説明

ゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボール

【課題】反発性及び流動性に優れたゴルフボール用樹脂組成物、打球感及び反発性に優れたゴルフボールを提供する。
【解決手段】(A)(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)脂肪酸アミドとを含有し、前記脂肪酸アミドの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、5〜50質量部であるゴルフボール用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用樹脂組成物及びこれを用いたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの構造として、ゴルフボール本体からなるワンピースゴルフボール、コアとカバーとを有するツーピースゴルフボール、センター及び該センターを被覆する一層の中間層からなるコアと該コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、センター及び該センターを被覆する少なくとも二以上の中間層からなるコアと該コアを被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール、などが提案されている。
【0003】
ゴルフボールの構成する材料としては、剛性が高く、飛距離の大きいゴルフボールが得られるという理由から、アイオノマー樹脂が使用されており、ゴルフボールの中間層やカバーの材料として汎用されている。アイオノマー樹脂は、中和度を高めることで反発性を向上できることが知られているが、高中和度のアイオノマー樹脂は流動性が低く、中間層やカバーに成形することが困難である。更に中和度を高めることで反発性が向上する一方、打球感が低下し、フィーリングが悪化してしまう。
【0004】
そこで、高中和度のアイオノマー樹脂の流動性を向上させる技術として、例えば、脂肪酸、脂肪酸誘導体、酸変性オレフィン、ワックスなどの低分子材料を添加する技術が提案されているが、成形時の発煙、低分子成分のブリードによるペイント層の密着性の悪化などの問題が発生する。更に反発性と流動性を両立させるためには、脂肪酸などの低分子材料を相当量添加する必要があるため、材料強度が低下し、ゴルフボールの耐久性が低下するという問題もある。
【0005】
例えば、特許文献1には、ゴルフボールのコアなどを構成する材料において、アイオノマー性ポリマーにステアリン酸金属塩を添加することで、CORを向上することが開示されている。特許文献2には、ゴルフボールカバー材において、三元アイオノマー樹脂成分に、ステアリン酸、パルミチン酸などの有機酸を1〜3価金属イオンで中和した金属せっけんを配合することで、打球感、成形性、反発性、塗膜密着性を改善することが開示されている。
【0006】
特許文献3〜4には、ゴルフボールカバー材において、炭素数が2〜8のオレフィン及び炭素数が3〜8の不飽和モノカルボン酸の反応生成物からなるアイオノマー樹脂に、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩を添加することで、反発性が良好でかつ柔らかく、更に優れたコスト低減効果も得られることが開示されている。特許文献5には、脂肪族一塩基又は二塩基酸(c−エンド−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸など)などの成核剤で改質されたアイオノマー組成物を有する曲げ弾性率を増大させたゴルフボールが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの材料では脂肪酸やその誘導体が使用されているため、前述のように、成形時の発煙、ペイント層の密着性の悪化などの問題がある。また、反発性、打球感及び流動性をバランスよく改善するという点についても未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4173558号公報
【特許文献2】特許第3402227号公報
【特許文献3】米国特許第5312857号公報
【特許文献4】米国特許第5306760号公報
【特許文献5】特開2006−346453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、反発性及び流動性に優れたゴルフボール用樹脂組成物を提供することを目的とする。また、打球感及び反発性に優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A)(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)脂肪酸アミドとを含有し、前記脂肪酸アミドの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、5〜50質量部であるゴルフボール用樹脂組成物に関する。
【0011】
前記脂肪酸アミドの炭素数は、8〜60であることが好ましい。
前記脂肪酸アミドは、飽和脂肪酸アミド及び/又は不飽和脂肪酸アミドであることが好ましい。
【0012】
前記脂肪酸アミドは、モノアミド及び/又はビスアミドであることが好ましい。
前記脂肪酸アミドは、デカン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド及びエチレンビスオレイン酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記ゴルフボール用樹脂組成物は、スラブ硬度が、ショアD硬度で15〜70であることが好ましい。
【0014】
本発明は、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボールに関する。
本発明は、少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボールに関する。
【0015】
本発明は、センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するマルチピースゴルフボールであって、前記一以上の中間層の少なくとも1つの層が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されているマルチピースゴルフボールに関する。
本発明はまた、ゴルフボール本体が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されているワンピースゴルフボールに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の樹脂に脂肪酸アミドが配合されているので、反発性及び流動性に優れたゴルフボール用樹脂組成物を提供できる。また、該樹脂組成物を使用することで、打球感及び反発性に優れたゴルフボールを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)脂肪酸アミドとを含有する。
【0018】
前述のように、アイオノマー樹脂などを用いてゴルフボール用材料の流動性と反発性を両立することは困難であるが、脂肪酸アミドという特定成分をアイオノマー樹脂などの樹脂成分に配合することにより、流動性を高めながら、反発性を維持することが可能となり、これらの性能を両立できる。同時に、脂肪酸や脂肪酸金属塩を配合した場合の問題(成形時に発煙が生じること、ゴルフボール本体表面への塗装時においてブリードに起因して塗膜密着性が低下すること、材料強度の低下に起因してゴルフボールの耐久性が低下することなど)も防止できる。
【0019】
また、アイオノマー樹脂などに脂肪酸アミドを添加することで、反発性の低下を抑制しながら、材料の柔軟化も可能となるため、ゴルフボールの打球感と反発性も両立できる。従って、反発性の低下を抑制しながら、流動性向上により成形性を高め、また柔軟化により打球感も改善できる。よって、本発明では、反発性、流動性、打球感をバランスよく改善したゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボールを提供できる。
【0020】
先ず、本発明で(A)樹脂成分として使用される前記(a−1)〜(a−4)成分について説明する。
前記(a−1)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体であって、共重合体のカルボキシル基が中和されていない非イオン性のものである。前記(a−2)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物であって、共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂を挙げることができる。
