サトウキビ属植物の黒穂病抵抗性関連マーカーとその利用
【課題】サトウキビ属植物の量的形質の中でも黒穂病抵抗性に関連するマーカーの開発。
【解決手段】サトウキビの染色体に存在する特定の2種類の塩基配列により挟まれる領域、及び、他のいくつかの異なる2種類の特定配列に挟まれる領域、から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【解決手段】サトウキビの染色体に存在する特定の2種類の塩基配列により挟まれる領域、及び、他のいくつかの異なる2種類の特定配列に挟まれる領域、から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒穂病に対する抵抗性を示すサトウキビ属植物系統を選抜することができる黒穂病抵抗性関連マーカー及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サトウキビは、砂糖の原料、酒類原料など、食用に栽培されている他、バイオ燃料原料としての利用を含む様々な産業分野で利用されている。このような状況下、所望の特性(例えば、糖含有量、生長力の増強、新芽形成能、耐病性及び虫害抵抗性、耐寒性、葉長の増大、葉面積の増大、茎長の増大など)を有するサトウキビ植物の新品種を開発するニーズがある。
【0003】
一般に、植物品種・系統の識別として、特性データを比較する「特性比較」、同一条件で栽培し比較する「比較栽培」、DNAを解析する「DNA分析」の3つの方法がある。特性比較および比較栽培による系統識別は、栽培条件の違いによる精度低下や多大な工数が必要とされる長期間の圃場調査など多くの問題を抱える。特に、サトウキビは、イネやトウモロコシなど、他のイネ科作物と比べ植物体が極めて大きく、圃場調査による系統識別の実施が困難である。
【0004】
また、特定の病害に対する抵抗性品種を識別するには、サトウキビを長期間栽培した後、病害原因微生物を接種する試験を行い、その後、病班等を観察することで抵抗性データを収集する。しかし、当該試験を行うには、外部環境に対する病害原因微生物の伝搬を確実に防止しなければならず、大規模専用温室や専用圃場、外部との隔離施設など設備が必要となる。さらに、サトウキビの新品種作出には、先ず、交配により数万種類の交配種を作製し、そこから実生選抜、さらに優良な系統を段階的に選抜し、最終的に所望な特性を有する2〜3種の新品種を得ることができる。このように、サトウキビの新品種作出には、非常に多くの系統を栽培・評価する必要があり、上述したような温室や圃場を準備して多大な手間をかける必要がある。
【0005】
したがって、病害抵抗性を示すサトウキビ系統を、ゲノムに存在するマーカーを用いて識別する方法の開発が求められている。特に、サトウキビにおける新品種作出に際して、種々の特性について優れたマーカーが使用できれば、上述したようなサトウキビに特有の諸問題を回避でき、非常に有効なツールとなりうる。しかしながら、サトウキビ植物は、高次倍数性で染色体数が多いため(約100〜130)、マーカー技術開発が遅れている。サトウキビでは、USDAにおいてSSRマーカーを用いた遺伝子型決定に関する報告があるものの(非特許文献1)、マーカー数及び各マーカーからの多型数が少ないことに起因して精度が低く、適用範囲がアメリカ・オーストラリア品種に限られるため、日本国内および台湾・インドなどの主要品種および有用な遺伝資源の系統識別に利用できない。
【0006】
また、非特許文献2は、マーカー数を増やし、各々のマーカーの特性関係を比較し、検証することでサトウキビにおける遺伝子地図を作製する可能性を示唆している。しかしながら、非特許文献2には、十分な数のマーカーが開示されておらず、目的とする特性に連鎖したマーカーも見つかっていない。
【0007】
一方、病害抵抗性に関連するマーカーとしては、特許文献1に示すように、テンサイにおける黒根病抵抗性関連マーカーが知られている。また、特許文献2に示すように、トウモロコシにおいて、目的とする形質に連鎖したマーカーを利用して品種を選抜する技術が開示されている。
【0008】
一方、サトウキビの黒穂病は、原因微生物の感染力が強く、一旦発病すると圃場全体に感染が拡大する。黒穂病に罹病したサトウキビは、製糖用原料として利用できないだけではなく枯死する。このため、黒穂病の発生は、次年度以降における大幅な減収を引き起こす。黒穂病の被害は、ブラジル、アメリカ、オーストラリア、中国、インドネシアなど28ヶ国以上で報告がある。黒穂病の防除方法には、植付時の殺菌処理があるが、初期生育時に効果が限定される。しがって、黒穂病の抵抗性を付与したサトウキビ品種の育成が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Maydica 48(2003)319-329 “Molecular genotyping of sugarcane clones with microsatellite DNA markers”
【非特許文献2】Nathalie Piperidis et al., Molecular Breeding, 2008, Vol 21, 233-247
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 2007/125958
【特許文献2】特開2010-516236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、サトウキビの量的形質の中でも黒穂病抵抗性に関連するマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サトウキビ植物における多数のマーカーを準備し、交雑後代系統における量的形質とマーカーとの連鎖解析によって、黒穂病抵抗性といった量的形質に連鎖するマーカーを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は以下を包含する。
(1)サトウキビの染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号14に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号15に示す塩基配列及び配列番号22に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号23に示す塩基配列及び配列番号32に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号33に示す塩基配列及び配列番号51に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号52に示す塩基配列及び配列番号62に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号63に示す塩基配列及び配列番号72に示す塩基配列により挟まれる領域、又は配列番号73に示す塩基配列及び配列番号85に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(2)上記核酸領域は、配列番号1〜85からなる群から選ばれるいずれか1の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする(1)記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(3)上記核酸領域は、サトウキビの染色体における配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、又は配列番号72に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に位置することを特徴とする(1)記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(4)少なくとも一方の親がサトウキビ植物である後代植物の染色体及び/又は当該親の染色体を抽出する工程と、上記で得られた染色体における上記(1)乃至(3)いずれか1に記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、黒穂病抵抗性が向上したサトウキビ系統の製造方法。
(5)上記測定する工程では、上記サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブを備えるDNAチップを使用することを特徴とする(4)記載のサトウキビ系統の製造方法。
(6)上記後代植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする(4)記載のサトウキビ系統の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サトウキビにおける量的形質の中でも黒穂病抵抗性に連鎖する新規なサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを提供することができる。本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、サトウキビの交配系統における黒穂病抵抗性を検定することができる。これにより、黒穂病抵抗性が向上した特性を有するサトウキビ系統を非常に低コストに識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】サトウキビ染色体のマーカーを得る際に使用したDNAマイクロアレイの製造フローを示す模式図である。
【図2】DNAマイクロアレイを使用したシグナル検出の工程を示す模式図である。
【図3】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年6月23日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図4】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年7月21日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図5】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年8月18日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図6】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年9月2日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図7】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第5連鎖群)を示す特性図である。
【図8】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第17連鎖群)を示す特性図である。
【図9】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第40連鎖群)を示す特性図である。
【図10】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第1連鎖群)を示す特性図である。
【図11】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第13連鎖群)を示す特性図である。
【図12】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第14連鎖群)を示す特性図である。
【図13】各系統におけるN802870のシグナル値を示す特性図である。
【図14】各系統におけるN827136のシグナル値を示す特性図である。
【図15】各系統におけるN812680のシグナル値を示す特性図である。
【図16】各系統におけるN916081のシグナル値を示す特性図である。
【図17】各系統におけるN919839のシグナル値を示す特性図である。
【図18】各系統におけるN918761のシグナル値を示す特性図である。
【図19】各系統におけるN901160のシグナル値を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー及びその利用方法、特にサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを用いたサトウキビ系統の製造方法について説明する。
【0017】
<サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー>
本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとは、サトウキビの染色体上に存在する特定の領域であり、サトウキビの黒穂病抵抗性といった形質の原因遺伝子(群)に連鎖して、サトウキビ黒穂病抵抗性という形質を判別できる機能を有する。すなわち、既知のサトウキビ系統を用いて得られた後代系統において、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を確認することで黒穂病抵抗性の向上という形質を有する系統であると判断することができる。なお、本発明において、黒穂病とは、Ustilago属の微生物が感染することに起因して病班が形成される病気を意味している。Ustilago属の微生物としては、一例としてUstilago scitamineaを挙げることができる。
【0018】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとは、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖するマーカーと、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖するマーカーの両者を含む意味である。例えば、特定のサトウキビ品種において、前者のマーカーが存在していれば黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。さらに、特定のサトウキビ品種において、前者のマーカーが存在し、且つ、後者のマーカーが非存在である場合には黒穂病抵抗性が向上した品種であるとより高精度に判断できる。なお、特定のサトウキビ品種において、後者のマーカーが非存在であることのみをもって、黒穂病抵抗性が向上した品種であると判断しても良い。
【0019】
ここで、サトウキビとは、イネ科サトウキビ属に属する植物を意味する。また、サトウキビとは、所謂、高貴種(学名:Saccharum officinarum)と野生種(学名:Saccharum spontaneum)、バルベリ種(Saccharum barberi)、シネンセ種(Saccharum sinense)、オフィシナルム種の祖先種であるロバスタム種(Saccharum robustum)のいずれも含むことを意味する。既知のサトウキビ品種・系統としては、特に限定されず、日本国内にて使用可能なあらゆる品種・系統、日本国外において使用されている品種・系統等を含む意味である。例えば、サトウキビ日本国内育成品種としては、特に限定されないが、Ni1、NiN2、NiF3、NiF4、NiF5、Ni6、NiN7、NiF8、Ni9、NiTn10、Ni11、Ni12、Ni14、Ni15、Ni16、Ni17、NiTn19、NiTn20、Ni22及びNi23等を挙げることができる。また、サトウキビ日本国内主要品種としては、特に限定されないが、NiF8、Ni9、NiTn10及びNi15等を挙げることができる。さらに、サトウキビ日本国内導入主要品種としては、特に限定されないが、F177、Nco310及びF172等を挙げることができる。
【0020】
また、後代系統は、母本及び父本の両方がサトウキビ品種・系統である同種交配による系統であっても良いし、いずれか一方がサトウキビ品種・系統であり他方が近縁のErianthus arundinaceusであるような交雑系統であっても良い。また、後代系統は、いわゆる戻し交配によって得られたものでも良い。
【0021】
サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーを含む遺伝子連鎖地図とサトウキビ黒穂病抵抗性データとを用いたQTL(Quantitative Trait Loci)解析によって新たに同定されたものである。なお、サトウキビ黒穂病抵抗性は、多数の遺伝子が関与していると考えられ、連続分布をとる量的形質である。すなわち、サトウキビ黒穂病抵抗性は、連続分布をとる黒穂病への罹患率に基づいて評価される。QTL解析には、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S., C. J. Basten, and Z.-B. Zeng (2010). Windows QTL Cartographer 2.5. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, NC)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法を適用している。
