説明

サイレントチェーン

【課題】摩擦損失を減少させて動力伝達効率を向上させ、しかも騒音性能を向上させるサイレントチェーンを提供する。
【解決手段】サイレントチェーン100において、ミドルリンクプレート130におけるスプロケット歯との噛合い開始点と、インナリンクプレート140におけるスプロケット歯との噛合い開始点は、ガイドプレート110とスプロケット歯とが、各リンクプレート130,150とスプロケット歯との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定される。連結ピン105に作用するチェーン張力に対して、ガイドプレート110の引張り剛性が、各連結ピン105の曲げ剛性よりも小さく設定される。ガイドプレート110の背面121が、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の各背面141,161が摺接するチェーンガイド部材5の摺接面7との接触を回避する形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドプレートおよびスプロケットと噛み合うリンクプレートを有するサイレントチェーンに関する。そして、該サイレントチェーンは、例えば自動車や産業機械などにおいて、動力を伝達するサイレントチェーン伝動装置に使用される。
【背景技術】
【0002】
サイレントチェーンは、1対のガイドプレートおよび該1対のガイドプレート間に配置されてスプロケットと噛み合うミドルリンクプレートから構成されるガイド列と、ミドルプレートを挟んで配置されてスプロケットと噛み合う複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列と、前記1対のガイドプレートに設けられた1対の連結ピンとを有し、ガイド列および非ガイド列が前記1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3054144号公報(段落0015,図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サイレントチェーンおよびスプロケットを備えるサイレントチェーン伝動装置の作動時に、サイレントチェーンの走行状態は様々に変化し、例えば、サイレントチェーンに、チェーン幅方向での振れ(以下、「横振れ」という。)が発生することがある。
そして、図9に示されるように、1対のガイドプレート503および複数のミドルリンクプレート504から構成されるガイド列502と、複数のインナリンクプレート506から構成される非ガイド列505と、1対のガイドプレート503に設けられた1対の連結ピン507とを有するサイレントチェーン501において、ガイド列502が駆動スプロケット508に噛み合い始めるときに、ガイドプレート503の内方輪郭面の内方端面503aがミドルリンクプレート04の内側フランク面504aにおけるスプロケット歯509との噛合い開始点504pの近傍に位置する場合には、前述の横振れが発生すると、ミドルリンクプレート504がスプロケット歯509に接触するよりも前に、ガイドプレート503がスプロケット歯509に接触することがある。
【0005】
また、図10に示されるように、非ガイド列505が駆動スプロケット508に噛み合い始めるときに、ガイドプレート503の内方輪郭面の内方側端面503bがインナリンクプレート506の内側フランク面06aにおけるスプロケット歯509との噛合い開始点506pよりもスプロケット歯509に向って突出している場合には、前述の横振れが発生すると、インナリンクプレート506がスプロケット歯509に接触するよりも前に、ガイドプレート503がスプロケット歯509に接触することがある。
【0006】
このように、サイレントチェーン501がスプロケット508に噛み合い始めるときに、本来であれば、ガイドプレート503に接触することなく、ミドルリンクプレート504およびインナリンクプレート506に接触して噛合いを開始するスプロケット歯509が、それらミドルリンクプレート504およびインナリンクプレート506よりも先にガイドプレート503に接触すると、ガイドプレート503とスプロケット歯509との接触に起因する摩擦損失および騒音が発生して、サイレントチェーン501における摩擦損失が増大するという問題や騒音性能が低下するという問題があった。
【0007】
また、サイレントチェーン501において、そのチェーン張力が増大すると、図11に示されるように、非ガイド列505を構成するインナリンクプレート506が1対のガイドプレート503(図11には一方のガイドプレート503が示されている。)に保持されている連結ピン507に曲げを生じさせることがある。連結ピン507におけるこの曲げは、チェーン張力による1対の連結ピン507間でのガイドプレート503の引張り剛性が、連結ピン507の曲げ剛性よりも大きいことに起因すると考えられる。
そして、このような曲げが発生した連結ピン507が、ガイドプレート503に、チェーン幅方向でミドルリンクプレート504に向かう凸状の反りを発生させる場合には、この反りのために、ミドルリンクプレート504またはインナリンクプレート506がスプロケット508と噛合いを開始する際に、ガイド列502に対して連結ピン507を中心に相対的に回動する非ガイド列505の相対的な屈曲時に、チェーン幅方向で互いに隣接するガイドプレート503とインナリンクプレート506とにおいて、ガイドプレート503の内側面503aに対してインナリンクプレート506が接触して、摩擦損失が発生するという問題があった。
【0008】
さらに、図9を参照すると、サイレントチェーン501がチェーンガイド部材(図示されず)により案内されて走行する際に、ガイドプレート503、ミドルリンクプレート504およびインナリンクプレート506の各背面503b,504b,506bが摺接する前記チェーンガイド部材の摺接面に対して、各背面503b,504b,506bが平面状である場合には、チェーン走行方向およびチェーン幅方向での各背面503b,504b,506bと前記摺接面との接触領域が大きくなって、摩擦損失が増加するという問題があった。
そして、前述したいずれの形態での摩擦損失も、サイレントチェーン501とスプロケット508との間での動力伝達効率の低下を招来する。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、サイレントチェーンのガイドプレート、ミドルリンクプレートまたはインナリンクプレートの構造により、摩擦損失を減少させて動力伝達効率を向上させ、しかも騒音性能を向上させるサイレントチェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、1対のガイドプレートおよび前記1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と前記1対のガイドプレートの間にチェーン幅方向で前記ミドルリンクプレートと交互に配置された複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、前記1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して構成され、前記ミドルリンクプレートと、前記連結ピンにより回動中心線を中心に回動可能に連結された前記インナリンクプレートとが、スプロケットのスプロケット歯と噛合い可能なサイレントチェーンにおいて、