説明

ササ抽出物、および該抽出物の使用

【課題】本発明の目的はこれまでササ抽出物の成分としては着目されていなかった化合物の抽出量を考慮し、それらを効率よく得られる製造方法を提供し、もって、広汎な薬理作用、特に抗菌性と抗変異原性に優れたササ抽出物を提供することにある。
【解決手段】笹の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出してなる、フェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンを各々0.5mg/g以上含有し、かつ加熱残分を40〜60重量%に調製したときの糖類の含有量が50mg/g以下であることを特徴とするササ抽出物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤、抗ウィルス剤、抗腫瘍剤、抗変異原性剤、抗炎症剤として有用なササ抽出物、および該抽出物の使用に関する。本発明のササエキスは、笹の葉および/または稈を、乾き度を向上させた蒸気で蒸煮することによって特定の成分を効率よく製造することができる。
【背景技術】
【0002】
ササ類には古くから薬効が認められており、ササ抽出物にも抗炎症・抗潰瘍、血圧降下作用、抗腫瘍等の薬理作用が数多く報告されている(J.Hokkaido For.Prod.Res.Inst.Vol.9,No.6,1995、昭和医学会雑誌第48巻、第5号、595-600、1988等)。
【0003】
ササ抽出物中の有効成分としては可溶性ヘミセルロースの抗腫瘍性が注目されており、中でもキシロオリゴ糖を中心とした多糖類が抗腫瘍効果発現に重要な役割を演じていると考えられている。特開平06−197800号公報、特開平11−199502号公報等にはササ類の葉および/または稈を高温、高圧の飽和水蒸気処理することで糖類を効率よく抽出する方法が開示されている。また、特開2002−322079号公報には高温、高圧の飽和水蒸気処理で得られたササ抽出物をピロリ菌に対する抗菌、除菌剤に用いている。
上記公知の文献では、いずれも、糖類以外の成分までは全く言及されておらず、さらに、蒸煮する蒸気は、乾き度の向上させる手段を経ておらず、結果として本発明のエキスとは異なるものであった可能性が高い。また必要以上に糖類の含有量が高いと菌類の増殖を促進し抗菌剤としては全く適さない。
【特許文献1】特開平06−197800号公報
【特許文献2】特開平11−199502号公報
【特許文献3】特開2002−322079号公報
【非特許文献1】J.Hokkaido For.Prod.Res.Inst.Vol.9,No.6,1995
【非特許文献2】昭和医学会雑誌第48巻、第5号、595-600、1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的はこれまでササ抽出物の成分としては着目されていなかった化合物の抽出量を考慮し、それらを効率よく得られる製造方法を提供し、もって、広汎な薬理作用、特に抗菌性と抗変異原性に優れたササ抽出物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は笹の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出してなる、フェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンを各々0.5mg/g以上含有し、かつ加熱残分を40〜60重量%に調製したときの糖類の含有量が50mg/g以下であることを特徴とするササ抽出物に関する。
【0006】
また、本発明は、フェニルプロパノイドが、クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸、バニリンから選ばれる少なくとも一つの化合物である上記ササ抽出物に関する。
【0007】
また、本発明は、ギ酸の含有量が、10mg/g以上である上記ササ抽出物に関する。
【0008】
また、本発明は、3−ヒドロキシピリジンの含有量が、1mg/g以上である上記ササ抽出物に関する。
【0009】
また、本発明は、蒸煮前の笹の葉および/または稈の水分が、笹の葉および/または稈全体に対して10%重量以下であり、かつ、蒸煮する蒸気が、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気である上記ササ抽出物に関する。
【0010】
また、本発明は、蒸煮温度が、160〜190℃であり、かつ、水性溶媒抽出温度が、100〜150℃であることを特徴とする上記ササ抽出物に関する。
【0011】
また、本発明は、水性溶媒が、熱水またはアルカリ水溶液である上記ササ抽出物に関する。
【0012】
また、本発明は、笹の葉および/または稈を、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で160〜190℃で30秒から1時間蒸煮したのち、水性溶媒で抽出することを特徴とするササ抽出物製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、さらに、蒸煮前および/または蒸煮中に、蒸煮装置から空気を追い出す工程を含む上記ササ抽出物製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、上記ササ抽出物を含有する抗菌剤に関する。
【0015】
