説明

サスペンションアーム

【課題】サスペンションアームにて、溶接部の終端付近Xでの応力悪化を招くことなく、境界部位付近Yでの応力を低減する。
【解決手段】サスペンションアームは、断面コ字状のアッパーパネル11の両側部11aと断面コ字状のロアパネル12の両側部12aを溶接Wすることで中空矩形閉断面構造とされ、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部10Cが形成されている。取付部10Cはアッパーパネル11の平面部とロアパネル12の平面部とで構成され、ロアパネル12の平面部には、基準平面部P2aを絞り加工することで加工平面部P2bが形成され、加工平面部P2bと基準平面部P2a間に斜面部P2cが形成されている。ロアパネル12の側部12aのアーム先端部位とこれに連続する基準平面部P2aの側端に第1の円弧形状部12cが形成され、斜面部P2cの側端に同側端の中間に頂部が位置する第2の円弧形状部12dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工した二枚の板状部材を相互に溶接することにより構成されたサスペンションアームに関し、特に、断面コ字状とされた第1板部材の両側部(フランジ部)と、断面コ字状とされた第2板部材の両側部(フランジ部)とを、溶接することにより、中空矩形閉断面構造とされていて、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部が形成されているサスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサスペンションアームは、例えば、下記特許文献1に示されている。下記特許文献1に記載されているサスペンションアームにおいては、断面コ字状とされた第1板部材の両側部(フランジ部)と、断面コ字状とされた第2板部材の両側部(フランジ部)とを、溶接することにより、中空矩形閉断面構造とされていて、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部が形成されている。また、前記取付部が、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材の前記両側部間に在る一方の平面部と、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材の前記両側部間に在る他方の平面部とを重ね合わせることによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−19907号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載されているサスペンションアームでは、前記一方の平面部と前記他方の平面部に、前記両側部間からアーム先端に向けて延在する基準平面部(絞り加工されていない平面部)を絞り加工することで形成した加工平面部がそれぞれ形成されていて、この加工平面部と前記基準平面部間に、斜面部が連続的に形成されている。かかる構成のサスペンションアームでは、一方の加工平面部と他方の加工平面部とを重ね合わせることによって平面状の取付部が形成されていて、この平面状の取付部近傍にある溶接部の終端付近に応力が集中しやすいとともに、絞り加工によって斜面部が形成されている板部材において、側部(フランジ部)を形成するために曲げ加工される部位と加工平面部を形成するために絞り加工される部位との境界部位付近(曲げ加工と絞り加工の影響を共に受ける部位)に応力が集中しやすい。
【0005】
本発明は、上記した応力、特に、境界部位付近での応力を緩和すべくなされたものであり、
断面コ字状とされた第1板部材の両側部と、断面コ字状とされた第2板部材の両側部とを、溶接することにより、中空矩形閉断面構造とされていて、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部が形成されているサスペンションアームであって、
前記取付部は、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材の前記両側部間に在る一方の平面部と、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材の前記両側部間に在る他方の平面部とを重ね合わせることによって構成されていて、
前記一方の平面部と前記他方の平面部の少なくとも一方には、前記両側部間からアーム先端に向けて延在する基準平面部を絞り加工することで加工平面部が形成されていて、前記加工平面部と前記基準平面部間に、斜面部が連続的に形成されており、
前記斜面部が形成されている前記板部材における前記側部のアーム先端部位とこれに連続する前記基準平面部の側端には、第1の円弧形状部が形成され、
前記斜面部の側端には、同側端の中間に頂部が位置するように第2の円弧形状部が形成されているサスペンションアームに特徴がある。
