説明

サイジングしてない交絡した合成フィラメント糸、それからなる工業織布及びエアバック用織布

【課題】工業用織布を製造するための交絡した糸を提供する。
【解決手段】エアバック用織布及びその他の工業用織布を製造するために、糸繊度100〜1000dtexを有するサイジングされていない交絡した合成フィラメント糸を使用する。該糸の個々のフィラメントは平均開口長さ2〜10cmを有し、糸の交絡点の安定性に関する係数K1は0.6以上でありかつ糸の交絡点の安定性に関する係数K2は0.3以上である。
【効果】この糸を用いると、工業用織布、特にエアバック用織布を廉価に要求される特性で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸繊度(yarn titer)100〜1000dtexを有するサイジングしてない交絡した合成フィラメント糸、特にエアバック用織布及びその他の工業用織布を製造するための合成フィラメント糸に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバックを製造するための織布は、一連の極めて多種多様な条件を満足しなければならない。特に重要な、特殊に調整された通気性の他に、これらの織布は、良好な耐老化性、高い強度、良好な折畳み性及び衝突の際のエアバックのリリースの際の高度の柔軟性を有していなければならない。該織布の特性に対する特別の要求に相応して、このために使用される糸に対して極めて特殊な要求も設定される。このことは一面では織布に対する作用に関し、他面では織布製造の際の加工特性に関する。
【0003】
実地においては、特に自動車製造業者によって所望されるように全ての要求を満たすことは困難であることが判明した。
【0004】
最初のエアバックは特に被覆織布から製造された。このことは製造コストのためだけでなく、使用する際の若干の欠点により特に好ましくないことが立証された。
【0005】
非被覆エアバック織布が出回るようになった後にまず使用された糸は、たいていは比較的高い糸及びフィラメント繊度(filament titer)を有する。これを用いると、確かにたいていの場合要求される通気性及び強度は達成されが、しかしながらこれらの織布はしばしば折畳み性及び柔軟性に関しては満足されない。
【0006】
前記の糸の場合には、織布製造において経糸に使用する場合には殆ど常にサイジングして、まれな場合よりをかけて使用された。緯糸の場合には、しばしばサイジングされていないかつよられていない糸が使用されたが、しかしより糸も緯糸に使用された。
【0007】
よりもまたサイジングも、糸、ひいては織布の製造コストを高める。さらに、サイズは織布製造後に再び除去されねばならず、従って織布は糊抜きされねばならない。この工程は経済的かつ生態学的見地から問題を有する。それというのも、糊抜きのためにコストがかかるだけでなく、さらに生態学的理由から必須要件となる糊抜き浴の処理のために付加的なコストがかかるからである。
【0008】
ほぼサイジングと同程度のコストを必要とするよりにおいては、確かに糊抜きコストはかからないが、しかしこの場合別の欠点が生じる。それというのも、より糸は経験的に無より糸におけるよりも"ざらざら"の表面を生じるからである。さらに、より糸を使用する際には、通気性の特殊な値を調整することが一層困難になる。
【0009】
折畳み性及び柔軟性の改良は、個々のフィラメントの小さい繊度を有する糸を使用することにより達成することができる。このような糸は、既にエアバック用織布の製造のために提案された。
【0010】
欧州特許出願公開第442373号明細書には、エアバック用織布を製造するために糸繊度250〜550dtex及びフィラメント繊度<4dtexを有するポリエステルフィラメント糸が記載された。該糸は、少なくとも経糸においては、伸び率110〜130T/mを有するものを使用すべきである。この場合には、より糸を使用することによる前記の欠点が生じる。
【0011】
特開平4−209864号公報には、エアバック用織布のために糸繊度210〜750den(235〜840dtex)及びフィラメント繊度<5den(5.5dtex)を有するフィラメント糸が推奨されている。該糸はよらずに使用することができるが、しかしまた伸び率<200T/mを有する経糸のためにより糸が提案されている。より糸を使用する際には、前記の欠点が生じる。無より糸を経糸に使用する場合には、該無より糸をサイジングせずに織機で満足に高い織布密度で加工することは殆ど不可能である。