また、本発明は、上記ササ抽出物を含有する抗変異原性剤に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、抗菌性、抗変異原性に優れたササ抽出物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で用いる笹は、クマザサ属に属するものが好ましく、例えばゴテンバザサ、カツラギザサ、スズダケ、ミヤマクマザサ、ネマガリダケ、ミヤコザサ、ホソバザサ、クマイザサ、クマザサ、チュウゴクザサ等があり中でもクマイザサが最も好ましい。また笹の葉および稈中に蓄積される成分が季節により変動することは良く知られており、本発明に用いる場合は7〜9月に収穫される笹が最適である。
本発明の蒸煮に用いる笹の葉および/または稈は乾燥したものが好ましく、好ましい水分は笹の葉および/または稈全体に対して10%以下であり、それより多い場合であると腐敗、発酵により成分が変質する恐れがある。本発明の蒸煮に用いる笹の葉および/または稈の形態については細片化したものが好ましく、好ましい大きさは0.5〜20mmであり、0.5mmよりも小さいと抽出後の固液分離が困難となり20mmよりも大きいと抽出効率が悪くなる。
【0018】
本発明の蒸煮は高温、高圧に耐えうる装置であれば如何なるものでも実施でき、蒸煮時の温度は160〜190℃が最も好ましい。160℃未満では笹中のヘミセルロースの分解による細胞壁の破壊がほとんど起こらないため所望の成分を十分に抽出することができず、190℃より高温では有効成分の分解が激しくなり薬効が損なわれるおそれがある。蒸煮を行なう時間は30秒から1時間の間が好ましく、さらに好ましくは5分から20分の間が良く、30秒より短いとヘミセルロースの加水分解が不十分となり成分量が少なくなり、1時間より長いと得られた成分の分解が起こりやはり得られる成分量が少なくなる。蒸煮終了後、加圧を解除する際は一気に装置を開放形にして大気圧とする方がササの葉または稈の組織破壊がより進み、抽出効率が向上するので好ましい。
【0019】
蒸煮に用いられる蒸気は、ボイラー等蒸気の発生源と蒸煮を行なう装置を結ぶ蒸気配管途中に気水分離装置および減圧弁を設けた装置の蒸気が最も好ましい。当該装置を用いることにより蒸気の乾き度が向上する。乾き度が高くドレンと呼ばれる蒸気の凝縮水が少ない程、特定成分を効率よく抽出するとともに糖類の抽出量を適度にコントロールすることが可能となる。蒸気の乾き度は簡便な測定方法が存在しないため、通常の製造装置においては直接測定するのは困難である。そのため乾燥蒸気を得るためには気液分離装置メーカー等が保有する乾き度測定システム等により99%以上の乾き度が達成できることが確認された気液分離装置を使用するのが好ましい。気液分離装置には遠心式とバッフル式があるがバッフル式のほうが蒸気量に関わらず安定して高い乾き度を達成できるため好ましい。
【0020】
蒸煮中に蒸煮装置内に空気が残存すると飽和水蒸気とササの葉または稈との接触が阻害され蒸煮が不十分となり抽出効率の低下につながるため好ましくない。空気の残存を避ける手段としては手動または自動空気抜き弁を開放した状態で蒸気を導入し蒸煮装置から空気を追い出せばよい。空気を追い出す蒸気温度は80〜200℃であればよく好ましくは100〜180℃であり、空気を追い出す時間は0.5〜60分が良い。
【0021】
水性溶媒で抽出方法は、特に限定はないが、蒸煮後に、冷却もしくは温度を保持したまま、水性溶媒を添加し、室温から180℃の条件で、前記水性溶媒に、蒸煮されたササの葉または稈を漬浸する。
【0022】
本発明に用いられる水性溶媒はメタノール、エタノール、アセトン等の水溶性溶媒またはそれらの水溶液、水が好ましく、ササ抽出物の用途によって許される場合はアルカリ水溶液を用いることで抽出効率を上げることができる。本発明に用いられるアルカリ水溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が好ましい。
【0023】
本発明において、蒸煮工程、抽出工程は、それぞれを本発明の主旨を逸脱しない範囲で、繰り返し行われていてもよい。また、各工程前後に、さらに、保持工程などの他の工程が設けられていてもよい。
【0024】
本発明のササ抽出物に含まれるフェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンが抗菌性や抗変異原性を発現するメカニズムは明らかになってはいないがそれぞれの成分の相乗効果により各単独成分よりも大きな効果を発揮すると推定される。
【0025】
本発明のササ抽出物に含まれるフェニルプロパノイドとしてはクマル酸、フェルラ酸、カフェ酸、バニリン等があり含有量としてはクマル酸が最も多く次いで多いのはフェルラ酸である。抗菌剤または抗変異原性剤として有効に作用するのに必要なフェニルプロパノイドの含有量としては全てのフェニルプロパノイドの総量としてササ抽出物中に0.5mg/g以上あればよく、好ましくはクマル酸単独で1mg/g以上であれば高い抗菌性と抗変異原性を得ることができる。
【0026】
本発明のササ抽出物に含まれる酢酸、ギ酸の含有量は各々0.5mg/g以上が必要であり好ましくはギ酸単独で5mg/g以上であり、さらに好ましくはギ酸単独で10mg/g以上である。
【0027】
本発明のササ抽出物に含まれる3−ヒドロキシピリジンは詳細な合成経路は不明であるが、笹の葉および/または稈を蒸煮する際に生成する物質と推定されており、抗菌剤または抗変異原性剤として必要な含有量は0.5mg/g以上であるが、好ましくは1mg/g以上、さらに好ましくは2mg/g以上である。
【0028】
本発明のササ抽出物に含まれる糖類はキシロース、アラビノース、グルコース、マンノース、ガラクトース等から構成される単糖および/または多糖類であり加熱残分を40〜60重量%に調製したときの好ましい含有量は50mg/g以下であってそれ以上であると本発明のササ抽出物の効能である抗菌、抗ウィルス、抗腫瘍、抗変異原性、抗炎症等の薬理作用が損なわれる。特に必要以上の糖類は菌類の増殖を促進し、菌が増殖したものは、エキスとしての通常の用途には全く適さない。本発明でいう加熱残分とは、いわゆる固形分であり、水などの低沸点物を加熱で除いた残分の含有量を意味し、例えば、100℃オーブンで60分加熱して残った量を、加熱前の量で割ることで求められる。
