説明

サイトカイン産生抑制剤

【課題】種々の疾患の発症や進展に関与するサイトカイン、特にIL-1、IL-6、TNF-αおよびIFN-γの過剰産生を抑制する薬剤を提供すること。サイトカインの過剰産生を抑制することによって、当該サイトカインの過剰産生に関連して生じる疾患を予防または治療するために有効に利用することができる薬剤を提供すること。
【解決手段】サイトカイン産生抑制剤の有効成分として、ニフェジピンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカイン産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞から産生され、糖タンパクから構成される生理活性物質の総称であり、具体的にはインターロイキン(以下、「IL」という)-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-8、IL-12、TGF-β、bFGF、VEGF、GM-CSF、TNF-α、およびインターフェロン(以下、「IFN」という)などが知られている。
【0003】
サイトカインは、産生された局所においてその作用を発揮することが多く、本来生体の恒常性の維持に不可欠なものであるが、炎症などの病態でこのバランスが破綻すると、サイトカインが過剰に産生され、その結果、各種疾患の発症や進展をもたらすことが知られている。
【0004】
例えば、IL-1の生理作用としては、サイトカイン産生亢進作用、線維芽細胞,滑膜細胞および血管内皮細胞の増殖作用、細胞異化作用、活性化B細胞の分化作用、NK活性の増強作用、および好中球接着作用などが知られているが、その一方、IL-1(IL-1α、IL-1β共通)の過剰産生は、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応の原因となることが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
またIL-6は、B細胞の抗体産生細胞への分化に関与するサイトカインとして知られているが、B細胞の抗体産生に関与するだけでなく、T細胞の増殖分化を誘導する作用、肝細胞に作用して急性期の蛋白合成を誘導する作用、また造血系細胞に対して多分化能コロニー形成を促進する作用など、免疫系だけでなく、造血系、神経系および肝臓などの生体防御系において重要な因子である。しかしIL-6の過剰産生は、粘液腫、キャッスルマン病、慢性関節リウマチ、関節炎、自己免疫病、糸球体腎炎、糖尿病、肺結核、クローン病、サルコイドーシス、らい病、動脈炎、多発性骨髄腫、乾癬、およびカポジ肉腫の原因となることが知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
TNF(Tumor Necrosis Factor:腫瘍壊死因子)-αは、抗腫瘍性のサイトカインとして発見されたが、その後、悪液質誘発因子であるカケクチンと同一であることが判明し、IL-1等の他のサイトカインの産生刺激作用、線維芽細胞に対する増殖作用、エンドトキシンショック誘発作用、内皮細胞の白血球接着蛋白であるICAM(Intercellular adhesion molecules)-1、ICAM-2、ELAM(Endothelial Leukocyte adhesion molecule-1)等を増加させて白血球が内皮細胞に付着するのを促進する作用、骨吸収作用や軟骨破壊作用などの関節炎の成因作用などが報告されている(非特許文献2〜6等参照)。かかるTNF-αの過剰産生は、敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシーの原因となることが知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
またIFN(インターフェロン)にも多くの生理作用があることが知られているが、TNF-αの過剰産生は、移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓の原因となることが知られている(非特許文献1および非特許文献7参照)。
【0008】
このようにサイトカインの異常産生などにより各種のサイトカインが過剰になった場合には、種々の疾患の原因となり得ることが知られており、サイトカインの異常な産生を抑制してかかる各種の疾患を予防乃至治療することが求められている。
【0009】
ところで、ニフェジピンは、カルシウム拮抗薬として知られ、その平滑筋弛緩作用から高血圧症(本態性および腎性)や狭心症の治療薬として広く使用されている(非特許文献8等参照)。
【0010】
カルシウム拮抗薬には、ニフェジピンのほか、アムロジピン、ジルチアゼムおよびベラパシル等が知られているが、これらは血管平滑筋細胞においてIL-6の遺伝子を活性化することが報告されており(非特許文献9参照)、サイトカイン産生を抑制する作用については知られていない。また、カルシウム拮抗薬の中には、Tリンパ球(非特許文献10〜11)、マスト細胞(非特許文献12)、マクロファージ(非特許文献13〜14)の活性化を抑制し、また遅延型アレルギー反応を抑制する作用を有するものがあること(非特許文献15)が報告されている。しかし、Tリンパ球活性化によるサイトカイン産生を抑制する作用については知られていない。
【非特許文献1】The cytokine handbook, ed by Thomson AW, Lotze MT, Elsevier出版、2003
【非特許文献2】Beutler,B., et al., Nature, 316, 552-554(1985)
【非特許文献3】Peetre,C., et al., J.Clin.Invest., 78, 1694-1700(1986)
【非特許文献4】Kurt-Jones,E.A., et al., J.Immunol., 139, 2317-2324(1987)
【非特許文献5】Bevilacqua,M.P., et al., Science, 241, 1160-1165(1989)
【非特許文献6】Akatu,K. & Suda,T., Medical Practice, 8 (9) 1393-1396(1991)
