説明

サスペンションの構造

【課題】重量、材料費及び成形型費を低減することができるサスペンションの構造を提供する。
【解決手段】車体11の左右の支持部15に対して、車両の前後方向に延びる一対のサスペンションアーム16を連結部20にてそれぞれ揺動自在に連結する。各サスペンションアーム16には、車輪21を支持する車輪支持部22、及び車体11に連結されたショックアブソーバ23を支持する座部を設ける。各サスペンションアーム16を、前端部に連結部20を備えた前部部材18と、その前部部材18の後端部に対して連結固定されるとともに車輪支持部22及び座部を備えた後部部材19とより構成する。一対のサスペンションアーム16の前部部材18を左右共通化形状となるように成形するとともに、後部部材19を左右対称形状となるように成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両におけるサスペンションの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のサスペンションの構造としては、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような構成が提案されている。これらの従来構成においては、車体の左右両側部に、車両の前後方向へ延びる一対のサスペンションアームが前端の連結部にてそれぞれ揺動自在に連結支持されている。各サスペンションアームの後部側には、車輪を支持するための車輪支持部、及び車体に連結されたショックアブソーバを支持するための座部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−208232号公報
【特許文献2】特開2005−531455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの従来構成においては、各サスペンションアームが1枚の鋼板により一体に成形されている。このため、車輪から車輪支持部に作用する荷重、及びショックアブソーバから座部に作用する荷重に対抗するように、高強度の材質及び板厚の素材を用いてサスペンションアームの全体を成形する必要がある。よって、サスペンションアームの重量が増大するとともに、材料費が高くなって製造コストの高騰を招くという問題があった。
【0005】
また、サスペンションアームが一体の成形構造となっているため、レイアウトやサスペンションアーム特性の都合上、一対のサスペンションアームを左右対称形状となるように構成した場合、両サスペンションアームを共通の成形型で成形して、左右共通部品として使用することができない。よって、成形型費が高くなって製造コストの一層の高騰を招くという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、成形素材の材質及び板厚の最適化を図ることができて、重量及び材料費を低減することができるとともに、一つの部位を共通の成形型により成形して左右共通部品として使用することができて、成形型費を低減することができるサスペンションの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、車両の前後方向に延びて、車体の左右の支持部に対し連結部にてそれぞれ揺動自在に連結され、車輪を支持する車輪支持部及び前記車体に連結されたショックアブソーバを支持する座部を有するサスペンションの構造において、前記車体の左右に設けられた一対のサスペンションアームが、前端部に前記連結部を備えた前部部材と、前記前部部材の後端部に対して連結固定されるとともに前記車輪支持部及び前記座部を有する後部部材とを備え、前記一対のサスペンションアームの前部部材は、左右共通化形状になるよう成形され、前記後部部材は、左右対称形状に成形されていることを特徴としている。
【0008】
従って、この発明のサスペンションの構造においては、車輪から車輪支持部に作用する荷重、及びショックアブソーバから座部に作用する荷重に対抗するように、サスペンションアームの後部部材のみを高強度の材質及び板厚の素材を用いて成形すればよい。すなわち、大きな荷重が作用しない前部部材を、低強度の材質及び板厚の素材を用いて成形することができる。よって、成形素材の材質及び板厚の最適化を図ることができて、重量及び材料費を低減することができる。
【0009】
また、サスペンションアームの前部部材が左右共通化形状になっているため、その前部部材を共通の成形型により成形して、左右共通部品として使用することができて、成形型費を低減することができる。さらに、左右共通化形状の前部部材を設けたことにより、左右対称形状の後部部材の外形寸法が小型になるため、その後部部材をサイズの小さな成形型により成形することができて、成形型費を一層低減することができる。その結果、サスペンションの製造コストを低下させることができる。