【0012】
特開平5−93340号公報には、エアバック用織布のために繊度<2den(2.2dtex)を有する極端に微細な個々のフィラメントを使用することが記載されている。この場合には、尤も実地においては殆ど不可能であるが、この糸をサイジングせずに使用すべきかどうかは確認できない。
【0013】
特開平6−41844号公報に、糸繊度70〜840den(80〜940dtex)でフィラメント繊度1〜6den(1.1〜6.7dtex)を有する糸が提案されている。該公報には、該糸はサイジングして使用すべきか又はサイジングせずに使用すべきかは記載されていない。
【0014】
微細フィラメント糸の改良は、特に経糸においては、製織工業において周知であるように、粗いフィラメント糸の製織よりも著しく困難である。それというのも、微細フィラメント糸の場合には、フィラメントの破断、ひいては織機の停止並びに織布内の欠陥を生じることのあるいわゆる毛羽立ちが発生する危険が明らかに大きいからである。従って、まさに微細フィラメント糸においては従来、織機での問題のない加工を保証するために、十分に大量のサイズを塗被することが、特に重要であった。
【0015】
化学繊維の加工の実地においては、個々のフィラメントの交絡(intermingling)をサイジングの代わりに使用することが公知である。
【0016】
交絡した糸(intermingled yarn)をエアバック用織布に加工することは公知である。このことはカナダ国特許第974745号明細書に記載されている。この明細書の実施例から明らかなように、交絡した糸を、高いフィラメント繊度(6.7dtex)を有する糸に使用することが推奨されている。さらに、該糸をいかなる交絡度で使用すべきか及び交絡点はいかなる安定性を有するべきかは明記されていない。
【0017】
特開平6−306728号公報には、フィラメント繊度3.3dtex未満を有する交絡したマルチフィラメントヤーンからなるエアバック用織布が記載されている。該糸の交絡度は、1m当たり少なくとも20であり、このことは平均開口長さ5cmを意味する。この公報からは、製織工業において問題のない加工を保証するためには、交絡点はいかなる安定性を有するべきかは教示されていない。
【0018】
また、衣服分野の織布の製造のために、交絡した糸を使用することがしばしば記載された。このための例はドイツ国特許出願公開第4327371号明細書であり、該明細書には、織機で適合した張力で、糸の交絡点の開口傾向の少ない交絡した糸を加工することが記載されている。
【0019】
それによれば、従来技術水準から、サイジングせずに満足に工業用織布、特にエアバック用織布に加工することができる微細フィラメント糸を提供するためにはいかなる処理工程にかけるべきかは想到され得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】欧州特許出願公開第442373号明細書
【特許文献2】特開平4−209864号公報
【特許文献3】特開平5−93340号公報
【特許文献4】特開平6−41844号公報
【特許文献5】カナダ国特許第974745号明細書
【特許文献6】特開平6−306728号公報
【特許文献7】ドイツ国特許出願公開第4327371号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の課題は、一方では廉価に要求される織布特性に不利な影響を及ぼすことなく織布に加工することができかつさらにそれから製造された織布がなお特に折畳み性及び柔軟性に関して従来主に使用されたエアバック用織布に対して改良された、被覆されていないエアバック用織布を製造するために好適な糸を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題は、驚異的にも、請求項1記載の交絡したフィラメント糸を使用すれば特に有利に解決することができることが判明した。この手段で、廉価にかつ製織工程において問題なく、所望の通気性の調整が問題なく行われる、柔らかいかつ良好に折畳み可能なエアバック用織布を製造することが可能である。