【非特許文献7】Yilmaz G et al., Circulation 113, 2105-2112, 2006
【非特許文献8】「今日の治療薬2005」解説と便覧、p.380、p.403、編集:水島裕、南光堂
【非特許文献9】Eickelberg O et al., Circulation, 99, 2276-2282 (1999)
【非特許文献10】Bacon KB et al., Biochem Biophys Res Comm, 165, 349-354 (1989)
【非特許文献11】Tanizaki Y., et al, Int Arch Allergy Appl Immunol, 72, 102-109 (1983)
【非特許文献12】Wright B et al., Cell Immunol, 95, 46-53 (1985)
【非特許文献13】Shen H et al., Immunopharmacol Immunotoxicol, 17,301-309 (1995)
【非特許文献14】Kotoh N et al., Clin Exp Immunol, 108, 302-308 (1997)
【非特許文献15】臨床免疫、Vol.27、[suppl.16] 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、種々の疾患の発症や進展に関与するサイトカインの過剰産生を抑制する薬剤を提供することを目的とする。さらに本発明はサイトカインの過剰産生を抑制することによって、サイトカインの過剰産生に関連して生じる疾患を予防または治療するために有効に利用することができる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
病変部におけるサイトカイン産生細胞として、病態の進展または治癒に最も寄与する細胞としてマクロファージがある。マクロファージが産生するサイトカインのうち、特にIL-1、IL-6、TNF-αは各種慢性疾患の病態に深く関わっていることがわかってきている(非特許文献15等参照)。
【0013】
本発明者はマクロファージやリンパ球などの白血球におけるこれらのサイトカインの過剰産生を抑制する作用を有する薬剤が、当該サイトカインの過剰産生に起因する疾患の予防または治療に有効に使用できると考え、鋭意研究を重ねたところ、意外にもカルシウム拮抗薬でありニフェジピンが、上記サイトカインの過剰産生に対して抑制作用を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明はニフェジピンを有効成分とするサイトカイン産生抑制剤である。さらに本発明は、サイトカインの過剰産生に関連して生じる疾患の予防または治療のために用いられる、ニフェジピンを有効成分とするサイトカイン産生抑制剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のサイトカイン産生抑制剤はニフェジピン〔1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(2-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸ジメチル〕を有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
ニフェジピンは、下式で示される公知のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であって、公知の方法によって製造することができる(例えば、US-A-3485847、EP-A-0124742、特表2002-506454号公報参照)。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明のサイトカイン産生抑制剤は上記ニフェジピンを、サイトカインの産生を抑制する有効量含有するものであればよく、その限りにおいて他の成分、例えば薬学的に許容される担体や添加剤を含有していてもよい。なお、ここで対象とするサイトカインとしては、好適にはIL-1(IL-1αおよびIL-1βが含まれる)、IL-6、TNF-αおよびIFN-γを挙げることができる。
【0019】
本発明のサイトカイン産生抑制剤は、通常医薬製剤の形態で経口的または非経口的に投与することができ、それらの投与に適した形態〔例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤)、点滴剤など〕をとることができる。
【0020】
当該サイトカイン産生抑制剤に配合できる薬学的に許容される担体としては、上記各種の投与形態に応じて、当業界で通常使用されるものを広く挙げることができる。例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を挙げることができる。また、本発明のサイトカイン産生抑制剤には、必要に応じて安定剤、殺菌剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味料等を配合することもできる。
【0021】
非経口投与形態としては、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射あるいは点滴などを挙げることができる。注射用調剤、例えば無菌注射用の水性懸濁物あるいは油性懸濁物は、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤を用いて当該分野で知られた方法で調製することができる。かかる注射用調剤は、例えば水溶液などの製剤上許容される非経口投与可能な希釈剤あるいは溶剤中の無菌の注射用溶液または懸濁液であってもよい。使用することのできるベヒクルあるいは溶剤としては、水、リンゲル液、等張食塩液などが挙げられる。さらに、通常溶剤または懸濁化溶媒として無菌の不揮発性油または脂肪酸を用いることもできる。かかる不揮発性油および脂肪酸には、天然、合成あるいは半合成の脂肪油または脂肪酸、並びに天然、合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類が含まれる。
【0022】
