説明

サファイア基板の加工方法

【課題】製造ロットが相違したり製造メーカーが異なるサファイア基板であっても適正な改質層を形成することができるサファイア基板の加工方法を提供する。
【解決手段】パルスレーザー光線を照射し、サファイア基板の内部に改質層を形成する加工方法であって、サファイア基板の特性に対応して少なくとも2種類の加工条件を設定する加工条件設定工程と、加工条件が設定されたサファイア基板を判別するための判別条件設定工程と、設定された判別条件に基づいてサファイア基板を判別し、サファイア基板の該加工条件設定工程において設定された少なくとも2種類の加工条件から一つの加工条件を決定する加工条件決定工程と、加工条件決定工程において決定された加工条件に従ってレーザー光線の集光点をサファイア基板の内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って改質層を形成する改質層形成工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスウエーハ等の基板として用いられるサファイア基板に設定された分割予定ラインに沿ってレーザー光線を照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って改質層を形成するサファイア基板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光デバイス製造工程においては、略円板形状であるサファイア基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体からなる光デバイス層が積層され格子状に形成された複数の分割予定ラインによって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスを形成して光デバイスウエーハを構成する。そして、光デバイスウエーハを分割予定ラインに沿って分割することにより個々の光デバイスを製造している。
【0003】
上述した光デバイスウエーハを分割予定ラインに沿って分割する分割方法として、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を内部に集光点を合わせ分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を連続的に形成し、この破断の起点となる改質層が形成された分割予定ラインに沿って外力を付与することにより、ウエーハを分割する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3408805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層が形成できる加工条件を設定しても、サファイア基板の製造ロットが相違したり、サファイア基板の製造メーカーが異なると、同じ大きさで同じ厚みのサファイア基板であっても同一条件で加工すると、改質層が不十分であったり、分割予定ラインから外れてクラックが発生して光デバイスを損傷させるという問題がある。即ち、サファイア基板にはAl2O3を成長させる段階で結晶欠陥(酸素欠陥)が発生するため、同じ大きさで同じ厚みのサファイア基板であっても製造ロットが相違したり製造メーカーが異なると、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる適正な改質層を形成するには、サファイア基板によってその都度加工条件を設定することが望ましい。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、製造ロットが相違したり製造メーカーが異なるサファイア基板であっても適正な改質層を形成することができるサファイア基板の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、サファイア基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を内部に集光点を合わせ分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を形成するサファイア基板の加工方法であって、
サファイア基板の特性に対応して少なくとも2種類の加工条件を設定する加工条件設定工程と、
少なくとも2種類の加工条件が設定されたサファイア基板を判別するための判別条件設定工程と、
該判別条件設定工程によって設定された判別条件に基づいてサファイア基板を判別し、判別されたサファイア基板の該加工条件設定工程において設定された少なくとも2種類の加工条件から一つの加工条件を決定する加工条件決定工程と、
該加工条件決定工程において決定された加工条件に従ってレーザー光線の集光点をサファイア基板の内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を形成する改質層形成工程と、を含む、
ことを特徴とするレーザー加工方法が提供される。
【0008】
上記判別条件設定工程は、サファイア基板に対して加工ができない程度の出力のレーザー光線をサファイア基板の内部に照射し、そのときに発する反応光に基づいて、反応光を発する限界のレーザー光線出力を求めて判別条件を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるサファイア基板の加工方法は、サファイア基板の特性に対応して少なくとも2種類の加工条件を設定する加工条件設定工程と、少なくとも2種類の加工条件が設定されたサファイア基板を判別するための判別条件設定工程と、判別条件設定工程によって設定された判別条件に基づいてサファイア基板を判別し、判別されたサファイア基板の加工条件設定工程において設定された少なくとも2種類の加工条件から一つの加工条件を決定する加工条件決定工程と、加工条件決定工程において決定された加工条件に従ってレーザー光線の集光点をサファイア基板の内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を形成する改質層形成工程とを含んでいるので、改質層形成工程はサファイア基板の特性に対応して設定された加工条件で実施されるため、レーザー光線の出力不足から形成された改質層が不十分であったり、レーザー光線の出力過剰によりサファイア基板に分割予定ラインから外れてクラックが発生するという問題が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるサファイア基板の加工方法を実施するためのレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段の構成を簡略に示すブロック図。
