説明

ゴルフボール

【課題】低重心のドライバーを使用しても飛距離を伸ばすことのできるゴルフボールを提供することを課題とする。
【解決手段】球状のコア1と、コア1の表面に形成される複数のリブ3と、リブ3によって囲まれる凹部4に充填される中間層5と、中間層5を被覆するカバー7と、を備え、コア1の表面硬度は、リブ3の表面硬度と同じ、又はリブ3の表面硬度よりも高く、中間層5の表面硬度はリブ3の表面硬度よりも高い。カバー7は、内層71及び外層72を有する少なくも2層構造であり、外層72は、内層71よりも硬度が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造のゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフボールは、種々の性能を達成するために多層構造のものが提案されており、例えば、特許文献1に開示された多層構造のゴルフボールは、コアの表面にリブが形成され、リブ間の凹部に中間層が充填されたものがカバーによって覆われた構造となっている。このゴルフボールは、最外層であるカバーが最も硬度が高くなっているため、高い反発性能を得ることができ、その結果、飛距離を伸ばすことができる。またさらには、リブの硬度が中間層の硬度よりも低いため、リブによってボールが元の状態に戻ろうとする弾性抵抗が助長され、スピンが抑制されて飛距離を伸ばすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−113838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、飛距離を伸ばすために低重心のドライバーが広く使用されているが、このドライバーで上述したような低スピン指向のゴルフボールを打つと、逆に飛距離が落ちるといった問題があった。また、ウェッジを用いたアプローチショットにおいては十分なスピン性能が必要であるため、ドライバー使用時の高飛距離特性とウェッジ使用時の高スピン特性との両立が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、低重心のドライバーを使用しても飛距離を伸ばすことができ、且つ、ウェッジを用いたアプローチショットにおいて十分なスピン性能を得ることができるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記低重心のドライバーはゴルフボールの低スピン化を助長するために、ゴルフボールのスピンが必要以上に抑制されて十分な揚力が得られにくくなり、その結果として飛距離が損なわれていることを見出した。そこで、まず、本発明に係るゴルフボールは、球状のコアと、前記コアの表面に形成される複数のリブと、前記リブによって囲まれる凹部に充填される中間層と、前記中間層を被覆するカバーと、を備え、前記コアの表面硬度は前記リブの表面硬度と同じ、又は前記リブの表面硬度よりも高く、前記中間層の表面硬度は前記リブの表面硬度よりも高いことを特徴とした。
【0007】
上述したゴルフボールによれば、ドライバー使用時において、コアがリブよりも硬度が高いことにより、打撃時にコアが変形しにくく、スピンを相殺する回転であるリコイルが抑制され、その結果、低スピン化が抑制されることで十分な揚力を得て飛距離を伸ばすことができる。また、コアの硬度が硬くなることで反発性能が高まり、これによっても飛距離を伸ばすことができる。一方、アイアンを使用した場合は、元々のスピン量が多く揚力が得られにくくなるほどに低スピンとなることがないため、飛距離を伸ばすためには低スピンである方が好ましい。そして、アイアンでの打撃は主にリブと中間層に影響を与えるが、本発明に係るゴルフボールでは、リブが中間層よりも硬度が低いためにリブの変形・復元量が大きくなり、その結果、スピンを相殺する力が強くなって低スピン化を達成することができる。
【0008】
さらに本発明に係るゴルフボールにおいては、カバーを、内層及び外層を有する少なくとも2層構造とし、外層の硬度を内層の硬度よりも低くすることを特徴とした。すなわち、コアの硬度をリブの硬度よりも高く、且つ中間層の硬度よりも低くすることで、ドライバーでの打撃時のスピン量の低下を抑え、十分な揚力を確保することは可能である。しかしながら、そのようなゴルフボールにおいて、ウェッジを用いたアプローチショットにおいて十分なスピンを得るには、カバーを柔らかくする必要があるが、この場合はボールの反発が落ちるので、ドライバーで打撃した場合の初速が低くなり、結果としてドライバーでの飛距離が落ちてしまう。また、ボールの反発を上げるためには、コア、リブ、及び中間層よりなる構造体の全体の大きさを、それぞれの硬度を保ったまま大きくすることも考えられるが、この場合はリブの高さが高くなるので、製造時のリブ折れが発生しやすく、製品の不良率が高くなるという問題も生じる。そこで、本発明に係るゴルフボールでは、カバーを少なくとも2層の複数層構造とし、外層の硬度を内層の硬度よりも低くすることにより、柔らかい打感を得ることができるとともに、良好な反発性能を得ることができ、さらには、ウェッジを用いたアプローチショット時において、高いスピン性能を得ることができる。
