説明

サイレンサ

【課題】塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減するサイレンサを提供する。
【解決手段】吸音通路36を形成する通路形成部材32の外周側には、筒状の多孔板34が設けられている。多孔板34は、板厚方向に貫く複数の細孔を有している。吸音通路36の外周側に多孔板34を設けることにより、吸音通路36を流れる空気から発生する音は吸音材を用いることなく低減される。多孔板34は、金属で形成されている。そのため、例えば連通発泡樹脂や繊維からなる吸音材のように塵や埃の発生源とならない。したがって、塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレンサに関し、特に空気の流れによって生じる音を低減するサイレンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばエンジンからの排気音などを低減するために、エンジンの排気通路にはサイレンサが設けられている。サイレンサは、排気通路を形成する排気管の外周側に容積室を有している。容積室には、例えばガラス繊維あるいは発泡樹脂などから形成されている吸音材が充填されている。このような構成により、サイレンサでは、排気通路を流れる空気から生じる音の低減が図られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上述のようにエンジンの排気通路など、空気の流れ方向において下流側の端部が大気に開放されている通路にサイレンサを設ける場合、仮に吸音材を形成するガラス繊維あるいは発泡樹脂から塵や埃が生じても、大気中に放出されるだけである。しかしながら、空気の流れ方向において下流側の端部が機能部に接続している場合、サイレンサの吸音材から塵や埃が生じると、生じた塵や埃は機能部に吸入される。
【0004】
例えば、機能部である燃料電池に空気を供給する空気供給装置の場合、空気供給装置には吸気音を低減するためのサイレンサが設けられている。燃料電池では、空気が流れる空気通路は数μmから数十μm程度の微細な通路である。そのため、サイレンサの空気導入側には空気中の微細な異物を除去するためのフィルタが設けられている。しかし、吸音材をガラス繊維あるいは発泡樹脂などの吸音材で形成すると、導入される空気中の異物をフィルタで除去したとしても、フィルタよりも燃料電池側に配置されるサイレンサのガラス繊維あるいは発泡樹脂から生じた塵や埃が燃料電池に侵入するおそれがある。その結果、燃料電池への空気の供給が妨げられ、燃料電池の機能が低下するおそれがある。
【0005】
また、例えばエンジンの場合、吸気通路に吸気音を低減するためのサイレンサが設けられている。この場合、サイレンサの吸音材から生じた塵や埃は吸気通路を経由してエンジンに吸入される。その結果、エンジンの機能の低下を招くおそれがある。
【特許文献1】実用新案登録第3077427号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減するサイレンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、導入する空気中の異物を除去するフィルタ部材と、前記フィルタ部材に接続し、前記フィルタ部材を通して導入された空気が流れる入口通路を形成する入口側通路部材と、前記入口側通路部材の前記フィルタ部材とは反対側の端部に接続し、前記入口通路よりも断面積が大きな容積室を形成するケーシングと、前記ケーシングの前記入口側通路部材とは反対側の端部に接続し、前記容積室よりも断面積が小さく前記ケーシングを通過した空気が流れる出口通路を形成する出口側通路部材と、複数の細孔を形成する筒状の多孔板を有し、前記ケーシングの内部において、前記入口側通路部材と前記出口側通路部材とを接続し、前記多孔板の内周側に前記入口通路の前記容積室側の端部と前記出口通路の前記容積室側の端部とを接続する吸音通路を形成する吸音部と、を備える。
吸音部は、多孔板を有している。多孔板は筒状に形成され、ケーシングの内部において多孔板の内周側には入口通路と出口通路とを接続する吸音通路が形成されている。多孔板は、複数の細孔を有している。多孔板に複数の細孔を形成し、これらの細孔の開孔率を制御することにより、吸音通路を流れる空気から生じる音は減衰される。また、多孔板は、例えば連通発泡樹脂や繊維からなる吸音材と比較して、ほころびが生じにくく、塵や埃の発生は低減される。したがって、塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減することができる。