【図3】本発明によるサファイア基板の加工方法によって加工される光デバイスウエーハの斜視図。
【図4】図3に示す光デバイスウエーハを環状のフレームに装着された保護テープに貼着した状態を示す斜視図。
【図5】本発明によるサファイア基板の加工方法における判別条件設定工程の説明図。
【図6】本発明によるサファイア基板の加工方法における改質層形成工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明によるウエーハのレーザー加工方法の好適な実施形態について、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0012】
図1には、本発明によるサファイア基板の加工方法を実施するためのレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記X軸方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す集光点位置調整方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0013】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成された吸着チャック361を具備しており、吸着チャック361の上面(保持面)に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。このように構成されたチャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。なお、チャックテーブル36には、後述する環状のフレームを固定するためのクランプ362が配設されている。
【0014】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロット371と、該雄ネジロット371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロット371を正転および逆転駆動することにより、第1の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動せしめられる。
【0015】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロット381と、該雄ネジロット381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロット381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0016】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上にY軸方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一方の側面にZ軸方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロット431と、該雄ネジロット431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロット431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0017】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段6を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、Z軸方向に移動可能に支持される。
【0018】
図示のレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロット(図示せず)と、該雄ネジロットを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロットを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段6を案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段6を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段6を下方に移動するようになっている。
【0019】
図示のレーザー光線照射手段6は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング61を含んでいる。このレーザー光線照射手段6について、図2を参照して説明する。
図示のレーザー光線照射手段6は、上記ケーシング61内に配設されたパルスレーザー光線発振手段62と、該パルスレーザー光線発振手段62によって発振されたパルスレーザー光線の出力を調整する出力調整手段63と、該出力調整手段63によって出力が調整されたパルスレーザー光線を上記チャックテーブル36の上面である保持面に向けて方向変換する方向変換ミラー64と、該方向変換ミラー64によって方向変換されたパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光レンズ65を具備している。
【0020】
上記パルスレーザー光線発振手段62は、例えば波長が532nmのパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器621と、これに付設された繰り返し周波数設定手段622とから構成されている。上記出力調整手段63は、パルスレーザー光線発振手段62から発振されたパルスレーザー光線の出力を所定の出力に調整する。これらパルスレーザー光線発振手段62および出力調整手段63は、後述する制御手段によって制御される。
【0021】
図2を参照して説明を続けると、図示のレーザー加工装置1は、上記方向変換ミラー64と集光レンズ65との間に配設されたダイクロイックミラー66を備えている。このダイクロイックミラー66は、パルスレーザー光線発振手段62が発振する波長の光は通過するが他の波長の光は反射する機能を有している。従って、ダイクロイックミラー66は、チャックテーブル36に保持された被加工物Wにパルスレーザー光線が照射されることによって発光する光を反射せしめる。