【0006】
本発明によるサスペンションアームにおいては、斜面部が形成されている板部材における側部のアーム先端部位とこれに連続する基準平面部の側端に、第1の円弧形状部が形成されているため、当該板部材において側部(フランジ部)を曲げ成形し易くて、断面コ字状とするプレス加工性に優れている。また、斜面部の側端に、同側端の中間に頂部が位置するように第2の円弧形状部が形成されているため、溶接部の終端付近での応力悪化を招くことなく、側部(フランジ部)を形成するために曲げ加工される部位と加工平面部を形成するために絞り加工される部位との境界部位付近(曲げ加工と絞り加工の影響を共に受ける部位)での応力を緩和することができる。したがって、本発明では、プレス加工性等に配慮した上で、溶接部の終端付近での応力悪化を招くことなく、境界部位付近での応力を低減することが可能である。
【0007】
上記した本発明の実施に際して、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材がアッパーパネルであり、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材がロアパネルであって、前記ロアパネルにのみ前記斜面部が形成されていることも可能である。この場合には、斜面部が形成されているロアパネルにのみ第1の円弧形状部と第2の円弧形状部を形成することで上記した作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るサスペンションアームの一実施形態を概略的に示した底面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った断面図である。
【図4】図1に示したサスペンションアームのロアパネルを単体で示した部分拡大図である。
【図5】図1矢視5の部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図4は本発明をL型のサスペンションアームに実施した実施形態を示していて、このサスペンションアーム10は、鋼板製のアッパーパネル(上板部材)11と鋼板製のロアパネル(下板部材)12と鋼板を筒状に成形したパイプ13を備えていて、アッパーパネル11とロアパネル12によって内側後方のブッシュ支持部10Aが形成され、パイプ13によって内側前方のブッシュ支持部10Bが形成されている。
【0010】
また、このサスペンションアーム10では、断面コ字状とされたアッパーパネル11の両側部(フランジ部)11aと、断面コ字状とされたロアパネル12の両側部(フランジ部)12aとを、溶接W(図2および図3参照)することにより、図2に示したように、中空矩形閉断面構造とされている。また、このサスペンションアーム10では、アッパーパネル11とロアパネル12によって、車輪支持部材(図示省略)に連結されるブラケット14(図3の仮想線で示したボールジョイントブラケット参照)が組付けられるアーム端部(当該サスペンションアーム10の外側前方部位)に平面状の取付部10Cが形成されている。なお、平面状の取付部10Cには、図3に示したように、ブラケット14を取付けるためのボルト15(ナット16に螺着される)を挿通するための取付孔10c1が3個形成されている。
【0011】
平面状の取付部10Cは、図1および図3に示したように、アッパーパネル11の両側部11a間に在る平面部11bと、ロアパネル12の両側部12a間に在る平面部12bとを重ね合わせることによって構成されている。アッパーパネル11の平面部11bは、非加工の基準平面部P1aである。ロアパネル12の平面部12bは、絞り加工によって形成された加工平面部P2bである。なお、アッパーパネル11の平面部11bとロアパネル12の平面部12bは、接合されているのみで固着(溶接)されてはいない。
【0012】
ロアパネル12の加工平面部P2bは、図4に示したように、両側部12a間からアーム先端(図4の右方)に向けて延在する基準平面部(P2a)の両側端(基準平面部P2aとして残存している部分)を除いた部分を絞り加工(プレス加工)することにより形成されていて、この絞り加工によって、加工平面部P2bと基準平面部P2a間に、斜面部P2cが連続的に形成されている。
【0013】
ところで、この実施形態においては、図4および図5に示したように、ロアパネル12における側部12aのアーム先端部位とこれに連続する基準平面部P2aの側端には、第1の円弧形状部12cがそれぞれ形成されている。また、ロアパネル12における斜面部P2cの図4上方の側端には、同側端の中間に頂部が位置するように第2の円弧形状部12dが形成されている。なお、この実施形態では、ロアパネル12における斜面部P2cの図4下方の側端に、第2の円弧形状部(12d)を形成しないで実施したが、第2の円弧形状部(12d)を形成して実施することも可能である。
【0014】