【0022】
具体的に、上述したQTL解析により、ロッドスコア(LOD score)が所定の閾値(例えば2.5)以上となる上記遺伝子連鎖地図に含まれる領域を7つ見いだした。すなわち、当該領域を含む約18.7cM(センチモルガン)領域、当該領域を含む約39.2cM領域、当該領域を含む約19.2cM領域、当該領域を含む約32.0cM領域、当該領域を含む約39.5cM領域、当該領域を含む約53.4cM領域、及び当該領域を含む約38.0cM領域の7領域を特定した。ここで、「モルガン(M)」は、染色体上の遺伝子間の距離を相対的に示した単位であり、交叉価をパーセントにした値である。サトウキビの染色体において、1cMは、約2000kbに相当する。なお、このピーク位置又はその近傍には、黒穂病抵抗性を向上させる形質の原因遺伝子(群)が存在することが示唆される。
【0023】
上記18.7cMの領域は、上記マーカーのうち表1に示す14種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0024】
【表1】
【0025】
上記39.2cMの領域は、上記マーカーのうち表2に示す8種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0026】
【表2】
【0027】
上記19.2cMの領域は、上記マーカーのうち表3に示す10種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0028】
【表3】
【0029】
上記32.0cMの領域は、上記マーカーのうち表4に示す19種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0030】
【表4】
【0031】
上記39.5cMの領域は、上記マーカーのうち表5に示す11種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0032】
【表5】
【0033】
上記53.4cMの領域は、上記マーカーのうち表6に示す10種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0034】
【表6】
【0035】
上記38.0cMの領域は、上記マーカーのうち表7に示す13種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0036】
【表7】
【0037】
なお、表1〜7において、連鎖群とは、QTL解析において特定された複数の連鎖群についてそれぞれ付された番号である。表1〜7においてマーカー名とは、本発明で独自に取得したマーカーに付された名称である。表1〜7においてシグナル閾値とは、マーカーの有無を判定するための閾値である。
【0038】
また、18.7cMの領域に含まれるピークは、配列番号5に示す塩基配列からなるマーカー(N804607)及び配列番号9に示す塩基配列からなるマーカー(N815502)により挟み込まれる領域に存在している。39.2cMの領域に含まれるピークは、配列番号18に示す塩基配列からなるマーカー(N803928)及び配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)により挟み込まれる領域に存在している。19.2cMの領域に含まれるピークは、配列番号25に示す塩基配列からなるマーカー(N829378)及び配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)により挟み込まれる領域に存在している。32.0cMの領域に含まれるピークは、配列番号33に示す塩基配列からなるマーカー(N915070)及び配列番号42に示す塩基配列からなるマーカー(N918161)により挟み込まれる領域に存在している。39.5cMの領域に含まれるピークは、配列番号57に示す塩基配列からなるマーカー(N911103)及び配列番号59に示す塩基配列からなるマーカー(N918344)により挟み込まれる領域に存在している。53.4cMの領域に含まれるピークは、配列番号64に示す塩基配列からなるマーカー(N918761)及び配列番号66に示す塩基配列からなるマーカー(N900663)により挟み込まれる領域に存在している。38.0cMの領域に含まれるピークは、配列番号73に示す塩基配列からなるマーカー(N901524)及び配列番号80に示す塩基配列からなるマーカー(N915180)により挟み込まれる領域に存在している。
【0039】
表1〜7に示したマーカーが含まれる7つの領域から選ばれる連続した核酸領域を、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用することができる。ここで、核酸領域とは、サトウキビの染色体に存在する他の領域との同一性が95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、最も好ましくは70%以下となるような塩基配列からなる領域を意味する。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域と他の領域との同一性が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。ここで、同一性の値は、例えばBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出することができる。
【0040】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域の塩基長は、少なくとも8塩基長以上、好ましくは15塩基長以上、より好ましくは20以上、最も好ましくは30塩基長とすることができる。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域の塩基長が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。
【0041】
特に、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれる14種類のマーカーのうち、配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、39.2cMの領域に含まれる8種類のマーカーのうち、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらに、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、19.2cMの領域に含まれる10種類のマーカーのうち、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号25に示す塩基配列と配列番号30に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、32.0cMの領域に含まれる19種類のマーカーのうち、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、39.5cMの領域に含まれる11種類のマーカーのうち、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、53.4cMの領域に含まれる10種類のマーカーのうち、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、38.0cMの領域に含まれる13種類のマーカーのうち、配列番号73に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号73に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。
【0042】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、上記表1〜7に示した85種類のマーカーから選ばれる1種類のマーカーを含む核酸領域とすることもできる。例えば、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号6に示す塩基配列からなるマーカー(N802870)を含む核酸領域、39.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)を含む核酸領域、19.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)を含む核酸領域、32.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号35に示す塩基配列からなるマーカー(N916186)を含む核酸領域、39.5cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号58に示す塩基配列からなるマーカー(N918508)を含む核酸領域、53.4cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号65に示す塩基配列からなるマーカー(N913735)を含む核酸領域、38.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号74に示す塩基配列からなるマーカー(N901163)を含む核酸領域を使用することが好ましい。このとき、マーカーを含む核酸領域の塩基配列は、当該マーカーの塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いたインバースPCR等の隣接配列取得法によって特定することができる。
【0043】
さらに、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、上記85種類のマーカーそのものを使用することができる。すなわち、これら85種類のマーカーのうち1種類以上のマーカーをサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用することができる。例えば、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号6に示す塩基配列からなるマーカー(N802870)、39.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)、19.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)、32.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号35に示す塩基配列からなるマーカー(N916186)、39.5cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号58に示す塩基配列からなるマーカー(N918508)、53.4cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号65に示す塩基配列からなるマーカー(N913735)、38.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号74に示す塩基配列からなるマーカー(N901163)を使用することが好ましい。
【0044】
<サトウキビにおけるマーカーの同定>
本発明では、上述したように、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーからサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを特定した。ここでは、これら3004個と4569個のマーカーについて説明する。これマーカーを同定する際には、特願2009-283430号に開示された方法を適用したDNAマイクロアレイを使用することができる。
【0045】
具体的に、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーは、特願2009-283430号に開示された方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを使用する。プローブの設計方法は、図1に示すように、先ず、サトウキビからゲノムDNAを抽出する(工程1a)。次に、抽出したゲノムDNAを1又は複数の制限酵素により消化する(工程1b)。なお、図1に示した例では、制限酵素A及び制限酵素Bの2種類の制限酵素をこの順で用いてゲノムDNAを消化している。ここで、制限酵素としては、特に限定されないが、例えば、PstI、EcoRI、HindIII、BstNI、HpaII、HaeIII等を使用することができる。特に制限酵素としては、ゲノムDNAを完全に消化した際に20〜10000塩基長のゲノムDNA断片となるよう、認識配列の出現頻度等を考慮して適宜選択することができる。また、複数の制限酵素を使用する場合、全ての制限酵素を使用した後のゲノムDNA断片が200〜6000塩基長となっていることが好ましい。さらに、複数の制限酵素を使用する場合、処理に供する制限酵素の順序は特に限定されず、また、処理条件(溶液組成や温度等)が共通する場合には複数の制限酵素を同一の反応系で使用しても良い。すなわち、図1に示した例においては、制限酵素A及び制限酵素Bをこの順で使用してゲノムDNAを消化しているが、制限酵素A及び制限酵素Bを同じ反応系で同時に使用してゲノムDNAを消化しても良いし、制限酵素B及び制限酵素Aをこの順で使用してゲノムDNAを消化してもよい。さらに、使用する制限酵素の数は3以上であってもよい。
【0046】
次に、制限酵素処理後のゲノムDNA断片に対してアダプターを結合する(工程1c)。ここで、アダプターとは、上述した制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片の両端に結合できるものであれば特に限定されない。アダプターとしては、例えば、制限酵素処理によってゲノムDNAの両末端に形成される突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、詳細を後述する増幅処理の際に使用するプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合配列を有するものを使用することができる。また、アダプターとしては、上記突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、クローニングする際のベクターに組み入れるための制限酵素認識部位を有するものを使用することもできる。
【0047】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合には、各制限酵素に対応する複数のアダプターを準備して使用することができる。すなわち、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合に生ずる複数種類の突出末端のそれぞれに対して、相補的な一本鎖を有する複数のアダプターを使用することができる。このとき、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターは、共通するプライマーがハイブリダイズできるように共通するプライマー結合配列を有しているものであっても良いし、それぞれ異なるプライマーがハイブリダイズできるように異なるプライマー結合配列を有するものであっても良い。
【0048】
さらに、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合、アダプターとしては、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを準備して使用することもできる。
【0049】
次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を増幅する(工程1d)。プライマー結合配列を有するアダプターを使用した場合には、当該プライマー結合配列にハイブリダイズできるプライマーを使用することで上記ゲノムDNA断片を増幅することができる。或いは、アダプターを付加したゲノムDNA断片を、アダプター配列を利用してベクターにクローニングし、当該ベクターにおける所定の領域にハイブリダイズできるプライマーを用いてゲノムDNA断片を増幅することができる。なお、プライマーを用いたゲノムDNA断片の増幅反応としては、一例としてPCRを使用することができる。