なお、集光レンズ65によって集光され照射されるパルスレーザー光線の照射領域には、白色光からなる照明手段によって照明するように構成してもよい。
【0022】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、上記ダイクロイックミラー66によって反射した反射光のうち所定範囲の波長の光を遮断するカットフィルター67と、該カットフィルター67を通過した光を捕らえて撮像する撮像手段68を具備している。カットフィルター67は、上記パルスレーザー光線発振器621が発振するパルスレーザー光線の波長領域である510〜550nmの光を遮断し、それ以外の波長の光を通過させる。撮像手段68は、カットフィルター67を通過した光を捕らえて撮像し撮像した画像信号を制御手段7に送る。制御手段7は、撮像手段68からの画像信号に基づいてチャックテーブル36に保持された被加工物Wにパルスレーザー光線が照射されることによって発光する反応光を判別する。この制御手段7は、後述する光デバイスウエーハを構成するサファイア基板の特性に対応して設定された少なくとも2種類の加工条件と、少なくとも2種類の加工条件が設定されたサファイア基板を判別するための判別条件を記憶するメモリ71を備えている。また、制御手段7には上記撮像手段68や後述するアライメント手段8から検出信号が入力されるとともに入力手段70から加工条件等が入力されるようになっており、また、上記パルスレーザー光線発振器621や繰り返し周波数設定手段622や出力調整手段63およびモニター9等に制御信号を出力するように構成されている。
【0023】
図1に戻って説明を続けると、図示のレーザー加工装置1は、ケーシング61の前端部に配設され上記レーザー光線照射手段6によってレーザー加工すべき加工領域を撮像するアライメント手段8を備えている。このアライメント手段8は、顕微鏡やCCDカメラ等の光学手段からなっており、撮像した画像信号を上記制御手段7に送る。
【0024】
次に、上述したレーザー加工装置1を用いて実施するサファイア基板の加工方法について説明する。
図3の(a)および(b)には、本発明によるサファイア基板の加工方法によって加工される光デバイスウエーハの斜視図および要部を拡大して示す断面図が示されている。図3の(a)および(b)に示す光デバイスウエーハ10は、例えば直径が150mm、厚みが100μmのサファイア基板11の表面11aにn型窒化物半導体層121およびp型窒化物半導体層122とからなる光デバイス層(エピ層)12が例えば5μmの厚みで積層されている。そして、光デバイス層(エピ層)12が格子状に形成された複数の分割予定ライン13によって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイス14が形成されている。
【0025】
以下、レーザー加工装置1を用いて光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の内部に分割予定ライン13に沿って破断の起点となる改質層を形成するサファイア基板の加工方法について説明する。
なお、光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11には、2つの製造ロット(Aロット、Bロット)によって製造されたがものが含まれているものとする。2つの製造ロット(Aロット、Bロット)によって製造されたサファイア基板に対してそれぞれサファイア基板の内部に改質層を形成するための最適な加工条件を実験的に求め、それぞれの加工条件を設定しておく(加工条件設定工程)。
例えば、Aロットによって製造されたサファイア基板に対する第1の加工条件は、次の通り設定される。
レーザー光線の波長 :532nm
繰り返し周波数 :45kHz
平均出力 :0.13W
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :360mm/秒
また、Bロットによって製造されたサファイア基板に対する第2の加工条件は、次の通り設定される。
レーザー光線の波長 :532nm
繰り返し周波数 :45kHz
平均出力 :0.15W
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :360mm/秒
以上のように設定された第1の加工条件および第2の加工条件は、上記制御手段7のメモリ71に格納しておく。
【0026】
また、上記Aロットによって製造されたサファイア基板かBロットによって製造されたサファイア基板かを判別するための判別条件設定工程を実施する。この判別条件設定工程は、サファイア基板に対して加工ができない程度の出力のレーザー光線をサファイア基板の内部に照射し、そのときに発する反応光に基づいて、反応光を発する限界のレーザー光線出力を求めて判別条件を設定する。本発明者等の実験によると、Aロットによって製造されたサファイア基板は、反応光を発する限界のレーザー光線出力が0.025Wであることがモニター9によって観察することで判った。一方、Bロットによって製造されたサファイア基板は、反応光を発する限界のレーザー光線出力が0.035Wであることがモニター9によって観察することで判った。従って、レーザー光線出力の出力をAロットによって製造されたサファイア基板の限界のレーザー光線出力が0.025WとBロットによって製造されたサファイア基板の限界のレーザー光線出力が0.035Wとの中間の出力である0.03Wに設定することにより、反応光が発せられた場合にはAロットによって製造されたサファイア基板と判定し、反応光が確認できない場合にはBロットによって製造されたサファイア基板と判定することができる。このようにして、Aロットによって製造されたサファイア基板とBロットによって製造されたサファイア基板を判別するレーザー光線出力を求めたならば、例えば下記のとおり判別条件を設定し、上記制御手段7のメモリ71に格納しておく。
判別条件:
レーザー光線の波長 :532nm
繰り返し周波数 :45kHz
平均出力 :0.03W
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :360mm/秒
【0027】
