説明

サイドバイサイド型セルロース系複合繊維およびそれからなる布帛

【課題】優れた吸放湿性能を有し、ソフト感に富んだしっとりした風合いを有する布帛を得ることが可能なサイドバイサイド型セルロース系複合繊維を提供する。
【解決手段】セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維。その複合比率(A)/(B)が面積比で20/80〜80/20であることが好ましい。また初期引張抵抗度及び吸放湿パラメーターが特定の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトでウエット感に富んだ風合いを有するサイドバイサイド型セルロース系複合繊維およびそれを用いた布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル繊維は、ポリエステルやポリアミドなどの合成繊維にはない優れた特徴を有する繊維である。すなわち優雅な光沢、深みのある色調、発色性、ドライ感、吸湿性など衣料用繊維として多くの特性を有することから高級衣料用途として位置づけられてきた。
【0003】
近年、衣料分野においては消費者ニーズの多様化、高級化の志向から、取扱性に優れ、ソフト感、ウエット感などの性能を付与した繊維が求められているが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートに代表されるセルロースエステル繊維は、その吸湿性能はレーヨンに劣り、またソフト感にやや欠ける素材であり、近年以下の提案がなされている。
【0004】
例えば特許文献1では、しなやかなソフト風合いおよび大きなふくらみ感を発現できる潜在捲縮性セルロースアセテート繊維が提案されている。該文献では、酢化度の異なる2種のセルロースアセテートをサイドバイサイド型複合乾式紡糸した後、低酢化度のセルロースアセテート成分をセルロース化させた複合繊維が提案されている。この複合繊維では、複合繊維の片側をセルロース化しているため、該繊維を用いた布帛の吸放湿性能は高いものである。しかしながらセルロース化しているため、およびもう一方の成分としてセルローストリアセテートを用いているためソフト性が低下してしまう懸念があった。
【0005】
一方、特許文献2では、高い嵩高性と優れた捲縮発現能力を示し、高品位でストレッチ性に優れた布帛を得ることが可能なサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維が提案されている。該複合繊維はセルロースアセテートプロピオネート等のセルロース脂肪酸混合エステルとポリエステルとからなる複合繊維であり、ポリエステルを複合成分として用いているため、吸放湿性能は低く、また風合いもやや硬いものであった。
【0006】
また特許文献3では、優れた捲縮性を有するとともに、優れた風合い、ソフトストレッチ性を有する布帛を形成しうる複合ポリアミド繊維が提案されている。該複合繊維は2種類のポリアミドからなるサイドバイサイド型複合繊維であるが、ナイロンを用いているため風合いはソフトなものの、吸放湿性能が低いためウエット感には劣るものであった。
このようにソフトでウエット感に富んだ風合いを有するセルロース系繊維はこれまで得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−3820号公報
【特許文献2】特開2008−174480号公報
【特許文献3】特開平7−102419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ソフトでウエット感に富んだ風合いを有するサイドバイサイド型セルロース系複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維は低い初期引張抵抗度および高い吸放湿性能を有しており、該繊維を用いることで、ソフトでウエット感に富んだしっとりした風合いを有する布帛を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
【0011】
本発明の第1の発明は、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維である。
【0012】
第2の発明は、複合繊維の横断面における、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)の面積比が20/80〜80/20であることを特徴とする上記第1の発明に記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維である。
【0013】
第3の発明は、初期引張抵抗度が10〜30cN/dtexであり、かつ吸放湿パラメーター((△MR)が5〜12%であることを特徴する上記第1または2の発明に記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維である。
【0014】
第4の発明は、上記第1〜3の発明のいずれか1項に記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維を少なくとも一部に用いてなる布帛である。
【0015】
第5の発明は、セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維をアルカリ性水溶液で処理して、セルロース脂肪酸混合エステルを実質的に全てセルロース化して得られることを特徴とするサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維は、低い初期引張抵抗度および良好な吸湿特性を有するものである。該繊維を用いた布帛は、ソフトでウエット感に富んだしっとりした風合いを有しており、衣料用途に好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維について詳細に説明する。
【0018】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維とは、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維である。
【0019】
サイドバイサイド型複合繊維とは、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)が繊維長手方向に沿って張り合わされた複合繊維をいう。
【0020】
