説明

サスペンションメンバ構造体

【課題】サスペンションメンバに入力されるエンジンのトルク変動に基づいたピッチング振動を、アクティブダンパによって効率的に制振することができると共に、アクティブダンパの必要数を減らすことができる、新規な構造のサスペンションメンバ構造体を提供すること。
【解決手段】サスペンションメンバ構造体10において、アクティブダンパ30が、差動装置24に対する車両前後の少なくとも一方の側で、サスペンションメンバ12の差動装置24を節としたピッチング振動モードの腹となる位置に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントエンジン・リアドライブ方式の車両において、後輪のサスペンションアームや差動装置等を支持するサスペンションメンバ構造体に係り、特に、エンジンのトルク変動に起因するピッチング振動を抑えることができるサスペンションメンバ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フロントエンジン・リアドライブ方式の車両では、後輪のサスペンションアームや差動装置等を支持するリアのサスペンションメンバが採用されており、サスペンションメンバがメンバマウント等を介して車両ボデーに防振連結されることにより、サスペンションアームや差動装置等が車両ボデーに連結されるようになっている。例えば、特開2010−95042号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、サスペンションメンバの振動は、メンバマウント等の防振装置によって車両ボデーへの伝達が低減されているが、サスペンションメンバ自体の振動を低減することによって、車両ボデーへの振動の伝達を抑えることも検討されている。即ち、特開平10−231886号公報(特許文献2)に記載されているようなアクティブダンパをサスペンションメンバに取り付けてサスペンションメンバ構造体を構成することにより、アクティブダンパから制振対象振動と逆位相の加振力をサスペンションメンバに能動的に及ぼして制振対象振動を相殺し低減するのである。
【0004】
このようなアクティブダンパによる能動的な制振作用を利用する場合には、アクティブダンパのサスペンションメンバへの取付け位置が極めて重要になる。一般的に、アクティブダンパからサスペンションメンバに及ぼされる加振力は、アクティブダンパの取付け位置付近での振動に対して有効な制振作用を発揮することから、アクティブダンパのサスペンションメンバへの取付け位置は、サスペンションメンバから車両ボデーへの振動伝達点であるメンバマウントの配設位置付近に設定される。
【0005】
ところが、サスペンションメンバは、一般的に、車両幅方向の両端部分がそれぞれ複数のメンバマウントを介して車両ボデーに防振支持されることから、各メンバマウントの配設位置にそれぞれアクティブダンパを配設すると、車両重量の増大や部品点数の増加等が問題になり易い。
【0006】
また、メンバマウントの配設位置等によっては、アクティブダンパ自体が新たな振動の発生源となって振動状態が悪化するという問題が生じ得る。即ち、アクティブダンパのサスペンションメンバへの取付け位置が適当ではない場合には、アクティブダンパからサスペンションメンバに及ぼされる能動的な加振力が制振対象振動を有効に相殺し得ず、却って振動を増幅したり、新たに問題となる振動を生み出すおそれがあって、充分な制振効果が得られないおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−95042号公報
【特許文献2】特開平10−231886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、サスペンションメンバに入力されるエンジンのトルク変動に基づいたピッチング振動を、アクティブダンパによって効率的に制振することができると共に、アクティブダンパの必要数を減らすことができる、新規な構造のサスペンションメンバ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、車両前後方向に延びるプロペラシャフトに連結された差動装置が、サスペンションアームと車両ボデーの間に介装されるサスペンションメンバに支持されていると共に、該サスペンションメンバには能動的な加振力を及ぼすアクティブダンパが取り付けられているサスペンションメンバ構造体において、前記差動装置に対する車両前後の少なくとも一方の側には前記サスペンションメンバの該差動装置を節としたピッチング振動モードの腹となる位置に前記アクティブダンパが取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