【0021】
前記(a−3)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体であって、共重合体のカルボキシル基が中和されていない非イオン性のものである。前記(a−4)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物であって、共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂を挙げることができる。
【0022】
なお、本発明において、「(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体」を単に「二元共重合体」と称し、「(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を「二元系アイオノマー樹脂」と称し、「(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体」を単に「三元共重合体」と称し、「(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を「三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。
【0023】
前記(a−1)〜(a−4)成分において、前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどを挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが挙げられ、特にアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。また、前記α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが用いられ、特にアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましい。
【0024】
前記(a−1)二元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体が好ましく、前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。前記(a−3)三元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体が好ましく、前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0025】
前記(a−1)二元共重合体又は(a−3)三元共重合体中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、該含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0026】
前記(a−1)二元共重合体、(a−3)三元共重合体のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1g/10min以上、より好ましくは0.5g/10min以上、更に好ましくは1g/10min以上である。該メルトフローレイトは、好ましくは1700g/10min以下、より好ましくは1500g/10min以下、更に好ましくは1300g/10min以下である。0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、構成部材の成形が容易になる。また、1700g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0027】
前記(a−1)二元共重合体の具体例を商品名で例示すると、例えば、三井デュポンポリケミカル社から商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルN1050H」、「ニュクレルN2050H」、「ニュクレルN1110H」、「ニュクレルN0200H」)」で市販されているエチレン−メタクリル酸共重合体、ダウケミカル社から商品名「プライマコア(PRIMACOR)(登録商標)5980I」で市販されているエチレン−アクリル酸共重合体などを挙げることができる。
【0028】
前記(a−3)三元共重合体の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル社から市販されている商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルAN4318」「ニュクレルAN4319」)」、デュポン社から市販されている商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルAE」)」、ダウケミカル社から市販されている商品名「プライマコア(PRIMACOR)(登録商標)(例えば、「PRIMACOR AT310」、「PRIMACOR AT320」)」などを挙げることができる。前記(a−1)二元共重合体又は(a−3)三元共重合体は、単独又は二種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0029】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上である。該含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。4質量%以上であれば、得られる構成部材の反発が高くなる。また、30質量%以下であれば、得られる構成部材の硬度が高くなり過ぎず、耐久性と打球感が良好になる。
【0030】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上である。15モル%以上であれば、得られるゴルフボールの反発性及び耐久性が良好になる。該中和度の上限は特に限定されず、100モル%でもよい。
【0031】
なお、前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
二元系アイオノマー樹脂の中和度=100×二元系アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシル基のモル数/二元系アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の総モル数
【0032】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。
【0033】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn))など」が挙げられる。更にデュポン社から市販されている「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li))」などが挙げられる。またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn))」などが挙げられる。なお、前記商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂は、例示のものをそれぞれ単独又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0034】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1g/10min以上、より好ましくは0.5g/10min以上、更に好ましくは1.0g/10min以上である。該メルトフローレイトは、好ましくは50g/10min以下、より好ましくは40g/10min以下、更に好ましくは30g/10min以下である。0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、例えば、薄い層の成形が可能となる。また、50g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0035】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で40以上が好ましく、より好ましくは45以上、更に好ましくは50以上である。また、該スラブ硬度(ショアD硬度)は、75以下が好ましく、より好ましくは73以下、更に好ましくは70以下である。40以上であれば、得られる構成部材の反発が高くなる。また、75以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0036】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。該含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0037】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。20モル%以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物を用いて得られるゴルフボールの反発性および耐久性が良好になる。該中和度の上限は特に限定されず、100モル%でもよい。
