説明

サイトカイン発現が遺伝的に増強された抗原提示細胞のインサイチュ注入

【課題】感染または腫瘍を有する個体を処置する方法を提供すること。
【解決手段】感染または腫瘍を有する個体を処置する方法であって、
個体の当該感染部位または腫瘍部位の近辺に有効量の遺伝子改変されたプロフェッショナル抗原提示細胞(PAPC)を注入する工程であって、
ここで、当該PAPCは、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変されている、工程、
を包含する、方法。PAPCが樹状細胞である、上記の感染または腫瘍を有する個体を処置する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、免疫学の分野に関する。特に、本発明は、感染または腫瘍と闘うように遺伝子改変された、プロフェッショナル抗原提示細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
腫瘍およびウイルス抗原に対する細胞性免疫応答における初期事象の重要な分析は、樹状細胞を、効果的なT細胞応答を誘発する主要な抗原提示細胞(APC)として同定した(Steinman(1991)、Annu.Rev.Immunol.9:271−296;Macatoniaら、(1989)J.Exp.Med.169:1255−1264)。樹状細胞(DC)は、適切に活性化されて、可溶性抗原およびアポトーシス体を取り込み、リンパ節の副皮質(paracortical)T細胞富化領域に移動し、そして抗原特異的T細胞の選択およびDCサイトカイン、インターフェロン−α(IFN−α)およびインターロイキン−12(IL−12)の放出を誘導する一連の相互作用を開始する。
【0003】
合成腫瘍関連ペプチドでパルスされたDCの投与は、効果的な治療的抗腫瘍ワクチンとして作用し、インビトロおよびマウスにおける養子移入後において効果的な抗腫瘍免疫応答を誘導することが、以前に実証されている(Mayordomoら、(1995)、Nature Med.1:1297−1302;Zitvogelら(1996)、J.Exp.Med.183:87−97;PorgadorおよびGilboa(1995),J.Exp.Med.182:255−260;Porgadorら(1996)、J.Immunol.156:2918−2926)。しかし、T細胞に規定されるエピトープは、限られた数のヒト腫瘍型についてしか同定されていない。この問題を克服するためにいくつかのアプローチ(酸溶出した大量の腫瘍ペプチド(Zitvogelら(1996))、腫瘍抽出物および腫瘍RNA(Flamandら(1994)、Eur.J.Immunol.24:605−610;Ashleyら(1997)、J.Exp.Med.186:1177−1182;Boczkowskiら(1996)、J.Exp.Med.184:465−472)でのDCのパルス、またはDCとの腫瘍の融合(Gongら(1997)Nature Med.3;558−561)を含む)が、腫瘍に対するDCに基づくワクチン接種ストラテジーのために使用されている。これらのアプローチが、腫瘍関連抗原がそれほどよく特徴付けられていない腫瘍の処置を可能にするとしても、特に、ヒト固形癌由来の臨床サンプルの調製において、なお重大な問題が存在する。
【0004】
IL−12は、DC、マクロファージ、多形核白血球およびケラチノサイトによって産生されるヘテロダイマーのサイトカインである(LamontおよびAdorini(1996)、Immunol,Today 17:214−217)。IL−12は、ナチュラルキラー(NK)細胞および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性を増強し、IFN−γ産生を含むTh1免疫応答の誘導において鍵となる役割を果たし、そしてIFN−γ/インターフェロン誘導性タンパク質10(IP−10)依存性抗脈管形成効果を有する(LamontおよびAdorini(1996)、前出;Voestら(1995)、J.Natl.Cancer Inst.87:581−586;Sgadariら(1996)、Blood 87:3877−3882)。DCは、CD40とクラスII分子の連結後に(おそらく、T細胞との相互作用後のみ)IL−12を産生し得、そしてDCと組み合せたIL−12送達は、インビトロでCTL応答を増大する(Heuflerら(1996)、Eur.J.Immunol.26:659−668;Kochら(1996)、J.Exp.Med.184:741−746;Bhardwajら(1996)、J.Clin.Invest.98:715−722)。
【0005】
IL−12遺伝子改変腫瘍細胞、ならびにIL−12タンパク質の全身投与でのワクチン接種モデルにおけるIL−12の強力な抗腫瘍効果が報告されている(Brundaら(1993)、J.Exp.Med.178:1223−1230;Nastalaら(1994)、J.Immunol.153:1697−1706;Taharaら(1995)、J.Immunol.154:6466−6474;Martinottiら(1995)、Eur.J.Immunol.25:137−146)。IL−12を形質導入された線維芽細胞の直接注入もまた、効果的な全身性免疫の同時誘導によって、樹立された腫瘍を効果的に排除した(Zitvogelら(1995)、J.Immunol.155:1393−1403)。これらの結果に基づいて、IL−12遺伝子治療の初期の臨床試験は、フェーズI研究の状況で自己由来の線維芽細胞を使用して完了された(Taharaら(1997)、Proc.Am.Soc.Clin.Oncol.16:439a)。部分的応答が、2年までの間持続している黒色腫、乳癌、ならびに頭部および頸部の腫瘍を有する患者において観察された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するよう遺伝子改変されているプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)を、感染部位または腫瘍部位へ、またはそれらの近辺に直接的に注入し、その抗原でAPCを予め負荷またはパルスすることなく、その感染または腫瘍に関連する抗原に対する特異的な免疫学的応答を誘導し得るという発見に、部分的に依存する。特に、免疫刺激性サイトカイン、好ましくはインターロイキン−12(IL−12)の発現を増強するように遺伝子改変されている、樹状細胞、および好ましくは骨髄由来樹状細胞(BM−DC)またはCD34+由来樹状細胞(CD34+−DC)を、感染部位または腫瘍部位へ、またはそれらの近辺に直接的に注入し、その注入部位に関連する抗原に対する特異的な免疫応答を誘導し得ることが見出された。
【0007】
従って、1つの局面において、本発明は、感染または腫瘍を有する個体を処置するための方法を提供し、この方法は、個体のその感染部位または腫瘍部位の近辺に、有効量のプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)を注入する工程を包含し、ここで、このAPCは、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変されている。