【0050】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、各制限酵素に対応する複数のアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、複数の制限酵素を用いた処理によって得られたゲノムDNA断片の全てにアダプターが連結されることとなる。この場合、アダプターに含まれるプライマー結合配列を用いて核酸増幅反応を行うことで、得られた全てのゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0051】
或いは、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、選ばれた制限酵素の認識配列を両末端に有するゲノムDNA断片のみを増幅することができる。
【0052】
次に、増幅されたゲノムDNA断片の塩基配列を決定し(工程1e)、当該ゲノムDNA断片より短い塩基長を有し、ゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定し、特定した1又は複数の領域を、サトウキビにおけるプローブとして設計する(工程1f)。ゲノムDNA断片の塩基配列を決定する方法は、特に限定されず、サンガー法等を適用したDNAシークエンサーを利用した従来公知の方法を使用することができる。ここで、設計する領域としては、上述したように、例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とする。
【0053】
以上のように、サトウキビから抽出したゲノムDNAを使用して多数のプローブを設計し、設計したプローブの塩基配列に基づいて、担体上にて目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成することでDNAマイクロアレイを作製することができる。このように作製したDNAマイクロアレイを使用することで、上述した配列番号1〜85に示した85種類のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを含む3004個と4569個のマーカーを同定することができる。
【0054】
より具体的に、本発明者らは、既知のサトウキビ品種NiF8、Ni9及びこれらの交配後代系統(191系統)について、上述したDNAマイクロアレイを用いてシグナルデータを取得した。そして、得られたシグナルデータから遺伝子型データを取得し、この遺伝子型データを元にして、遺伝地図作成ソフトウェアAntMap(Iwata H, Ninomiya S (2006) AntMap: constructing genetic linkage maps using an ant colony optimization algorithm. Breed Sci 56: 371-378)を使用し、遺伝距離計算式Kosambiにより染色体におけるマーカーの位置情報を算出した。さらに、取得したマーカーの位置情報をもとに、Mapmaker/EXP ver.3.0(A Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report, Third Edition, January, 1993)により遺伝地図データシートを作成した。その結果、上述した配列番号1〜85に示した85種類のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを含む3004個と4569個のマーカーを同定している。
【0055】
<サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの利用>
サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することで、後代系統等に黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について黒穂病抵抗性の向上という表現型を示す系統であるか判断することができる。ここで、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用するとは、当該マーカーに対応するプローブを有するDNAマイクロアレイを利用する形態を含む意味である。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブとは、上述のように定義されたサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対して、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを意味する。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、上述のように定義されたサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの塩基配列又はその相補鎖の少なくとも連続する10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基又はそれ以上の塩基長の部分領域若しくは全領域として設計することができる。なお、このプローブを有するDNAマイクロアレイとしては、ガラスやシリコーン等の平面基板を担体とするマイクロアレイや、マイクロビーズを担体とするビーズアレイ、或いは中空繊維の内壁にプローブを固定する3次元マイクロアレイ等の如何なるタイプのマイクロアレイであってもよい。
【0056】
以上のように作製されたDNAマイクロアレイを使用することで、後代系統等に代表される黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について、黒穂病抵抗性の向上という表現型を示す系統であるか判断することができる。なお、上述したDNAマイクロアレイを使用する方法以外であっても、従来公知の手法を用いて上述したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを検出して、黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について黒穂病抵抗性の向上という形質を有する系統であるか判断してもよい。
【0057】
DNAマイクロアレイを使用する方法をより詳細に説明する。図2に示すように、先ず供試サトウキビからゲノムDNAを抽出する。この供試サトウキビとは、後代系統等の黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統及び/又は後代系統を作製する際に使用した親のサトウキビ系統のことであり、黒穂病抵抗性が向上する形質を有するか判定する対象となるサトウキビ系統である。なお、サトウキビ以外の植物、例えば、ソルガムやエリアンサスといったイネ科植物を供試植物とし、これら供試植物における黒穂病抵抗性を評価しても良い。
【0058】
次に、抽出したゲノムDNAを、DNAマイクロアレイを作製する際に使用した制限酵素で消化して複数のゲノムDNA断片を調整する。次に、得られたゲノムDNA断片と、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したアダプターとを連結する。次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したプライマーを用いて増幅する。これにより、DNAマイクロアレイを作製する際の工程1dで増幅したゲノムDNA断片に対応する、供試サトウキビ由来のゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0059】
この工程においては、アダプターが付加されたゲノムDNA断片のうち、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅してもよい。例えば、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターを使用した場合には、特定のアダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。また、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、所定の制限酵素に対応する突出末端を有するゲノムDNA断片のみにアダプターを付加することで、アダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。このように、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅することで濃縮することができる。
【0060】
次に、増幅したゲノムDNA断片に標識を付加する。標識としては、従来公知の如何なる物質を使用しても良い。標識としては、例えば蛍光分子、色素分子、放射性分子等を使用することができる。なお、本工程は、ゲノムDNA断片を増幅する工程において標識を有するヌクレオチドを用いることで省略することができる。上記工程において標識を有するヌクレオチドを用いてゲノムDNA断片を増幅することで、増幅されたDNA断片が標識化されるためである。
【0061】
次に、標識を有するゲノムDNA断片を所定の条件下でDNAマイクロアレイに接触させ、DNAマイクロアレイに固定されたプローブと標識を有するゲノムDNA断片とをハイブリダイズさせる。このとき、ハイブリダイズさせる際には高いストリンジェンシー条件とすることが好ましい。このような高いストリンジェンシー条件とすることによって、供試サトウキビにサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーが存在しているか否かを、より高精度に判定することができる。なお、ストリンジェンシー条件は、反応温度及び塩濃度で調節することができる。すなわち、より高温とすることでより高いストリンジェンシー条件となり、またより低い塩濃度でより高いストリンジェンシー条件となる。例えば、50〜75塩基長のプローブを使用する場合、ハイブリダイゼーション条件としては、40〜44℃、0.21SDS、6×SSCの条件とすることでより高いストリンジェンシー条件とすることができる。
【0062】
また、プローブと標識を有するゲノムDNA断片とのハイブリダイズは、標識に基づいて検出することができる。すなわち、上述した標識を有するゲノムDNA断片とプローブのハイブリダイズ反応の後、未反応のゲノムDNA断片等を洗浄し、その後、プローブに対して特異的にハイブリダイズしたゲノムDNA断片の標識を観察する。例えば、標識が蛍光物質である場合にはその蛍光波長を検出し、標識が色素分子であればその色素波長を検出する。より具体的には、通常のDNAマイクロアレイ解析に使用している、蛍光検出装置やイメージアナライザー等の装置を使用することができる。
【0063】
以上のように、上述したDNAマイクロアレイを使用することにより、供試サトウキビが上述したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを有するか否か判断することができる。ここで、上述したように、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーには、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖するマーカーと、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖するマーカーとがある。上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する。一方、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する。
【0064】
したがって、供試サトウキビにおいて、上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのうちいずれかが存在していれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。さらに、供試サトウキビにおいて、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのいずれかが非存在であれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。更に好ましくは、供試サトウキビにおいて、上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのうちいずれかが存在し、且つ、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのいずれかが非存在であれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と高精度に判断できる。
【0065】
特に、上述した方法では、供試サトウキビを実際の黒穂病抵抗性試験を実施可能な程度まで成長させる必要はなく、例えば後代系統の種子や当該種子を発芽させた幼苗を使用することができる。したがって、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、供試サトウキビを生育させるための圃場やその他、生育のためのコストを大幅に削減することができる。また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、実際に黒穂病の原因微生物(Ustilago scitaminea)を感染させる必要がなく、大規模専用温室や専用圃場、外部との隔離施設など設備等にかかるコストを削減できる。
【0066】
特に、サトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配により数万種類の交配種を作製した後、実生選抜に先立って若しくは実生選抜に代えて、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用した判断を行うことが好ましい。これにより、実際の圃場において、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビの新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。
【0067】
或いは、サトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配に使用する親品種におけるサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在の有無を判定し、黒穂病抵抗性に優れた親品種を選抜することもできる。黒穂病抵抗性に優れた親品種を優先的に使用して後代系統を作出することで、黒穂病抵抗性に優れた後代系統が高頻度に出現すると期待できる。これにより、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビの新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
1.DNAマイクロアレイ用プローブの作成
(1)材料
サトウキビ品種:NiF8、Ni9、US56-15-8、POJ2878、Q165、R570、Co290及びB3439、サトウキビ近縁野生種:Glagah Kloet、Chunee、Natal Uba及びRobustum9、並びにエリアンサス:IJ76-349及びJW630を用いた。
【0070】
(2)制限酵素処理
これらサトウキビ品種、サトウキビ近縁野生種及びエリアンサスからそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。
【0071】
(3)アダプターライゲーション
(2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号86)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号87))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。
【0072】
(4)PCR増幅
(3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号88))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR( 98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。
【0073】
(5)ゲノムシークエンス取得
