第1リンク32の遠心力に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの遠心加速度成分L1Cを特定する。
【0058】
演算処理回路16は第2遠心加速度成分算出手段74を備える。第2遠心加速度成分算出手段74は第2リンク33の遠心力に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの遠心加速度成分L2Cを算出する。算出にあたって第2遠心加速度成分算出手段74はクラブ座標系Σq2の角速度情報および第2リンク33の質量m並びに関節34から重心37までの長さlg2を取得する。角速度ω、質量m、長さlおよびl軸方向の単位ベクトルel2に基づき内力Fの遠心加速度成分L2Cは算出される。第2遠心加速度成分算出手段74は第2遠心加速度成分情報を出力する。第2遠心加速度成分情報は第2リンクの遠心力に応じて第2リンク33の関節34に作用する内力Fの遠心加速度成分L2Cを特定する。
【0059】
演算処理回路16は法線方向成分分解手段75を備える。法線方向成分分解手段75は、次式に従って、第2リンク33のエネルギー変化率の法線方向成分を構成する並進加速度成分l2lin、角加速度成分l2L1a、第1遠心加速度成分l2L1Cおよび第2遠心加速度成分l2L2Cを算出する。
【数23】

算出にあたって法線方向成分分解手段75は、クラブ座標系Σq2の加速度情報、並進加速度成分情報、角加速度成分情報、第1遠心加速度成分情報および第2遠心加速度成分情報を取得する。l軸方向の加速度の積分値、l軸方向の単位ベクトルel2、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、第1リンク32の遠心力に起因する内力Fの遠心加速度成分L1C、および、第2リンク33の遠心力に起因する内力Fの遠心加速度成分L2Cに基づきエネルギー変化率の並進加速度成分l2lin、角加速度成分l2L1a、第1遠心加速度成分l2L1Cおよび第2遠心加速度成分l2L2Cは算出される。法線方向成分分解手段は分解情報を出力する。分解情報は第2リンクのエネルギー変化率の法線方向成分を構成するエネルギー変化率の並進加速度成分l2lin、角加速度成分l2L1a、第1遠心加速度成分l2L1Cおよび第2遠心加速度成分l2L2Cを特定する。
【0060】
ここで、第2リンク33のエネルギー変化率は式(41)で表される。このうち、内力に依存する項がクラブ座標系Σq2の各軸の内力および速度で成分展開されると、次式が得られる。
【数24】

この式に式(48)が代入されると、法線方向成分はさらに式(49)および(50)のように、並進加速度成分l2lin、第1リンク32の角加速度成分l2L1a、第1リンク32の遠心加速度成分l2L1C、第2リンク33の角加速度成分l2L2a、第2リンク33の遠心加速度成分l2L2Cに分解されることができる。
【0061】
演算処理回路16は内力モーメント算出手段76を備える。内力モーメント算出手段76は次式に従って内力Fに由来するt軸回りモーメントを算出する。
【数25】

このt軸回りモーメントは式(19)に基づき導かれることができる。t軸回りモーメントの算出にあたって、内力モーメント算出手段76は、関節34から重心37までの長さlg2、内力情報、並進加速度成分情報、角加速度成分情報、第1遠心加速度成分情報および第2遠心加速度成分情報を取得する。長さlg2、l軸方向の単位ベクトルel2、内力F、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cに基づき次式に従ってt軸回りモーメントが算出される。
【数26】

内力モーメント算出手段76は内力モーメント情報を出力する。内力モーメント情報は、内力F、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cごとにt軸回りモーメントを特定する。
【0062】
(4)ゴルフスイング解析装置の動作
ゴルフスイング解析装置11の動作を簡単に説明する。まず、ゴルファーGのゴルフスイングは計測される。計測に先立って必要な情報が入力装置23から演算処理回路16に入力される。ここでは、三次元二重振子モデル31に従って、第1および第2リンク32、33の質量m、m、第1リンク32の支点x回りの慣性テンソルJ、第2リンク33の関節x回りの慣性テンソルJ、第1リンク32の長さ(支点xから関節xまで)l、第2リンク33の長さ(関節xからクラブ先端まで)l、第1リンク32の支点xから重心xg1までの長さlg1、第1リンク32および第2リンク33の間の関節xから重心xg2までの長さlg2の入力が促される。入力された情報は例えば特定の識別子の下で管理される。識別子は特定のゴルファーGを識別すればよい。
【0063】
計測に先立って第1および第2慣性センサー13、12がゴルフクラブ14およびゴルファーの腕15に取り付けられる。第1および第2慣性センサー13、12はゴルフクラブ14および腕15に相対変位不能に固定される。
【0064】