【0008】
好ましい実施態様において、遺伝子改変されたAPCは、プロフェッショナル抗原提示細胞であり、そして最も好ましくはPAPCは、CD34+由来樹状細胞、骨髄由来樹状細胞、単球由来樹状細胞、脾細胞由来樹状細胞、皮膚由来樹状細胞、濾胞樹状細胞および胚中心樹状細胞からなる群から選択される樹状細胞である。特に好ましい実施態様において、樹状細胞は、G−CSF、GM−CSF、TNF−α、IL−4、Flt−3リガンドおよびキットリガンドからなる群から選択される少なくとも1つの因子の存在下で培養されたCD34+由来樹状細胞である。
【0009】
さらに、好ましい実施態様において、免疫刺激性サイトカインは、以下からなる群から選択される:インターロイキン(例えば、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−18、IL−19、IL−20)、インターフェロン(例えば、IFN−α、IFN−β、IFN−γ)、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドおよびキットリガンド。
【0010】
さらに、好ましい実施態様において、APCは、免疫刺激性サイトカインをコードするウイルスベクターでの、最も好ましくはレトロウイルスベクターでの形質導入によって遺伝子改変されている。しかし、他の実施態様において、APCは、アデノウイルスベクターもしくはアデノ随伴ウイルスベクターで、またはリポフェクション、弾道インジェクションもしくは当該分野において公知の他の遺伝子改変手段によって遺伝子改変され得る。
【0011】
さらに、任意の前述の実施態様において、処置される個体は、以下からなる群から選択される癌に罹患してい得る:黒色腫、肝細胞癌、腺癌、基底細胞癌、口部癌(oral cancer)、鼻咽頭癌、喉頭癌、膀胱癌、頭部および頸部癌、腎細胞癌、膵臓癌、肺癌、頸部癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌または他の固形腫瘍。あるいは、個体は、難治性感染に罹患してい得る。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1) 感染または腫瘍を有する個体を処置する方法であって、以下:
個体の当該感染部位または腫瘍部位の近辺に有効量の遺伝子改変されたプロフェッショナル抗原提示細胞(PAPC)を注入する工程であって、
ここで、当該PAPCは、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変されている、工程、
を包含する、方法。
・(項目2) 上記PAPCが、樹状細胞である、項目1に記載の方法。
・(項目3) 上記樹状細胞が、CD34+由来樹状細胞、骨髄由来樹状細胞、単球由来樹状細胞、脾細胞由来樹状細胞、皮膚由来樹状細胞、小胞樹状細胞、および胚中心樹状細胞からなる群より選択される、項目2に記載の方法。
・(項目4) 上記樹状細胞が、G−CSF、GM−CSF、TNF−α、IL−4、Flt−3リガンドおよびキットリガンドからなる群より選択される少なくとも1つの因子の存在下で培養されたCD34+由来樹状細胞である、項目3に記載の方法。
・(項目5) 上記サイトカインが、インターロイキン(例えば、IL−1α、IL−1β、Il−2、IL−3,IL−4、IL−6、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−18、IL−19、IL−20)、インターフェロン(例えば、IFN−α、IFN−β、INF−γ)、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドおよびキットリガンドからなる群より選択される、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
・(項目6) 上記樹状細胞が、上記サイトカインをコードするウイルスベクターでの形質導入によって遺伝子改変されている、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
・(項目7) 上記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、項目6に記載の方法。
・(項目8) 上記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターからなる群より選択される、項目6に記載の方法。
・(項目9) 上記樹状細胞が、リポフェクションおよび銃式注入(ballistic injection)からなる群より選択される方法によって遺伝子改変されている、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
・(項目10) 上記個体が、黒色腫、肝細胞癌、腺癌、基底細胞癌、口腔癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膀胱癌、頭部および頸部の癌、腎細胞癌、膵臓癌、肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、前立腺癌、精巣癌および乳癌からなる群より選択される癌を有する、項目1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、IL−12遺伝子改変BM−DCによるIL−12産生の時間経過を示す。(A)形質導入の後の4日目に、GM−CSFおよびIL−4を含むDC培地中の上清を毎日回収し、そしてIL−12 ELISAにおいてアッセイした。(B)IL−12遺伝子で形質導入した6日目のBM−DCを収集し、2回洗浄し、そして106細胞/mlで再培養し、IL−12産生を評価した。白丸は非形質導入細胞を示し、白三角はDFG−hCD80−neo形質導入細胞を示し、そして黒丸はDFG−mIL−12形質導入細胞を示す。
【図2】図2は、HBSS(白丸)、106Zeo形質導入(三角)およびIL−12形質導入(黒丸)BM−DCの腫瘍への注射後の、樹立された(A)MCA205、(B)B16および(C)D122腫瘍の面積の変化を示す。データを、平均±SEとして示す。
【図3】図3は、遺伝子改変されたDCによるIL−12産生と、MCA205腫瘍面積に対するこれらのDCの腫瘍内注射の効果との間の相関を示す。
【図4】図4は、HBSS(白丸)、106Zeo形質導入(三角)およびIL−12形質導入BM−DC(四角)またはIL−12形質導入同系線維芽細胞(黒丸)の注射の、樹立されたMCA205腫瘍の増殖に対する効果を示す。データを、平均±SEとして示す。
【図5】図5は、HBSS(白丸)、106IL−12形質導入BM−DC(黒丸)またはIL−12形質導入同系線維芽細胞(三角)の反復注射の、樹立されたMCA205腫瘍の増殖に対する効果を示す。データを、平均±SEとして示す。