【0008】
(2)本発明では、前記吸音部は、筒状に形成され内部に前記吸音通路を形成し側壁を貫いて前記吸音通路と前記容積室とを接続する開口を有する吸音通路形成部材と、前記吸音通路形成部材の外周側に覆っている前記多孔板とを有する。
すなわち、吸音部は、吸音通路を形成し骨格となる吸音通路形成部材と、この吸音通路形成部材の外周側を覆う多孔板とを有する。これにより、吸音通路と容積室とは、吸音通路形成部材の側壁に形成されている開口を通して接続される。そのため、吸音通路を流れる空気の音は、開口を経由して音を減衰させる多孔板へ伝搬する。したがって、塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減することができる。
【0009】
(3)本発明では、前記吸音通路形成部材と前記多孔板とは、ほぼ密着していてもよい。
【0010】
(4)本発明では、前記吸音通路形成部材と前記多孔板との間には、隙間が形成されていてもよい。
【0011】
(5)本発明では、前記多孔板は、金属または樹脂で形成されている。
これにより、吸音通路を通過する気体の種類に関係なく、多孔板の材料を選択することができる。例えば、金属を腐食させる気体の場合、樹脂製の多孔板を用いることにより、多孔板の腐食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態によるサイレンサを図面に基づいて説明する。
ここでは、本発明の一実施形態によるサイレンサの適用の一例として、サイレンサを燃料電池モジュールの空気供給装置に適用した例を説明する。すなわち、本発明の一実施形態によるサイレンサの燃料電池モジュールへの適用はあくまでも例示である。したがって、本発明の構成を採用したサイレンサは、例えば車両のエンジンの吸気装置またはクリーンルームの吸気装置など、塵や埃の発生が好ましくなく、かつ空気の流れにともなう音の低減が要求される装置に適用することができる。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態によるサイレンサを適用した燃料電池モジュールの構成を示すブロック図である。燃料電池モジュール10は、燃料電池セル11を備えている。燃料電池セル11としては、例えば直接メタノール型燃料電池(DMFC)などが適用される。なお、燃料電池セル11に代えて、燃料電池セル11を複数積層した燃料電池スタックを用いてもよい。燃料電池セル11は、燃料極12と、空気極13と、燃料極12と空気極13との間に挟み込まれた電解質膜14とを有している。DMFCの場合、燃料極12側には、燃料としてメタノールの水溶液が供給される。空気極13側には、酸素を含む空気が供給される。また、燃料極12側からは、反応生成物として二酸化炭素が排出される。空気極13側からは、反応生成物として主として水からなる廃液が排出される。燃料極12および空気極13は、外部の負荷15と電気的に接続される。
【0014】
燃料電池モジュール10は、空気供給装置20および燃料供給装置50を備えている。空気供給装置20は、大気中から空気を導入し、導入した空気を燃料電池セル11の空気極13へ供給する。燃料供給装置50は、燃料タンク51に蓄えられた燃料を燃料電池セル11の燃料極12に供給する。燃料供給装置50は、燃料ポンプ52を有している。燃料ポンプ52の燃料導入側は、燃料導入通路53を経由して燃料タンク51に接続している。燃料タンク51は、燃料となるメタノールの水溶液を蓄える。燃料ポンプ52の吐出側は、燃料供給装置50を経由して燃料電池セル11の燃料極12に接続している。これにより、燃料供給装置50は、燃料タンク51から吸入したメタノール水溶液を燃料電池セル11の燃料極12へ供給する。
【0015】
空気供給装置20は、ポンプ21およびサイレンサ30を備えている。ポンプ21は、図示しない電気モータなどによって駆動される。ポンプ21は、例えば図示しないハウジングなどに収容してもよい。ポンプ21には、図2に示すように吸入部22および吐出部23が接続している。吸入部22は、吸入通路部材24を経由してサイレンサ30に接続している。一方、吐出部23は、吐出通路部材25を経由して図1に示す空気供給通路26に接続している。空気供給通路26は、ポンプ21と燃料電池セル11の空気極13とを接続している。
【0016】
サイレンサ30は、図2および図3に示すようにフィルタ部材31、通路形成部材32、ケーシング33および多孔板34を備えている。フィルタ部材31は、通路形成部材32の軸方向において一方の端部に取り付けられている。フィルタ部材31は、空気供給装置20に導入される空気に含まれる異物を捕集する。これにより、フィルタ部材31を通過する空気に含まれる異物は除去される。