【0009】
以上のように、本発明に係るゴルフボールでは、ドライバー使用時には低スピン化が抑制されて飛距離が伸びるとともに、アイアン使用時には低スピン化が助長されて飛距離を伸ばすことができる。さらに、ウェッジ使用時には高スピン性能を得ることができる。なお、上記各部材の表面硬度は、例えば、ゴルフボールを2分割し、コアの表面硬度はリブや中間層との境界面から1mm内側の点、リブの表面硬度は中間層との境界面から1mm内側の点、中間層の表面硬度はカバーとの境界面から1mm内側の点において測定することができる。また、カバーの硬度は、例えば、ゴルフボールを二分割して、内層及び外層のそれぞれ厚さ方向中央において測定することができる。
【0010】
上記コアの表面硬度とリブの表面硬度との硬度差は、JIS−C硬度において0〜45とすることが好ましく、また、リブの表面硬度と中間層の表面硬度との硬度差は、JIS−C硬度において2〜45とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るゴルフボールによれば、低重心のドライバーを使用した場合であっても飛距離を伸ばすことができる。また、アプローチショット時には良好なスピン性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係るゴルフボールの実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は図1のゴルフボールのコア(a)、コアとリブからなる半製品(b)、コアとリブと中間層からなる半製品(c)をそれぞれ示す斜視図である。
【図3】図3はゴルフボールの打撃時の状態を示す断面図である。
【図4】図4はコアとリブとからなる半製品の他の実施形態を示す斜視図である。
【図5】図5は図4の正面図である。
【図6】図6はコアとリブからなる半製品の他の実施形態を示す一部正面図である。
【図7】図7はコアとリブからなる半製品の他の実施形態を示す正面図である。
【図8】図8は本実施形態に係るゴルフボールの製造方法を示す図である。
【図9】図9は本実施形態に係るゴルフボールの製造方法を示す図である。
【図10】図10は本実施形態に係るゴルフボールの他の製造方法を示す図である。
【図11】1番ウッドを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとボール初速の関係)を示すグラフである。
【図12】1番ウッドを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとスピン量の関係)を示すグラフである。
【図13】1番ウッドを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとキャリーの関係)を示すグラフである。
【図14】6番アイアンを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとボール初速の関係)を示すグラフである。
【図15】6番アイアンを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとスピン量の関係)を示すグラフである。
【図16】6番アイアンを使用した打撃テストの結果(コンプレッションとキャリーの関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るゴルフボールの実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るゴルフボールは、コア1を、リブ3、中間層5、及び2層構造のカバー7で被覆したいわゆるファイブピースゴルフボールである。なお、2層構造のカバー7は、内層71と外層72とから構成されている。ゴルフボールの直径は、規則(R&A、及びUSGA参照)の定めるところにより、42.67mm以上にする必要がある。但し、空力特性等を考慮するとボール径はできるだけ小さくすることが好ましく、例えば42.7〜43.7mmとすることができる。
【0015】
