説明

ゴルフボール

【課題】ミドルアイアンで打撃されたときの飛行性能に優れたゴルフボールの提供。
【解決手段】ゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4を覆うカバー6とを備えている。カバー6は、インナーカバー8と、このインナーカバー8の外側に位置するアウターカバー10とを備えている。コア4は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。このゴム組成物は、基材ゴム(a)、共架橋剤(b)、架橋開始剤(c)及びカルボン酸塩(d)を含む。この共架橋剤(b)は、(b1)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸又は(b2)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸の金属塩である。カルボン酸塩(d)の量は、100質量部の基材ゴム(a)に対して1質量部以上40質量部未満である。カバーの最内層の硬度は、コアの表面硬度よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、ソリッドコアと、2以上の層を有するカバーとを備えたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールに対するゴルファーの最大の要求は、飛行性能である。ゴルファーは、特にドライバー及びロングアイアンでのショットにおける飛行性能を重視する。飛行性能は、ゴルフボールの反発性能と相関する。反発性能に優れたゴルフボールが打撃されると、速い速度で飛行し、大きな飛距離が達成される。反発性能に優れたコアを備えたゴルフボールが、特開昭61−37178号公報、特開2008−212681公報、特表2008−523952公報及び特開2009−119256公報に記載されている。
【0003】
特開昭61−37178号公報に記載されたコアは、共架橋剤及び架橋助剤を含むゴム組成物から得られる。この公報には、架橋助剤として、パルミチン酸、ステアリン酸及びミリスチン酸が記載されている。
【0004】
特開2008−212681公報に記載されたコアは、有機過酸化物、α,β−不飽和カルボン酸金属塩及び脂肪酸銅塩を含むゴム組成物から得られる。
【0005】
特表2008−523952公報に記載されたコアは、不飽和モノカルボン酸の金属塩、フリーラジカル開始剤及び非共役ジエン単量体を含むゴム組成物から得られる。
【0006】
特開2009−119256公報に記載されたコアは、ビニル含量が2%以下であり、シス1,4−結合含量が80%以上であり、活性末端を有し、この活性末端がアルコキシシラン化合物で変性されたポリブタジエンを含むゴム組成物から得られる。
【0007】
大きな飛距離が達成されるには、適度な弾道高さが必要である。弾道高さは、スピン速度及び打ち出し角度に依存する。大きなスピン速度によって高い弾道を達成するゴルフボールでは、飛距離が不十分である。大きな打ち出し角度によって高い弾道を達成するゴルフボールでは、大きな飛距離が得られる。ゴルフボールに外剛内柔構造が採用されることにより、小さなスピン速度と大きな打ち出し角度とが達成されうる。コアの硬度分布に関する工夫が、特開平6−154357号公報、特開2008−194471公報及び特開2008−194473公報に記載されている。
【0008】
特開平6−154357号公報に記載されたコアでは、中心のJIS−C硬度H1は58から73であり、中心からの距離が5mm以上10mm以下である領域のJIS−C硬度H2は65以上75以下であり、中心からの距離が15mmである地点のJIS−C硬度H3は74以上82以下であり、表面のJIS−C硬度H4は76以上84以下である。硬度H2は硬度H1より大きく、硬度H3は硬度H2より大きく、硬度H4は硬度H3と同じか大きい。
【0009】
特開2008−194471公報に記載されたコアでは、中心のショアD硬度度は30以上48以下であり、中心からの距離が4mmである地点のショアD硬度は34以上52以下であり、中心からの距離が8mmである地点のショアD硬度は40以上58以下であり、中心からの距離が12mmである地点のショアD硬度は43以上61以下であり、表面からの距離が2mm以上3mm以下である領域のショアD硬度は36以上54以下であり、表面のショアD硬度は41以上59以下である。
【0010】
特開2008−194473公報に記載されたコアでは、中心のショアD硬度は25以上45以下であり、中心からの距離が5mm以上10mm以下である領域のショアD硬度は39以上58以下であり、中心からの距離が15mmである地点のショアD硬度は36以上55以下であり、表面のショアD硬度は55以上75以下である。
【0011】
特開2010−253268公報には、コア、包囲層、中間層及びカバーを備えたゴルフボールが記載されている。このコアでは、中心から表面に向かって、硬度が漸次増加する。表面のJIS−C硬度と中心のJIS−C硬度との差は、15以上である。カバーの硬度は中間層の硬度よりも大きく、中間層の硬度は包囲層の硬度よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−37178号公報
【特許文献2】特開2008−212681号公報
【特許文献3】特表2008−523952号公報
【特許文献4】特開2009−119256号公報
【特許文献5】特開平6−154357号公報
【特許文献6】特開2008−194471号公報
【特許文献7】特開2008−194473号公報
【特許文献8】特開2010−253268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ショートホールのティショットや、ミドルホールのセカンドショットには、ミドルアイアンが多用されている。ゴルファーは、ミドルアイアンでのショットにおいても、大きな飛距離を望んでいる。本発明の目的は、ミドルアイアンでのショットにおいて優れた飛行性能が発揮されるゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るゴルフボールは、球状のコアと、このコアを被覆しかつ2以上の層を有するカバーとを備える。このコアは、ゴム組成物が架橋されることで得られる。このゴム組成物は、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤、
(c)架橋開始剤、
及び
(d)カルボン酸塩
を含む。この共架橋剤(b)は、
(b1)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸
又は
(b2)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸の金属塩
である。カルボン酸塩(d)の量は、100質量部の基材ゴム(a)に対して1質量部以上40質量部未満である。カバーの最内層のJIS−C硬度Hiは、コアの表面のJIS−C硬度Hsよりも大きい。
【0015】
好ましくは、このゴム組成物は、
(e)有機硫黄化合物
をさらに含む。
【0016】
ゴム組成物がα,β−不飽和カルボン酸(b1)を含むとき、このゴム組成物は、
(f)金属化合物
をさらに含む。
【0017】
好ましいカルボン酸塩(d)は、脂肪酸塩である。好ましくは、カルボン酸塩(d)のカルボン酸成分の炭素数は、4以上30以下である。
【0018】
好ましくは、ゴム組成物は、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)を含む。
【0019】
好ましい有機硫黄化合物(e)は、チオフェノール類、硫黄数が2以上4以下であるポリスルフィド類、チオナフトール類及びチウラム類並びにこれらの金属塩である。
【0020】
好ましくは、ゴム組成物は、100質量部の基材ゴム(a)に対して15質量部以上50質量部以下の共架橋剤(b)を含む。好ましくは、ゴム組成物は、100質量部の基材ゴム(a)に対して0.2質量部以上5.0質量部以下の架橋開始剤(c)を含む。好ましくは、ゴム組成物は、100質量部の基材ゴム(a)に対して0.05質量部以上5質量部以下の有機硫黄化合物(e)を含む。
【0021】
好ましくは、硬度Hsとコアの中心点のJIS−C硬度H(0)との差(Hs−H(0))は、15以上である。好ましくは、硬度Hiと硬度Hsとの差(Hi−Hs)は、1以上5以下である。好ましくは、カバーの、最外層のJIS−C硬度Hoと最内層のJIS−C硬度Hiとの差(Ho−Hi)は、2以上10以下である。
【0022】
好ましくは、コアの中心点からカバーの最外層までの硬度分布曲線において、この最外層の硬度が最も大きい。
【0023】
好ましくは、カバーの総厚みは、2.5mm以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るゴルフボールでは、硬度分布が適正である。このゴルフボールでは、ミドルアイアンで打撃されたときのエネルギーロスが少ない。このゴルフボールは、反発性能に優れる。このゴルフボールがミドルアイアンで打撃されたときのスピン速度は、小さい。大きな反発性能と小さなスピン速度とにより、大きな飛距離が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図である。
【図2】図2は、図1のゴルフボールのコアの硬度分布が示された折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0027】
図1に示されたゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4を覆うカバー6とを備えている。カバー6は、インナーカバー8と、このインナーカバー8の外側に位置するアウターカバー10とを備えている。インナーカバー8は、カバー6のうちの最内層である。アウターカバー10は、カバー6のうちの最外層である。カバー6が、インナーカバー8とアウターカバー10との間に、1又は2以上の他の層を有してもよい。アウターカバー10の表面には、多数のディンプル12が形成されている。ゴルフボール2の表面のうちディンプル12以外の部分は、ランド14である。このゴルフボール2は、アウターカバー10の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0028】
このゴルフボール2の直径は、40mmから45mmである。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下が好ましく、42.80mm以下がより好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下である。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上が好ましく、45.00g以上がより好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が好ましい。
【0029】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。このゴム組成物は、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤、
(c)架橋開始剤
及び
(d)カルボン酸塩
を含んでいる。
【0030】
コア4を加熱・成形するとき、基材ゴム(a)は、共架橋剤(b)によって架橋される。この架橋反応の反応熱は、コア4の中心近傍に溜まる。従って、コア4を加熱・成形するとき、中心部の温度は高い。温度は、中心から表面に向かって漸減する。カルボン酸塩(d)は、共架橋剤(b)の金属塩と反応し、カチオンを交換する。この交換反応は、温度が高いコア4の中心部において起こりやすく、表面近傍において起こりにくい。換言すれば、金属架橋の切断は、コア4の中心部において起こりやすく、表面近傍において起こりにくい。その結果、コア4の架橋密度が、中心から表面に向かって高くなる。このコア4では、外剛内柔構造が達成されうる。さらに、ゴム組成物がカルボン酸塩(d)と共に有機硫黄化合物(e)を含むことにより、硬度分布の勾配をコントロールすることができ、コア4の外剛内柔構造の程度を高めることができる。このコア4を含むゴルフボール2がミドルアイアンで打撃されたときのスピン速度は、小さい。このゴルフボール2では、ミドルアイアンでのショットにおいて、優れた飛行性能が達成される。
【0031】
図2は、図1のゴルフボール2のコア4の硬度分布が示された折れ線グラフである。このグラフの横軸は、コア4の中心点からの距離(mm)である。このグラフの縦軸は、JIS−C硬度である。コア4の中心点から表面に向かって、2.5mm間隔で区分して得られた8の測定点が、このグラフにおいてプロットされている。このグラフにはさらに、コア4の表面の測定点もプロットされている。これらの測定点の、コア4の中心点からの距離率は、以下の通りである。
第一点 0.0mm (中心点)
第二点 2.5mm
第三点 5.0mm
第四点 7.5mm
第五点 10.0mm
第六点 12.5mm
第七点 15.0mm
第八点 17.5mm
第九点 表面
コア4が切断されて得られる半球の切断面にJIS−C型硬度計が押しつけられることにより、第一点から第八点の硬度が測定される。球状のコア4の表面にJIS−C型硬度計が押しつけられることにより、第九点の硬度Hsが測定される。測定には、この硬度計が装着された自動ゴム硬度測定機(高分子計器社の商品名「P1」)が用いられる。本発明では、コア4の中心点からの距離がxmmである測定点のJIS−C硬度は、H(x)で表される。コア4の中心点の硬度は、H(0)と表される。
【0032】
図2には、9の測定点の距離と硬度とに基づいて、最小二乗法によって得られた線形近似曲線も示されている。図2から明らかなように、折れ線は、線形近似曲線から大幅には乖離しない。換言すれば、折れ線は、線形近似曲線に近い形状を有する。このコア4では、中心から表面に向かって、硬度が直線的に増加する。このコア4がミドルアイアンで打撃されたとき、エネルギーロスが少ない。このコア4は、反発性能に優れる。このゴルフボール2がミドルアイアンで打撃されたときの飛距離は、大きい。
【0033】
このコア4では、最小二乗法によって得られた線形近似曲線のRは、0.95以上である。R2は、折れ線の直線性を表す指標である。Rが0.95以上であるコア4は、硬度分布の折れ線の形状が直線に近い。Rが0.95以上であるコア4は、反発性能に優れる。Rは、0.96以上がより好ましく、0.97以上が特に好ましい。R2は、相関係数Rを二乗することで算出される。相関係数Rは、中心からの距離(%)と硬度(JIS−C)との共分散を、中心からの距離(%)の標準偏差及び硬度(JIS−C)の標準偏差で除することで算出される。
【0034】
コア4の基材ゴム(a)として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合は、ポリブタジエンが主成分とされることが好ましい。具体的には、基材ゴム全量に対するポリブタジエンの量の比率は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。ポリブタジエンにおけるシス−1,4結合の比率は40質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0035】
1,2−ビニル結合の比率が2.0質量%以下であるポリブタジエンが好ましい。このポリブタジエンは、コア4の反発性能に寄与しうる。この観点から、1,2−ビニル結合の比率は1.7質量%以下が好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。
【0036】
1,2−ビニル結合の比率が少なく、かつ重合活性に優れたポリブタジエンが得られるとの観点から、ポリブタジエンの合成に希土類元素系触媒が用いられることが好ましい。特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジムを含む触媒で合成されたポリブタジエンが好ましい。