【0010】
前記の構成において、前記後部部材は、車体内方に向かって開放された断面形状を有するように構成するとよい。このように構成した場合には、後部部材の成形を容易に行うことができるとともに、その後部部材の内側開放部内にショックアブソーバを支持するための座部を隠蔽状態で配置することができる。
【0011】
前記の構成において、前記前部部材は、前記連結部の揺動中心を含むとともに前後方向に延びる仮想平面を基準にして上下対称形状に形成するとよい。このように構成した場合には、前部部材を簡単な構成で左右共通化形状にすることができるとともに、その前部部材の成形を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、サスペンションの重量、材料費及び成形型費を下げることができて、製造コストの低減を図ることができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態のサスペンションを車体に装着した状態を示す要部斜視図。
【図2】図1の一対のサスペンションアームのうちの一方のサスペンションアームを拡大して示す斜視図。
【図3】同サスペンションアームの側面図。
【図4】一対のサスペンションアームの横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明を自動車等の車両におけるサスペンションの構造に具体化した一実施形態を、図面に従って説明する。
図1に示すように、この実施形態においては、車両の車体11に左右一対のサイドフレーム12が備えられている。サイドフレーム12の後端部間には、クロスメンバ13が連結されている。クロスメンバ13の両側後部には、左右一対のキックアップフレーム14が車体11の幅方向の内側にオフセットした状態で連結されている。車体11の左右両側においてクロスメンバ13の両端部付近には、一対の支持部15が設けられている。各支持部15には、左右一対のサスペンションアーム16が車体11の前後方向に延びる状態で揺動可能に連結支持されている。両サスペンションアーム16の後端部間にはトーションビーム17が架設され、このトーションビーム17により両サスペンションアーム16が一体揺動可能に連結されている。
【0015】
図1〜図4に示すように、前記各サスペンションアーム16は、車体11の前方側に配置される前部部材18と、その前部部材18の後端部に対してアーク溶接等により連結固定された後部部材19とより構成されている。前部部材18及び後部部材19は、それぞれ鋼板により車体11の内方に向かって開放された断面形状を有するように成形されている。この場合、後部部材19の成形には、高強度の材質及び板厚の鋼材(すなわち、鋼板)が用いられている。これに対して、前部部材18の成形には、後部部材19に比較して低強度の材質及び板厚の鋼材(すなわち、鋼板)が用いられている。
【0016】
前記各サスペンションアーム16の前部部材18の前端部には、車体11の左右の支持部15に対して図示しない支持ピン等により揺動自在に連結される円筒状の連結部20が溶接固定されている。後部部材19には、車輪21を回転可能に挿通支持するための透孔状の車輪支持部22が設けられている。また、後部部材19の内側面には、車体11に連結されたショックアブソーバ23を支持するための座部24が突設されている。そして、車輪21から車輪支持部22に作用する荷重、及びショックアブソーバ23から座部24に作用する荷重が、高強度の材質及び板厚の鋼材よりなる後部部材19において受け止められるようになっている。
【0017】
図3及び図4に示すように、前記左右一対のサスペンションアーム16において、前部部材18は左右共通化形状となるように成形されている。つまり、各前部部材18は、連結部20の揺動中心Oを含むとともに前後方向に延びる仮想平面Pを基準にして、上下対称形状となるように形成されている。これに対して、後部部材19は車体の前後方向に延びる中心を基準にして左右対称形状となるように成形されている。それにより、左右一対のサスペンションアーム16の前部部材18は、共通の成形型を用いて成形して、共通部品として使用できるようになっている。また、後部部材19は、サイズの小さな左右対称形状の成形型を用いて各別に成形するようになっている。
【0018】
(実施形態の作用)
さて、上記サスペンションアームの構造によれば、前部部材が左右共通化形状に成形されるため、左右一対のサスペンションアーム16の前部部材18は、共通の成形型を用いて成形して、共通部品として使用できる。
【0019】
又、後部部材19は左右対称形状となるように成形されていることから、サスペンションアームの後部部材のみを高強度の材質及び板厚の素材を用いて成形すればよく、大きな荷重が作用しない前部部材を、低強度の材質及び板厚の素材を用いて成形できる。よって、成形素材の材質及び板厚の最適化が図られ、重量及び材料費が低減される。