ゴルフスイングの実行に先立って第1および第2慣性センサー13、12の計測は開始される。慣性センサー13、12の計測の間では同期が確保される。その後、ゴルフスイングが実行されると、慣性センサー13、12は特定の時間間隔で継続的に加速度および角速度を計測する。時間間隔は計測の解像度を規定する。慣性センサー13、12の検出信号はリアルタイムで演算処理回路16に送り込まれてもよく一時的に慣性センサー13、12に内蔵の記憶装置に格納されてもよい。後者の場合には、ゴルフスイングの終了後に検出信号は有線または無線で演算処理回路16に供給されればよい。
【0065】
検出信号および映像信号の受領に応じて演算処理回路16はゴルフスイングの解析を実行する。解析はゴルフスイングの開始から終了までの間で実施されてもよくゴルフスイングの開始からインパクトまでの間で実施されてもよい。その結果、演算処理回路16は、関節34の並進速度、回転由来速度、関節間力Fη1、Fξ1、Fl1、内力Fq2、Ft2、Fl2、η軸回りトルクτη1、ξ軸回りトルクτξ1およびl軸回りトルクτl1、q軸回りトルクτq2、t軸回りトルクτt2およびl軸回りトルクτl2、第1リンク32の関節間力Fに由来するエネルギー変化率、第2リンク33の内力Fに由来するエネルギー変化率、第1リンク32のトルクτに由来するエネルギー変化率、第1リンク32に作用するトルクτの影響に由来するエネルギー変化率、第2リンク33のトルクτに由来するエネルギー変化率、第1リンクの総エネルギー変化率、第2リンクの総エネルギー変化率、第1リンク32および第2リンク33の総エネルギー変化率、第2リンク33の並進運動に由来するエネルギー変化率、第2リンク33の回転運動に由来するエネルギー変化率、第2リンク33のポテンシャルエネルギーUのエネルギー変化率、内力Fに由来するエネルギー変化率のt軸成分t2P、内力Fに由来するエネルギー変化率のl軸成分l2P、内力Fに由来するエネルギー変化率のq軸成分q2P、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1C、内力Fの遠心加速度成分L2C、並進加速度成分l2lin、角加速度成分l2L1a、第1遠心加速度成分l2L1Cおよび第2遠心加速度成分l2L2C、並びに、内力F、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cごとにt軸回りモーメントを算出する。
【0066】
演算処理回路16は、関節34の並進速度の時系列変化、回転由来速度の時系列変化、関節間力Fη1の時系列変化、Fξ1の時系列変化、Fl1の時系列変化、内力Fq2の時系列変化、Ft2の時系列変化、Fl2の時系列変化、η軸回りトルクτη1、ξ軸回りトルクτξ1およびl軸回りトルクτl1の時系列変化、q軸回りトルクτq2、t軸回りトルクτt2およびl軸回りトルクτl2の時系列変化、第1リンク32の関節間力Fに由来するエネルギー変化率の時系列変化、第2リンク33の内力Fに由来するエネルギー変化率の時系列変化、第1リンク32のトルクτに由来するエネルギー変化率の時系列変化、第1リンク32に作用するトルクτの影響に由来するエネルギー変化率の時系列変化、第2リンク33のトルクτに由来するエネルギー変化率の時系列変化、第1リンクの総エネルギー変化率の時系列変化、第2リンクの総エネルギー変化率の時系列変化、第1リンク32および第2リンク33の総エネルギー変化率の時系列変化、第2リンク33の並進運動に由来するエネルギー変化率の時系列変化、第2リンク33の回転運動に由来するエネルギー変化率の時系列変化、第2リンク33のポテンシャルエネルギーUのエネルギー変化率の時系列変化、内力Fに由来するエネルギー変化率のt軸成分t2Pの時系列変化、内力Fに由来するエネルギー変化率のl軸成分l2Pの時系列変化、内力Fに由来するエネルギー変化率のq軸成分q2Pの時系列変化、内力Fの並進加速度成分linの時系列変化、内力Fの角加速度成分L1aの時系列変化、内力Fの遠心加速度成分L1Cの時系列変化、内力Fの遠心加速度成分L2Cの時系列変化、並進加速度成分l2linの時系列変化、角加速度成分l2L1aの時系列変化、第1遠心加速度成分l2L1Cおよび第2遠心加速度成分l2L2Cの時系列変化、並びに、内力F、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cごとにt軸回りモーメントの時系列変化を算出する。演算処理回路16は個々の時系列変化に基づきグラフデータを作成する。グラフデータに基づき画像データが生成される。画像データはグラフの画像を規定する。グラフはグラフデータを反映する。グラフの横軸は例えば時間軸に設定される。画像データは画像処理回路21に供給される。画像処理回路21は画像データに基づき画像信号を生成する。画像信号は表示装置22に供給される。その結果、表示装置22の画面にグラフが映し出される。
【0067】