【0037】
ポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は30以上が好ましく、32以上がより好ましく、35以上が特に好ましい。ムーニー粘度(ML1+4(100℃))は140以下が好ましく、120以下がより好ましく、100がさらに好ましく、80以下が特に好ましい。ムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、「JIS K6300」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
ローター:Lローター
予備加熱時間:1分
ローターの回転時間:4分
温度:100℃
【0038】
作業性の観点から、ポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)は2.0以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.4以上がさらに好ましく、2.6以上が特に好ましい。反発性能の観点から、分子量分布(Mw/Mn)は6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.4以下が特に好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量Mwが数平均分子量Mnで除されることで算出される。
【0039】
分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC−8120GPC」)によって測定される。測定条件は、以下の通りである。
検知器:示差屈折計
カラム:GMHHXL(東ソー社製)
カラム温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン
分子量分布は、標準ポリスチレン換算値として算出される。
【0040】
共架橋剤(b)は、
(b1)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸
又は
(b2)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸の金属塩
である。
【0041】
ゴム組成物が、共架橋剤(b)として、α,β−不飽和カルボン酸(b1)のみを含んでもよく、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)のみを含んでもよい。ゴム組成物が、共架橋剤(b)として、α,β−不飽和カルボン酸(b1)とα,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)との両方を含んでもよい。
【0042】
α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)は、基材ゴムの分子鎖にグラフト重合することにより、ゴム分子を架橋する。ゴム組成物が、α,β−不飽和カルボン酸(b1)を含む場合、このゴム組成物は、金属化合物(f)をさらに含むことが好ましい。この金属化合物(f)は、ゴム組成物中でα,β−不飽和カルボン酸(b1)と反応する。この反応によって得られた塩が、基材ゴムの分子鎖にグラフト重合する。
【0043】
金属化合物(f)の例として、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム及び水酸化銅のような金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛及び酸化銅のような金属酸化物;並びに炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムのような金属炭酸化物が挙げられる。二価金属を含む化合物が、好ましい。二価金属を含む化合物は、共架橋剤(b)と反応して、金属架橋を形成する。特に好ましい金属化合物(f)は、亜鉛化合物である。2種以上の金属化合物が併用されてもよい。
【0044】
α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及びクロトン酸が例示される。α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)における金属成分としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、カドミウムイオン、アルミニウムイオン、錫イオン及びジルコニウムイオンが例示される。α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)が、2種以上のイオンを含んでもよい。ゴム分子間の金属架橋が生じやすいとの観点から、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、バリウムイオン及びカドミウムイオンのような、二価の金属イオンが好ましい。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)は、アクリル酸亜鉛である。
【0045】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、共架橋剤(b)の量は、基材ゴム100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、20質量部以上が特に好ましい。打球感の観点から、この量は50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0046】
好ましい架橋開始剤(c)は、有機過酸化物である。有機過酸化物は、ゴルフボール2の反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。汎用性の観点から、ジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0047】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、架橋開始剤(c)の量は、基材ゴム100質量部に対して0.2質量部以上が好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感及び耐久性の観点から、この量は、5.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下が特に好ましい。
【0048】
カルボン酸塩(d)には、共架橋剤(b)は含まれない。カルボン酸塩(d)のカルボン酸成分は、カルボキシル基を有する。このカルボン酸塩(d)は、共架橋剤(b)との間で、カチオン成分を交換する。カルボン酸塩(d)は、コア4の加熱・成形時に、コア4の中心部において、共架橋剤(b)による金属架橋を切断すると推測される。
【0049】
カルボン酸塩(d)におけるカルボン酸成分の炭素数は、4以上30以下が好ましく、9以上30以下がより好ましく、14以上28以下がさらに好ましい。カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)及び芳香族カルボン酸が例示される。脂肪酸の塩が、好ましい。
【0050】
ゴム組成物が、飽和脂肪酸の塩を含んでもよく、不飽和脂肪酸の塩を含んでもよい。飽和脂肪酸の塩が好ましい。
【0051】
脂肪酸として、酪酸(C4)、吉草酸(C5)、カプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ミリストレイン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、エライジン酸(C18)、バクセン酸(C18)、オレイン酸(C18)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、12−ヒドロキシステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ガドレイン酸(C20)、アラキドン酸(C20)、エイコセン酸(C20)、べヘニン酸(C22)、エルカ酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、ネルボン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)及びメリシン酸(C30)が例示される。2種以上の脂肪酸塩が併用されてもよい。ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸及びオレイン酸の塩が好ましい。
【0052】
芳香族カルボン酸は、芳香環とカルボキシル基とを有する。芳香族カルボン酸として、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘメミリット酸(ベンゼン−1,2,3−トリカルボン酸)、トリメリット酸(ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸)、トリメシン酸(ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸)、メロファン酸(ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸)、プレーニト酸(ベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボン酸)、ピロメリット酸(ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸)、メリット酸(ベンゼンヘキサカルボン酸)、ジフェン酸(ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸)、トルイル酸(メチル安息香酸)、キシリル酸、プレーニチル酸(2,3,4−トリメチル安息香酸)、γ−イソジュリル酸(2,3,5−トリメチル安息香酸)、ジュリル酸(2,4,5−トリメチル安息香酸)、β−イソジュリル酸(2,4,6−トリメチル安息香酸)、α−イソジュリル酸(3,4,5−トリメチル安息香酸)、クミン酸(4−イソプロピル安息香酸)、ウビト酸(5−メチルイソフタル酸)、α−トルイル酸(フェニル酢酸)、ヒドロアトロパ酸(2−フェニルプロパン酸)及びヒドロケイ皮酸(3−フェニルプロパン酸)が例示される。
【0053】
ゴム組成物が、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はオキソ基で置換された芳香族カルボン酸の塩を含んでもよい。このカルボン酸として、サリチル酸(2−ヒドロキシ安息香酸)、アニス酸(メトキシ安息香酸)、クレソチン酸(ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、o−ホモサリチル酸(2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸)、m−ホモサリチル酸(2−ヒドロキシ−4−メチル安息香酸)、p−ホモサリチル酸(2−ヒドロキシ−5−メチル安息香酸)、o−ピロカテク酸(2,3−ジヒドロキシ安息香酸)、β−レソルシル酸(2,4−ジヒドロキシ安息香酸)、γ−レソルシル酸(2,6−ジヒドロキシ安息香酸)、プロトカテク酸(3,4−ジヒドロキシ安息香酸)、α−レソルシル酸(3,5−ジヒドロキシ安息香酸)、バニリン酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸)、イソバニリン酸(3−ヒドロキシ−4−メトキシ安息香酸)、ベラトルム酸(3,4−ジメトキシ安息香酸)、o−ベラトルム酸(2,3−ジメトキシ安息香酸)、オルセリン酸(2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸)、m−ヘミピン酸(4,5−ジメトキシフタル酸)、没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)、シリング酸(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ安息香酸)、アサロン酸(2,4,5−トリメトキシ安息香酸)、マンデル酸(ヒドロキシ(フェニル)酢酸)、バニルマンデル酸(ヒドロキシ(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)酢酸)、ホモアニス酸((4−メトキシフェニル)酢酸)、ホモゲンチジン酸((2,5−ジヒドロキシフェニル)酢酸)、ホモプロトカテク酸((3,4−ジヒドロキシフェニル)酢酸)、ホモバニリン酸((4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)酢酸)、ホモイソバニリン酸((3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)酢酸)、ホモベラトルム酸((3,4−ジメトキシフェニル)酢酸)、o−ホモベラトルム酸((2,3−ジメトキシフェニル)酢酸)、ホモフタル酸(2−(カルボキシメチル)安息香酸)、ホモイソフタル酸(3−(カルボキシメチル)安息香酸)、ホモテレフタル酸(4−(カルボキシメチル)安息香酸)、フタロン酸(2−(カルボキシカルボニル)安息香酸)、イソフタロン酸(3−(カルボキシカルボニル)安息香酸)、テレフタロン酸(4−(カルボキシカルボニル)安息香酸)、ベンジル酸(ヒドロキシジフェニル酢酸)、アトロラクチン酸(2−ヒドロキシ−2−フェニルプロパン酸)、トロパ酸(3−ヒドロキシ−2−フェニルプロパン酸)、メリロット酸(3−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン酸)、フロレト酸(3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸)、ヒドロカフェー酸(3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン酸)、ヒドロフェルラ酸(3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン酸)、ヒドロイソフェルラ酸(3−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)プロパン酸)、p−クマル酸(3−(4−ヒドロキシフェニル)アクリル酸)、ウンベル酸(3−(2,4−ジヒドロキシフェニル)アクリル酸)、カフェー酸(3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリル酸)、フェルラ酸(3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)アクリル酸)、イソフェルラ酸(3−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)アクリル酸)及びシナピン酸(3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)アクリル酸)が例示されうる。
【0054】
カルボン酸塩のカチオン成分は、金属イオン又は有機陽イオンである。金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、カドミウムイオン、銅イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、錫イオン、ジルコニウムイオン及びチタンイオンが例示される。2種以上のイオンが併用されてもよい。
【0055】
有機陽イオンは、炭素鎖を有する陽イオンである。有機陽イオンとして、有機アンモニウムイオンが挙げられる。有機アンモニウムイオンとして、ステアリルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン及び2−エチルヘキシルアンモニウムイオンのような1級アンモニウムイオン;ドデシル(ラウリル)アンモニウムイオン及びオクタデシル(ステアリル)アンモニウムイオンのような2級アンモニウムイオン;トリオクチルアンモニウムイオンのような3級アンモニウムイオン;並びにジオクチルジメチルアンモニウムイオン及びジステアリルジメチルアンモニウムイオンのような4級アンモニウムイオンが例示される。2種以上の有機陽イオンが併用されてもよい。