(4)においてPCR増幅したゲノムDNA断片についてサンガー法により塩基配列を決定した。また、ゲノムデータベース(Gramene:http://www.gramene.org/)に格納されたソルガム全ゲノム配列情報から、PstI認識配列により挟み込まれる塩基配列情報を取得した。
【0074】
(6)プローブ設計及びDNAマイクロアレイの作成
(5)のゲノムシークエンス情報をもとに50〜75bpのプローブを設計した。設計したプローブの塩基配列情報をもとに、これらプローブを有するDNAマイクロアレイを作製した。
【0075】
2.DNAマイクロアレイを用いたシグナルデータの取得
(1)材料
サトウキビ品種・系統:NiF8及びNi9、並びに、交配後代191系統を用いた。
【0076】
(2)制限酵素処理
これらNiF8及びNi9、並びに191系統の後代系統からそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。
【0077】
(3)アダプターライゲーション
(2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号86)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号87))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。
【0078】
(4)PCR増幅
(3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号88))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR(98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。
【0079】
(5)ラベル化
上述した(4)で得られたPCR増幅断片をカラム(Qiagen社)で精製後、Cy3-labeled 9mers(TriLink社、1O.D.)を加え、98℃、10分間処理後、氷上で10分間静置した。その後、Klenow(NEB社、100unit)を加え37℃、2時間処理した。そして、エタノール沈殿によりラベル化サンプルを調整した。
【0080】
(6)ハイブリ・シグナル検出
(5)のラベル化サンプルを用い、NimbleGen Array User's Guideに従い、上記1.で作製したDNAマイクロアレイを用いてハイブリダイズを行い、ラベルに基づくシグナルを検出した。
【0081】
3.サトウキビ黒穂病抵抗性のQTLの同定及びマーカーの開発
(1)遺伝地図データシート作成
上記2.にて検出したサトウキビ品種NiF8、Ni9及びこれらの交配後代系統(191系統)のシグナルデータから、3004個と4569個のマーカーとなりうる遺伝子型データを取得した。この遺伝子型データを元にして、遺伝地図作成ソフトウェアAntMap(Iwata H, Ninomiya S (2006) AntMap: constructing genetic linkage maps using an ant colony optimization algorithm. Breed Sci 56: 371-378)を使用し、遺伝距離計算式Kosambiにより染色体におけるマーカーの位置情報を算出した。さらに、取得したマーカーの位置情報をもとに、Mapmaker/EXP ver.3.0(A Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report, Third Edition, January, 1993)により遺伝地図データシートを作成した。
【0082】
(2) 黒穂病抵抗性データの取得
2009年10月26〜28日、NiF8及びNi9、交雑後代191系統の茎を収穫し、2〜3日間、室温・高湿度条件下で催芽処理した後、黒穂病胞子の有傷接種に供した。有傷接種は、苗芽子両側に傷を付け(計6か所、深さ約4.0mm)、毛筆により胞子浮遊液(107〜108個・胞子/ml)を塗布した。胞子浮遊液の黒穂病胞子は、2009年に沖縄県内で栽培したNi9の黒穂病自然発病株の鞭状物より採取した。有傷接種した苗は、2〜3日間、室温・高湿度条件下で栽培し、2009年10月30日〜11月1日に育苗箱へ植付けた(40芽/箱、2箱/系統)。苗の植付け後、2010年9月2日まで、高湿度条件下、温室で栽培した。黒穂病罹病程度の調査は、罹病の兆候である鞭状物が頂部より露出した株数を計測し罹病株数とした。罹病株数の調査後、罹病株の植物体は、地際部より刈取り除去した。黒穂病罹病株数の調査は2010年6月23日、7月21日、8月18日及び9月2日の計4回実施した。黒穂病の罹病率は、発芽株数(黒穂病以外の枯死株を除く)に対する罹病株数の割合として算出した。2010年6月23日に調査した結果を図3に示し、7月21日に調査した結果を図4に示し、8月18日に調査した結果を図5に示し、9月2日に調査した結果を図6に示す。
【0083】
(3)量的形質(Quantitative trait loci: QTL)の解析
上記(1)で得られた遺伝地図データシート及び上記(2)で得られた黒穂病抵抗性データを元にして、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S., C. J. Basten, and Z.-B. Zeng (2010). Windows QTL Cartographer 2.5. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, NC)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法によりQTL解析を行った。このときLODの閾値を2.5とした。その結果、図7〜12に示すように、サトウキビ品種NiF8の第5連鎖群のマーカーN827337からN821515(8月18日)、第17連鎖群のマーカーN826561からN826906(6月23日、7月21日、8月18日)、第40連鎖群のマーカーN816552からN821999(7月21日、8月18日、9月2日)、サトウキビ品種Ni9の第1連鎖群のマーカーN915070からN920207(7月21日、8月18日、9月2日)、第13連鎖群のマーカーN914284からN916129(7月21日、8月18日、9月2日)、第14連鎖群のマーカーN901177からN900802(6月23日)、マーカーN901524からN918080(6月23日、7月21日)の7つ区間内にサトウキビの黒穂病抵抗性に関するQTLの存在を確認した。すなわち、これら7つ区間内にLODの閾値を超えるピークが得られた。得られたピークは表8に示すように特定することができ、当該ピークの位置に黒穂病抵抗性を向上させる機能を有する原因遺伝子(群)が存在することが示唆された。なお、表8において効果(%)の欄は、黒穂病の罹患率の増減を示している。よって、効果(%)の数値が負である場合、当該QTLは黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖することを意味し、効果(%)の数値が正である場合、当該QTLは黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖することを意味する。
【0084】
【表8】
【0085】
そして、図7〜12に示すように、当該ピークの近傍に位置するマーカーは、黒穂病抵抗性を向上又は低下させる機能を有する原因遺伝子(群)と連鎖して遺伝するためサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが示された。すなわち、図7〜12に示した85種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0086】
なお、上記2.における(6)シグナル検出の一例として、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第5連鎖群に存在するマーカーN827337からN821515に含まれる14種類のマーカーのシグナル値を表9に示し、なかでもN802870については当該シグナル値を図13に示した。
【0087】
【表9】
【0088】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら14種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第5連鎖群に存在するマーカーN827337からN821515に含まれる14種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0089】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第17連鎖群に存在するマーカーN826561からN826906に含まれる8種類のマーカーのシグナル値を表10に示し、なかでもN827136については当該シグナル値を図14に示した。
【0090】
【表10】
【0091】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら8種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第17連鎖群に存在するN826561からN826906に含まれる8種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0092】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第40連鎖群に存在するマーカーN816552からN821999に含まれる10種類のマーカーのシグナル値を表11に示し、なかでもN812680については当該シグナル値を図15に示した。
【0093】
【表11】
【0094】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら10種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第40連鎖群に存在するN816552からN821999に含まれる10種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0095】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第1連鎖群に存在するマーカーN915070からN920207に含まれる19種類のマーカーのシグナル値を表12に示し、なかでもN916081については当該シグナル値を図16に示した。
【0096】
【表12】
【0097】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら19種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第1連鎖群に存在するN915070からN920207に含まれる19種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0098】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第13連鎖群に存在するマーカーN914284からN916129に含まれる11種類のマーカーのシグナル値を表13に示し、なかでもN919839については当該シグナル値を図17に示した。
【0099】
【表13】
【0100】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら11種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第13連鎖群に存在するN914284からN916129に含まれる11種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0101】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第14連鎖群に存在するマーカーN901178からN900802に含まれる10種類のマーカーのシグナル値を表14に示し、なかでもN918761については当該シグナル値を図18に示した。
【0102】
【表14】
【0103】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら10種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第14連鎖群に存在するN901178からN900802に含まれる10種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0104】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第14連鎖群に存在するマーカーN901524からN918080に含まれる13種類のマーカーのシグナル値を表15に示し、なかでもN901160については当該シグナル値を図19に示した。
【0105】
【表15】
【0106】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら13種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第14連鎖群に存在するN901524からN918080に含まれる13種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒穂病に対する抵抗性を示すサトウキビ属植物系統を選抜することができる黒穂病抵抗性関連マーカー及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サトウキビは、砂糖の原料、酒類原料など、食用に栽培されている他、バイオ燃料原料としての利用を含む様々な産業分野で利用されている。このような状況下、所望の特性(例えば、糖含有量、生長力の増強、新芽形成能、耐病性及び虫害抵抗性、耐寒性、葉長の増大、葉面積の増大、茎長の増大など)を有するサトウキビ植物の新品種を開発するニーズがある。
【0003】
一般に、植物品種・系統の識別として、特性データを比較する「特性比較」、同一条件で栽培し比較する「比較栽培」、DNAを解析する「DNA分析」の3つの方法がある。特性比較および比較栽培による系統識別は、栽培条件の違いによる精度低下や多大な工数が必要とされる長期間の圃場調査など多くの問題を抱える。特に、サトウキビは、イネやトウモロコシなど、他のイネ科作物と比べ植物体が極めて大きく、圃場調査による系統識別の実施が困難である。
【0004】
また、特定の病害に対する抵抗性品種を識別するには、サトウキビを長期間栽培した後、病害原因微生物を接種する試験を行い、その後、病班等を観察することで抵抗性データを収集する。しかし、当該試験を行うには、外部環境に対する病害原因微生物の伝搬を確実に防止しなければならず、大規模専用温室や専用圃場、外部との隔離施設など設備が必要となる。さらに、サトウキビの新品種作出には、先ず、交配により数万種類の交配種を作製し、そこから実生選抜、さらに優良な系統を段階的に選抜し、最終的に所望な特性を有する2〜3種の新品種を得ることができる。このように、サトウキビの新品種作出には、非常に多くの系統を栽培・評価する必要があり、上述したような温室や圃場を準備して多大な手間をかける必要がある。
【0005】
したがって、病害抵抗性を示すサトウキビ系統を、ゲノムに存在するマーカーを用いて識別する方法の開発が求められている。特に、サトウキビにおける新品種作出に際して、種々の特性について優れたマーカーが使用できれば、上述したようなサトウキビに特有の諸問題を回避でき、非常に有効なツールとなりうる。しかしながら、サトウキビ植物は、高次倍数性で染色体数が多いため(約100〜130)、マーカー技術開発が遅れている。サトウキビでは、USDAにおいてSSRマーカーを用いた遺伝子型決定に関する報告があるものの(非特許文献1)、マーカー数及び各マーカーからの多型数が少ないことに起因して精度が低く、適用範囲がアメリカ・オーストラリア品種に限られるため、日本国内および台湾・インドなどの主要品種および有用な遺伝資源の系統識別に利用できない。
【0006】
また、非特許文献2は、マーカー数を増やし、各々のマーカーの特性関係を比較し、検証することでサトウキビにおける遺伝子地図を作製する可能性を示唆している。しかしながら、非特許文献2には、十分な数のマーカーが開示されておらず、目的とする特性に連鎖したマーカーも見つかっていない。
【0007】
一方、病害抵抗性に関連するマーカーとしては、特許文献1に示すように、テンサイにおける黒根病抵抗性関連マーカーが知られている。また、特許文献2に示すように、トウモロコシにおいて、目的とする形質に連鎖したマーカーを利用して品種を選抜する技術が開示されている。