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方である所定リンクプレートにおける前記スプロケット歯との噛合い開始点は、前記サイレントチェーンの横振れ状態時に、前記所定リンクプレートと前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する位置に設定され、前記連結ピンに作用するチェーン張力に対して、前記ガイドプレートの引張り剛性が、前記連結ピンの曲げ剛性よりも小さく設定され、前記ガイドプレートの背面が、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方である摺接リンクプレートの背面が摺接するチェーンガイド部材の摺接面との接触を回避する形状に形成されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記ガイドプレートの背面が、背面高さが極大値となる1対の高位部を有するように凹状に形成され、前記背面高さが、前記高位部を含めて、前記ミドルリンクプレートの背面高さおよび前記インナリンクプレートの背面高さよりも低く設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に係る発明の構成に加えて、前記摺接リンクプレートの背面が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記摺接リンクプレートの背面が、チェーン幅方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートのうちの一方が前記摺接リンクプレートであり、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートのうちの他方が、前記摺接面との接触を回避する形状に形成された背面を有する非摺接リンクプレートであることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサイレントチェーンは、1対のガイドプレートおよび1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と1対のガイドプレートの間にチェーン幅方向でミドルリンクプレートと交互に配置された複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して構成され、ミドルリンクプレートと、連結ピンにより回動中心線Lcを中心に回動可能に連結されたインナリンクプレートとが、スプロケットのスプロケット歯と噛合い可能になっていることにより、スプロケットとの間で動力の伝達を行うことができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0016】
すなわち、請求項1に係る本発明のサイレントチェーンによれば、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートの少なくとも一方である所定リンクプレートにおけるスプロケット歯との噛合い開始点は、サイレントチェーンの横振れ状態時に、所定リンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前におけるガイドプレートとスプロケット歯との接触を回避する位置に設定されていることにより、サイレントチェーンの一方のリンクプレートにおけるスプロケット歯との噛合い開始点は、サイレントチェーンの横振れ状態時において、該一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に、ガイドプレートとスプロケット歯とが接触しない位置にあるので、走行しているサイレントチェーンが横振れ状態でスプロケット歯との噛合いを開始するときに、一方のリンクプレートのフランク面との噛合いを開始するまで、スプロケット歯がガイドプレートと接触することが防止されるため、サイレントチェーンとスプロケット歯との噛合い開始時の前後において、サイレントチェーンが横振れ状態になっているときにも、サイレントチェーンとスプロケット歯との噛合い開始以前には、ガイドプレートとスプロケット歯との接触が防止されて、サイレントチェーンが正規の位置で走行しているときと同様に、サイレントチェーンのリンクプレートがスプロケット歯に最初に接触するという設計思想に沿った噛合い開始形態が維持されること、および、噛合い開始以前におけるガイドプレートとスプロケット歯との接触に起因する摩擦損失および騒音の発生が防止されることから、サイレントチェーンにおいて、摩擦損失を減少させて動力伝達効率を向上させることができ、しかも騒音性能を向上させることができる。
また、連結ピンに作用するチェーン張力に対して、ガイドプレートの引張り剛性が、各連結ピンの曲げ剛性よりも小さく設定されていることにより、連結ピンの曲げの発生が抑制されるので、該連結ピンの曲げに起因するガイドプレートの反りが抑制されて、ガイド列に対する非ガイド列の屈曲時におけるガイドプレートとインナリンクプレートとの接触が防止または抑制されるため、該反りに起因する摩擦損失が減少して、サイレントチェーンの摩擦損失を減少させることができる。
さらに、ガイドプレートの背面が、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートの少なくとも一方である摺接リンクプレートの背面が摺接するチェーンガイド部材の摺接面との接触を回避する形状に形成されていることにより、ガイドプレートの背面がチェーンガイド部材の摺接面と接触することが防止されるので、サイレントチェーンにおける摩擦損失を減少させることができる。
【0017】
請求項2に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
ガイドプレートの背面が、背面高さが極大値となる1対の高位部を有するように凹状に形成され、ガイドプレートの背面の背面高さが、高位部を含めて、ミドルリンクプレートの背面高さおよびインナリンクプレートの背面高さよりも低く設定されていることにより、ガイドプレートの背面形状を凹状とすることで、ガイドプレートの引張り剛性を容易に低下させることができるうえ、凹状であることで形成される1対の高位部においても、その背面高さがミドルリンクプレートの背面高さおよびインナリンクプレートの背面高さよりも低いので、ガイドプレートの背面とチェーンガイド部材5の摺接面との接触を回避することができる。
【0018】
請求項3に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1または請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
摺接リンクプレートの背面が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、背面が平面状である場合に比べて、背面と摺接面との接触領域が減少するので、摺接リンクプレートでの摩擦損失が減少して、サイレントチェーンの摩擦損失を減少させることができる。
【0019】
請求項4に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
摺接リンクプレートの背面が、チェーン幅方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、背面が平面状である場合に比べて、背面と摺接面との接触領域が減少するので、摺接リンクプレートでの摩擦損失が減少するため、サイレントチェーンの摩擦損失を減少させることができる。