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましい。注射剤の調製には、希釈剤としてこの分野において慣用されているもの、例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用することができる。なお、この場合等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0023】
直腸投与用の坐剤は、有効成分であるニフェジピンと適当な低刺激性の補形剤、例えばココアバターやポリエチレングリコール類といった常温では固体であるが腸管の温度では液体で、直腸内で融解し、薬物を放出するものなどと混合することによって製造することができる。
【0024】
経口投与用の固形投与剤型としては、上記した錠剤、丸剤、粉末(散剤)、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられる。
【0025】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来よりよく知られている各種のものを広く使用することができる。その例としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を挙げることができる。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができ、また二重錠や多層錠とすることもできる。
【0026】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用することができる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を挙げることができる。
【0027】
カプセル剤は常法に従って、有効成分であるニフェジピンを上記で例示した各種の担体と混合して硬質カプセル基材または軟質カプセル基材等に充填して調製される。
【0028】
本発明のサイトカイン産生抑制剤には、本発明の効果を妨げない限り、更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を製剤中に含有させることもできる。
【0029】
なお、本発明のサイトカイン産生抑制剤は、公知の方法に従ってニフェジピンを有効成分とする徐放性製剤または持続性製剤の形態として調製することもできる(例えば、特公昭59-14446号公報、特公平6-11699号公報、および特開平9-143073号公報など参照)。
【0030】
本発明のサイトカイン産生抑制剤中に含有されるべきニフェジピンの量としては、特に限定されず広範囲から適宜選択されるが、通常サイトカイン産生抑制剤中に約1〜70重量%とするのがよい。
【0031】
本発明のサイトカイン産生抑制剤の投与方法は特に制限はなく、例えば対象とするサイトカインの種類、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の種類やその程度に応じた方法で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には、経口投与される。また注射剤の場合には単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合には直腸内投与される。
【0032】
本発明のサイトカイン産生抑制剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、対象とするサイトカインの種類、疾患の種類やその程度等により適宜選択されるが、通常有効成分であるニフェジピンの量が、1日当り体重1kg当り、約0.1〜10mg程度とするのがよい。
【0033】
本発明のサイトカイン産生抑制剤は、サイトカインの過剰産生に関連して生じる疾患の予防または治療に有効に利用することができる。本発明のサイトカイン産生抑制剤が対象とするサイトカインとしては、IL-1(IL-1α、IL-1βが含まれる)、IL-6、TNF-αおよびIFN-γを挙げることができる。
【0034】
ここで、従来より、IL-1の過剰産生に関連して生じる疾患としては、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応(The cytokine handbook, ed by Thomson AW, Lotze MT, Elsevier出版、2003);IL-6の過剰産生に関連して生じる疾患としては、粘液腫、キャッスルマン病、慢性関節リウマチ、関節炎、自己免疫病、糸球体腎炎、糖尿病、肺結核、クローン病、サルコイドーシス、らい病、動脈炎、多発性骨髄腫、乾癬およびカポジ肉腫(The cytokine handbook, ed by Thomson AW, Lotze MT, Elsevier出版、2003);TNF-αの過剰産生に関連して生じる疾患としては、敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシー(The cytokine handbook, ed by Thomson AW, Lotze MT, Elsevier出版、2003);およびIFN-γの過剰産生に関連して生じる疾患としては、移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓が知られている(The cytokine handbook, ed by Thomson AW, Lotze MT, Elsevier出版、2003;Yilmaz G et al., Circulation 113, 2105-2112, 2006)。
【0035】
従って本発明のサイトカイン産生抑制剤は、これらのサイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αまたはIFN-γ)の過剰産生に関連して生じる上記各種の疾患の予防または治療剤として有用である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を更に詳述するために実施例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
ヒト末梢末白血球(PBMC)におけるコンカナバリン刺激によるサイトカイン産生に対するニフェジピンの効果
