説明

ゴルフボール用材料、および、これを用いたゴルフボール

【課題】ゴルフボールにおいて、アイオノマー樹脂を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材との密着性を改良することにより、耐久性および/または反発性が向上したゴルフボールを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のゴルフボール用材料は、マルチブロック共重合体であって、ブロックが有する酸性官能基が金属イオンで中和されているブロックAと、ブロックAより極性が低いブロックBとを有するマルチブロック共重合体からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに用いられる新規なアイオノマー樹脂、および、これを用いたゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コアと、前記コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有し、前記中間層が、アイオノマー樹脂から形成され、前記カバーが、ポリウレタンから形成されたゴルフボールが知られている。しかし、アイオノマー樹脂とポリウレタンとは、接着性が低く、得られるゴルフボールの耐久性や反発性が低下するという問題がある。アイオノマー樹脂からなる層と、ポリウレタンからなる層との接着性を改良する技術として、例えば、特許文献1、2がある。特許文献1には、アイノマー樹脂を含有する層と、ポリウレタンを含有する層との間に両者の密着性を高める補強層を設けることが開示されている。補強層には、二液硬化型熱硬化性樹脂が用いられている。
【0003】
特許文献2には、コアとコアを被覆してなる2層以上のカバーとを具備するゴルフボールにおいて、第1のカバー層が、(a)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、及び(b)イソシアネート化合物(b−1)と、イソシアネートと実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)との混合物を主成分として形成されたものであり、第2のカバー層が、(c)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及びオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物(c−1)、並びにオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及びオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物(c−2)から選ばれる1種又は2種以上のベース樹脂と、(d)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを重量比で100:0〜50:50になるように配合した樹脂成分、(e)炭素数が18〜80の脂肪酸及び/又はその誘導体、(f)上記(c)成分及び(e)成分中の未中和の酸基を中和できる金属イオン源、(g)2つ以上の反応性官能基を有する分子量2万以下の化合物の混合物を主成分として形成されたものであり、第1のカバー層と第2のカバー層とが隣接していることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−34740号公報
【特許文献2】特開2004−180725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、接着剤として、熱硬化型熱硬化性樹脂を使用することが開示されているが、得られるゴルフボールの耐久性は、十分ではない。特許文献2に係る技術では、第1のカバー層の(b)イソシアネート混合物と、第2のカバー層の(g)2つ以上の反応性官能基を有する分子量2万以下の化合物とが反応して、接着性が向上する。しかし、第1のカバー層において、(b)イソシアネート混合物を、イソシアネート混合物と反応する(a)熱可塑性ポリウレタンエラストマー中に分散させているため、(b)イソシアネート混合物と(g)反応性官能基を有する化合物とを選択的に反応させることが難しい。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ゴルフボールにおいて、アイオノマー樹脂を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材との密着性を改良することを目的とする。また、本発明は、アイオノマー樹脂を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材との密着性を改良することにより、耐久性および/または反発性が向上したゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することのできた本発明のゴルフボール用材料は、マルチブロック共重合体であって、ブロックが有する酸性官能基が金属イオンで中和されているブロックAと、ブロックAより極性が低いブロックBとを有するマルチブロック共重合体からなることを特徴とする。本発明のゴルフボール材料は、極性の高いブロックAと、ブロックAより極性が低いブロックBとを有するので、極性が高い材料および極性が低い材料のいずれに対しても密着性に優れる。
【0007】
前記マルチブロック共重合体は、A−B−A型のトリブロック共重合体構造を有することが好ましく、A−B−A型トリブロック共重合体であることがより好ましい。前記ブロックAより、極性が低いブロックBとしては、例えば、ポリオレフィンブロックが好適である。前記ポリオレフィンブロックは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンよりなる群から選択される少なくとも1種のオレフィンを構成成分とするものが好ましい。前記ポリオレフィンブロックとしては、エチレン・1−ブテン共重合体構造を有するものが好適である。前記ブロックAとしては、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を構成成分とし、そのカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているものが好適である。
【0008】
また、本発明には、アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有するゴルフボールであって、前記アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、前記ポリウレタンを含有する構成部材との間に、前記ゴルフボール用材料を含有する接着層が介在していることを特徴とするゴルフボールが含まれる。
【0009】
さらに、本発明には、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有し、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材とが隣接していることを特徴とするゴルフボールが含まれる。前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材は、さらに、アイオノマー樹脂を含み、アイオノマー樹脂と前記ゴルフボール用材料の質量比が20/80〜80/20であることが好ましい。また、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材との間に、接着層がさらに介在していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴルフボールにおいて、アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材との密着性を改善することができる。その結果、耐久性および/または反発性に優れたゴルフボールが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)ゴルフボール用材料