図2は、コア1(a)、及びコア1にリブ3を配置した半成品(b)、及びこれにさらに中間層5を被覆した半成品(c)を示す斜視図である。図2(a)に示すように、コア1は、球状に形成され、ゴム組成物で形成されている。コア1の硬度は、JIS−C硬度で70〜90であることが好ましい。コア1の直径は15.1〜29mmにすることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。このコア1の直径を大きくすることにより相対的にリブ3が低くなるため、スピンが増える一方、コア1に打撃力を伝えやすくなるため、ヘッドスピードが遅いプレーヤー向けのゴルフボールとなり、これとは逆の理由により、コア1の直径を小さくすることでヘッドスピードが速いプレーヤー向けのゴルフボールとなる。なお、上述したコアのJIS−C硬度は、本来的にコアの表面硬度を意味するものであり、成形ボールにおいては、例えば、ゴルフボールを2分割し、リブ3や中間層5との境界面から1mm内側のコア1の硬度を、コア1の表面硬度として扱うことができる。
【0016】
上記各リブ3は、コア1の表面に描かれ相互に直交する大円に沿って延びている。そして、これらリブ3によってコア1の表面には8個の凹部4が形成されている。リブ3の高さは、2.0〜11.0mmであることが好ましく、5.0〜9.0mmにすることがさらに好ましい。なお、リブ3の高さは上記範囲外も可能ではあるが、リブの高さを11.0mm以内にしておくと、製造時にリブが倒れるのを防止することができる。
【0017】
また、図1に示すように、各リブ3は、コア1側にいくにしたがってその幅が増大するように断面台形状に形成されている。リブ3の径方向外方の上端部の幅aは1.5〜3.0mmにすることが好ましく、またリブ3の径方向内方の下端部の幅bは7〜15mmにすることが好ましい。これ以外も可能ではあるが、このようにリブ3の各端部の下限を設定すると、後述するように、製造時に中間層用の材料を充填する際に、成形型を締めるときの圧力からくる材料の充填圧によってリブ3が変形するのを防止することができる。その結果、コア1を成形型の中心に正確に保持することができる。また、上記のようにリブ3の各端部の上限を設定することにより、硬度の低いリブ3とカバー7内面とが接する部分が広くなりすぎず、打撃時の反発性能を適度に保つことができる。このようなリブ3の形状によって、各凹部4は3つのリブ3と、僅かに露出するコア1の表面とによって囲まれる三角錐状に形成されている。リブ3の硬度は、コア1の硬度と同じ、若しくはコア1の硬度よりも低くなっており、JIS−C硬度で55〜85であることが好ましい。ここで、コア1とリブ3との硬度差は、大きい程低スピン化を抑制する効果が増大し、かつドライバーでの反発向上が期待できる。従って、理論的には、コア1とリブ3との硬度差に上限はなく、ターゲットとするゴルファーのヘッドスピードや、好む打感により硬度差は適宜決めることができる。一方で、低スピン化を抑制する効果の増大はスピン増加を引き起こすので、過度のスピン増加は飛距離を損ねることになり、且つ打感も硬くなる。このため、コア1とリブ3との硬度差は、0〜15程度とするのが好ましい。なお、上記リブ3の硬度、及び後述する中間層5のJIS−C硬度は、コア1の硬度と同じく、リブ3の表面硬度、及び中間層5の表面硬度をそれぞれ意味するものであり、本来的には、ボール成形前のリブ3、及び中間層5単体での表面硬度を意味し、成形ボールにおいては、ゴルフボールを2分割し、リブ3の硬度は、中間層5との境界面から1mm内側の点を、また中間層5の硬度は、カバー7との境界面から1mm内側の点を測定した値を、それぞれリブ3、及び中間層5の表面硬度として扱うことができる。
【0018】
中間層5は、ゴム組成物又はエラストマーで構成されている。そして、最深部はリブ3の高さとほぼ同じ層厚を有し、リブ3によって囲まれる8つの凹部4に充填されてその外形が略球形をなしている。このとき、中間層5は、各凹部4に充填されることにより三角錐状に形成されている。また、図2(c)に示すように、リブ3の上端面は中間層5から露出した状態になっている。中間層5の硬度は、リブ3の硬度よりも高くなっており、JIS−C硬度で70〜95であることが好ましい。ここで、中間層5とリブ3の硬度差が大きければ、コアの外側領域での変形の影響が強い、特にアイアンでの低スピン化を増大することができるので、理論的には中間層5とリブ3の硬度差に上限はない。一方で、適切な打感を得るためには、中間層5の硬度も適切なものとする必要があり、従って、中間層5と、リブ3との硬度差は、好ましくはJIS−C硬度2〜15程度とするのが良い。
【0019】