【0056】
好ましいカルボン酸塩として、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸又はオレイン酸のカリウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩又はコバルト塩が例示される。
【0057】
コア4の硬度分布の直線性の観点から、カルボン酸塩(d)の量は、基材ゴム100質量部に対して1質量部以上が好ましく、7.5質量部以上がより好ましく、10.0質量部以上がさらに好ましく、12.0質量部以上が特に好ましい。反発性能の観点から、この量は40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0058】
ゴム組成物における共架橋剤(b)とカルボン酸塩(d)との質量比は、3/7以上8/2以下が好ましく、4/6以下7/3以下が特に好ましい。質量比が上記範囲内であるゴム組成物により、中心点から表面に向かって硬度が直線的に増加するコア4が得られうる。
【0059】
共架橋剤(b)として、アクリル酸亜鉛が好んで用いられている。ゴムへの分散性の向上を目的として、その表面がカルボン酸塩でコーティングされているアクリル酸亜鉛が存在する。このアクリル酸亜鉛をゴム組成物が含む場合、コーティング剤がカルボン酸塩(d)として機能する。例えば、カルボン酸塩を10質量%含むアクリル酸亜鉛を、ゴム組成物が25質量部含む場合は、カルボン酸塩(d)の量は2.5質量部とみなされ、アクリル酸亜鉛の量は22.5質量部とみなされる。
【0060】
好ましくは、ゴム組成物は、有機硫黄化合物(e)をさらに含む。有機硫黄化合物(e)は、コア4の硬度分布の直線性と外剛内柔構造の程度との、コントロールに寄与しうる。有機硫黄化合物(e)として、チオール基又は硫黄数が2以上4以下であるポリスルフィド結合を有する有機化合物が挙げられる。この有機化合物の金属塩も、有機硫黄化合物(e)に含まれる。有機硫黄化合物(e)として、脂肪族チオール、脂肪族チオカルボン酸、脂肪族ジチオカルボン酸及び脂肪族ポリスルフィドのような脂肪族化合物;複素環式化合物;脂環式チオール、脂環式チオカルボン酸、脂環式ジチオカルボン酸及び脂環式ポリスルフィドのような脂環式化合物;並びに芳香族化合物が例示される。有機硫黄化合物(e)の具体例として、チオフェノール類、チオナフトール類、ポリスルフィド類、チオカルボン類、ジチオカルボン類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類及びチアゾール類が挙げられる。好ましい有機硫黄化合物は、チオフェノール類、硫黄数が2以上4以下であるポリスルフィド類、チオナフトール類及びチウラム類並びにこれらの金属塩である。
【0061】
有機硫黄化合物(e)の具体例が、下記化学式(1)から(4)で表わされている。
【0062】
【化1】

【0063】
上記化学式(1)において、R1からR5は、それぞれ、H又は置換基を表す。
【0064】
【化2】

【0065】
上記化学式(2)において、R1からR10は、それぞれ、H又は置換基を表す。
【0066】
【化3】

【0067】
上記化学式(3)において、R1からR5はそれぞれH又は置換基を表し、M1は1価の金属原子を表す。
【0068】
【化4】

【0069】
上記化学式(4)において、R1からR10はそれぞれH又は置換基を表し、M2は2価の金属原子を表す。
【0070】
上記式(1)から(4)において、置換基は、ハロゲン基(F、Cl、Br、I)、アルキル基、カルボキシル基(−COOH)、カルボキシル基のエステル(−COOR)、ホルミル基(−CHO)、アシル基(−COR)、ハロゲン化カルボニル基(−COX)、スルホ基(−SOH)、スルホ基のエステル(−SOR)、ハロゲン化スルホニル基(−SOX)、スルフィノ基(−SOH)、アルキルスルフィニル基(−SOR)、カルバモイル基(−CONH)、ハロゲン化アルキル基、シアノ基(−CN)及びアルコキシ基(−OR)よりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0071】
上記化学式(1)で表される有機硫黄化合物の例示としては、チオフェノール;4−フルオロチオフェノール、2,5−ジフルオロチオフェノール、2,4,5−トリフルオロチオフェノール、2,4,5,6−テトラフルオロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、2−クロロチオフェノール、4−クロロチオフェノール、2,4−ジクロロチオフェノール、2,5−ジクロロチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、2,4,5,6−テトラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、4−ブロモチオフェノール、2,5−ジブロモチオフェノール、2,4,5−トリブロモチオフェノール、2,4,5,6−テトラブロモチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、4−ヨードチオフェノール、2,5−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリヨードチオフェノール、2,4,5,6−テトラヨードチオフェノール及びペンタヨードチオフェノールのようなハロゲン基で置換されたチオフェノール類;4−メチルチオフェノール、2,4,5−トリメチルチオフェノール、ペンタメチルチオフェノール、4−t−ブチルチオフェノール、2,4,5−トリ−t−ブチルチオフェノール及びペンタ−t−ブチルチオフェノールのようなアルキル基で置換されたチオフェノール類;4−カルボキシチオフェノール、2,4,6−トリカルボキシチオフェノール及びペンタカルボキシチオフェノールのようなカルボキシル基で置換されたチオフェノール類;4−メトキシカルボニルチオフェノール、2,4,6−トリメトキシカルボニルチオフェノール及びペンタメトキシカルボニルチオフェノールのようなアルコキシカルボニル基で置換されたチオフェノール類;4−ホルミルチオフェノール、2,4,6−トリホルミルチオフェノール及びペンタホルミルチオフェノールのようなホルミル基で置換されたチオフェノール類;4−アセチルチオフェノール、2,4,6−トリアセチルチオフェノール及びペンタアセチルチオフェノールのようなアシル基で置換されたチオフェノール類;4−クロロカルボニルチオフェノール、2,4,6−トリ(クロロカルボニル)チオフェノール及びペンタ(クロロカルボニル)チオフェノールのようなハロゲン化カルボニル基で置換されたチオフェノール類;4−スルホチオフェノール、2,4,6−トリスルホチオフェノール及びペンタスルホチオフェノールのようなスルホ基で置換されたチオフェノール類;4−メトキシスルホニルチオフェノール、2,4,6−トリメトキシスルホニルチオフェノール及びペンタメトキシスルホニルチオフェノールのようなアルコキシスルホニル基で置換されたチオフェノール類;4−クロロスルホニルチオフェノール、2,4,6−トリ(クロロスルホニル)チオフェノール及びペンタ(クロロスルホニル)チオフェノールのようなハロゲン化スルホニル基で置換されたチオフェノール類;4−スルフィノチオフェノール、2,4,6−トリスルフィノチオフェノール及びペンタスルフィノチオフェノールのようなスルフィノ基で置換されたチオフェノール類;4−メチルスルフィニルチオフェノール、2,4,6−トリ(メチルスルフィニル)チオフェノール及びペンタ(メチルスルフィニル)チオフェノールのようなアルキルスルフィニル基で置換されたチオフェノール類;4−カルバモイルチオフェノール、2,4,6−トリカルバモイルチオフェノール及びペンタカルバモイルチオフェノールのようなカルバモイル基で置換されたチオフェノール類;4−トリクロロメチルチオフェノール、2,4,6−トリ(トリクロロメチル)チオフェノール及びペンタ(トリクロロメチル)チオフェノールのようなハロゲン化アルキル基で置換されたチオフェノール類;4−シアノチオフェノール、2,4,6−トリシアノチオフェノール及びペンタシアノチオフェノールのようなシアノ基で置換されたチオフェノール類;並びに4−メトキシチオフェノール、2,4,6−トリメトキシチオフェノール及びペンタメトキシチオフェノールのようなアルコキシ基で置換されたチオフェノール類が例示される。これらのチオフェノール類は、1種類の置換基で置換されている。
【0072】
上記化学式(1)で表される有機硫黄化合物の他の例として、少なくとも1種類の上記置換基と、他の置換基とで置換された化合物が挙げられる。他の置換基としては、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)及びフェニルチオ基(−SPh)が例示される。この化合物の具体例としては、4−クロロ−2−ニトロチオフェノール、4−クロロ−2−アミノチオフェノール、4−クロロ−2−ヒドロキシチオフェノール、4−クロロ−2−フェニルチオチオフェノール、4−メチル−2−ニトロチオフェノール、4−メチル−2−アミノチオフェノール、4−メチル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−メチル−2−フェニルチオチオフェノール、4−カルボキシ−2−ニトロチオフェノール、4−カルボキシ−2−アミノチオフェノール、4−カルボキシ−2−ヒドロキシチオフェノール、4−カルボキシ−2−フェニルチオチオフェノール、4−メトキシカルボニル−2−ニトロチオフェノール、4−メトキシカルボニル−2−アミノチオフェノール、4−メトキシカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−メトキシカルボニル−2−フェニルチオチオフェノール、4−ホルミル−2−ニトロチオフェノール、4−ホルミル−2−アミノチオフェノール、4−ホルミル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−ホルミル−2−フェニルチオチオフェノール、4−アセチル−2−ニトロチオフェノール、4−アセチル−2−アミノチオフェノール、4−アセチル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−アセチル−2−フェニルチオチオフェノール、4−クロロカルボニル−2−ニトロチオフェノール、4−クロロカルボニル−2−アミノチオフェノール、4−クロロカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−クロロカルボニル−2−フェニルチオチオフェノール、4−スルホ−2−ニトロチオフェノール、4−スルホ−2−アミノチオフェノール、4−スルホ−2−ヒドロキシチオフェノール、4−スルホ−2−フェニルチオチオフェノール、4−メトキシスルホニル−2−ニトロチオフェノール、4−メトキシスルホニル−2−アミノチオフェノール、4−メトキシスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−メトキシスルホニル−2−フェニルチオチオフェノール、4−クロロスルホニル−2−ニトロチオフェノール、4−クロロスルホニル−2−アミノチオフェノール、4−クロロスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−クロロスルホニル−2−フェニルチオチオフェノール、4−スルフィノ−2−ニトロチオフェノール、4−スルフィノ−2−アミノチオフェノール、4−スルフィノ−2−ヒドロキシチオフェノール、4−スルフィノ−2−フェニルチオチオフェノール、4−メチルスルフィニル−2−ニトロチオフェノール、4−メチル−2−アミノスルフィニルチオフェノール、4−メチルスルフィニル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−メチルスルフィニル−2−フェニルチオチオフェノール、4−カルバモイル−2−ニトロチオフェノール、4−カルバモイル−2−アミノチオフェノール、4−カルバモイル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−カルバモイル−2−フェニルチオチオフェノール、4−トリクロロメチル−2−ニトロチオフェノール、4−トリクロロメチル−2−アミノチオフェノール、4−トリクロロメチル−2−ヒドロキシチオフェノール、4−トリクロロメチル−2−フェニルチオチオフェノール、4−シアノ−2−ニトロチオフェノール、4−シアノ−2−アミノチオフェノール、4−シアノ−2−ヒドロキシチオフェノール、4−シアノ−2−フェニルチオチオフェノール、4−メトキシ−2−ニトロチオフェノール、4−メトキシ−2−アミノチオフェノール、4−メトキシ−2−ヒドロキシチオフェノール及び4−メトキシ−2−フェニルチオチオフェノールが挙げられる。
【0073】
上記化学式(1)で表される有機硫黄化合物のさらに他の例示として、2種類以上の置換基で置換された化合物が挙げられる。この化合物の具体的として、4−アセチル−2−クロロチオフェノール、4−アセチル−2−メチルチオフェノール、4−アセチル−2−カルボキシチオフェノール、4−アセチル−2−メトキシカルボニルチオフェノール、4−アセチル−2−ホルミルチオフェノール、4−アセチル−2−クロロカルボニルチオフェノール、4−アセチル−2−スルホチオフェノール、4−アセチル−2−メトキシスルホニルチオフェノール、4−アセチル−2−クロロスルホニルチオフェノール、4−アセチル−2−スルフィノチオフェノール、4−アセチル−2−メチルスルフィニルチオフェノール、4−アセチル−2−カルバモイルチオフェノール、4−アセチル−2−トリクロロメチルチオフェノール、4−アセチル−2−シアノチオフェノール及び4−アセチル−2−メトキシチオフェノール等が挙げられる。
【0074】