【0029】
なお、フェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンは、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどで定量できる。糖類は、イオンクロマトグラフィーで定量できる。
【0030】
本発明のササ抽出物の形態は、溶液であっても固形であってもよく、また、その他の化合物との混合物であってもよい。混合物である場合は、スプレードライ、凍結乾燥、デキストリンなどの造形剤の添加等の処理したものであってもよい。さらに、濾過、カラム精製、溶剤洗浄などの選別工程を経たものであってもよい。
【0031】
本発明のササ抽出物を抗菌剤として使用する場合は、様々な菌類に対して抗菌作用が発揮され、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、破傷風菌、クロストリジウム属ガス壊疸菌、カンジタ菌、白癬菌、ケカビ、クモノスカビ、アスペルギルス属菌、クリプトコッカス属菌、コクシジオイデス属菌、ヒストプラズマ属菌、Peptostreptococcus anaerobius,Peptostreptococcus asaccharolyticus,Peptostreptococcus indolicus, Peptosteptococcus prevotii, Micromonas micros, Finegoldia magna, Staphylococcus saccharolyticus, Streptococcus intermedius,Steiptococus constellatus,Atopobium parvulum,Gemella morbillorumなどの嫌気性グラム陽性球菌、
Propionibacterium acnes, Propionibacterium granulosum,Eggerthella lenta,Actinomyces odontolyticus, Bifidobacterium adolescentis, Bifidobacterium bifidum, Bifidobacterium breve, Bifidobacterium longum, Bifidobacterium pseudolongum,Mobiluncus spp. などの嫌気性グラム陽桿菌、
Bacteroides fragilisペニシリン耐性, Bacteroides fragilisカルバペネム耐性, Bacteroides vulgatus, Bacteroides distasonis, Bacteroides ovatus, Bacteroides thetaiotaomicron, Bacteroides uniformis, Bacteroides eggerthii,Bacteroides ureolyticus, Campylobacter gracilis, Sutterella wadsworthensis, Prevotella bivia, Prevotella buccae, Prevotella corporis, Prevotella heparinolytica, Prevotella intermedia, Prevoterlla melaninogenica, Prevotella oralis, Prevotella oris ,Porphyromonas asaccharolytica, Porphyromonas gingivalis, Fusobacterium nucleatum, Fusobacterium varium, Fusobacterium necrophrum, Bilophila wadsworthia, Desulfovibrio piger, Capnocytophage ochraceaなどの嫌気性グラム陰性桿菌、
【0032】
Clostridium diffioile, Clostriduim sordellii,Clostridium septicum, Clostridium perfringens, Clostridium ramosum, Clostridium clostridiiforme, Clsotridium bifermentans, Clostridium sordellii,Clostridium novyi Type A, Clostridium sporogenes, Clostridium botulinum, clostridium tetaniiなどの嫌気性有芽胞菌
Escherichia coli, Enterobacter cloacae, Flavobacterium meningosepticum, Pseudeomonas aeruginosaなどの通性嫌気性グラム陰性桿菌、
Staphylococcus aureus MSSA,Staphylococcus aureus MRSA, Staphylococcus epidermidis, Staphylococcus hemolyticus, Gardnerella vaginalisなどの通性嫌気性グラム陽性球菌、
Lactobacillus acidophilus, Lactobacillus brevis ss. brevis, Lactobacillus casei ss. casei, Lactobacillus plantarum, Lactobacillus reuteri, Lactobacillus salivarius ss. salivariusなどの通性嫌気性グラム陽性桿菌、などの菌に対する抗菌性を示す。