本発明のゴルフボール用材料は、マルチブロック共重合体であって、ブロックが有する酸性官能基が金属イオンで中和されているブロックAと、ブロックAより極性が低いブロックBとを有するマルチブロック共重合体からなることを特徴とする。まず、前記マルチブロック共重合体について説明する。前記マルチブロック共重合体は、極性の高いブロックAと、極性の低いブロックBとを有するので、極性が高い材料および極性が低い材料のいずれに対しても密着性に優れる。
【0012】
極性とは、電気陰性度が異なる原子が結合することにより、結合の電子密度に偏りが生じて、電気陰性度の低い原子が正に帯電し、電気陰性度の高い原子が負に帯電し、分子や結合が双極子を構成することを意味する。極性の程度は、例えば、分子構造の双極子モーメントに基づいて比較することができる。
【0013】
前記マルチブロック共重合体は、A−B−A型のトリブロック共重合体構造を有することが好ましく、A−B−A型トリブロック共重合体であることがより好ましい。ブロックAは、酸性官能基を有するとともに、この酸性官能基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているので、極性が高い。
【0014】
前記ブロックBとしては、前記ブロックAに比べて、極性が低ければ特に限定されない。例えば、ブロックAに比べて、極性の低い官能基を有するもの、極性官能基の濃度が低いもの、あるいは、極性官能基を有さないものなどが挙げられる。前記ブロックBとしては、例えば、一般に非極性の材料として知られているポリオレフィンブロックが好ましい。ポリオレフィン構造には、電気陰性度の高い原子存在しないので、極性が低くなる。前記ポリオレフィンブロックとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンを構成成分、すなわち、繰り返し単位とするものが好ましい。炭素数が2〜8個のオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができる。
【0015】
前記ポリオレフィンブロックとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンよりなる群から選択される少なくとも1種のオレフィンを構成成分とするものが好ましい。前記ポリオレフィンブロックとしては、例えば、下記式(1)で表わされる構造のブロックが好ましい。
【化1】

(式(1)において、Rは、H,CH、C,CHCH(CHより成る群から選択される)
【0016】
前記式(1)において、繰り返し単位数nは、特に限定されず、10〜1000の整数である。式(1)で表わされるポリオレフィンブロックの具体例としては、ポリエチレンブロック(RがすべてH)、ポリプロピレンブロック(RがすべてCH)、ポリ(1−ブテン)(RがすべてC)、エチレン・プロピレン共重合体(Rが、HおよびCH)、エチレン・1−ブテン共重合体(Rが、HおよびC)、プロピレン・1−ブテン共重合体(Rが、CHおよびC)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)ブロック(RがすべてCHCH(CH)などを挙げることができる。前記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0017】
前記ブロックAは、酸性官能基を有し、その酸性官能基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているものであれば、特に限定されない。前記ブロックAは、酸性官能基を有するとともに、その酸性官能基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているので極性が高い。前記酸性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基などを挙げることができ、カルボキシル基が好ましい。前記酸性官能基を中和している金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。
【0018】
前記ブロックAとしては、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはそのエステルを構成成分とするものであり、そのカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているものが好適である。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸のエステルとしては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
【0019】
ブロックAの酸性官能基の中和度(モル%)は、特に限定されないが、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、100モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましい。ブロックAの酸性官能基の中和度(モル%)は、下記式によって求めることができる。中和度が前記範囲であれば、イオン架橋が進み、反発が高くなるからである。
ブロックAの酸性官能基の中和度(モル%)=100×ブロックA中の中和されている酸性官能基のモル数/ブロックA中のカルボキシル基の総モル数
【0020】
次に、前記マルチブロック共重合体の製造方法について説明する。A−B−A型トリブロック共重合体構造を有するマルチブロック共重合体は、両末端にハロゲンが導入された両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーをマクロ開始剤として、エチレン性不飽和単量体を用いて、原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATPR)を行うことにより作製される。
【0021】
A−B−A型トリブロック共重合体構造を有するマルチブロック共重合体の製造方法は、例えば、特開2009−161724号公報に詳述されているが、概略は以下の通りである。両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーは、両末端ヒドロキシル化オレフィンオリゴマーをα−ハロアシルハライド用いてエステル化反応を行うことによって合成することができる。両末端ヒロドキシル化オレフィンオリゴマーは、両末端ビニリデン結合含有オレフィンオリゴマーの二重結合を、ヒドロホウ素化に続く、酸化反応によって得られる。両末端ビニリデン結合含有オレフィンオリゴマーは、高度制御熱分解(Macromolecules, 28, 7973(1995)参照。)によるポリオレフィンの熱分解生成物として得られる。
【0022】
ポリプロピレンを例に説明すると、高度制御熱分解法によって得られるポリプロピレンの熱分解生成物は、数平均分子量Mnが1000〜50000程度、分散度Mw/Mnが2程度、1分子当たりのビニリデン基の平均数が1.5〜1.8程度であり、分解前の原料ポリプロピレンの立体規則性を保持しているという特性を有している。分解前の原料のポリプロピレンの重量平均分子量は、好ましくは1万〜100万の範囲内、さらに好ましくは20万〜80万の範囲内である。
