説明

サスペンション装置

【課題】信頼性および車両における乗り心地を向上することができるサスペンション装置を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、直線運動を回転運動に変換する運動変換機構Tと該運動変換機構Tにおける回転運動を呈する回転部材1に連結されるモータMとを備えたアクチュエータAと、運動変換機構Tにおける直線運動を呈する直動部材2に連結される流体圧ダンパDとを備えたサスペンション装置Sにおいて、アクチュエータAに連結される外筒27と、流体圧ダンパDの直動部材2に連結されるロッド31あるいはシリンダ32に取付けられて外筒27の内周に摺接する軸受34とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに生じる電磁力で上記車体と車軸との相対移動を抑制するサスペンション装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種サスペンション装置としては、車体すなわち車両のバネ上部材を弾性支持する懸架バネと、車軸すなわちバネ下部材に連結されるボール螺子ナットに回転自在に螺合した螺子軸と螺子軸の一端に連結されるとともに一対のバネに介装されてバネ上部材に弾性支持されるモータとを備えたアクチュエータと、バネ上部材に固定されアクチュエータの上下方向の振動を減衰する油圧ダンパとで構成され、アクチュエータの推力で車体と車軸との相対移動をアクティブ制御するものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平08−197931号公報(段落番号0023,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来のサスペンション装置の場合、減衰力発生源であるモータのトルクを直線方向に作用させるべき減衰力に変換する螺子軸とボール螺子ナットとで構成される運動変換機構を備えており、回転する部材の慣性質量が大きいことからモータおよび運動変換機構が高周波振動入力時には回転系のフリクションも相俟って伸縮動作できないので、上記した油圧ダンパおよび一対のバネで該高周波振動を吸収するようにしている。
【0004】
しかしながら、このサスペンション装置にあっては、モータの直線運動をガイドするためモータを覆う外筒とモータとの間の二箇所に環状の軸受を介装しているため、油圧ダンパとモータを挟持するバネで高周波振動を吸収しようとしても、上記軸受の存在によって油圧ダンパが動きづらくなって、振動吸収を妨げてしまい、バネ上部材へ振動を伝達して車両における乗り心地が悪くなってしまう虞がある。
【0005】
また、上記軸受がモータの上下動を妨げるので、アクチュエータに大きな加速度が作用しやすくなり、さらに、高周波振動入力時にはアクチュエータの各部が直接その高周波振動によって振動せしめられてしまう結果となり、高周波振動は加速度が大きいこともあって、緩衝器の信頼性の点で問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の不具合を勘案して創案されたものであって、その目的とするところは、信頼性および車両における乗り心地を向上することができるサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するため、直線運動を回転運動に変換する運動変換機構と該運動変換機構における回転運動を呈する回転部材に連結されるモータとを備えたアクチュエータと、運動変換機構における直線運動を呈する直動部材に連結される流体圧ダンパとを備えたサスペンション装置において、アクチュエータに連結される外筒と、流体圧ダンパの直動部材に連結されるロッドあるいはシリンダに取付けられて外筒の内周に摺接する軸受とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のサスペンション装置によれば、軸受が外筒の内周に摺接して、サスペンション装置の全体の伸縮についての軸受として機能しているが、この軸受は、高周波振動を吸収する流体圧ダンパのみの伸縮に対しては、外筒に対して軸方向となる上下に移動することが無いので、軸受が流体圧ダンパの伸縮に抵抗を与えることが無い。
【0009】
つまり、軸受が流体圧ダンパの伸縮に影響を与えない箇所に摺接しており、流体圧ダンパの滑らかな伸縮が補償されるので、このサスペンション装置では、高周波振動の入力に対しては積極的に流体圧ダンパを伸縮させて振動吸収を図って、バネ上部材への振動絶縁性を向上させ、車両における乗り心地が向上することになる。
【0010】
さらに、高周波振動の入力に対して軸受が流体圧ダンパの伸縮を妨げないので、アクチュエータに直接衝撃的な力が作用することが抑制されてモータおよび運動変換機構を保護することができ、サスペンション装置の主要部品であるアクチュエータの信頼性が向上し、従来サスペンション装置の不具合を解消してサスペンション装置の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるサスペンション装置の縦断面図である。
【0012】
図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション装置Sは、基本的には、直線運動を回転運動に変換する運動変換機構Tと該運動変換機構Tにおける回転運動を呈する回転部材たるボール螺子ナット1に連結されるモータMとを備えたアクチュエータAと、該運動変換機構2における直線運動を呈する直動部材たる螺子軸2に連結される液圧ダンパDと、アクチュエータAに連結される外筒27と、流体圧ダンパDの直動部材たる螺子軸2に連結されるロッド31に取付けられて外筒27の内周に摺接する環状の軸受34とを備えて構成されている。
【0013】
そして、このサスペンション装置Sは、モータMが発生するトルクでボール螺子ナット1を回転駆動することによって螺子軸2を図1中上下方向へ直線運動させることが可能であってアクチュエータとして機能することができる。
【0014】
