説明

サイトカイン産生誘導剤

【課題】マスト細胞において免疫賦活化を行い得る新たな免疫賦活剤の提供。
【解決手段】ECGCがマスト細胞におけるサイトカイン産生を誘導することを見出し、ECGCを有効成分とするマスト細胞におけるサイトカイン産生誘導剤と、該サイトカイン産生誘導剤を有効成分とする免疫賦活化剤を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin−3−gallete;EGCG、以下、EGCGと示す)を有効成分とするサイトカイン産生誘導剤に関する。また、サイトカイン産生誘導剤を有効成分とする免疫賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
EGCGは緑茶の主要な成分であるカテキン類のひとつであり、強い抗酸化作用を示し、活性酸素が要因に挙げられるアレルギー、動脈硬化、糖尿病、神経変性疾患、癌等の炎症性疾患の一部において、有効性が認められている。
また、EGCGやこれを含むカテキン類は、免疫賦活化を行うことも知られている。例えば、EGCG投与によりサイトカインシグナル伝達抑制因子を誘導し、B細胞におけるIgE抗体の産出等を抑制し、自己免疫過剰活性を抑制することや、タイプ2ヘルパーT細胞型サイトカインの産生を抑制すること(例えば、特許文献1、2参照)等が開示されている。また、多糖類と併用してマクロファージの細胞増殖や遊走活性を高めることが確認されている(例えば、特許文献3参照)。
このようにEGCGやこれを含むカテキン類のB細胞、T細胞およびマクロファージ機能の賦活化について知られているものの、マスト細胞におけるEGCGやこれを含むカテキン類の作用は知られていなかった。
【0003】
マスト細胞は、細胞表面にIgEレセプターを発現しており、ヒスタミンなどの化学メディエーターが蓄積された顆粒を有する。IgEが結合したIgEレセプターが花粉等の抗原によって架橋されると、細胞外に顆粒を放出し(脱顆粒)、化学メディエーターを分泌する。さらに免疫応答に働く腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor−α、以下、TNF−αと示す)やインターロインキン(Interleukin)等のサイトカインを分泌することで、I型アレルギー反応を引き起こす。
そのため、マスト細胞によるアレルギー反応を抑制するために、脱顆粒を抑制する様々な剤が開発されている(例えば、特許文献4参照)。EGCGを含むカテキン類も、IgEレセプターの発現を抑制する物質として挙げられており(例えば、特許文献5参照)、本発明者らもEGCGがマスト細胞の脱顆粒を別のメカニズムにより抑制することを報告している(例えば、非特許文献1参照)。しかし、EGCGのマスト細胞における免疫賦活化は検討されていなかった。
【0004】
近年の研究から、例えば、T細胞において抑制的機能を持つサブタイプ(Th17細胞)の存在が認められ、既存の免疫賦活剤によるT細胞機能を標的とする免疫賦活化が当初予想されたよりも困難であることが明らかとなってきている。そこで、既存の免疫賦活剤よりも、有効に作用する新たな免疫賦活剤の提供が望まれている。
マスト細胞は近年、自然免疫および適応免疫において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている。特に、マスト細胞は、免疫制御に重要なサイトカインの主要な産生源である。そこで、マスト細胞を標的とする免疫賦活化を行い得る新たな免疫賦活剤の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−159215号公報
【特許文献2】特開2004−75619号公報
【特許文献3】特開平10−279486号公報
【特許文献4】特開2009−102231号公報
【特許文献5】特開2005−336070号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Inoue, T.et al,Free Radical Biology & Medicine 49:632−640,2010
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マスト細胞において免疫賦活化を行い得る新たな免疫賦活剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、EGCGがマスト細胞のサイトカイン産生を誘導し、マスト細胞における免疫賦活化において有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、EGCGのマスト細胞におけるサイトカイン産生の誘導が、マスト細胞の脱顆粒が抑制されたままの状態で起こることを再確認しており、EGCGによってアレルギー反応を引き起こすことなく、マスト細胞におけるサイトカイン産生を誘導でき、免疫賦活化を行うことが可能となった。
【0009】
即ち、本発明は次の(1)〜(4)のサイトカイン産生誘導剤および免疫賦活剤に関する。
(1)エピガロカテキンガレートを有効成分とするマスト細胞におけるサイトカイン産生誘導剤。
