説明

サイフォン管

【課題】サイフォン管による容器からの液体取り出しは、容器に特別な構造を必要としないなどメリットがある反面、サイフォンの起動が煩雑である。起動を簡便にするために液体取り出し経路内に弁などを設けると、小型化の可能性を損なってしまい、故障リスクも高まる。
【解決手段】サイフォン管の湾曲部形状において、毛管効果の優勢な内壁間寸法を採用することで、可動部品を設けず、最低限の構成でも容器を傾ける動作だけでサイフォンを起動できる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器から液体を取り出すサイフォン管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サイフォンの原理は、土木治水や各種工場設備から家庭用品まで、液体の輸送に古くから利用されてきた。
【0003】
サイフォン管を用いて容器から液体を取り出す方法は、比較的小規模の系において、容器下部に設けた取り出し口と水栓を用いて取り出す方法に対して下記の点で優れる。
・すでに液体が入った容器に取り出し口がなくても、あとからサイフォン管を設置す
ることで液体の連続・断続的な利用が可能となる。
・容器自体には液体取り出しのための構造が必要ない。突起構造のない、また場合に
よって複数を積層収納が可能な容器を利用できるので、器具一式単独での可搬性向
上と、多数輸送時の輸送コスト削減が可能となる。
・液体取り出しの経路に可動部材を用いずに構成することが可能で、故障のリスクが
少ない。
【0004】
同様に、ポンプを用いた取り出しに対しても、次のような優位性がある。
・くみ出しのための可動部品が経路内にないため、故障のリスクが少ない。
・低コストで構成可能である。
・小型化しやすい。
【0005】
さらに原初的な取り出し方法として、単に容器を傾けて容器縁部から液体を取り出す方法が、容器に取り出し構造がない場合にも可能だが、これに対しても
・取り出しスピードと取り出し位置をサイフォン管で決めることができ、容器外に無
駄にこぼれる液体の量を低減できる。
点でメリットがある。
【0006】
サイフォン管を用いる場合、液体取り出し開始時に、サイフォン又は圧力サイフォン状態を管内に発生させる必要がある。
【0007】
外部の起動手段を用いず、またサイフォン管の液体経路中に弁やポンプ構造をもたない場合、次のような方法が用いられてきたが、それぞれ述べるような問題がある。
【0008】
・サイフォン管全体を液体に浸けて管内を液体で満たし、管内を密閉して使用状態に
設置する方法
サイフォン管が固形の場合、残りの液体が少量時のことも考えると容器幅がサイ
フォン管の長さ以上である必要があり、容器形状により実施不可のことがある。
サイフォン管に柔軟性がある場合はこの限りではないが、一般に液体が少量のと
きは容器が深いほど、取り出し開始作業が大変になる。
液体が人手に触れることが好ましくない場合は実施困難。
【0009】
・取り出し口から空気を吸い出して、サイフォン管内を液体で満たす方法
口での吸い出しが安全上または衛生上問題になる場合は、次項特許文献1のよう
にポンプなどを用いる。小径のサイフォン管であれば、頂部への空気の残留を比
較的容易に低減できるため有効な方法であるが、ポンプ構造の増設が小型化に際
しては阻害要因となる。また、部材の増加で故障のリスクが高まる。
【0010】
・サイフォン管頂部にあらかじめ設けた開閉可能な口から、「呼び水」として液体を
注入してサイフォン管内を満たす方法
主に大がかりな工事などで行われる方法である。取り出し口だけでなく、液体に
浸けた吸液口側も密閉した状態で呼び水を注入しなければならず、小規模な系で
実施するのは煩雑。
また、液体が人手に触れることが好ましくない場合は実施困難。
【0011】
一方、サイフォン管の液体経路中に弁やポンプ構造を設けた例として、次項特許文献2および3にあげる方法がある。
いずれも容器からの液体取り出しに際して、簡易にサイフォン又は圧力サイフォン状態を発生可能な構成であるが、弁やポンプ構造そのものや操作に適した大きさの操作部を増設するため、小型化しにくくなる。また液体取り出しの経路内に可動部品を用いているため、これらがない場合に比して故障のリスクはどうしても高くなる。
【0012】
次に、本発明で利用する、サイフォン又は圧力サイフォンの発生原理を説明する。
【0013】
固体、ここではサイフォン管の内面に接する液体は、接触部分から次式に示す毛管長κ^(-1)程度の距離にわたって、重力よりも毛管効果が優勢な状態にある。
【数1】

ここでρ (kg/m^3)は液体の密度、g (m/s^2)は重力加速度、γ (N/m)は液体の表面張力である。毛管長は、g=9.8 (m/s^2)となる地球上では一般に2から3ミリメートル程度である。詳細は例えば次項非特許文献1などに詳しい。
【0014】