【図6】図6は、(A)MCA205に対する、HBSS(白丸)、Zeo(三角)およびIL−12(四角)形質導入BM−DCおよびIL−12形質導入線維芽細胞(黒丸)で処置されたマウス由来の脾細胞の腫瘍特異的CTL活性、ならびに(B)MCA205(白丸)、YAC−1(三角)および同系線維芽細胞(四角)に対する、IL−12形質導入BM−DCを注射されたマウス由来の脾細胞によるCTL活性を示す。
【図7】図7は、(A)注射されたMCA205またはB16腫瘍および(B)注射されていない対側MCA205またはB16腫瘍の面積に対する、HBSS(白丸)、Zeo形質導入(三角)およびIL−12形質導入(黒丸)BM−DCの腫瘍内注射の効果を示す。データを、平均±SEとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
(定義)
出願人が発明であると考えた事項をより明瞭かつ簡潔に指摘および記載するために、以下の定義を、書面および添付の特許請求の範囲において使用される特定の用語について提供する。
・本明細書中で使用される用語「抗原提示細胞」またはその略語「APC」は、タンパク質抗原を処理し、それをペプチドに分断し、そしてそれをMHC分子と組み合わせてその細胞表面上(ここで、それは、適切なT細胞レセプターと相互作用し得る)に提示し得る細胞を意味する。本明細書中で使用される用語抗原提示細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞および非プロフェッショナル抗原提示細胞の両方を含むことが意図される。
【0014】
本明細書中で使用される用語「プロフェッショナル抗原提示細胞」またはその略語「PAPC」は、高度の効率的な免疫刺激能力を有する抗原提示細胞を意味する。PAPCは、適切なクラスのMHC分子と組み合わせて抗原性ペプチドフラグメントを提示し、そしてまた、共刺激性表面分子を保有する。種々のクラスのPAPCとしては、ランゲルハンス細胞、相互連結細胞(IDC)、濾胞樹状細胞(FDC)、胚中心樹状細胞(GCDC)、B細胞およびマクロファージが挙げられる。
【0015】
本発明のAPCに関して本明細書中で使用される「遺伝子改変された」APCは、転写および翻訳されて、導入された核酸によってコードされる分子を産生するか、またはAPCのゲノムに組込み、そして免疫刺激性サイトカインをコードする内因性核酸配列の転写および/もしくは翻訳を増強する外因性核酸を、その中またはその先祖または前駆体に導入されたAPCを意味する。用語「遺伝子改変された」は、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどを含むがこれらに限定されない外因性核酸を導入する任意の方法を含むように本明細書中で使用され得る。
【0016】
本明細書中で使用されるコード配列および調節領域は、それらが、調節領域の影響または制御下にそのコード配列の発現または転写を置くようにそれらが共有結合されている場合に「作動可能に連結されている」といわれる。コード配列が機能的タンパク質に翻訳されることが所望される場合、2つのDNA配列は、以下の場合に作動可能に連結されているといわれる:プロモーター機能の導入がコード配列の転写を生じる場合、および2つのDNA配列間の連結の性質が(1)フレームシフト変異の導入を生じないか、(2)調節領域がコード配列の転写を指向する能力を妨害しないか、または(3)対応するRNA転写物がタンパク質に翻訳される能力を妨害しない場合。従って、調節領域は、その調節領域がDNA配列の転写をもたらし得、その結果得られる転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳され得る場合に、コード配列に作動可能に連結されている。
【0017】
本発明の遺伝子改変されたAPCに関して本明細書中で使用される場合、免疫刺激性サイトカインの用語「発現を増強する」は、サイトカインをコードする核酸配列の転写および/または翻訳のレベルを増加することを意味する。
【0018】
本明細書中で使用される用語「免疫刺激性サイトカイン」は、免疫系細胞間の相互作用を媒介し、特にAPCによって提示された抗原性ペプチドに対する免疫応答における活性化または増加を引き起こす可溶性分子を意味する。特に意図されるものは、以下からなる群から選択される免疫刺激性サイトカインである:インターロイキン(例えば、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−18、IL−19、IL−20)、インターフェロン(例えば、IFN−α、IFN−β、IFN−γ)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−α)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドおよびキットリガンド。本明細書中で使用される場合、任意のこれらのサイトカインへの言及は、ヒトタンパク質に実質的に類似のヒトにおける活性を有するヒトホモログおよび任意の他の哺乳動物ホモログを含むことが意図される。
【0019】
(I.処置方法)
本発明は、一部には、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変された抗原提示細胞(APC)が、感染部位もしくは腫瘍部位またはその付近に直接注射されて、抗原でのAPCの前負荷(pre−loading)またはパルシングなしに、感染または腫瘍と関連する抗原に対する特異的免疫学的応答を誘導し得るという発見に由来する。特に、免疫刺激性サイトカイン、好ましくはインターロイキン−12(IL−12)の発現を増強するように遺伝子改変された、プロフェッショナル抗原提示細胞(例えば、樹状細胞(DC)、そしてより好ましくは骨髄由来樹状細胞(BM−DC)またはCD34+由来樹状細胞(CD34+−DC)が、感染部位もしくは腫瘍部位またはその付近に注射されて、注射部位と関連する抗原に対する特異的免疫応答を誘導し得ることが見出された。重要なことに、腫瘍への注射を含む実験において、プロフェッショナル抗原提示細胞(例えば、IL−12を構成的に発現するように操作されたDC)が、注射部位およびその遠位の両方で腫瘍退化を生じ得、そして局所のリンパ節および脾臓の両方において腫瘍関連抗原(TAA)特異的Th1細胞応答を誘導し得ることが見出された。
【0020】
従って一般に、本発明は、感染または腫瘍を有する被験体(特に、ヒト被験体)の処置方法を提供する。ここで、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変されたAPC(好ましくは、プロフェッショナル抗原提示細胞)は、感染部位もしくは腫瘍部位またはその付近に注射される。従って、この方法は、APCのサンプルを得る工程、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するようにAPCを遺伝子改変する工程、および遺伝子改変されたAPC(好ましくは、プロフェッショナル抗原提示細胞)を感染部位もしくは腫瘍部位またはその付近に注射する工程を包含する。APCを遺伝子改変する前またはその後、そしてそれらを注射する前に、それらを、当該分野において周知の細胞培養の標準的技術によってクローン増殖(clonally expand)し得る。APCが自家(autologous)であるべき場合、細胞を得てそして改変する工程、ならびに必要に応じて細胞をクローン増殖する工程は、好ましくは注射の時間にできるだけ近くに行う。しかし、異種であるが同系のAPCが使用されるべきである場合、細胞は、注射のはるかに前に得られ、そして遺伝子改変され得、そして使用前に無期限に維持され得る。