【0033】
本発明の抗菌剤または抗変異原性剤の使用形態は特に限定はなく、固状、液状、半固体状のいずれの形態でもよく、経口、非経口の何れも可能であるが、例えば、経口的に摂取する場合には、食品添加剤として食品に添加して摂取することができる。食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品の種類に応じ適宜決めればよい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料などの液体食品や菓子類やその他の各種食品等の固形食品に添加して用いることができる。また、その他に、本発明の抗菌剤または抗変異原性剤を人体に投与する場合の投与方法の一例を示すと次の通りである。投与は、種々の方法で行うことができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等による経口投与とすることができる。経口投与剤は、通常の製造方法に従って製造することができる。例えば、デンプン、乳糖、マンニット等の賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤等を適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等として製造することができる。
【0034】
また、化粧品等に添加して皮膚等に塗布することによっても有効に使用できる。化粧品に添加する場合には、化粧品の本来の機能を阻害しない範囲において、添加量を適宜決めればよい。
【0035】
本発明の抗菌剤のその他の用途としては、噴霧剤、座剤、防腐剤、はみがき剤、石鹸、シャンプー、化粧水、軟膏、皮膚貼り付けフィルム、消毒液、浴用剤、化粧品などの、医療品もしくは医療補助品、耳栓、手袋、帽子、白衣、眼帯などの医療用品、空気清浄機、クーラー、掃除機、換気扇、マスクなどのフィルタ、カーペット、床板、壁板、壁紙などの室内建装材、機器、家具や雑貨などの保護シート、保護カバー、保護板、マスターバッチ、塗料、インキ、衣服、肌あて、寝具、包帯、ガーゼ、ハンカチ、ペナント、クロスなどの日用布製品、包装紙、ノート、メモ書き、ウエットティッシュなどの日用紙製品などが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、%は重量%を示す。
<ササ抽出液の製造例>
0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したクマイザサの葉および稈2kgを高圧蒸煮缶に仕込み、貫流ボイラーで発生させた2MPaの高圧蒸気を予め乾き度測定システムにより乾き度が99.5%まで達成されることが確認されたセパレーターにより気液分離しさらに減圧弁により1.6MPaまで減圧することで乾き度を向上させた蒸気を高圧蒸煮缶に導入した。蒸気導入当初は空気抜き弁を開放にして100℃で10分間蒸気を蒸煮缶内部に通過させることで空気を追い出し、空気抜き弁を閉じて100℃から10分間かけて180℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後一気に加圧解除した。高圧蒸煮した葉および稈を加圧抽出缶に仕込み水8kgを加えて室温から110℃まで30分間かけて昇温し、そのままの温度で5分間保持しその後1時間かけて加圧状態を解除した。抽出液をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のササ抽出液を得た。
【0037】
(比較例1)
特開平06−197800号公報の実施例1記載の方法を参考にしてササ抽出液の製造を行なった。即ち0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したクマイザサの葉および稈2kgに20kgの水を加えて80℃で3時間処理したのち、ろ過した。この抽出操作を2回繰り返して、温水抽出物を除去したクマイザサを調製した。次いでこれを含水率45%に調製し高圧蒸煮缶に仕込み、貫流ボイラーで発生させた2MPaの高圧蒸気を減圧弁により1.6MPaまで減圧した蒸気をそのまま直接高圧蒸煮缶に導入した。室温から10分間かけて180℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後徐々に加圧解除した。高圧蒸煮した葉および稈を加圧抽出缶に仕込み水8kgを加えて室温から110℃まで30分間かけて昇温し、そのままの温度で5分間保持しその後1時間かけて加圧状態を解除した。抽出液をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のササ抽出液を得た。
【0038】
(比較例2)
公報特開平11−199502号公報の実施例1記載の方法を参考にしてササ抽出液の製造を行なった。即ち0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したクマイザサの葉および稈2kgを耐熱袋に入れて加圧抽出缶に仕込み37kgの水を加えて室温から120℃まで30分間かけて昇温し、そのままの温度で10分間保持しその後1時間かけて加圧状態を解除した。次いで加圧抽出缶中の熱水を冷却水により80℃まで冷却してから加圧抽出缶の蓋を開け、クマイザサの葉および稈を取り出し、スクリュープレスにいれて含水率50%に調製した。この工程で分離されたエキスは先の加圧抽出缶中の熱水に加えられる。次いでこれを含水率50%に調製しされた固形分を高圧蒸煮缶に仕込み、貫流ボイラーで発生させた2MPaの高圧蒸気を減圧弁により1.6MPaまで減圧した蒸気をそのまま直接高圧蒸煮缶に導入した。室温から10分間かけて180℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後徐々に加圧解除した。高圧蒸煮した葉および稈を再度加圧抽出缶に仕込み室温から110℃まで30分間かけて昇温し、そのままの温度で5分間保持しその後1時間かけて加圧状態を解除した。抽出液をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のササ抽出液を得た。