【0023】
エアバックは、一般に接触部分とフィルタ部分とからなる、このことはたいていの場合には異なった通気性を有する織布を縫製することにより実現される。その他に、異なった通気性を有する織布部分を有する一体に製織されたエアバック並びにエアバック背面側に空気流出孔を有する織布部分からなるエアバックも存在する。
【0024】
エアバックの接触部分は、それに向かってエアバック機能がリリースした際ゼネレータから発生されたガスが流れる部分である。この部分は、自動車乗客に隣接する。このために一般に<20l/dm2・min、有利には<10l/dm2・min(試験差圧500Paで測定)の通気性が要求される。
【0025】
事故の場合自動車乗客のソフトなタッチを保証するためには、エアバック内に流入するガスには部分的飛散可能性が与えられるべきである。このことは背面側のフィルタ部分により又は同乗者用エアバックにおいてはエアバックの側面部分により達成される。フィルタ部分のためには、その都度の自動車タイプにおいて、20〜100l/dm2・min(試験差圧500Paで測定)の通気性を必要とする。エアバックのこの部分はさらに、ゼネレータガスからの熱い粒子を抑留する、従ってガスが自動車室内に流出する前に濾過する課題を有する。
【0026】
エアバックのためには優先的にポリアミド糸が使用され、この場合特に優先的にポリアミド6.6、ポリアミド4.6及びポリアミド6が使用される。しかしまた、ポリエステル繊維のような別の繊維類もエアバック用織布の製造のために使用される。しかしながら、本発明は特定の繊維に制限するものではなく、あらゆる合成フィラメント糸を包含し、それらのうちでもポリアミド繊維及びポリエステルが有利でありかつ特にポリアミド6.6、ポリアミド4.6及びポリアミド6繊維が特に有利である。
【0027】
本発明よる糸は、糸繊度100〜1000dtex、有利には200〜500dtexを有する。この糸のフィラメント繊度は5dtex以下である、従って5dtexよりも高くない。有利には2.4〜5dtex、特に有利には3.4〜5dtexである。低いフィラメント繊度は、特にエアバック用織布の折畳み性のために重要である。使用可能な糸タイプの例は、フィラメント繊度3.26dtexを有する235f72、フィラメント繊度2.43を有する350f144、フィラメント繊度3.26dtexを有する470f144、フィラメント繊度5.0dtexを有する700f140、フィラメント繊度4.86dtexを有する700f144、フィラメント繊度3.33dtexを有する700f210及びフィラメント繊度3.36dtexを有する940f280である。ここに挙げた糸タイプは、例として理解されるべきであり、制限するものではない。
【0028】
エアバック用織布を製造するために好適なポリアミド糸は、強度約60cN/tex、有利には60cN/tex以上、及び伸び率15〜30%を有する。エアバック用織布を製造するためにポリエステル糸を使用する際には、該強度は同様に約60cN/tex、有利には60cN/tex以上、及び伸び率は10〜25%である。
【0029】
収縮率は、エアバックの接触織布とフィルタ織布の間で異なるべきである。例えば、フィルタ織布に加工すべきポリアミド糸のためには、熱気収縮率1〜4%(190℃で測定)が必要である。それに対して、接触織布に加工すべきポリアミド糸のためには、熱気収縮率5〜9%(190℃で測定)が必要である。
【0030】
ポリエステル糸を使用する際には、フィルタ織布のための熱気収縮率は1〜4%(190℃で測定)及び接触織布のための熱気収縮率は5〜10%(190℃で測定)である。
【0031】
本発明による糸の製造は、化学繊維工業で常用の方法に基づき行う。ポリアミド又はポリエステルからなるフィラメント糸の紡糸のためには、一般に溶融防止法を使用する。所望の繊度の調整は、公知方法に基づき、特に紡糸ノズルの通過量の制御により行う。
【0032】