【0021】
本発明の方法での処置のための被験体は、癌患者および治療不応性感染に罹患した被験体を含む。遺伝子改変されたAPC(好ましくは、プロフェッショナル抗原提示細胞)が腫瘍部位または感染部位へと直接注入されることが好ましいので、本発明の方法は、少なくとも1つの物理的に十分に規定された腫瘍を有する被験体または少なくとも1つの物理的に十分に規定された感染部位を有する被験体において、広範性の非常に転移した癌を有する被験体または広範性感染を有する被験体においてよりもむしろ最も有用であることが、予期される。一方、以下の実施例に示されるように、腫瘍(または感染)が存在する1つの部位への注射は、全身性免疫応答の発生をもたらし得る。従って、本発明の方法は、広範性の非常に転移した癌または広範性感染を処置する際に、APC(好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞)が注入され得かつ腫瘍関連抗原または感染関連抗原を効果的にロードし得る腫瘍または感染の少なくとも1つの部位が同定され得る場合に、有効であり得る。
【0022】
現在好ましい実施態様において、本発明の方法が、本発明の遺伝子改変されたAPC(好ましくは、プロフェッショナル抗原提示細胞)が直接注入され得る固形腫瘍を有する患者を処置するために使用される。適切な固形腫瘍は、黒色腫、肝細胞癌、腺癌、基底細胞癌、口腔癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膀胱癌、頭および首の癌、腎細胞癌、膵臓癌、肺癌、子宮頚癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、前立腺癌、精巣癌、および乳癌を含み得る。これらの癌のうちの多くに関して、DC浸潤と予後との間の関係が確立されている。
【0023】
本発明の遺伝子改変されたAPCは、皮下注入、皮内注入、経皮注入、筋肉内注入、腹腔内注入または他の形態の注入のための標準的滅菌技術を使用して、注入され得る。この細胞は、生理学的に受容可能な溶液または生理学的に受容可能な緩衝液中で投与され得、そしてAPCが生存し、抗原をロードし、流入(draining)リンパ節または脾臓へ輸送し、そして抗原を提示して免疫応答を活性化させる能力を促進し得る他の薬剤(特にサイトカイン)と組み合わせて投与され得る。導入される細胞の数は、多数の因子(注入される部位の数、経時的に実施される注入の数、腫瘍または感染病変のサイズ、および腫瘍または感染の性質を含む)に依存する。使用される細胞の数はこのような因子とともに変化するが、104〜108個、好ましくは105〜107個の細胞が1回の処置の1つの部位について注入されることが、現在予期される。
【0024】
APCの選択および単離、免疫刺激性サイトカインの選択、およびAPCの遺伝子改変に関連する、詳細および現在好ましい実施態様が、以下に別々に記載される。
【0025】
(II.APCの選択および単離)
本発明は、抗原提示細胞APC(好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞、最も好ましくは樹状細胞)を使用し、これらの細胞は、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように、遺伝子改変されている。
【0026】
好ましくは、このAPCのもともとの供給源は、処置される被験体であり、このAPCが自己由来であるようにする。同種異系APC(他の個体から入手される)もまた、本発明において使用され得るが、好ましくは、このAPCは組織適合性個体または同系個体に由来して、その被験体の同属の抗原特異的T細胞レセプターに対する適切なMHC提示を提供する。さらに、ヒトMHCタンパク質またはヒト化MHCタンパク質、および必要に応じて同時刺激分子を発現する、遺伝子操作された動物(例えば、マウスまたはブタ)が作製され得、そして被験体の同属の抗原提示T細胞レセプターに対して適切なMHC提示をし得るAPCの再生可能な供給源として使用され得る。
【0027】
好ましいPAPCは樹状細胞であり、そして特に、動員された末梢血から採取されたCD34+由来DC(CD34+−DC)、骨髄から採取された骨髄由来樹状細胞(BM−DC)である。本発明において有用であり得る他のDCは、血液から採取された単球由来DC、骨髄から採取されたCD34+−DC、脾臓から採取された脾細胞(splenocyte)由来DC、皮膚由来DC、小胞樹状細胞(FDC)および胚芽中心樹状細胞(GCDC)である。これらの樹状細胞をそれらが生じるかまたは局在する組織から単離する方法は、当該分野において周知である。
【0028】
例えば、BM−DCを単離する方法が、Inabaら(1992)J.Exp.Med.176:1693〜1702に記載される。あるいは、CD34+前駆(progenitor)細胞が、ヒト臍帯血または成人血から入手され得、そしてサイトカインにより刺激されて、樹状細胞へと分化し得る(例えば、Cauxら(1996)J.Exp.Med.184:695〜706;Romaniら(1994)J.Exp.Med.180:83〜93を参照のこと)。樹状細胞を生成する際のFlt−3リガンドの有効性が、例えば、Shurinら(1997)Cell Immunol.179:174〜184に記載される。GM−CSFおよびIL−4とともに数日(例えば、5日)間培養されたBM−DCまたはCD34+−DCが、特に好ましい。TNF−αおよびそのキットリガンドはまた、培養して増殖されるDCの収量を増大することにおいて有効であることことが示され(例えば、Mayorodomoら(1997)Stem Cells、15:94〜103およびこの中に引用される参考文献を参照のこと)、そして本発明のDCを得るために使用され得る。このようなDCのうちの大多数は、以前の報告(Pierreら(1997)、Nature 388:787〜792;Inabaら(1993)J.Exp.Med.178:479〜488)に従ってフローサイトメトリーおよびMLRアッセイにより決定される場合に、未成熟な表現型を提示し得る。DCは、その未成熟段階の間でのみ、抗原捕捉能力およびプロセシング能力、ならびに輸送能力を有する(Pierreら(1997)、Naturte 388:787〜792;Inabaら(1993)J.Exp.Med.178:479〜488;Cellaら(1997)Nature 388:782〜787)。
【0029】
(III.サイトカインの選択)