【0023】
熱分解装置としては、Journal of PolymerScience:Polymer Chemistry Edition, 21, 703(1983)に開示された装置を用いることができる。パイレックス(登録商標)ガラス製熱分解装置の反応容器内にポリプロピレンを入れて、減圧下、溶融ポリマー相を窒素ガスで激しくバブリングし、揮発性生成物を抜き出すことにより、2次反応を抑制しながら、所定温度で所定時間、熱分解反応させる。熱分解反応終了後、反応容器中の残存物を熱キシレンに溶解し、熱時濾過後、アルコールで再沈殿させ精製する。再沈物を濾過回収して、真空乾燥することにより両末端ビニリデン結合含有プロピレンオリゴマーが得られる。
【0024】
熱分解条件は、分解前のポリプロピレンの分子量と最終目的物のブロック共重合体の1次構造から生成物の分子量を予測し、予め実施した実験の結果を勘案して調整する。熱分解温度は300℃〜450℃の範囲が好ましい。300℃より低い温度では、ポリプロピレンの熱分解反応が充分に進行しないおそれがあり、450℃より高い温度では、熱分解生成物の劣化が進行するおそれがある。
【0025】
ヒドロキシル化は、前記方法に従って得られた両末端ビニリデン結合含有オレフィンオリゴマーの二重結合を、ヒドロホウ素化に続く、酸化反応によって達成される。例えば、テトラヒドロフランを溶媒とし、まずホウ素化試薬を加えてヒドロホウ素化する。ホウ素化試薬としては、9−ボランビシクロノナンやボラン−テトラヒドロフラン錯体を用いることができる。ヒドロホウ素化後の反応溶液に過酸化水素水を加え、酸化反応させると両末端ヒドロキシル基含有オレフィンオリゴマーが得られる。
【0026】
両末端ヒドロキシル基含有オレフィンオリゴマーとして、市販されているものを利用することも好ましい。具体的には、三菱化学社製ポリテールH(両末端ヒドロキシル化エチレン・1−ブテン共重合体:数平均分子量2800、OH価45mgKOH/g)、出光興産社製エポール(水素添加ポリイソプレンジオール:数平均分子量2500、OH価40mgKOH/g)、日本曹達社製GI2000(水素添加ポリブタジエンポリオール:数平均分子量2000、OH価46mgKOH/g)などを挙げることができる。本発明では、三菱化学社製ポリテールH(両末端ヒドロキシル化エチレン・1−ブテン共重合体)を用いることが好ましい。
【0027】
続いて、得られた両末端ヒドロキシル基含有オレフィンオリゴマーを、適当なα−ハロアシルハライドを用いてエステル化反応を行うことにより、両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーが得られる。前記α−ハロアシルハライドとは、α位の炭素がハロゲン化されたアシルハライドを意味し、工業的に容易に入手することが可能である。
【0028】
反応は、酸ハロゲン化物とアルコールによる通常のエステル化反応で行うことができる。具体的には、トリエチルアミン等の塩基の存在下、α−ハロアシルハライドと両末端ヒドロキシル基含有オリゴオレフィンとを反応させれば良い。
【0029】
A−B−A型のトリブロック共重合体は、前記両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーを開始剤として用い、エチレン性不飽和単量体を原子移動ラジカル重合させることにより得られる。前記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどのメタクリル系モノマー、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−アミノエチルなどのアクリル系モノマー、スチレンなどの芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。二種類以上のモノマーを使用する場合、これらは、同時または逐次的に系内に仕込むことが出来る。同時に仕込む場合、モノマー反応性比に基づいた共重合体を合成することができる。また、逐次的にモノマーを加えれば、鎖長を伸ばしつつ異なるブロックを持つ共重合体を合成することが可能である。
【0030】
本発明では、前記エチレン性不飽和単量体として、α,β−不飽和カルボン酸エステルを用いて、ブロックBの両末端にポリ(α,β−不飽和カルボン酸エステル)ブロックを形成し、これを部分的あるいは完全に加水分解して、カルボキシル基を形成させることが好ましい。前記エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸t−ブチルが好ましい。エチレン性不飽和単量体として、アクリル酸t−ブチルを用いたブロックAは、容易に加水分解されて、アクリル酸を構成単位とするブロックAを与える。
【0031】
A−B−A型のトリブロック共重合体は、両末端にハロゲン原子を有するので、原子移動ラジカルカップリング反応を行うことにより、さらに高分子量化したマルチブロック共重合体を合成することもできる。原子移動ラジカルカップリングはラジカルの反応性を応用した公知のカップリング反応である(例えば、e−Polymers 2005、no.49、第1頁〜11頁参照)。一般的に、ビニル系重合体ブロックが、再結合反応を主たる停止反応として生起するスチレンなどのモノマーによって構成されているトリブロック共重合体を使用する場合には、原子移動ラジカルカップリングを行うことにより、直接マルチブロック共重合体を合成することができる。一方、メタクリル酸メチル等停止反応として再結合と不均化の二種類を生起するモノマーによって構成されているトリブロック共重合体は、必要に応じて原子移動ラジカル重合によりスチレン等の再結合反応を生起するモノマーを末端に導入した後で、原子移動ラジカルカップリングさせることでマルチブロック共重合体へと変換することができる。
【0032】
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、周期律表第8族、9族、10族または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合することが好ましい。(たとえば、マティジャスツェウスキー(Matyjaszewski)ら、ジャーナルオブアメリカンケミカルソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1995年、28巻、7901頁、サイエンス(Science)、1996年、272巻、866頁、または、澤本(Sawamoto)ら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1995年、28巻、1721頁参照)。
【0033】
原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としては、特に制限はないが、例えば、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄、ならびに、2価のニッケルの錯体が挙げられる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物としては、たとえば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などが挙げられる。その中でも、塩化第一銅、臭化第一銅が、重合の制御の観点から好ましい。
【0034】