カバー7は、上述したように内層71及び外層72の2層構造として構成されており、内層71及び外層72ともにエラストマーで形成されている。内層71は、リブ3の上端面と中間層5とを覆い、その層厚は0.8〜2.6mmとするのが好ましい。この範囲外も可能ではあるが、その理由は、内層71の層厚が0.8mmより小さくなると、内層71の耐久性が著しく低下するとともに成形が困難になる一方、2.6mmを越えると打感が硬くなり過ぎるからである。また、外層72は、内層71を覆い、その層厚は0.3〜2.6mmとするのが好ましい。この範囲外も可能ではあるが、その理由は、外層72の層厚が0.3mmより小さくなると、外層72の耐久性が著しく低下するとともに成形が困難になる一方、2.6mmを越えると打感が硬くなり過ぎるからである。なお、外層72の下限値が内層71の下限値より小さいのは、一般的にアプローチショットでの打感とスピン性能を向上させようとすると、外層72に柔らかい材料を選択した方が好ましく、反して反発が低下することが認められているので、その長所のみを享受しようとした場合、外層72の層厚が薄ければ薄いほど良いからである。なお、内層71の層厚とは、外層72の任意の点から中間層5と接する任意の一点までの距離を法線に沿って計測した値である。また、外層72の層厚とは、ディンプルが形成されていない径方向の最も外側の任意の一点から、内層71と接する任意の一点までの距離を法線に沿って計測した値である。内層71のショアD硬度は、45〜70とすることが好ましく、55〜64とするのがさらに好ましい。外層72の硬度は、内層71の硬度よりも低くすることが好ましく、ショアD硬度は45〜65とすることが好ましい。内層71と外層72とのショアD硬度の差は、1〜20程度とすることが好ましく、1〜8とするのがより好ましい。このように、内層71を硬くしつつ外層72を内層71よりも軟らかくすることで、高反発力を維持しつつ、打感を良くすることができ、さらにアプローチショット時に適切なスピン性能を得ることができる。さらには、ダブルカバー構造とすることにより、高リブ化を抑えることができるので、製造時のリブ折れやリブ倒れを防止することができ、製品の不良率を抑えることができる。なお、カバー7は必ずしも2層である必要は無く、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて3層以上で作成することもできる。
【0020】
次に、上記ゴルフボールの各部材を構成する材料について詳細に説明する。
【0021】
コア1は、基材ゴム、架橋材、不飽和カルボン酸の金属塩、充填剤等を配合した公知のゴム組成物で製造することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソブレンゴム、スチレンブタジエンゴム、EPDM等を使用できるが、シス1,4結合を少なくとも40%以上、好ましくは80%以上を有するハイシスポリブタジエンを使用することが特に好ましい。
【0022】
架橋剤としては、例えばジクミルパーオキサイドやt−ブチルパーオキサイドのような有機過酸化物を使用することができるが、ジクミルパーオキサイドを使用するのが特に好ましい。配合量は、基材ゴム100重量部に対して0.3〜5重量部であり、好ましくは0.5〜2重量部である。
【0023】
不飽和カルボン酸の金属塩としては、アクリル酸又はメタクリル酸のような炭素数3〜8の一価又は二価の不飽和カルボン酸の金属塩を使用することが好ましいが、アクリル酸亜鉛を使用するとボールの反発性能を向上することができ、特に好ましい。配合量は、基材ゴム100重量部に対して5〜40重量部にするのが好ましい。
【0024】
充填剤は、コアに通常配合されるものを使用することができ、例えば酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を使用することができる。配合量は、基材ゴム100重量部に対して2〜50重量部にするのが好ましい。また、必要に応じて老化防止剤、またはしゃく解剤等を配合してもよい。
【0025】
なお、コア1を構成する材料は、上記ゴム組成物の他、公知のエラストマーを用いることができる。
【0026】
リブ3は、ゴム組成物で構成されており、上記したコア1と同様の材料で構成することができる。但し、本実施形態においては、不飽和カルボン酸や有機過酸化物の配合量をコア1の場合と異ならせる等して、コアの硬度とリブ3の硬度とが異なるように設定される。例えば、リブ3における不飽和カルボン酸および有機過酸化物の配合量を少なくすることにより、リブ3の硬度をコア1の硬度よりも低くすることができる。
【0027】
中間層5は、リブ3とほぼ同様の成分のゴム組成物またはエラストマーで構成することができる。ゴム組成物で構成する場合には、リブ3より硬度を高くするため、不飽和カルボン酸および有機過酸化物の配合量を多くすることが好ましい。