【0020】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) このサスペンションアームの構造においては、左右一対のサスペンションアーム16が、前部部材18と、その前部部材18の後端部に連結固定された後部部材19とより構成されている。前部部材18の前端部には、車体11の左右の支持部15に対して揺動自在に連結するための連結部20が設けられている。後部部材19には、車輪21を支持する車輪支持部22、及び車体11に連結されたショックアブソーバ23を支持する座部24が設けられている。一対のサスペンションアーム16の前部部材18は左右共通化形状となるように成形されるとともに、後部部材19は左右対称形状となるように成形されている。
【0021】
このため、このサスペンションにおいては、車輪21から車輪支持部22に作用する荷重、及びショックアブソーバ23から座部24に作用する荷重に対抗するように、サスペンションアーム16の後部部材19のみを高強度の材質及び板厚の素材を用いて成形すればよい。すなわち、大きな荷重が作用しない前部部材18を、低強度の材質及び板厚の素材を用いて成形することができる。よって、成形素材の材質及び板厚の最適化を図ることができ、サスペンションアーム全体を一体に成形した従来構成に比較して、重量及び材料費を低減することができる。
【0022】
また、サスペンションアーム16の前部部材18が左右共通化形状になっているため、その前部部材18を共通の成形型により成形して、左右共通部品として使用することができて、成形型費を低減することができる。さらに、左右共通化形状の前部部材18を設けたことにより、左右対称形状の後部部材19の外形寸法が小型になるため、その後部部材19をサイズの小さな成形型により成形することができて、成形型費を一層低減することができる。その結果、サスペンションアーム16の製造コストを低下させることができる。
【0023】
(2) このサスペンションの構造においては、前記前部部材18及び後部部材19が、車体11の内方に向かって開放された断面形状を有するように構成されている。このため、前部部材18及び後部部材19の成形を容易に行うことができるとともに、後部部材19の内側開放部内にショックアブソーバ23を支持するための座部24を隠蔽状態で配置することができる。
【0024】
(3) このサスペンションの構造においては、前記前部部材18が、連結部20の揺動中心Oを含むとともに前後方向に延びる仮想平面Pを基準にして上下対称形状となるように形成されている。このため、前部部材18を簡単な構成で左右共通化形状にすることができるとともに、その前部部材18の成形を容易に行うことができる。
【0025】
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態において、サスペンションアーム16の前部部材18を、四角筒状等の閉断面形状となるように形成すること。
【0026】
・ 前記実施形態において、サスペンションアーム16の前部部材18及び後部部材19の側面形状を任意に変更すること。
【符号の説明】
【0027】
11…車体、15…支持部、16…サスペンションアーム、18…前部部材、19…後部部材、20…連結部、21…車輪、22…車輪支持部、23…ショックアブソーバ、24…座部、P…仮想平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延びて、車体の左右の支持部に対し連結部にてそれぞれ揺動自在に連結され、車輪を支持する車輪支持部及び前記車体に連結されたショックアブソーバを支持する座部を有するサスペンションの構造において、
前記車体の左右に設けられた一対のサスペンションアームが、前端部に前記連結部を備えた前部部材と、前記前部部材の後端部に対して連結固定されるとともに前記車輪支持部及び前記座部を有する後部部材とを備え、
前記一対のサスペンションアームの前部部材は、左右共通化形状になるよう成形され、
前記後部部材は、左右対称形状に成形されていることを特徴とするサスペンションの構造。
【請求項2】
前記後部部材は、車体内方に向かって開放された断面形状を有することを特徴とする請求項1に記載のサスペンションの構造。
【請求項3】
前記前部部材は、前記連結部の揺動中心を含むとともに前後方向に延びる仮想平面を基準にして上下対称形状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサスペンションの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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