本発明におけるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の片側の成分であるセルロース系ポリマー(A)は、実質的に全てセルロースからなるものである。実質的にセルロースであることにより、吸放湿性能が非常に優れたものとなり、ウエット感を付与することができる。なおセルロース系ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物などを含有していても良い。
【0021】
本発明におけるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の一部を構成するポリアミド(B)とはアミド結合を有する熱可塑性重合体のことをいうが、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などのラクタムの開環重合で得られる脂肪族ポリアミドやナイロン66、ナイロン610、ナイロン46などジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られる脂肪族ポリアミドを挙げることができ、また前記ポリマーのブレンド物、共重合ポリマーであっても良い。なかでも繊維形成性、製造コスト、汎用性およびセルロース脂肪酸混合エステルとの溶融成形温度が近いことなどから、相対粘度が2.0以上2.8以下であるナイロン6が好ましい。なおポリアミドには、本発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物などを含有していても良い。
【0022】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維におけるセルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)の複合比率(A)/(B)は面積比で20/80〜80/20である。(A)成分と(B)成分の複合比率を前記範囲とすることで、初期引張抵抗度が低下し、また高い吸放湿性能が発現し、布帛にした際、ソフトでウエット感に富んだ風合いを有するものとなる。複合比率(A)/(B)において、セルロース系ポリマー(A)成分の比率が80%より大きい場合、高い放吸湿性能が発現するものの、布帛とした際、べとつきが大きくなってしまい、着用快適性が低下してしまう。さらにポリアミド成分が少なくなるため、十分なソフト性を付与することができなくなる。一方、セルロース系ポリマー(A)成分の比率が20%未満では、十分なソフト性を付与できるものの、高い吸放湿性能が発現せず、本発明の目的とするウエット感に富んだしっとりした風合いを有する布帛を得ることができない。複合比率(A)/(B)は、40/60〜80/20であることがより好ましく、60/40〜80/20であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の初期引張抵抗度は、10〜30cN/dtexである。初期引張抵抗度を10cN/dtex以上とすることで、高次加工工程での取扱性が向上し、また30cN/dtex以下とすることで、ソフトな風合いを有する布帛を得ることが可能となる。初期引張抵抗度は12〜28cN/dtexであることがより好ましく、15〜25cN/dtexであることが更に好ましい。
【0024】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の吸放湿パラメーター(△MR)は5〜12%である。△MRとは吸放湿特性を示すパラメーターである。△MRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るための指標であり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際を想定した30℃・90%RHにおける吸湿率と外気温湿度を想定した20℃・65%RHにおける吸湿率の差である。△MRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く、着用時の快適性が良好であることに対応し、△MRは5.5%以上であることがより好ましく、6.0%以上であることが更に好ましい。一方、△MRを12%以下とすることで、吸湿時の重量増加によって着用時に重さを感じすぎることがなく、またべとつきもひどくならないため好ましい。
【0025】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の強度は0.5〜2.0cN/dtexであることおよび伸度は10〜40%であることが好ましい。強度および伸度が前記値以上であれば、染色中における繊維(布帛)同士の擦れや染色装置との擦れがあっても繊維の破断が発生しにくくなるため染色工程の通過性が良好となり、また実用上十分に耐えうるものとなる。強度は高ければ高いほど好ましいが、0.7cN/dtex以上であることがより好ましく、0.9cN/dtex以上であることが更に好ましい。また伸度は10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。
【0026】
サイドバイサイド型セルロース系複合繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、だるま型断面、扁平断面、その他公知の断面形状のいずれでも良いが、風合いのバランスから丸断面の半円状サイドバイサイド、絹のような光沢付与を目的とした三角断面サイドバイサイドなどが好ましく用いられる。
【0027】
次に本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の製造方法について説明する。
【0028】
本発明のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維は、セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維をアルカリ性水溶液で処理して、セルロース脂肪酸混合エステルを実質的に全てセルロース化して得られる。
【0029】
セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)中のセルロース脂肪酸混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものであり、製糸操業性、コスト面等からセルロース脂肪酸混合エステルとしては、アセチル基とプロピオニル基を有するセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基を有するセルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0030】