このような第1の態様に記載されたサスペンションメンバ構造体によれば、アクティブダンパの取付け位置が、差動装置に対する車両前後の少なくとも一方の側で且つピッチング振動モードの腹となる位置に設定することにより、少ないアクティブダンパの取付け数で、ピッチング振動によるこもり音の発生が効率的に低減乃至は防止される。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されたサスペンションメンバ構造体において、前記アクティブダンパが前記サスペンションメンバに対して前記差動装置の車両後方側で1つだけ取り付けられているものである。
【0012】
第2の態様によれば、プロペラシャフトを避けて差動装置の後方側にアクティブダンパが配設されることにより、アクティブダンパの配設スペースを容易に確保することが可能となる。
【0013】
しかも、プロペラシャフトの延長線により接近した位置(より好適には、延長線上)にアクティブダンパを配設することも可能となることから、ブラケット部材の共振によるサスペンションメンバの振動状態への悪影響が抑えられて、制振効果をより効率的に得ることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載されたサスペンションメンバ構造体において、前記アクティブダンパが、前記サスペンションメンバの中央部分で該サスペンションメンバの車両左右方向での幅寸法に対する20%以内の領域に配設されている。
【0015】
第3の態様によれば、アクティブダンパがサスペンションメンバ上で車両左右方向の略中央部分に配設されることにより、アクティブダンパからサスペンションメンバに及ぼされる加振力がピッチング振動に対して効率的に作用してピッチング振動が低減されると共に、加振力の作用による新たな振動の発生も回避される。その結果、少数のアクティブダンパによって目的とする制振性能を有効に得ることが可能とされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アクティブダンパが、差動装置の前後で且つ制振対象振動のピッチング振動モードの腹に位置するように配設されていることにより、少ない数のアクティブダンパによって目的とする制振効果を効率的に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのサスペンションメンバ構造体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示されたサスペンションメンバ構造体を概略的に示す左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1,図2には、本発明の1実施形態としてのサスペンションメンバ構造体10が、車両への装着状態で示されている。サスペンションメンバ構造体10は、サスペンションメンバ12と、サスペンションメンバ12に取り付けられるアクティブダンパシステム14とを含んで構成されている。なお、以下の説明において、原則として、前方とは車両の前方に相当する図1中の下方(図2中の右方)を、後方とは、後方向とは車両の後方に相当する図1中の上方(図2中の左方)を、それぞれ言うものとする。
【0020】
より詳細には、サスペンションメンバ12は、図示しないサスペンションアーム等を支持し得る充分な剛性を備えたサブフレームであって、左右方向(図1中、左右方向)の両端において前後方向に延びる一対のボデー連結部16,16を有している。このボデー連結部16は、前後両端部がそれぞれサスペンションメンバマウント18によって車両ボデーに防振連結されており、サスペンションメンバ12が図示しないサスペンションアームと車両ボデーの間に介装されている。なお、サスペンションメンバ12やサスペンションメンバマウント18は、何れも公知の従来構造のものが採用され得ることから、ここでは概略的な説明とする。
【0021】
また、一対のボデー連結部16,16は、フロント側デフ支持部20とリア側デフ支持部22によって相互に連結されている。このフロント側デフ支持部20とリア側デフ支持部22は、何れも左右方向に延びており、左右両端部が一対のボデー連結部16,16の各一方に溶接等の手段で固定されている。そして、フロント側デフ支持部20が差動装置24の前部を左右において支持していると共に、リア側デフ支持部22が差動装置24の後部を後方において支持している。
【0022】
差動装置24は、図示しないパワーユニットによって及ぼされた後述するプロペラシャフト28の回転力を図示しない後輪の車軸に伝達すると共に、左右の車輪の回転量を調節して走行安定性の向上を図るものである。この差動装置24は、その前部の左右両側がデフマウント26,26によってフロント側デフ支持部20に防振連結されると共に、後部がデフマウント26,26によってリア側デフ支持部22に防振連結されることにより、サスペンションメンバ12によって防振支持されている。なお、差動装置24やデフマウント26の構造の詳細については、本発明の要部ではなく、何れも公知の従来構造のものが採用され得ることから、ここでは概略的な説明とする。
【0023】