【0020】
請求項5に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1から請求項4のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートのうちの一方が摺接リンクプレートであり、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートのうちの他方が、チェーンガイドとの接触を回避する形状に形成された背面を有する非摺接リンクプレートであることにより、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートのうちで、他方のリンクプレートである非摺接リンクプレートは摺接面に摺接することがなく、一方のリンクプレートである摺接リンクプレートのみが摺接面に接触するので、サイレントチェーンにおいて、摺接面との接触領域が減少して、摺接面との間での摩擦損失を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例であるサイレントチェーンを備えるサイレントチェーン伝動装置の要部側面図。
【図2】図1のサイレントチェーンの、回動中心線を含むと共にチェーン走行方向に沿った平面での要部断面図。
【図3】図1のサイレントチェーンのガイド列付近の図であり、(a)は、要部拡大側面図、(b)は、(a)のb−b断面図。
【図4】図1のサイレントチェーンの非ガイド列付近の要部拡大側面図。
【図5】図1のサイレントチェーンがチェーンガイド部材に摺接しているときの要部側面図。
【図6】図5のVI−VI線での要部断面図。
【図7】本発明の実施例の変形例であり、図6に相当する図。
【図8】本発明の実施例の別の変形例であり、図6に相当する図。
【図9】従来のサイレントチェーンのガイド列付近の要部拡大側面図。
【図10】図9のサイレントチェーンの非ガイド列付近の要部拡大側面図。
【図11】図9のサイレントチェーンの、回動中心線を含むと共にチェーン走行方向に沿った平面での要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のサイレントチェーンは、1対のガイドプレートおよび1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と1対のガイドプレートの間にチェーン幅方向でミドルリンクプレートと交互に配置された複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して構成され、ミドルリンクプレートと、連結ピンにより回動中心線を中心に回動可能に連結されたインナリンクプレートとが、スプロケットのスプロケット歯と噛合い可能であり、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートの少なくとも一方である所定リンクプレートにおけるスプロケット歯との噛合い開始点は、サイレントチェーンの横振れ状態時に、所定リンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前におけるガイドプレートとスプロケット歯との接触を回避する位置に設定され、連結ピンに作用するチェーン張力に対して、ガイドプレートの引張り剛性が、連結ピンの曲げ剛性よりも小さく設定され、ガイドプレートの背面が、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートの少なくとも一方である摺接リンクプレートの背面が摺接するチェーンガイド部材の摺接面との接触を回避する形状に形成されていることにより、サイレントチェーンの摩擦損失を減少させて動力伝達効率を向上させ、しかも騒音性能を向上させるものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0023】
例えば、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始点を、サイレントチェーンの横振れ状態時に、ガイドプレートとスプロケット歯とが一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定するために、ガイドプレートの形状以外に、スプロケット歯の形状が、サイレントチェーンの横振れ状態時に、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯との接触を回避する形状であってもよい。
また、サイレントチェーンは、内股噛合い・外股着座タイプである、以外のもの、例えば外股噛合い・外股着座タイプや内股噛合い・内股着座タイプであってもよい。
サイレントチェーンは、無端のチェーンおよび往復運動する有端のチェーンのいずれであってもよく、さらに、伝動用または搬送用に使用されてもよい。
スプロケットは、駆動スプロケットおよび被動スプロケットのいずれでもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を図1〜図8を参照して説明する。
図1,図2を参照すると、本発明の実施例であるサイレントチェーン100は、サイレントチェーン装置としてのサイレントチェーン伝動装置1に備えられる。
サイレントチェーン伝動装置1は、サイレントチェーン100のほかに、該サイレントチェーン100が巻き掛けられる1以上のスプロケット、本実施例では複数のスプロケットから構成されるスプロケット構造体2と、サイレントチェーン100が摺接可能なチェーンガイド部材5(図5参照)とを備える。
【0025】
サイレントチェーン100は、複数のガイド列103および複数の非ガイド列104が、複数の連結ピン105により連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して無端状に構成されていて、本実施例では無端チェーンである。
スプロケット構造体2は、サイレントチェーン100が噛合い可能な複数のスプロケット歯を有する複数の前記スプロケット、本実施例では、1以上の駆動スプロケットおよび1以上の被動スプロケットから構成される。
図1には、前記スプロケットの一例として、複数のスプロケット歯4を有する駆動スプロケットであり、かつ回転中心線Lsを中心にして回転方向Rに回転するスプロケット3が示されている。
【0026】
図5,図6を参照すると、チェーンガイド部材5は、チェーン走行方向に走行しているサイレントチェーン100に張力を付与するテンショナおよびサイレントチェーン100をチェーン走行方向に案内するチェーンガイドの少なくとも一方を意味し、走行しているサイレントチェーン100が摺接する摺接面7を有するガイドレバー6を有する。
【0027】
図1,図2を参照すると、チェーン走行方向は、スプロケット3に噛み合っているサイレントチェーン100が移動する方向であり、チェーン幅方向(図2参照)は、ガイド列103に対して相対的に回動(または屈曲)する非ガイド列104の回動中心線Lcに平行な方向、またはスプロケット3の回転中心線Lsに平行な方向である。そして、前後方向は、チェーン走行方向での前方および後方である。
また、側面視とは、回動中心線Lcまたは回転中心線Lsに平行な方向から見ることであり、径方向は、スプロケット3の回転中心線Lsを中心とする径方向である。
さらに、サイレントチェーン100の横振れ状態とは、走行状態にあるサイレントチェーン100がチェーン幅方向に振れる状態(チェーン幅方向に傾斜する状態も含まれる。)を意味している。