【0017】
通路形成部材32は、中空の筒状に形成されている。通路形成部材32は、軸方向の一方の端部にフィルタ部材31を有している。通路形成部材32は、フィルタ部材31側の端部から反対側の端部まで一本の部材で形成されている。すなわち、本実施形態の場合、通路形成部材32は、フィルタ部材31側の端部から順に入口側通路部材、吸音通路形成部材および出口側通路部材を一体に有している。これにより、筒状の通路形成部材32は、内周側にフィルタ部材31側の端部から順に入口通路35、吸音通路36および出口通路37を形成している。その結果、入口通路35および出口通路37は、吸音通路36に接続している。
【0018】
ケーシング33は、通路形成部材32の外周側に取り付けられている。ケーシング33は、中心部を通路形成部材32が貫く、円筒状に形成されている。ケーシング33は、内径が通路形成部材32の外径よりも大きい。これにより、ケーシング33が通路形成部材32との間に形成する容積室38の断面積は、通路形成部材32が形成する入口通路35、吸音通路36および出口通路37の断面積よりも大きくなる。ケーシング33は、一体に形成してもよく、例えば径方向または軸方向へ複数の部材に分割してもよい。
【0019】
本実施形態の場合、通路形成部材32およびケーシング33は、樹脂で形成されている。そのため、通路形成部材32とケーシング33とは、例えば接着あるいは溶着などによって一体に組み付けられている。ケーシング33は、軸方向の両端部、すなわち入口通路35側の端部および出口通路37側の端部にそれぞれ壁部41、42を有している。壁部41、42の内周側の端部は、通路形成部材32の外周面に接続している。これにより、容積室38は、ケーシング33の軸方向における両端部が壁部41および壁部42で塞がれた空間となる。
【0020】
通路形成部材32は、吸音通路36を形成している部分、すなわちケーシング33の壁部41と壁部42との間に、開口部43を有している。開口部43は、筒状の通路形成部材32の側壁を貫いている。これにより、吸音通路36と容積室38とは、開口部43を経由して接続している。図2に示す本発明の一実施形態の場合、開口部43は円形状に形成している。また、図2では、通路形成部材32の軸方向へ五つ、周方向へ四つの開口部43を形成する例について示している。なお、開口部43は、円形に限らず、軸方向へ伸びるスリット状に形成してもよい。また、通路形成部材32の軸方向および周方向への開口部43の数および形状は、吸音通路36を流れる空気に特有の音の周波数、あるいは空気の流量に応じて任意に設定することができる。
【0021】
通路形成部材32のうち吸音通路36を形成する部分、すなわち壁部41と壁部42との間では、通路形成部材32の外周側に開口部43を含む通路形成部材32を覆う多孔板34が設けられている。多孔板34は、通路形成部材32の外周側を周方向へ連続して覆っている。多孔板34は、例えばステンレス、アルミニウムまたは銅などの金属の薄板、あるいはPETまたはポリイミドなどプラスチックなどの樹脂で形成されている。多孔板34は、複数の微細な細孔を有している。多孔板34の細孔は、多孔板34を板厚方向に貫いている。多孔板34の細孔は、例えば薄い金属板をエッチングしたり、レーザなどで金属板を部分的に除去したり、あるいは細い金属繊維を網状に編み込むことにより形成される。多孔板34としてプラスチックの薄板を用いる場合、プレスやパンチなどによって細孔を形成してもよい。吸音通路36を形成する通路形成部材32および多孔板34は、特許請求の範囲の吸音部を構成している。
【0022】
多孔板34は、通路形成部材32の外周面にほぼ密着して設けられている。但し、多孔板34を円筒状の通路形成部材32の外周側に設ける場合、多孔板34は自身の変形により通路形成部材32の外周面へ完全に密着せず、多孔板34と通路形成部材32との間にはわずかな隙間が形成されることがある。このように、多孔板34と通路形成部材32との間には、隙間が形成されてもよく、積極的に隙間を形成してもよい。多孔板34は、例えば接着などによって通路形成部材32に固定してもよく、図示しないリング部材で締め付けることにより通路形成部材32に固定してもよく、さらには通路形成部材32にピンなどを打ち込むことによって多孔板34を通路形成部材32に固定してもよい。このように、多孔板34と通路形成部材32との固定手段は、任意に選択することができる。
【0023】