また、螺子軸2が外力によって強制的に直線運動させられるとモータMのロータRが回転運動を呈し、モータMは誘導起電力に起因するロータRの回転運動を抑制するトルクを発生し、螺子軸2の直線運動を抑制するように機能する。すなわち、この場合には、モータMが外部入力される運動エネルギを回生して電気エネルギに変換することによって発生する回生トルクで直線運動側の部材である螺子軸2の図1中上下方向の直線運動を抑制するのである。
【0015】
つまり、このサスペンション装置Sは、モータMに積極的にトルクを発生させることによって螺子軸2に推力を与えることができ、また、螺子軸2が外力によって強制的に運動させられる場合には、モータMが発生する回生トルクで螺子軸2の直線運動を抑制することができる。
【0016】
したがって、このサスペンション装置Sにあっては、単に、螺子軸2の直線運動を抑制する減衰力を発生するばかりではなく、アクチュエータとしても機能することから、このサスペンション装置Sが車両の車体と車軸との間に介装されて使用される場合には、たとえば、車両の車体の姿勢制御も同時に行うことができ、これにより、アクティブサスペンションとして機能することができる。
【0017】
そして、このサスペンション装置Sでは、バネ上部材に連結されるアクチュエータAの螺子軸2に流体圧ダンパDが直列に連結されており、この流体圧ダンパDは、主として高周波振動を吸収する目的で設けられている。すなわち、流体圧ダンパDは、慣性モーメントが大きく高周波振動の入力に対して伸縮しにくく振動を伝達しやすくなるアクチュエータAに直列して連結されることで、比較的加速度が大きい振動等の高周波振動の入力に対して、この振動エネルギを吸収するようになっている。
【0018】
このように、このサスペンション装置Sは、低周波振動のみならず路面の突起に乗り上げによる高周波振動の入力に対しても振動を効果的に抑制することができ、車両における乗り心地を向上することができるのである。
【0019】
以下、詳細に説明すると、螺子軸2は、図1に示すように、円筒状に形成され、その外周に螺旋状の図示しない螺子溝が形成されるとともに、軸線に沿って、すなわち、螺子軸2の直線運動方向に沿って、直線状の図示しないスプライン溝が形成されている。なお、スプライン溝は、螺子軸2が後述のボールスプラインナット3から脱落することを防止するために、螺子軸2の両側の最終端には形成しないようにしてもよく、また、スプライン溝を設ける数は任意とされてよい。
【0020】
他方、螺子ナットたるボール螺子ナット1は、周知であるので詳細には図示しないが、筒状本体の内周に設けた螺子軸2の螺子溝に対向する螺旋状の通路と、筒状本体内に設けられ上記通路の両端を連通する循環路と、該通路および循環路に収容されるとともに螺子溝2を走行する複数のボールと、各ボール間に介装されるスペーサとを備えて構成され、各ボールは、上記ループ状に形成された通路と循環路を循環することができるようになっている。なお、本実施の形態では、螺子ナットをボール螺子ナット1として螺子軸2の円滑な直線運動を実現するようにしているが、単に、螺子軸2の螺子溝に螺合する螺子山を備えたナットとしてもよい。また、ボール螺子ナット1の外周には、環状溝1aが設けられており、また、図1中上端には筒状のソケット1bが設けられている。
【0021】
つづき、ボール螺子ナット1の回転駆動によって螺子軸2を直線運動させるため、螺子軸2の回り止め機構が必要となるが、本実施の形態にあっては、螺子軸2の外周に設けたスプライン溝とボールスプラインナット3によって、当該回り止め機構を構成している。このボールスプラインナット3は、周知であるので詳細には図示しないが、筒状本体の内周に設けた螺子軸2の外周に設けたスプライン溝に対向する直線状の通路と、筒状本体内に設けられ上記通路の両端を連通する循環路と、該通路および循環路に収容されるとともにスプライン溝を走行する複数のボールと、各ボール間に介装されるスペーサとを備えて構成され、各ボールは、上記ループ状に形成された通路と循環路を循環することができるようになっている。また、ボールスプラインナット3の側部には、キー溝3aが設けられている。
【0022】
そして、螺子軸2に螺子溝に沿ってボール螺子ナット1を螺合させるとともに、螺子軸2にボールスプラインナット3をスプライン溝に沿って挿入してある。
【0023】
また、ボール螺子ナット1およびボールスプラインナット3は、ともに、ボール螺子ナット1を図1中上にして、筒状のホルダ5の内周に保持されている。
【0024】
ホルダ5は、筒状とされており、図1中上端外周に突出するように設けられた螺子孔を備える複数のナット部5aと、図1中下端の内周から内方へ突出するフランジ5bと、内周の中間部に設けた段部5cと、外周の中間部に設けた一対の環状突条でなる防振ゴム21が装着される装着部5dと、段部5cより図1中下方内周に設けたキー溝5eとを備えて構成されている。
【0025】
そして、ボールスプラインナット3は、ホルダ5の内周であって段部5cより下方側に嵌合されるとともに、ボールスプラインナット3の外周に設けたキー溝3aとホルダ5の内周に設けたキー溝5eとに挿入されるキー6によってホルダ5に回り止めされた状態で保持される。
【0026】
なお、ボールスプラインナット3は、当該ボールスプラインナット3の図1中上端に当接するとともにホルダ5の内周に取付けられるスナップリング7とホルダ5のフランジ部5bとで挟持されており、ホルダ5からの脱落が防止されている。
【0027】
また、ボール螺子ナット1は、ホルダ5の内周に設けた段部5cとホルダ5の内周に螺合するナット8とで挟持されてホルダ5内周に固定されるボールベアリング9を介してホルダ5によって回転自在に保持されている。なお、ボールベアリング9のボール9aがボール螺子ナット1の外周に形成された環状溝1aを走行するようになっており、ボール螺子ナット1自体がボールベアリング9の内輪として機能するとともに、ホルダ5にボールベアリング9の外輪9bを固定することでボール螺子ナット3をホルダ5に固定することが可能となっている。そして、このホルダ5で保持された状態で、ボール螺子ナット1とボールスプラインナット3とは互いに至近配置されている。