上記化学式(2)で表される有機硫黄化合物の例示としては、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラヨードフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタヨードフェニル)ジスルフィドのようなハロゲン基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−t−ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリ−t−ブチルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタ−t−ブチルフェニル)ジスルフィドのようなアルキル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−カルボキシフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリカルボキシフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタカルボキシフェニル)ジスルフィドのようなカルボキシル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メトキシカルボニルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリメトキシカルボニルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタメトキシカルボニルフェニル)ジスルフィドのようなアルコキシカルボニル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−ホルミルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリホルミルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタホルミルフェニル)ジスルフィドのようなホルミル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−アセチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリアセチルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタアセチルフェニル)ジスルフィドのようなアシル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−クロロカルボニルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリ(クロロカルボニル)フェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタ(クロロカルボニル)フェニル)ジスルフィドのようなハロゲン化カルボニル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−スルホフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリスルホフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタスルホフェニル)ジスルフィドのようなスルホ基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メトキシスルホニルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリメトキシスルホニルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタメトキシスルホニルフェニル)ジスルフィドのようなアルコキシスルホニル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−クロロスルホニルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリ(クロロスルホニル)フェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタ(クロロスルホニル)フェニル)ジスルフィドのようなハロゲン化スルホニル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−スルフィノフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリスルフィノフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタスルフィノフェニル)ジスルフィドのようなスルフィノ基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メチルスルフィニルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリ(メチルスルフィニル)フェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタ(メチルスルフィニル)フェニル)ジスルフィドのようなアルキルスルフィニル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−カルバモイルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリカルバモイルフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタカルバモイルフェニル)ジスルフィドのようなカルバモイル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−トリクロロメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリ(トリクロロメチル)フェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタ(トリクロロメチル)フェニル)ジスルフィドのようなハロゲン化アルキル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリシアノフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタシアノフェニル)ジスルフィドのようなシアノ基で置換されたジフェニルジスルフィド類;並びにビス(4−メトキシフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ジスルフィド及びビス(ペンタメトキシフェニル)ジスルフィドのようなアルコキシ基で置換されたジフェニルジスルフィド類が例示される。これらのジフェニルジスルフィド類は、1種類の置換基で置換されている。
【0075】
上記化学式(2)で表される有機硫黄化合物の他の例として、少なくとも1種類の上記置換基と、他の置換基とで置換された化合物が挙げられる。他の置換基としては、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)及びフェニルチオ基(−SPh)が例示される。この化合物の具体例としては、ビス(4−クロロ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルボキシ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルボキシ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルボキシ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルボキシ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシカルボニル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシカルボニル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシカルボニル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシカルボニル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ホルミル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ホルミル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ホルミル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロカルボニル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロカルボニル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロカルボニル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロカルボニル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルホ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルホ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルホ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルホ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシスルホニル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシスルホニル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシスルホニル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシスルホニル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロスルホニル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロスルホニル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロスルホニル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロスルホニル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルフィノ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルフィノ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルフィノ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−スルフィノ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチルスルフィニル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチルスルフィニル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチルスルフィニル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メチルスルフィニル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルバモイル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルバモイル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルバモイル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルバモイル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−トリクロロメチル−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−トリクロロメチル−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−トリクロロメチル−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−トリクロロメチル−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシ−2−ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシ−2−アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−メトキシ−2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド及びビス(4−メトキシ−2−フェニルチオフェニル)ジスルフィドが挙げられる。
【0076】
上記化学式(2)で表される有機硫黄化合物のさらに他の例示として、2種類以上の置換基で置換された化合物が挙げられる。この化合物の具体的として、ビス(4−アセチル−2−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−メチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−カルボキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−メトキシカルボニルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−ホルミルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−クロロカルボニルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−スルホフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−メトキシスルホニルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−クロロスルホニルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−スルフィノフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−メチルスルフィニルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−カルバモイルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−トリクロロメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−アセチル−2−シアノフェニル)ジスルフィド及びビス(4−アセチル−2−メトキシフェニル)ジスルフィドが挙げられる。
【0077】