なお、上述の実施形態では、通路形成部材32で入口通路部材、吸音通路形成部材および出口通路部材を一体に形成する例について説明した。しかし、入口通路部材、吸音通路形成部材および出口通路部材は、それぞれ個別または任意の組み合わせで一体に形成してもよい。また、入口通路部材、吸音通路形成部材、出口通路部材およびケーシング33は、例えば組み付けあるいは型割の容易さなどを考慮して任意の組み合わせで形成することができる。
【0024】
次に、上記の一実施形態によるサイレンサ30を用いた実験例および比較例について説明する。
以下の実験例では、図4に示すようにサイレンサ30の大きさを設定している。すなわち、ケーシング33は内径D1を6cm、軸方向の全長L1を10cmに設定し、通路形成部材32は内径D2を2.2cm、軸方向の全長L2を14cmに設定している。また、通路形成部材32の開口部43は、内径φが1.5cmである。各実験例および比較例では、この通路形成部材に取り付ける多孔板を表1に示すように各種の条件に設定している。
【0025】
【表1】

【0026】
以下、各実験例および比較例の条件について説明する。以下の各実験例および比較例において、開孔率とは、多孔板34の総面積に対する細孔の総面積の割合である。
各実験例および各比較例において、音圧レベルは、図5に示すような測定装置60を用いて測定している。測定装置60は、サイレンサ30、音発生部61および音検出部62から構成されている。音発生部61は、所定の周波数の音を発生する。音検出部62は、サイレンサ30に接続されており、サイレンサ30を通して音発生部61から発生した音を検出する。音圧レベルの測定は、測定装置60に各実験例および比較例のサイレンサを取り付けた後、音発生部61から周波数を変化させつつ音を発生し、この音をサイレンサを通して音検出部62で検出する。これにより、周波数ごとにサイレンサの消音特性が測定される。
【0027】
(サイレンサの形態の比較)
サイレンサの形態による消音特性を比較するために、実験例1、比較例1、比較例2およびサイレンサなし、について比較を行った。
実験例1では、サイレンサ30の多孔板34は、材質がステンレスであり、板厚が50μmであり、細孔の開口径が75μmである。また、多孔板34の開孔率は0.9%に設定している。
【0028】
サイレンサ30が設けられていないサイレンサなしの場合、ポンプ21には図6に示すように通路形成部材71のみが接続している。通路形成部材71は、側壁に開口部を有しない単なる筒状の部材であり、内周側に空気通路72を形成している。
また、比較例1では、膨張型のサイレンサを採用している。図7に示すように比較例1による膨張型のサイレンサ80は、通路形成部材81の外周側にケーシング82が設けられている。通路形成部材81の側壁には、通路形成部材81が形成する吸音通路83と、通路形成部材81とケーシング82との間に形成される容積室84とを接続する開口部85が形成されている。比較例1のサイレンサ80の場合、通路形成部材81は例えばステンレスなどの金属で形成されており、プレス加工などにより開口部85が形成されている。一方、ケーシング82は、樹脂で形成されている。
【0029】
一般に膨張型のサイレンサは、空気が流れる通路の断面積を変化させることにより、断面積が小さな通路から断面積の大きな通路へ伝わる音の大きさが低減するものである。膨張型のサイレンサの場合、断面積が小さな通路側と断面積が大きな膨張側との断面積の比によって低減される音量が定まる。また、膨張型のサイレンサでは、膨張側の容積室の長さによって低減される周波数が決定される。
【0030】
比較例2では、吸音材型のサイレンサを採用している。図8に示すように比較例2による吸音材型のサイレンサ90は、通路形成部材91の外周側にケーシング92が設けられている。通路形成部材91の側壁には、通路形成部材91が形成する吸音通路93と、通路形成部材91とケーシング92との間に形成される容積室94とを接続する開口部95が形成されている。比較例2のサイレンサ90の場合、通路形成部材91およびケーシング92は、樹脂で形成されている。また、通路形成部材91とケーシング92との間に形成される容積室94には、発泡ポリウレタンフォームからなる多孔質の吸音材96が充填されている。なお、多孔質の吸音材96に代えて、例えばガラス繊維やフェルトなどの繊維系の吸音材を充填してもよい。
【0031】
(多孔板の開孔率の影響)
多孔板34の開孔率と消音特性とを比較するために、実験例2、実験例3、実験例4および比較例3について比較を行った。
実験例2から4および比較例3では、サイレンサ30の多孔板34は、いずれも材質がステンレスであり、板厚が50μmであり、細孔の開口径が75μmである。
実験例2では、多孔板34の開孔率は4.2%に設定している。