【0028】
すなわち、ボール螺子ナット1と螺子軸2とでなる運動変換機構Tは、螺子軸2の回り止めが施された状態でホルダ5に保持され、アッセンブリ化されており、ボール螺子ナット1が回転運動を呈すると、螺子軸2がボールスプラインナット3によって回り止めされることにより、螺子軸2は、図1中上下方向に直線運動を呈することになる。
【0029】
なお、本実施の形態の場合、上述したように、一つのホルダ5で運動変換機構Tにおけるボール螺子ナット1および螺子軸2、さらには、螺子軸2の回り止め機構としてのボールスプラインナット3を保持することによって、これらが螺子軸2とボール螺子ナット1の軸芯が一致した状態でアッセンブリ化されるので、運動変換機構Tの動作が保証される。
【0030】
したがって、ホルダ5によりモータMのシャフト17、螺子軸2およびボール螺子ナット1の軸芯が合致した状態とされて、さらに、ホルダ5にモータMを固定するので、螺子軸2の螺子溝、ボール螺子ナット1の螺子山としてのボールに負荷がかからず、モータMのシャフト17にも半径方向の偏荷重が作用しないので、アクチュエータAの寿命を短くせず、サスペンション装置Sの耐久性を低下させてしまうことがない。
【0031】
また、ホルダ5によりモータMのシャフト17、螺子軸2およびボール螺子ナット1の軸芯が合致した状態とされるので、車両への取付け時に、螺子軸2とボール螺子ナット1の軸芯を合わせる作業を必要としないので、従来のサスペンション装置に比較して、車両への取付け作業が飛躍的に容易となる。
【0032】
さらに、ホルダ5により螺子軸2およびボール螺子ナット1をアッセンブリ化し、このアッセンブリにモータMを連結すればアクチュエータAの組立が完了するので、サスペンション装置SのアクチュエータA部分における組立加工が容易となる。
【0033】
すなわち、運動変換機構Tのうち、回転運動を呈する部材、この場合、ボール螺子ナット1をホルダ5で保持せず、モータM側に組み込むような構成を採用する場合には、モータMと運動変換機構Tの連結に際してボール螺子ナット1を回転させて螺子軸2をモータM内へと引き込む作業が必要となるが、このようにホルダ5で運動変換機構Tの全てを一体保持することで、このような作業の必要がなくなり、さらに、モータMへボール螺子ナット1を組み込まなくとも、別々のホルダでボール螺子ナット1、螺子軸2およびボールスプラインナット3をそれぞれ保持するような構成を採用する場合、ホルダ同士の回り止めにも配慮しなくてはならなくなるが、このような配慮も不要となる利点がある。
【0034】
以上、一つのホルダ5でボール螺子ナット1、螺子軸2およびボールスプラインナット3を保持する利点について述べたが、別々のホルダでボール螺子ナット1、螺子軸2およびボールスプラインナット3をそれぞれ保持するような構成を採用することを妨げる趣旨ではない。
【0035】
戻って、螺子軸2の軸方向への駆動に供されるボール螺子ナット1と螺子軸2の回り止め機構の構成要素あるボールスプラインナット3とを至近に配置することで、ボール螺子ナット1とボールスプラインナット3との間の区間に位置する螺子軸2の長さを短くすることができる。
【0036】
この螺子軸2の上記区間に位置する部分は、ボール螺子ナット1の回転駆動によってねじれが生じる部分であり、当該区間が短くなればなるほど、ねじれが生じる部分が短くなることになる。
【0037】
ここで、上記螺子軸2は、ねじれによってバネ要素としても機能することから、ねじれの区間が長くなるほど、ボール螺子ナット1の回転に対する螺子軸2の直線運動の応答に時間がかかることになるが、上記したように、ボール螺子ナット1とボールスプラインナット3とを至近に配置することで螺子軸2のねじれる区間を短くすることができるので、サスペンション装置Sがアクチュエータとして機能する場合の応答性が向上することになる。
【0038】
したがって、サスペンション装置Sがアクチュエータとして機能する場合の応答性が向上するので、車両姿勢をアクティブに制御する場合における制御性も向上する。
【0039】
他方、モータMは、図1に示すように、有頂筒状のケーシング10と、ケーシング10の内周に固定される電機子鉄心たるコア11aと、コア11aに巻装したコイル11bとで構成されるステータ11と、ケーシング10の図1中下端開口部に嵌合する環状のキャップ12と、ケーシング10の頂部側内周に収容固定される内周にレゾルバステータ13aを保持する筒状のセンサホルダ13と、センサホルダ13の内周に固定されるボールベアリング14およびキャップ12の内周に固定されるボールベアリング15を介してケーシング10に回転自在に収容されるロータ16とで構成されている。なお、キャップ12は、ケーシング10の内周に嵌合する筒部12aと、筒部12aの外周に設けられてケーシング10の図1中下端外周に設けたフランジ10aに当接する鍔部12bと、筒部12aから垂下されてホルダ5の上端内周に嵌合する筒状の嵌合部12cとを備えて構成されている。
【0040】
ロータ16は、筒状のシャフト17と、シャフト17の中間部外周に上記コア11aに対向するように取付けられた磁石18とを備えて構成され、シャフト17の上端は上述のボールベアリング14の内周によって軸支され、下端は、ボールベアリング15の内周によって軸支され、ケーシング10内に回転自在に収容されている。なお、磁石18は、複数の磁石をN極とS極が円周に沿って交互に現れるよう接着して環状となるように形成されているが、N極とS極が円周に沿って交互に現れる分割磁極パターンを有する環状の磁石を使用してもよい。
【0041】
したがって、この実施の形態においては、モータMは、ブラシレスモータとして構成されているが、モータMとしては、このほかにも種々の形式のものを使用可能であり、具体的にたとえば、直流、交流モータ、誘導モータ、同期モータ等を用いることができる。
【0042】