溶融紡糸によりサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を得るために、セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)中には可塑剤を含有していても良く、可塑剤としては、例えばポリアルキレングリコール系化合物、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物、フタル酸エステル化合物、脂肪族二塩基酸エステル、ポリエステル系化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステル系化合物およびトリメリット酸エステル系化合物などが挙げられるが、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0031】
サイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維の一部を構成するポリアミド(B)とは、アミド結合を有する熱可塑性重合体のことをいうが、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などのラクタムの開環重合で得られる脂肪族ポリアミドやナイロン66、ナイロン610、ナイロン46などジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られる脂肪族ポリアミドを挙げることができ、また前記ポリマーのブレンド物、共重合ポリマーであっても良い。なかでも繊維形成性、製造コスト、汎用性およびセルロース脂肪酸混合エステルとの溶融成形温度が近いことなどから、相対粘度が2.0以上2.8以下であるナイロン6が好ましい。なおセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)およびポリアミド(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物などを必要に応じて添加しても良い。
【0032】
本発明では、サイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を溶融紡糸して得ることができる。溶融紡糸を行うことにより、溶融紡糸組成物の溶融状態から冷却固化に至るまでに十分に発達した繊維構造を形成させることが可能となり、加えて環境負荷が小さく、生産性にも優れている。
【0033】
溶融紡糸の方法としては、乾燥したセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)ペレットおよびポリアミド(B)ペレットを例えばエクストルーダーにより溶融し、計量ポンプで計量後、紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金で2種の溶融紡糸組成物をサイドバイサイド構造に貼り合わせた後、吐出して糸条を得る。紡出された糸条は冷却装置によって一旦冷却・固化した後、給油装置で油剤を付与し、第1ゴデットローラーで引き取り、第2ゴデットローラーを介して、巻取機で巻き取って、巻取糸(サイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維)を得る。なお製糸安定性、機械的特性を向上させるために必要に応じて紡糸口金下に2〜20cmの加熱筒や保温筒を設置しても良いし、交絡装置で交絡を付与しても良い。
【0034】
溶融紡糸における紡糸温度は230℃〜280℃の範囲であることが好ましい。紡糸温度を230℃以上とすることにより、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー(紡糸口金孔通過時においてポリマーの剪断応力が高いと流線乱れが発生し、紡糸口金より吐出された糸条の形状が不規則になる現象)起因の短ピッチの周期斑が現れず、均一な繊維を得ることができる。更には紡糸口金より吐出された繊維糸条の細化過程がスムーズになるため、機械的特性が良好となり、また紡糸張力が過度に高くならないため糸切れが多発せず、製糸操業性が安定する。また紡糸温度を280℃以下とすることにより、セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)の熱分解を抑制することができるため、得られる繊維の分子量低下による機械的特性不良や着色による品位悪化が発生しない。紡糸温度はより好ましくは240℃〜270℃である。
【0035】
紡糸速度は500m/分〜3000m/分であることが好ましい。紡糸速度を500m/分〜3000m/分とすることにより、発達した繊維構造を形成することが可能となり、機械的特性に優れた繊維を得ることができる。紡糸速度は、1000m/分〜2500m/分であることがより好ましい。
【0036】
巻き取られた繊維は延伸しても良く、延伸は引き取った繊維を一旦巻き取った後、別工程でローラーを用いて延伸しても良いし、引き取った繊維を巻き取ることなく連続して延伸させても良い。延伸する際には均一な延伸を行うために繊維を軟化させることが好ましく、加熱ローラーや熱板に繊維を連続して接触させるなど、公知の手法によって繊維を熱軟化させる手法が好適に採用できる。この際の加熱温度は繊維同士を融着させることなく適度に軟化させるため50〜180℃程度が好ましく、70〜160℃がより好ましい。またサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を構成しているセルロース脂肪酸混合エステルは湿潤下で軟化するため、温水や有機溶媒、水/有機溶媒混合液に接触させ軟化させることも好ましい実施方法である。
【0037】