また、差動装置24には、プロペラシャフト28が連結されている。プロペラシャフト28は、車両前後方向に延びており、車両の前部に搭載された図示しないパワーユニットの発生力を後輪に伝達するものである。そして、プロペラシャフト28は、歯車を設けられた後端部分が差動装置24に差し込まれて、差動装置24の歯車と噛合することにより、差動装置24に連結されている。
【0024】
一方、サスペンションメンバ12のリア側デフ支持部22には、アクティブダンパシステム14が取り付けられている。アクティブダンパシステム14は、アクティブダンパ30と、その駆動を制御するためのコントロールシステム32とを含んで構成されている。
【0025】
アクティブダンパ30は、外部からの通電によって図示しないマス部材を変位させることによって、制振対象振動と逆位相の加振力を発生する電磁式の制振器であって、一般的には、マス部材と、マス部材を駆動変位させる電磁式アクチュエータとを有している。また、アクティブダンパ30には、上記マス部材と電磁式アクチュエータを収容する図示しないハウジングが設けられている。なお、アクティブダンパ30としては、例えば、特開平10−231886号公報等に開示されているような公知構造のものが採用され得ることから、ここでは具体的な構造に関する詳細な説明を省略する。また、アクティブダンパ30の加振方向は、略鉛直上下方向(図2中の上下方向)とされている。
【0026】
さらに、アクティブダンパ30のハウジングには、ブラケット部材34が取り付けられている。ブラケット部材34は、前後方向視で略山形状を呈する高剛性の板部材とされたブラケット本体36を有しており、ブラケット本体36の外周部分には3つの頂点部分にそれぞれボルト孔が貫通形成されている。また、ブラケット部材34には、アクティブダンパ30の取付部としてのダンパステー38が設けられており、ダンパステー38にハウジングが嵌着されることにより、アクティブダンパ30がブラケット部材34に固定される。なお、ダンパステー38は、ハウジングに外嵌される筒状や、ハウジングに係止される突起乃至は突片状等、各種構造が採用され得る。
【0027】
また、ブラケット部材34には、センサステー40が設けられている。センサステー40は、一次の固有振動数がブラケット本体36およびダンパステー38の一次の固有振動数よりも高く設定された剛性の高い部材であって、溶接や螺子止め等によってブラケット本体36に固設されている。また、センサステー40は、ブラケット本体36のサスペンションメンバ12への固定部位、要するにブラケット本体36におけるボルト孔の付近に設けられている。なお、センサステー40は、ブラケット本体36と一体で形成されていても良い。
【0028】
このセンサステー40には、加速度センサ42が取り付けられている。加速度センサ42は、センサステー40の加速度を検出することによって振動状態を検出するものであって、検出結果に基づいて残留信号を生成する図示しない発信手段を内蔵している。そして、加速度センサ42は、センサステー40に対して、接着や螺子止め等の手段で固定されて支持されており、センサステー40に伝達されるサスペンションメンバ12の振動状態が加速度センサ42によって検出されるようになっている。なお、加速度センサ42の具体的な構造は、特に限定されるものではなく、機械式や光学式の加速度センサも採用可能であるが、好適には、圧電効果に基づく電荷の変化や静電容量の変化等によって加速度を検出する半導体式の加速度センサが採用される。
【0029】
また、加速度センサ42の振動検出結果に基づいて生成された残留信号は、駆動制御装置44に送信される。駆動制御装置44は、アクティブダンパ30の電磁式アクチュエータを制御する装置であって、例えば、図示しない電源装置から電磁式アクチュエータへの給電経路上に配設されて、電磁式アクチュエータへの給電電圧等を残留信号に基づいて制御することによって加振力を制御するようになっている。このように、加速度センサ42と駆動制御装置44によって、アクティブダンパ30を制御するためのコントロールシステム32が構成されている。そして、サスペンションメンバ12に取り付けられるブラケット部材34と、それに嵌着されたアクティブダンパ30と、アクティブダンパ30を制御するコントロールシステム32によって、本実施形態のアクティブダンパシステム14が構成されている。
【0030】
かくの如きアクティブダンパシステム14は、サスペンションメンバ12に対して所定の位置に配置されて取り付けられている。即ち、アクティブダンパシステム14を構成するブラケット部材34のブラケット本体36が、サスペンションメンバ12のリア側デフ支持部22の後面に重ね合わされてボルトで固定されている。これにより、アクティブダンパ30が差動装置24の後方に1つだけ配設されて、サスペンションメンバ12の左右方向中央部分に取り付けられている。そして、アクティブダンパシステム14がサスペンションメンバ12に取り付けられることによって、本実施形態のサスペンションメンバ構造体10が構成されている。