ヒト末梢血をフィコールパック(ファルマシア製)にかけて白血球を分離し、これを、10%胎児牛血清を含むRPMI1640培地(ギブコ製)に、ヒト末梢末白血球が1×10個/mlとなるように播種した。当該培地に、コンカナバリンA 5μg/ml、および被験化合物として各種のCa拮抗薬(アムロジピン、ジルテアゼム、ニフェジピンおよびベラパシル)添加して、5%CO2環境下で37℃にて培養した。培養から24時間後に上清を採取し、上清中のIL-1α、IL-1β、IL-6およびIFN-γの量を、サイトカイン測定試薬キット(大塚製薬(株)製)を用いて、ELISA法で測定した。
【0038】
被験化合物として使用したCa拮抗薬(アムロジピン、ジルテアゼム、ニフェジピンおよびベラパシル)はそれぞれDMSOで溶解し、培地中の最終濃度が10または30μMとなるよう調整した。また対照群は同濃度のDMSOを用いた。統計は分散分析を用い、各群比較はPLSD法を用いた。
【0039】
図1〜4に、ヒト末梢末白血球のコンカナバリンA刺激によるIL-1α、IL-1β、IL-6およびIFN-γ産生に対する各種のCa拮抗薬の作用を示す。図1〜4に示すように、IL-1α、IL-6およびIFN-γの産生はニフェジピンによって統計学的有意差をもって抑制され、またIL-1βの産生は、統計学的有意差は得られなかったものの、ニフェジピンによって抑制される傾向が認められた。なお、IL-1αおよびIL-1βの産生は他のCa拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ベラパシル)では抑制されず、ニフェジピンによってのみ抑制された。
【0040】
以上示すように、ヒト末梢末白血球のコンカナバリンA刺激によるIL-1α、IL-1β、IL-6およびIFN-γ産生は、いずれもニフェジピンによって抑制された。コンカナバリンAは、リンパ球を活性化する物質である。よって、上記の結果から、ニフェジピンは、リンパ球が活性化されることによって生じるIL-1α、IL-1β、IL-6またはIFN-γの過剰産生に起因する疾患(好ましくはIL-1α、IL-6またはIFN-γの過剰産生に起因する疾患)、具体的には、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応からなる群から選択されるIL-1の異常産生に起因して生じる疾患;粘液腫、キャッスルマン病、慢性関節リウマチ、関節炎、自己免疫病、糸球体腎炎、糖尿病、肺結核、クローン病、サルコイドーシス、らい病、動脈炎、多発性骨髄腫、乾癬およびカポジ肉腫からなる群から選択されるIL-6の異常産生に起因して生じる疾患;敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシーからなる群から選択されるTNF-αの異常産生に起因して生じる疾患;ならびに移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓からなる群から選択されるINF-γの過剰産生に起因して生じる疾患の予防または治療に有効であると考えられる。
【0041】
実施例2
ヒト末梢末白血球(PBMC)におけるリポ多糖刺激によるサイトカイン産生に対するニフェジピンの効果
コンカナバリンAに代えてリポ多糖を用いる以外は、実施例1と同様にしてヒト末梢末白血球(PBMC)におけるリポ多糖刺激によるサイトカイン産生に対するニフェジピンの効果を調べた。
【0042】
具体的には、実施例1に記載する方法に準じて、Ca拮抗薬(アムロジピン、ジルテアゼム、ニフェジピンまたはベラパシル)の存在下で、リポ多糖 1μg/ml でPBMCを刺激し、上清中のIL-1α、IL-1β、TNFαおよびIFN-γの量をELISA法で測定した。
【0043】
図5〜8に、ヒト末梢末白血球のリポ多糖刺激によるIL-1α、IL-1β、TNFαおよびIFN-γ産生に対する各種のCa拮抗薬の作用を示す。図5〜8に示すように、IL-1β、TNFαおよびIFN-γの産生は、ニフェジピンによって統計学的有意差をもって抑制され、またIL-1αの産生は、統計学的有意差は得られなかったものの、ニフェジピンによって抑制される傾向が認められた。
【0044】
リポ多糖は、グラム陰性菌の細胞膜に含まれる成分であり、このためリポ多糖による刺激は細菌、特にグラム陰性菌の感染状態を模倣するものである。よって、上記の結果から、ニフェジピンは、グラム陰性菌の感染によって生じるIL-1α、IL-1β、TNF-αまたはIFN-γの過剰産生に起因する疾患(好ましくはIL-1β、TNF-αまたはIFN-γの過剰産生に起因する疾患)、具体的には、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応からなる群から選択されるIL-1(IL-1αおよびIL-1β)の異常産生に起因して生じる疾患;敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシーからなる群から選択されるTNF-αの異常産生に起因して生じる疾患;ならびに移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓からなる群から選択されるINF-γの過剰産生に起因して生じる疾患の予防または治療に有効であると考えられる。
【0045】
実施例3
ヒト末梢末白血球(PBMC)におけるウアバイン刺激によるサイトカイン産生に対するニフェジピンの効果
コンカナバリンAに代えてウアバインを用いる以外は、実施例1と同様にしてヒト末梢末白血球(PBMC)におけるウアバイン刺激によるサイトカイン産生に対するニフェジピンの効果を調べた。
【0046】
具体的には、実施例1に記載する方法に準じて、Ca拮抗薬(アムロジピン、ジルテアゼムまたはニフェジピン)の存在下で、ウアバイン 1μMでPBMCを刺激し、上清のIL-1α、IL-1β、TNFαおよびMCP-1の量をELISA法で測定した。
【0047】
図9〜12に、ヒト末梢末白血球のウアバインによるIL-1α、IL-1β、TNFαおよびMCP-1産生に対する各種のCa拮抗薬の作用を示す。図9〜12に示すように、IL-1βの産生はニフェジピンによって統計学的有意差をもって抑制され、またIL-1α、TNFαおよびMCP-1の産生は、統計学的有意差は得られなかったものの、ニフェジピンによって抑制される傾向が認められた。