【0008】
一方、サトウキビの黒穂病は、原因微生物の感染力が強く、一旦発病すると圃場全体に感染が拡大する。黒穂病に罹病したサトウキビは、製糖用原料として利用できないだけではなく枯死する。このため、黒穂病の発生は、次年度以降における大幅な減収を引き起こす。黒穂病の被害は、ブラジル、アメリカ、オーストラリア、中国、インドネシアなど28ヶ国以上で報告がある。黒穂病の防除方法には、植付時の殺菌処理があるが、初期生育時に効果が限定される。しがって、黒穂病の抵抗性を付与したサトウキビ品種の育成が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Maydica 48(2003)319-329 “Molecular genotyping of sugarcane clones with microsatellite DNA markers”
【非特許文献2】Nathalie Piperidis et al., Molecular Breeding, 2008, Vol 21, 233-247
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 2007/125958
【特許文献2】特開2010-516236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、サトウキビの量的形質の中でも黒穂病抵抗性に関連するマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サトウキビ植物における多数のマーカーを準備し、交雑後代系統における量的形質とマーカーとの連鎖解析によって、黒穂病抵抗性といった量的形質に連鎖するマーカーを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は以下を包含する。
(1)サトウキビの染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号14に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号15に示す塩基配列及び配列番号22に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号23に示す塩基配列及び配列番号32に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号33に示す塩基配列及び配列番号51に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号52に示す塩基配列及び配列番号62に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号63に示す塩基配列及び配列番号72に示す塩基配列により挟まれる領域、又は配列番号73に示す塩基配列及び配列番号85に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(2)上記核酸領域は、配列番号1〜85からなる群から選ばれるいずれか1の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする(1)記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(3)上記核酸領域は、サトウキビの染色体における配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、又は配列番号72に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に位置することを特徴とする(1)記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
(4)少なくとも一方の親がサトウキビ植物である後代植物の染色体及び/又は当該親の染色体を抽出する工程と、上記で得られた染色体における上記(1)乃至(3)いずれか1に記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、黒穂病抵抗性が向上したサトウキビ系統の製造方法。
(5)上記測定する工程では、上記サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブを備えるDNAチップを使用することを特徴とする(4)記載のサトウキビ系統の製造方法。
(6)上記後代植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする(4)記載のサトウキビ系統の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サトウキビにおける量的形質の中でも黒穂病抵抗性に連鎖する新規なサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを提供することができる。本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、サトウキビの交配系統における黒穂病抵抗性を検定することができる。これにより、黒穂病抵抗性が向上した特性を有するサトウキビ系統を非常に低コストに識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】サトウキビ染色体のマーカーを得る際に使用したDNAマイクロアレイの製造フローを示す模式図である。
【図2】DNAマイクロアレイを使用したシグナル検出の工程を示す模式図である。
【図3】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年6月23日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図4】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年7月21日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図5】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年8月18日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図6】実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について2010年9月2日に調査した黒穂病抵抗性データを示す特性図である。
【図7】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第5連鎖群)を示す特性図である。
【図8】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第17連鎖群)を示す特性図である。
【図9】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(NiF8における第40連鎖群)を示す特性図である。
【図10】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第1連鎖群)を示す特性図である。
【図11】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第13連鎖群)を示す特性図である。
【図12】黒穂病抵抗性に関するQTL解析の結果(Ni9における第14連鎖群)を示す特性図である。
【図13】各系統におけるN802870のシグナル値を示す特性図である。
【図14】各系統におけるN827136のシグナル値を示す特性図である。
【図15】各系統におけるN812680のシグナル値を示す特性図である。
【図16】各系統におけるN916081のシグナル値を示す特性図である。
【図17】各系統におけるN919839のシグナル値を示す特性図である。
【図18】各系統におけるN918761のシグナル値を示す特性図である。
【図19】各系統におけるN901160のシグナル値を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー及びその利用方法、特にサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを用いたサトウキビ系統の製造方法について説明する。
【0017】
<サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー>
本発明に係るサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとは、サトウキビの染色体上に存在する特定の領域であり、サトウキビの黒穂病抵抗性といった形質の原因遺伝子(群)に連鎖して、サトウキビ黒穂病抵抗性という形質を判別できる機能を有する。すなわち、既知のサトウキビ系統を用いて得られた後代系統において、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を確認することで黒穂病抵抗性の向上という形質を有する系統であると判断することができる。なお、本発明において、黒穂病とは、Ustilago属の微生物が感染することに起因して病班が形成される病気を意味している。Ustilago属の微生物としては、一例としてUstilago scitamineaを挙げることができる。
【0018】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとは、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖するマーカーと、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖するマーカーの両者を含む意味である。例えば、特定のサトウキビ品種において、前者のマーカーが存在していれば黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。さらに、特定のサトウキビ品種において、前者のマーカーが存在し、且つ、後者のマーカーが非存在である場合には黒穂病抵抗性が向上した品種であるとより高精度に判断できる。なお、特定のサトウキビ品種において、後者のマーカーが非存在であることのみをもって、黒穂病抵抗性が向上した品種であると判断しても良い。
【0019】
ここで、サトウキビとは、イネ科サトウキビ属に属する植物を意味する。また、サトウキビとは、所謂、高貴種(学名:Saccharum officinarum)と野生種(学名:Saccharum spontaneum)、バルベリ種(Saccharum barberi)、シネンセ種(Saccharum sinense)、オフィシナルム種の祖先種であるロバスタム種(Saccharum robustum)のいずれも含むことを意味する。既知のサトウキビ品種・系統としては、特に限定されず、日本国内にて使用可能なあらゆる品種・系統、日本国外において使用されている品種・系統等を含む意味である。例えば、サトウキビ日本国内育成品種としては、特に限定されないが、Ni1、NiN2、NiF3、NiF4、NiF5、Ni6、NiN7、NiF8、Ni9、NiTn10、Ni11、Ni12、Ni14、Ni15、Ni16、Ni17、NiTn19、NiTn20、Ni22及びNi23等を挙げることができる。また、サトウキビ日本国内主要品種としては、特に限定されないが、NiF8、Ni9、NiTn10及びNi15等を挙げることができる。さらに、サトウキビ日本国内導入主要品種としては、特に限定されないが、F177、Nco310及びF172等を挙げることができる。
【0020】
また、後代系統は、母本及び父本の両方がサトウキビ品種・系統である同種交配による系統であっても良いし、いずれか一方がサトウキビ品種・系統であり他方が近縁のErianthus arundinaceusであるような交雑系統であっても良い。また、後代系統は、いわゆる戻し交配によって得られたものでも良い。
【0021】
サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーを含む遺伝子連鎖地図とサトウキビ黒穂病抵抗性データとを用いたQTL(Quantitative Trait Loci)解析によって新たに同定されたものである。なお、サトウキビ黒穂病抵抗性は、多数の遺伝子が関与していると考えられ、連続分布をとる量的形質である。すなわち、サトウキビ黒穂病抵抗性は、連続分布をとる黒穂病への罹患率に基づいて評価される。QTL解析には、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S., C. J. Basten, and Z.-B. Zeng (2010). Windows QTL Cartographer 2.5. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, NC)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法を適用している。
【0022】
具体的に、上述したQTL解析により、ロッドスコア(LOD score)が所定の閾値(例えば2.5)以上となる上記遺伝子連鎖地図に含まれる領域を7つ見いだした。すなわち、当該領域を含む約18.7cM(センチモルガン)領域、当該領域を含む約39.2cM領域、当該領域を含む約19.2cM領域、当該領域を含む約32.0cM領域、当該領域を含む約39.5cM領域、当該領域を含む約53.4cM領域、及び当該領域を含む約38.0cM領域の7領域を特定した。ここで、「モルガン(M)」は、染色体上の遺伝子間の距離を相対的に示した単位であり、交叉価をパーセントにした値である。サトウキビの染色体において、1cMは、約2000kbに相当する。なお、このピーク位置又はその近傍には、黒穂病抵抗性を向上させる形質の原因遺伝子(群)が存在することが示唆される。
【0023】
上記18.7cMの領域は、上記マーカーのうち表1に示す14種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0024】
【表1】
【0025】
上記39.2cMの領域は、上記マーカーのうち表2に示す8種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0026】
【表2】
【0027】
上記19.2cMの領域は、上記マーカーのうち表3に示す10種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0028】
【表3】
【0029】
上記32.0cMの領域は、上記マーカーのうち表4に示す19種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0030】
【表4】
【0031】
上記39.5cMの領域は、上記マーカーのうち表5に示す11種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0032】
【表5】
【0033】
上記53.4cMの領域は、上記マーカーのうち表6に示す10種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する領域である。
【0034】
【表6】
【0035】
上記38.0cMの領域は、上記マーカーのうち表7に示す13種類のマーカーがこの順で含まれる領域であり、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する領域である。
【0036】
【表7】
【0037】
なお、表1〜7において、連鎖群とは、QTL解析において特定された複数の連鎖群についてそれぞれ付された番号である。表1〜7においてマーカー名とは、本発明で独自に取得したマーカーに付された名称である。表1〜7においてシグナル閾値とは、マーカーの有無を判定するための閾値である。
【0038】