また、上記ロータ16におけるシャフト17の上端外周であってセンサホルダ13の内周に固定されてレゾルバステータ13aに対向する位置には、レゾルバコア13bが取付けられ、これらのレゾルバステータ13aおよびレゾルバコア13bによってロータ16の回転位置を検出できるようになっており、コイル11bへの通電をコントロールする図示しない制御装置によって、ロータ16の回転位置や回転速度に基づいてモータMを制御することが可能なようになっている。なお、ロータ16の位置検出を行うための手段としては、上述のレゾルバ以外にも、ホール素子等の磁気センサやロータリエンコーダ等とされてもよい。
【0043】
なお、ボールベアリング14およびレゾルバステータ13bは、センサホルダ13を介さずにケーシング10に直接的に固定するようにしてもよいことは当然であるが、センサホルダ13を用いることにより、ケーシング10に特別な加工を施すことなく、ボールベアリング14およびレゾルバステータ13bをケーシング10内に固定することができる利点がある。
【0044】
そして、このように構成されたモータMは、ホルダ5の図1中上端にボルト19によって螺子締結されて取付けられる。詳しくは、ケーシング10のフランジ10aと、キャップ12の鍔部12bとを貫くボルト19を、ホルダ5の上端外周に設けたナット部5aに螺合することによって、モータMがホルダ5の上端に固定される。
【0045】
また、このモータMとホルダ5との一体化に際し、シャフト17の下端がボール螺子ナット1のソケット1bの内周に挿入されて、モータMのシャフト17とボール螺子ナット1とが連結され、モータMでボール螺子ナット1を回転駆動して螺子軸2を図1中上下方向に直線運動させることができるようになっている。このように、モータMをホルダ5に固定すると、モータMの運動変換機構Tとが連結され、アクチュエータAを組立ることができるのである。
【0046】
そして、また、このシャフト17の外周とソケット1bの内周との間には、トレランスリング20が介装されており、このトレランスリング20は、シャフト17とボール螺子ナット1に作用する軸周りの相対回転トルクの上限を規制するトルクリミッタとして機能している。
【0047】
詳しくは、トレランスリング20は、波型の板材を環状としたものであり、シャフト17とソケット1bとの間に介装されると板材に形成した波が径方向に圧縮されるのでその反発として附勢力を発揮し、当該附勢力に応じてトレランスリング20とシャフト17およびソケット1bとの間でシャフト17とソケット1bの相対回転に抗する摩擦力が生じ、上記相対回転を生じせしめる相対トルクが摩擦力を上回るまではシャフト17とボール螺子ナット1とが一体となって相対回転せず、当該相対トルクが上記最大の摩擦力を上回るとシャフト17とボール螺子ナット1とが相対回転を生じることになり、このように機能することでトルクリミッタとして機能することになる。
【0048】
このように、本実施の形態のサスペンション装置Sにあっては、車両におけるバネ上部材とバネ下部材との相対振動を抑制するのであるが、サスペンション装置Sを急激に伸縮させるような外力が入力された場合には、螺子軸2の直線運動加速度が大きく、ボール螺子ナット1を回転させるトルクが非常に大きくなって、当該シャフト17とボール螺子ナット1とを相対回転させる相対トルクがトレランスリング20の附勢力に起因する摩擦力を上回り、シャフト17に対してボール螺子ナット1がすべり空回りする。すると、シャフト17は回転せずにボール螺子ナット1のみが回転することとなり、慣性モーメントや電磁力に基づいてモータMで発生するトルクがボール螺子ナット1へ伝達されることが抑制される。
【0049】
したがって、上記のような状況下では、つまり、サスペンション装置Sのストロークの速度が大きく変化する際、モータMで発生するトルクのボール螺子ナット1への伝達が抑制されて、ボール螺子ナット1にはトレランスリング20の附勢力に応じて許容される相対トルク以上のトルクが作用しないので、モータMの慣性モーメントの影響を緩和して、サスペンション装置Sの発生減衰力が過大となることを防止でき、バネ下部材に入力された急激な振動のバネ上部材への伝達が抑制されることになる。
【0050】
なお、上記したところでは、トレランスリング20を用いてトルクリミッタとしているが、これに代えて、シャフト17とソケット1bに摩擦力を生じせしめる摩擦体を介装するようにしてもよい。摩擦体には、たとえば、環状のゴムや、環状であって疎面を備えたプレートを採用することができる。
【0051】
また、トレランスリング20あるいは摩擦体で調整される相対トルクの設定については、サスペンション装置Sが適用される制振対象に応じて任意に調整することができるが、路面上の突起や溝の通過時に生じる慣性モーメントの影響を緩和できるように実験的、経験的に得られる値に設定すればよい。
【0052】
そして、このように、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、モータMの慣性モーメントがモータMの電磁力に起因するトルクに重畳されて発生減衰力が過大となってしまうという慣性モーメントの影響を緩和できるので、車両における乗り心地を向上させることが可能となる。
【0053】
また、換言すれば、ボール螺子ナット1には許容される相対トルク以上のトルクが作用せず、運動変換機構Tが過大なトルクの作用によって破損してしまう心配が無く、加えて、モータMのロータ16に大きな角加速度が作用することも抑制されて、ロータ16周りに固定されている磁石18の飛散を防止でき、モータMへの負荷も軽減することができるので、サスペンション装置Sの信頼性が向上する。
【0054】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sによれば、モータMの筒状のシャフト17とボール螺子ナット1におけるソケット1bとの嵌め合い部分にトルクリミッタとしてのトレランスリング20を介装しているので、サスペンション装置Sの全体の長さに与える影響は軽微であって、ストローク長に影響を与えることの無い部位にトルクリミッタが設けられることになるので、ストローク長の確保が容易となる。
【0055】