上記方法で得られたサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維の強度は0.5〜2.0cN/dtex、伸度は10〜60%であることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性や取扱性が良好となる。良好な強度特性の観点から、強度は高ければ高いほど好ましいが、0.6cN/dtex以上であることがより好ましく、0.7cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、伸度については、伸度を10%以上とすることで、紡糸の際、毛羽の発生を抑制することができ、また紡糸工程以降の例えば撚糸、整経、製織、製編工程等の通過性が向上する。また低応力下での繊維の変形を抑制し、また製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を防止するためには60%以下であることが好ましい。伸度は15〜55%であることがより好ましく、20〜50%であることが更に好ましい。
【0038】
繊度変動値(U%)は1.5%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値(U%)が1.5%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを指し、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生しにくく、また染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な布帛となる。繊度変動値(U%)は小さい程よく、より好ましくは1.3%以下、更に好ましくは1.0%以下である。なお繊度変動値(U%)の測定条件に関しては、実施例にて詳細に説明する。
【0039】
上記方法により得られたサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を、常法によってアルカリ性水溶液を用いて処理することによって、セルロース脂肪酸混合エステルがセルロース化され、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維得ることができる。アルカリ性水溶液での処理は、繊維の形態のまま実施してもよいし、複合繊維を織物、編物などの布帛の形態に形成した後に実施してもよい。
【0040】
布帛を形成する際にはサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を主要な構成成分として形成することが好ましい。すなわちサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維のみを用いて布帛とするか、あるいは布帛が複数種の繊維より構成される場合は、布帛を構成する複数の繊維の中でもサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維の混率を1番目もしくは2番目に高くすることが好ましい。
【0041】
複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合した織編物や、サイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を経糸または緯糸のみに用いた織物、さらには綿、絹、麻、羊毛等の天然繊維、レーヨンやセルロースアセテート等の再生繊維・化学繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン等の合成繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
【0042】
編物の組織としては、平編、ゴム編、パール編、両面編等のよこ編やトリコット等のたて編が挙げられる。編物の場合には、製編、熱セットを施した後に、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また織物の組織としては、平織、斜文織、朱子織等が挙げられる。織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。またこれらの前工程として仮撚や流体噴射加工などを行い、繊維に嵩高性を持たせることも可能である。
【0043】
またアルカリ性水溶液を用いた処理の際、アルカリ性水溶液の濃度は10〜100g/Lであることが好ましく、20〜80g/Lで行なうことがより好ましい。処理温度としては50〜120℃であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましく、70〜100℃であることが更に好ましい。処理時間はアルカリ性水溶液の濃度および処理温度によって変わり一概に限定できないが、処理時間が10〜90分の範囲内でセルロース脂肪酸混合エステル成分が十分にセルロース化するようにアルカリ性水溶液の濃度、温度を設定することが好ましい。
【0044】
アルカリ性水溶液を用いた処理方法としては、100℃以下の場合、常圧下でバッチ式の処理槽にて布帛を攪拌・流動させながら処理し、また100℃を超える場合は加圧下で同様に処理を行うことが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
このようにサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を用いて布帛を構成した後、アルカリ性水溶液を用いた処理によりセルロース脂肪酸混合エステルを実質的に全てセルロース化させることでサイドバイサイド型セルロース系複合繊維布帛とすることができ、得られる布帛はソフトでウエット感に富んだしっとりした風合いを有するものとなる。なおサイドバイサイド型セルロース系複合繊維からは、セルロース系繊維としての特徴をさらに高め、また製品耐久性の向上や熱軟化温度も高くなるなど製品の取扱性を向上させるためにセルロース系成分に含まれている可塑剤を溶出しても良い。可塑剤はその全てを溶出しても良いが、一部でも溶出すればセルロース系成分の特徴や製品の取扱性を高めることができる。
【0046】
可塑剤の溶出は製糸工程と連続して行っても良く、また一旦巻き取った後、パッケージの形態で抽出しても良く、さらに布帛とした状態で抽出しても良い。抽出方法としては可塑剤の溶剤(温水、熱水、有機溶剤等)を繊維に接触させることが工業的な簡便性の点から好ましく、溶剤は水を主成分とすることが環境負荷を低減させる観点から好ましい。抽出する温度および時間は可塑剤の種類や添加量によって変わるため一概に限定できないが、本発明者らの知見からは処理温度は20〜90℃、処理時間は1秒〜120分程度が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0048】