上記化学式(3)で表される有機硫黄化合物の例示としては、チオフェノールナトリウム塩;4−フルオロチオフェノールナトリウム塩、2,5−ジフルオロチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリフルオロチオフェノールナトリウム塩、2,4,5,6−テトラフルオロチオフェノールナトリウム塩、ペンタフルオロチオフェノールナトリウム塩、4−クロロチオフェノールナトリウム塩、2,5−ジクロロチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリクロロチオフェノールナトリウム塩、2,4,5,6−テトラクロロチオフェノールナトリウム塩、ペンタクロロチオフェノールナトリウム塩、4−ブロモチオフェノールナトリウム塩、2,5−ジブロモチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリブロモチオフェノールナトリウム塩、2,4,5,6−テトラブロモチオフェノールナトリウム塩、ペンタブロモチオフェノールナトリウム塩、4−ヨードチオフェノールナトリウム塩、2,5−ジヨードチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリヨードチオフェノールナトリウム塩、2,4,5,6−テトラヨードチオフェノールナトリウム塩及びペンタヨードチオフェノールナトリウム塩のようなハロゲン基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−メチルチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリメチルチオフェノールナトリウム塩、ペンタメチルチオフェノールナトリウム塩、4−t−ブチルチオフェノールナトリウム塩、2,4,5−トリ−t−ブチルチオフェノールナトリウム塩及びペンタ(t−ブチル)チオフェノールナトリウム塩のようなアルキル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−カルボキシチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリカルボキシチオフェノールナトリウム塩及びペンタカルボキシチオフェノールナトリウム塩のようなカルボキシル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−メトキシカルボニルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリメトキシカルボニルチオフェノールナトリウム塩及びペンタメトキシカルボニルチオフェノールナトリウム塩のようなアルコキシカルボニル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−ホルミルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリホルミルチオフェノールナトリウム塩及びペンタホルミルチオフェノールナトリウム塩のようなホルミル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−アセチルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリアセチルチオフェノールナトリウム塩及びペンタアセチルチオフェノールナトリウム塩のようなアシル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−クロロカルボニルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリ(クロロカルボニル)チオフェノールナトリウム塩及びペンタ(クロロカルボニル)チオフェノールナトリウム塩のようなハロゲン化カルボニル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−スルホチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリスルホチオフェノールナトリウム塩及びペンタスルホチオフェノールナトリウム塩のようなスルホ基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−メトキシスルホニルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリメトキシスルホニルチオフェノールナトリウム塩及びペンタメトキシスルホニルチオフェノールナトリウム塩のようなアルコキシスルホニル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−クロロスルホニルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリ(クロロスルホニル)チオフェノールナトリウム塩及びペンタ(クロロスルホニル)チオフェノールナトリウム塩のようなハロゲン化スルホニル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−スルフィノチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリスルフィノチオフェノールナトリウム塩及びペンタスルフィノチオフェノールナトリウム塩のようなスルフィノ基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−メチルスルフィニルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリ(メチルスルフィニル)チオフェノールナトリウム塩及びペンタ(メチルスルフィニル)チオフェノールナトリウム塩のようなアルキルスルフィニル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−カルバモイルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリカルバモイルチオフェノールナトリウム塩及びペンタカルバモイルチオフェノールナトリウム塩のようなカルバモイル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−トリクロロメチルチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリ(トリクロロメチル)チオフェノールナトリウム塩及びペンタ(トリクロロメチル)チオフェノールナトリウム塩のようなハロゲン化アルキル基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;4−シアノチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリシアノチオフェノールナトリウム塩及びペンタシアノチオフェノールナトリウム塩のようなシアノ基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類;並びに4−メトキシチオフェノールナトリウム塩、2,4,6−トリメトキシチオフェノールナトリウム塩及びペンタメトキシチオフェノールナトリウム塩のようなアルコキシ基で置換されたチオフェノールナトリウム塩類が例示される。これらチオフェノールナトリウム塩類は、1種類の置換基で置換されている。
【0078】
上記化学式(3)で表される有機硫黄化合物の他の例として、少なくとも1種類の上記置換基と、他の置換基とで置換された化合物が挙げられる。他の置換基としては、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)及びフェニルチオ基(−SPh)が例示される。この化合物の具体例としては、4−クロロ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−クロロ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−クロロ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−クロロ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−メチル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−メチル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−メチル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−メチル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−カルボキシ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−カルボキシ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−カルボキシ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−カルボキシ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシカルボニル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシカルボニル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシカルボニル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−ホルミル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−ホルミル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−ホルミル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−ホルミル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−クロロカルボニル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−クロロカルボニル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−クロロカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−クロロカルボニル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−スルホ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−スルホ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−スルホ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−スルホ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシスルホニル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシスルホニル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシスルホニル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−クロロスルホニル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−クロロスルホニル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−クロロスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−クロロスルホニル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−スルフィノ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−スルフィノ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−スルフィノ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−スルフィノ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−メチルスルフィニル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−メチルスルフィニル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−メチルスルフィニル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−メチルスルフィニル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−カルバモイル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−カルバモイル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−カルバモイル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−カルバモイル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−トリクロロメチル−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−トリクロロメチル−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−トリクロロメチル−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−トリクロロメチル−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−シアノ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−シアノ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−シアノ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩、4−シアノ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシ−2−ニトロチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシ−2−アミノチオフェノールナトリウム塩、4−メトキシ−2−ヒドロキシチオフェノールナトリウム塩及び4−メトキシ−2−フェニルチオチオフェノールナトリウム塩が挙げられる。
【0079】
上記化学式(3)で表される有機硫黄化合物のさらに他の例示として、2種類以上の置換基で置換された化合物が挙げられる。この化合物の具体的として、4−アセチル−2−クロロチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−メチルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−カルボキシチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−メトキシカルボニルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−ホルミルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−クロロカルボニルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−スルホチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−メトキシスルホニルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−クロロスルホニルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−スルフィノチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−メチルスルフィニルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−カルバモイルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−トリクロロメチルチオフェノールナトリウム塩、4−アセチル−2−シアノチオフェノールナトリウム塩及び4−アセチル−2−メトキシチオフェノールナトリウム塩が挙げられる。上記化学式(3)において、M1で表される1価の金属として、ナトリウム、リチウム、カリウム、銅(I)及び銀(I)が例示される。
【0080】