【0028】
サイレントチェーン100は、1対のガイドプレート110および第1所定数としての1以上の、ここでは4つのミドルリンクプレート130を有するガイド列103と、前記第1所定数よりも1つ大きい第2所定数としての複数の、ここでは5つのインナリンクプレート150を有する非ガイド列104と、1つのガイド列103毎の1対のガイドプレート110にチェーン走行方向に離隔して保持されると共にミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150をそれぞれ回動中心線Lcを中心に回動可能に連結する1対の連結ピン105とを有している。
なお、図2,図6においては、図11と同様に、チェーン幅方向でのガイドプレート110、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150間の隙間、および、連結ピン105と後述するピン挿通孔131,151との間の隙間は、図示の便宜上、誇張して記載されている。
【0029】
各ガイド列103において、複数のミドルリンクプレート130は、チェーン幅方向で1対のガイドプレート110の間に配置されている。各ガイドプレート110には、チェーン走行方向(または、前後方向)で離隔した位置に、1対の連結ピン105を保持する1対の保持部としてのピン保持孔111が設けられている。
各連結ピン105は、チェーン幅方向での両端部において、ピン保持孔111に挿入された状態で、固定手段(例えば、圧入またはカシメ)により、ガイドプレート110に固定されている。
【0030】
各非ガイド列104において、複数のインナリンクプレート150は、チェーン走行方向で隣接するガイド列103に跨って、かつチェーン幅方向で1対のガイドプレート110の間に配置されている。
非ガイド列104において、チェーン幅方向での端部に位置する1対の端部インナリンクプレート150Eは、チェーン幅方向で1対のガイドプレート110にそれぞれ隣接して配置されている。
そして、前記第1所定数のミドルリンクプレート130および前記第2所定数のインナリンクプレート150は、1対のガイドプレート110の間で、チェーン幅方向に交互に積層された状態で配置されている。
【0031】
併せて、図3(a),図4を参照すると、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150のそれぞれは、径方向内方に突出していてスプロケット歯4と噛み合う、または接触する1対のリンク歯132,133;152,153を有している。
1対のリンク歯132,133は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部リンク歯132および後方側の後部リンク歯133であり、1対のリンク歯152,153は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部リンク歯152および後方側の後部リンク歯153である。
各リンク歯132;133は、スプロケット歯4と接触可能な内側フランク面144;145および外側フランク面146;147を有し、各リンク歯152;153は、スプロケット歯4と接触可能な内側フランク面164;165および外側フランク面166;167を有している。
【0032】
各リンクプレート130;150における1対の内側フランク面144,145;164,165は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部内側フランク面144;164および後方側の後部内側フランク面145;155であり、1対の外側フランク面146,147;166,167は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部外側フランク面146;166および後方側の後部外側フランク面147;167である。
また、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150のそれぞれには、チェーン走行方向に離隔した位置に、1対の連結ピン105がそれぞれ挿通される1対のピン挿通孔131,151(図2参照)が設けられている。
【0033】
1つのガイド列103における1対のガイドプレート110に保持された1対の連結ピン105は、1対のガイドプレート110の間で、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150からなるリンクプレート群を、各連結ピン105がピン挿通孔131およびピン挿通孔151を貫通した状態で回動可能に連結する。
ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150は、連結ピン105により連結された状態で、連結ピン105により規定される回動中心線Lcを中心に回動可能または屈曲可能である。
連結ピン105は、この実施例では、単一の丸ピンであるが、別の例として、複数のピンにより構成されるロッカーピンであってもよい。
【0034】
図3(a),図4を参照すると、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150において、各リンクプレート130,150の外周面である輪郭面140、160は、側面視で、各リンクプレート130,150において1対の回動中心線Lcを通るピン基準線Aを境に、スプロケット歯4が位置する側(すなわち、サイレントチェーン100においてスプロケット3に巻き掛けられている部分である巻掛け部101では、径方向内方)の内方輪郭面142,162と、該内方輪郭面142,162とは反対側(すなわち、巻掛け部101では、径方向外方)の外方輪郭面である背面141,161とに分けられる。
内方輪郭面142;162は、各フランク面144〜147;164〜167を有している。
【0035】
図3(a),図5を参照すると、各リンクプレート130,150の背面141,161は、背面高さH4,H6が最大になる高位部141a,161aを有している。
摺接面7との接触可能な背面141,161は、チェーン走行方向に沿って、かつ径方向外方に向かって円弧状、すなわち回動中心線Lcに直交する平面での断面形状が円弧状に形成されている。そして、各背面141,161において、高位部141a,161aは、チェーン走行方向での背面141,161の中央部に位置する。
ここで、背面高さH4,H6および背面高さH2は、側面視で、ピン基準線Aから、リンクプレート130,150の背面141,161およびガイドプレート110の背面121までのそれぞれの距離である。
【0036】
図6を参照すると、いずれも摺接面7に摺接する摺接リンクプレートであるミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150において、その各背面141,161は、チェーン幅方向に沿って径方向外方に向かって凸状の円弧状に、すなわちピン基準線Aに直交する平面での断面形状が、径方向外方に向かって凸状の円弧状に形成されている。
なお、各背面121,141,161の形状に関して、「円弧状」は、1つの曲率半径の円弧により形成される形状、または、複数の曲率半径の円弧により、構成され、または近似される複合円弧により形成される形状である。
【0037】