交絡も化学繊維工業においてしばしば実施される方法である。このためには交絡もしくはインターミンゲルンのような名称が一般的である。平均開口長さは、交絡ノズルの形状、交絡ノズルに挿入する際の張力及び速度並びに封入される空気量の正確な相互調和により制御される。交絡のためのこの処理条件は、糸繊度及び糸に塗被される製剤に依存し、ひいてはこれらのパラメータに合わせねばならない。所望の平均的開口長さの調整は、一般に、実際の運転経験から出発して、オリエンティールング前実験により行われる。
【0033】
本発明による糸においては、特定の平均開口長さ2〜10cm、有利には2〜6cmを維持することが重要である。平均開口長さ6〜9cmの範囲内の糸を用いると、良好な加工結果を達成することも可能である。より大きな平均開口長さは、織機での満足な加工特性を生じない。それというのも、これらは十分な糸緻密性を可能とせず、従って破断し易い微細な個々のフィラメントの糸束への満足な結合を可能にしないからである。例えば経糸のフィラメント破断は一般に次の交絡点まで移行するに過ぎずかつこの交絡点をもってヘッデルは織機上を走行することになる。次の交絡点が遠ければ、破断したフィラメントの比較的大きな長さが生じ、該長さは押され、最後にはスラブを生じ、それによりヘッドルはもはや通過できなくなり、ひいては場合により糸破断が生じる。同時にまた、破断したフィラメントが経糸内の隣接した糸により取り込まれかつこの糸内で並びにまた該フィラメントが由来する糸において前記の欠陥が開始する、即ち隣接した糸の破断がヘッドルの通過妨害のために生じる可能性もある。これらのいわゆる"感応的(sympathetic)"破断は、製織業者に"スキップ(skips)"の名称で知られている織布における欠陥を生じることがある。
【0034】
同様に、大きすぎる平均開口長さは、緯糸においても不利な影響を及ぼすことがある。一般に製織業界では"ミッシング・フィラメント(missing filaments)"と称される、フィラメント束から突出した個々のフィラメントは、例えばレピア織機で処理する場合、グリッパによって把持されず、毛羽立ち、ひいてはスラブを生じる。
【0035】
請求項に記載の範囲内にある平均開口長さは、実地においては問題を惹起することなく実現することはできない。さらに、請求項に記載の下限を下回ると、場合より糸強度及び/又は糸伸び率の低下が生じることがある。さらに、これらの小さい平均開口長さではいわゆる"ざらざら"の織布が得られ、それにより場合により織布の通気性は好ましくな増大する。
【0036】
平均開口長さとは、糸における交絡点の平均距離であると解されるべきである。交絡点(一般に交絡ノブとも称される)は、長さを測定する際その開始時に信号が放出される糸における交絡位置であると解されるべきである。糸におけるフィラメントの交差により予め形成される前記交絡点は、測定針が一定の交絡度に相応して一定の抵抗を受ける場合に、1つの信号を発生する。
【0037】
開口長さを測定するためには、化学繊維及び繊維工業において種々の測定法が公知である、その結果は常に互いに比較可能であるのではない。ここに記載する値は、専ら"Rothschild type R-2040 automatic yarn-entanglement tester
"で得たものである。
【0038】
この装置を用いて測定する際には、試験すべき糸を2つのヒステレシスブレーキの間に、本来の測定区間の始点における糸張力が1.8cN/texであるように張設する。引き込み後に、2つの糸ガイドによって掴みかつ拡開し,測定針を糸に突き通す。調節可能なピーク張力、いわゆるトリップレベル(trip level)が達成された後に信号がリリースされ、その間に走行する糸長を電子計測リレーで測定しかつ記憶ユニットに記録する。その後、該糸を自動的にさらに引っ張りかつこの測定サイクルを繰り返す。容易に再現可能な値を得るためには、開口長さを決定するために200回の個別測定を行い、それから平均値を求める。
【0039】
交絡した微細フィラメント糸をエアバック用織布に加工するためにもう1つの重要なパラメータは、しばしば交絡ノブ強度(intermingled node strength)とも称される、交絡点の安定性である。これは交絡点の織機に不可避的に存在する引張り負荷に対する安定性を意味すると解されるべきである。低い交絡点安定性は、糸が引張り負荷を受ける際交絡工程で先に形成されたフィラメント交差の解離を惹起し、それにより交絡の目的である、糸の緻密性及び糸束における単フィラメントの良好な結合の効果が完全にないしは部分的に失われる。