金属錯体に使用する配位子は、特に限定されないが、開始剤、単量体、および溶媒を考慮して、必要とする反応速度の関係から適宜決定すればよい。1価の銅化合物を用いる場合、配位子として、2,2′−ビピリジルおよびその誘導体(たとえば4,4′−ジノリル−2,2′−ビピリジル、4,4′−ジ(5−ノリル)−2,2′−ビピリジルなど)などの2,2′−ビピリジル系化合物、1,10−フェナントロリンおよびその誘導体(たとえば4,7−ジノリル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジノリル−1,10−フェナントロリンなど)などの1,10−フェナントロリン系化合物、テトラメチルジエチレントリアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを使用することができる。
【0035】
また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好ましい。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加してもよい。さらに、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、及び2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も触媒として好ましい。
【0036】
重合反応は、通常室温〜200℃の範囲、好ましくは50℃〜100℃の範囲で行なうことができる。
【0037】
前記のようにして、A−B−A型のトリブロック共重合体構造を有するマルチブロック共重合体が得られる。本発明では、前記A−B−A型のトリブロック共重合体構造を有するマルチブロック共重合体を加水分解することにより、ブロックAにカルボキシル基を形成させる。加水分解は、例えば、得られたA−B−A型のトリブロック共重合体構造を有するマルチブロック共重合体を溶媒に溶解させて、トリフルオロ酢酸を加えることにより行うことができる。溶媒としては、例えば、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)などが好ましい。加水分解の温度は、10℃〜50℃が好ましい。加水分解の時間は、2時間〜24時間が好ましい。溶媒は、加水分解後に減圧留去することが好ましい。
【0038】
次いで、ブロックAに形成されたカルボキシル基を金属イオンで中和する。中和剤としては、例えば、金属化合物が好ましい。前記金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物などが挙げられる。
【0039】
本発明のゴルフボール用材料のスラブ硬度は、ショアD硬度で35以上が好ましく、40以上が好ましく、70以下が好ましく、65以下がより好ましい。本発明のゴルフボール用材料のスラブ硬度が、ショアD硬度で70超であれば、耐久性が低下する。また、ゴルフボール用材料のスラブ硬度が、ショアD硬度で35未満であれば、反発性が低下するからである。
【0040】
(2)ゴルフボール
本発明のゴルフボール用材料は、ゴルフボールにおいて、アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材の密着性を改善することができる。本発明は、さらに、このゴルフボール用材料の特性を利用したゴルフボールを提供する。すなわち、本発明のゴルフボールには、アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有するゴルフボールであって、前記アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、前記ポリウレタンを含有する構成部材との間に、前記ゴルフボール用材料を含有する接着層が介在していることを特徴とするゴルフボール(第一実施形態)、及び、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有し、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材と前記ポリウレタンを含有する構成部材とが隣接していることを特徴とするゴルフボール(第二実施形態)が含まれる。
【0041】
なお、本発明のゴルフボールを構成する構成部材とは、コア、中間層、カバーなどを意味し、これらを接着する接着層やゴルフボール本体表面に設けられる塗膜は含まない。例えば、コアと前記コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとからなるゴルフボールであって、前記中間層とカバーとの間に接着層が介在している場合であっても、このゴルフボールは、コアと中間層とカバーの3つの構成部材から構成されたスリーピースゴルフボールと称する。
【0042】
第一実施形態のゴルフボールとしては、例えば、コアと前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記コアがアイオノマー樹脂を含有し、カバーがポリウレタンを含有し、前記コアとカバーとの間に、本発明のゴルフボール用材料を含有する接着層が介在する態様;コアと、前記コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボールであって、前記中間層がアイオノマー樹脂を含有し、カバーがポリウレタンを含有し、前記中間層とカバーとの間に、本発明のゴルフボール用材料を含有する接着層が介在する態様;コアと前記コアを被覆する二層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、隣接する中間層の一方の層がアイオノマー樹脂を含有し、他方の層がポリウレタンを含有し、一方の層と他方の層との間に、本発明のゴルフボール用材料を含有する接着層が介在する態様;コアと前記コアを被覆する二層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、中間層の最外層がアイオノマー樹脂を含有し、カバーがポリウレタンを含有し、中間層の最外層とカバーとの間に、本発明のゴルフボール用材料を含有する接着層が介在する態様などを挙げることができる。
【0043】
第二実施形態のゴルフボールとしては、コアと前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記コアが本発明のゴルフボール用材料を含有し、カバーがポリウレタンを含有する態様;コアと前記コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボールであって、前記中間層が本発明のゴルフボール用材料を含有し、カバーがポリウレタンを含有する態様;コアと前記コアを被覆する二層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、隣接する中間層の一方の層が本発明のゴルフボール用材料を含有し、他方の層がポリウレタンを含有する態様;コアと前記コアを被覆する二層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、中間層の最外層が本発明のゴルフボール用材料を含有し、カバーがポリウレタンを含有する態様などを挙げることができる。第二実施形態のゴルフボールでは、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材との間に、接着層が介在していてもよい。
【0044】