【0028】
中間層5をエラストマーで構成する場合には、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEPS)のようなスチレン系熱可塑性エラストマー;ポリエチレンまたはポリプロピレンをハードセグメントとし、ブタジエンゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴムをソフトセグメントとするオレフィン系熱可塑性エラストマー;結晶ポリ塩化ビニルをハードセグメントとし、非晶ポリ塩化ビニルまたはアクリロニトリル・ブタジエンゴムをソフトセグメントとする塩化ビニル系熱可塑性エラストマー;ポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエーテルまたはポリエステルをソフトセグメントとするウレタン系熱可塑性エラストマー;ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルまたはポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系熱可塑性エラストマー;ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエーテルまたはポリエステルをソフトセグメントとするポリアミド系熱可塑性エラストマー;アイオノマー樹脂などを使用することができる。
【0029】
カバー7は、内層71、外層72ともに公知のエラストマーで構成され、上記中間層5と同じものを使用することができる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、打撃によって主にコア1へ影響を与えるドライバー使用時においては、コア1の硬度がリブ3の硬度と同じ、若しくは高くなっているため、リコイルが抑制されることで低スピン化が抑制され、十分な揚力を得て飛距離を伸ばすことができる。また、コア1の硬度を高くすることで高い反発性能を得ることができることによっても飛距離を伸ばすことができる。
【0031】
一方、主にリブ3と中間層5とに影響を与えるアイアン使用時においては、元々のスピン量が多いために低スピン化に起因する飛距離の低下という問題は生じず、飛距離を伸ばす観点からはスピン量は少ない方がよい。ここで、本実施形態に係るゴルフボールでは、リブ3の硬度が、中間層5の硬度よりも低いため、スピンを効果的に抑制することができる。このことについて詳細に説明すると、一般的に、ゴルフボールとゴルフクラブとが接触すると、クラブフェース面との摩擦によりボールは周方向にねじれた状態となる。そして、ねじれたボールは弾性抵抗により元の状態に復元しつつスピンとは反対向きの力をボールに作用させる。このとき、ねじれたボールの変形が大きいほどスピンが抑制され飛距離を伸ばすことが可能になる。本実施形態に係るゴルフボールでは、リブ3によってボールが元の状態に戻ろうとする弾性抵抗が助長されるため、スピンを効果的に抑制することができる。より詳細に説明すると、図3(a)に示すように、このゴルフボールでは、リブ3の硬度が中間層5の硬度よりも低いため、クラブCによる打撃によって中間層5よりもリブ3が大きく変形する。この打撃によりボール自体にはスピンBを生じさせる応力が働く。そして、ボールがクラブCから離れる際には、図3(b)に示すように、硬度の低いリブ3の変形が復元されるため、この復元によってスピンBを相殺する方向に力Fが作用する。その結果、スピンが減り、飛び出し角度が高くなるため、飛距離をさらに伸ばすことができる。特に、本実施形態では、リブ3が単なる突出部ではなく、中間層5の周囲を囲む壁のように構成されているため、リブ3が復元する際の力は、この壁全面によって中間層5の周囲から大きく作用し、これによって、スピンBと反対向きの力Fが助長される。したがって、スピン量が減少し、飛距離を大きく伸ばすことが可能となる。そして、このような効果を得るためには、上述したように、リブ3と中間層5との硬度差を設定しておくことが好ましい。なお、図3では、現在の状態を実線で表し、その直前の状態を破線で表している。
【0032】
ところで、上述したリブは、種々の形状にすることができ、製造時に中間層5を効率よく成形する観点からは、次のような切欠部をリブ3に形成することが好ましい。例えば、図4に示すように、リブ3の一部に切欠部31を形成することができる。この例では、各リブ3は大円上の交点付近に切欠部31を有している。より詳細には、図5に示すように、切欠部31は、大円の交点Pを通るコア1の法線nと垂直な平面Hに沿って延びる底面31aを有するように形成されている。すなわち、この切欠部31は、上記平面Hでリブ3を切り取ることによって形成される。なお、この切欠部31の深さD、つまり切欠部31がない仮想的なリブ3の上端から切欠部31の最深部までの長さは、1.2〜3.0mmにすることが好ましい。