【0040】
交絡点安定性は、交絡長さ測定と同じ測定原理に基づき行う。このためには、同様に"Rothschild type R-2040 automatic yarn-entanglement tester"を使用する。
【0041】
交絡点の安定性を測定するためには、一般的開口長さの測定に相応する、トリップレベル20cNと、トリップレベル80cNを使用する。この場合、開口長さのための2つの測定値が得られ、その際一般にはトリップレベル80cNの値はトリップレベル20cNの値よりも大きい。これらの2つの測定値から、以下の方程式:
【数1】

に基づいて交絡点の安定性に関する係数K1を計算する。
【0042】
しかし、加工特性において重要なことは、織機で特に経糸において不可避である、引張り力負荷を受けている最中又はその後での交絡点の安定性である。この理由から、フィラメント糸の所望の加工特性を判定するためには、この張力を考慮することが必要である。
【0043】
この目的のために、既に言及した測定原理に基づき2つの開口長さ測定を行う。一方では、出発測定としてトリップレベル80cNでの開口長さ測定を行う。他方では、0.32cN/dtexの一定の張力で糸の巻戻しを行う。巻戻し後に、トリップレベル80cNでのもう1回の開口長さ測定を行う。トリップレベル80cNで測定した出発値と、巻戻し後に同様にトリップレベル80cNで測定した値から、次いで以下の方程式:
【数2】

に基づき交絡点の安定に関する係数K2を計算する。
【0044】
両者の係数の共通の評価から、エアバック用織布を製造するための交絡糸を製造するための実地に合った判断を導き出すことができる。実験により、0.6以上、有利には0.6〜0.9の係数K1並びに0.3、有利には0.3〜0.9であるべきである係数K2を有する微細繊度の糸は2〜10cmの平均開口長さで織機での問題のない織布製造だけでなく、エアバック用織布に対する要求を完全に満たす織布を生じることが判明した。
【0045】
既に言及したように、2cmの平均開口長さを下回ると強度又は伸び率低下の危険が生じる。前記の両者のパラメータも場合により低下することがある。これらの糸強度及び/又は糸伸び率の低下は、また実験により判明したようにかつまた実施例から明らかなように、2〜10cmの開口長さの請求項に記載の範囲内でも生じることがある。しかし、機能性、特にエアバック用織布の機能性に関しては、糸強度もまた糸伸び率も前記の範囲内にあるべきであるので、この観点に本発明による糸を製造する際には特に留意すべきである。
【0046】
従って、エアバック用織布又はその他の工業用織布の製造のために特定された糸の判定には、もう1つの係数K3を採用するのが好ましいと見なされる。この係数K3は、交絡点の安定性に関する係数K2、糸強度及び糸伸び率から以下の方程式:
K3=K2・Rh・e
に基づき計算される。この場合、
K2=前記の方法に基づき測定しかつ計算した、張力をかけて巻戻した後の交絡点の安定性係数
Rh=糸の強度cN/tex
e=糸の伸び率%
である。
【0047】
ここに挙げたこれらの3つの全ての係数は、なお実施例で説明するように、平均開口長さとは無関係に交絡ノズルの形状により影響を及ぼすことができる。
【0048】
該係数K3は、400を下回るべきでない、600以上の値が有利である。
【0049】
本発明による糸は種々の織り方で織布に加工することができる。平織が有利であるが、斜子織、斜文織、うね織のような別の織り方も使用可能である。
【0050】
織布の経糸方向及び緯糸方向で同じ強度を達成するために、織布の製造は有利には対称的織布調整で、即ち経糸と緯糸において同じ及び殆ど同じ糸数で行うのが有利である。使用すべき糸数は選択された糸繊度及び所望の織布密度により左右される。接触織布のための糸数の例は、以下の通りである:
【表1】

【0051】
エアバック用織布のためのフィルタ織布を製造する際には、一般により少ない糸数で作業する。この場合には、糸数はフィルタ織布の所望の通気性に合わせるべきである。フィルタ織物を製造するためのもう1つの可能性は、織り方の変更である。
【0052】