なお、本実施の形態においては、シャフト17とボール螺子ナット1とをトレランスリング20を介して連結しているが、トルクリミッタを設ける必要が無ければ、ボール螺子ナット1をロータ16のシャフト17に直接的に取付けてもよいし、ボール螺子ナット1自体をモータMのロータ16におけるシャフトとしてボール螺子ナット1の外周に磁石18を取付けるようにしてもよく、本書においては、ボール螺子ナット1をモータMに連結する概念は、ボール螺子ナット1とモータMとを直接的か間接的かを問わない趣旨であり、また、その概念にはボール螺子ナット1自体をロータ16とすることも含まれる。ボール螺子ナット1をロータ16のシャフト17に直接的に取付ける場合には、回り止めとしてスプラインやキーを利用すればよく、シャフト17の内周にボール螺子ナット1を嵌着する構成を採用してもよい。
【0056】
戻って、上述のように構成されたアクチュエータAは、ホルダ5の外周の装着部5dに装着される防振ゴム21を介してマウント22に連結されている。具体的には、マウント22は、マウント筒23と、車両の図示しないバネ上部材に連結される環状のプレート24と、マウント筒23とプレート24とを連結する防振ゴム25とを備えて構成され、マウント筒23の図1中下端内周がホルダ5の外周に装着された防振ゴム21の外周を抱持する抱持環26の外周に接合されている。なお、抱持環26は、防振ゴム21を抱持する断面コ字状の抱持環本体26aと、抱持環本体26aの図1中下端内周から垂下される筒状のソケット部26bとを備えて構成され、ソケット部26bには、バネ受43が装着されている。
【0057】
このように、アクチュエータAとマウント22とが連結され、アクチュエータAはマウント22を介して車両のバネ上部材に連結されることになる。
【0058】
また、防振ゴム21を抱持する抱持環26の外周には、外筒27が接合されており、この外筒27の図1中下端には、当該外筒27の下端内周に嵌合される環状のクッション28の下端を支承する環状であって断面L字状のエンドキャップ29が螺着されている。
【0059】
さらに、本実施の形態におけるサスペンション装置Sの場合、図1に示すように、螺子軸2は連結軸30を介して流体圧ダンパDのロッド31に直列に連結されている。この流体圧ダンパDは、周知であるので詳しく図示はしないが、シリンダ32と、シリンダ32内に摺動自在に挿入されシリンダ32内に図示しない二つの圧力室を隔成する図示しないピストンと、一端がピストンに連結されるとともにシリンダ32から突出されるロッド31と、シリンダ32内に形成されてシリンダ32に進退するロッド体積を補償する図示しない気室あるいはリザーバとを備えて構成され、伸縮作動時に所定の減衰力を発揮する。
【0060】
なお、流体圧ダンパDは、シリンダ32内に気室を備えたいわゆる単筒型でも、環状のリザーバを備えたいわゆる複筒型としてもよいが、流体圧ダンパDを複筒型とすることにより、流体圧ダンパDの全長を短くしてサスペンション装置Sの全体長さを短くできる利点がある。また、ロッド31の上端外周には、流体圧ダンパDが最収縮した際にシリンダ31の図1中上端に衝合して、最収縮時の衝撃を緩和する環状のクッション40が設けられている。
【0061】
本実施の形態におけるサスペンション装置Sにあっては、流体圧ダンパDのロッド31の上端から連結軸30が延びており、連結軸30は、ロッド31の上端へ接続される基端となる図1中下端が拡径されて螺子軸2の流体圧ダンパ側端部に係合する係合部となるテーパ部30aが形成されるとともに、先端となる図1中上端には螺子部30bが形成されている。この実施の形態では、ロッド31と連結軸30とが一体成形されているが、ロッド31と連結軸30を別個の部材として構成して接続するようにしてもよい。また、この例では、ロッド31を連結軸30にて螺子軸2に連結するようにしているが、流体圧ダンパDを倒立型としてシリンダ32を連結軸30にて螺子軸2に連結するようにしてもよい。
【0062】
そして、この連結軸30のテーパ部30aの外周には螺子軸2の下端に嵌合する環状のディスク33が装着され、ディスク33の外周には、外筒27の内周に摺接してサスペンション装置Sの伸縮方向の軸受として機能する軸受34が装着されている。軸受34の形状は、外筒27の内周に摺接してサスペンション装置Sの伸縮をガイドするとともに軸ぶれを抑制することが可能であれば、図示したものに限定されない。
【0063】
なお、螺子軸2の図1中下端外周には、環状のバンプクッション41が装着されており、このバンプクッション41はディスク33によって下方への移動が規制され、アクチュエータAの最収縮時にホルダ5の下端に衝合してアクチュエータAの最収縮ストローク長を規制している。
【0064】
そして、上記したクッション40は、流体圧ダンパDの最収縮ストローク長を規制し、バンプクッション41は、アクチュエータAの最収縮ストローク長を規制し、これら、クッション40およびバンプクッション41によってサスペンション装置Sの最収縮ストローク長が規制されることになる。
【0065】
また、連結軸30は、螺子軸2内に挿通され、反流体圧ダンパ側の先端、すなわち、流体圧ダンパD側とは反対側における先端の螺子部30bにナット35を螺合することで、螺子軸2に連結される。すなわち、この場合、連結軸30のテーパ部30aとナット35でディスク33とともに螺子軸2を挟持することで、連結軸30が螺子軸2に連結され、連結軸30は、反流体圧ダンパ側から螺子軸2に連結可能とされている。
【0066】
すなわち、流体圧ダンパDとアクチュエータAとを一体化する組立加工に際して、重量物である流体圧ダンパDとアクチュエータAの中間で連結するのではなく、反流体圧ダンパ側となる図1中上方側からのみの作業で、流体圧ダンパDとアクチュエータAとを一体化することができるので、流体圧ダンパDとアクチュエータAの連結作業が容易となり、作業者の負担も飛躍的に軽減されるのである。
【0067】