本発明のAPCは、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変される。好ましくは、そのサイトカインは、インターロイキン(例えば、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−18、IL−19、IL−20)、インターフェロン(例えば、IFN−α、IFN−β、IFN−γ)、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスホーミング増殖因子β(TGF−β)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドまたはキットリガンドのうちの1つである。これらのサイトカインのアミノ酸配列は、当該分野で周知である(1989)。従って、インターロイキン−4のアミノ酸配列は、例えば、Araiら(1989)、J.Immunol.142(1)274〜282に見出され得;インターロイキン−6のアミノ酸配列は、例えば、Yasukawaら(1987)、EMBO J.、6(10):2939〜2945に見出され得;インターロイキン−12のp35サブユニットおよびp40サブユニットのアミノ酸配列は、例えば、Wolfら(1991)、J.Immunol.146(9):3074〜3081に見出され得;種々のIFN−αサブタイプのアミノ酸配列は、例えば、Grenら(1984)J.Interferon Res.4(4):609〜617、およびWeismannら(1982)Princess Takamatsu Symp.12:1〜22に見出され得;TNFのアミノ酸配列は、例えば、Pennicaら(1984)Nature 312:724〜729に見出され得;G−CSFのアミノ酸配列は、例えば、Hiranoら(1986)Nature 324:73〜76に見出され得;ならびにGM−CSFのアミノ酸配列は、例えば、Cantrellら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)82(18):6250〜6254に見出され得る。APCを遺伝子改変してこれらのサイトカインのうちの1つの発現を増強するために、当業者は、そのサイトカインをコードする天然に存在する核酸配列(例えば、ゲノム配列またはcDNA配列)を含むベクターを使用することを選択し得るか、または遺伝子コードの縮重を利用して、機能的サイトカインをなおコードする天然に存在しない配列を含むベクターを設計および作製し得る。ヘテロ二量体免疫刺激性サイトカイン(例えば、IL−12)の場合、本発明のAPCは、このサイトカイン分子の両方のサブユニットを発現するように遺伝子改変されなければならない。
【0030】
本発明のAPCはまた、これらのサイトカインの改変体を発現するように遺伝子改変され得る。例えば、プロ形態および成熟形態の両方を有するサイトカイン(例えば、シグナルペプチドの切断により活性フラグメントを生成する前後、または限定的タンパク質分解により活性フラグメントを生成する前後)について、本発明のAPCは、プロ形態または成熟形態のいずれかを発現するように遺伝子改変され得る。他の改変体(例えば、サイトカインの活性フラグメントと異種配列(例えば、異種シグナルペプチド)との間の融合タンパク質)もまた使用され得る。種改変体もまた、それらがヒト被験体において活性を保持する程度まで、使用され得る。従って、例えば、ヒトAPCは、ヒトサイトカインのマウス改変体、ウシ改変体、ウマ改変体、ヒツジ改変体、ネコ改変体、イヌ改変体、非ヒト霊長類改変体または他の哺乳動物改変体を発現するように、これらの種改変体がそのヒトホモログと実質的に類似した活性を保持する場合には、遺伝子改変され得る。
【0031】
(IV.APCの遺伝子改変)
本発明のAPCは、所望のサイトカインをコードする核酸を導入するために、当該分野で公知の任意の標準的技術により、遺伝子改変され得る。例えば、レトロウイルス形質導入によるヒト樹状細胞の遺伝子改変の方法は、Reeves(1996)Cancer Res.56:5672〜5677、およびSpechtら(1997)J.Exp.Med.186:1213〜1221に記載される。同様に、IL−4遺伝子のレトロウイルス媒介性移入による骨髄細胞の遺伝子改変は、Chambersら(1992)J.Immunol.149(9):2899〜2905に記載される。さらに、ヒトCD34+前駆細胞のレトロウイルス形質導入、続くサイトカイン刺激による樹状細胞への分化および成熟(遠心分離を用いるかまたは用いない)は、Hendersonら(1996)Cancer Res.56:3763〜3770、およびReevesら(1996)Cancer Res.56:5672〜5677に記載される。レトロウイルスプロデューサー細胞との同時培養の代わりの、レトロウイルス上清の使用(Spechtら(1997))は、他のストラテジーを超える以下を含むいくつかの利点を有する:(1)その細胞に対する直接の毒性が存在しない;(2)安定な遺伝子発現が得られる;(3)アデノウイルスベクターを用いる方法と異なり、最小のウイルス特異的CTL応答が存在する(例えば、Smithら(1996)J.Virol.70:6733〜6740を参照のこと);ならびに(4)レトロウイルス上清の使用に伴う、より広範な臨床経験が存在する。
【0032】
本発明のAPCの遺伝子改変は、一過性であってもよいし、または安定であってもよい。すなわち、APCに導入されるサイトカインコード核酸配列は、このAPC細胞のゲノムDNAから離れて存在し得、そして一時的にのみ発現され得るか、またはこのAPC細胞のゲノムに組込まれ得、そしてこの細胞の生存を通じて発現され続け得る。例えば、アデノウイルスベクターを使用するIL−6の一過性発現は、Richardsら(1995)Ann.NY Acad.Sci.762:282〜292に記載される。一過性発現された配列について、免疫刺激性サイトカインの発現が少なくとも1日、好ましくは数日続き、APCが、感染部位または腫瘍部位で抗原を載せるため、領域的リンパ節へ移動するため、そして抗原の提示により同属のT細胞を活性化するために、十分な時間を可能にすることが、好ましい。
【0033】
好ましくは、免疫刺激性サイトカインの発現を増強するために用いられる遺伝子構築物は、遺伝子組換えされたAPCによるサイトカインの構成的発現を可能にする、サイトカインをコードする配列に作動可能に連結されている構成的プロモーターを含む。しかし、あるいは、誘導のための条件が、被験体のさらなる処置(例えば、インデューサーの投与)とともに、またはその処置なしに、生理学的条件に適合され得る場合、誘導性のプロモーターが用いられ得る。
【0034】