前述のように、ゴルフスイングでは内力Fは腕15からゴルフクラブ14へのエネルギー伝達の役割を果たす。内力F、Fq2、Ft2、Fl2、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cが特定されれば、ゴルフクラブ14に伝達される力は様々な観点から解析されることができる。こうして内力F、Fq2、Ft2、Fl2、内力Fの並進加速度成分lin、内力Fの角加速度成分L1a、内力Fの遠心加速度成分L1Cおよび内力Fの遠心加速度成分L2Cが時系列で観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングは導き出されることができる。例えばゴルフスイングの変更と観察とが繰り返されることで、試行錯誤を通じてゴルフスイングには良好な改良が加えられることができる。
【0068】
ゴルフスイング解析装置11ではクラブ座標系Σq2に従って個々の軸ごとに内力Fq2、Ft2、Fl2が算出されることができる。こうしてクラブ座標系Σq2に従って内力Fの力成分Fq2、Ft2、Fl2が特定されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0069】
加えて、ゴルフスイング解析装置11では、式(23)に従って、ゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率が算出されることができる。式(51)および(52)から明らかなように、ゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率は、クラブ座標系Σq2に従って個々の軸ごとに内力Fの力成分Fq2、Ft2、Fl2および加速度の積分値に基づき特定されることができる。こうしてゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率が時系列に観察されれば、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0070】
さらに、ゴルフスイング解析装置11では、式(22)に従って、腕15に作用するエネルギー変化率が算出されることができる。腕15に作用するエネルギー変化率は時系列に観察されることができる。腕15に作用するエネルギー変化率がゴルフクラブ14に作用するエネルギー変化率に比較されると、腕15からゴルフクラブ14に伝達されるエネルギーは考察されることができる。肩から流入したエネルギーが腕15を経由して時間遅れを伴いながらゴルフクラブ14に流入することが観察されることができる。こうした考察は、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0071】
さらにまた、ゴルフスイング解析装置11では、式(22)および(23)に従って、第1リンク32の関節間力Fに由来するエネルギー変化率、第2リンク33の内力Fに由来するエネルギー変化率、第1リンク32のトルクτに由来するエネルギー変化率、第1リンク32に作用するトルクτの影響に由来するエネルギー変化率、第2リンク33のトルクτに由来するエネルギー変化率を算出することができる。これらエネルギー変化率は個別に時系列に観察されることができる。こうした考察は、効率的なエネルギー伝達を実現するゴルフスイングの形成に大いに貢献することができる。
【0072】
ゴルファーの腕に取り付ける第2慣性センサー12の装着方法として、例えば、第1の検出軸がゴルフクラブのシャフトの長軸方向に一致するように第1慣性センサー13をゴルフクラブのシャフトに取り付け、第1慣性センサー13の出力を導入して第1の検出軸に垂直な他の軸方向の最大移動方向を検出し、前記最大移動方向と第2慣性センサー12の検出軸の1つが一致するようにゴルファーの腕に第2慣性センサー12を取り付けるのが好ましい。このように装着して、第1慣性センサー13の出力と、第2慣性センサー12の出力とを導入して信号処理を行えば、スイング解析の精度を向上できる。
【0073】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、ゴルフスイング解析装置等の構成および動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0074】
11 ゴルフスイング解析装置、12 第2慣性センサー、13 第1慣性センサー、14 ゴルフクラブ、15 腕、16 演算処理回路、31 三次元二重振子モデル、34 関節、35 支点、F 関節間力、F 内力、Fq2 第1直交軸に沿った内力、Ft2 第2直交軸に沿った内力、Fl2 長軸に沿った内力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブに取り付けられる第1慣性センサーと、
前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記ゴルフクラブおよびゴルファーの上半身の部位で構築される三次元二重振子モデルに従ってスイングにより生じる内力を特定する演算処理回路と