【0033】
このように切欠部31を形成することにより、大円の交点Pを中心として配置される4つの凹部4が連通し、切欠部31を介して中間層用の材料を各凹部4に容易に行き渡らせることができる。この場合、図6に示すように、平面Hからリブ3の中央側へ1〜10度傾斜した平面H1、つまりコア1の法線nと正面視において91〜100度の角度をなす平面に沿って切欠部31の底面31aを形成するようにしてもよい。このようにすると、上記傾斜が抜き勾配となり、例えば成形型が上型と下型の2つの型から構成されている場合に、コア1を成形型から容易に取り出すことができる。
【0034】
また、リブ3において各交点Pによって区切られた各円弧セクションSの中間に切欠部32を設けることもできる。すなわち、図7に示すように、円弧セクションSの円弧方向の中心点を通るコア1の法線m上の一点Qから両端の交点P側へ延びる2つの底面32aを有するように切欠部32を形成することもできる。この場合、底面32aと法線mとが正面視で45〜48度をなすようにすることが好ましい。このようにすると、上記したように、コア1を成形型から容易に抜き出すことができる。
【0035】
また、切欠部は、円弧セクションSが、図4、図5,または図6に示す切欠部31、及び図7に示す切欠部32の両方を有するようにしてもよい。
【0036】
次に、上記のように構成されたゴルフボールの製造方法の一例について図8〜図10を参照しつつ説明する。まず、ゴム組成物を成形型内で、例えば130〜160℃で5〜25分間、プレスしてコア1を形成する。このとき、コア1は上述のようにエラストマーによって構成してもよく、この場合、プレス成形の他、射出成形でコア1を形成することができる。次に、こうして成形されたコア1を、図8(a)に示す第1の成形型2内に配置する。第1の成形型2は、上型2a及び下型2bから構成されており、それぞれにキャビティが形成されている。各キャビティは、コア1の表面と対応する半球状の受入部(基部)21と、この受入部の壁面に形成された溝22とから構成されている。溝22は、受入部21の大円に沿って深さが略同一に形成されているが、3つの大円の各交点部分の溝は他の部分に比べて浅くなっている。これにより、リブ3に上記切欠部31が形成されるようになっている。また、溝22の表面は荒研磨により粗く仕上げられており、これによって成形されたリブ3の表面に微細な凹凸を形成することができ、中間層5との密着性を向上することができる。
【0037】
そして、図8(b)に示すように、第1の成形型2の受入部21にコア1を配置するとともに、溝22にリブ用の材料である未加硫のゴム組成物を配置し、例えば140〜165℃で5〜25分間全加硫してプレス成形を行い、コア1の表面に複数のリブ3を形成する。
【0038】
続いて、コア1及びリブ3からなる半成品を第1の成形型2から取り出し、第2の成形型6内に配置する。図9(a)に示すように、この第2の成形型6は、上型6a及び下型6bからなり、これらには上記リブ3の最外径と対応する半球状のキャビティ61がそれぞれ形成されている。すなわち、このキャビティ61の壁面にリブ3の上端面が接するようになっている。また、上型6a及び下型6bのキャビティ61は、第1の成形型2と同様に表面が粗く仕上げられるとともに、各キャビティ61の周囲には複数の凹状のバリを溜める部分62が形成されている。
【0039】
そして、図9(a)に示すように、下型6bのキャビティ61に未加硫のゴム組成物N2を挿入するとともに、上記のように形成した半成品の上部にゴム組成物N2を配置し、この半成品を上型6a及び下型6bの間に配置する。続いて、図9(b)に示すように、上型6a及び下型6bを当接させ、ゴム組成物N2を140〜165℃で5〜25分間全加硫してプレス成形を行い、中間層5を形成する。
【0040】
このとき、コア3の上部及び下型6aのキャビティ141に配置されたゴム組成物N2は、半成品の表面にプレスされながら、凹部4に充填されていく。上記したように隣接する各凹部4は切欠部31を介して連通しているため、ゴム組成物N2はすべての凹部4に行き渡り、均一に充填される。なお、中間層5は、図10に示すように、射出成形により形成することもできる。この場合、リブ3に切欠部がなければ、すべての凹部4に対してゲート81を設けなければゴム組成物Nが均一に充填されないが、上記のようにリブ3に切欠部を設けることにより、1箇所のゲート81からゴム組成物を注入しても、切欠部31を介して各凹部4にゴム組成物が均一に充填される。