高いフィラメント繊度(例えば5dtex以上)を有する糸と比較すると、該糸数は、同じ糸繊度で、本発明による糸を使用する場合には、約1/cmだけ少ない。この少ない材料使用で、本発明による糸を用いると廉価に所望の織布密度もしくは所望の通気性の織布を製造することができる。
【0053】
本発明による糸の利点は、例えば235dtexの低い糸繊度でなお一層明白になる。この場合にはその上、同じ糸繊度、但し高いフィラメント繊度(例えば5dtex以上)の糸に比較して1cm当たり2本少ない糸数で作業することが可能である。従ってこの場合には、例えば470dtexの糸繊度を有する糸におけるよりも、材料倹約及びコスト上の利点が一層明白になる。
【0054】
ここに例として挙げた数は、平織に関して当てはまる。
【0055】
ポリアミド糸からなる織布は、必要な通気性を調整するために湿式処理することができる。この際に、織布の収縮開始及び十分な孔閉塞が起こり、それにより通気性が調整される。このために適当な方法は、欧州特許出願公開第436950号明細書に記載されている。引き続いての乾燥の際に、製造されたエアバック用織布の良好な耐老化性のために特殊な処理工程に留意すべきである。このことは欧州特許出願公開第523546号明細書に記載されている。
【0056】
ポリエステル繊維からなる織布は、湿式処理を通過させる必要はない。該織布は織布製造直後に熱固定処理を行うことができる。適当な方法は、欧州特許出願公開第523546号明細書に記載されている。
【0057】
更に、高密度で製造された織布をいわゆるルーム・ステート(loom state)でエアバック用織布の製造のために使用することも可能である。しかしながら、使用される糸はたいてい製造時から潤滑剤が施されているので、この潤滑剤を除去することが推奨される。それというのも、該潤滑剤は例えば自動車のステアリングホイール内での長期間の貯蔵の際に、微生物発生のための培養基になり得るからである。
【0058】
本発明による糸を用いると、特に有利に工業用織布、特にエアバック用織布を製造することができる。廉価な条件下で織布を製造することができるという可能性の他に、本発明による糸の利点は、それを用いて例えばエアバック用織布に課せられる全ての要求を特に有利に満足する織布が得られることにある。
【実施例】
【0059】
例1
糸繊度470dtex及びフィラメント数144(これからフィラメント繊度3.3dtexが生じる)を有するポリアミド6.6−フィラメント糸を、種々の交絡ノズルを用いて交絡実験した。出発糸は強度66.9cN/tex及び伸び率20.1を有していた。
【0060】
以下に符号a〜dを付したノズルを備えた4種類の交絡ノズルは、以下の寸法を有していた:
a.該ノズルは、糸通路直径3.5mm及び長さ35mmを有していた。ブローイング通路の直径は2.0mm、挿入スリットの幅は0.2mmであった。
【0061】
b.寸法はノズルaと同じであったが、該ノズルはノズルの前後の付加的な糸ガイドを有する点で異なっていた。
【0062】
c.該ノズルは、糸通路直径3.5mm及び長さ36mmを有していた。ブローイング通路の直径は2.3mm、挿入スリットの幅は0.35mmであった。
【0063】
d.該ノズルは、通路全長にわたり横断面が変化する二等辺三角形の形に糸通路を有していた。ブローイング通路の直径は1.7mm、糸通路の長さは32mmであった。挿入スリットの幅は0.2mmであった。
【0064】
これらのノズルを用いた交絡実験で得られた結果は、次の表にまとめられている:
【表2】

【0065】
実施例2
実験1を繰り返したが、但しこの場合には尤も糸繊度350dtex及びフィラメント数144(これからフィラメント繊度2.4が生じる)を有するポリアミド6.6−フィラメント糸を使用した。再び、交絡を実施例1に記載した実験ノズルa〜dで行った。出発糸は強度66.5cN/tex及び伸び率20.3%を有していた。
【0066】
これらの実験で得られた結果は、次の表にまとめられている:
【表3】

【0067】
実施例3
実験1をさらに繰り返したが、但しこの場合には糸繊度700dtex及びフィラメント数140(これからフィラメント繊度5.0が生じる)を有するポリアミド6.6−フィラメント糸を使用した。再び、交絡を実施例1に記載した実験ノズルa〜dで行った。出発糸は強度68.2cN/tex及び伸び率19.8%を有していた。