(2)サイトカインがTNF−αまたはIL−13である上記(1)に記載のサイトカイン産生誘導剤。
(3)エピガロカテキンガレートを11〜91μg/mlとなるように含む上記(1)または(2)に記載のサイトカイン産生誘導剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のサイトカイン産生誘導剤を有効成分とする免疫賦活剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によってマスト細胞において免疫賦活化を行い得る新たな免疫賦活剤の提供が可能となった。本発明によって得られた免疫賦活剤は、食品として摂取されているEGCGを有効成分としており、安全に摂取できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サイトカイン産生誘導剤、比較剤および抗原によるマスト細胞におけるサイトカイン産生や脱顆粒の程度を示した図である(試験例)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の「サイトカイン産生誘導剤」には、EGCGを有効成分とし、マスト細胞におけるサイトカイン産生を誘導する剤であればいずれのものも含まれる。
EGCGは、薬や食品等として摂取できるものであれば、いずれの物であっても良く、市販されているEGCG、緑茶等から独自に抽出したEGCGを含む組成物や該組成物から精製したEGCG等を用いても良い。
本発明の「サイトカイン産生誘導剤」は、有効成分となるEGCGのみを含有するものであってもよく、有効成分となるEGCGの作用を維持できる成分であれば、薬学的に許容されるその他の成分や、食品成分として許容されるその他の成分を含有するものであっても良い。本発明の「サイトカイン産生誘導剤」は、溶液状、固体状、ゲル状やゾル状等が挙げられるが、形態は特に問わない。
本発明の「サイトカイン産生誘導剤」には、EGCGが11〜91μg/ml(25〜200μM)含まれていることが好ましく、特に22〜46μg/ml(50〜100μM)含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明の「サイトカイン産生誘導剤」によって、産生が誘導されるサイトカインとしては、マスト細胞において産生が誘導されるものであればいずれのサイトカインであっても良い。例えば、TNF−αやインターロイキン−13(以下、IL−13と示す)等が挙げられる。
【0014】
本発明の「免疫賦活剤」とは、マスト細胞におけるサイトカイン産生を誘導することにより、ヒト等の哺乳類において、免疫が賦活化できる剤のことをいう。本発明のサイトカイン産生誘導剤を有効成分とするものであればいずれのものも含まれる。
本発明の「免疫賦活剤」は、有効成分となるサイトカイン産生誘導剤のみを含有するものであってもよく、有効成分となるサイトカイン産生誘導剤の作用を維持できる成分であれば、薬学的に許容されるその他の成分や、食品成分として許容されるその他の成分を含有するものであっても良い。本発明の「免疫賦活剤」は、溶液状、固体状、ゲル状やゾル状等が挙げられるが、形態は特に問わない。
【0015】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
<サイトカイン産生誘導剤>
EGCG(クリタ工業社)10mgをPBS 2.18mlに溶解し、−20℃に保存した。使用する段階で、これをHank’s balanced salt solution(以下、HBSSと示す)(pH7.4)で希釈し、サイトカイン産生誘導剤とした。
【0017】
[試験例]
実施例1で調製したサイトカイン産生誘導剤と、比較としてエピカテキン(Epi−catechin;EC、以下、ECと示す)を用い、マスト細胞におけるサイトカイン産生の誘導を調べた。
【0018】
<試料>
1.試薬
1)サイトカイン産生誘導剤
EGCGが50μM、100μMまたは200μM含まれるように希釈した実施例1で調製したサイトカイン産生誘導剤を用いた。
2)比較剤
EC(クリタ工業社)10mgをPBS 3.44mlに溶解し、−20℃に保存した。使用する段階で、これをHBSS(pH7.4)でECが100μMまたは200μM含まれるよう希釈したものを比較剤として用いた。
【0019】
2.マスト細胞
1)RBL−2H3細胞
ラット由来の白血病細胞株で粘膜型マスト細胞のモデルであるRBL−2H3細胞(国立基盤研究所・生物資源研究部・生物資源情報より譲受、細胞番号:JCRB0023)を、10%FBS(JRH Biosciences社)を添加したDMEM培地(Sigma−Aldrich社)で、5%CO2含有空気中で培養した。
1mM EDTAと0.25%トリプシンを含むHBSSを加え、37℃で5分間インキュベートして採取したRBL−2H3細胞を試験に用いた。
【0020】
2)BMMC(Bone marrow−derived mast cells)
C3HeBFeJおよびC57BL/6マウス(4−8週齢、雌)(日本チャールズリバー社)から、参考文献の記載に従って、BMMC(培養マウス骨髄由来マスト細胞)を得た。