【0038】
なお、(a−4)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
三元系アイオノマー樹脂の中和度=100×三元系アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシル基のモル数/三元系アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の総モル数
【0039】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂と同様のものが挙げられる。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂としては、マグネシウムイオンで中和されているものが好ましい。マグネシウムイオンで中和されることにより、反発弾性が高くなる。
【0040】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミランAM7327(Zn)、ハイミラン1855(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミランAM7331(Na)など)」が挙げられる。更にデュポン社から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など」が挙げられる。またエクソンモービル化学(株)から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など」が挙げられる。なお、商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Mgなどは、中和金属イオンの種類を示している。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1g/10min以上、より好ましくは0.3g/10min以上、更に好ましくは0.5g/10min以上である。該メルトフローレイトは、好ましくは20g/10min以下、より好ましくは15g/10min以下、更に好ましくは10g/10min以下である。0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、薄い層の成形が容易になる。また、20g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0042】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、より好ましくは25以上、更に好ましくは30以上である。また、該スラブ硬度(ショアD硬度)は、70以下が好ましく、より好ましくは65以下、更に好ましくは60以下である。20以上であれば、得られる構成部材が柔らなく成り過ぎず、ゴルフボールの反発性が良好になる。また、70以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0043】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)樹脂成分として、(a−3)三元共重合体、又は、(a−4)三元系アイオノマー樹脂を含有することが好ましい。これにより、得られる構成部材が硬くなり過ぎず、反発性が高くなる。
【0044】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、樹脂成分として、上述した(a−1)〜(a−4)成分のみを含有することが好ましい態様であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂を含有しても良い。他の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂を含有する場合、樹脂成分中、(a−1)〜(a−4)成分の合計含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0045】
次に、本発明で使用される(B)脂肪酸アミドについて説明する。
脂肪酸アミドは、脂肪酸とアミンからなるアミド化合物であり、アミド基を1個有するモノアミド(飽和・不飽和モノアミド、置換アミド、メチロールアミド、エタノールアミド、エステルアミド、置換尿素など)、2個有するビスアミド(飽和・不飽和ビスアミド、芳香族ビスアミドなど)、3個有するトリアミドなどを挙げることができる。
【0046】
前記脂肪酸アミドの炭素数は、樹脂組成物がブリードしにくいという点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上である。また、該炭素数は、柔軟化という点から、好ましくは60以下、より好ましくは58以下、更に好ましくは56以下である。
【0047】
前記脂肪酸アミドとしては、例えば、下記式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
−CO−NH−R (1)
式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、炭素数8〜30の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、該Rは水素であってもよい。また、該R及びRを構成する水素の一部が水酸基で置換されていてもよい。
【0048】
−CO−NH−A−NH−CO−R (2)
−NH−CO−A−CO−NH−R (3)
式(2)及び(3)において、R、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数8〜30の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、A及びAは、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基又は炭素数7〜10のアルキルフェニレン基(2価の炭化水素基)を表す。なお、アルキルフェニレン基の場合、フェニレン基とアルキル基及び/又はアルキレン基の2個以上とが結合した2価の炭化水素基でもよい。また、該R、R、R、R、A及びAで表される炭化水素基は、一部の水素が水酸基で置換されていてもよい。
【0049】
上記式(1)で表されるモノアミドにおいて、R及びRの炭素数は、好ましくは10〜28である。また、Rが飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、Rが水素であるモノアミドが好ましく、Rが不飽和の脂肪族炭化水素基、Rが水素であるモノアミドがより好ましい。この場合、樹脂組成物の流動性と反発性、ゴルフボールの打球感と反発性をより高次元で両立できる。
【0050】
モノアミドの具体例としては、デカン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド;ステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和又は不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミド類などが挙げられる。
【0051】
上記式(2)〜(3)で表されるビスアミドにおいて、R、R、R及びRの炭素数は、好ましくは10〜28である。また、A及びAは、アルキレン基が好ましい。この場合、樹脂組成物の流動性と反発性、ゴルフボールの打球感と反発性をより高次元で両立できる。
【0052】
ビスアミドの具体例としては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド;N,N’−ビスステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
【0053】
(B)脂肪酸アミドの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは6質量部以上、より好ましくは7質量部以上である。該含有量は、50質量部以下、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であれば、反発性の低下を抑制しながら、流動性を向上し、また、柔軟化も可能となる。