以上のようにして、Aロットによって製造されたサファイア基板に対する第1の加工条件とBロットによって製造されたサファイア基板に対する第2の加工条件を設定するとともに、Aロットによって製造されたサファイア基板とBロットによって製造されたサファイア基板とを判別する判別条件を設定し、第1の加工条件と第2の加工条件および判別条件を制御手段7のメモリ71に格納したならば、レーザー加工装置1は以下のように上記図3に示す光デバイスウエーハ10を加工する。
【0028】
先ず、図4に示すように環状のフレームFに装着された粘着テープTの表面に光デバイスウエーハ10の表面10aを貼着する(ウエーハ貼着工程)。従って、粘着テープTの表面に貼着された光デバイスウエーハ10は、サファイア基板11の裏面11bが上側となる。
【0029】
上述したウエーハ貼着工程を実施したならば、図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に光デバイスウエーハ10の粘着テープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、粘着テープTを介して光デバイスウエーハ10をチャックテーブル36上に吸引保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10は、裏面11bが上側となる。
【0030】
上述したように光デバイスウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によってアライメント手段8の直下に位置付けられる。チャックテーブル36がアライメント手段8の直下に位置付けられると、アライメント手段8および制御手段7によって光デバイスウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、アライメント手段8および制御手段7は、光デバイスウエーハ10の所定方向に形成されている分割予定ライン13と、分割予定ライン13に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段6の集光レンズ65との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、光デバイスウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びる分割予定ライン13に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0031】
以上のようにしてチャックテーブル36上に保持された光デバイスウエーハ10に形成されている分割予定ライン101を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図5で示すようにチャックテーブル36をレーザー光線照射手段6の集光レンズ65が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定の分割予定ライン101の一端(図5において左端)を集光レンズ65の直下に位置付ける。そして、集光レンズ65を通して照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の裏面11b(上面)から例えば15μm下方位置に位置付ける。
【0032】
次に、制御手段7は上記判別条件に基づいて光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11にパルスレーザー光線を照射し、その際に反応光が発生したか否かによって光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がAロットによって製造されたサファイア基板かBロットによって製造されたサファイア基板かを判別する(サファイア基板判別工程)。即ち、レーザー光線照射手段6を作動して波長が532nm、繰り返し周波数が45kHz、平均出力が0.03Wのパルスレーザー光線を集光レンズ65を通してサファイア基板11に照射するとともに、チャックテーブル36を図5において矢印X1で示す方向に360mm/秒の加工送り速度で移動せしめる。このサファイア基板判別工程においては、図2に示すように被加工物W(サファイア基板判別工程においては光デバイスウエーハ10)に照射された波長が532nmのパルスレーザー光線は、光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の裏面11b(上面)で反射し、集光レンズ65を通してダイクロイックミラー66に至り、ダイクロイックミラー66によって反射されてカットフィルター67に至る。カットフィルター67は上述したように波長が510〜550nmの光を遮断するので、波長が532nmのパルスレーザー光線の反射光は遮断される。一方、光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がパルスレーザー光線の照射によって反応すると、青色(400nm領域)の反応光が発生することが判った。この400nm領域の反応光は集光レンズ65を通してダイクロイックミラー66に至り、ダイクロイックミラー66によって反射されてカットフィルター67を通過するため、撮像手段68によって捕らえられる。このように、平均出力が0.03Wのパルスレーザー光線を集光レンズ65を通してサファイア基板11に照射したとき、反応光が発生し、この反応光がカットフィルター67を通過して撮像手段68によって捕らえられたときには、制御手段7はチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11はAロットによって製造されたサファイア基板であると判定する。なお、平均出力が0.03Wのパルスレーザー光線を集光レンズ65を通してサファイア基板11に照射したとき、反応光が発生しない場合にはパルスレーザー光線の反射光が上述したようにカットフィルター67によって遮断されるため、撮像手段68が光を捕らえることができない。従って、制御手段7はチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11はBロットによって製造されたサファイア基板であると判定する。
【0033】