上記化学式(4)で表される有機硫黄化合物として、チオフェノール亜鉛塩;4−フルオロチオフェノール亜鉛塩、2,5−ジフルオロチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリフルオロチオフェノール亜鉛塩、2,4,5,6−テトラフルオロチオフェノール亜鉛塩、ペンタフルオロチオフェノール亜鉛塩、4−クロロチオフェノール亜鉛塩、2,5−ジクロロチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリクロロチオフェノール亜鉛塩、2,4,5,6−テトラクロロチオフェノール亜鉛塩、ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩、4−ブロモチオフェノール亜鉛塩、2,5−ジブロモチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリブロモチオフェノール亜鉛塩、2,4,5,6−テトラブロモチオフェノール亜鉛塩、ペンタブロモチオフェノール亜鉛塩、4−ヨードチオフェノール亜鉛塩、2,5−ジヨードチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリヨードチオフェノール亜鉛塩、2,4,5,6−テトラヨードチオフェノール亜鉛塩及びペンタヨードチオフェノール亜鉛塩のようなハロゲン基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−メチルチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリメチルチオフェノール亜鉛塩、ペンタメチルチオフェノール亜鉛塩、4−t−ブチルチオフェノール亜鉛塩、2,4,5−トリ−t−ブチルチオフェノール亜鉛塩及びペンタ−t−ブチルチオフェノール亜鉛塩のようなアルキル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−カルボキシチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリカルボキシチオフェノール亜鉛塩及びペンタカルボキシチオフェノール亜鉛塩のようなカルボキシル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−メトキシカルボニルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリメトキシカルボニルチオフェノール亜鉛塩及びペンタメトキシカルボニルチオフェノール亜鉛塩のようなアルコキシカルボニル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−ホルミルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリホルミルチオフェノール亜鉛塩及びペンタホルミルチオフェノール亜鉛塩のようなホルミル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−アセチルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリアセチルチオフェノール亜鉛塩及びペンタアセチルチオフェノール亜鉛塩のようなアシル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−クロロカルボニルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリ(クロロカルボニル)チオフェノール亜鉛塩及びペンタ(クロロカルボニル)チオフェノール亜鉛塩のようなハロゲン化カルボニル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−スルホチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリスルホチオフェノール亜鉛塩及びペンタスルホチオフェノール亜鉛塩のようなスルホ基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−メトキシスルホニルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリメトキシスルホニルチオフェノール亜鉛塩及びペンタメトキシスルホニルチオフェノール亜鉛塩のようなアルコキシスルホニル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−クロロスルホニルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリ(クロロスルホニル)チオフェノール亜鉛塩及びペンタ(クロロスルホニル)チオフェノール亜鉛塩のようなハロゲン化スルホニル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−スルフィノチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリスルフィノチオフェノール亜鉛塩及びペンタスルフィノチオフェノール亜鉛塩のようなスルフィノ基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−メチルスルフィニルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリ(メチルスルフィニル)チオフェノール亜鉛塩及びペンタ(メチルスルフィニル)チオフェノール亜鉛塩のようなアルキルスルフィニル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−カルバモイルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリカルバモイルチオフェノール亜鉛塩及びペンタカルバモイルチオフェノール亜鉛塩のようなカルバモイル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−トリクロロメチルチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリ(トリクロロメチル)チオフェノール亜鉛塩及びペンタ(トリクロロメチル)チオフェノール亜鉛塩のようなハロゲン化アルキル基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;4−シアノチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリシアノチオフェノール亜鉛塩及びペンタシアノチオフェノール亜鉛塩のようなシアノ基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類;並びに4−メトキシチオフェノール亜鉛塩、2,4,6−トリメトキシチオフェノール亜鉛塩及びペンタメトキシチオフェノール亜鉛塩のようなアルコキシ基で置換されたチオフェノール亜鉛塩類が例示される。これらのチオフェノール亜鉛塩類は、1種類の置換基で置換されている。
【0081】
上記化学式(4)で表される有機硫黄化合物の他の例として、少なくとも1種類の上記置換基と、他の置換基とで置換された化合物が挙げられる。他の置換基としては、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)及びフェニルチオ基(−SPh)が例示される。この化合物の具体例としては、4−クロロ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−クロロ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−クロロ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−クロロ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−メチル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−メチル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−メチル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−メチル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−カルボキシ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−カルボキシ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−カルボキシ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−カルボキシ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシカルボニル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシカルボニル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシカルボニル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−ホルミル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−ホルミル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−ホルミル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−ホルミル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−クロロカルボニル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−クロロカルボニル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−クロロカルボニル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−クロロカルボニル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−スルホ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−スルホ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−スルホ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−スルホ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシスルホニル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシスルホニル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシスルホニル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−クロロスルホニル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−クロロスルホニル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−クロロスルホニル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−クロロスルホニル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−スルフィノ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−スルフィノ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−スルフィノ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−スルフィノ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−メチルスルフィニル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−メチルスルフィニル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−メチルスルフィニル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−メチルスルフィニル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−カルバモイル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−カルバモイル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−カルバモイル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−カルバモイル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−トリクロロメチル−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−トリクロロメチル−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−トリクロロメチル−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−トリクロロメチル−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−シアノ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−シアノ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−シアノ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩、4−シアノ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシ−2−ニトロチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシ−2−アミノチオフェノール亜鉛塩、4−メトキシ−2−ヒドロキシチオフェノール亜鉛塩及び4−メトキシ−2−フェニルチオチオフェノール亜鉛塩が挙げられる。
【0082】
上記化学式(4)で表される有機硫黄化合物のさらに他の例示として、2種類以上の置換基で置換された化合物が挙げられる。この化合物の具体的として、4−アセチル−2−クロロチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−メチルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−カルボキシチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−メトキシカルボニルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−ホルミルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−クロロカルボニルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−スルホチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−メトキシスルホニルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−クロロスルホニルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−スルフィノチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−メチルスルフィニルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−カルバモイルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−トリクロロメチルチオフェノール亜鉛塩、4−アセチル−2−シアノチオフェノール亜鉛塩及び4−アセチル−2−メトキシチオフェノール亜鉛塩が挙げられる。上記化学式(4)においてM2で表される2価の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン(II)、マンガン(II)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、ジルコニウム(II)及びスズ(II)が例示される。