なお、連結軸30の係合部、この場合、テーパ部30aを螺子軸2の流体圧ダンパ側端部に係合することには、螺子軸2の流体圧ダンパ側端部に直接の接触させて連結軸30の螺子軸2に対する図1中上方への移動を規制することのほか、上述したように、螺子軸2の流体圧ダンパ側端部と係合部との間にディスク33といった部材を介装して連結軸30の螺子軸2に対する図1中上方への移動を規制することも含まれる。また、係合部の形状は、連結軸30の螺子軸2に対する図1中上方への移動を規制することができるものであれば、テーパ部30aとされずともよいが、テーパ部30aを採用することで、ディスク33の螺子軸2への締め込みと芯出しが容易となる利点があり、ディスク33と螺子軸2にガタが生じていてもテーパ部30aによる図1中上方への締め込みによって螺子軸2に対して軸受34の軸ずれが防止されて、サスペンション装置Sの伸縮を円滑に保つことができるのである。
【0068】
さらに、この実施の形態の場合、螺子軸2の上端開口部には、連結軸30の上端の螺子軸2に対する芯出しを行う鍔付き筒状のスペーサ36が嵌合されており、このスペーサ36の内周は連結軸30の外周に摺接して、連結軸30の上端の螺子軸2に対する芯出しとガタつきを阻止して、振動入力時における連結軸30と螺子軸2の干渉を防止する。また、スペーサ36によって連結軸30のガタつきを防止できるので、振動入力時のナット35の弛みを抑制している。
【0069】
なお、連結軸30は、上述のように、螺子軸2内に挿通され螺子軸2の反流体圧ダンパ側から螺子軸2に連結されるため、長尺に設定され、図1中上下方向に移動する螺子軸2に対して自身が長手方向のバネ要素として振舞い、軸破断やナット35の弛みを抑制することができる。
【0070】
さらに、この場合、螺子軸2と連結軸30とが螺子締結されて着脱自在とされているので、サスペンション装置Sの構成のうち、流体圧ダンパDのみ、あるいは、運動変換機構Tのみの交換が必要な場合に、容易に交換することが可能であり、また、分解して不具合箇所のみを検査することが可能となる。このように、螺子軸2と連結軸30とが着脱自在に連結されることで、サスペンション装置Sのメンテナンスが容易となり、部品交換も容易となるのであるが、螺子軸2と連結軸30を溶接やろう付け等の基本的には螺子軸2と連結軸30とを固定的に連結することもできる。この場合、メンテナンスや部品交換の点におけるメリットはないが、流体圧ダンパDとアクチュエータAの組立を容易とする点については、着脱自在に螺子軸2と連結軸30とを連結するものと同様である。すなわち、螺子軸2と連結軸30とを連結することには、着脱を可能とするものだけではなく、着脱を予定せずに固定することも含まれ、また、螺子締結以外の方法を以って着脱自在とするとしてもよい。
【0071】
なお、上記したところでは、サスペンション装置Sにおける流体圧ダンパDとアクチュエータAとの一体化する連結作業を容易とするために、螺子軸2を筒状として連結軸30を螺子軸2の反流体圧ダンパ側から連結可能ならしめているが、螺子軸2を筒状とせずに、流体圧ダンパDとアクチュエータAとの中間において、流体圧ダンパDのロッド31あるいはシリンダ32に螺子軸2を直接連結することもできる。
【0072】
つづき、流体圧ダンパDのシリンダ32の側部外周には、シリンダ32を覆ってシリンダ32との間に環状隙間を形成するカバー筒37が設けられており、このカバー筒37の上端は折り曲げられて鍔部37aが形成されている。
【0073】
そして、このカバー筒37の鍔部37aは、サスペンション装置Sが最伸長した際に、外筒27の図1中下端内周に嵌合されるクッション28に当接するようになっており、クッション28はサスペンション装置Sの全体の伸び切りを規制するようになっている。
【0074】
流体圧ダンパDとアクチュエータAとは独立して伸縮するので、何ら規制が無いと、サスペンション装置Sの全体の最伸長ストローク長は流体圧ダンパDとアクチュエータAの最伸長ストローク長の合計となってしまうため、鍔部37aとクッション28によってサスペンション装置Sの全体の最伸長ストローク長を規制しているのである。
【0075】
そして、カバー筒37の下端内周には、環状のバネ受42がカバー筒37の底部に載置されて収容されており、このバネ受42と上記した軸受34の下端との間には、流体圧ダンパDに並列配置されるバネ38が介装され、さらに、抱持環26のソケット部26bに装着されたバネ受43と軸受34の上端との間には、アクチュエータAに並列配置されるバネ39が介装されている。このように、これらバネ38,39は、車両のバネ上部材の重量を支持する懸架バネとして機能するとともに、バネ38は、流体圧ダンパDに並列配置されて流体圧ダンパDを伸長方向に附勢し、バネ39は、アクチュエータAに並列配置されて流体圧ダンパDを収縮方向に附勢しており、流体圧ダンパDのロッド31をシリンダ32に対して中立位置に位置決める機能をも発揮している。
【0076】
このように、懸架バネとしてのバネ38,39は、上端がマウント22に結合される抱持環26によって担持されており、他方、アクチュエータAはマウント22によって防振ゴム21を介して弾性支持されているので、懸架バネとしてのバネ38,39の振動が直接的にアクチュエータAには伝達されず、懸架バネに対して振動絶縁がなされている。
【0077】
また、これらのバネ38,39は、車両のバネ下部材の振動をモータM側、すなわち、バネ上部材に伝達することを抑制する働きをすると同時に、流体圧ダンパDのシリンダ32に対してロッド31を中立位置に戻す作用を発揮する。このように、サスペンション装置Sの振動が収束すると、バネ38,39によってシリンダ32に対してロッド31が中立位置に復帰されるので、シリンダ32に対してピストンが上端や下端近傍に位置したままとなってしまう虞が無く、その後の振動入力に対しても、ピストンがシリンダ32の上端あるいは下端に干渉して車両における乗り心地を悪化させたり、サスペンション装置Sの信頼性を低下させたりといったことがない。
【0078】
なお、中立位置とは、車両におけるバネ上部材を上記各バネ38,39によって支持した状態でシリンダ32に対してロッド31が位置決められた位置であり、ロッド31の端部に連結されるピストンがシリンダ32の中央に位置する状態となるロッド位置のみを指すものではない。
【0079】