【0041】
このように、リブ3に切欠部31が形成され、隣接する凹部4が切欠部31を介して連通しているため、ゴム組成物N2がコア1の表面のいずれの位置からプレスされても、すべての凹部4に行き渡って充填される。したがって、中間層5を容易に被覆することができ、製造時間を大幅に短縮することができる。なお、ここでは、ゴム組成物を用いて中間層5を構成しているが、エラストマーを用いることもできる。この場合、射出成形によって中間層5を形成することができる。
【0042】
こうして中間層5の成形が完了すると、コア1、リブ3及び中間層5からなる半成品を第2の成形型6から取り出す。これに続いて、この半成品の表面に、内層71をプレス成形或いは射出成形により被覆し、次に外層72をプレス成形或いは射出成形により所定のディンプルを備えた状態に被覆するとカバー7が形成され、これにより本実施形態のゴルフボールが完成する。
【0043】
なお、上記の説明では、切欠部が形成された中間層5を有するゴルフボールの製造方法について説明したが、切欠部がないものもほぼ同様の方法で製造することができる。但し、切欠部がない場合には、各凹部に中間層の材料が充填されるように材料を配置してプレス成形したり、射出成形の場合には各凹部に対応する複数のゲートを設ける必要がある。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0045】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
本発明の実施例1〜6に係る6種類のゴルフボールと、比較例1〜8に係る8種類のゴルフボールとを次の条件で作製した。まず、実施例1〜6及び比較例1〜5に係るゴルフボールは、同じ形状・寸法となっており、その形状は、図1に示すような形状をしたファイブピースのゴルフボールである。また、比較例6〜8に係る3種類のゴルフボールは、コア、リブ、中間層、及び単一層のカバー(外層)よりなるゴルフボールである。実施例1〜6及び比較例1〜5に係るゴルフボールの寸法は、コア1の直径を24mm、リブ3の高さを7.0mm、内層71の厚さを1.1mm、外層72の厚さを1.3mmとした。また、比較例6〜8に係るゴルフボールの寸法は、コアの直径を24mm、リブの高さを7.6mm、カバーの厚さを1.8mmとした。このような形状の各ゴルフボールにおいて、各部材のJIS−C硬度(内層及び外層のみ、ショアD硬度を示している)を表1に示すように各実施例及び比較例毎に変えて、種々の評価を行った。なお、実施例1〜3、実施例5〜6、及び比較例1〜5に係るゴルフボールにおいて、内層71の材料は、Dupont社製のSurlyn 8940及びHPC 1043(重量比は、Surlyn 8940:HPC1043 = 6.5:3.5)とした。また、実施例4に係るゴルフボールにおいては、内層71の材料は、Dupont社製のSurlyn 8940及びHPC 1043(重量比は、Surlyn 8940:HPC1043 = 6:4)とした。また、実施例1〜6、及び比較例1〜5に係るゴルフボールにおいて、外層72の材料は、Dupont社製のSurlyn 9910、Surlyn 8940、及びHPC 1043(重量比は、Surlyn 9910:Surlyn 8940:HPC 1043 = 4:1:5)とした。また、比較例6〜7に係るゴルフボールにおいては、外層の材料は、Dupont社製のSurlyn 9910、Surlyn 8940、及びSurlyn 8320(重量比は、Surlyn 9910:Surlyn 8940:Surlyn 8320 = 5:5:1)とし、比較例8に係るゴルフボールにおいては、外層の材料を、Dupont社製のSurlyn 9910、Surlyn 8940、及びHPC 1043(重量比は、Surlyn 9910:Surlyn 8940:HPC 1043 = 4:1:1.5)とした。また、コア1、リブ3、中間層5はそれぞれゴム組成物から構成されており、各実施例及び比較例における各ゴム組成物の配合は、表2に示した通りである。
【0047】
【表1】



【0048】
【表2】



【0049】