第二実施形態のゴルフボールにおいて、本発明のゴルフボール用材料を含有する構成部材は、さらにアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂とゴルフボール用材料との質量比は、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましく、80/20以下が好ましく、70/30以下がより好ましい。アイオノマー樹脂とゴルフボール用材料の質量比が、上記範囲であれば、ポリウレタンを含有する構成部材に対する密着性が高くなり、耐久性および高反発のゴルフボールが得られるからである。
【0045】
第二実施形態のゴルフボールは、さらに以下のように変形することができる(第三実施形態)。コアと前記コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボールであって、コアがアイオノマー樹脂を含有し、前記中間層が本発明のゴルフボール用材料を含有し、カバーがポリウレタンを含有する態様;コアと前記コアを被覆する二層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、前記中間層の内層がアイオノマー樹脂を含有し、中間層の外層が本発明のゴルフボール用材料を含有し、カバーがポリウレタンを含有する態様などを挙げることができる。第三実施形態のゴルフボールにおいて、本発明のゴルフボール用材料を含有する構成部材の樹脂成分中の本発明のゴルフボール用材料の含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0046】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
【0047】
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM3711(Mg)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
【0048】
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン6320(Mg)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。
【0049】
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
【0050】
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記アイオノマー樹脂は、単独で若しくは2種以上を混合して使用しても良い。
【0051】
次に、ポリウレタンを含有する構成部材について説明する。前記ポリウレタンは、分子鎖内にウレタン結合を複数有するポリマーであり、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。必要に応じて、さらに低分子量ポリオールや低分子量ポリアミンなどの鎖延長剤により鎖延長反応がなされていてもよい。
【0052】
前記ポリウレタンを構成するポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(HXDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)等の脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種、または、2種以上の混合物などである。
【0053】
耐擦過傷性を向上するという観点からは、ポリウレタンのポリイソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートを使用することが好ましい。芳香族ポリイソシアネートを使用することにより、得られるポリウレタンの機械的特性が向上し、耐擦過傷性に優れるカバーが得られる。また、耐候性を向上するという観点からは、ポリウレタンのポリイソシアネート成分として、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、HXDI、IPDI、H12MDI、NBDIなど)を使用することが好ましく、さらに好ましくは4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用する。4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)は剛直な構造を有しており、得られるポリウレタンの機械的特性が向上し、耐擦過傷性に優れるカバーが得られるからである。
【0054】
ポリウレタンを構成するポリオール成分としては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、鎖延長剤として使用される低分子量ポリオールやソフトセグメントを構成する重合体ポリオールなどを挙げることができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。重合体ポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられ、上述したポリオールの少なくとも2種以上の混合物であってもよい。本発明で使用するポリウレタンを構成するポリオール成分は、ポリオキシテトラメチレングリコールであることが好ましい。
【0055】
重合体ポリオールの数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、400以上であることが好ましく、より好ましくは1,000以上である。重合体ポリオールの数平均分子量が小さくなりすぎると、得られるポリウレタンが硬くなり、ゴルフボールの打球感が低下するからである。重合体ポリオールの数平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、10,000以下、より好ましくは8,000以下である。
【0056】
必要に応じてポリウレタンを構成し得るポリアミンは、少なくとも2以上のアミノ基を有するものであれば特に限定されない。前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族系ポリアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンなどの脂環式系ポリアミン、及び、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどの芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0057】
前記ポリウレタンのスラブ硬度は、ショアD硬度で5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましい。前記ポリウレタンのスラブ硬度が、ショアD硬度で5以上であれば、構成部材の形状を保つことができるからである。前記ポリウレタンのスラブ硬度は、ショアD硬度で、60以下が好ましく、55以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。前記ポリウレタンのスラブ硬度が、ショアD硬度で60以下であれば、アプローチスピン性能が良くなるからである。
【0058】
前記ポリウレタンの具体例としては、BASFジャパン社から市販されている「エラストランXNY90A」、「エラストランXNY97A」、「エラストランXNY585」など、大日精化工業社から市販されている「レザミンP4585LS」、「レザミンPS62490」などを挙げることができる。
【0059】
ポリウレタンを含有する構成部材の樹脂成分中のポリウレタンの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
【0060】