そして、この場合、懸架バネであるバネ38,39に、流体圧ダンパDのロッド31の中立位置への位置決めをする機能を集約することができるので、中立位置への位置決め機能のみあるいは懸架バネ機能のみを果たすバネを別途設ける必要が無く、サスペンション装置Sにおける部品点数の削減と、コスト低減を図ることが可能であるが、バネ38,39を廃止して、別途懸架バネを設けて流体圧ダンパD内の各圧力室内にそれぞれバネを収容する等してロッド31のシリンダ32に対する中立位置への位置決めと復帰を行うようにする場合には、懸架バネを別途設けるようにしてもよく、また、懸架バネの上端はマウント22に担持させるのみならず、バネ上部材に担時させて、懸架バネを間接的にマウント22とバネ下部材との間に介装するようにしてもよい。
【0080】
なお、上述のように、バネ38,39以外によってロッド31のシリンダ32に対する中立位置への位置決めと復帰を行うようにする場合、たとえば、カバー筒37の上端を内側に折り曲げて、カバー筒37の環状の底部と上記上端の内側への折り曲げ部分とでシリンダ32の外周にシリンダ32に軸方向に不動な一対のシリンダ側バネ受を設け、このバネ受間にロッド31に連結されるロッド側バネ受を配置し、当該シリンダ側バネ受とロッド側バネ受との間の二箇所に流体圧ダンパDの伸長および伸縮方向に附勢する各バネを介装するようにしてもよい。
【0081】
また、このサスペンション装置Sにあっては、この流体圧ダンパDは、モータMで直線運動する螺子軸2に対しては直列に連結されているので、車両が悪路を走行したり、路面の突起に乗り上げたりするような場合にバネ下部材に、たとえば、比較的加速度が大きい振動等の高周波振動が入力されると、この振動エネルギを吸収し、上述のバネ38,39による振動伝達抑制効果と相俟って、螺子軸2側に振動を伝達し難くするように作用する。
【0082】
ここで、サスペンション装置Sにあっては、バネ下部材から入力される直線運動となる振動を回転運動に変換することになるが、回転する多くの部材を備えており、その慣性質量も大きく高周波振動に対しては慣性モーメントが大きくなること、および、軸受34と外筒27のフリクションの影響もあって、バネ下部材の振動をバネ上部材に伝達しやすくなるという特性があるが、上述のように、流体圧ダンパDが該振動を吸収し、さらに、バネ38,39が振動伝達抑制効果を発揮することで、螺子軸2への振動の伝達を抑制するため、バネ上部材への振動伝達を効果的に抑制できる。
【0083】
そして、このサスペンション装置にあっては、軸受34が外筒27の内周に摺接して、サスペンション装置Sの全体の伸縮についての軸受として機能しているが、この軸受34は、高周波振動を吸収する流体圧ダンパDのみの伸縮に対しては、外筒27に対して軸方向となる図1中上下に移動することが無いので、軸受34が流体圧ダンパDの伸縮に抵抗を与えることが無い。
【0084】
つまり、軸受34が流体圧ダンパDの伸縮に影響を与えない箇所に摺接しており、流体圧ダンパDの滑らかな伸縮が補償されるので、このサスペンション装置Sでは、高周波振動の入力に対しては積極的に流体圧ダンパDを伸縮させて振動吸収を図って、バネ上部材への振動絶縁性を向上させ、車両における乗り心地が向上することになる。
【0085】
さらに、高周波振動の入力に対して軸受34が流体圧ダンパDの伸縮を妨げないので、アクチュエータAに直接衝撃的な力が作用することが抑制されてモータMおよび運動変換機構Tを保護することができ、サスペンション装置Sの主要部品であるアクチュエータAの信頼性が向上し、従来サスペンション装置の不具合を解消してサスペンション装置Sの信頼性を向上させることができる。
【0086】
また、この場合、軸受34が流体圧ダンパDに並列配置されるバネ38およびアクチュエータAに並列配置されるバネ39との間に介装されて各バネ38,39のバネ受としても機能しているので、別途のバネ受としてのみ機能する部材を設ける必要が無く、また、懸架バネおよび流体圧ダンパDの中立位置への位置決めとして機能するバネ38,39による部品点数削減と相俟って、サスペンション装置Sにおける部品点数の大幅に削減して、コスト低減を図ることが可能である。さらに、バネ38,39が外筒27内に配置されるので、懸架バネの保護も可能となる。
【0087】
なお、懸架バネを外筒27の外周側に設ける場合には、軸受34は、上記バネ38,39のバネ受としての機能は失われるが、この場合にも、高周波振動を吸収する流体圧ダンパDのみの伸縮に対しては、軸受34は外筒27に対して軸方向となる図1中上下に移動することが無いので、車両における乗り心地を向上させる効果は失われない。さらに、この実施の形態においては、直動部材たる螺子軸2に連結されるのは、流体圧ダンパDのロッド31であるので軸受34はロッド31に取付けられているが、アクチュエータAの直動部材にシリンダ32を連結する場合には、軸受34をシリンダ32に取付ければよい。このようにしても流体圧ダンパDの伸縮を軸受34が妨げないので、上記作用効果を失うことが無い。
【0088】
また、本実施の形態におけるサスペンション装置Sでは、アクチュエータAが防振ゴム21を介してバネ上部材に連結されるマウント22に弾性支持され、慣性重量の大きいアクチュエータAの振動が直接にバネ上部材に伝達されてしまうことを防止でき、また、懸架バネとしてのバネ38,39とは防振ゴム21の存在によって振動絶縁がなされているので、バネ上部材とバネ下部材との中間で振動するアクチュエータAの慣性によるバネ上部材の加振も同時に抑制される。
【0089】
さらに、アクチュエータAを弾性支持し、かつ、懸架バネであるバネ38,39と絶縁する上記した構成を採用することで、高周波振動を流体圧ダンパDにて吸収しきれない場合にあって、上述のように高周波振動入力に対して伸縮し難いアクチュエータAが、いわゆる、棒状となってしまう事態となっても、防振ゴム21によって、当該振動を吸収して、バネ上部材への振動の伝達を絶縁することができる。
【0090】
つまり、アクチュエータAを弾性支持し、かつ、懸架バネであるバネ38,39と絶縁する上記した構成を採用することで、車両における乗り心地を向上させることができるのである。