実験例3では、多孔板34の開孔率は35.4%に設定している。
実験例4では、多孔板34の開孔率は0.4%に設定している。
比較例3では、多孔板34の開孔率は0.2%に設定している。
【0032】
(多孔板の板厚の影響)
多孔板34の板厚と消音特性とを比較するために、実験例5から実験例10および比較例4について比較を行った。
実験例5から10および比較例4では、サイレンサ30の多孔板34は、いずれも材質がステンレスであり、細孔の開口径が75μmである。
実験例5では、多孔板34の板厚は100μmであり、開孔率は8.2%である。
実験例6では、多孔板34の板厚は100μmであり、開孔率は2.8%である。
実験例7では、多孔板34の板厚は100μmであり、開孔率は0.9%である。
実験例8では、多孔板34の板厚は200μmであり、開孔率は22.7%である。
実験例9では、多孔板34の板厚は200μmであり、開孔率は19.9%である。
実験例10では、多孔板34の板厚は200μmであり、開孔率は5.7%である。
比較例4では、多孔板34の板厚は200μmであり、開孔率は1.2%である。
【0033】
(多孔板の材質の影響)
多孔板34の材質と消音特性とを比較するために、実験例11から実験例14について比較を行った。
実験例11から実験例14では、多孔板34は、いずれも板厚が100μmであり、細孔の開口径が75μmである。実験例15および実験例16は、いずれも板厚が50μmであり、細孔の開口径が75μmである。
実験例11では、多孔板34の材質はアルミニウムであり、開孔率は8.2%である。
実験例12では、多孔板34の材質はアルミニウムであり、開孔率は2.8%である。
実験例13では、多孔板34の材質はアルミニウムであり、開孔率は0.9%である。
実験例14では、多孔板34の材質は銅であり、開孔率は0.9%である。
実験例15では、多孔板34の材質はPET(ポリエチレンテレフタレート)であり、開孔率は0.9%である。
実験例16では、多孔板34の材質はポリイミドであり、開孔率は0.9%である。
【0034】
(多孔板の開口径の影響)
多孔板34の細孔の開口径と消音特性とを比較するために、実験例17から実験例20について比較を行った。
実験例17から実験例20では、多孔板34は、いずれも材質がステンレスであり、板厚が100μmである。
実験例17では、多孔板34の細孔の開口径は50μmであり、開孔率は1.9%である。
実験例18では、多孔板34の細孔の開口径は100μmであり、開孔率は3.6%である。
実験例19では、多孔板34の細孔の開口径は150μmであり、開孔率は2.0%である。
実験例20では、多孔板34の細孔の開口径は200μmであり、開孔率は0.9%である。
【0035】
(比較結果)
サイレンサの形態について比較した結果を図9に示す。図9には、実験例1、比較例1および比較例2の各サイレンサ30、80、90およびサイレンサなしの場合について、オクターブバンド中心周波数と音圧レベルとの関係の概略を示している。
図9に示すように、サイレンサなしのものに比較して、実験例1のサイレンサ30、比較例1のサイレンサ80および比較例2のサイレンサ90は、周波数のほぼ全域において音圧レベルが低下している。但し、比較例1のサイレンサ80では、一部の周波数において音圧レベルが突出し、音圧レベルの低減が図れていない。これは、膨張型のサイレンサ80である比較例1の場合、その特性によって特定の周波数の音のみが低減され、その他の周波数の音が例えば共鳴などによって大きくなるためと考えられる。
【0036】
実験例1のサイレンサ30は、吸音材を充填した比較例2のサイレンサ90と各周波数領域において概ね同様の消音特性を示す。これにより、実験例1のサイレンサ30は、塵や埃の発生源となる吸音材を用いることなく、吸音材96を充填した比較例2と同様の消音性能を発揮することが分かる。
【0037】
次に、表1を参照して、各種の多孔板34と消音特性との関係について比較する。
実験例2および実験例3では、多孔板34の細孔の開孔率が増大すると、騒音レベルが増大することが分かる。これは、細孔の開孔率が増大すると、多孔板34を設けていない状態、すなわち比較例1の膨張型のサイレンサ80に特性が近似するためと考えられる。
一方、実験例4および比較例3では、多孔板34の細孔の開孔率が減少すると、騒音レベルが増大することが分かる。これは、細孔の開孔率が減少すると、細孔の形成されていない薄板、すなわちサイレンサがない状態に特性が近似するためと考えられる。
【0038】