図3(a),図4に示されるように、サイレントチェーン100が正規の位置(以下、「正規位置」という。)で走行している場合に、ガイド列103および非ガイド列104がスプロケット歯4に噛み合うときには、各リンクプレート130,150の前部内側フランク面144,164がスプロケット歯4に接触して噛合いが開始した後に、この噛合いの進行に伴って噛合い点がスプロケット歯4に沿って径方向内方に移動する過程で、各リンクプレート130;150における噛合い点が内側フランク面144;164からそれぞれの1対の外側フランク面146,147;166,167に移行して、噛合い終了時に各リンクプレート130;150の両外側フランク面146,147;166,167がスプロケット歯4に接触し、ミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座する。それゆえ、サイレントチェーン100は、いわゆる内股噛合い・外股着座タイプである。
【0038】
ここで、正規位置とは、スプロケット歯4が、ガイド列103毎の1対のガイドプレート110の、チェーン幅方向での間隔W(図2参照)内に位置するときの位置であり、換言すれば、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが、チェーン幅方向で同じ位置を占めない(または、チェーン幅方向での位置で重ならない)ときの位置である。
そして、サイレントチェーン100が横振れ状態にあるときは、サイレントチェーン100が、スプロケット歯4に対してチェーン幅方向に正規位置から相対的に移動して、正規位置を占めていないことを意味している。
したがって、横振れ状態にあるときに、サイレントチェーン100は、チェーン幅方向で、正規位置から、スプロケット歯4に対して相対的に移動して、ガイドプレート110が間隔W(図2参照)内に位置しない状態としての幅方向相対移動状態にある。
なお、図1〜図4には、正規位置にあるサイレントチェーン100が示されている。
【0039】
図2に示されるように、各ガイドプレート110は、チェーン幅方向での側面である外側面112(図3も参照)および内側面113を有している。
また、図3(a),図4に示されるように、ガイドプレート110の外周面である輪郭面120は、ガイドプレート110においてチェーン走行方向での最大幅を有する部分である最大幅部115を境に、スプロケット歯4が位置する側(すなわち、巻掛け部101での径方向内方)の内方輪郭面122と、該内方輪郭面22とは反対側(すなわち、巻掛け部101での径方向外方)の外方輪郭面である背面121とに分けられる。
【0040】
内方輪郭面122は、該内方輪郭面122において径方向で最も内方に位置する部分を有する内方端面123と、内方端面123から最大幅部115までの1対の内方側端面124,125とを有している。
内方端面123は、側面視で、内方輪郭面122とミドルリンクプレート130の1対の内側フランク面144,145との交差部122a,122bまたは該交差部122a,122bの近傍が、チェーン走行方向での両端部となる部分であり、1対の内方側端面124,125よりも径方向内方に位置する。
また、側面視で直線状の1対の内方側端面124,125は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部内方側端面124および後方側の後部内方側端面125である。
【0041】
内方端面23および各内方側端面124,125は、内方端面123と各内方側端面124,125とが連なる円弧状の接続部である交差部122a,122bを除いて、平面状の面である。
これにより、ガイドプレート110の形成が容易になると共に、背面121が凹状である場合にも、内方輪郭面122において交差部122a,122b付近が凹状に形成される場合に比べて、ガイドプレート110におけるチェーン幅方向での曲げ剛性を高めることができる。このため、連結ピン105を介してガイドプレート110に作用するチェーン張力によるガイドプレート110の反り(図11のガイドプレート503参照)の発生を防止することができる。
【0042】
図5,図6を参照すると、ガイドプレート110の背面121は、背面高さH2が極大値、本実施例では最大値となる部分であってチェーン走行方向で離隔する1対の高位部121a,121bを有するように凹状に形成された凹状部121cを有する。高位部121a,121bでの背面高さH2は、本実施例では同一であるが、異なる値でもよい。
円弧状で凹状の凹状部121cは、チェーン走行方向での背面121の中央部であって、1対の連結ピン105の間に、背面高さH2が最小となる最大凹部121eを有し、凹状部121cの全体は、両高位部121a,121bよりも径方向内方に位置する。
【0043】
このように、凹状部121cが形成されていることにより、非ガイド列104毎に各インナリンクプレート150を介して連結ピン105に作用するチェーン張力に対して、ガイドプレート110の引張り剛性は、該凹状部121cがない場合に比べて低下しており、該引張り剛性は、連結ピン105の曲げ剛性よりも小さく設定されている。
このため、ガイドプレート110において、チェーン張力によるチェーン幅方向での反り(図11のガイドプレート503参照)が発生することが防止または抑制されて、該反りに起因するガイドプレート110の内側面113(図2参照)と端部インナリンクプレート150Eとの接触による、摩擦損失の発生が防止され、または摩擦損失が減少する。
【0044】
図5を参照すると、チェーン長手方向でガイドプレート110の背面121がミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150と重なる範囲において、背面121の背面高さH2は、各高位部121a,121bを含めて、各リンクプレート130,150の背面141,161の背面高さH4,H6よりも低く設定されている。
そして、背面121のこの背面高さH2は、各リンクプレート130,150がチェーン幅方向に傾斜した状態でその背面141,161がチェーンガイド部材5の摺接面7に摺接する(以下、「斜め当たり」という。)ときにも、ガイドプレート110の背面121と摺接面7との接触が回避される値である。これにより、各リンクプレート130,150が斜め当たりで摺接面7に摺接するときでも、ガイドプレート110の背面121と摺接面7との摺接が防止され、サイレントチェーン100の摩擦損失が減少する。
【0045】
また、サイレントチェーン100がスプロケット3により駆動されて走行状態にあるとき、いずれも所定リンクプレートとしてのミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150のそれぞれの前部内側フランク面144,145におけるスプロケット歯4との噛合い開始点P3,P5は、サイレントチェーン100が横振れ状態にあるときに、サイレントチェーン100が正規位置を占めているときと同様に、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが、各リンクプレート130,150の前部内側フランク面144,164とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触することを回避する位置、換言すれば、各リンクプレート130,150の前部内側フランク面144,164とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触しない位置に設定されている。