A.ポリアミド相対粘度(ηr)
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}
B.強度および伸度
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を初期繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数は5回とし、その平均値を引張強度、伸度とした。なおサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維の強度および伸度は紡糸して得た繊維を測定に供し、またサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の強度および伸度は、サイドバイサイド型セルロース系複合繊維を用いた布帛から該繊維を抜き出し、測定に供した。
【0049】
C.初期引張抵抗度
「JIS L 1013:1999化学繊維のフィラメント糸試験方法・8.10初期引張抵抗度」に準じて行った。すなわち前記強度、伸度の測定と同じ方法で試験を行って荷重−伸長曲線を描き、この図から原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点を求め、「JIS L 1013:1999化学繊維のフィラメント糸試験方法・8.10初期引張抵抗度」に記載の式によって初期引張抵抗度を算出した。なお測定回数は5回であり、その平均値を初期引張抵抗度とした。
【0050】
D.U%
U%測定(ハーフモード)は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
【0051】
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
ツイスター:S撚り、12000/m
E.ソフト感の評価
サイドバイサイド型セルロース系複合繊維からなる布帛を用いて、パネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価し、◎および○を合格とした。
【0052】
◎:9名以上が優れていると判定
○:7〜8名が優れていると判定
×:6名以下が優れていると判定
F.ウエット感の評価
サイドバイサイド型セルロース系複合繊維からなる布帛を用いて、パネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価し、◎および○を合格とした。
【0053】
◎:べたつきがなく、9名以上が優れていると判定
○:べたつきがなく、7〜8名が優れていると判定
×:べたつきがなく、6名以下が優れていると判定
G.吸放湿性評価(吸放湿パラメーター(△MR ))
布帛サンプル約2gを用い、その絶乾時の重量(W)を測定した。この布帛サンプルを20℃・65%RHの状態に調湿された恒温恒湿(ナガノ科学機械製LH−20−11M)中に24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W20)を測定し、その後30℃・90%RHの状態に変更して24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W30)を測定した。得られた重量値を用い、下記式により△MRを求めた。
【0054】
吸湿率差(△MR )(%)={(W30−W20)/W}×100
合成例1
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネート(CAP)のアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.7万であった。
【0055】
実施例1
合成例1で製造したCAP80重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)19.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)ペレット(Mw16.0万)を得た。
【0056】
このセルロース脂肪酸混合エステル組成物とナイロン6(B)(相対粘度=2.61)を別々に溶融し、紡糸温度265℃でサイドバイサイド型構造を有する紡糸口金(丸断面、吐出孔直径0.5mm)を用い吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。
【0057】
次に得られたサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームによりタフタ織物を製織した。このタフタ織物を常法で精練(温度70℃、時間20分)し、この工程においてセルロース脂肪酸混合エステル組成物に含まれていた可塑剤(PEG600)を全量抽出させた。その後100℃で60分間アルカリ性水溶液処理(アルカリ種:NaOH、濃度:1.5%)を行い、サイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維を構成する(C)成分を完全にセルロース化した。
【0058】
得られたタフタ織物からサイドバイサイド型セルロース系複合繊維を抜き出し、各種特性を評価したところ、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)の複合比率(A)/(B)は78/22であり、繊維の強度は0.96cN/dtex、伸度は24.5%、初期引張抵抗度は26.5cN/dtexであった。また吸放湿パラメーター(△MR)は9.8%であり、布帛はソフト感、ウエット感に極めて優れたものであった。
【0059】
実施例2
複合比率を変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸、製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0060】
得られたサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の複合比率(A)/(B)は65/35であり、繊維の強度は0.85cN/dtex、伸度は23.1%、初期引張抵抗度は24.5cN/dtexであった。また吸放湿パラメーター(△MR)は8.1%であり、布帛はソフト感、ウエット感に極めて優れたものであった。
【0061】
実施例3