また、18.7cMの領域に含まれるピークは、配列番号5に示す塩基配列からなるマーカー(N804607)及び配列番号9に示す塩基配列からなるマーカー(N815502)により挟み込まれる領域に存在している。39.2cMの領域に含まれるピークは、配列番号18に示す塩基配列からなるマーカー(N803928)及び配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)により挟み込まれる領域に存在している。19.2cMの領域に含まれるピークは、配列番号25に示す塩基配列からなるマーカー(N829378)及び配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)により挟み込まれる領域に存在している。32.0cMの領域に含まれるピークは、配列番号33に示す塩基配列からなるマーカー(N915070)及び配列番号42に示す塩基配列からなるマーカー(N918161)により挟み込まれる領域に存在している。39.5cMの領域に含まれるピークは、配列番号57に示す塩基配列からなるマーカー(N911103)及び配列番号59に示す塩基配列からなるマーカー(N918344)により挟み込まれる領域に存在している。53.4cMの領域に含まれるピークは、配列番号64に示す塩基配列からなるマーカー(N918761)及び配列番号66に示す塩基配列からなるマーカー(N900663)により挟み込まれる領域に存在している。38.0cMの領域に含まれるピークは、配列番号73に示す塩基配列からなるマーカー(N901524)及び配列番号80に示す塩基配列からなるマーカー(N915180)により挟み込まれる領域に存在している。
【0039】
表1〜7に示したマーカーが含まれる7つの領域から選ばれる連続した核酸領域を、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用することができる。ここで、核酸領域とは、サトウキビの染色体に存在する他の領域との同一性が95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、最も好ましくは70%以下となるような塩基配列からなる領域を意味する。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域と他の領域との同一性が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。ここで、同一性の値は、例えばBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出することができる。
【0040】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域の塩基長は、少なくとも8塩基長以上、好ましくは15塩基長以上、より好ましくは20以上、最も好ましくは30塩基長とすることができる。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとなる核酸領域の塩基長が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。
【0041】
特に、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれる14種類のマーカーのうち、配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、39.2cMの領域に含まれる8種類のマーカーのうち、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらに、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、19.2cMの領域に含まれる10種類のマーカーのうち、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号25に示す塩基配列と配列番号30に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、32.0cMの領域に含まれる19種類のマーカーのうち、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、39.5cMの領域に含まれる11種類のマーカーのうち、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、53.4cMの領域に含まれる10種類のマーカーのうち、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。さらにまた、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、38.0cMの領域に含まれる13種類のマーカーのうち、配列番号73に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号73に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。
【0042】
また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、上記表1〜7に示した85種類のマーカーから選ばれる1種類のマーカーを含む核酸領域とすることもできる。例えば、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号6に示す塩基配列からなるマーカー(N802870)を含む核酸領域、39.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)を含む核酸領域、19.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)を含む核酸領域、32.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号35に示す塩基配列からなるマーカー(N916186)を含む核酸領域、39.5cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号58に示す塩基配列からなるマーカー(N918508)を含む核酸領域、53.4cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号65に示す塩基配列からなるマーカー(N913735)を含む核酸領域、38.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号74に示す塩基配列からなるマーカー(N901163)を含む核酸領域を使用することが好ましい。このとき、マーカーを含む核酸領域の塩基配列は、当該マーカーの塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いたインバースPCR等の隣接配列取得法によって特定することができる。
【0043】
さらに、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、上記85種類のマーカーそのものを使用することができる。すなわち、これら85種類のマーカーのうち1種類以上のマーカーをサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用することができる。例えば、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとしては、18.7cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号6に示す塩基配列からなるマーカー(N802870)、39.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号22に示す塩基配列からなるマーカー(N826906)、19.2cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号32に示す塩基配列からなるマーカー(N821999)、32.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号35に示す塩基配列からなるマーカー(N916186)、39.5cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号58に示す塩基配列からなるマーカー(N918508)、53.4cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号65に示す塩基配列からなるマーカー(N913735)、38.0cMの領域に含まれるピークの位置に最も近い配列番号74に示す塩基配列からなるマーカー(N901163)を使用することが好ましい。
【0044】
<サトウキビにおけるマーカーの同定>
本発明では、上述したように、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーからサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを特定した。ここでは、これら3004個と4569個のマーカーについて説明する。これマーカーを同定する際には、特願2009-283430号に開示された方法を適用したDNAマイクロアレイを使用することができる。
【0045】
具体的に、サトウキビの染色体から独自に取得した3004個と4569個のマーカーは、特願2009-283430号に開示された方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを使用する。プローブの設計方法は、図1に示すように、先ず、サトウキビからゲノムDNAを抽出する(工程1a)。次に、抽出したゲノムDNAを1又は複数の制限酵素により消化する(工程1b)。なお、図1に示した例では、制限酵素A及び制限酵素Bの2種類の制限酵素をこの順で用いてゲノムDNAを消化している。ここで、制限酵素としては、特に限定されないが、例えば、PstI、EcoRI、HindIII、BstNI、HpaII、HaeIII等を使用することができる。特に制限酵素としては、ゲノムDNAを完全に消化した際に20〜10000塩基長のゲノムDNA断片となるよう、認識配列の出現頻度等を考慮して適宜選択することができる。また、複数の制限酵素を使用する場合、全ての制限酵素を使用した後のゲノムDNA断片が200〜6000塩基長となっていることが好ましい。さらに、複数の制限酵素を使用する場合、処理に供する制限酵素の順序は特に限定されず、また、処理条件(溶液組成や温度等)が共通する場合には複数の制限酵素を同一の反応系で使用しても良い。すなわち、図1に示した例においては、制限酵素A及び制限酵素Bをこの順で使用してゲノムDNAを消化しているが、制限酵素A及び制限酵素Bを同じ反応系で同時に使用してゲノムDNAを消化しても良いし、制限酵素B及び制限酵素Aをこの順で使用してゲノムDNAを消化してもよい。さらに、使用する制限酵素の数は3以上であってもよい。
【0046】
次に、制限酵素処理後のゲノムDNA断片に対してアダプターを結合する(工程1c)。ここで、アダプターとは、上述した制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片の両端に結合できるものであれば特に限定されない。アダプターとしては、例えば、制限酵素処理によってゲノムDNAの両末端に形成される突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、詳細を後述する増幅処理の際に使用するプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合配列を有するものを使用することができる。また、アダプターとしては、上記突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、クローニングする際のベクターに組み入れるための制限酵素認識部位を有するものを使用することもできる。
【0047】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合には、各制限酵素に対応する複数のアダプターを準備して使用することができる。すなわち、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合に生ずる複数種類の突出末端のそれぞれに対して、相補的な一本鎖を有する複数のアダプターを使用することができる。このとき、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターは、共通するプライマーがハイブリダイズできるように共通するプライマー結合配列を有しているものであっても良いし、それぞれ異なるプライマーがハイブリダイズできるように異なるプライマー結合配列を有するものであっても良い。
【0048】
さらに、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合、アダプターとしては、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを準備して使用することもできる。
【0049】
次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を増幅する(工程1d)。プライマー結合配列を有するアダプターを使用した場合には、当該プライマー結合配列にハイブリダイズできるプライマーを使用することで上記ゲノムDNA断片を増幅することができる。或いは、アダプターを付加したゲノムDNA断片を、アダプター配列を利用してベクターにクローニングし、当該ベクターにおける所定の領域にハイブリダイズできるプライマーを用いてゲノムDNA断片を増幅することができる。なお、プライマーを用いたゲノムDNA断片の増幅反応としては、一例としてPCRを使用することができる。
【0050】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、各制限酵素に対応する複数のアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、複数の制限酵素を用いた処理によって得られたゲノムDNA断片の全てにアダプターが連結されることとなる。この場合、アダプターに含まれるプライマー結合配列を用いて核酸増幅反応を行うことで、得られた全てのゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0051】
或いは、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、選ばれた制限酵素の認識配列を両末端に有するゲノムDNA断片のみを増幅することができる。
【0052】
次に、増幅されたゲノムDNA断片の塩基配列を決定し(工程1e)、当該ゲノムDNA断片より短い塩基長を有し、ゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定し、特定した1又は複数の領域を、サトウキビにおけるプローブとして設計する(工程1f)。ゲノムDNA断片の塩基配列を決定する方法は、特に限定されず、サンガー法等を適用したDNAシークエンサーを利用した従来公知の方法を使用することができる。ここで、設計する領域としては、上述したように、例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とする。
【0053】
以上のように、サトウキビから抽出したゲノムDNAを使用して多数のプローブを設計し、設計したプローブの塩基配列に基づいて、担体上にて目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成することでDNAマイクロアレイを作製することができる。このように作製したDNAマイクロアレイを使用することで、上述した配列番号1〜85に示した85種類のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを含む3004個と4569個のマーカーを同定することができる。
【0054】
より具体的に、本発明者らは、既知のサトウキビ品種NiF8、Ni9及びこれらの交配後代系統(191系統)について、上述したDNAマイクロアレイを用いてシグナルデータを取得した。そして、得られたシグナルデータから遺伝子型データを取得し、この遺伝子型データを元にして、遺伝地図作成ソフトウェアAntMap(Iwata H, Ninomiya S (2006) AntMap: constructing genetic linkage maps using an ant colony optimization algorithm. Breed Sci 56: 371-378)を使用し、遺伝距離計算式Kosambiにより染色体におけるマーカーの位置情報を算出した。さらに、取得したマーカーの位置情報をもとに、Mapmaker/EXP ver.3.0(A Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report, Third Edition, January, 1993)により遺伝地図データシートを作成した。その結果、上述した配列番号1〜85に示した85種類のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを含む3004個と4569個のマーカーを同定している。
【0055】
<サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの利用>
サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することで、後代系統等に黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について黒穂病抵抗性の向上という表現型を示す系統であるか判断することができる。ここで、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用するとは、当該マーカーに対応するプローブを有するDNAマイクロアレイを利用する形態を含む意味である。サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブとは、上述のように定義されたサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対して、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを意味する。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、上述のように定義されたサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの塩基配列又はその相補鎖の少なくとも連続する10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基又はそれ以上の塩基長の部分領域若しくは全領域として設計することができる。なお、このプローブを有するDNAマイクロアレイとしては、ガラスやシリコーン等の平面基板を担体とするマイクロアレイや、マイクロビーズを担体とするビーズアレイ、或いは中空繊維の内壁にプローブを固定する3次元マイクロアレイ等の如何なるタイプのマイクロアレイであってもよい。
【0056】
以上のように作製されたDNAマイクロアレイを使用することで、後代系統等に代表される黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について、黒穂病抵抗性の向上という表現型を示す系統であるか判断することができる。なお、上述したDNAマイクロアレイを使用する方法以外であっても、従来公知の手法を用いて上述したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを検出して、黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統について黒穂病抵抗性の向上という形質を有する系統であるか判断してもよい。
【0057】
DNAマイクロアレイを使用する方法をより詳細に説明する。図2に示すように、先ず供試サトウキビからゲノムDNAを抽出する。この供試サトウキビとは、後代系統等の黒穂病抵抗性の表現型が未知のサトウキビ系統及び/又は後代系統を作製する際に使用した親のサトウキビ系統のことであり、黒穂病抵抗性が向上する形質を有するか判定する対象となるサトウキビ系統である。なお、サトウキビ以外の植物、例えば、ソルガムやエリアンサスといったイネ科植物を供試植物とし、これら供試植物における黒穂病抵抗性を評価しても良い。
【0058】
次に、抽出したゲノムDNAを、DNAマイクロアレイを作製する際に使用した制限酵素で消化して複数のゲノムDNA断片を調整する。次に、得られたゲノムDNA断片と、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したアダプターとを連結する。次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したプライマーを用いて増幅する。これにより、DNAマイクロアレイを作製する際の工程1dで増幅したゲノムDNA断片に対応する、供試サトウキビ由来のゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0059】
この工程においては、アダプターが付加されたゲノムDNA断片のうち、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅してもよい。例えば、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターを使用した場合には、特定のアダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。また、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、所定の制限酵素に対応する突出末端を有するゲノムDNA断片のみにアダプターを付加することで、アダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。このように、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅することで濃縮することができる。
【0060】
次に、増幅したゲノムDNA断片に標識を付加する。標識としては、従来公知の如何なる物質を使用しても良い。標識としては、例えば蛍光分子、色素分子、放射性分子等を使用することができる。なお、本工程は、ゲノムDNA断片を増幅する工程において標識を有するヌクレオチドを用いることで省略することができる。上記工程において標識を有するヌクレオチドを用いてゲノムDNA断片を増幅することで、増幅されたDNA断片が標識化されるためである。
【0061】
次に、標識を有するゲノムDNA断片を所定の条件下でDNAマイクロアレイに接触させ、DNAマイクロアレイに固定されたプローブと標識を有するゲノムDNA断片とをハイブリダイズさせる。このとき、ハイブリダイズさせる際には高いストリンジェンシー条件とすることが好ましい。このような高いストリンジェンシー条件とすることによって、供試サトウキビにサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーが存在しているか否かを、より高精度に判定することができる。なお、ストリンジェンシー条件は、反応温度及び塩濃度で調節することができる。すなわち、より高温とすることでより高いストリンジェンシー条件となり、またより低い塩濃度でより高いストリンジェンシー条件となる。例えば、50〜75塩基長のプローブを使用する場合、ハイブリダイゼーション条件としては、40〜44℃、0.21SDS、6×SSCの条件とすることでより高いストリンジェンシー条件とすることができる。
【0062】
また、プローブと標識を有するゲノムDNA断片とのハイブリダイズは、標識に基づいて検出することができる。すなわち、上述した標識を有するゲノムDNA断片とプローブのハイブリダイズ反応の後、未反応のゲノムDNA断片等を洗浄し、その後、プローブに対して特異的にハイブリダイズしたゲノムDNA断片の標識を観察する。例えば、標識が蛍光物質である場合にはその蛍光波長を検出し、標識が色素分子であればその色素波長を検出する。より具体的には、通常のDNAマイクロアレイ解析に使用している、蛍光検出装置やイメージアナライザー等の装置を使用することができる。
【0063】
以上のように、上述したDNAマイクロアレイを使用することにより、供試サトウキビが上述したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを有するか否か判断することができる。ここで、上述したように、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーには、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖するマーカーと、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖するマーカーとがある。上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖する。一方、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーは、黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖する。
【0064】
したがって、供試サトウキビにおいて、上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのうちいずれかが存在していれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。さらに、供試サトウキビにおいて、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのいずれかが非存在であれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と判断できる。更に好ましくは、供試サトウキビにおいて、上述した表2、表4、及び表7に示した3つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのうちいずれかが存在し、且つ、上述した表1、表3、表5及び表6に示した4つの領域から設計したサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーのいずれかが非存在であれば、黒穂病抵抗性が向上した品種と高精度に判断できる。
【0065】
特に、上述した方法では、供試サトウキビを実際の黒穂病抵抗性試験を実施可能な程度まで成長させる必要はなく、例えば後代系統の種子や当該種子を発芽させた幼苗を使用することができる。したがって、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、供試サトウキビを生育させるための圃場やその他、生育のためのコストを大幅に削減することができる。また、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用することによって、実際に黒穂病の原因微生物(Ustilago scitaminea)を感染させる必要がなく、大規模専用温室や専用圃場、外部との隔離施設など設備等にかかるコストを削減できる。
【0066】
特に、サトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配により数万種類の交配種を作製した後、実生選抜に先立って若しくは実生選抜に代えて、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーを利用した判断を行うことが好ましい。これにより、実際の圃場において、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビの新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。
【0067】
或いは、サトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配に使用する親品種におけるサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在の有無を判定し、黒穂病抵抗性に優れた親品種を選抜することもできる。黒穂病抵抗性に優れた親品種を優先的に使用して後代系統を作出することで、黒穂病抵抗性に優れた後代系統が高頻度に出現すると期待できる。これにより、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビの新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
1.DNAマイクロアレイ用プローブの作成
(1)材料
サトウキビ品種:NiF8、Ni9、US56-15-8、POJ2878、Q165、R570、Co290及びB3439、サトウキビ近縁野生種:Glagah Kloet、Chunee、Natal Uba及びRobustum9、並びにエリアンサス:IJ76-349及びJW630を用いた。
【0070】
(2)制限酵素処理
これらサトウキビ品種、サトウキビ近縁野生種及びエリアンサスからそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。
【0071】
(3)アダプターライゲーション
(2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号86)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号87))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。
【0072】
(4)PCR増幅
(3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号88))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR( 98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。
【0073】
(5)ゲノムシークエンス取得
(4)においてPCR増幅したゲノムDNA断片についてサンガー法により塩基配列を決定した。また、ゲノムデータベース(Gramene:http://www.gramene.org/)に格納されたソルガム全ゲノム配列情報から、PstI認識配列により挟み込まれる塩基配列情報を取得した。
【0074】
(6)プローブ設計及びDNAマイクロアレイの作成
(5)のゲノムシークエンス情報をもとに50〜75bpのプローブを設計した。設計したプローブの塩基配列情報をもとに、これらプローブを有するDNAマイクロアレイを作製した。
【0075】
2.DNAマイクロアレイを用いたシグナルデータの取得
(1)材料
サトウキビ品種・系統:NiF8及びNi9、並びに、交配後代191系統を用いた。
【0076】
(2)制限酵素処理
これらNiF8及びNi9、並びに191系統の後代系統からそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。
【0077】
(3)アダプターライゲーション
(2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号86)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号87))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。
【0078】
(4)PCR増幅
(3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号88))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR(98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。
【0079】
(5)ラベル化
上述した(4)で得られたPCR増幅断片をカラム(Qiagen社)で精製後、Cy3-labeled 9mers(TriLink社、1O.D.)を加え、98℃、10分間処理後、氷上で10分間静置した。その後、Klenow(NEB社、100unit)を加え37℃、2時間処理した。そして、エタノール沈殿によりラベル化サンプルを調整した。
【0080】
(6)ハイブリ・シグナル検出
(5)のラベル化サンプルを用い、NimbleGen Array User's Guideに従い、上記1.で作製したDNAマイクロアレイを用いてハイブリダイズを行い、ラベルに基づくシグナルを検出した。
【0081】
3.サトウキビ黒穂病抵抗性のQTLの同定及びマーカーの開発
(1)遺伝地図データシート作成
上記2.にて検出したサトウキビ品種NiF8、Ni9及びこれらの交配後代系統(191系統)のシグナルデータから、3004個と4569個のマーカーとなりうる遺伝子型データを取得した。この遺伝子型データを元にして、遺伝地図作成ソフトウェアAntMap(Iwata H, Ninomiya S (2006) AntMap: constructing genetic linkage maps using an ant colony optimization algorithm. Breed Sci 56: 371-378)を使用し、遺伝距離計算式Kosambiにより染色体におけるマーカーの位置情報を算出した。さらに、取得したマーカーの位置情報をもとに、Mapmaker/EXP ver.3.0(A Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report, Third Edition, January, 1993)により遺伝地図データシートを作成した。