以上のように作製した各実施例及び比較例に係るゴルフボールに対して、圧縮試験機でコンプレッションを測定するとともに、打撃ロボット(ミヤマエ株式会社製SHOT ROBO IV)による1番ウッド(1W:ミズノ株式会社製JPX 800AD、ロフト角10.5°、シャフト MD100 SUPER Light カーボンシャフト、シャフト硬さS)、6番アイアン(6I:ミズノ株式会社製 JPX 800AD アイアン、シャフト MI100 カーボンシャフト、シャフト硬さSR)、及びウェッジ(SW:ミズノ株式会社製MP-T10 85-10)を使用した打撃テストを行い、1番ウッド及び6番アイアンによる打撃時の、ボール初速、スピン量、飛距離(キャリー)、打感を測定した結果と、サンドウェッジによる打撃時のスピン量を測定した結果とを表3に示した。ここで、1番ウッドのヘッドスピードは40m/sとし、6番アイアンのヘッドスピードは35m/sとした。また、サンドウェッジのヘッドスピードは、24m/sとした。なお、コンプレッションは、圧縮試験機として、精密万能試験機 オートグラフ AG-5000D(島津製作所製)を使用し、10mm/minでボールを2.54mm圧縮変形させた時の荷重をいう。また、シングルプレーヤー10名による1番ウッドでの打感テストを行い、被験者が5段階(1が硬い、5が柔らかい)で評価をし、その平均値を各例の打感値として表3に示した。さらに、各ボールを1000個製造した際のリブが成形不良をおこしたボールの個数に基づいてリブ不良率を算出した。
【0050】
【表3】



【0051】
まず、ダブルカバーを採用した実施例1〜6、及び比較例1〜5に関して、表3に示した1番ウッド及び6番アイアンを使用した打撃テストによるボール初速、スピン量、キャリーのそれぞれについて、横軸をコンプレッションとして図11〜図16に示すようなグラフで表した。これらグラフより分かるように、1番ウッドを使用した場合、同じコンプレッションであっても、コア硬度がリブ高度よりも高い実施例1〜6に係るゴルフボールの方が、比較例1〜4に係るゴルフボールよりも、ボール初速、スピン量、キャリーの全てにおいて優れていることが分かる。また、6番アイアンを使用した場合であっても、比較例と同等の性能を有していることが分かる。
【0052】
次に表1、及び表3を参照して、シングルカバーの比較例6、及び比較例7は、カバー硬度が硬いので、ドライバーの初速、及びキャリーは比較的良好な値を示しているが、ウェッジでのスピン量は非常に少ないことが分かる。また、シングルカバーの比較例8は、カバー硬度が柔らかいので、ウェッジでのスピン量は比較的良好な値を示しているが、ドライバーでの初速、及びキャリーは非常に少ない。また、ダブルカバーを採用した比較例5は、カバー外層の硬度が内層の硬度よりも硬いので、ドライバーでのボール初速、及びキャリーは比較的良好ではあるが、ウェッジでのスピン量は低く、且つ打感も悪い。このように、シングルカバーの比較例6〜8、及び外層のカバー硬度が高い比較例5は、何らかの欠点を有している。これに対して、本発明に係る実施例1〜6は、ドライバーの初速、キャリー、及びウェッジでのスピン量の全てにおいて優れている。さらに、実施例1〜6に係るゴルフボールは、シングルカバーの比較例6〜8に係るゴルフボールに比べて、リブの不良率が低減されていることが分かる。
【0053】
以上のように、本発明に係る実施例1〜6は、ドライバーの初速、キャリー、ウェッジでのスピン量、及びリブの不良率の全てにおいて、比較例1〜8に係るゴルフボールよりも優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0054】
1 コア
3 リブ
4 凹部
5 中間層
7 カバー
71 内層
72 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のコアと、
前記コアの表面に形成される複数のリブと、
前記リブによって囲まれる凹部に充填される中間層と、
前記中間層を被覆し、内層及び外層を有する少なくも2層構造であるカバーと、を備え、
前記コアの表面硬度は、前記リブの表面硬度と同じ、又は前記リブの表面硬度よりも高く、
前記中間層の表面硬度は、前記リブの表面硬度よりも高く、
前記カバーの前記外層は、前記内層よりも硬度が低い、ゴルフボール。
【請求項2】
前記コアの表面硬度と、前記リブの表面硬度との硬度差は、JIS−C硬度において0〜45である、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記リブの表面硬度と前記中間層の表面硬度との硬度差は、JIS−C硬度において2〜45である、請求項1または2に記載のゴルフボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−63261(P2013−63261A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187220(P2012−187220)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)