を備えることを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記第1慣性センサーは、3軸の検出軸を備える加速度センサーと、3軸の検出軸を備えるジャイロセンサーと、を含むことを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記三次元二重振子モデルは、前記ゴルファーの両肩を結ぶ線の中心と、前記ゴルファーが握る前記ゴルフクラブのグリップ部を結ぶ仮想線をモデルの一部とすることを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記演算処理回路は、前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記内力を前記ゴルフクラブのシャフトの長軸に沿った方向が軸の一つとなるように分解することを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項5】
請求項4に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記演算処理回路は、前記第1慣性センサーで計測される加速度に基づき、前記三次元二重振子モデルで前記長軸に直交する平面内で前記ゴルフクラブの移動方向を規定する第1直交軸に沿って前記内力を分解し、かつ、前記三次元二重振子モデルで前記長軸および前記第1直交軸に直交する第2直交軸に沿って前記内力を分解することを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項6】
請求項5に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記演算処理回路は、前記長軸、前記第1直交軸および前記第2直交軸に沿って分解される前記内力と前記加速度の積分値とに基づき、前記上半身から前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化率の第1成分を特定することを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項7】
請求項6に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記上半身の部位に取り付けられる第2慣性センサーをさらに備え、
前記演算処理回路は、前記三次元二重振子モデルで前記上半身の支点回りに特定される慣性テンソル、並びに、前記第2慣性センサーで計測される角速度および角速度の微分値に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第1成分を特定することを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項8】
請求項7に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記支点は、前記ゴルファーの両肩を結ぶ線の中心であることを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載のゴルフスイング解析装置において、
前記演算処理回路は、
前記第2慣性センサーで計測される加速度、前記加速度の積分値、および、前記ゴルファーの腕の質量に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第2成分を特定し、
前記三次元二重振子モデルで前記ゴルフクラブおよび前記腕の関節回りに特定される慣性テンソル、前記第1慣性センサーで計測される角速度の微分値、および、前記第2慣性センサーで計測される角速度に基づき、前記上半身に作用するエネルギー変化率の第3成分を特定し、
前記関節回りに特定される慣性テンソル、前記第1慣性センサーで計測される角速度の微分値、および、前記第1慣性センサーで計測される角速度に基づき、前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化率の第2成分を特定し、
前記上半身に作用するエネルギー変化量の前記第1成分、前記第2成分および前記第3成分、並びに、前記ゴルフクラブに作用するエネルギー変化量の前記第1成分および前記第2成分に基づき、前記上半身のエネルギー変化率および前記ゴルフクラブのエネルギー変化率を特定することを特徴とするゴルフスイング解析装置。
【請求項10】
ゴルフクラブに取り付けられる第1慣性センサーから加速度を取得する工程と、
前記加速度に基づき、前記ゴルフクラブおよびゴルファーの上半身の部位で構築される三次元二重振子モデルに従ってスイングにより生じる内力を特定する工程と
を備えることを特徴とするゴルフスイング解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−90862(P2013−90862A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235747(P2011−235747)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)