【0031】
アクティブダンパ30の取付け位置は、車両の前後方向の投影において差動装置24と重なり合う領域に設定されており、好適にはサスペンションメンバ12の左右方向寸法(幅寸法)を100%とした場合に中央の20%の領域に設定される。これによって、アクティブダンパ30は、左右方向において、プロペラシャフト28の延長線上乃至はサスペンションメンバ12の左右両端よりもプロペラシャフト28の延長線に近い位置に配設されている。なお、上下方向では、アクティブダンパ30の位置は特に限定されるものではなく、プロペラシャフト28の延長線や差動装置24を上下に外れていても問題はないが、本実施形態では、プロペラシャフト28の延長線上に配設されている。
【0032】
また、車両への装着状態では、エンジンのトルク変動に起因するピッチング振動がサスペンションメンバ12に及ぼされるが、アクティブダンパ30は、サスペンションメンバ12において差動装置24を節とするピッチング振動モードの腹となる位置に取り付けられている。このように、制振対象振動の振幅が最大となる振動モードの腹にアクティブダンパ30が取り付けられていることによって、アクティブダンパ30の能動的な加振力による振動の相殺作用(制振作用)が効率的に発揮されて、トルク変動に起因するピッチング振動が低減される。
【0033】
また、アクティブダンパ30がサスペンションメンバ12の左右方向の中央部分に配設されていることから、アクティブダンパ30およびブラケット部材34の質量やアクティブダンパ30の加振力によって、サスペンションメンバ12に新たな振動が及ぼされるのを防ぐことができる。このように、1つのアクティブダンパ30だけによって、左右方向での質量のバランスの悪化や、加振による振動状態への悪影響を防ぎつつ、ピッチング振動に対する有効な制振効果を得ることができる。
【0034】
さらに、アクティブダンパ30は、上下方向において、プロペラシャフト28の延長線上を外れないように配設されている。その結果、ブラケット部材34の共振やアクティブダンパ30を構成する電磁式アクチュエータの発生力によって生じる振動が抑えられて、有効な制振効果が発揮される。
【0035】
また、アクティブダンパ30が差動装置24よりも車両後方側に取り付けられていることによって、差動装置24から車両前方側に延び出すプロペラシャフト28によって制限されることなく、アクティブダンパ30の配設スペースを容易に確保することが可能とされている。
【0036】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、上下方向と左右方向の何れにおいても、アクティブダンパ30の配設位置は、プロペラシャフト28の延長線上を外れていても良い。
【0037】
さらに、アクティブダンパ30は、配設スペースを確保し易い等の理由から、差動装置24の後方に配設されていることが望ましいが、ピッチング振動モードの腹に位置していれば、差動装置24の前方に配設されていても良い。
【0038】
また、アクティブダンパ30は、必ずしも1つだけが配設されているものに限定されず、例えば、差動装置24の前後に1つずつ、合計2つのアクティブダンパ30,30が配設されていても良い。
【符号の説明】
【0039】
10:サスペンションメンバ構造体、12:サスペンションメンバ、24:差動装置、28:プロペラシャフト、30:アクティブダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるプロペラシャフトに連結された差動装置が、サスペンションアームと車両ボデーの間に介装されるサスペンションメンバに支持されていると共に、該サスペンションメンバには能動的な加振力を及ぼすアクティブダンパが取り付けられているサスペンションメンバ構造体において、
前記差動装置に対する車両前後の少なくとも一方の側には前記サスペンションメンバの該差動装置を節としたピッチング振動モードの腹となる位置に前記アクティブダンパが取り付けられていることを特徴とするサスペンションメンバ構造体。
【請求項2】
前記アクティブダンパが前記サスペンションメンバに対して前記差動装置の車両後方側で1つだけ取り付けられている請求項1に記載のサスペンションメンバ構造体。
【請求項3】
前記アクティブダンパが、前記サスペンションメンバの中央部分で該サスペンションメンバの車両左右方向での幅寸法に対する20%以内の領域に配設されている請求項1又は2に記載のサスペンションメンバ構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−159108(P2012−159108A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17618(P2011−17618)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】