上記および以下の実施例に記載の遺伝子組換えAPCのレトロウイルス方法に加えて、他の多くの、適切なベクターを生成する方法、これらのベクターで細胞を遺伝子組換えする方法、そして形質転換体を同定する方法が当該分野で周知であり、本明細書においては簡略に概説されるのみである(例えば、Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Mannual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor,New Yorkを参照のこと)。人工的なプロモーターエレメントの調節下でヌクレオチド配列の誘導性発現(例えば、LacSwitch発現ベクター、Stratagene,La Jolla、CA)または構成的発現(例えば、pcDNA3ベクター、Invitrogen,Chatsworth,CA)を可能にする広範な種々のベクターが開発されており、そして市販されている。このようなプロモーターエレメントは、しばしば、CMVウイルス遺伝子またはSV40ウイルス遺伝子から誘導されるが、他の強力なプロモーターエレメント(真核生物細胞において活性である)がまた、転写を誘導するために使用され得る。代表的には、これらのベクターはまた、人工的ポリアデニル化配列および3’UTRを含む。これは、外因性のウイルス遺伝子配列からか、または他の真核生物遺伝子から誘導され得る。さらに、いくつかの構築物において、目的のサイトカイン配列の発現を増強するために、人工的な非コードのイントロンおよびエキソンが、ベクターに含まれ得る。これらの発現系は、一般に商業的供給業者から市販されており、そしてpcDNA3およびpZeoSV(Invitrogen,San Diego,CA)のようなベクターにより代表される。数多くの市販の発現ベクターおよびカスタム設計された発現ベクターが商業的供給業者から入手可能であり、多少の所望の細胞型における、任意の所望の転写物の発現を、構成的にか、または外来性刺激(例えば、テトラサイクリンの投与停止またはIPTGへの曝露)への曝露後のいずれかで可能にする。
【0035】
ベクターは、当該分野で周知の種々の方法によりAPCに導入され得る。この方法には以下が挙げられるがこれらに限定されない:リン酸カルシウムトランスフェクション、リン酸ストロンチウムトランスフェクション、DEAEデキストラントランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクチン(例えば、Dosper Liposomalトランスフェクション試薬、Boehringer Mannheim,Germany)、マイクロインジェクション、「遺伝子銃」を用いるマイクロビーズ上での衝撃(ballistic)インジェクション、またはウイルスベクター(組換えウイルスでの感染による)。
【実施例】
【0036】
(実施例)
(レトロウイルスベクター)レトロウイルスDFG−mIL−12、TFG−mIL−12およびDFG−hCD80−neoの構築物は、以前の研究において記載されている(Taharaら(1995);Zitvogelら(1996)Eur.J.Immunol.26:1335〜1341)。MFG−EGFPおよびMFG−Zeoを、pEGFP−N1(Clontech,Palo Alto,CA)およびpcDNA3.1/Zeo(−)(Invitrogen,Carlsbad,CA)から得られるそれぞれのフラグメントをサブクローニングすることにより生成した(Cormackら(1996)、Gene 173:33〜38)。レトロウイルスの上清を、これらのプロウイルス構築物をBOSC23またはBINGパッケージング細胞株(Taharaら、1995)にトランスフェクトすることにより生成した。DFG−hCD80−neoレトロウイルスを生成するCREおよびCRIP細胞を、それぞれ、BINGまたはBOSC23産生レトロウイルスを用いてのこれらのパッケージング細胞の感染、さらにG418(Geneticin;Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)での選択により作製した。NIH3T3細胞への形質導入後、G418−生存コロニーから、レトロウイルス上清の力価を算出した。
【0037】
(腫瘍細胞株およびマウス系統)種々の移植可能なマウス腫瘍細胞株を、マウスに注入し、腫瘍を惹起する。次いで、これを本発明の遺伝子組換えAPCで処置した。MCA205メチルコラントレン誘導の線維肉腫は、S.A.Rosenberg(National Cancer Institute,Bethesda,MD)のご好意により提供頂いた。B16−F10マウス黒色腫細胞株は、E.Gorelik(University of Pittsburgh、Pittsburgh,PA)のご好意により提供頂いた。3LL腫瘍細胞の高転移性改変体D122は、L.Aisenbach(Weizmann Institute of Science,Rehovot,Israel)のご好意により提供いただいた。YAC−1は、W.Chambers(University of Pittsburgh、Pittsburgh,PA)により贈呈された。これらの細胞株を、10%熱不活化ウシ胎仔血清、2mMグルタミン、100μg/mlストレプトマイシン、100IU/mlペニシリンおよび5×10-5M 2−ME(これら全ては、Life Technologies,Inc.,Grand Island,NYからである)を補充したRPMI 1640(以降は、完全培地(CM)とよぶ)中で維持した。
【0038】
雌性の6〜8週齢のC57BL/6(B6)マウスをTaconic Farms(Germantown,NY)から購入し、そして全ての実験に8〜10週齢で用いた。
【0039】
(APCの培養および遺伝子組換え)以前に記載の方法(Mayordomoら(1995);Zitvogelら(1996);Inabaら(1992)、J.Exp.Med.176:1693〜1702)を用いて、BM−DC培養物を得た。手短には、屠殺したマウスの大腿および脛骨からマウス骨髄細胞を回収した。混入する赤血球を0.83M NH4Cl緩衝液で溶解し、そしてリンパ球を、抗体のカクテル(RA3−3A1/6.1、抗−B220;2.43,抗Lyt2;GK1.5,抗L3T4;これら全てはAmerican Type Culture Collection,Rockville,MDからである)およびウサギ補体(Accurate Chemical and Scientific Corp.,Westbury,NY)で、0日目に枯渇させた。これらの細胞を、CM中で一晩培養して粘着したマクロファージを除き、次いで非粘着性の細胞を、rmGM−CSF(1000U/ml)およびrmIL−4(1000U/ml)を含有する新鮮CM(DC培地)に、1日目に入れた。6日目に細胞をほぼ回収した。形態学、表現型、および強力な、リンパ球混合反応刺激活性によりBM−DCを規定した。フローサイトメトリーによる表現型分析により、培養細胞の大部分(60〜95%)において、CD11b、CD11c、CD80、CD86、ならびにMHCクラスIおよびMHCクラスIIの高い発現が示された。
【0040】