実験例5から実験例10および比較例4では、多孔板34の板厚を増加した場合、細孔の開孔率を増加させないと、騒音レベルが増大することが分かる。すなわち、多孔板34の板厚の増大に応じて細孔の開孔率を増加させることにより、サイレンサ30の消音特性は維持される。これは、多孔板34の板厚を増加した場合、細孔の全長が板厚に応じて長くなるため、見かけ上、開孔率が低下し、サイレンサがない状態に特性が近似するためと考えられる。
【0039】
実験例11から実験例16では、多孔板34の材質はサイレンサ30の消音特性に大きな影響がないことが分かる。但し、多孔板34をプラスチックの薄板で形成した実験例15および実験例16では、やや騒音レベルが増大する。これは、プラスチック製の多孔板34の場合、例えばプレスやパンチなどによる打ち抜きによって細孔を形成している。そのため、金属製の多孔板34と比較して例えば細孔の形成精度あるいは形状精度などが低下するためと考えられる。
【0040】
また、プラスチック製の多孔板34の場合、例えば塩酸や硝酸などの腐食性を有する蒸気を含む空気に適用することができる。これに対し、例えば塗装作業場のサイレンサのように、有機溶剤の蒸気を含む空気は、プラスチック製の多孔板34の溶解を招くおそれがあり、好ましくない。さらに、吸音通路36を流れる空気の流量が大きい場合、および空気の温度が高い場合、プラスチック製の多孔板34の強度の低下を招くおそれがある。
一方、金属製の多孔板34の場合、有機溶剤の蒸気を含む蒸気、高圧あるいは大流量の空気、および高温の空気にも適用することができる。これに対し、金属製の多孔板34の場合、例えばめっき作業場のように、上述した塩酸や硝酸などの腐食性を有する蒸気を含む空気への適用は好ましくない。このように、多孔板34は、細孔の形成しやすさ、材料の価格、あるいは適用する気体などを考慮して任意の材質を選択することができる。
【0041】
実験例17から実験例20では、多孔板34の細孔の開口径を変化させた場合、開孔率を調整することにより、サイレンサ30の消音特性は維持される。すなわち、細孔の開口径および開孔率は、吸音通路36を流れる空気の周波数あるいは空気の流量などに応じて任意に組み合わせることができる。
【0042】
以上の表1では、音圧レベルが58dB(F)以下であれば消音効果が十分であると判定している。また、本実施形態の各実験例の場合、音圧レベルが58dB(F)であっても、比較例1のように特定の周波数に音圧のピークは見られない。そのため、本実施形態の各実験例では、特定の周波数の音による耳障りな騒音が低減され、全体として消音特性が向上する。
【0043】
以上、各実験例を用いて説明したように、本発明の一実施形態によるサイレンサ30では、吸音材を用いることなく吸音通路36を流れる空気の音が低減される。多孔板34は、吸音通路36を形成する通路形成部材32の外周側に筒状に設けられている。多孔板34に複数の細孔を形成することにより、吸音通路36を流れる空気から生じる音は減衰される。多孔板34は、金属で形成されている。そのため、例えば樹脂や繊維からなる吸音材のような塵や埃が発生しにくい。したがって、塵や埃の発生を低減しつつ、空気の流れによって生じる音を低減することができる。
【0044】
また、サイレンサ30は、多孔板34によって吸音通路36を流れる空気の音を低減するため、塵や埃の発生が低減される。そのため、フィルタ部材31で異物が除去された空気は、サイレンサ30から発生する異物を含むことなく、下流側の機能部へ流入する。その結果、本実施形態のようにサイレンサ30を燃料電池モジュール10に適用する場合、燃料電池セル11への異物を含む空気の供給は低減される。したがって、燃料電池セル11の空気通路の目詰まりなどが低減され、燃料電池セル11の機能を長期間にわたり安定して発揮させることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
上述した本発明の一実施形態では、吸音部として吸音通路36を形成する通路形成部材32の外周側に多孔板34をほぼ密着して取り付ける構成について説明した。しかし、本発明では、通路形成部材と多孔板との位置関係は、上述の一実施形態に限らない。以下において、本発明によるサイレンサのその他の実施形態について説明する。
【0046】
図10に示すように、サイレンサ30の通路形成部材32と多孔板34とは、相互の間に所定の距離を形成してもよい。すなわち、通路形成部材32と多孔板34との間には、所定の隙間を形成してもよい。
また、図11に示すように、サイレンサ30の多孔板34は、軸に垂直な断面が矩形状でもよい。すなわち、多孔板34は、通路形成部材32の断面形状と相似形状である必要はなく、例えば楕円形状あるいは多角形状など、任意の形状に設定することができる。また、この場合、ケーシング33と多孔板34との間に支持部45を設け、支持部45によって多孔板34をケーシング33に支持する構成としてもよい。