【0082】
(2) 黒穂病抵抗性データの取得
2009年10月26〜28日、NiF8及びNi9、交雑後代191系統の茎を収穫し、2〜3日間、室温・高湿度条件下で催芽処理した後、黒穂病胞子の有傷接種に供した。有傷接種は、苗芽子両側に傷を付け(計6か所、深さ約4.0mm)、毛筆により胞子浮遊液(107〜108個・胞子/ml)を塗布した。胞子浮遊液の黒穂病胞子は、2009年に沖縄県内で栽培したNi9の黒穂病自然発病株の鞭状物より採取した。有傷接種した苗は、2〜3日間、室温・高湿度条件下で栽培し、2009年10月30日〜11月1日に育苗箱へ植付けた(40芽/箱、2箱/系統)。苗の植付け後、2010年9月2日まで、高湿度条件下、温室で栽培した。黒穂病罹病程度の調査は、罹病の兆候である鞭状物が頂部より露出した株数を計測し罹病株数とした。罹病株数の調査後、罹病株の植物体は、地際部より刈取り除去した。黒穂病罹病株数の調査は2010年6月23日、7月21日、8月18日及び9月2日の計4回実施した。黒穂病の罹病率は、発芽株数(黒穂病以外の枯死株を除く)に対する罹病株数の割合として算出した。2010年6月23日に調査した結果を図3に示し、7月21日に調査した結果を図4に示し、8月18日に調査した結果を図5に示し、9月2日に調査した結果を図6に示す。
【0083】
(3)量的形質(Quantitative trait loci: QTL)の解析
上記(1)で得られた遺伝地図データシート及び上記(2)で得られた黒穂病抵抗性データを元にして、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S., C. J. Basten, and Z.-B. Zeng (2010). Windows QTL Cartographer 2.5. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, NC)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法によりQTL解析を行った。このときLODの閾値を2.5とした。その結果、図7〜12に示すように、サトウキビ品種NiF8の第5連鎖群のマーカーN827337からN821515(8月18日)、第17連鎖群のマーカーN826561からN826906(6月23日、7月21日、8月18日)、第40連鎖群のマーカーN816552からN821999(7月21日、8月18日、9月2日)、サトウキビ品種Ni9の第1連鎖群のマーカーN915070からN920207(7月21日、8月18日、9月2日)、第13連鎖群のマーカーN914284からN916129(7月21日、8月18日、9月2日)、第14連鎖群のマーカーN901177からN900802(6月23日)、マーカーN901524からN918080(6月23日、7月21日)の7つ区間内にサトウキビの黒穂病抵抗性に関するQTLの存在を確認した。すなわち、これら7つ区間内にLODの閾値を超えるピークが得られた。得られたピークは表8に示すように特定することができ、当該ピークの位置に黒穂病抵抗性を向上させる機能を有する原因遺伝子(群)が存在することが示唆された。なお、表8において効果(%)の欄は、黒穂病の罹患率の増減を示している。よって、効果(%)の数値が負である場合、当該QTLは黒穂病抵抗性が向上する形質に連鎖することを意味し、効果(%)の数値が正である場合、当該QTLは黒穂病抵抗性が低下する形質に連鎖することを意味する。
【0084】
【表8】
【0085】
そして、図7〜12に示すように、当該ピークの近傍に位置するマーカーは、黒穂病抵抗性を向上又は低下させる機能を有する原因遺伝子(群)と連鎖して遺伝するためサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが示された。すなわち、図7〜12に示した85種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0086】
なお、上記2.における(6)シグナル検出の一例として、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第5連鎖群に存在するマーカーN827337からN821515に含まれる14種類のマーカーのシグナル値を表9に示し、なかでもN802870については当該シグナル値を図13に示した。
【0087】
【表9】
【0088】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら14種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第5連鎖群に存在するマーカーN827337からN821515に含まれる14種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0089】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第17連鎖群に存在するマーカーN826561からN826906に含まれる8種類のマーカーのシグナル値を表10に示し、なかでもN827136については当該シグナル値を図14に示した。
【0090】
【表10】
【0091】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら8種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第17連鎖群に存在するN826561からN826906に含まれる8種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0092】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、NiF8に存在する第40連鎖群に存在するマーカーN816552からN821999に含まれる10種類のマーカーのシグナル値を表11に示し、なかでもN812680については当該シグナル値を図15に示した。
【0093】
【表11】
【0094】
NiF8に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら10種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第40連鎖群に存在するN816552からN821999に含まれる10種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0095】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第1連鎖群に存在するマーカーN915070からN920207に含まれる19種類のマーカーのシグナル値を表12に示し、なかでもN916081については当該シグナル値を図16に示した。
【0096】
【表12】
【0097】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら19種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第1連鎖群に存在するN915070からN920207に含まれる19種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0098】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第13連鎖群に存在するマーカーN914284からN916129に含まれる11種類のマーカーのシグナル値を表13に示し、なかでもN919839については当該シグナル値を図17に示した。
【0099】
【表13】
【0100】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら11種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第13連鎖群に存在するN914284からN916129に含まれる11種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0101】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第14連鎖群に存在するマーカーN901178からN900802に含まれる10種類のマーカーのシグナル値を表14に示し、なかでもN918761については当該シグナル値を図18に示した。
【0102】
【表14】
【0103】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性が低下した後代系統ではこれら10種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第14連鎖群に存在するN901178からN900802に含まれる10種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【0104】
同様に、NiF8及びNi9、並びに後代系統における、Ni9に存在する第14連鎖群に存在するマーカーN901524からN918080に含まれる13種類のマーカーのシグナル値を表15に示し、なかでもN901160については当該シグナル値を図19に示した。
【0105】
【表15】
【0106】
Ni9に存在する連鎖群のなかで、黒穂病抵抗性に優れる後代系統ではこれら13種類のマーカーのシグナル値が非常に高いことが示された。これらの結果からも、第14連鎖群に存在するN901524からN918080に含まれる13種類のマーカーは、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトウキビの染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号14に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号15に示す塩基配列及び配列番号22に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号23に示す塩基配列及び配列番号32に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号33に示す塩基配列及び配列番号51に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号52に示す塩基配列及び配列番号62に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号63に示す塩基配列及び配列番号72に示す塩基配列により挟まれる領域、又は配列番号73に示す塩基配列及び配列番号85に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項2】
上記核酸領域は、配列番号1〜85からなる群から選ばれるいずれか1の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする請求項1記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項3】
上記核酸領域は、サトウキビの染色体における配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、又は配列番号72に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に位置することを特徴とする請求項1記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項4】
少なくとも一方の親がサトウキビ植物である後代植物の染色体及び/又は当該親の染色体を抽出する工程と、
上記で得られた染色体における請求項1乃至3いずれか一項に記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、黒穂病抵抗性が向上したサトウキビ系統の製造方法。
【請求項5】
上記測定する工程では、上記サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブを備えるDNAチップを使用することを特徴とする請求項4記載のサトウキビ系統の製造方法。
【請求項6】
上記後代植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする請求項4記載のサトウキビ系統の製造方法。
【請求項1】
サトウキビの染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号14に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号15に示す塩基配列及び配列番号22に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号23に示す塩基配列及び配列番号32に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号33に示す塩基配列及び配列番号51に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号52に示す塩基配列及び配列番号62に示す塩基配列により挟まれる領域、配列番号63に示す塩基配列及び配列番号72に示す塩基配列により挟まれる領域、又は配列番号73に示す塩基配列及び配列番号85に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項2】
上記核酸領域は、配列番号1〜85からなる群から選ばれるいずれか1の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする請求項1記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項3】
上記核酸領域は、サトウキビの染色体における配列番号5に示す塩基配列と配列番号9に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号18に示す塩基配列と配列番号22に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号25に示す塩基配列と配列番号32に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号33に示す塩基配列と配列番号42に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号57に示す塩基配列と配列番号59に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、配列番号64に示す塩基配列と配列番号66に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域、又は配列番号72に示す塩基配列と配列番号80に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に位置することを特徴とする請求項1記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカー。
【請求項4】
少なくとも一方の親がサトウキビ植物である後代植物の染色体及び/又は当該親の染色体を抽出する工程と、
上記で得られた染色体における請求項1乃至3いずれか一項に記載のサトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、黒穂病抵抗性が向上したサトウキビ系統の製造方法。
【請求項5】
上記測定する工程では、上記サトウキビ黒穂病抵抗性関連マーカーに対応するプローブを備えるDNAチップを使用することを特徴とする請求項4記載のサトウキビ系統の製造方法。
【請求項6】
上記後代植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする請求項4記載のサトウキビ系統の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−235772(P2012−235772A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94995(P2012−94995)
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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