サイフォン状態への移行を、図7から図9を用いて説明する。図中付与した番号は3つの図において共通で、101は液体の入った容器の側壁、102はサイフォン管、103は容器内の液面、104はサイフォン管内の液面、105はサイフォン管102と容器側壁101に挟まれた空間の液面、106の矢印は図中で毛管長を示す指標(注意を後述する)である。
【0015】
図7は容器を平置した状態を示す図で、容器内の液面103とサイフォン管内の液面104とは、サイフォン管102/側壁101に接する近傍をのぞいて垂直方向ほぼ一致したレベルにある。狭くなった空間の液面105は、やや高いレベルにある。
【0016】
図8は、サイフォン状態への移行手前まで容器を傾けた状態を示す図で、容器内の液面103は側壁101の縁部よりも多少高めのレベルにあり、表面張力でこぼれない状態にある。この時サイフォン管内液面104は、容器内液面103よりも毛管長106程度高い位置で管内上面と接している。液面105は、側壁101の縁面に上昇する。
【0017】
図9は、サイフォン状態へ移行する角度まで容器を傾けた状態を示す図で、容器内液面103はさらに上昇して、容器縁よりも毛管長程度高くなっている。ここに至ると、サイフォン管102の内壁上面と容器内液面103とのレベル差が、最高部においても毛管長106以下となり、サイフォン管内液面104は最高部を越えて容器外側まで導かれる。
【0018】
容器外側に移った液体は、サイフォン管内面間の距離が毛管長の2倍より大きくなると重力の影響を優勢に受けるようになる。サイフォン管内液面104は、実際には図9の状態を経てサイフォン管102を容器外の方向に下って行く。ほどなく液面はサイフォン管の末端を通過して容器外の空間に至り、サイフォン又は圧力サイフォン状態が成立する。液面105は、空間が毛管長106より充分小さければ、表面張力が優勢で、容器外に進むには至らない。
【0019】
上記原理により、液体や使用環境に応じて適切な材質・形状を採用することで、好適に液体の取り出しが可能である。
【0020】
図7から図9に示した毛管長の指標106はあくまで説明のための目安で、本来はそれぞれ液体と各部との接触角や、壁面と重力との角度に影響される別々の値であるが、実用上図9の指標ふたつを合わせた動作条件値としては、管の壁厚と容器からの浮きを差し引いて、毛管長の2倍程度以下と見てよい。
【0021】
サイフォン管の断面積を大きくする場合、上述したようにサイフォン管102内壁間の寸法要求がほぼ決まっているため形状的に困難が発生するが、製造の精密さをもってある程度はカバーできる。
【0022】
実際の検討では、サイフォン管の材質はステンレス/真鍮/ポリカーボネイト/アクリル/PET、管端における断面は円で直径6mm以下のものを使用した。容器の材質は陶器/ガラス/スチール/ステンレス/チタン/プラカップ、液体は水および熱湯で確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第一三二九七號公報
【特許文献2】特開2000−209978号公報
【特許文献3】實公 昭24ー6552号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】ドゥジェンヌ他著/奥村剛訳 「表面張力の物理学 第2版 ーしずく、あわ、みずたま、さざなみの世界」 吉岡書店 2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
解決しようとする問題点は、サイフォン管による液体の取り出し開始作業が一般に煩雑な点であり、またこの点を解決する場合に、器具の小型化が難しくなり、故障のリスクも高まる点である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、サイフォン管の、容器の縁部に接する湾曲部の形状を一定範囲にわたり液体の毛管長の2倍程度以下の内壁間距離とすることで、容器を傾けることによりサイフォン又は圧力サイフォン現象を発生することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のサイフォン管は、容器を傾けることで簡易に液体の取り出しを開始でき、かつ部材の追加がないため、器具が大きくならず、また故障もしにくいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1はサイフォン管の使用時構成を示した説明図である。(実施例1)
【図2】図2は図1構成の使用時動作を示した説明図である。(実施例1)
【図3】図3は図1構成の使用時動作を示した説明図である。(実施例1)
【図4】図4はサイフォン管の使用時構成を示した説明図である。(実施例2)
【図5】図5は図4構成の使用時動作を示した説明図である。(実施例2)
【図6】図6は図4構成の使用時動作を示した説明図である。(実施例2)
【図7】図7はサイフォン管の動作の詳細を示した説明図である。(背景技術)
【図8】図8はサイフォン管の動作の詳細を示した説明図である。(背景技術)