上記のように構成したこの実施形態のサスペンションアーム10においては、ロアパネル12における側部12aのアーム先端部位とこれに連続する基準平面部P2aの側端に、第1の円弧形状部12cがそれぞれ形成されているため、ロアパネル12において側部(フランジ部)12aを曲げ成形し易くて、断面コ字状とするプレス加工性に優れている。また、斜面部P2cの図4上方の側端に、同側端の中間に頂部が位置するように第2の円弧形状部12dが形成されている。
【0015】
このため、溶接部Wの終端付近X(図5参照)での応力悪化を招くことなく、側部(フランジ部)12aを形成するために曲げ加工される部位と加工平面部P2bを形成するために絞り加工される部位との境界部位付近(曲げ加工と絞り加工の影響を共に受ける部位)Yでの応力を緩和することができる。したがって、この実施形態では、プレス加工性等に配慮した上で、溶接部Wの終端付近Xでの応力悪化を招くことなく、境界部位付近Yでの応力を低減することが可能である。
【0016】
また、この実施形態では、ロアパネル12にのみ斜面部P2c(絞り加工部)が形成されている。このため、斜面部P2cが形成されているロアパネル12にのみ第1の円弧形状部12cと第2の円弧形状部12dを形成することで上記した作用効果を得ることができる。なお、第1の円弧形状部12cに相当する円弧形状部は、アッパーパネル11にも形成されていて、アッパーパネル11においても、側部(フランジ部)11aを曲げ成形し易くて、断面コ字状とするプレス加工性に優れている。
【0017】
上記した実施形態では、L型のサスペンションアーム10に本発明を適用したが、これに限らず、本発明は、断面コ字状とされた第1板部材の両側部と、断面コ字状とされた第2板部材の両側部とを、溶接することにより、中空矩形閉断面構造とされていて、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部が形成されており、前記取付部が、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材の前記両側部間に在る一方の平面部と、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材の前記両側部間に在る他方の平面部とを重ね合わせることによって構成されている種々のサスペンションアームにも、同様にまたは適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0018】
10…サスペンションアーム、10A…ブッシュ支持部、10B…ブッシュ支持部、10C…取付部(アーム端部)、10c1…取付孔、11…アッパーパネル、11a…アッパーパネルの側部、11b…アッパーパネルの平面部、12…ロアパネル、12a…ロアパネルの側部、12b…ロアパネルの平面部、12c…第1の円弧形状部、12d…第2の円弧形状部、13…パイプ、14…ブラケット、15…ボルト、16…ナット、P1a…基準平面部、P2a…基準平面部、P2b…加工平面部、P2c…斜面部、W…溶接部、X…溶接部の終端付近、Y…境界部位付近

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面コ字状とされた第1板部材の両側部と、断面コ字状とされた第2板部材の両側部とを、溶接することにより、中空矩形閉断面構造とされていて、車輪支持部材に連結されるブラケットが組付けられるアーム端部に平面状の取付部が形成されているサスペンションアームであって、
前記取付部は、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材の前記両側部間に在る一方の平面部と、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材の前記両側部間に在る他方の平面部とを重ね合わせることによって構成されていて、
前記一方の平面部と前記他方の平面部の少なくとも一方には、前記両側部間からアーム先端に向けて延在する基準平面部を絞り加工することで加工平面部が形成されていて、前記加工平面部と前記基準平面部間に、斜面部が連続的に形成されており、
前記斜面部が形成されている前記板部材における前記側部のアーム先端部位とこれに連続する前記基準平面部の側端には、第1の円弧形状部が形成され、
前記斜面部の側端には、同側端の中間に頂部が位置するように第2の円弧形状部が形成されているサスペンションアーム。
【請求項2】
前記第1板部材と前記第2板部材の何れか一方の板部材がアッパーパネルであり、前記第1板部材と前記第2板部材の何れか他方の板部材がロアパネルであって、前記ロアパネルにのみ前記斜面部が形成されている請求項1に記載のサスペンションアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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