【0068】
これらの実験で得られた結果は、次の表にまとめられている:
【表4】

【0069】
実施例4
実験1をさらに繰り返したが、但しこの場合には実施例3で使用したと同じ繊度(700f140)を有するポリエステル糸を使用した。従ってこの場合も、フィラメント繊度は5.0dtexであった。再び、交絡を実施例1に記載した実験ノズルa〜dで行った。出発糸は強度69.7cN/tex及び伸び率17.8%を有していた。
【0070】
これらの実験で得られた結果は、次の表にまとめられている:
【表5】

【0071】
実施した実験から明らかなように、本発明による糸を製造する際の交絡ノズルの選択は決定的に重要である。ノズル形状は、交絡点の安定性係数に著しく影響を及ぼす。このことはK1値には僅かに、但しK2値には著しく顕著に現れる。0.3以上の所望のK2値は、確かに使用した全てのノズルで達成されるが、しかし実験ノズルc及びdでは実験a及びbにおける程明らかには上回らない。
【0072】
K3値をベースとする判定を行えば、従って、交絡の際に場合により生じる強度及び伸び率の低下を判定のために共に採用すれば、実験ノズル間の差異は一層明確になる。この場合、400以上の所望の値は確かにそれぞれ上回ったが、しかし600以上の有利な範囲は如何なる場合も達成しなかった。この場合も、実験ノズルa及びbが実験ノズルc及びdよりも好ましい値を提供することが明らかである。両者のノズル対の範囲内でも差異が認められる。ノズルbはノズルaよも良好な値を示しかつノズルcはノズルdよりも良好な値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸繊度100〜1000dtexを有するサイジングしてない交絡した合成フィラメント糸において、糸の個々のフィラメントが繊度5dtex以上を有していず、糸が開口長さ2〜10cmを有し、糸の交絡点の安定性に関する係数K1が0.6以上でありかつ糸の交絡点の安定性に関する係数K2が0.3以上であることを特徴とする、サイジングしてない交絡した合成フィラメント糸。
【請求項2】
糸強度、糸伸び率及び安定係数K2から算出された係数K3が400以上ある、請求項1記載の合成フィラメント糸。
【請求項3】
糸がポリアミドフィラメント又はポリエステルフィラメントからなる、請求項1又は2記載の合成フィラメント糸。
【請求項4】
糸がポリアミド6.6−フィラメント、ポリアミド4.6−フィラメント又はポリアミド6−フィラメントからなる、請求項1記載の合成フィラメント糸。
【請求項5】
糸繊度100〜1000dtexを有する交絡した合成フィラメント糸からなる工業織布において、該糸の個々のフィラメント繊度が5dtex以上でなく、かつ糸が製織前に平均開口長さが2〜10cm、糸の交絡点の安定性に関する係数K1が0.6以上及び糸の交絡点の安定性に関する係数K2が0.3以上であることを特徴とする、工業用織布。
【請求項6】
糸繊度100〜1000dtexを有する交絡した合成フィラメント糸からなるエアバック用織布において、該糸の個々のフィラメント繊度が5dtex以上でなく、かつ糸が製織前に平均開口長さが2〜10cm、糸の交絡点の安定性に関する係数K1が0.6以上及び糸の交絡点の安定性に関する係数K2が0.3以上であることを特徴とする、エアバック用織布。

【公開番号】特開2010−106429(P2010−106429A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287601(P2009−287601)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願平8−100439の分割
【原出願日】平成8年4月22日(1996.4.22)
【出願人】(501314190)ポリアマイド ハイ パフォーマンス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】Polyamide High Performance GmbH
【住所又は居所原語表記】Kasinostrasse 19−21,D−42103 Wuppertal,Germany
【Fターム(参考)】