【0091】
そしてさらに、バネ上部材側に配置されるアクチュエータAに直接的に高周波振動が作用することがバネ下部材側に配置される流体圧ダンパDによって防止されることから、モータMに特に加速度が大きな高周波振動が伝達されることが抑制され、軸受34の効果に加えてアクチュエータAをバネ上部材側へ配置することによっても、サスペンション装置Sの主要部品であるアクチュエータAの信頼性が向上し、従来サスペンション装置の不具合を解消してサスペンション装置Sの信頼性を向上させることができる。
【0092】
なお、サスペンション装置Sにあっては、アクチュエータA、流体圧ダンパDは外筒27、カバー筒37およびマウント22内に収容され、サスペンション装置Sの主要駆動部分がサスペンション装置Sの外部とは隔離されるようになっているので、サスペンション装置S内への雨水の浸入や、主要駆動部分への飛石の接触が確実に防止される。したがって、これによって、サスペンション装置Sの実用性が向上するのである。
【0093】
ここで、上述のように構成されたサスペンション装置Sを実際に組立るには、ホルダ5で保持された運動変換機構Tのみのアッセンブリに対して、流体圧ダンパDのロッド31に連なる連結軸30を軸受34装着済みのディスク33と螺子軸2内に挿通して図1中上端側からナット35を連結軸30の上端の螺子部30bに螺着することで、運動変換機構Tと流体圧ダンパDとを一体化することができ、その後、モータMをホルダ5の上端に取付けることで、サスペンション装置Sの組立が終了する。
【0094】
また、モータMは筒状のシャフト17を備えてシャフト17内に螺子軸2が挿通されるようになっているので、運動変換機構Tと流体圧ダンパDとを一体化したのちに、反流体圧ダンパ側から運動変換機構Tにおけるボール螺子ナット1にモータMのシャフト17を連結することができ、さらにサスペンション装置Sの組立加工が容易となる。
【0095】
なお、運動変換機構Tは、この場合、回転運動を呈するボール螺子ナット1と直線運動を呈する直動部材たる螺子軸2とを備えて構成されているが、反対に、螺子軸2を回転部材とし、ボール螺子ナット1を直動部材として、ボール螺子ナット1を流体圧ダンパDに連結するようにしてもよい。また、この実施の形態では、運動変換機構Tは、螺子軸2とボール螺子ナット1とで構成される送り螺子機構とされているが、ラックアンドピニオン、ウォームギア等の機構で構成されるようにしてもよい。
【0096】
なお、上記したところでは、螺子軸2の円滑な上下動を実現することができるので、回り止め機構を螺子軸2の外周に設けたスプライン溝に係合するボールスプラインナット3としているが、単に、螺子軸2の外周にその軸線に沿って溝を形成し、この溝内にキー等の螺子軸2の上下動を阻害しない部材で螺子軸2の回り止めを行うようにしても、やはり、回り止め機構をホルダ5に保持させることができ、このようにしてもよい。
【0097】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】一実施の形態におけるサスペンション装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 回転部材たるボール螺子ナット
1a 環状溝
1b ソケット
2 直動部材たる螺子軸
3 ボールスプラインナット
3a,5e キー溝
5 ホルダ
5a ホルダにおけるナット部
5b ホルダにおけるフランジ
5c ホルダにおける段部
5d ホルダにおける装着部
6 キー
7 スナップリング
8 ナット
9,14,15 ボールベアリング
9a ボールベアリングにおけるボール
9b ボールベアリングにおける外輪
10 ケーシング
10a ケーシングにおけるフランジ
11 ステータ
11a コア
11b コイル
12 キャップ
12a キャップにおける筒部
12b キャップにおける鍔部
12c キャップにおける嵌合部
13 センサホルダ
13a レゾルバステータ
13b レゾルバコア
16 ロータ
17 シャフト
18 磁石
19 ボルト
20 トレランスリング
21 防振ゴム
22 マウント
23 マウントにおけるマウント筒
24 マウントにおけるプレート
25 マウントにおける防振ゴム
26 抱持環
26a 抱持環本体
26b ソケット部
27 外筒
28,40 クッション
29 エンドキャップ
30 連結軸
30a 連結軸における係合部となるテーパ部
30b 連結軸における螺子部
31 流体圧ダンパにおけるロッド
32 流体圧ダンパにおけるシリンダ
33 ディスク
34 軸受
35 ナット
36 スペーサ
37 カバー筒
37a 鍔部
38,39 バネ
41 バンプクッション
42,43 バネ受
A アクチュエータ
D 流体圧ダンパ
M モータ
S サスペンション装置
T 運動変換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線運動を回転運動に変換する運動変換機構と該運動変換機構における回転運動を呈する回転部材に連結されるモータとを備えたアクチュエータと、運動変換機構における直線運動を呈する直動部材に連結される流体圧ダンパとを備えたサスペンション装置において、アクチュエータに連結される外筒と、流体圧ダンパの直動部材に連結されるロッドあるいはシリンダに取付けられて外筒の内周に摺接する軸受とを設けたことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
流体圧ダンパに並列配置されるバネと、アクチュエータに並列配置されるバネとで懸架バネを構成し、軸受が上記各バネの間に介装されてバネ受を兼ねることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−184595(P2009−184595A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28512(P2008−28512)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】