【0054】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、更に(C)塩基性無機金属化合物を含有してもよい。(C)塩基性無機金属化合物は、(A)成分の未中和のカルボキシル基を中和するために必要に応じて添加される。(C)前記塩基性無機金属化合物としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属単体、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。これらの(C)塩基性無機金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(C)塩基性無機金属化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、酸化亜鉛、酸化銅が好適である。
【0055】
(C)前記塩基性無機金属化合物の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0質量部超、より好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは9質量部以下である。含有量が少なすぎると、イオン会合体の量が少なく低反発となり、一方、含有量が多すぎると、イオン会合体が微分散化せず低反発となる場合がある。
【0056】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、更に、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料などの顔料成分、重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料、蛍光増白剤などを、ゴルフボールの性能を損なわない範囲で含有してもよい。また、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、脂肪酸及び/又はその金属塩などを併用しても良いが、機械的物性などを低下させる原因となるため、脂肪酸及び/又はその金属塩などの低分子材料は併用しないことが好ましい。
【0057】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。0.5質量部以上とすることによって、得られるゴルフボール構成部材に隠蔽性を付与できる。また、10質量部を超えると、得られるゴルフボールの耐久性が低下する場合がある。
【0058】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、例えば、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて(C)成分とをドライブレンドすることにより得られる。また、ドライブレンドした混合物を、押出してペレット化してもよい。ドライブレンドには、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。押出は、一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など公知の押出機を使用することができる。
【0059】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物のメルトフローレイト(190℃×2.16kg)は、好ましくは0.01g/10min以上、より好ましくは0.05g/10min以上、更に好ましくは0.1g/10min以上である。該メルトフローレイトは、好ましくは100g/10min以下、より好ましくは80g/10min以下、更に好ましくは50g/10min以下である。上記範囲内であれば、ゴルフボール構成部材への成形性が良好である。
【0060】
前記ゴルフボール用樹脂組成物の反発弾性は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは32%以上である。25%以上のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、反発性(飛距離)に優れるゴルフボールが得られる。反発弾性は、ゴルフボール用樹脂組成物をシート状に成形して測定した反発弾性であり、後述する測定方法により測定する。
【0061】
前記ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で15以上が好ましく、20以上がより好ましく、25以上が更に好ましい。該スラブ硬度(ショアD硬度)は、70以下が好ましく、65以下がより好ましく、60以下が更に好ましく、50以下が最も好ましい。15以上のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、反発性(飛距離)に優れるゴルフボールが得られる。一方、70以下のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、耐久性に優れるゴルフボールが得られる。ここで、ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度とは、ゴルフボール用樹脂組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
【0062】
本発明のゴルフボールは、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ワンピースゴルフボール;単層コアと、前記単層コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆するように配設された単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するスリーピースゴルフボール;又は、センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボール(前記スリーピースゴルフボールを含む)を構成するいずれかの構成部材が本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも、少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様、又は、ワンピースゴルフボールのゴルフボール本体が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様が好ましい。特に、単層コアと、前記単層コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記単層コアが前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様、又は、センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、前記センターが、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様が好ましい。
【0063】
以下、本発明のゴルフボールの一例を、コアと前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記コアが、前述のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様に基づいて詳述するが、本発明は斯かる態様に限定されない。
【0064】
前記コアは、例えば、前述のゴルフボール用樹脂組成物を射出成形することにより成形される。具体的には、1〜100MPaの圧力で型締めした金型内に、160〜260℃に加熱溶融したゴルフボール用樹脂組成物を1〜100秒で注入し、30〜300秒間冷却して型開きすることにより行うことが好ましい。
【0065】
前記コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になり、その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるおそれがある。
【0066】
前記コアの直径は、好ましくは39.00mm以上、より好ましくは39.25mm以上、更に好ましくは39.50mm以上である。該直径は、好ましくは42.37mm以下、より好ましくは42.22mm以下、更に好ましくは42.07mm以下である。39.00mm以上であれば、カバー層の厚みが厚くなり過ぎず、その結果、反発性が良好となる。一方、42.37mm以下であれば、カバー層が薄くなり過ぎず、カバーの保護機能が十分に発揮される。
【0067】