【0048】
ウアバインは、ジキタリスに含まれる成分であり、このためウアバインによる刺激はジキタリスの作用および中毒を模倣する。よって、上記の結果から、ニフェジピンは、ジキタリスの作用および中毒によって生じるIL-1α、IL-1β、TNF-αまたはMCP-1の過剰産生に起因する疾患(好ましくはIL-1βの過剰産生に起因する疾患)、具体的には、具体的には、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応からなる群から選択されるIL-1(IL-1αおよびIL-1β)の異常産生に起因して生じる疾患;敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシーからなる群から選択されるTNF-αの異常産生に起因して生じる疾患;ならびに移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓からなる群から選択されるIFN-γの過剰産生に起因して生じる疾患の予防または治療に有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】抹消血単核球のコンカナバリンA刺激によるIL-1α産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例1)。
【図2】抹消血単核球のコンカナバリンA刺激によるIL-1β産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例1)。
【図3】抹消血単核球のコンカナバリンA刺激によるIL-6産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例1)。
【図4】抹消血単核球のコンカナバリンA刺激によるIFN-γ産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例1)。
【図5】抹消血単核球のリポ多糖刺激によるIL-1α産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例2)。
【図6】抹消血単核球のリポ多糖刺激によるIL-1β産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例2)。
【図7】抹消血単核球のリポ多糖刺激によるTNF-α産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例2)。
【図8】抹消血単核球のリポ多糖刺激によるIFN-γ産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル)の効果を示す結果である(実施例2)。
【図9】抹消血単核球のウアバイン刺激によるIL-1α産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン)の効果を示す結果である(実施例3)。
【図10】抹消血単核球のウアバイン刺激によるIL-1β産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン)の効果を示す結果である(実施例3)。
【図11】抹消血単核球のウアバイン刺激によるTNFα産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン)の効果を示す結果である(実施例3)。
【図12】抹消血単核球のウアバイン刺激によるMCP-1産生に対するカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ジルチアゼム、ニフェジピン)の効果を示す結果である(実施例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニフェジピンを有効成分とするサイトカイン産生抑制剤。
【請求項2】
サイトカインが、IL-1、IL-6、TNF-αおよびIFN-γからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載のサイトカイン産生抑制剤。
【請求項3】
サイトカイン過剰産生に関連する疾患の予防または治療に用いられる、請求項1または2に記載するサイトカイン産生抑制剤。
【請求項4】
サイトカイン異常産生に起因して生じる疾患が、関節炎、慢性関節リウマチ、ギランバレー症候群、多発性硬化症、乾癬、喘息、肺線維症、動脈硬化、腎炎、腎不全、子宮内膜炎、妊娠中毒症、早産、骨粗髪症、潰瘍性大腸炎、クローン病、糖尿病、食道癌、大腸癌、肝癌、白血病、皮膚癌、リンパ腫および移植拒絶反応からなる群から選択されるIL-1の異常産生に起因して生じる疾患;粘液腫、キャッスルマン病、慢性関節リウマチ、関節炎、自己免疫病、糸球体腎炎、糖尿病、肺結核、クローン病、サルコイドーシス、らい病、動脈炎、多発性骨髄腫、乾癬およびカポジ肉腫からなる群から選択されるIL-6の異常産生に起因して生じる疾患;敗血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫病、糸球体腎炎、ギランバレー症候群、感染性腸炎、全身性エリテマトーデス、糖尿病、慢性関節リウマチ、皮膚炎、重症筋無力症、全身性硬化症、白血病、リンパ腫、癌、ショック、貧血、肥満、脳卒中、移植拒絶反応、肺線維症、甲状腺機能亢進症、喘息およびカヘキシーからなる群から選択されるTNF-αの異常産生に起因して生じる疾患;ならびに移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害および脳血栓からなる群から選択されるIFN-γの過剰産生に起因して生じる疾患のいずれかである、請求項3に記載するサイトカイン産生抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−50270(P2008−50270A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225003(P2006−225003)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(593038974)
【Fターム(参考)】