【0039】
<ササ抽出液の評価>
(組成分析方法)
J&W製 innowax 30m×0.25mm, 0.25umのカラムを装着したガスクロマトグラフ質量分析計により酢酸、ギ酸、クマル酸、フェルラ酸、3−ヒドロキシピリジンの定性、定量分析を行なった。
【0040】
またカラムとしてCarboPac PA1、検出器として電気化学検出器を装着したダイオネクス製DXc-500型糖分析装置によりアラビノース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、キシロース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオース、キシロヘキサオース、アラビノビオース、アラビノトリオース、アラビノテトラオース、アラビノペンタオース、アラビノヘキサオースの定性、定量分析を行い全成分の合計値を糖類の含有量とした。
【0041】
(抗菌性試験方法)
試験菌は、以下の通りである。
大腸菌:Escherichia coli NBRC 3962
黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus NBRC12732
緑膿菌:Pseudomonas aeruginosa NBRC13275
菌数をほぼ一定にしたミュラーヒントンブロスに種々の倍率で希釈したササ抽出液を接触させ一定時間培養後菌の増殖を阻止した最小の薬剤濃度(MIC)を求め抗菌効果の指標とした。
MICが小さいほど抗菌効果が高い。
【0042】
(抗変異原性試験方法)
菌株にサルモネラTA100を用い、変異原物質にB(a)P ;benzo(a)pyreneを用いて復帰変異コロニー数を計数した。抗変異原性の指標としてはササ抽出物サンプル未添加の復帰変異コロニー数を100として換算した相対値で示す。数値が小さいほど抗変異原性が高い。
【0043】
(評価結果)
以上の評価方法により製造例、比較例1、および比較例2により得られたササ抽出液の
評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

(注1)ササ抽出液未添加を100とした場合の相対値
(注2)ササ抽出物製造後速やかに菌が繁殖したと考えられエキスとしては全く不適当 であることを示している。














【特許請求の範囲】
【請求項1】
笹の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出してなる、フェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンを各々0.5mg/g以上含有し、かつ加熱残分を40〜60重量%に調製したときの糖類の含有量が50mg/g以下であることを特徴とするササ抽出物。
【請求項2】
フェニルプロパノイドが、クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸、バニリンから選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1記載のササ抽出物。
【請求項3】
ギ酸の含有量が、5mg/g以上である請求項1または2記載のササ抽出物。
【請求項4】
3−ヒドロキシピリジンの含有量が、1mg/g以上である請求項1〜3いずれか記載のササ抽出物。
【請求項5】
蒸煮前の笹の葉および/または稈の水分が、笹の葉および/または稈全体に対して10%重量以下であり、かつ、蒸煮する蒸気が、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気である請求項1〜4いずれか記載のササ抽出物。
【請求項6】
蒸煮温度が、160〜190℃であり、かつ、水性溶媒抽出温度が、100〜150℃であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のササ抽出物。
【請求項7】
水性溶媒が、熱水またはアルカリ水溶液である請求項1〜6いずれか記載のササ抽出物。
【請求項8】
笹の葉および/または稈を、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で160〜190℃で30秒から1時間蒸煮したのち、水性溶媒で抽出することを特徴とするササ抽出物製造方法。
【請求項9】
さらに、蒸煮前および/または蒸煮中に、蒸煮装置から空気を追い出す工程を含む請求項8記載のササ抽出物製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のササ抽出物を含有する抗菌剤。

【公開番号】特開2006−36731(P2006−36731A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222710(P2004−222710)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【出願人】(503021250)株式会社鳳凰堂 (7)
【Fターム(参考)】