複合比率を変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸、製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0062】
得られたサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の複合比率(A)/(B)は51/49であり、繊維の強度は0.77cN/dtex、伸度は21.4%、初期引張抵抗度は23.1cN/dtexであった。また吸放湿パラメーター(△MR)は7.5%であり、布帛のソフト感は極めて優れており、またウエット感も極めて優れたものであった。
【0063】
実施例4
複合比率を変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸、製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0064】
得られたサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の複合比率(A)/(B)は33/67であり、繊維の強度は0.63cN/dtex、伸度は18.6%、初期引張抵抗度は19.4cN/dtexであった。また吸放湿パラメーター(△MR)は6.0%であり、布帛のソフト感は極めて優れており、またウエット感も極めて優れたものであった。
【0065】
実施例5
複合比率を変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸、製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0066】
得られたサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の複合比率(A)/(B)は84/16であり、繊維の強度は1.01cN/dtex、伸度は24.9%、初期引張抵抗度は28.0cN/dtexであった。また吸放湿パラメーター(△MR)は12.1%であり、布帛のソフト感は優れており、またウエット感も極めて優れたものであった。
【0067】
実施例6
複合比率を変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸、製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0068】
得られたサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の複合比率(A)/(B)は18/82であり、繊維の強度は0.45cN/dtex、伸度は15.3%、初期引張抵抗度は15.0cN/dtexであった。また吸放湿パラメータ(△MR)は4.8%であり、布帛のソフト感は極めて優れており、またウエット感は優れたものであった。
【0069】
【表1】

【0070】
比較例1
実施例2で得た紡出糸を用いて、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、精練処理を行った。この織物を用いて官能評価を行ったところ、布帛のソフト感およびウエット感は非常に劣ったものであった。
【0071】
比較例2
実施例1で作成したセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)ペレットを真空乾燥した後(80℃、12時間)、二軸エクストルーダーに供給し溶融させ、紡糸温度255℃で紡糸口金(吐出孔直径0.23mm、孔長0.46mm)から吐出させ紡出糸条を得た。この紡出糸条を、風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(紡糸速度1500m/分)で引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機で巻き取った。
【0072】
得られた繊維を用い、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、精練処理を行った。この織物を用いて官能評価をおこなったところ、布帛のソフト感およびウエット感は非常に劣ったものであった。
【0073】
比較例3
比較例2で得た紡出糸を用いて、実施例1と同様に製織、精練処理を行った後、アルカリ性水溶液処理を行った。
【0074】
得られたセルロース繊維の強度は1.50cN/dtex、伸度は13.0%、初期引張抵抗度は41.5cN/dtexであった。また吸放湿パラメータ(△MR)は10.9%であり、布帛のウエット感は極めて優れていたものの、ソフト感は劣っていた。
【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
サイドバイサイド型セルロース系複合繊維は、衣料用繊維をはじめとして、ソフト性、ウエット感が要求される用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース系複合繊維。
【請求項2】
複合繊維の横断面における、セルロース系ポリマー(A)とポリアミド(B)の面積比が20/80〜80/20であることを特徴とする請求項1記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維。
【請求項3】
初期引張抵抗度が10〜30cN/dtexであり、かつ吸放湿パラメーター(△MR)が5〜12%であることを特徴する請求項1または2に記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のサイドバイサイド型セルロース系複合繊維を少なくとも一部に用いてなる布帛。
【請求項5】
セルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物(C)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型セルロース脂肪酸混合エステル系複合繊維をアルカリ性水溶液で処理して、セルロース脂肪酸混合エステルを実質的に全てセルロース化して得られることを特徴とするサイドバイサイド型セルロース系複合繊維の製造方法。

【公開番号】特開2010−242230(P2010−242230A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88880(P2009−88880)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】