このため、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150がスプロケット歯4に噛み合い始めるときには、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150が、常にガイドプレート110よりも先にスプロケット歯4に接触することになる。
【0046】
そして、ガイドプレート10の形状は、サイレントチェーン100の横振れ状態時にも、噛合い開始点P3,P5が、ガイドプレート10とスプロケット3とが各リンクプレート130,150とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触することを回避する位置になるように、換言すれば、ガイドプレート110とスプロケット3とが各リンクプレート130,150とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触しない位置になるように設定されている。
具体的には、図3(a)に示されるように、ガイドプレート110の形状は、ミドルリンクプレート130がスプロケット歯4に噛み合い始めるときには、横振れ状態時において、ミドルリンクプレート130の前部内側フランク面144とスプロケット歯4aとの噛合い開始以前に、内方端面123および両内方側端面124,125とスプロケット歯4aとが接触しない形状である。
このため、前部内側フランク面144とスプロケット3との噛合い開始以前には、内方輪郭面122は、内方端面123を含むその全体において、噛合い開始点P3よりも径方向外方に位置している。
【0047】
そして、図3(a)に示されるように、側面視で、ガイドプレート110がスプロケット歯4と重なる重なり部117を有する場合には、前部内側フランク面144とスプロケット歯4aとの噛合い開始以前における内方端面123とスプロケット歯4aとの接触を回避するために、横振れ状態時においても、重なり部117においてスプロケット歯4が間隔W内に位置するように内側端面123の形状が設定される(図3(b)参照)。
なお、別の例として、ガイドプレート110の形状は、ミドルリンクプレート130とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート110の全体とスプロケット歯4とが重ならない形状であってもよい。
【0048】
また、図4に示されるように、ガイドプレート110の形状は、非ガイド列104のインナリンクプレート150がスプロケット歯4に噛み合い始めるときには、横振れ状態時において、内方端面23および両内方側端面124,125とスプロケット歯4とがインナリンクプレート150の前部内側フランク面164とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触することを回避する形状である。
このため、前部内側フランク面44とスプロケット歯4との噛合い開始以前には、内方輪郭面122は、後部内方側端面125を含むその全体において、噛合い開始点P5よりも径方向外方に位置していて、側面視でガイドプレート110の全体とスプロケット歯4とが重ならない(すなわち、ガイドプレート110の全体がスプロケット歯4の径方向外方に位置する)。
【0049】
さらに、ガイドプレート110の形状は、インナリンクプレート150とスプロケット歯4との噛合いが進行して、インナリンクプレート150の前部内側フランク面44とスプロケット歯4bとの噛合い開始から、該インナリンクプレート150よりも前方に位置する(すなわち、先行する)ミドルリンクプレート130aの両外側フランク面146,147が、スプロケット歯4aよりも前方のスプロケット歯4cとスプロケット歯4bとにそれぞれ接触してスプロケット3に着座するまでの間において、ガイドプレート110の内方輪郭面122とスプロケット歯4bとが接触することを回避する形状であり、または側面視でガイドプレート110とスプロケット歯4とが重ならない形状である。
したがって、後部内方側端面125の形状は、インナリンクプレート150とスプロケット歯4との噛合い開始から、該インナリンクプレート150よりも前方に位置するミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座するまでの間において、後部内方側端面125とスプロケット歯4とが接触することを回避する形状であり、または、側面視で後部内方側端面125とスプロケット歯4とが重ならない形状である。
【0050】
そして、噛合い開始点P3,P5の前述の位置、および、スプロケット歯4に対するガイドプレート110の前述の形状により、サイレントチェーン伝動装置1の作動時に、走行中のサイレントチェーン100が横振れ状態であるときにも、ガイドプレート110がミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150よりも先にスプロケット歯4に接触することが防止される。
【0051】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
サイレントチェーン100は、1対のガイドプレート110および複数のミドルリンクプレート130から構成されるガイド列103と、複数のインナリンクプレート150から構成される非ガイド列104とが、1対のガイドプレート110に保持される1対の連結ピン105により連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して構成され、ミドルリンクプレート130と、連結ピン105により回動中心線Lcを中心に回動可能に連結されたインナリンクプレート150とが、スプロケット3のスプロケット歯4と噛合い可能になっていることにより、スプロケット3との間で動力の伝達を行うことができる。
【0052】
サイレントチェーン100および該サイレントチェーン100と噛み合うスプロケット3とを備えるサイレントチェーン伝動装置1において、サイレントチェーン100のミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150のそれぞれにおけるスプロケット歯4との噛合い開始点P3,P5は、サイレントチェーン100の横振れ状態時に、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが各リンクプレート130,150とスプロケット歯4との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定されている。
【0053】
この構造により、サイレントチェーン100の各リンクプレート130,150におけるスプロケット歯4との噛合い開始点P3,P5は、サイレントチェーン100の横振れ状態時において、各リンクプレート130,150とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触しない位置にあるので、走行しているサイレントチェーン100が、横振れ状態でスプロケット歯4a,4bとの噛合いを開始するときに、スプロケット歯4a,4bは、各リンクプレート130,150の内側フランク面144,164との噛合いを開始するまで、ガイドプレート110と接触することが防止される。
【0054】