本発明のゴルフボールの構成部材は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分を含有してもよい。他の樹脂成分としては、例えば、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
【0061】
次に、第一実施形態および第二実施形態における接着層について説明する。接着層は、接着用樹脂成分が溶剤に溶解又は分散した液が、構成部材の表面に塗布されることで得られる。作業性の観点から、スプレーガンによる塗布が好ましい。塗布後に溶剤が揮発して、接着層が形成される。好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール及び酢酸エチルが例示される。
【0062】
接着層の厚みは3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。接着層が容易に形成されるとの観点から、厚みは300μm以下、さらには100μm以下、さらには50μm以下、さらには20μm以下が好ましい。厚みは、ゴルフボールの断面がマイクロスコープで観察されることで測定される。粗面処理により構成部材の表面が凹凸を備える場合は、凸部の直上で厚みが測定される。
【0063】
接着層は、着色剤(典型的には二酸化チタン)、リン酸系安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤等の添加剤を含んでもよい。
【0064】
第一実施形態では、接着用樹脂成分として、本発明のゴルフボール用材料を必須成分として用いる。接着用樹脂成分としては、本発明のゴルフボール用材料のみを使用することが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、市販の接着用樹脂を併用してもよい。この場合、接着用樹脂成分中の本発明のゴルフボール用材料の含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。第二実施形態のゴルフボールにおける接着層は、接着用樹脂成分として、本発明のゴルフボール用材料を含有してもよいし、市販の接着用樹脂を含有してもよい。
【0065】
市販の接着用樹脂としては、二液硬化型熱硬化性樹脂が好適に用いられる。二液硬化型熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂及びセルロース系樹脂が挙げられる。接着層の機械特性(例えば破断強度)及び耐久性の観点から、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
【0066】
二液硬化型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂がポリアミド系硬化剤で硬化されることで得られる。二液硬化型エポキシ樹脂に用いられるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールAD型エポキシ樹脂が例示される。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリン等のエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、ビスフェノールFとエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。ビスフェノールAD型エポキシ樹脂は、ビスフェノールADとエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。柔軟性、耐薬品性、耐熱性及び強靭性のバランスの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0067】
ポリアミド系硬化剤は、複数のアミノ基と、1個以上のアミド基を有する。このアミノ基が、エポキシ基と反応し得る。ポリアミド系硬化剤の具体例としては、ポリアミドアミン硬化剤及びその変性物が挙げられる。ポリアミドアミン硬化剤は、重合脂肪酸とポリアミンとの縮合反応によって得られる。典型的な重合脂肪酸は、リノール酸、リノレイン酸等の不飽和脂肪酸を多く含む天然脂肪酸類が触媒存在下で加熱されて合成されることで得られる。不飽和脂肪酸の具体例としては、トール油、大豆油、亜麻仁油及び魚油が挙げられる。ダイマー分が90質量%以上であり、トリマー分が10質量%以下であり、且つ水素添加された重合脂肪酸が好ましい。好ましいポリアミンとしては、ポリエチレンジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン及びそれらの誘導体が例示される。
【0068】
エポキシ樹脂とポリアミド系硬化剤との混合において、エポキシ樹脂のエポキシ当量とポリアミド系硬化剤のアミン活性水素当量との比は、1.0/1.4以上1.0/1.0以下が好ましい。
【0069】
二液硬化型ウレタン樹脂は、主剤と硬化剤との反応によって得られる。ポリオール成分を含有する主剤とポリイソシアネート又はその誘導体を含有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂や、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤と活性水素を有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂が用いられうる。特に、ポリオール成分を含有する主剤とポリイソシアネート又はその誘導体を含有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
【0070】
主剤のポリオール成分としてウレタンポリオールが用いられることが、好ましい。ウレタンポリオールは、ウレタン結合と、少なくとも2以上のヒドロキシル基を有する。好ましくは、ウレタンポリオールは、その末端にヒドロキシル基を有する。ウレタンポリオールは、ポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネートのイソシアネート基に対してモル比で過剰になるような割合で、ポリオールとポリイソシアネートとが反応させられることによって得られうる。
【0071】
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリオールとしては、ゴルフボールの構成部材が含有するポリウレタンを構成するポリオール成分として例示したものを挙げることができる。
【0072】
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリイソシアネートは、ゴルフボールの構成部材が含有するポリウレタンを構成するポリイソシアネート成分として例示したものを挙げることができる。
【0073】
ウレタンポリオール生成のためのポリオールとポリイソシアネートとの反応では、既知の触媒が用いられうる。典型的な触媒は、ジブチル錫ジラウリレートである。
【0074】
接着層の強度の観点から、ウレタンポリオールに含まれるウレタン結合の比率は0.1mmol/g以上が好ましい。接着層の構成部材への追従性の観点から、ウレタンポリオールに含まれるウレタン結合の比率は5mmol/g以下が好ましい。ウレタン結合の比率は、原料となるポリオールの分子量及びポリオールとポリイソシアネートとの配合比率などにより調整されうる。
【0075】
主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4000以上が好ましく、4500以上がより好ましい。接着層の接着性の観点から、ウレタンポリオールの重量平均分子量は10000以下が好ましく、9000以下がより好ましい。