即ち、マウスの大腿骨を採取し、エタノールで洗浄後、さらに培地で洗浄した。1mlのシリンジを用いて骨の両端から骨髄を採取した。滅菌メッシュを用いて採取した骨髄細胞をろ過してBMMCを得た。
BMMCを、10%FBS(JRH Biosciences社)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(invitrogen社)、5×10-5M β−メルカプトエタノール(和光純薬社)、100μg/mlピルビン酸ナトリウム(Invitrogen社)、1%MEM nonessential amino acid solution(Invitrogen社)および5ng/mlリコンビナントIL−3(Pepco Tech社)を添加したRPMI1640培地(Sigma−Aldrich社)で、5%CO2含有空気中37℃で培養した。4〜6週間培養後、細胞上のFcεRI発現をAlexa488結合IgE抗体(IgEをAlexa Fluor488モノクローナル抗体ラベリングキット(インビトロジェン社)を用いて標識して作成した)を用いてフローサイトメトリーで確認した後、試験に用いた。
参考文献:Suzuki,Y.,et al,J.Immunol. 171:6119−6127,2003
【0021】
<試験>
上記2.のマスト細胞をそれぞれ0.1μgの抗TNP抗体(BD Pharmingen社)で、37℃で一晩感作した後PBSで洗浄した。
これに培地と30ng/mlの抗原(TNP−BSA(Cosmo Bio社)、図1ではAgと示す)、上記1.のサイトカイン産生誘導剤または比較剤をそれぞれ加え、37℃で4時間インキュベートして刺激した。
刺激後の培養上清をチューブに回収し、この一部を用いて刺激後のマスト細胞がそれぞれ産生したTNF−αおよびIL−13の濃度をELISA(Rat(Mouse) TNF−α ELISA Kit(Invitrogen社)またはIL−13 ELISA Kit(Invitrogen社))でそれぞれ測定した。
また、上記と同様にサイトカイン産生誘導剤または比較剤をそれぞれ加えた後、37℃で30分インキュベートして刺激を行い、刺激後の培養上清をチューブに回収し、この一部を用いてβ−Hexoaminidase活性(全活性(Triton X−100で抽出される全顆粒中に含まれる活性)に対する割合(%))を測定した。
即ち、96ウエルプレートに刺激後回収した培養上清40μl、基質溶液(2mM p−nitrophenyl−N−acetyl−β−D−glucosaminide)100μlを入れ、37℃で30分インキュベートした後、反応停止液0.2M glycin−NaOH(pH10.7)200μlを添加した。これを415nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0022】
<結果>
図1のA〜CにRBL−2H3細胞の結果を、D〜FにBMMCの結果を示した。
その結果、本発明のサイトカイン産生誘導剤によって刺激した場合に、いずれのマスト細胞においてもIL−13(図1、A、D(EC:200μM))およびTNF−α産生(図1、B、E(EC:200μM))の産生が比較剤と比べて明らかに増加することが示された。
また、サイトカイン誘導剤によって刺激しているにもかかわらず、いずれのマスト細胞においてもβ−Hexaminidaseの放出がほとんど起こっていないことが示された(図1、C、F)。
従って、これらの結果より、本発明のサイトカイン産生誘導剤によって、マスト細胞の脱顆粒が抑制されたままの状態で、マスト細胞のサイトカイン産生を誘導できることが確認できた。
【実施例2】
【0023】
<免疫賦活剤>
実施例1において製造した、サイトカイン産生誘導剤を有効成分として、免疫賦活剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によって得られる、EGCGを有効成分とするマスト細胞におけるサイトカイン産生誘導剤や該サイトカイン産生誘導剤を有効成分とする免疫賦活剤は、安全に摂取でき、エイズ等の免疫不全の患者や免疫力が低下している高齢者等を対象として、薬、食品等の様々な形で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピガロカテキンガレートを有効成分とするマスト細胞におけるサイトカイン産生誘導剤。
【請求項2】
サイトカインがTNF−αまたはIL−13である請求項1に記載のサイトカイン産生誘導剤。
【請求項3】
エピガロカテキンガレートを11〜91μg/mlとなるように含む請求項1または2に記載のサイトカイン産生誘導剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のサイトカイン産生誘導剤を有効成分とする免疫賦活剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−67038(P2012−67038A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213566(P2010−213566)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】