前記コアは、直径39.00〜42.37mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、好ましくは1.00mm以上、より好ましくは1.10mm以上である。該圧縮変形量は、好ましくは5.00mm以下、より好ましくは4.90mm以下、更に好ましくは4.80mm以下である。1.00mm以上であれば、打球感が良好となり、5.00mm以下であれば、反発性が良好となる。
【0068】
前記コアの表面硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上が更に好ましい。該表面硬度(ショアD硬度)は、70以下が好ましく、69以下がより好ましい。20以上とすることにより、コアが軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、70以下とすることにより、コアが硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
【0069】
前記コアの中心硬度は、ショアD硬度で20以上であることが好ましく、22以上がより好ましく、24以上が更に好ましい。20未満であると、軟らかくなりすぎて反発性が低下する場合がある。また、コアの中心硬度は、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、48以下がより好ましく、46以下が更に好ましい。50を超えると、硬くなり過ぎて、打球感が低下する傾向がある。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
【0070】
前記コアが、充填剤を含有することも好ましい。充填剤は、主として最終製品として得られるゴルフボールの密度を1.0〜1.5の範囲に調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上である。該配合量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えると、樹脂成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向がある。
【0071】
本発明のゴルフボールのカバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成されることが好ましい。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂などのウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどを挙げることができる。前記樹脂成分は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0072】
ゴルフボールのカバーに使用できるアイオノマー樹脂としては、(a−2)成分、又は、(a−4)成分として例示したものを使用することが好ましい。
【0073】
ゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、ポリウレタン樹脂(ポリウレタンエラストマーを含む)又はアイオノマー樹脂を含有することがより好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタン樹脂又はアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
【0074】
カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料又は蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0075】
白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与できる。また、10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合がある。
【0076】
本発明のゴルフボールのカバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する圧縮成形法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する射出成形法を挙げることができる。
【0077】
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、あらかじめ押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができる。具体的には、9〜15MPaの圧力で型締めした金型内に、200〜250℃に加熱したカバー用組成物を0.5〜5秒で注入し、10〜60秒間冷却して型開きすることにより行うことが好ましい。
【0078】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200〜500個が好ましい。200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0079】
カバーの厚みは、2.0mm以下が好ましく、1.6mm以下がより好ましく、1.2mm以下が更に好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。2.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上が更に好ましい。0.1mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがあり、また、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合もある。
【0080】
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましい。該膜厚は、25μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましい。5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下する傾向がある。
【0081】
本発明のゴルフボールは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)が、2.0mm以上であることが好ましく、2.2mm以上がより好ましい。該圧縮変形量は、4.0mm以下であることが好ましく、3.5mm以下がより好ましい。2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0082】
以上、本発明のゴルフボール用樹脂組成物をコアに用いる態様について説明したが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、センター、中間層、あるいは、カバーにも用いることもできる。センターが本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成される場合、中間層を形成する材料としては、例えば、カバー材料として例示した樹脂成分を用いることができる。
【実施例】
【0083】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0084】
[評価方法]
(1)スラブ硬度(ショアD硬度)
ゴルフボール用樹脂組成物を用いて、熱プレス成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
【0085】
(2)メルトフローレイト(MFR)(g/10min)
MFRは、フローテスター(島津製作所社製、島津フローテスターCFT−100C)を用いて、JIS K7210に準じて測定した。なお、測定は、測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で行った。
【0086】
(3)反発弾性(%)
ゴルフボール用樹脂組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片についてリュプケ式反発弾性試験(試験温湿度23℃、50RH%)を行った。なお、試験片の作製及び試験方法は、JIS K6255に準じて行った。
【0087】
(4)圧縮変形量(mm)
球形体に初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向に球形体が縮む量)を測定した。
【0088】
(5)反発係数
各球形体に198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物及びゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度及び重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は、各球形体について12個ずつ行って、その平均値を各球形体の反発係数とした。