【0047】
さらに、図12に示すように、多孔板34で吸音通路36を直接形成する構成としてもよい。すなわち、通路形成部材32を廃止し、入口部46および出口部47が一体または別体に形成されたケーシング33の内部に筒状の多孔板34を取り付けてもよい。これにより、筒状の多孔板34は、内周側に吸音通路36を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態によるサイレンサを適用した燃料電池モジュールを示すブロック図。
【図2】本発明の一実施形態によるサイレンサを適用した空気供給装置を示す概略図。
【図3】本発明の一実施形態によるサイレンサを示す概略図であり、(A)は中心軸を含む平面で切断した断面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図。
【図4】本発明の一実施形態によるサイレンサの概略を示す断面図。
【図5】本発明の一実施形態によるサイレンサの特性を測定するための測定装置を示す概略図。
【図6】比較のためにサイレンサなしの空気通路を形成する通路形成部材を示す概略図。
【図7】比較例1によるサイレンサの概略を示す断面図。
【図8】比較例2によるサイレンサの概略を示す断面図。
【図9】本発明の一実施形態によるサイレンサの実験例1、比較例1、比較例2およびサイレンサなしの場合におけるオクターブバンド中心周波数と音圧レベルとの関係を示す模式図。
【図10】本発明のその他の実施形態によるサイレンサの概略を示す図であり、(A)は中心軸を含む平面で切断した断面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図。
【図11】本発明のその他の実施形態によるサイレンサの概略を示す図であり、(A)は中心軸を含む平面で切断した断面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図。
【図12】本発明のその他の実施形態によるサイレンサの概略を示す図であり、(A)は中心軸を含む平面で切断した断面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図。
【符号の説明】
【0049】
30:サイレンサ、31:フィルタ部材、32:通路形成部材(入口側通路部材、出口側通路部材、吸音部、吸音通路形成部材)、33:ケーシング、34:多孔板(吸音部)、35:入口通路、36:吸音通路、37:出口通路、38:容積室、43:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入する空気中の異物を除去するフィルタ部材と、
前記フィルタ部材に接続し、前記フィルタ部材を通して導入された空気が流れる入口通路を形成する入口側通路部材と、
前記入口側通路部材の前記フィルタ部材とは反対側の端部に接続し、前記入口通路よりも断面積が大きな容積室を形成するケーシングと、
前記ケーシングの前記入口側通路部材とは反対側の端部に接続し、前記容積室よりも断面積が小さく前記ケーシングを通過した空気が流れる出口通路を形成する出口側通路部材と、
複数の細孔を形成する筒状の多孔板を有し、前記ケーシングの内部において、前記入口側通路部材と前記出口側通路部材とを接続し、前記多孔板の内周側に前記入口通路の前記容積室側の端部と前記出口通路の前記容積室側の端部とを接続する吸音通路を形成する吸音部と、
を備えるサイレンサ。
【請求項2】
前記吸音部は、筒状に形成され内部に前記吸音通路を形成し側壁を貫いて前記吸音通路と前記容積室とを接続する開口を有する吸音通路形成部材と、前記吸音通路形成部材の外周側に覆っている前記多孔板とを有する請求項1記載のサイレンサ。
【請求項3】
前記吸音通路形成部材と前記多孔板とは、ほぼ密着している請求項2記載のサイレンサ。
【請求項4】
前記吸音通路形成部材と前記多孔板との間には、隙間が形成されている請求項2記載のサイレンサ。
【請求項5】
前記多孔板は、金属または樹脂で形成されている請求項1から4のいずれか一項記載のサイレンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−75539(P2008−75539A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255467(P2006−255467)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】