【0076】
接着層の接着性の観点から、ウレタンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は15以上が好ましく、73以上がより好ましい。主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、ウレタンポリオールの水酸基価は130以下が好ましく、120以下がより好ましい。
【0077】
主剤が、ウレタンポリオールとともに、ウレタン結合を有さないポリオールを含有してもよい。ウレタンポリオールの原料である前述のポリオールが、主剤に用いられうる。ウレタンポリオールと相溶可能なポリオールが好ましい。主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、主剤におけるウレタンポリオールの比率は、固形分換算で、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。理想的には、この比率は100質量%である。
【0078】
硬化剤は、ポリイソシアネート又はその誘導体を含有する。ウレタンポリオールの原料である前述のポリイソシアネートが、硬化剤に用いられうる。
【0079】
本発明のゴルフボールのコアとしては、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることが好ましい。前記コアは、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0080】
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類、チオフェノール類を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
【0081】
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間と2段階加熱することが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0083】
[評価方法]
(1)スラブ硬度(ショアD硬度)
中間層用組成物またはカバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
【0084】
(2)反発性
各ゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は、各ゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値を各ゴルフボールの反発係数とした。なお、反発係数は、ゴルフボールNo.8の反発係数を100として、指数化した値で示した。
【0085】
(3)耐久性
ツルーテンパー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(SRIスポーツ社製、商品名「XXIO」 シャフト硬度:S ロフト角:11°)を取り付け、ヘッドスピードを45m/秒に設定した。各ゴルフボールを、恒温器にて23℃で12時間保管した。各ゴルフボールを恒温器から取り出した後、すみやかに打撃して、ゴルフボールが壊れるまでの繰り返し打撃回数を測定した。測定は、各ゴルフボールについて12個ずつ行った。各ゴルフボールの耐久性は、ゴルフボールNo.8の打撃回数を100として、各ゴルフボールの打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
【0086】
[マルチブロック共重合体の合成]
両末端ヒドロキシル基含有オレフィンオリゴマーとして、三菱化学社製ポリテールH(両末端ヒドロキシル化エチレン・1−ブテン共重合体(式(2):なお、式(2)は、便宜上、エチレンブロックと1−ブテンブロックのブロック共重合体として記載されているが、ポリテールHはこれに限定されるものではない):数平均分子量2800、OH価45mgKOH/g)と、2−ブロモイソブチリルブロミドを用いて、エステル化反応を行い、両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーを作製した。具体的には、三菱化学社製ポリテールH20gに脱水クロロホルム100mLを加え、加熱し溶解させた後、蒸留トリエチルアミン5.8mLを加え、2−ブロモイソブチリルブロミド5.0mL/脱水クロロホルム溶液20mLを滴下し、常温で24時間撹拌後、1MHCl/メタノールに注いで、再沈殿させた。再沈殿物をろ過して、両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマー(式(3))を得た。収率は、100%であった。
【0087】
得られた両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマーをマクロ開始剤として、A−B−A型トリブロック共重合体の合成を行った。具体的には、得られた両末端ハロゲン化オレフィンオリゴマー30g(6mmol)とCuBr(I)0.893g(6mmol)をナスフラスコに仕込、窒素置換した後、o−キシレンを加えた。その後、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン1.257mLを加え、さらにアクリル酸t−ブチル72mlを加え、120℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をメタノールに注いで、再沈殿させた。再沈殿物をろ過して、A−B−A型トリブロック共重合体(式(4))を得た。モノマー転化率は、48%であった。得られたA−B−A型トリブロック共重合体の数平均分子量は、9600であった。得られたA−B−A型トリブロック共重合体は、ブロックBがポリオレフィブロックであり、その両末端に、ブロックAとして、ポリアクリル酸t−ブチルブロックが形成されている。
【0088】
次に、得られたA−B−A型トリブロック共重合体を加水分解して、ブロックAに酸性官能基としてカルボキシル基を形成し、ついで、このカルボキシル基を金属化合物で中和した。具体的には、得られたA−B−A型トリブロック共重合体10gを、クロロホルム200mLに溶解し、トリフルオロ酢酸60mLを加え、23℃で24時間撹拌した。反応終了後、溶媒のクロロホルムを減圧留去して取り除いた。ブロックAのポリアクリル酸t−ブチルブロックが加水分解されて、カルボキシル基が形成されたブロックAを有するA−B−B型トリブロック共重合体(式(5))を得た。加水分解によって、ブロックAは、ポリアクリル酸ブロックに変化している。カルボキシ基が形成されたブロックAを有するA−B−A型トリブロック共重合体の数平均分子量は、10800であった。
【0089】
ブロックAに形成されたカルボキシル基の中和は、カルボキシル基を形成したA−B−A型トリブロック共重合体を、メタノール80mLに分散して得られた分散液に、5Nの水酸化ナトリウム水溶液240mLを添加して、十分に撹拌を行った。その後、減圧濃縮して、ブロックAのカルボキシル基がナトリウムイオンで中和されたA−B−A型のトリブロック共重合体(以下、単に「ポリオレフィンアイオノマー」と称する場合がある)を得た(式(6))。ブロックAのカルボキシル基の中和度は、100%とした。
【0090】
【化2】

【0091】
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、15分間加熱プレスすることにより球状コアを得た。
【0092】
【表1】

ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺(登録商標)R」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0093】
(2)中間層用組成物、カバー用組成物の調製
表2に示した配合材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物、カバー用組成物を調製した。中間層用組成物の押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35、シリンダー温度140〜200℃で行った。カバー用組成物の押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
【0094】
【表2】

アイオノマー樹脂:ハイミランAM7329とサーリン8945の50:50のブレンド品
ハイミランAM7329:三井デュポンケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
サーリン8945:デュポン社製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
エラストランXNY85A:BASFジャパン社製ポリウレタンエラストマー
【0095】
(3)ゴルフボール本体の作製
(2)で得られた中間層用組成物を、(1)で得たコア上に射出成形することにより、前記コアを被覆する中間層を形成した。中間層成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせた。中間層用組成物は、射出装置のシリンダー部分で200℃〜260℃に加熱され、15MPaの圧力で型締めした金型に射出され、30秒間冷却して、中間層を形成した。
【0096】
中間層の表面に接着剤をスプレーガンで塗布し、40℃雰囲気で24時間保持して、接着層を形成した。なお、接着剤としては、以下のものを用いた。
[接着剤1]
接着剤としては、二液硬化型エポキシ樹脂を基材ポリマーとする樹脂組成物(神東塗料社の商品名「ポリン750LE)を用いた。この樹脂組成物の主剤液は、30質量部のビスフェノールA型固形エポキシ樹脂と、70質量部の溶剤とからなる。この樹脂組成物の硬化剤液は、40質量部の変性ポリアミドアミンと、55質量部の溶剤と、5質量部の酸化チタンとからなる。主剤液と硬化剤液との質量比は、1/1である。
[接着剤2]
テトラヒドロフラン/水(80質量部/20質量部)とメチルエチルケトン50質量部とを混合した。この混合溶液65質量部に前記で得られたポリオレフィンアイオノマー35質量部を添加し、溶解した。
【0097】
続いて、中間層上にカバー用組成物を射出成形することによりカバーを形成して、ゴルフボールを作製した。カバーを成形するための成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、中間層が形成されたコアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボール本体を取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。
【0098】
得られたゴルフボールの反発性および耐久性について評価した結果を、表2に併せて示した。表2の結果から、本発明のゴルフボール用材料を中間層に用いたゴルフボールNo.1〜No.5、No.9〜No.12はいずれも、従来のゴルフボールNo.8と比較して、反発性もしくは耐久性が良好になる。特に、本発明のゴルフボール用材料とアイオノマー樹脂との質量比が20/80〜80/20であれば、反発性および耐久性の両方が改善され、その効果も顕著である。また、ゴルフボールNo.6およびNo.7の結果から、アイオノマー樹脂を含有する中間層と、ポリウレタンを含有するカバーとの接着剤として、本発明のゴルフボール用材料を使用した場合にも、反発性または耐久性が改善されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有するゴルフボールに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチブロック共重合体であって、ブロックが有する酸性官能基が金属イオンで中和されているブロックAと、ブロックAより極性が低いブロックBとを有するマルチブロック共重合体からなることを特徴とするゴルフボール用材料。
【請求項2】
前記マルチブロック共重合体は、A−B−A型のトリブロック共重合体構造を有するものである請求項1に記載のゴルフボール用材料。
【請求項3】
前記マルチブロック共重合体は、A−B−A型トリブロック共重合体である請求項1または2に記載のゴルフボール用材料。
【請求項4】
前記ブロックBは、ポリオレフィンブロックである請求項2または3に記載のゴルフボール用材料。
【請求項5】
前記ポリオレフィンブロックは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンよりなる群から選択される少なくとも1種のオレフィンを構成成分とするものである請求項4に記載のゴルフボール用材料。
【請求項6】
前記ポリオレフィンブロックは、エチレン・1−ブテン共重合体構造を有する請求項4に記載のゴルフボール用材料。
【請求項7】
前記ブロックAは、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を構成成分とするものであり、そのカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンで中和されているものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフボール用材料。
【請求項8】
アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有するゴルフボールであって、前記アイオノマー樹脂を含有する構成部材と、前記ポリウレタンを含有する構成部材との間に、請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフボール用材料を含有する接着層が介在していることを特徴とするゴルフボール。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフボール用材料を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材とを有し、前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材とポリウレタンを含有する構成部材とが隣接していることを特徴とするゴルフボール。
【請求項10】
前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材は、さらに、アイオノマー樹脂を含み、アイオノマー樹脂と前記ゴルフボール用材料の質量比が20/80〜80/20である請求項9に記載のゴルフボール。
【請求項11】
前記ゴルフボール用材料を含有する構成部材と、ポリウレタンを含有する構成部材との間に、さらに接着層が介在している請求項9または10に記載のゴルフボール。


【公開番号】特開2013−111120(P2013−111120A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257977(P2011−257977)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】