この結果、サイレントチェーン100とスプロケット歯4との噛合い開始時の前後において、サイレントチェーン100が横振れ状態になっているときにも、サイレントチェーン100とスプロケット歯4との噛合い開始以前には、ガイドプレート110とスプロケット歯4との接触が防止されて、サイレントチェーン100が正規位置で走行しているときと同様に、サイレントチェーン100の各リンクプレート130,150がスプロケット歯4に最初に接触するという設計思想に沿った、サイレントチェーン100の本来の噛合い開始形態が維持されること、および、噛合い開始以前におけるガイドプレート110とスプロケット歯4との接触に起因する摩擦損失および騒音が防止されることから、サイレントチェーン100において、摩擦損失を減少させて動力伝達効率を向上させることができ、しかも騒音性能を向上させることができる。
【0055】
ガイドプレート110の形状は、横振れ状態時において、ミドルリンクプレート130の内側フランク面144とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、かつインナリンクプレート150の内側フランク面164とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触することを回避する形状であるか、または、ミドルリンクプレート130の内側フランク面144とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート110とスプロケット歯4とが重なることがなく、かつインナリンクプレート150の内側フランク面164とスプロケット歯4との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート110とスプロケット歯4とが重なることがない形状である。
これにより、内股噛合いタイプのサイレントチェーン100において、ミドルリンクプレート130の内側フランク面144とスプロケット歯4との噛合い開始点P3、およびインナリンクプレート150の内側フランク面164とスプロケット歯4との噛合い開始点P5を、サイレントチェーン100の横振れ状態時に、各内側フランク面144,164とスプロケット歯4との噛合い開始以前にガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触することを回避する位置に設定することを、各内側フランク面144,164とスプロケット歯4との噛合い開始以前にガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート110を使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0056】
さらに、ガイドプレート110の形状は、サイレントチェーン100が横振れ状態にあるときに、インナリンクプレート150の内側フランク面44とスプロケット歯4bとの噛合い開始からミドルリンクプレート130の両外側フランク面146,147がスプロケット3に着座するまでの間におけるガイドプレート110とスプロケット歯4との接触を回避する形状である。
これにより、内股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーン100において、サイレントチェーン100の横振れ状態時に、インナリンクプレート150の内側フランク面164とスプロケット歯4bとの噛合い開始後においても、ミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座するまでは、インナリンクプレート150の内側フランク面164とスプロケット歯4bとの噛合い開始以前と同様に、ガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触しない。この結果、インナリンクプレート150とスプロケット歯4との噛み合い開始後においても、ガイドプレート110とスプロケット歯4との接触に起因する騒音が防止されるので、サイレントチェーン伝動装置1の騒音性能を一層向上させることができる。
しかも、インナリンクプレート150とスプロケット3との噛合い開始後からミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座するまでの間のガイドプレート110とスプロケット歯4との非接触状態を、インナリンクプレート150とスプロケット3との噛合い開始後からミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座するまでの間でガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート110を使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0057】
また、内方輪郭面122の全体が噛合い開始点P3,P5よりも径方向外方に位置することにより、ガイドプレート110を径方向で小型化することができて、ガイドプレート110の軽量化が可能になる。さらに、インナリンクプレート150とスプロケット3との噛合い開始後からミドルリンクプレート130がスプロケット3に着座するまで、ガイドプレート110の後部内方側端面125とスプロケット歯4とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート110であることにより、ガイドプレート110を径方向で一層小型化することができる。
【0058】
また、連結ピン105に作用するチェーン張力に対して、ガイドプレート110の引張り剛性が、各連結ピン105の曲げ剛性よりも小さく設定されていることにより、連結ピン105の曲げの発生が抑制されるので、該連結ピン105の曲げに起因するガイドプレート110の反りが抑制されて、ガイド列に対する非ガイド列104の屈曲時におけるガイドプレート110とインナリンクプレート150との接触が防止または抑制されるため、該反りに起因する摩擦損失が減少して、サイレントチェーン100の摩擦損失を減少させることができる。
【0059】
さらに、ガイドプレート110の背面121が、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の各背面141,161が摺接するチェーンガイド部材5の摺接面7との接触を回避する形状に形成されていることにより、ガイドプレート110の背面121がチェーンガイド部材5と接触することが防止されるので、サイレントチェーン100における摩擦損失を減少させることができる。
【0060】
ガイドプレート110の背面121が、背面高さH2が極大値となる1対の高位部121a,121bを有するように凹状に形成され、背面高さH2が、高位部121a,121bを含めて、ミドルリンクプレート130の背面高さH4およびインナリンクプレート150の背面高さH6よりも低く設定されている。
この構成により、背面121の形状を凹状とすることで、ガイドプレート110の引張り剛性を容易に低下させることができるうえ、凹状であることで形成される1対の高位部121a,121bにおいても、その背面高さH2が各リンクプレート130,リンクプレート150の背面高さH4,H6よりも低いので、背面121と摺接面7との接触を回避することができる。
【0061】
各リンクプレートの背面141,161が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面7に向かって凸状に形成されていることにより、背面141,161が平面状である場合に比べて、背面141,161と摺接面7との接触領域が減少するので、各リンクプレート130,150での摩擦損失が減少して、サイレントチェーン100の摩擦損失を減少させることができる。
【0062】