【0083】
ナフタレンチオール類として、2−ナフタレンチオール、1−ナフタレンチオール、2−クロロ−1−ナフタレンチオール、2−ブロモ−1−ナフタレンチオール、2−フルオロ−1−ナフタレンチオール、2−シアノ−1−ナフタレンチオール、2−アセチル−1−ナフタレンチオール、1−クロロ−2−ナフタレンチオール、1−ブロモ−2−ナフタレンチオール、1−フルオロ−2−ナフタレンチオール、1−シアノ−2−ナフタレンチオール及び1−アセチル−2−ナフタレンチオール並びにこれらの金属塩が例示される。1−ナフタレンチオール及び2−ナフタレンチオール並びにこれらの亜鉛塩が好ましい。
【0084】
スルフェンアミド系有機硫黄化合物として、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド及びN−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドが例示される。チウラム系有機硫黄化合物として、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド及びジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが例示される。ジチオカルバミン酸塩類として、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(III)、ジエチルジチオカルバミン酸セレン及びジエチルジチオカルバミン酸テルルが例示される。チアゾール系有機硫黄化合物として、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT);ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS);2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩又はシクロヘキシルアミン塩;2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール;及び2−(2,6−ジエチル−4−モリホリノチオ)ベンゾチアゾールが例示される。
【0085】
反発性能の観点から、有機硫黄化合物(e)の含有量は、基材ゴム100質量部に対して0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。反発性能の観点から、この量は5.0質量部以下が好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。
【0086】
コア4に、比重調整等の目的で充填剤が配合されてもよい。好適な充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤の量は、コア4の意図した比重が達成されるように適宜決定される。特に好ましい充填剤は、酸化亜鉛である。酸化亜鉛は、比重調整の役割のみならず、架橋助剤としても機能する。
【0087】
コア4のゴム組成物には、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤、硫黄、加硫促進剤等が、必要に応じて添加される。このゴム組成物に、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末が分散してもよい。
【0088】
このコア4では、表面硬度Hsと中心硬度H(0)との差(Hs−H(0))は、15以上が好ましい。この差は、大きい。換言すれば、このコア4は外剛内柔構造を有する。このコア4がミドルアイアンで打撃されたとき、リコイル(ねじり戻り)が大きいので、スピンが抑制される。このコア4は、ゴルフボール2の飛行性能に寄与する。飛行性能の観点から、差(Hs−H(0))は20以上がより好ましく、25以上が特に好ましい。コア4が容易に成形されうるとの観点から、差(Hs−H(0))は50以下が好ましい。
【0089】
コア4の中心点の硬度H(0)は、40.0以上70.0以下が好ましい。硬度H(0)が40.0以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、硬度H(0)は45.0以上がより好ましく、50.0以上が特に好ましい。硬度H(0)が70.0以下であるコア4では、外剛内柔構造が達成されうる。このコア4を備えたゴルフボール2では、スピンが抑制されうる。この観点から、硬度H(0)は68.0以下がより好ましく、66.0以下が特に好ましい。
【0090】
コア4の表面の硬度Hsは、78.0以上95.0以下が好ましい。硬度Hsが78.0以上であるコア4では、外剛内柔構造が達成されうる。このコア4を備えたゴルフボール2では、スピンが抑制されうる。この観点から、硬度Hsは80.0以上がより好ましく、82.0以上が特に好ましい。硬度Hsが95.0以下であるゴルフボール2は、耐久性に優れる。この観点から、硬度Hsは93.0以下がより好ましく、90.0以下が特に好ましい。
【0091】
コア4の直径は、38.0mm以上42.0mm以下が好ましい。直径が38.0mm以上であるコア4により、ゴルフボール2の優れた反発性能が達成されうる。この観点から、直径は38.5mm以上がより好ましく、39.0mm以上が特に好ましい。直径が42.0mm以下であるコア4を有するゴルフボール2では、インナーカバー8及びアウターカバー10が十分な厚みを有しうる。インナーカバー8及びアウターカバー10の厚みが大きなゴルフボール2は、耐久性に優れる。この観点から、直径は41mm以下がより好ましく、40mm以下が特に好ましい。コア4が2以上の層を備えてもよい。
【0092】
打球感の観点から、コア4の圧縮変形量Dcは3.0mm以上が好ましく、3.3mm以上が特に好ましい。反発性能の観点から、圧縮変形量Dcは4.6mm以下が好ましく、4.3mm以下が特に好ましい。
【0093】
インナーカバー8には、樹脂組成物が好適に用いられる。この樹脂組成物の基材ポリマーとしては、アイオノマー樹脂、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー及び熱可塑性ポリオレフィンエラストマーが例示される。
【0094】
特に好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。アイオノマー樹脂を含むインナーカバー8を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。インナーカバー8に、アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合、基材ポリマーの主成分がアイオノマー樹脂であることが好ましい。具体的には、基材ポリマーの全量に対するアイオノマー樹脂の比率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0095】
好ましいアイオノマー樹脂としては、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい二元共重合体は、80質量%以上90質量%以下のα−オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸とを含む。この二元共重合体は、反発性能に優れる。好ましい他のアイオノマー樹脂としては、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。好ましい三元共重合体は、70質量%以上85質量%以下のα−オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元共重合体は、反発性能に優れる。二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンと、アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である。
【0096】
二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
【0097】
アイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7318」、「ハイミランAM7329」、「ハイミランAM7337」、「ハイミランMK7320」及び「ハイミランMK7329」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9910」、「サーリン9945」、「サーリンAD8546」、「HPF1000」及び「HPF2000」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。
【0098】
インナーカバー8に、2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。1価の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂と2価の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂とが併用されてもよい。
【0099】
アイオノマー樹脂と併用されうる好ましい樹脂は、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーである。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーは、アイオノマー樹脂との相溶性に優れる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物は、流動性に優れる。
【0100】
スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとを備えている。典型的なソフトセグメントは、ジエンブロックである。ジエンブロックの化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが例示される。ブタジエン及びイソプレンが好ましい。2以上の化合物が併用されてもよい。
【0101】
スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、SBSの水添物、SISの水添物及びSIBSの水添物が含まれる。SBSの水添物としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SISの水添物としては、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。SIBSの水添物としては、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。
【0102】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーにおけるスチレン成分の含有率は10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感の観点から、この含有率は50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0103】
本発明において、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS及びSEEPS並びにこれらの水添物からなる群から選択された1種又は2種以上と、オレフィンとのアロイが含まれる。このアロイ中のオレフィン成分は、アイオノマー樹脂との相溶性向上に寄与すると推測される。このアロイが用いられることにより、ゴルフボール2の反発性能が向上する。好ましくは、炭素数が2以上10以下のオレフィンが用いられる。好適なオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン及びペンテンが例示される。エチレン及びプロピレンが特に好ましい。
【0104】
ポリマーアロイの具体例としては、三菱化学社の商品名「ラバロンT3221C」、「ラバロンT3339C」、「ラバロンSJ4400N」、「ラバロンSJ5400N」、「ラバロンSJ6400N」、「ラバロンSJ7400N」、「ラバロンSJ8400N」、「ラバロンSJ9400N」及び「ラバロンSR04」が挙げられる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの他の具体例としては、ダイセル化学工業社の商品名「エポフレンドA1010」及びクラレ社の商品名「セプトンHG−252」が挙げられる。
【0105】
インナーカバー8の樹脂組成物には、必要に応じ、二酸化チタン及び蛍光顔料のような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等が、適量配合される。インナーカバー8が、高比重金属からなる粉末を含んでもよい。
【0106】
コア4及びインナーカバー8からなる球体16において外剛内柔構造が達成されうるとの観点から、インナーカバー8の硬度Hiは80以上が好ましく、83以上がより好ましく、85以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感の観点から、硬度Hiは95以下が好ましく、90以下が特に好ましい。硬度Hiは、自動ゴム硬度測定装置(高分子計器社の商品名「P1」)に取り付けられたJIS−C硬度計によって測定される。測定には、熱プレスで成形された、厚みが約2mmであるスラブが用いられる。23℃の温度下に2週間保管されたスラブが、測定に用いられる。測定時には、3枚のスラブが重ね合わされる。インナーカバー8の樹脂組成物と同一の樹脂組成物からなるスラブが用いられる。
【0107】
球体16において外剛内柔構造が達成され、ゴルフボール2のスピンが抑制されるとの観点から、インナーカバー8の硬度Hiが、コア4の表面硬度Hsよりも大きいことが好ましい。スピン抑制の観点から、硬度Hiと上記硬度Hsとの差(Hi−Hs)は1以上が好ましく、2以上が特に好ましい。差(Hi−Hs)は、5以下が好ましい。差(Hi−Hs)が5以下である球体16では、中心点から表面に向かって、硬度が直線的に増加する。硬度が直線的に増加する球体16では、ミドルアイアンで打撃されたときのエネルギーロスが少ない。
【0108】
インナーカバー8の厚みは、0.2mm以上2.0mm以下が好ましい。0.2mm以上の厚みを有するインナーカバー8を備えた球体16では、外剛内柔構造が達成されうる。この観点から、厚みは0.5mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。2.0mm以下の厚みを有するインナーカバー8を備えたゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、厚みは1.6mm以下がより好ましく、1.3mm以下が特に好ましい。
【0109】
打球感の観点から、コア4及びインナーカバー8からなる球体16の圧縮変形量Diは3.2mm以上が好ましく、3.4mm以上が特に好ましい。反発性能の観点から、圧縮変形量Diは3.8mm以下が好ましく、3.6mm以下が特に好ましい。
【0110】
インナーカバー8の形成には、射出成形法、圧縮成形法等の既知の手法が採用されうる。
【0111】
アウターカバー10には、樹脂組成物が好適に用いられる。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。アイオノマー樹脂を含むアウターカバー10を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。インナーカバー8に関して前述されたアイオノマー樹脂が、アウターカバー10に用いられうる。