上述したサファイア基板判別工程を実施したならば、制御手段7はチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の加工条件を決定する。即ち、制御手段7は、上記サファイア基板判別工程においてチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がAロットによって製造されたサファイア基板であると判定した場合には上記第1の加工条件と決定し、上記サファイア基板判定工程においてチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がBロットによって製造されたサファイア基板であると判定した場合には上記第2の加工条件と決定する(加工条件決定工程)。
【0034】
このようにして、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の加工条件を決定したならば、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11に決定された加工条件に従って改質層形成工程を実施する。
改質層形成工程を実施するには、図6の(a)で示すようにチャックテーブル36を集光レンズ65が位置するレーザー光線照射領域に移動し、光デバイスウエーハ10に形成された所定の分割予定ライン13の一端(図6の(a)において左端)を集光レンズ65の直下に位置付ける。そして、集光レンズ65を通して照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11の厚み方向中心付近に位置付ける。
【0035】
次に、制御手段7は、レーザー光線照射手段6を作動して集光レンズ65からパルスレーザー光線を照射するとともに、加工送り手段37を作動してチャックテーブル36を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる(改質層形成工程)。この改質層形成工程においては、上記サファイア基板判定工程においてチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がBロットによって製造されたサファイア基板であると判定した場合には上記第2の加工条件で実施し、上記サファイア基板判定工程においてチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11がAロットによって製造されたサファイア基板であると判定した場合には上記第1の加工条件で実施する。そして、図6の(b)で示すように集光レンズ65から照射されるパルスレーザー光線の照射位置が分割予定ライン13の他端(図6の(b)において右端)に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに、チャックテーブル36の移動を停止する。この結果、光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板11には、図6の(b)に示すように所定の分割予定ライン13に沿って改質層110が形成される。このように改質層形成工程は、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板の特性に対応して設定された加工条件で実施されるので、パルスレーザー光線の出力不足から形成された改質層が不十分であったり、パルスレーザー光線の出力過剰によりサファイア基板に分割予定ラインから外れてクラックが発生して光デバイスを損傷させるという問題が解消される。
【0036】
上述したように、光デバイスウエーハ10の所定方向に形成された全ての分割予定ライン13に沿って上記改質層形成工程を実施したならば、光デバイスウエーハ10を保持したチャックテーブル36を90度回動した位置に位置付ける。そして、光デバイスウエーハ10の上記所定方向と直交する方向に形成された全ての分割予定ライン13に沿って上記改質層形成工程を実施する。
【0037】
以上のようにして、改質層形成工程が全ての分割予定ライン13に沿って実施された光デバイスウエーハ10は、改質層が形成された分割予定ライン13に沿って破断するウエーハ分割工程に搬送される。
【符号の説明】
【0038】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
53:集光点位置調整手段
6:レーザー光線照射手段
62:パルスレーザー光線発振手段
63:出力調整手段
64:方向変換ミラー
65:集光レンズ
66:ダイクロイックミラー
67:カットフィルター
68:撮像手段
7:制御手段
8:アライメント手段
10:光デバイスウエーハ
F:環状のフレーム
T:粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を内部に集光点を合わせ分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を形成するサファイア基板の加工方法であって、
サファイア基板の特性に対応して少なくとも2種類の加工条件を設定する加工条件設定工程と、
少なくとも2種類の加工条件が設定されたサファイア基板を判別するための判別条件設定工程と、
該判別条件設定工程によって設定された判別条件に基づいてサファイア基板を判別し、判別されたサファイア基板の該加工条件設定工程において設定された少なくとも2種類の加工条件から一つの加工条件を決定する加工条件決定工程と、
該加工条件決定工程において決定された加工条件に従ってレーザー光線の集光点をサファイア基板の内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って破断の起点となる改質層を形成する改質層形成工程と、を含む、
ことを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項2】
該判別条件設定工程は、サファイア基板に対して加工ができない程度の出力のレーザー光線をサファイア基板の内部に照射し、そのときに発する反応光に基づいて、反応光を発する限界のレーザー光線出力を求めて判別条件を設定する、請求項1記載のレーザー加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16703(P2013−16703A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149388(P2011−149388)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】