各リンクプレート130,150の背面141,161が、チェーン幅方向に沿って円弧状に、かつ摺接面7に向かって凸状に形成されていることにより、背面141,161が平面状である場合に比べて、背面141,161と摺接面7との接触領域が減少するので、リンクプレート130,150での摩擦損失が減少するため、サイレントチェーン100の摩擦損失を減少させることができる。
【0063】
以下、前記した実施例の一部が変更された実施例について、変更された部分を中心に説明する。
図7に示されるように、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の一方であるインナリンクプレート150は、その背面161がチェーン走行方向およびチェーン幅方向に沿って円弧状の断面形状を有する摺接リンクプレートであり、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の他方であるミドルリンクプレート130は、摺接面7との接触を回避する形状に形成された背面141を有する非摺接リンクプレートであってもよい。
【0064】
また、図8に示されるように、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の一方であるミドルリンクプレート130は、その背面141がチェーン走行方向およびチェーン幅方向に沿って円弧状の断面形状を有する摺接リンクプレートであり、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の他方であるインナリンクプレート150は、摺接面7との接触を回避する形状に形成された背面161を有する非摺接リンクプレートであってもよい。
【0065】
図7,図8に示されるサイレントチェーン100の構成により、ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150のうちで、他方のリンクプレートである非摺接リンクプレートは摺接面7に摺接することがなく、一方のリンクプレートである摺接リンクプレートのみが摺接面7に接触するので、サイレントチェーン100において、摺接面7との接触領域が減少して、摺接面7との間での摩擦損失を減少させることができる。
【0066】
ミドルリンクプレート130およびインナリンクプレート150の一方である所定リンクプレートにおけるスプロケット歯4との噛合い開始点P3または噛合い開始点P5が、サイレントチェーン100の横振れ状態時に、前記所定リンクプレートとスプロケット歯4との噛合い開始以前にガイドプレート110とスプロケット歯4とが接触することを回避する位置に設定されていてもよい。この場合にも、サイレントチェーンの横振れ状態時に、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に、ガイドプレートとスプロケット歯とが接触する技術に比べて、ガイドプレート110とスプロケット歯4との接触に起因する摩擦損失および騒音を減少させることができる。
スプロケット3が被動スプロケットである場合、噛合い開始点P3,P5は、後部内側フランク面145,165に位置する。
各リンクプレート130,150の背面141,161は平面状であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
100・・・サイレントチェーン
103・・・ガイド列
104・・・非ガイド列
105・・・連結ピン
110・・・ガイドプレート
121・・・背面
130・・・ミドルリンクプレート
141・・・背面
144,145・・・内側フランク面
146,147・・・外側フランク面
150・・・インナリンクプレート
161・・・背面
164,165・・・内側フランク面
166,167・・・外側フランク面
Lc ・・・回動中心線
A ・・・ピン基準線
H2,H4,H6・・・背面高さ
P3,P5・・・噛合い開始点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のガイドプレートおよび前記1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と前記1対のガイドプレートの間にチェーン幅方向で前記ミドルリンクプレートと交互に配置された複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、前記1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖して構成され、前記ミドルリンクプレートと、前記連結ピンにより回動中心線を中心に回動可能に連結された前記インナリンクプレートとが、スプロケットのスプロケット歯と噛合い可能なサイレントチェーンにおいて、
前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方である所定リンクプレートにおける前記スプロケット歯との噛合い開始点は、前記サイレントチェーンの横振れ状態時に、前記所定リンクプレートと前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する位置に設定され、
前記連結ピンに作用するチェーン張力に対して、前記ガイドプレートの引張り剛性が、前記連結ピンの曲げ剛性よりも小さく設定され、
前記ガイドプレートの背面が、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方である摺接リンクプレートの背面が摺接するチェーンガイド部材の摺接面との接触を回避する形状に形成されていることを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】
前記ガイドプレートの背面が、背面高さが極大値となる1対の高位部を有するように凹状に形成され、
前記背面高さが、前記高位部を含めて、前記ミドルリンクプレートの背面高さおよび前記インナリンクプレートの背面高さよりも低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載のサイレントチェーン。
【請求項3】
前記摺接リンクプレートの背面が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサイレントチェーン。
【請求項4】
前記摺接リンクプレートの背面が、チェーン幅方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のサイレントチェーン。
【請求項5】
前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートのうちの一方が前記摺接リンクプレートであり、
前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートのうちの他方が、前記摺接面との接触を回避する形状に形成された背面を有する非摺接リンクプレートであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のサイレントチェーン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−53702(P2013−53702A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193205(P2011−193205)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)