レトロウイルスの形質導入については、24時間DC培地中で培養した1×106のBM細胞を、14mlの丸底チューブにアリコートし、そして8μg/mlポリブレン、1000U/ml rmGM−CSFおよび1000U/ml rmIL−4とともに1mlのレトロウイルス上清中に懸濁した。これらの細胞を2500×g、30〜32℃で2時間遠心分離した(Kotaniら(1994),Hum.Gene Ther.5:19〜28;Bahnsonら(1995)J.Virol.Methods 54:131〜143)。遠心分離後、細胞をDC培地中で培養した。形質導入プロセスを3日目および4日目に繰り返した。エコトロピックなプロデューサー細胞、BOSC23およびCRE由来
のレトロウイルス上清は、匹敵する力価での両栄養性ウイルスと比べた場合、より効率的にマウスBM−DCに形質導入する。BOSC23細胞由来のレトロウイルス上清が最高力価(2〜8×106cfu/ml)のウイルスを産生したために、それを用いた。マウスBM−DCの形質導入効率を試験するために、本発明者らは、形質導入マーカーとして挿入されたヒトCD80(B7・1)遺伝子またはEGFP遺伝子を有するレトロウイルスベクターを生成し、そしてフローサイトメトリーにより形質導入の効率を決定した。高い形質導入効率(22〜75%)でレトロウイルスにより改変されたDCは、培養中で、最後の形質導入(4日目)の少なくとも12日後に導入遺伝子を発現し得る。形質導入効率は、用いたレトロウイルス上清の力価と十分に相関していた。2色の免疫蛍光染色により、マーカー(hCD80)−陽性細胞の有意な数がまた、高いレベルのmCD80ならびにCD86、MHCクラスIIおよびDEC−205を発現したことが示された。
【0041】
EGFPレトロウイルスベクターでの形質導入は、マウスBM−DCが、高い効率でレトロウイルスにより形質導入され得ることを示した。さらに、BM−DCをまた、両方のIL−12遺伝子(DFG−mIL−12)を発現するように改変したレトロウイルスベクターで形質導入した。4日目の形質導入手順の完了後、培養培地中のmIL−12 p70のヘテロ二量体の濃度を、ELISAにより測定した。図1Aに示すように、ヘテロ二量体IL−12(p70)の蓄積は、DFG−mIL−12形質導入したBM−DCの培養中では観察されたが、形質導入されていない細胞またはマーカー遺伝子を形質導入された細胞の培養中では観察されなかった。6日目、DCを回収し、2回洗浄し、そして新しいプレートに移した。このとき、IL−12で形質導入したDCは、約80ng/106細胞/48時間のヘテロ二量体性IL−12を産生した(図1B)。IL−12で形質導入したDCからのIL−12産生の範囲は、8〜80ng/106細胞/48時間であり、そしてそれぞれの実験で用いたレトロウイルス上清の力価と関連していた。遺伝子組換えされたDCにより産生されたIL−12タンパク質が、生物学的に活性であり、そしてConA処理脾細胞からのIFN−γ産生を刺激し得ることを確認した。DC表現型に対するIL−12形質導入の効果を試験するため、フローサイトメトリーを用いて、種々の細胞表面分子を試験した。IL−12で形質導入したDCは、それがMHCクラスI分子およびMHCクラスII分子の増加したレベルを発現したこと以外は、非形質導入DCまたはZeo形質導入DCと違いはなかった。
【0042】
(線維芽細胞の培養および遺伝子組換え)本発明の遺伝子組換えAPCの治療的有効性と比較するため、同様に改変した線維芽細胞を調製した。手短には、同系の線維芽細胞の初代培養物をB6マウスの肺から得た。肺の小片をはさみで細かく切断し、そしてコラゲナーゼIV、ヒアルロニダーゼVおよびデオキシリボヌクレアーゼIVの3つの酵素溶液(Sigma,St Louis,MO)中で、室温で3時間撹拌した。HBSSでの2回のリンス後、細胞上清をCM中で培養し、線維芽細胞の初代培養物を得た。IL−12で形質導入した線維芽細胞を、CRIP−TFG−mIL−12−neoの上清での感染により、続いてG418での選択により生成した。
【0043】
(遺伝子組換えしたAPCの腫瘍内注入)癌患者の動物モデルを生成するため、マウス(1群あたり4〜5匹の動物)に、0日目に、1×105細胞のMCA205、B16およびD122腫瘍株を、右脇腹に皮下注射した。7日目に、腫瘍サイズが10〜20mm2になった時点で、106の非形質導入BM−DCまたは形質導入BM−DCを腫瘍内に注入した。IL−12で形質導入した同系の線維芽細胞を、以前に記載(Zitvogelら(1995))のように、照射(5000ラド)後、腫瘍内注入のために用いた。マウスが樹立された腫瘍を拒絶した場合、それらのマウスの反対側の脇腹に、より多数の腫瘍細胞(2×105)を再チャレンジし、腫瘍に対する防御的全身免疫の誘導を評価した。
【0044】
(樹立腫瘍の抑制および/または拒絶) 免疫刺激サイトカインの発現を増強するように遺伝子改変されたAPCを用いて腫瘍内注射の抗腫瘍効果を試験するために、106非形質導入またはIL−12形質導入BM−DCを、7日目の樹立腫瘍(MCA205、B16、およびD122)(腫瘍直径;3〜5mm)に注射した。図2に示すようにIL−12形質導入DCは、これらの樹立腫瘍の増殖を有意に抑制し、MCA205を注射した5匹のマウスのうち2匹において最終的な拒絶を生じた。非形質導入DCもZeo形質導入DCもいかなる抗腫瘍効果も有さなかった。これらの実験において、遺伝子改変されたDCのIL−12産生は、29ng/106細胞/48時間であった。全体において、IL−12形質導入DCでの単独処理は、14匹のマウスのうち5匹(36%)では樹立したMCA205腫瘍の拒絶を生じた。これらの無腫瘍マウスは、MCA205の2倍での次の再チャレンジを拒絶した。このことは、拒絶された腫瘍の免疫記憶の獲得を示唆する。図3に示すように、IL−12形質導入DCの抗腫瘍効果は、ピアソン線形回帰を用いると、28日目のIL−12産生と相関した(R=−0.80、p<0.05)。別の実験では、マウスを、まず1×105のMCA205細胞で感染用量(i.d.)で注射し、そして次に、7日目にHBSS(白丸)、106のZeo形質導入(三角)、IL−12形質導入BM−DC(四角)、またはIL−12形質導入同系線維芽細胞(黒丸)を樹立腫瘍に注射した。図4に示すように、IL−12形質導入DCの抗腫瘍効果もまた、IL−12形質導入線維芽細胞の効果と比較した。以前に報告されたように(Zitvogelら(1995))、Il−12形質導入線維芽細胞は、MCA205の増殖を抑制し、一方、それらの単回注射は、腫瘍のいかなる拒絶も示さなかった。しかし、IL−12形質導入DCは、IL−12形質導入線維芽細胞と比較した場合、より効率的に腫瘍増殖を抑制した。この線維芽細胞は、類似であるが、しかし僅かに高いレベルでIL−12を発現した(遺伝子改変DCおよび線維芽細胞のIL−12産生は、それぞれ13ng/106細胞/48時間および22ng/106細胞/48時間であった)。IL−12形質導入DCの腫瘍内注射の毎週の連続した処理もまた試験した。簡潔にいえば、マウスを、まず1×105のMCA205細胞で感染用量(i.d.)で注射した。7日目および14日目に、HBSS(白丸)、106のIL−12形質導入BM−DC(黒丸)、またはIL−12形質導入同系線維芽細胞(三角)を樹立腫瘍に注射した。図5に示すように、IL−12形質導入DCの繰り返し注射は、単回注射と比較した場合に、より重要でありそして長期の腫瘍抑制(60日を超える)を生じた。