【0112】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。基材ポリマーの全量に対するアイオノマー樹脂の量の比率は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0113】
アイオノマー樹脂と併用されうる好ましい樹脂は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体である。この共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸とを含有する単量体組成物の共重合反応によって得られる。この共重合体では、カルボキシル基の一部が金属イオンで中和されている。この共重合体は3質量%以上25質量%以下の(メタ)アクリル酸成分を含有する。極性官能基を有するエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が、特に好ましい。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ニュクレル」が挙げられる。
【0114】
アイオノマー樹脂と併用されうる他の好ましい樹脂は、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーである。インナーカバー8に関して前述されたスチレンブロック含有熱可塑性エラストマーが、アウターカバー10に用いられうる。
【0115】
アウターカバー10には、必要に応じ、二酸化チタン及び蛍光顔料のような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等が、適量配合される。
【0116】
アウターカバー10のJIS−C硬度Hoは、83以上96以下が好ましい。硬度Hoが83以上であるアウターカバー10を有するゴルフボール2では、外剛内柔構造が達成されうる。この外剛内柔構造を備えたゴルフボール2では、スピンが抑制される。このゴルフボール2は、飛行性能に優れる。この観点から、硬度Hoは84以上がより好ましく、85以上が特に好ましい。硬度Hoが96以下であるアウターカバー10を有するゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、硬度Hoは95以下がより好ましく、93以下が特に好ましい。硬度Hoは、硬度Hiの測定方法と同様の方法にて測定される。
【0117】
アウターカバー10の厚みは、0.2mm以上1.5mm以下が好ましい。0.2mm以上の厚みを有するアウターカバー10は、容易に成形されうる。この観点から、厚みは0.4mm以上がより好ましく、0.6mm以上が特に好ましい。1.5mm以下の厚みを有するアウターカバー10を備えたゴルフボール2では、スピンが抑制される。この観点から、厚みは1.3mm以下がより好ましく、1.1mm以下が特に好ましい。
【0118】
アウターカバー10の形成には、射出成形法、圧縮成形法等の既知の手法が採用されうる。アウターカバー10の成形時に、成形型のキャビティ面に形成されたピンプルにより、ディンプル10が形成される。
【0119】
カバー6の総厚みは、2.5mm以下が好ましい。総厚みが2.5mm以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、総厚みは2.3mm以下がより好ましく、2.1mm以下が特に好ましい。ゴルフボール2の耐久性の観点から、総厚みは0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。
【0120】
アウターカバー10のショアD硬度Hoは、インナーカバー8のショアD硬度Hiよりも大きい。このアウターカバー10により、ゴルフボール2の外剛内柔構造が達成されうる。このゴルフボール2は、飛行性能及び打球感に優れる。差(Ho−Hi)は2以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上が特に好ましい。打撃時のエネルギーロスが抑制されるとの観点から、差(Ho−Hi)は10以下が好ましい。
【0121】
このゴルフボール2の、コア4の中心点からアウターカバー10までの硬度分布曲線において、アウターカバー10の硬度が最も大きい。このゴルフボール2では、スピンが抑制される。
【0122】
打球感の観点から、ゴルフボール2の圧縮変形量Dbは2.8mm以上が好ましく、2.9mm以上がより好ましく、3.0mm以上が特に好ましい。反発性能の観点から、圧縮変形量Dbは3.6mm以下が好ましく、3.5mm以下がより好ましく、3.4mm以下が特に好ましい。
【0123】
圧縮変形量の測定では、コア4、ゴルフボール2等の球体が金属製の剛板の上に置かれる。この球体に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれた球体は、変形する。球体に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。
【実施例】
【0124】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0125】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR−730」)、26質量部のアクリル酸亜鉛(三新化学工業社の商品名「サンセラーSR」)、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.2質量部の2−ナフタレンチオール、10質量部のステアリン酸亜鉛及び0.75質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を、共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、170℃の温度下で25分間加熱して、直径が39.1mmであるコアを得た。ゴルフボールの質量が45.4gとなるように、硫酸バリウムの量を調整した
【0126】
40質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7337」)、40質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、20質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)及び6質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。金型に、コアを投入した。上記樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに射出し、インナーカバーを成形した。このインナーカバーの厚みは、1.0mmであった。
【0127】
5質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7337」)、10質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミラン1555」)、55質量部のさらに他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、30質量部のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ニュクレルN1050H」、3質量部の二酸化チタン、及び0.2質量部の紫外線吸収剤(チバ・ジャパン社の商品名「チヌビン770」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。キャビティ面に多数のピンプルを備えたファイナル金型に、コア及びインナーカバーからなる球体を投入した。上記樹脂組成物を射出成形法にて球体の周りに射出し、アウターカバーを成形した。このアウターカバーの厚みは、0.8mmであった。アウターカバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。このアウターカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が42.7mmである実施例1のゴルフボールを得た。
【0128】
[実施例2から13及び比較例1から6]
コア、インナーカバー及びアウターカバーの仕様を下記の表7から9に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2から13及び比較例1から6のゴルフボールを得た。コアの組成の詳細が、下記の表1及び2に示されている。インナーカバー及びアウターカバーの組成の詳細が、下記の表3に示されている。コアの硬度分布が、下記の表4から6に示されている。比較例3に係るゴルフボールは、インナーカバーを有しない。
【0129】
[ミドルアイアン(I#5)による打撃]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、5番アイアン(SRIスポーツ社の商品名「XXIO」、シャフト硬度:R、ロフト角:24°)を装着した。ヘッド速度が35m/secである条件で、ゴルフボールを打撃した。打撃直後のスピン速度を測定した。さらに、発射地点から静止地点までの距離を測定した。12回測定されて得られたデータの平均値が、下記の表7から9に示されている。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
表1及び2に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
BR730:JSR社の、ハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量:96質量%、1,2−ビニル結合含有量:1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃)
):55、分子量分布(Mw/Mn):3)
サンセラーSR:三新化学工業社のアクリル酸亜鉛(10質量%ステアリン酸コーティング品)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社の商品名「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社の商品名「硫酸バリウムBD」
2−ナフタレンチオール:東京化成工業社
ステアリン酸亜鉛:和光純薬工業社
ジクミルパーオキサイド:日油社の商品名「パークミルD」
オクタン酸亜鉛:三津和化学薬品社
ラウリン酸亜鉛:三津和化学薬品社
ミリスチン酸亜鉛:日油社
【0133】
【表3】

【0134】
【表4】

【0135】
【表5】

【0136】
【表6】

【0137】
【表7】

【0138】
【表8】

【0139】
【表9】

【0140】
表7から9に示されるように、実施例に係るゴルフボールは、ミドルアイアンでの飛行性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明に係るゴルフボールは、ゴルフ場でのプレーや、ドライビングレンジにおけるプラクティスに用いられうる。
【符号の説明】
【0142】
2・・・ゴルフボール
4・・・コア
6・・・カバー
8・・・インナーカバー
10・・・アウターカバー
12・・・ディンプル
14・・・ランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のコアと、このコアを被覆しかつ2以上の層を有するカバーとを備えており、
上記コアが、ゴム組成物が架橋されることで得られたものであり、
上記ゴム組成物が、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤、
(c)架橋開始剤、
及び
(d)カルボン酸塩
を含んでおり、
上記共架橋剤(b)が、
(b1)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸
又は
(b2)その炭素数が3以上8以下であるα,β−不飽和カルボン酸の金属塩
であり、
上記カルボン酸塩(d)の量が、100質量部の基材ゴム(a)に対して1質量部以上40質量部未満であり、
上記カバーの最内層のJIS−C硬度Hiが、上記コアの表面のJIS−C硬度Hsより大きいゴルフボール。
【請求項2】
上記ゴム組成物が、
(e)有機硫黄化合物
をさらに含む請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記ゴム組成物が、上記α,β−不飽和カルボン酸(b1)を含み、
さらにこのゴム組成物が、
(f)金属化合物
を含む請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記カルボン酸塩(d)が脂肪酸塩である請求項1から3のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記カルボン酸塩(d)のカルボン酸成分の炭素数が4以上30以下である請求項1から4のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項6】
上記ゴム組成物が、上記α,β−不飽和カルボン酸の金属塩(b2)を含む請求項1から5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
上記有機硫黄化合物(e)が、チオフェノール類、硫黄数が2以上4以下であるポリスルフィド類、チオナフトール類若しくはチウラム類又はこれらの金属塩である請求項1から6のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項8】
上記ゴム組成物が、100質量部の基材ゴム(a)に対して15質量部以上50質量部以下の上記共架橋剤(b)を含む請求項1から7のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項9】
上記ゴム組成物が、100質量部の基材ゴム(a)に対して0.2質量部以上5.0質量部以下の上記架橋開始剤(c)を含む請求項1から8のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項10】
上記ゴム組成物が、100質量部の基材ゴム(a)に対して0.05質量部以上5質量部以下の上記有機硫黄化合物(e)を含む請求項1から9のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項11】
上記硬度Hsと、上記コアの中心点のJIS−C硬度H(0)との差(Hs−H(0))が15以上である請求項1から10のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項12】
上記硬度Hiと上記硬度Hsとの差(Hi−Hs)が1以上5以下である請求項1から11のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項13】
上記カバーの、最外層のJIS−C硬度Hoと最内層のJIS−C硬度Hiとの差(Ho−Hi)が、2以上10以下である請求項1から12のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項14】
上記コアの中心点からカバーの最外層までの硬度分布曲線において、この最外層の硬度が最も大きい請求項1から13のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項15】
上記カバーの総厚みが2.5mm以下である請求項1から14のいずれかに記載のゴルフボール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−9895(P2013−9895A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145379(P2011−145379)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)