【図9】図9をサイフォン管の動作の詳細を示した説明図である。(背景技術)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のサイフォン管を2つの実施例で説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明第1の実施例の使用時構成を示す図で、1が容器、2が液体、3がサイフォン管(以下同、サイフォン管3は図3まで)である。サイフォン管3は容器外側に突起部分を持つので、容器1の縁部に設置された状態で重みによって傾いた状態にある。
【0031】
図2は、液体の取り出し開始時の状態を示した図である。容器1内の液面が容器の縁部から充分盛り上がる状態において、前記背景技術で説明した原理によりサイフォン又は圧力サイフォン状態が成立し、液体の取り出し流4が発生する。
【0032】
図3は、図2の状態の後、多少容器1の傾きを戻した状態を示す。この状態ではまだ、サイフォン管3の下流先端が容器1内の液面よりも低い位置にあるため、取り出し流4は継続する。つまり、取り出し開始の条件よりも広い傾き範囲で、取り出しの継続が可能であり、またこの範囲内で、取り出しスピードの調整が可能である。
【0033】
取り出しの停止は、液体の流出で容器1内の液面がサイフォン管3の下流先端よりも低くなるか、容器1の傾きを戻すかさらに逆に傾けて、サイフォン管3の下流先端を容器1内の液面よりも高い状態を作った場合に起きる。
取り出しを停止せず、液体の流出に合わせて容器1の傾きを増してゆくことで、容器1内の液体をほぼ全て連続で取り出すことも可能である。
【0034】
本構成は、サイフォン管3単部品のみで、容器1からの液体取り出しを簡単に開始/停止できるため、特に器具一式の収納性や携帯性を重視する用途に適する。サイフォン管3は、湾曲部以外を分割構成としてフレキシブルにするなど、用途に応じてさらに収納/携帯性を改善することもできる。
【実施例2】
【0035】
図4は、本発明第2の実施例の使用時構成を示す図で、5は第2実施例のサイフォン管、6は延長管、7はサイフォン管5と延長管6を気密に接続する接続部、8は延長管6とサイフォン管5を容器1に保持する支持具である。サイフォン管5の湾曲部をほぼ180度転回とし、延長管6でいったん容器1の底レベルの高さまで落としてから下流先端を容器1の縁部高さ程度まで持ち上げたのが特徴である。
【0036】
図5は、液体の取り出し開始時の状態を示した図である。実施例1同様、ここでサイフォン又は圧力サイフォン状態が成立する。液面は延長管6の転回部まで落ちた後再び、容器1内の液面より低い位置にある延長管6を進んで下流端を通過し、取り出し流9が発生する。
【0037】
図6は、図5の後、容器1をもとの姿勢に戻した図である。第1実施例との違いは、この状態で取り出し流9はなくなっているが、サイフォン状態は解消されずに液面は延長管6の下流端手前、10の位置にとどまることである。この状態で再び容器1に傾きを与えれば、容器1内の液面が容器1の縁部に達しない角度であっても、延長管6の下流先端が容器1内の液面より低いレベルになった時点で、取り出し流9が復活する。この構成ではサイフォン状態が一度発生すると、液体を取り出し切るか、サイフォン管がはずされなければ解消しない。
【0038】
第2実施例の構成は、取り出し流9の強さを微妙に調整しながら少量ずつ、液体を取り出し使用する場合に大変有効である。接続部7は、サイフォン管5と延長管6を分割可能として清掃を容易にする。延長管6に折り曲げ可能な弾性材を採用することで、収納性・携帯性も大きく損なうことなく実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
容器から液体を取り出す器具・装置を製造する産業で利用される。
【符号の説明】
【0040】
1 容器
2 液体
3 サイフォン管(実施例1)
5 サイフォン管(実施例2)
6 延長管(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の液体を取り出すサイフォン管において、容器の縁部に接する湾曲部の形状が一定範囲にわたり液体の毛管長の2倍程度以下の内壁間距離をもつことを特徴とし、容器を傾けることによりサイフォン又は圧力サイフォン現象を発生するサイフォン管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−91844(P2012−91844A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242076(P2010−242076)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【特許番号】特許第4806095号(P4806095)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(710012070)
【Fターム(参考)】