【0089】
(6)打球感
アマチュアゴルファー(上級者)10人により、ドライバーを用いた実打テストを行って、各人の打撃時のフィーリングを下記基準で評価させた。10人の評価のうち、最も多い評価をそのゴルフボールの打球感とした。
評価基準
○:衝撃が少なくてフィーリングが良い。
△:普通。
×:衝撃が大きくてフィーリングが悪い。
【0090】
[ゴルフボールの作製]
(1)センターの作製1
表1に示す配合のセンター用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、15分間加熱プレスすることにより球状のセンターを得た。
【0091】
(2)センタ−の作製2
表2に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のセンター用樹脂組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。半球状キャビティを有した金型を80トンの圧力で型締めし、180〜210℃に加熱したセンタ−用樹脂組成物を注入し、一定時間冷却して型開きをしてセンターを取り出した。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
(3)カバー用組成物及び中間層用組成物の調製
表3〜5に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物、カバー用組成物をそれぞれ調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
(4)ゴルフボール本体の作製
表6〜8の構造に従い、前記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得たセンター上に射出成形することにより、前記センターを被覆する中間層を形成して、球状コアを作製した。続いて、前記球状コア上にカバー用組成物を射出成型することによりカバーを形成して、ゴルフボールを作製した。中間層及びカバーを成形するための成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。
【0099】
中間層成形時には、ホールドピンを突き出し、センターを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてコアを取り出した。
【0100】
カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。得られたゴルフボールの圧縮変形量、反発係数、打球感について評価した結果を表6〜8に示した。
【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
【表8】

【0104】
表1〜5で使用した原料は以下の通りである。
BR−730:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺(登録商標)R」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
ジフェニルジスルフィド:住友精化社製
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ハイミランAM7327:三井・デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸−アクリル酸ブチル三元共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):0.7g/10min、ショアD硬度:44)
ハイミランAM7329:三井・デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸二元共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):5g/10min、ショアD硬度:61)
ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):2.8g/10min、ショアD硬度:65)
ニュクレルAN4319:三井デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):55g/10min)
ニュクレルN1050H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):500g/10min)
HPF1000:デュポン社製、マグネシウムイオン中和エチレン−アクリル酸−アクリル酸ブチル三元共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):1.0g/10min、ショアD硬度:55D)
HPF2000:デュポン社製、マグネシウムイオン中和エチレン−アクリル酸−アクリル酸ブチル三元共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):1.0g/10min、ショアD硬度:45D)
エラストランNY85A:BASF社製、ポリウレタン(硬度:85A)
エルカ酸アミド:東京化成工業社製
オレイン酸アミド:東京化成工業社製
ステアリン酸アミド:東京化成工業社製
エチレンビスステアリン酸アミド:東京化成工業社製
酸化チタン:石原産業社製、「A−220」
【0105】
表2〜4から、所定量の脂肪酸アミドを添加した材料は、良好な反発性を維持しながら、流動性が大きく改善された。また、表6〜7から、所定量の脂肪酸アミドを添加した材料を中間層に用いたゴルフボールは、良好な反発性を有するとともに、材料の柔軟化により打球感にも優れていた。表8から、センターに用いた場合にも同様の効果が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、反発性及び流動性に優れたゴルフボール用樹脂組成物が得られ、該樹脂組成物を用いることで、打球感及び反発性に優れたゴルフボールを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、
(B)脂肪酸アミドとを含有し、
前記脂肪酸アミドの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、5〜50質量部であるゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸アミドの炭素数は、8〜60である請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸アミドは、飽和脂肪酸アミド及び/又は不飽和脂肪酸アミドである請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸アミドは、モノアミド及び/又はビスアミドである請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸アミドは、デカン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド及びエチレンビスオレイン酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項6】
スラブ硬度が、ショアD硬度で15〜70である請求項1〜5のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボール。
【請求項8】
少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が請求項1〜6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボール。
【請求項9】
センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するマルチピースゴルフボールであって、前記一以上の中間層の少なくとも1つの層が請求項1〜6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているマルチピースゴルフボール。
【請求項10】
ゴルフボール本体が請求項1〜6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているワンピースゴルフボール。

【公開番号】特開2013−46702(P2013−46702A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186433(P2011−186433)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】