【0045】
(全身性腫瘍特異的免疫応答) 上述のように、IL−12形質導入DCの局所抗腫瘍効果は、IL−12形質導入線維芽細胞で観察されたよりも著しかった。IL−12形質導入DCの腫瘍内注射が腫瘍に特異的な有意な全身免疫応答を誘導し得るか否かを決定するために、接種腫瘍の同側鼡径部における皮下リンパ節(排出リンパ節)ならびに脾臓を、腫瘍を保有するマウスから、DCの注射の7日後(腫瘍接種14日後)に採取した。これらのリンパ細胞を、照射腫瘍細胞(MCA205)とインビトロで同時培養し、そして培養上清中のIFN−γおよびIL−4産生を試験した。興味深いことに、非形質導入DCおよびZeo形質導入DCでの注射は、IL−12形質導入線維芽細胞と比較した場合、排出リンパ節および脾臓から採取したリンパ細胞による腫瘍特異的IFN−γ産生を増強した。さらに、IL−12形質導入DCの腫瘍内注射は、これらのリンパ細胞による腫瘍再刺激に応答してIFN−γ産生のより大きな増強を生じた。興味深いことに、DC注射はまた、より少ない程度でIL−4産生を増強した。IFN−γ産生は、MCA205刺激後に特異的に放出されるが、B16またはMCA207腫瘍では放出されなかった。これらの結果は、IL−12で形質導入した腫瘍内注射したDCは、排出リンパ節に行き交い、インサイチュでリンパ球を効率的に刺激してIFN−γを産生することを示唆する。この仮説を確認するために、IL−12形質導入DCを、蛍光染料(PKH−26)で染色し、そして腫瘍内注射し、そして排出リンパ節を注射の24時間後に試験した。有意数のDCが、注射24時間後に排出リンパ節中で検出された。
【0046】
さらに、処置マウス由来の脾臓細胞のCTL活性もまた評価した。脾臓細胞を採取し、そしてBM−DCの腫瘍内注射の7日後に群当たり2匹のマウスからプールした。これらの細胞(2×106)を、25IU/mlのrhIL−2の存在下で2×105照射(5000ラド)MCA205を用いてインビトロで再刺激した。再刺激細胞を、標準の51Cr放出アッセイにおいて5日後に試験した。HBSS、Zeo形質導入BM−DCおよびIL−12形質導入BM−DC、およびIL−12形質導入線維芽細胞で処置された群由来の脾臓細胞によるCTL活性を、MCA205に対して試験した(図6A)。Zeo形質導入DCは、CTL活性の誘導において、IL−12線維芽細胞よりも有効であった。IL−12形質導入DCは、任意の他のストラテジーを用いて観察された活性よりも有意に高いCTL活性を誘導した。IL−12形質導入BM−DCを注射したマウス由来の脾臓細胞によるCTL活性を、MCA205、YAC−1および同系線維芽細胞に対して試験した(図6B)。この活性は、MCA205腫瘍に対して特異的であるようであり、そして抗CD8抗体で40〜50%ブロックされ得、そして抗H−2Kb抗体で24〜35%ブロックされ得た。
【0047】
全身免疫の誘導をさらに確認するために、対側性の未処置の腫瘍の増殖を試験した。マウスを、まず1×105のMCA205腫瘍細胞およびB16腫瘍細胞で感染用量(i.d.)でその両脇腹を注射し、そしてIL−12形質導入DCを、7日目に右脇腹の腫瘍中に注射した。このとき、腫瘍面積は、13〜20mm2に達した。両脇腹の腫瘍増殖をモニタリングした。図7は、IL−12形質導入DCの腫瘍内注射は、注射腫瘍の増殖(図7A)だけでなく、対側性の注射されていない腫瘍の増殖(図7B)もまた有意に抑制した。これらの実験において、IL−12は、IL−12形質導入DCの注射の2日後に、マウス血清中で検出されなかった。
【0048】
(フローサイトメトリー) BM−DCの表現型分析のために、PEまたはFITCに結合体化された、マウス細胞表面分子(CD11b、CD11c、CD80、CDE86、Gr−1、H−2Kb、I−Ab、および適当なアイソタイプコントロール(これらは全てPhaMingen、San Diego、CAより))に対するモノクローナル抗体を使用した。DEC−205は、NLDC−145抗体(Serotec Lts.、Oxford、UK)での染色によって検出された。形質導入マーカーhCD80を、FITC結合体化抗hCDE80抗体(PhaMingen、San Diego、CA)で染色した。この抗体は、マウスCD80と交差反応しない。
【0049】
(インビトロサイトカイン放出アッセイ) リンパ細胞を、7日前にBM−DCの腫瘍内注射を受容した2匹のマウスの各々から採取した排出(鼡径)リンパ節および脾臓から入手した。これらの細胞(2×106)を、以前に記載(Zitvogelら(1996)のように36時間、25IU/ml rhIL−2(Chiron、Emeryville,CA)の存在下で2×105照射(5000ラド)MCA205を有する24ウェルプレート中で同時培養した。上清を採集し、そしてIFN−γおよびmIL−4発現(PharMingen、San Diego、CA)についてELISAにおいて評価した。各アッセイについての感度の下限は、それぞれ18pg/mlおよび36pg/mlであった。
【0050】
(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ) 脾臓を採取し、そして、BM−DCの腫瘍内注射の7日後に1群当たり2匹のマウスからプールした。これらの細胞(2×106)を、25IU/mlのrhIL−2の存在下で、インビトロで2×105照射(5000ラド)MCA205で再刺激した。5日後、再刺激細胞を、標準的な4時間のMCA205、YAC−1、および同系線維芽細胞に対する51Cr放出アッセイのためにエフェクターとして使用した。簡潔には、106の各標的細胞を100μCiのNa251CrO4で1時間標識した。2回洗浄した後、これらのエフェクターおよび標的細胞を、96ウェル丸底プレート中で適当なE/T比でプレートした。上清(100μl)を4時間インキュベーション後に採集し、そして放射能をγカウンターで計数した。比溶解の百分率を、下式のように算定した:%比溶解=100×(実験放出−自然放出)/(最大放出−自然放出)。
【0051】
(統計学的分析) 統計学的分析を独立両側スチューデントt検定を用いて実施した。ピアソン線形回帰を当てはめて、相関を調べた。差異は、p値が0.05未満である場合、有意であるとみなした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−260869(P2010−260869A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150249(P2010−150249)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2000−569848(P2000−569848)の分割
【原出願日】平成11年9月14日(1999.9.14)
【出願人】(501102988)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション (24)
【Fターム(参考)】